2000年02月

オルファクトグラム(井上夢人) 偏執の芳香-アロマパラノイド-(牧野修)
夏の約束(藤野千夜) 400年の遺言-龍遠寺庭園の死-(柄刀一)
どすこい(仮)(京極夏彦) 服部さんの幸福な日(伊井直行)
青の時代-伊集院大介の薔薇-(栗本薫) ダブル・ダウン(岡嶋二人)
処刑列車(大石圭) 遺品(若竹七海)
紙の爆弾(出久根達郎) きみ去りしのち(志水辰夫)
魔法飛行(加納朋子) ハリー・ポッターと賢者の石(J.K.ローリング)
時のかなたの恋人(ジュード・デヴロー) 葬儀屋の未亡人(フィリップ・マーゴリン)
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オルファクトグラム

著者井上夢人
出版(判型) 毎日新聞社
出版年月2000.1
ISBN(価格)4-620-10608-9(\1900)【amazon】【bk1
評価★★★★★

危うく殺されそうになりながら、一命を取り留めたミノル。ところが1ヶ月の昏睡から目覚めた彼は異常な能力を手にいれていた。犬並みあるいはそれ以上の嗅覚。人間離れした嗅覚を手に入れた彼の前には全く違った世界が広がっていた。

井上夢人氏は実は異常な嗅覚の持ち主で、本当は匂いが見えてるんでしょう。いやいや、ウソついちゃだめですよ、最後に「謝辞」とかいっていろんな文献あげてますけど、実は自分の経験に基づいて書いてるんでしょ。・・・・そう言いたくなるくらい、このミノルの嗅覚には説得力がありました。犬以上の嗅覚を持つことで、視覚的に匂いを把握するようになったミノル。そう言えば、嗅覚や聴覚の発達した動物は目が悪いとか、逆に目の悪い人は聴覚や嗅覚が発達するといった話を聞いたことがあります。そう考えると、人間は「異常な視覚」を手に入れることによって、別の感覚を犠牲にしてるのかもな、ってちょっと残念に思ったりもしました。いや、視覚が無くても良いってわけじゃないんですけど、この本を読んでいると、嗅覚をコミュニケーション手段にするのがとっても羨ましいと思えてしまったんです。私も異常な嗅覚を手に入れたい!(^^)

そんな鼻を持つきっかけとなった事件によって姉は殺され、また自分が昏睡している間に友人が失踪してしまった。手詰まりになったときに、自分の鼻を使えば・・・というところから話は進んでいくのですが、警察犬顔負けの大活躍をするミノル君の悲劇的かつ喜劇的な結末を是非是非楽しんでください。久々の井上夢人の長編ですが、やっぱりこの人の本は面白いです。おすすめ!

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偏執の芳香-アロマパラノイド-

著者牧野修
出版(判型)アスペクト
出版年月1999.6
ISBN(価格)4-7572-0376-4(\1800)【amazon】【bk1
評価★★★★

フリーのライターをしている八辻由紀子は、ある雑誌の編集者に「コンタクティー」の取材に言って欲しいといわれる。さっそく超常現象研究家のところに行く由紀子だったが、その後から周りに奇妙なことが起こりはじめる。

ああ、思わず読み終わった後、この本にナンバリングされてないか確かめちゃいましたよ(ウソですけど)。言語によって規定されていない世界は知覚してても認識できない、それを逆にとって認識できない世界も言語によって規定してやれば現実となる。この話を読んで、あることを思い出しました。本当かどうかわからないんですけど、エスキモーの言葉には「寒い」という言葉が無いそうなんです。だから彼らは寒さを認識できない。私たちは義務教育の頃から英語を勉強するわけですが、いくら日本語と対訳で勉強しても、本当にこの単語がこういう感じを表すのかわかんないなあって思いました。もちろん大体同じような言葉があるわけですけど、英語で言う"cold"とか"chilly"とかいう言葉と日本語の「寒い」とか「冷たい」とかいう言葉は、もしかしたら微妙に違うかもしれないわけですよね。そうそう、この例から言ったって、「寒い」と「冷たい」って違いますよね。知覚的には「寒い」も「冷たい」も同じようなものですけど、日本語では「寒い」ことを「冷たい」とは言わないです。でも"cold"を辞書で引くと、「寒い」「冷たい」と載ってます。ということは、日本語ネイティブの考える「cold=寒い、冷たい」という認識はちょっとだけ間違っているのでは・・・・ああ、話が大幅に逸れました。こういう話大好きなので、ついつい熱が入ってしまいました。というわけで、この本はそういう言語で規定されている領域を「現実世界」とするなら、その外の世界の話。ココに載せた禅問答のようなモノとは全然関係ありません。ホラーです。でもこの人の世界観は結構好きかも。ちょっと現実感が無いのが残念ですけど。

■入手情報: 角川ホラー文庫(2001.3)

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夏の約束

著者藤野千夜
出版(判型)講談社
出版年月2000.1
ISBN(価格)4-06-210080-0(\1200)【amazon】【bk1
評価★★★☆

ゲイのマルオは、友人達と八月になったらキャンプに行こうと約束をしていた。本当は、花見の時の勢いでした約束。忙しい日々にまぎれて、そんな約束すっかり忘れていたのだが。

忘れてる約束ってすんごい多い気がします。私自身がわすれんぼだっていうのもあるんですけど、その場の雰囲気で「今度○○に行こう」とか言っちゃうことって多いなあって反省。実際そのうちのどれくらいが果たされたのか、下手をすると2割ぐらいかも・・・(^^;。特に大学時代の友人とか、電話したり、メールが来たりすると必ずといっていいほど「今度飲みにいこうね」って言いますけど、ほとんどが挨拶ですね(笑)。あ、でも今度の金曜は久々に「果たされる約束」の日だ。って、全然本の感想になってないですね。

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400年の遺言-龍遠寺庭園の死-

著者柄刀一
出版(判型)角川書店
出版年月2000.1
ISBN(価格)4-04-873202-1(\1700)【amazon】【bk1
評価★★★★

400年の歴史を持つ京都・龍遠寺。様々な謎を持つ庭園で庭師が死んだ。現場にちょうど居合わせた蔭山は、「この子を頼む」と言って死んだ庭師の事件を調べはじめる。

いきなり見取り図が印刷されたこの本。次々現れる庭園の謎。この人の本を読み始めるとき、ついつい本格ミステリと同じように読んでしまうのですが、ちょっと違うんですよね。事件は添えつけパセリで、本当の面白さは庭園の謎。今回もうならせてくれます。前作の「4000年のアリバイ回廊」に比べるとちょっとスケールが小さい気もするのですが、この庭園、本当にあるのなら是非見てみたいですね。添えつけパセリなんて酷いことを言いましたが、謎解きの伏線もなかなか。次はどんな薀蓄を傾けてくれるのか、とても楽しみです。

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どすこい(仮)

著者京極夏彦
出版(判型)集英社
出版年月2000.2
ISBN(価格)4-08-774414-0(\1900)【amazon】【bk1
評価

地響きがする-----と思っていただきたい。

で始まる究極のパロディ小説?というか、パロディじゃないって。爆笑おバカ小説です。(笑)

四十七人の力士: 吉良邸に討ち入りしたのは、四十七人の力士だった!
パラサイト・デブ:寄生虫はデブだった!
すべてがデブになる:密室は開かれていた!
土俵(リング)・でぶせん:この小説を読むと呪われる。
脂鬼:死体が膨れ上がる?!
理油(意味不明):そのジジイに勝てない理由は?
ウロボロスの基礎代謝:京極夏彦失踪?


まず最初に言っておきたいのは、この本は京極夏彦の本を1冊も読んだことがない人は読んではいけないということです(^^)。しかもそれなりにミステリを読んだ方でないと、笑えないような気がします。作家や編集者が実名で出てきたり、どこかで読んだ本の話が出てきたり・・・そういうマニアのための本ですね、これは。というわけで、評価不能。私は死ぬほど笑えましたが。。。特に「脂鬼」はそれなりにパロディになってるところが笑えます。もしかしたらこれは京極夏彦による、国産ミステリ界への挑戦なのでしょうか・・・。

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服部さんの幸福な日

著者伊井直行
出版(判型)新潮社
出版年月2000.1
ISBN(価格)4-10-377103-8(\1700)【amazon】【bk1
評価★★★☆

服部さんは、墜落しようとする飛行機の中にいた。もうだめか・・・と思った服部さん、ラッキーにも座席が機外に放りだされ奇跡的な生還をとげる。ところが助けてもらった船の主の待遇をなじったところ・・・。

なんとも不思議な小説でした。ラッキーな「服部さん」のドタバタ劇。ちょっとブラックなユーモアが良いかも(^^)。実際服部さんはラッキーだったのか・・・と考えると、うーん。どうなんでしょう。助けてくれた船の主が、またすごいですね〜。なんなんだ、この人たちは(笑)。引きつった笑いを提供してくれる小説でした。

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青の時代-伊集院大介の薔薇-

著者栗本薫
出版(判型)講談社
出版年月2000.1
ISBN(価格)4-06-210036-3(\1400)【amazon】【bk1
評価★★★☆

伊集院大介シリーズ番外編(?)。舞台女優を目指す花村恵麻は、70年安保の最中、西北大学に入学。以前よりあこがれていた劇団ペガサスの入団オーディションを受ける。ペガサスの監督であり主宰である阿木に気に入られ、無事入団した恵麻だったが・・・。

栗本薫の書く女性って怖いんです。いや、単に怖いだけじゃなくて、ああこういう面って自分にもあるよなあと思えるのが怖い。恵麻という女性は、すべてに恵まれながら孤独な人生を送る人間、そしてそれを気に入らない倉田という女性は、無いものねだりをして、恵麻を憎む。どっちの女も理解できてしまうんです。恵麻と倉田の対立が表面化してきた、そんな時に殺人事件が起きて・・・という、ありがちといえばありがちなストーリーなのですが、若かりし頃の伊集院さんが登場したり、微妙に現在につながったりして、伊集院ファンとしては楽しめました。なんだかんだ言ってこのシリーズも長いんですよね。気がつくと、伊集院さんも気づいたらおじさんを超えておじいさんになるような年齢になってしまいました。そろそろ栗本薫君のシリーズも読みたいなあ。

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ダブル・ダウン

著者岡嶋二人
出版(判型)講談社文庫
出版年月2000.1
ISBN(価格)4-06-264755-9(\619)【amazon】【bk1
評価★★★☆

フライ級4回戦の試合中、二人のボクサーが倒れた。二人とも体内から青酸反応が。週刊誌記者の中江はこの事件に興味を持ち、編集者の福永麻沙美と共に真相をつきとめようとする。

読みやすいという点では岡嶋二人ですから、折り紙付きといったところですが、この作品は全体的にはまあまあの評価かな。面白くないということはないのですけれども、あまりに型に嵌りすぎた展開で、先が読めてしまうのが残念でした。ボクシングの知識が無くても大丈夫です。そのあたりは安心して読めます。ただ、この結末、別の人の作品で読んだことあるんですよね。岡嶋二人だから、すごい結末を・・・と期待しすぎちゃったかな。

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処刑列車

著者大石圭
出版(判型)新潮社
出版年月1999.11
ISBN(価格)4-309-01312-0(\1800)【amazon】【bk1
評価★★★★

小田原始発、東京行きの東海道線「快速アクティー」が何者かによって乗っ取られた。鉄橋の上に停車させられた電車の中では、次々と人が射殺されていく。彼らの目的は一体何なのか。

本文にも出てきますけど、ここまで「純粋な悪意」が充満した小説っていうのも珍しいのではないでしょうか。なんだか犯人と交渉する警察や、乗客、その他の人々が馬鹿に思えてくるから不思議。現実でも最近こういう意味不明な事件って多いですよね。おすすめされたときは、「バトルロワイヤル」みたいな感じなのかと思いましたが、あっちのほうがまだ「人間性」があった気がします。こちらは単なる殺戮ホラーです。いやーラストもすごい。下手に大衆におもねらないところがよかったかも。ここまで一本通してくれれば、それはそれでまた面白いと言えるんでしょうね。全体的なイメージはB級映画です(^^)。

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遺品

著者若竹七海
出版(判型)角川文庫
出版年月1999.12
ISBN(価格)4-04-352801-9(\648)【amazon】【bk1
評価★★★★

今まで勤めていた美術館が閉館になり、次の職を探していたわたし。友人の斡旋で、金沢市郊外にある銀鱗荘ホテルにあるコレクションを整理することになった。女優・曾根繭子にまつわる品々を集めたそのコレクション、作業をするうちに、収集者の繭子に対する異常なまでの執着が徐々に明らかになってきた。

前にもどこかに書いたのですが、私は今の職場に勤める前に、アルバイトで個人寄贈の図書コレクションの整理をしたことがあります。1冊だけだと単なる本としての意味しか持たないモノが、ある人によって集められることで、全く別のものに変わるというのを目の前で見ることのできる、貴重な体験でした。本に限らず、何でもそうだと思うのですが、誰かが集めたモノ(本)というのは、単なる物体の集合ではなくて、収集者の意思や興味、あるいは人生そのものがそのまま反映されたものだと思うのです。1+1=2という単純な足し算ではコレクションをあらわすことはできません。1つのモノと1つのモノの間にいろんな意味があり、集まることによって、全体としてまた別の意味を持つ。だからこそコレクションに宿る霊というこの本の基本概念に、わたしは共感を覚えました。

ある女優の遺品を整理しにきた学芸員が遭遇する、さまざまな怪奇現象。当然行き着くのは、その女優の幽霊という発想・・・というこの話の衝撃的なラスト。読んだ方なら、私が何故上記のような感想を書いたか、分かるのではないでしょうか。深読みしすぎかもしれませんが、
ある「モノ」を「コレクション」にしたのはコレクターであり、コレクションにもし意思が宿るとすれば、それはコレクターのものである

という伏線がそこにはあったのかもしれません。
*ネタバレになってしまうので、隠しました。読みたい方はドラッグして読んで下さい。

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紙の爆弾

著者出久根達郎
出版(判型)文藝春秋
出版年月2000.1
ISBN(価格)4-16-318920-3(\2095)【amazon】【bk1
評価★★★☆

ある不動産屋の落としたダンボールに詰まっていた謎のリスト。リスト手に入れた古本屋たちは、その正体を追ううちに、戦時中に撒かれた宣伝ビラ「伝単」と松代大本営建設の裏側に行き当たった。

紙くず屋さんって本当にあるんですか?もちろん古書店の中には、チラシを専門にされているところもあると思うのですが、こんな値段で取引されているんですね。そういえば、図書館で継続購入している本の中に、ポスターオークションのパンフレット(と言ってもかなり立派な本なのですが)があるんですけれども、中には5万ドルなんていう予想値のついたポスターがあったことを思い出してしまいました。

戦時中にビラを撒いて、人心に動揺を与えるという作戦は知っていましたが、こんなチラシを飛行機から撒くことで、どのくらい人の心に影響が与えられるんだろうと、ちょっと疑問に思ったりしてたんです。でもよく考えると、今もそういうメディアがありますよね。例えばマスコミとか。自由な意見が言える時代になったとはいえ、結局マスコミの報道や識者の意見に左右されてる部分ってあるんじゃないでしょうか。50年経っても大衆心理は変わらないようです。

この本はある「伝単」をめぐるちょっとした疑問を調べようとしたところ、大きな謎が出てきてしまうミステリ。導入とラストのつなげ方も良いので、ミステリとして読んでも面白いですし、薀蓄系の小説(と勝手に名づけてみますが、定義はあえてしません(笑))として読んでも、勉強になりましたね。

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きみ去りしのち

著者志水辰夫
出版(判型)光文社文庫
出版年月1999.12
ISBN(価格)4-334-72924-X(\533)【amazon】【bk1
評価★★★

小学生、中学生、高校生、大学生というそれぞれの年代の男の子を主人公にした小説。私は繊細な少年とさまざまな別離の話を描いた「Too Young」がよかったな。小学生の主人公は老けすぎ。どう読んでも小学生に思えないのがちょっと嫌でした。。。大学生になって、やっとこの人の文章と年齢の差が無くなったかなと思うのですが、どうでしょう。

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魔法飛行

著者加納朋子
出版(判型)創元推理文庫
出版年月2000.2
ISBN(価格)4-488-42602-6(\560)【amazon】【bk1
評価★★★★

一時期加納朋子の本を一気に読んだのですが、途中で飽きてしまって、なんとなくその後前のものを追いかけずにいたんですよね。日常の中で起こる不思議な出来事っていう話ですけれども、読むとほっとするというのはそのとおりなのですが、あまり続けて読むものじゃないな、と思うんです。日常のバカ話を毎日書いてる私が言うセリフじゃないんですけど・・・(^^;

文庫化を期に読んでみた「魔法飛行」。この人の本、中学生とか高校生のときに読んでいれば、もっと共感できたんじゃないかなあとふと思いました。この人の文章の感覚とか優しい表現とか、こうして読んでいるとやっぱり大好きですなんですけれども、でもなんとなくガラスで出来た細い塔のような感じがしてしまう。すんごく綺麗だけど、突付くと壊れてしまいそうで、乱暴に扱えない。綺麗だけど、あまり存在感が無い・・・もしかすると、加納朋子を続けて読んだら飽きてしまった理由もそのあたりにあるのかもしれません。

この本を読んで思い出したことがひとつ。私は風船が嫌いなんです。手を離すと飛んでいってしまうのがものすごく悲しいから、幼い頃に風船を飛ばしてしまって以来、あの風船を欲しがったことはありません。今でも空を風船が飛んでいるのを見ると、悲しい気持ちになります。新しく買ってもらえる風船は、飛んでいってしまった風船とは別物のような気がするんですよね。だから、あの女の子の「突付かれるか、それとも飛ばしてしまうか」に込められている風船への気持ちって、わたし的にはとても痛いですね。

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ハリー・ポッターと賢者の石

著者J.K.ローリング
出版(判型)静山社
出版年月1999.12
ISBN(価格)4-915512-37-1(\1900)【amazon】【bk1
評価★★★★

ハリー・ポッターは、悪い魔法使いヴォルデモートによって両親を殺され、今は魔法を全く信じない叔父叔母のところに預けられている。叔父叔母従兄弟にいじめられるハリーは公立中学の入学が決まっていたが、中学入学を控えた年の誕生日、ホグワーツ魔法魔術学校から入学許可証が届けられる。

「魔法」っていうのは、童話の中で重要なアイテムだと思うんです。ほうきに跨って空を飛んだり、杖を振って何かを別のものに変えてしまったり。今の技術をもってすれば、何かを別物に変えることはできなくても、空を飛んだり、離れているところのものを操作したりといったことは簡単にできます。でも、「魔法」という名前がついただけで、なんとなくワクワクできるものに変わる感じがするんですよね。「魔法つかいの弟子」、「オズの魔法使い」「ドラえもんの魔界大冒険」「魔女の宅急便」。。。魔法が出てくる童話というのは、たくさん存在します。また、古くからある考え方に、「善い魔法使い」と「悪い魔法使い」というステレオタイプな分類があります。善い魔法使いはよい魔法で、悪い魔法使いをやっつける。。。そんな単純なストーリーが子供の頃大好きだった覚えがあります。

この本は、そんなステレオタイプな童話をそのまま具現したようなお話。イギリスでは中等学校が7年制で、ハリー・ポッターシリーズもそれに合わせて全7巻、1巻を1年という形で描かれるそうですが、第1巻では登場人物紹介と賢者の石をめぐる魔法学校の学内抗争を中心としたストーリーになっています。全体を読まないとなんとも言えませんが、この巻を読んで、私は夢のある魔法使い話にすっかり取り込まれてしまっています。ハリー・ポッター友の会というのがあるそうなのですが、「マグル」とか、「ふくろう通信」とか、ハリー・ポッター用語のようなものも頻発していて、なるほど、この本の人気は、話の外で盛り上がれる部分っていうのが大きいような気がしますね。魔法使いの卵、ハリー・ポッター君の成長譚、先を追いたくなる導入で、続きが楽しみです。

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時のかなたの恋人

著者ジュード・デヴロー
出版(判型)新潮文庫
出版年月1996.5
ISBN(価格)4-10-247601-6(\895)【amazon】【bk1
評価★★★★

恋人と大喧嘩をし、旅行先の教会に置いてけぼりにされたダグレス。泣きくれるダグレスの前に、突然16世紀のイングランド伯爵を名乗る男が出現した。あと3日で処刑されてしまうという彼のために、歴史を変えようとする2人だったが。

タイムスリップを小説として入れる場合、2つの考え方があると思うんです。ひとつは、歴史のある時点に介入することで、その後の歴史の流れが大きく変わるというもの。もうひとつは、時間の流れというのは、既に規定されているものであり、人間が多少介入しただけでは、大筋は変わらないというもの。16世紀から飛ばされてきたニコラスは、無実の罪を着せられて死に、後世には不名誉なエピソードばかりが残されるということを知り、ダグレスと共に運命を変えようと様々な手段を講じるのですが、さて、未来を変えることはできるのでしょうか。

この話を読んだとき、どこかで似た話を読んだなと思ったのです。藤本ひとみの「愛してローマ夜想曲」でした。漫画家マリナが何故だか古代ローマ帝国に飛ばされ、カミルスという青年と知り合う話なのですが、愛は時間の壁を超えられるかというストーリーは古今東西、どこでも一緒なのですね(^^)。

というわけで、SFというよりロマンチックストーリー的な要素の強いこの小説、どちらかというと女性におすすめ。全体的にコテコテのシンデレラストーリーで、笑っちゃうくらいご都合主義なんですけれども、でも最後までどっちに転ぶかわからないストーリーに、どきどきしました。結構こういう話私は好きですね。

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葬儀屋の未亡人

著者フィリップ・マーゴリン
出版(判型)早川書房
出版年月2000.1
ISBN(価格)4-15-208257-7(\1900)【amazon】【bk1
評価★★★☆

元警官で現在は州上院議員をつとめるエレン・クリースの家に、強盗が押し入り、エレンの夫を射殺した。エレンは近くにあった銃で強盗に反撃、強盗を射殺する。正当防衛を主張するエレン。しかし、ある証拠から彼女に殺人罪の容疑がかかる。

マーゴリンの本は、読後感が良いんです。女性の主人公は同じように見えるし、ストーリーもマンネリというイメージが強いのですが、それでもなんとなく新刊に手を出してしまうのは、そのマンネリが安心して読めるものであるからなのかもしれません。

法廷劇っていうのは、やっぱりアメリカですよね。日本のでも映画の「39」は面白いと思いましたけれども、あれも厳密に言えば法廷の話ではないですし。弁護士の口先ひとつで陪審員に与える印象を変えてしまうとか、検察側と弁護側の息つかせぬ攻防といった派手な演出のできる法廷劇はアメリカならでは。グリシャムをはじめとして、法廷サスペンスがアメリカで一大ジャンルとなってるのもうなずけます。法廷劇の面白いところは、どんな重罪でも、どんな確固たる証拠でも、弁護士の弁舌ひとつで、同情の余地のあるものになったり、絶対許せないものになったりすることですね。ある意味絶対正義とか絶対悪というのは存在しない、法なんていうのは、結局人間が作った穴だらけのルールなんだっていうのを思い知らされる部分でしょうか。完璧な証人が弁護士によって突き崩される部分がたまらないです。

この本も、法廷シーンは見ものでした。マーゴリンはもともと弁護士。そのあたりは臨場感、説得力もばっちりです。でも全体的には、今回はまあまあ水準かなという程度。やっぱりマンネリはマンネリ。少々先の読める展開に飽きたかな(^^;。久々にあっといわせる本書いてくれないでしょうか>マーゴリン。

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