2000年10月

脳男(首藤瓜於) 水の棺の少年(スティーヴン・ドビンズ)
PINK(柴田よしき) Alone together(本多孝好)
ムボガ(原宏一) 雪月夜(馳星周)
わが名はオズヌ(今野敏) 雨の鎮魂歌(沢村鐵)
上と外2-緑の底-(恩田陸) 後催眠(松岡圭祐)
炎の影(香納諒一) コフィン・ダンサー(ジェフリー・ディーヴァー)
川の深さは(福井晴敏) バルーン・タウンの手品師(松尾由美)
千年紀末古事記伝 ONOGORO(鯨統一郎) 黄泉がえり(梶尾真治)
魔剣天翔(森博嗣) わが師はサタン(天藤真)
魔弾(スティーヴン・ハンター) ヴィーナスの命題(真木武志)
ジンジャー・ノースの影(ジョン・ダニング) (乃南アサ)
顔のない男(北森鴻) ゆきの山荘の惨劇(柴田よしき)
puzzle(恩田陸) なつこ、孤島に囚われ。(西澤保彦)
冬に来た依頼人(五條瑛)
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脳男

著者首藤瓜於
出版(判型)講談社
出版年月2000.9
ISBN(価格)4-06-210389-3(\1600)【amazon】【bk1
評価★★★☆

無差別にみえる爆破事件が相次いでいた。なんとか犯人を追い詰めた愛宕署刑事たちだったが、最後の最後、謎の男の所為で犯人を取り逃がしてしまった。その男を逮捕した茶屋は、男を精神鑑定にかけるために病院へ入院させるが、その病院でまた爆破事件が・・・。

精神鑑定、無反応な不思議な男、それに女医と海坊主のような刑事という組み合わせは、凡庸な2時間ドラマで終ってしまうような気がしていたのですけれども、この本はその点きっちりと知識部分とエンターテイメント部分を使い分けて、ほどよい見せ場と共に楽しんで読めるつくりになっていたなと思います。手放しでおすすめとは言えませんが、読んで損は無いかな。次作にも期待です。

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水の棺の少年

著者スティーヴン・ドビンズ
出版(判型)ハヤカワ文庫
出版年月2000.8
ISBN(価格)(上)4-15-040957-9(\680)【amazon】【bk1
(下)4-15-040958-7(\680)【amazon】【bk1
評価★★★

ある事件で妻と娘を亡くしたホーソンは、失意の中で遠く離れた三流学校の校長役を引き受ける。有能なホーソンは、なんとか学校変えようとして改革を断行するが、思わぬ邪魔が入って・・・

最初私はミステリだと思って読み始めたのです。ところが、おやホラーなのか、これは?と思いつつ、実は青春小説だったりして、、、と思ったらやっぱり最後はミステリに落ち着いたというイメージで、特に上巻途中は一体この話はどこへ行ってしまうのだろうと心配してしまいました。面白かったと思うのですが、ちょっと長かった。私は学校を舞台にした様々なお話が好きなので、子どもたちとホーソン、教職員とのやりとりだけでも楽しめましたが、他にもいろいろな読み方ができそうです。しかし、子どもを取り巻く問題って、世界中どこでも同じなんですね。。。これだけミステリに取り上げられる題材も他にあるかしら。

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PINK

著者柴田よしき
出版(判型) 双葉社
出版年月2000.10
ISBN(価格)4-575-23397-8(\1700)【amazon】【bk1
評価★★★☆

阪神大震災で婚約者を失ったメイは、見合いで出会った男が婚約者そっくりだったことから結婚する。ところが、その婚約者が徐々に変わってきたような気がしはじめ・・・。

柴田よしきの作品には「遙都」のような本当に「遊び」を楽しむ作品と、「RIKO」シリーズのようなウーマンリブ系の社会派作品と大きく2系統あると思うのですが、この本はどっちつかずといった印象を受けました。主人公がネットで知り合う作家・紫野貴美は、柴田よしき本人を投影した人物なのでしょうか。この人が言う女性に対しての厳しい言葉は面白い。確かに女性に限らず人は<誰かに頼る人>と、<自分でどうにかする人>がいると思うんですよね。どちらが良いとは一概に言えないとは思いますが、やっぱり自分のことは自分でできてこそ大人ってもんじゃないでしょうか。この主人公は、事件を通してだんだん強くなっていくのですが、事件の顛末よりも、その辺りを強調して読むと良いかもしれません。

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Alone together

著者本多孝好
出版(判型)双葉社
出版年月2000.10
ISBN(価格)4-575-23402-8(\1400)【amazon】【bk1
評価★★★★

3ヶ月で大学の医学部を辞めた柳瀬は、脳神経学の権威と言われる医学部の教授に呼び出される。教授は6回しか授業に出なかった柳瀬を覚えていたのだ。その教授が「私の殺した女性の娘の面倒を見てやってほしい」と言い出す。

「群集の中の孤独」という言葉がありましたが、それがもう当たり前になってしまって言われなくなった昨今。一人でいられる人間は、干渉されるのを嫌い、一人でいられない人間は、中途半端な人間関係を保つのに「努力」をする。。。そんな世界を描いた作品。私はどちらかというと一人のほうが楽な上に協調性の無い人間なので、この本に出てくる学院の生徒達にとても共感できてしまいました・・・(^^;。しかもこの人の文章が良いですね。程よい美しさというか。あまりにも芸術性や個性を強調しすぎたために、理解不能な文芸作品が(もちろん私の読解力不足は多分にありますが)たまにありますけれども、そのぎりぎりの線で抑えてエンターテイメントの領域に留まっているところが気に入りました。このミスにランクインしてしまったので読まなかった『Missing』も読んでみようかな。

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ムボガ

著者原宏一
出版(判型)幻冬舎
出版年月2000.10
ISBN(価格)4-344-00028-5(\1600)【amazon】【bk1
評価★★★★☆

平均年齢40歳。そんな男たち4人が、昔を夢見て再びバンドを結成する。夏祭りで披露した曲がムボガというアフリカ人をひきよせ、その縁でアフリカで大ヒットとなった彼ら4人。アフリカでの熱狂ライブから帰国、日本でも一旗上げようとしてみるが・・・。

題名の面白さに思わず買ってしまったこの本、思った以上に当たりでした。一種の滋養強壮剤的作品。図らずもアフリカで大ブレイクしてしまったおじさんたちが、日本でメジャーになろうと四苦八苦・・・するだけじゃなく、ヒューマンドラマあり、社会問題あり、の痛快作です。夢を語ることのできる大人がいなくなった、なんて言われていますが、こんな作品が皆に読まれたら、おし、自分も!なんて頑張れる人たちも出てくるのではないでしょうか(^^)。おじさんたちの奮闘に拍手です。おすすめ。

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雪月夜

著者馳星周
出版(判型)双葉社
出版年月2000.10
ISBN(価格)4-575-23399-4(\1900)【amazon】【bk1
評価★★★☆

北方領土を望む国境の町、梅ヶ枝町でロシア人相手の電気屋を営む幸司。レポ船の船長の息子だったがために受けた非情な仕打ちに、卑屈な生き方しかできなかった幸司は、帰ってきた悪友の裕司に出会い、2億円を持ち逃げしたかつての親友探しを頼まれる。2億円に目がくらんだ幸司だったが・・・。

馳星周の凄いと思うところは、どんな街でも暗黒街に変えてしまうところでしょうか。汚い人間たちが、それぞれを騙し騙されしながら2億円という大金を追うゲーム。もし、人間の嫌な部分にだけスポットライトを当てて、ある事件を描いたらこんな風になるだろうなあと思います。この著者はそのスポットライトの当て方に妥協がない。少しも他へ目を移そうとしない、だからこそこんなに容赦のない、読んでるこちらも嫌な部分をさらけ出しているような物語ができるんだと思うのです。舞台を厳寒の北海道にしているのは、マンネリを抜け出すためでしょうか・・・。それが成功しているとみるか、失敗していると見るかは、読者次第。私は面白かったです。

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わが名はオズヌ

著者今野敏
出版(判型)小学館
出版年月2000.10
ISBN(価格)4-09-379174-0(\1700)【amazon】【bk1
評価★★★★

県下一の課題集中校として有名な南浜高校。この高校が廃校になろうとしていた。廃校になった後の用地をねらうゼネコン社長と、私腹を肥やそうとする議員との密談の席に、突如高校生と思しき少年が乱入する。「わが名はオズヌ」と名乗った彼は、大柄な友人を従えて不思議な術を使う。

いやー面白かった。こういうトンデモ系の歴史解釈っていうのは、あまりにも真面目に取りすぎて嫌味になってしまうものもありますが、あくまでトンデモ系を弁えて痛快小説になっているところがハナマル。少年たちが決起する話が私は大好きでなので、大人たちをばっさばっさとぶった切っていく痛快さを堪能させていたっだきました。この感想は少々差し引いて読んではいただきたいのですが、こういう小説ってやはり爽快で良いですね。国会議員もたじろく現代に現れたオズヌの活躍を楽しんでください。

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雨の鎮魂歌

著者沢村鐵
出版(判型)幻冬舎
出版年月2000.10
ISBN(価格)4-344-00026-9(\1800)【amazon】【bk1
評価★★★

いつもつるんでいる仲間たちの一人で、生徒会長でもある一村が何者かに殺害された。どんなことにも一生懸命だった一村が何故?ところがその事件に前後して、仲間の一人である古館の様子が急によそよそしくなる。中学校を舞台にした青春小説。

中学3年の少年少女を描いた作品。青春小説として読むならば、殺人事件が余計だったかなと残念に思います。仲間の死と、それぞれの関係を書くなら、殺人にしなくてもよかったんじゃないかと私は思うのですが・・・。そのせいか、殺人事件とそれを取り巻く物語の部分が妙に浮いてしまっているように感じました。徹也と古館の路子との物語や、仲間たちとの馬鹿騒ぎ、そして中学校生活のもろもろ・・・というその辺りは昔を思い出せる感じで、とってもよかったと思うのです。この作品がデビュー作ということなので、次作に期待。

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上と外2-緑の底-

著者恩田陸
出版(判型)幻冬舎文庫
出版年月2000.10
ISBN(価格)4-344-40022-4(\419)【amazon】【bk1
評価

*『上と外1』を読んでいない人は、思いっきりネタバレですので、あらすじを読まないでください。読みたい方は、白いところをドラッグ!

クーデターのどさくさで、ヘリコプターから広大な密林へと落下してしまった千華子と練。助かりたい一心で、密林でのサバイバルを開始する。

ちょうど三省堂で知人たちと話していたときに買った本。そのときは「全部出てから買う(読む)」と言う意見が強かったような・・・(^^)。実際は、そちらのほうが賢いかもしれません。。。が、私は読み始めてしまったので、今更待っていることはもうできない!今回もまた悶絶です。「何故こんなところで終わるの〜」。しかし!負け惜しみではないですが、これは「えー何でこんなところで終わるの〜」と思いながら、2ヶ月を楽しみにするのが正しい読書法なのです。たぶん。ですから、迷っているそこのあなた、速攻購入、一緒に悶絶してください(笑)
→『上と外3』に続く

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後催眠

著者松岡圭祐
出版(判型)小学館
出版年月2000.10
ISBN(価格)4-09-386063-7(\1400)【amazon】【bk1
評価★★☆

銀座を歩いていると、携帯電話が鳴った。まるで自分をすぐ近くから見つめているようなのに、電話の相手は見つからない。「嵯峨先生」と呼びかけた電話の主は、「木村絵里子に深沢透はもう死んだと伝えてください」と言う。

「催眠」から続く一連のシリーズの番外編(?)。うーん。この本ってすごく場つなぎのような感じがしてしまったのです。とりあえず次は時間がかかるから、この辺で出しておくか・・・といった投げやりな印象。もしかすると、この事件が例のシリーズの伏線になったりするのかなあ。これだけですと、評価はあまり上がりません。次の作品を読んでから。

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炎の影

著者香納諒一
出版(判型)角川春樹事務所
出版年月2000.9
ISBN(価格)4-89456-903-5(\1900)【amazon】【bk1
評価★★★★★

父が死んだ。少年院に入って以来、勘当同然で家に帰ってもいなかった。嫌々ながら帰郷すると、父は死ぬ間際まで何かを気にして調べていたらしいことを知る。その死因も酔って鉄道線路に寝ていたところを轢かれるという父らしくない死に方だった。心の中で父の許しを求めていた公平は、郷里で父の調査を引き継ごうとする。

父の死の謎を追うミステリー部分よりも、父子の物語に感動。いいなあ、もう涙ボロボロ。久々に良い話を読んだと思いました。最近殺伐とした話を続けて読んでいたので、余計に感動したのかもしれません。香納諒一の本は人物が良いとは前々から思っていたのですが、この本はストーリーと人物像がぴったりはまっていて、物語世界にどっぷりのめりこめる本でした。厚さに躊躇していた方、この本は買いですよ〜。おすすめ

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コフィン・ダンサー

著者ジェフリー・ディーヴァー
出版(判型)文藝春秋
出版年月2000.10
ISBN(価格)4-16-319580-7(\1857)【amazon】【bk1
評価★★★★☆

リンカーン・ライムのところに再び捜査を手伝って欲しいという依頼。今度のターゲットは重要な証人を狙う暗殺者だ。何度も裏をかかれ、証人を危険にさらしれている警察は、なんとしてでもコフィンダンサーと呼ばれるその暗殺者を捕まえたいのだが・・・

見事。ジェットコースター・ムービーっていうのはよくありますけど、このジェットコースターブックと言っても差し支えないでしょう。山あり、谷あり、さんざん振り回されて、もう終わりかと思ったところに宙返りが入る。しかも戻ってきたら、逆さになっていた・・・そんな面白さのある本です。前作「ボーンコレクター」は最近映画化もされて話題になりましたが、勝るとも劣らない出来。四肢麻痺探偵、リンカーン・ライムの見事な「読み」を楽しめる本です。おすすめ。

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川の深さは

著者福井晴敏
出版(判型)講談社
出版年月2000.8
ISBN(価格)4-06-210284-6(\1600)【amazon】【bk1
評価★★★★

桃山は警察の体質に嫌気が差して辞め、今はビルの警備員をやりながら半分死んだような人生を送っている。ところがある日ビルに飛び込んできた二人の少年少女を見つけた桃山は、彼らの再び生きる目的を与えられる。

福井晴敏の本はデビュー作から続けて読んでいるのですが、どうも合わないと思っていたんですよね。どことなく兵器マニア的なイメージが強くて、人間の行動がそれに振り回されてしまっているという印象があったのです。そのせいか、感情移入がしにくく、読みにくいという評価でした。ところがこの本を読んで、すっかりその評価を逆転。この本は登場人物に同調できます(^^)。日本と軍隊の考え方も多少反論はあっても面白いと思いますし、それをうまく使って無理のないストーリー展開になっています。ラストはやはり兵器マニアの面目躍如で、ド派手な演出で楽しませてくれますし、素直に面白いと言える本でした。今まで福井晴敏を読んだことの無い方にもおすすめ。

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バルーン・タウンの手品師

著者松尾由美
出版(判型)文藝春秋
出版年月2000.10
ISBN(価格)4-16-319560-2(\1524)【amazon】【bk1
評価★★★☆

AU(人工子宮)が普及する世の中で、あえて自分のお腹で胎児を育て産もうとする奇特な母親が集まる東京都第七特別区。通称バルーンタウン。そこで起こる奇妙な事件に、妊婦探偵の暮林美央が挑む連作集。

この本5年前に出た「バルーン・タウンの殺人」の続編なんですね。そっちを先に読めばよかったかもしれません。読んでいる方にはおすすめ。私の職場は若い女性が多いので、年に2人ぐらい妊婦さんがいるのですが、やっぱり働きながら妊婦をしながら・・・っていうのは大変そう。私は子供を産んだことがないですから、産むという大変さはまあ想像するしか無いわけですが、仕事との両立を考えた場合、産前産後休、育児休暇というものがあったとしても、まだまだ中途半端な気がするんですよね。これは男の方にもわかっていただけると思うのですが、仕事をしている中で1年休職するというのは、大きなマイナスです。しかも育児休暇が明けて1歳の子供を置いて仕事をしろっていっても、やっぱり無理が来ちゃうと思うんですよね。うちの職場も結婚で退職する人は少なくても、妊娠で退職する人は多いです。実際そうやって一度退職してしまうと、生涯賃金で億単位の差が出るとか。そう考えるとこのAU(人工子宮)という考え方は1つの答えなんじゃないかと私は思ったりするんです。今この方法が提案されても、まだ眉を顰める人も多いんじゃないかと思いますけどね。

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千年紀末古事記伝 ONOGORO

著者鯨統一郎
出版(判型)ハルキ文庫
出版年月2000.10
ISBN(価格)4-89456-769-5(\640)【amazon】【bk1
評価★★★☆

稗田阿礼が太安万侶のところへやってきた。とうとう倭のすべての歴史を感知し終えたという。さっそくその内容を聞く太安万侶だったが・。・・。

鯨統一郎版現代語訳古事記。今更古事記自体の内容を話す必要は無いかと思いますが、かといって古事記自体を熟読した方ってそうは多くないと思うのです。でも、読んでいるうちに、あ、この話・・・と思うところって多いのではないでしょうか。黄泉の国とイザナミ・イザナギの話、やまたのおろち退治伝説、天の岩戸とアマテラス、五穀をもたらすオホゲツヒメ、イワナガ姫の逸話・・・。小さい頃日本の神話として読んだ話が、古事記として一つの流れになっていると、やっぱり面白いですね。鯨統一郎の語り口もあると思うのですが、あっと言う間に読めてしまいました。もちろん、鯨統一郎のことですから、ちゃんと仕掛けもありますよ(^^)。「天の岩戸」の話は先日読んだ「翼ある蛇」にもつながるところがあって、特に面白く読めました。未だ日本の歴史の謎のひとつ、古事記の斬新な現代語訳です。

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黄泉がえり

著者梶尾真治
出版(判型)新潮社
出版年月2000.10
ISBN(価格)4-10-440201-X(\1700)【amazon】【bk1
評価★★★★

熊本市役所は混乱していた。死んだ家族が生き返ったから、戸籍を復活させたいという問い合わせが相次いでいたのだ。前例のない事態に市内は大騒ぎ。何故彼らは黄泉がえったのだろう。

死者が「黄泉がえる」という奇抜な設定を使って、人が生きることをテーマにするというのは巧いですね。ただ、嫌な人間が出てこないという点が、甘さに思えてしまうのが少々難点。それでも素直に読めばとっても良い話です。いや、実は目が真っ赤になるくらい泣けたのですが(<大馬鹿(笑))。SFというより、童話的な良さのこの本、素直に本を読む方におすすめ(^^)。

■入手情報: 新潮文庫(2002.12)

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魔剣天翔

著者森博嗣
出版(判型)講談社ノベルス
出版年月2000.9
ISBN(価格)4-06-182145-8(\840)【amazon】【bk1
評価★★★☆

保呂草のところにある以来が来た。関根という天才画家が持っていると言われるエンジェル・マヌーヴァを盗み出して欲しいという。同じ頃、その関根の娘でパイロットの杏奈と、練無が大学の食堂で会っていた。日曜に行われるエアロバティックス・ショーを見に行くことになった練無たち一行だったが、そこで事故が起きて・・・

こういうコテコテトリック、ちょっと懐かしい気がしていいかも(^^)。意外に楽しく読めました。やっとこシリーズキャラクターの役割分担が見えてきて、そちらのほうでもなかなか面白く読めました。シリーズの最後は、すんごいどんでん返しを期待してるんですけど・・・・さてさて、どうなることやら。

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わが師はサタン

著者天藤真
出版(判型)創元推理文庫
出版年月2000.9
ISBN(価格)4-488-40811-7(\840)【amazon】【bk1
評価★★★☆

大学のクラブ棟でくすぶっていた田。思い立ってオカルトの研究会を始めようする。マジック研と名付けたそのサークルに、話を聞きつけて集まった男3人、女3人。彼らが師と仰ぐ「アスタロト」と名乗る人物に乗せられて、学内革命というとんでもない計画に乗り出すが、ところがそれが思わぬ事件を招き・・・。

天藤真の本をこうしてちまちまと読んでいるわけですが、全体に漂う匂いがとっても懐かしい。ちょうど私が生まれた頃の本なわけで、「懐かしい」というのは語弊があるのですが、よく話に聞く70年代の大学なんですよねぇ(私の大学には昔話をする人が多かった)。こういう「熱い」学生生活が実はちょっと羨ましかったり。内容は、他に読んだ天藤作品と比べると多少落ちるかな、と思ったのですが、それでも人物の書き分けや、ストーリーの流れなんかは、「面白い」の一言に尽きる小説です。

新保氏の解説に書いてありますが、この本にはちょっとした裏話があるそうなのです。もともとこの本、鷲見緋沙子という別名義で出されたものだそうですが、天藤真のだと最終的に公表されたのはなんと1994年だったとか。うう、楽しそう。当時の鮎川哲也と鷲見緋沙子とのやりとりなんか、実際知っていたら「実は・・・」となったときの衝撃が大きいと思うんですよね。特にこのレベルの作品だったなら尚更。誰かまたこういうことやってくれないかなあ。誰も覆面だとは知らず、もう忘れた頃になって、「実は・・・」と言えるような作品が出てくることを期待します。

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魔弾

著者スティーヴン・ハンター
出版(判型)新潮文庫
出版年月2000.10
ISBN(価格)4-10-228607-1(\857)【amazon】【bk1
評価★★★

強制収容所で死を待つばかりの悲惨な生活を強いられていたシュムエルは、別の場所へと移送される。そこはドイツ人と同じ食事ができ、作業もずっと楽という彼にとっては夢のような場所だった。しかし、あるとき26人が呼び出され・・・。

ハンターのデビュー作。今と比べると大分迫力にかけ、ストーリーとしても凡庸というイメージが抜けないこの作品。今の作品を知らずに読めば、それなりに面白く読めたと思うのですが、比べてしまうとやはりまあまあといったところですね・・・。それに舞台にユダヤ人問題を出す必要があったのかなあ。結局その絡みがいまいち最後と結びつかないのも不満。アウシュビッツやダッハウといった強制収容所には、固定的かつ強烈なイメージがあるので、こういう風に安易に使ってしまうのは軽率だったかなあと思うんですよね(もちろん、日本人とアメリカ人では捉え方が全然違うのでしょうけれども・・・)。同じ時代を舞台にしたものでしたら沢山ありますし、意外性という意味なら帚木蓬生の「ヒトラーの防具」もあるからなあ。面白くないとは言いませんが、デビュー作らしい本だったかもしれません。

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ヴィーナスの命題

著者真木武志
出版(判型)角川書店
出版年月2000.10
ISBN(価格)4-04-873247-1(\1500)【amazon】【bk1
評価★★★☆

月曜日。黛が死んだ。そして一週間後・・・・。

問題が有ると言えばありすぎなんです。登場人物が誰が誰だかわからなくなるし、地の文が誰の視点なのかも曖昧。薄い本ながらさーっと楽しく読めるという本ではありません。ただ、この学校生活、楽しそう(^^)。いや本当に。私の母校は、こんな感じに近かったかも。私の学校も進学校で、もともと地域的に隔離された不思議な学校でしたから、生徒もエキセントリックな人間が多かったのです。ひとつひとつのエピソードは悪くないですし、それによって醸し出される雰囲気にはまってしまえば気持ちいい本なので、綾辻氏の推薦文にはとっても納得(っていうか、これは絶賛というのか・・・>角川書店さん)。全体の雰囲気を評価します。私の中では、どことなく本多孝好を思わせるような文章でした。あとは、長編としてのストーリーに波を持たせて、それぞれの個性と名前を一致させられるようになれば、大化けしそうな気がするのですが・・・(とか偉そう?(笑))。ちょっと楽しみでもある作家さんです。

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ジンジャー・ノースの影

著者ジョン・ダニング
出版(判型)ハヤカワ文庫
出版年月2000.10
ISBN(価格)4-15-170405-1(\740)【amazon】【bk1
評価★★★☆

どの仕事も長続きせず、なんとかその日暮らしをしていたウェス。ある日、全く知ることの無かった母親のことを調べはじめ、彼女が自殺していたことを知る。事情を知っている人がいると思われる競馬場で働き始めるウェスだったが。

ジンジャー・ノースという母親を探す物語。どことなくゴダードを思わせる雰囲気ですが、比べてしまうと多少無駄が多いような。ただ、ミステリーの体裁と凝った真相は、最近の作品を思わせるようで、かなり読めました。ダニングファンにはおすすめ。

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著者乃南アサ
出版(判型)新潮社
出版年月2000.10
ISBN(価格)4-10-602766-6(\2200)【amazon】【bk1
評価★★★★☆

占い師の家で見つかった4人の惨殺死体。機捜として初動調査にあたった音道は、警視庁との合同捜査に合流することになる。ところが当たった相棒は最悪、事件もお宮入りの様相を見せ始める。そんな時、かつて世話をした犯罪被害者に出会うが・・・。

「凍える牙」の続編(だそうです)。私は前作を読んでいないのですが、特に問題ないように思います。もちろんシリーズで読むことで、得られる楽しみもあるのでしょうけれども、この1作だけでも十分読み応えあり。不屈の精神という言葉がぴったりな音道、彼女が組まされるいやーな相棒、音道を心配するかつての同僚、そして椅子職人の恋人。ハードボイルドに不可欠な要素である人物造形ですが、この作品は水準以上だと思いました。さしずめ女性版新宿鮫といったところ。少し柴田よしきの「RIKO」シリーズも思い出したのですが、ウーマンリブ的な要素が入らない分、こちらのほうが「深い」気がしますね。「凍える牙」のときは読もうかなと思ったら直木賞を取ってしまい、なんとなく読まずにいたのですが、せっかくなので前の作品も読もうかと思っています(と思っている作品は大量にあるように思いますが・・・・(^^;)。女性作家だからとか、女性主人公だから、女性におすすめ、と言ってしまうと勿体ない小説。厚さを気にさせない面白さがありました。おすすめです。

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顔のない男

著者北森鴻
出版(判型)文藝春秋
出版年月2000.10
ISBN(価格)4-16-319640-4(\1429)【amazon】【bk1
評価★★★☆

空木という男が死体で見つかった。13箇所にわたる骨折の上に頭蓋骨挫傷。かなり派手にやられている。怨恨による殺人を疑った警察は、空木の関係者を探ろうとするが、彼との関わりが全く出てこない。”顔の無い男”の捜査をすることになった原口と又吉は、被害者の自宅で思わぬものを発見する。

短編集を装った長編(^^)。それぞれが短編として独立していながら、書き下ろされた幕間によって見事に融合され、空木とは何者だったのかを解き明かすミステリー。最初のほうの短編は多少退屈だったのですが、最後は次々と提示される謎が楽しめました。ミステリーとしては平凡な出来でしたが、試みに☆1つ。

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ゆきの山荘の惨劇

著者柴田よしき
出版(判型)角川文庫
出版年月2000.10
ISBN(価格)4-04-342805-7(\571)【amazon】【bk1
評価★★★

猫の正太郎は、同居人であり作家である桜川ひとみに連れられ、ある山荘にやってきた。彼女の友人作家がそこで結婚式をあげるというのだ。ところが突如土砂崩れが起こり、山荘の客は山に閉じ込められる。そして夜、事件が起きて・・・。

ネコや犬といった人間ではない主人公を配した作品は、有名な赤川次郎の三毛猫ホームズシリーズや、宮部みゆきの「パーフェクトブルー」(主人公が犬)などがありますが、その目的は、普段とは違った視点で、思わぬ謎解きをし、読者を楽しませるところにあると思うのです。そういう意味では、この作品は少々毛色が変わっている。何が違うのかは言えませんが、動物たちをこう使いますかと私は思いました。

話はそれますが、実は私はあまり動物が好きではないので、ネコが味見したソースは食べられないなあ。だから鳥越裕奈の言い分には大賛成なのですが・・・。ネコ好きじゃない悪い人ですね。はい。

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puzzle

著者恩田陸
出版(判型)祥伝社文庫
出版年月2000.11
ISBN(価格)4-396-32809-5(\381)【amazon】【bk1
評価★★★☆

長崎県にある無人島、鼎島で、3人の男性の遺体がみつかった。どの遺体も身元不明。偶然から遺体の一人と知り合いだったことが判明した検事の黒田志土は、部下と共に島を訪れる。

廃墟って、それだけで一種独特な雰囲気があります。ローマもそうでしたが、かつての栄華が偲ばれる廃墟というのは、人間の意志を染み込ませているような気がするのです。ふと見ると、人がいたときの情景(要するに幽霊)を映し出すんじゃないかとか思えてしまうんですよね。だから怖い。この物語のモデルとなっているのは、昭和49年に炭坑の閉山と共に無人島となった長崎県の端島(別名軍艦島ともいう)だと思うのですが、この島の写真を見ると、物語がよりいっそう深くリアルに感じられます。【このあたり】とかご参照ください。

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なつこ、孤島に囚われ。

著者西澤保彦
出版(判型)祥伝社文庫
出版年月2000.11
ISBN(価格)4-396-32810-9(\381)【amazon】【bk1
評価★★★

森奈津子さんをモデルにした爆笑小説(^^)。この短さながら、西澤氏らしい理詰めのミステリーに仕上がっているところが良いですね。この小説の見所は、なんといっても実名で登場する作家諸氏。倉阪鬼一郎、牧野修、野間美由紀、そして主人公森奈津子(笑)。牧野氏以外は先日お会いしたので、なんとなく失礼なことをいろいろ考えてしまったのですが、それはまあここには書かずにおきましょう。あはは。というか、森奈津子さんの本って、実はむちゃくちゃすごいんですか?

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冬に来た依頼人

著者五條瑛
出版(判型)祥伝社文庫
出版年月2000.11
ISBN(価格)4-396-32820-6(\381)【amazon】【bk1
評価★★★★

成美に会うのは6年ぶりだった。大手企業を退職し、今は法律事務所の下請け調査員をしている俺のところに来た彼女は、愛人との駆け落ちという形で失踪してしまった夫を探しているらしい。もう止めた方がいい、という忠告に「会いたいことに理由がいるのか」と捜査を依頼する彼女。仕方なく始めた捜査だったが・・・

練られたプロットでいつも物語世界へ引き込んでくれる五條氏の短編は、単なる人捜しに終わらない良い雰囲気の物語でした。この長さである程度の話を作るには、ストーリー構成も考えなければならないし、いかに短く何かを表現するかという文章力も必要だと思うのですが、この本は見事。それに私は、この探偵さんの考え方に共感しました。弱い人は苦手なんです(笑)。というわけで、特にそういう方におすすめ。。。かも。

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