1999年12月

琥珀の城の殺人(篠田真由美) ここがニューヨークでなくても(栗山章)
ブラック・ライト(スティーヴン・ハンター) スリー・アゲーツ-三つの瑪瑙-(五條瑛)
第4の神話(篠田節子) シェエラザード(浅田次郎)
警告(パトリシア・コーンウェル) ランチタイム・ブルー(永井するみ)
スピカ-原発占拠-(高嶋哲夫)
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琥珀の城の殺人

著者篠田真由美
出版(判型)講談社文庫
出版年月1998.10
ISBN(価格)4-06-263898-3(\667)【amazon】【bk1
評価★★★

18世紀のヨーロッパ。雪に閉ざされた城館の古い塔を改造した書庫で、城主が何者かに殺されているのが見つかった。ちょうど客人として来ていたプレラッツィが探偵役を任されるが、彼が捜査を開始したとたん、城主を安置した部屋から、死体が消失した。

正統派の推理小説だなあという感想です。デビュー作だからかもしれないですけど、ちょっと盛り上がりに欠ける感じ。死体消失、雪の城館、謎の客人、そして第二の殺人・・・まあ、なんてよくある話なんでしょう(^^)。もう少し吃驚する結末を期待したのですが、肩透かしに終わってしまいました。この著者は、どっちかっていうとトリック書かせるより、人間を書いた方がいいかもしれないですね。

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ここがニューヨークでなくても

著者栗山章
出版(判型)光文社
出版年月1999.10
ISBN(価格)4-334-92313-5(\1800)【amazon】【bk1
評価★★★☆

ニューヨークでただひとりの日本人タクシードライバー・ジョージは、ある日空港で女を乗せた。メアリー・アン・キッドウェルと名乗った彼女は、ユティカのボロアパートに用があるらしかったが、その人物は不在。仕方なくシティーのホテルへと送っていったジョージだったが、その彼女から人捜しを頼まれる。

小説っていうよりも、ちょっと変わったニューヨーク観光案内(^^)? だからといって、この本がだめっていうわけではなく、全体的に漂う哀愁がとってもよくて、私は楽しめました。ただ小説として読むと、説明的な会話が多いかなと。例えば、"AA"って警官が知らないはずないと思うんです。明らかに東洋人の彼に「AAっていう組織は何だい」と聞く警官のシーンとか、めちゃめちゃ違和感感じたのですが、どうでしょう>ニューヨーク在住の方。それに、友人の彼女とバカンスに行く最初の部分とか、あんまり必要性を感じなかったり。前半は多少退屈でしたが、後半はまあまあだったでしょうか。ハードカバーで買うことはないかな。

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ブラック・ライト

著者スティーヴン・ハンター
出版(判型)扶桑社ミステリー文庫
出版年月1998.5
ISBN(価格)(上)4-594-02492-0(\667)【amazon】【bk1
(下)4-594-02492-0(\667)【amazon】【bk1
評価★★★★

アリゾナ州の田舎で妻と娘と共に平穏に暮らすボブ・リー・スワガーのところへ、ある青年が訪ねてきた。ボブ・リーの尊敬する父、アール・スワガーについての話が書きたいという。アール・スワガーは、強盗の追跡中に被弾、死亡したが、その事故には実は裏があり・・・。

本当、この人の本面白いですね。文章が映像的というか、読みやすいです(それは訳者の腕なのか・・・)。前作「極大射程」ですっかり有名人となったボブ・リーが、自分の父の死を探るお話。シリーズものらしく、これからボブ・リーの過去が徐々に明かされていくんでしょうか。今回もスナイパーとの一騎打ち?は健在で、超かっこいいんです、これが。今後にも期待。

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スリー・アゲーツ-三つの瑪瑙-

著者五條瑛
出版(判型)集英社
出版年月1999.12
ISBN(価格)4-08-775257-7(\1800)【amazon】【bk1
評価★★★★☆

日本で精巧な偽ドル紙幣が大量にみつかった。事情を知っていると思われる北朝鮮のスパイ・チャンは、ソウルでの銃撃戦の末、姿を消している。日本にある<会社>は、葉山をスパイと接触させ、司法取引をしようともくろむが。

前作「プラチナ・ビーズ」の続編。あえて先に読まなくてもいいかもしれませんが、4部作になるという話ですので、やはり最初から読んだ方が良いのでは。人を駒としか考えず、国という大義の前に非人間的な活動をする<会社>の指令に、反発しながらもどうにかいい方向へ持っていこうとする葉山の涙ぐましい努力は今回も健在で、スーパーKと北朝鮮の企みを知るチャンと、なんとか接触しようと奔走する部分はかなり面白く読めます。日本にいる家族を捨てることもできず、また日本の家族と一緒になることで、北朝鮮に残してきた家族が酷い目に遭うことも耐えられず、スパイらしからぬ苦悩をするチャンにも感情移入できて、終わるのが勿体無いと思えるお話でした。北朝鮮の行く末も含めて、続きが気になりますね。この2冊を読んでいると、地球一周分離れているように思える謎の国・北朝鮮が、妙に身近に思えるのは気のせいでしょうか。

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第4の神話

著者篠田節子
出版(判型)角川書店
出版年月1999.12
ISBN(価格)4-04-873196-3(\1600)【amazon】【bk1
評価★★★★

バブル作家と言われながらベストセラーを書きつづけ、その挙句癌で急逝した小説家・夏木柚香。死後4年経って、フリーライターの小山田万智子のところに、その夏木柚香の伝記を書いて欲しいという依頼が来た。最初は出版社の言いなりに取材をする万智子だったが、美しく可憐な奥様に思えた夏木柚香を知る人々から話を聞くうちに、その偶像はどんどん崩れて・・・

またまた女の恐い話。ああこういうの、頷けるなあと思えることが多々あるというか。男性作家が書くと、こうはいかないと思うんですけど、どうでしょうか。面白いとは思うのですが、主人公である万智子さんにも、作家である夏木柚香の考え方にもどうも同調できなくて、妙に疲れてしまいました。女の人のこういうところって苦手。特に夏木柚香みたいな人は一番苦手です。結局夏木柚香と言う人は、単なるわがままなお嬢様に思えるのですが、読んだ方どう思われましたか?

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シェエラザード

著者浅田次郎
出版(判型)講談社
出版年月1999.12
ISBN(価格)(上)4-06-209607-2(\1600)【amazon】【bk1
(下)4-06-209958-6(\1600)【amazon】【bk1
評価★★★☆

横浜-サンフランシスコ間で就航しようとしていた豪華客船・弥勒丸は、戦況が悪化する中、完成と同時に陸軍に徴用された。病院船として使われていた弥勒丸だったが、ある作戦のために2300人の人間と金塊を積んだまま台湾海峡に沈んだ。それから50年以上経った現在、ヤクザの下で金融業を営む軽部の元に、宋英明という人物が訪れる。宋は「弥勒丸を引き上げたい、そのために百億用立てしてほしい」と言い出す。

題材は面白いですし、台湾海峡に金塊と共に沈んだ民間徴用船の謎を解くという話自体は私は大好きですが、うーん、なんとなく余計な部分が多いかなあという気が。すごく正統派の大衆文学かなと思います。盛り上がりに欠ける感じ。ここで泣け〜って言われているみたいなのが、どうも鼻についてしまっていまいちのめり込めないまま終わってしまいました。いや私がひねくれているだけで、たぶんものすごく感動的な話なのです。弥勒丸の船上での話はいいなあと思うのですが、現代の部分は簡単に謎が解けすぎな気がするんですよね。もう少し彼らには「謎」がわかるまでに苦労をしてもらいたかったかも。

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警告

著者パトリシア・コーンウェル
出版(判型)講談社文庫
出版年月1999.12
ISBN(価格)4-06-264736-2(\933)【amazon】【bk1
評価★★★☆

検屍官シリーズ10作目。リッチモンド港で降ろされたコンテナから、男の腐乱死体が見つかった。呼び出されたケイは、その遺体から奇妙な毛を発見する。一体誰がいつコンテナに入れたのかもわからないまま、マリーノと共に捜査を開始するケイのところへ、再び奇妙な毛のついた死体が持ち込まれる。

いつも読んでいて思うのは、なんでケイはこんなに怒りっぽいんだろうということなんです。最初はあまり思わなかったのですが、最近は本当しょっちゅう爆発しているような気がするのは気のせいでしょうか。きっと更年期障害なんですね。そんな彼女を今回いらだたせるのは、ケイを罠に嵌めようとする近くの敵。それでなくても変な遺体の発見で大変なところなのに、そいつを首尾よく発見できるのでしょうか。600ページという長い本なのに、あまり長く感じなかったのは、やはり面白かったからかな。私はケイをあまり好きではないですけれども、きっとそれでも彼女が怒らないと面白くないのかもしれないですね。あーまた文句を言いつつも来年もシリーズ11作目を買ってしまいそう・・・(毎年おんなじこと言ってるし。)

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ランチタイム・ブルー

著者永井するみ
出版(判型)集英社
出版年月1999.12
ISBN(価格)4-08-774442-6(\1600)【amazon】【bk1
評価★★★☆

庄野千鶴は29歳。前に勤めていた鉄鋼会社にいづらくなり、「インテリア・コーディネータ募集」という就職情報に飛びついて転職をしたが・・・。

この本を読んで思い出したのが、「月曜日の水玉模様」。雰囲気がそっくりです。しっかり者のOL庄野さんが、インテリア・コーディネータという仕事をしながら関わる、日常的な事件(?)を解決するお話です。ちょっと頼りないワトソン役には、営業の森君(^^)。永井するみというと、取材がしっかりした変わったミステリを書く人と思っていたのですが、こんな作品も書けるんだなあと見直した気分です。こういう形の作品は、北村薫や加納朋子、宮部みゆきなんかも書いているので、そういう意味での目新しさは無いので点は辛いのですが、「日常ミステリ」と言われるお気に入りの分野にもうひとり作家さんが増えたのはちょっと嬉しいかも。そういうのが好きな方にはおすすめです。

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スピカ-原発占拠-

著者高嶋哲夫
出版(判型)宝島社
出版年月1999.12
ISBN(価格)4-7966-1665-9(\1429)【amazon】【bk1
評価★★★★

稼動を目前に控えた原発が、謎のテロリストに占拠された。対処に当たった機動隊400名を壊滅させたテロリストたちは、ロシアとイスラエルで拘束されている共産主義者の開放・亡命を求め、要求が呑まれないときは、原発から汚染ガスを放出すると発表する。

確かこんな話読んだなと思ったのですが、同じ宝島社から出ている「クーデター」でした。「専守防衛」を標榜する日本の自衛隊は、本当に自国を「防衛」できるのかというのはよく言われる話ですけれども、うーん、どうなんでしょう。原発が先日起こったような原発事故というだけではなくて、外敵から狙われる武器になるということも、資源の少ないのに大量の電力消費をする日本にとって、ある意味タブーとも言える問題でもありますよね。まあその問題を考えていると結局堂堂巡りになってしまうので、この本のように問題提起はしていても、結局こういう結末に落ち着くのかなという感想です。「天空の蜂」を読んだときも思いましたけれども、このテーマでエンターテイメントを書くのは難しいですね。

■入手情報: 宝島社文庫(2001.1)

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