1998年09月

RIKO−女神の永遠−(柴田よしき) 夜は罠をしかける(加治将一)
銀行は死体だらけ(ウィリアム・マーシャル) 聖母(柴田よしき)
ハーメルンに哭く笛(藤木稟) アンジェラの灰(フランク・マコート)
月神(柴田よしき) 秘密(東野圭吾)
病葉流れて(白川道) 実況中死(西澤保彦)
弥勒(篠田節子) カラフル(森絵都)
時の鳥籠(浦賀和宏) Twelve Y.O.(福井晴敏)
塗仏の宴 宴の始末(京極夏彦) 漂流街(馳星周)
つきのふね(森絵都) 8(エイト)(キャサリン・ネヴィル)
らんぼう(大沢在昌) 闇色のソプラノ(北森鴻)
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RIKO−女神の永遠−

著者柴田よしき
出版(判型)角川文庫
出版年月1997.10
ISBN(価格)4-04-342801-4(\600)【amazon】【bk1
評価★★★★★

新宿のビデオ店から押収した裏ビデオに、少年が男に輪姦されているものが混じっていた。捜査にあたった村上緑子(リコ)だったが、やっと身元が割れたとたんに、本庁が出張ってくることに。しかもその主任が元上司でかつての不倫相手、安藤だった。

本当に面白かったです。読む前は女性警部補が主人公ということで、またヒステリー気味の女が出てきて、どうのこうのという話かと思っていたのですが、全然そんな感じがしません。ものすごく魅力的な女性で、男ばっかりの組織の中で、女性であることを主張しつつ自由に仕事をする彼女の生き方には共感できます。「フォー・ディア・ライフ」を読んだときは、かなり違和感を感じた文章も、女性の観点から見たこの作品ではテンポよく感じられました。
ちょっと設定に無理があるところもなきにしもあらずなのですが、そういう所には目をつぶって、エンターティメントとして読んだ方が良いと思います。シリーズものになっているそうなので、続きも楽しみです。

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夜は罠をしかける

著者加治将一
出版(判型)新潮社
出版年月1998.8
ISBN(価格)4-10-602756-9(\1800)【amazon】【bk1
評価★★

拝み倒されて、コーディネーターの役目を引き受けた氷川。ところがその役目は、マフィアに襲われたり、爆弾を仕掛けられたりという災難をもたらすものだった。

うーん、いまいち。って★★でも現していますけど。不思議な小説で、主人公&登場人物の説明がほとんどといっていいほどされないんですよね。最初はシリーズものなのかと思ったのですが、どうもそうでもなさそうですし。氷川っていう主人公は、LAに住んでて、どうも家を売っているらしいというのは分かるのですが、それも人物の行動からで、説明がされるわけではないのです。しかもメグという西洋人っぽい名前の娘がいて、綾ちゃんというこれまたどういう関係かよくわからない女性と一緒に住んでいるんですね。
お話もちぐはぐで、これを本当にハードボイルドというのだろうか、という感じ。確かに襲われたり、爆弾しかけられたりするのですが、その解決も唐突で、うーんなんとも不思議な感じです。
ひとつ面白かったのをあげるなら、会話部分は結構面白いところもありました。ただ、やっぱり小説はストーリーがあってこその会話ですよね。
最近「新潮ミステリー倶楽部」がちょっと不振な気がするのですが、どうでしょう。前はこのシリーズで出されたものは、なんでも面白かったのですけどね。

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銀行は死体だらけ

著者ウィリアム・マーシャル
出版(判型)ハヤカワ文庫
出版年月1998.7
ISBN(価格)4-15-100126-3(\760)【amazon】【bk1
評価★★★

中国への返還を目前に控えた香港のある銀行で、集団毒殺事件が起こる。なぜ彼らは同時に殺されなくてはならなかったのか。動機は?方法は?

これもまた不思議なお話。3つの捜査がなんだかひとつにまとまっていくのですが、どのキャラクターも個性的(というか狂人的というか)で、その点は苦しくも笑いを誘います。帯に書かれていた「爆笑の捜査」は言い過ぎだと思いますが、解決などは鮮やかで、結構面白かったと思います。香港ならではのミステリといえるでしょう。
うーん、でもちょっと奇をてらったという感じが強くて、あまり嵌まることができませんでした。ナンセンス小説的でもあります。しかもこの小説、<イエロー・スレッド・ストリートシリーズ>の第14作目。この前も書いたような気がするのですが、何故最初から翻訳しない>早川書房。

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聖母

著者柴田よしき
出版(判型)角川文庫
出版年月1998.3
ISBN(価格)4-04-342802-2(\762)【amazon】【bk1
評価★★★★

RIKOシリーズ第2作目。「RIKO」で妊娠した村上緑子は、一児の母となり、産休が明けて今は下町の辰巳署勤務となっている。その緑子の元に現れたのは、たまたま別件で連れてこられた男の体を持ち女の心を持つ磯島。彼女は、行方不明となった親友の女性を探して欲しいと緑子に依頼する。

新宿署から出たとは言っても暴力団、主婦売春、銃撃事件とかなり派手な展開で、楽しませてくれます。今回登場の磯島の話も面白かったですね。今丁度このTGとかTSとか言われる問題を朝日新聞の朝刊で連載していて、世の中にはいろいろな問題を抱える人がいるんだなあと思いました。子供のできた緑子に合わせてか、今回はマタニティー・ブルーとか、育児ノイローゼ(この言い方がよくないらしいですが)で追いつめられる主婦なんかも、考えさせられる話でした。緑子もようやく身を固めるのか、という展開もあって、次回作が楽しみです。

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ハーメルンに哭く笛

著者藤木稟
出版(判型)トクマノベルス
出版年月1998.5
ISBN(価格)4-19-850418-0(\1000)【amazon】【bk1
評価★★★★

シリーズ名がついていないのですが、昭和初期を舞台にしたシリーズ第2弾。前作「陀吉尼の紡ぐ糸」はトリックやストーリーも面白かったものの、どちらかというと登場人物の紹介といった感じがしたのに対し、今回は大トリックだけでなく、「ハーメルンの笛吹男」の伝説をうまく絡めたストーリー設定で、私の大好きだった初期の島田荘司を思い出しました。私はこういう良く知られている非現実的な伝説や物語が、実はこういう事実を示しているのでは、という話に弱いのですが、この説もなるほどーって感じです。人によってはあまりに大それたというか現実味のない結末で、は?という方もいらっしゃるかもしれないのですが、ファンタジーだと思って読めば面白いですよ。人物も魅力的ですし。
十五年戦争前の不穏な空気と緊張感も、この本を面白くしていると思います。今回はあまり出てこなかった東も、なんとなくこれから黒幕的な役割を果すのかなあと思ったりもして、次回が楽しみです。朴念仁だけど優しい柏木君が私はひいき。朱雀にいじめられながらも、なんとなく朱雀に相談に行っちゃうところとか、かわいいですね。あと、朱雀の名前の由来には爆笑しました(笑)。うーん、奇人の家系か。

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アンジェラの灰

著者フランク・マコート
出版(判型)新潮社
出版年月1998.7
ISBN(価格)4-10-590003-X(\2700)【amazon】【bk1
評価★★★★

アメリカで生まれながら、両親の気まぐれでアイルランドに帰郷、極貧の生活を送る著者の少年時代の回想録。少年の目から見るアイルランドの悲惨さも、そのユーモアあふれる語り口で、楽しみながら読めました。面白かった。こういう宗教が生活の根底にあるというのは、特定の宗教を信仰していない自分としては興味深いですね。少年の考えていることも、かなり面白い。長いのですが、一気読みしてしまいました。おすすめです。
映画とか写真集とかで見て一度行ってみたいと思っていたアイルランドですが、この本を読むとちょっとためらってしまうかも(^^)。

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月神

著者柴田よしき
出版(判型)角川書店
出版年月1998.1
ISBN(価格)4-04-873092-4(\1700)【amazon】【bk1
評価★★★★

RIKOシリーズ第3作目。ハンサムで若い独身警官ばかりが惨殺される事件が起きる。犯人が何を基準に選んでいるかが全く解らず、捜査は難航。辰巳署勤務の緑子は、元先輩の高須に引き抜かれ、警視庁での捜査に加わるが・・・。

今回は、緑子の周りよりも事件の方に重点が置かれた作品になっています。3作目にして、だいたいレギュラーも固まってきたというところでしょうか。面白いですよ、このシリーズ。この本を読むときは、是非1作目の「RIKO-女神の永遠-」からお読みください。事件の方も派手で面白いのですが、このシリーズの面白さは、やはり村上緑子という主人公と、彼女を取り巻く人間関係にあると思うのです。それを理解するには、1作目は不可欠。1作目、2作目は文庫になっていますので、是非そちらからお読み下さい。私は結構壊れかけの山内がお気に入りです。続きも楽しみですね。
個人的には、番外編で緑子の産休のときの話とか書いてもらいたいです。

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秘密

著者東野圭吾
出版(判型)文藝春秋
出版年月1998.9
ISBN(価格)4-16-317920-8(\1905)【amazon】【bk1
評価★★★★★

今年40歳になる平介は、本当に平凡なサラリーマン。これからもそういう日々が続くものと思っていた。妻の直子と娘の藻奈美を乗せたスキーバスが崖から転落、平介の日常は180度転換する。妻を失い、娘は植物人間になってしまうかもしれない危険な状態。ところが、あるとき突然ぱっちりと目を開けた娘が「あたし、藻奈美じゃないの、直子なの」という驚くべき言葉を発した。

もう★6つあげたいくらい、良い話でした。電車の中で涙ボロボロになってました。妻が娘に憑依してしまうというかなり笑える書き出しから、こうなることは解っていたとはいえ、感動的のラストへ(といいつつも、最後の章はかなり意外でしたが)、一気に読ませるところはさすが、といったところでしょうか。一度読み出すとやめられません。今のところ今年のベストですね。

■入手情報:文春文庫(2001.5)

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病葉流れて

著者白川道
出版(判型)小学館
出版年月1998.9
ISBN(価格)4-09-379151-1(\1600)【amazon】【bk1
評価★★★

学生紛争真っ只中の時代に、大学に入学した梨田。とりあえず大学に入ったものの、学生紛争に加わるのでもなく、目的があるわけでもない。そんな中、博打を生業として留年を繰り返している学友と親しくなり、賭け麻雀の世界にどっぶりと嵌まり始める。

面白いとは思うんです。でも、難点が。私は麻雀のルールを知らないのです。だから一向聴がどうのこうのとか、危険牌がどうのこうのといわれても、良く解らないのです。主人公たちの会話から、その内容を推測するというかなり疲れる読書となりました。きっと「週間ポスト」なんか(失礼(^^;)を読む人々は、麻雀のルールをご存知で、こういう話でも問題ないと思うのですが、私は一緒に簡単な用語集をつけてもらいたかった。よくルールが解らなくてもなかなか緊張感があって面白い話だったので、ちゃんと解っている人にはもっと面白いのではないのでしょうか。
この本がすごいのは、牌が文章中に出てくることです。いったいどんな風に原稿書いているんだろうと思うのは、私だけでしょうか。日ごろキリル文字や、ハングル文字に苦労している私としては、是非聞いてみたいものです。

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実況中死

著者西澤保彦
出版(判型)講談社ノベルス
出版年月1998.9
ISBN(価格)4-06-182028-1(\780)【amazon】【bk1
評価★★★★

「チョーモンイン」こと「超能力問題秘密対策委員会」の相談員見習い神麻嗣子が活躍するシリーズ長編第2弾。今回は、知らない人間と感覚がつながってしまう超能力が、事件の鍵を握ることになります。しかも、そのつながった感覚の持ち主が、ストーカー行為、殺人をしていることから事件へと発展。話を聞いたミステリ作家保科は、嗣子に連絡をとるが。

このシリーズ、すごい楽しみにしていたんです。「ちょーもんいん」という名前もさることながら、なんだかよく分からない見習い相談員、ものすごい美人の女性警部、奥さんに逃げられた冴えないミステリ作家というどたばたキャラクターなのに、ストーリー自体はちゃんとミステリなところが、西澤さんらしいですね。さて、今回はどんな結果が待っているのでしょうか。短編も早く本にならないかなあ。

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弥勒

著者篠田節子
出版(判型)講談社
出版年月1998.9
ISBN(価格)4-06-209282-4(\2100)【amazon】【bk1
評価★★★★★

最近次々と面白い本が出ていて、寝る暇もないです。私がを多くつける目安として、「電車を乗り過ごしそうになるほど本にのめり込める」というのがあるのですが、最近かなりやばいです。帰りならまだしも、行きの電車で何度乗り過ごしそうになったことか。この作品もそのひとつです。
美術館にもつとめたことのある永岡は、かつて美術品の借り出しに行ったヒマラヤの小国パスキムに反乱が起きていることを知る。小国ながら高度に洗練された文化を持ち、美しい美術品を生み出すパスキムの首都カターに執着していた彼は、美術品を救い出せないかと考え、インドに訪れたついでに閉鎖された国境を徒歩で越えてパスキムへと向かう。ところが3,4日と考えていた道草は、途方もなく遠い回り道だった。

全体主義的な反乱軍の考え方もあながち間違ってはいないのでしょうが、一人の人間が考えることは、所詮何千年も昔から徐々に培われてきた自然の知恵にはかなわないということなのでしょうか。徐々に崩壊する国と、それを冷ややかな目で見る村人という構図が哀しいというか、凄惨というか。この話を読んでいて、月並な意見ではありますが、平等という名の下の没個性的で、画一的な日本の教育制度を思い浮かべました。珍しく真面目に感想を書いてみましたが、いい加減な私にそうさせるくらい、いろいろ考えさせられる話でした。
篠田さんの本を読むのは初めてなのですが、この本を本屋で見たときためらわずに買ったのは、題名の所為です。自己紹介でも書きましたが、私は神社仏閣を回るのが大好きで(奈良が好きなのもそのためです)、特に広隆寺の弥勒菩薩を見たときは、こんなに美しいものがあっていいのだろうか、と思ったのです。弥勒はメジャー(笑)な仏様で、仏像としても芸術品としても高い評価を受けているものが多いですよね。だからこの永岡さんが弥勒に執着する気持ちがちょっとは分かる気もして(とはいえ、私はこんな回り道をするのはごめんですが)、この話が面白かったのは、そういうところにもあるのかもしれないなと思います。

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カラフル

著者森絵都
出版(判型)理論社
出版年月1998.7
ISBN(価格)4-652-07163-9(\1500)【amazon】【bk1
評価★★★★

気がついたら僕は天国。ところが天使がやってきて言った。「おめでとうございます、抽選にあたりました!」なんと他人の体に”ホームステイ”して、修行をすることになってしまったのだ。そして僕は、小林真になった。

午前零時の西村さんご推薦の森絵都ですが、すごーくかわいらしくて、しかもあったかいお話でした。本当は「つきのふね」から読もうと思っていたのに、先に手に入れられたのはこちらの本で、あまりにかわいい装丁に先に読んでしまいました。
多分中学生くらいを対象とした本なのでは、と思うのですが、私が読んでも涙がでる良いお話です。でも久々にこんな大きなフォントの本を読んだら、なんかちょっと変な気分(^^)。

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時の鳥籠

著者浦賀和宏
出版(判型)講談社
出版年月1998.9
ISBN(価格)4-06-182040-0(\1100)【amazon】【bk1
評価★★★★

前作「記憶の果て」で、賛否両論だった著者の第2作。私は前作も結構好きだったのですが、今回はそのB面とも言える作品になっています。
ある女性が、病院に心拍停止状態でやってきた。救急センターの医師である甲斐は、彼女を救うために必死に努力する。もうだめか、と思ったとき、彼女は奇跡的に蘇生。15分間も脳に酸素が行かない状態であったにもかかわらず、記憶障害を除いて異常はない。ところが担当となった甲斐に彼女が語った事実は、衝撃的なものだった。

これじゃあ前作を読んでいらっしゃる方は、どこがB面なの?と思われるかもしれないのですが、B面なんですねーこれが。最後がちょっと急速に収束しすぎという感もありますが、ぞぞぞと来る怖さや、もう一度題名を見たときのおーなるほど、という感じはなかなかよかったと思いますよ。前作を読んでいないと、行間の微妙な部分が分かりづらいと思うので、前作を先に読むことをおすすめします。前作が結構面白く感じられた人には、おすすめかもしれません。

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Twelve Y.O.

著者福井晴敏
出版(判型)講談社
出版年月1998.9
ISBN(価格)4-06-209368-5(\1500)【amazon】【bk1
評価★★★

ある事故から出世の道を絶たれ、俗に手配師と呼ばれる自衛官募集員を気力なく続けていた平。ある時、恩人である東馬に会ったことで、大きな陰謀に巻き込まれる。

私はこれは、ちょっとだめですね。ここまで軍艦とか武器とかの精細な描写をする必要があまり感じられないというか。あまりミリタリー系に興味を感じないからかもしれません。そういうのが好きな方には結構おすすめかも。
特にこういう巨大な陰謀といった話は、本にすると難しい感じがするんです。しかも舞台が日本。自分も平和ボケしている日本人なので、あまりに非現実的な感じがしてしまうのかもしれませんね。
一つ蛇足で書くなら、この本に出てくる護衛艦「あさぎり」に私は乗ったことがあるんです。護衛艦って行っても灰色の普通の船に武器が乗ってるだけという感じがしたのですが。知ってる艦が出てきてちょっと嬉しかったです。

■入手情報: 講談社文庫(2001.6)

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塗仏の宴 宴の始末

著者京極夏彦
出版(判型)講談社
出版年月1998.9
ISBN(価格)4-06-182033-8(\1200)【amazon】【bk1
評価★★★★

(→「塗仏の宴-宴の支度-」から続く。)
やっと出ましたね。7月刊行とか、8月下旬とか言われていましたが、こんな時期になってしまいました。「塗仏の宴」の解決編です。
過去を失ってしまった人達と、消えてしまった山村。失われた過去とは、一体なんだったのか、またなぜ山村は消えてしまったのか。「宴の支度」として次々現れた問題が、一気に収束する。

「支度」では、いろんな人々が怪しい団体に取り込まれていく様が短編のように描かれて、いったいこの話はどこへ行くんだと思いましたが、やっぱりそこは京極夏彦。ちゃんと収束するのです。相変わらず面白いですね。このペースで出していて、この内容。今回もやっぱりすごい。

この<京極堂シリーズ>と呼ばれる一連の作品群は、1冊1冊が物理的に分離してはいても、どこかへと収束する一つの大きな話なのではないかと、思うんです。よく京極堂がやるように、いきなり結論にいくのではなく、周辺から徐々に固めていって、最後に本題に入るというあのやり方ですね。
シリーズものというと、登場人物の成長や、人間関係の変化といった外的事柄の記述を楽しみにするという感じがしますが、このシリーズは登場人物の考え方や物の見方といった内的事柄の記述が多いのも、この人の世界へと読者を引きずり込む仕掛けのような気がして仕方がありません。この人の書いた本を読んでいると洗脳されるような気分になるのは、私だけでしょうか。
「宴の始末」は「宴の支度」から読み始めなければならないのはもちろん、この京極堂シリーズを読まれるときは、「姑獲鳥の夏」から読んだほうが私は良いと思いますよ。

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漂流街

著者馳星周
出版(判型)徳間書店
出版年月1998.9
ISBN(価格)4-19-860898-9(\1700)【amazon】【bk1
評価★★★★

ブラジル移民の日系三世マーリオは、祖父の故郷日本で娼婦の運転手をしながらどん底の生活をしている。借金に加えて、殺人を犯し、金を手にいれるために仲間を騙して、あらゆる人間に追いかけられ、追いつめられるマーリオ。彼は、どん底の暮らしから抜け出すことができるのか。

面白いとは思うんです。ドロドロの人間関係や、にっちもさっちも行かなくなる主人公が追いつめられる様は、まさに鬼気迫るといった感じであっという間に読めました。でも、この作家、そろそろ別の話を書いてもいいんじゃないのかなぁ。ちょっとワンパターンのような気がするんですが。過去に傷を持つ主人公と、自分しか信用しない娼婦の話も面白いのですが、なんかこう全然違う話を書いて、あっと言わせて欲しいと思うのは、贅沢でしょうか。

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つきのふね

著者森絵都
出版(判型)講談社
出版年月1998.7
ISBN(価格)4-06-209209-3(\1400)【amazon】【bk1
評価★★★★

やっと手に入りました。西村さんご推薦の「つきのふね」。この森絵都さんという方、いくつも児童文学賞をもらっている作家さんのようですが、話の作り方がうまいですね。本を読んですぐに泣くタイプのわたしには、こういう本電車で読めません(^^)。
中学2年になって、いままでずーっと親友だった梨利と気まずくなってしまったさくら。将来にもあまり夢を持てず、漠然とした不安を抱いている。心の中では、梨利と仲直りしたいけれど・・・、そんなお話です。

所謂ミステリーのように波瀾万丈なお話ではないのですが、こういうのもたまに読むと、心が洗われる気がします。

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8(エイト)

著者キャサリン・ネヴィル
出版(判型)文春文庫
出版年月1998.9
ISBN(価格)(上)4-16-752753-7(\705)【amazon】【bk1
(下)4-16-752754-5(\705)【amazon】【bk1
評価★★★★★

混乱の中の革命期のフランス。存亡の危機に立たされたモングランの修道院では、一千年以上前から伝わる、権力を欲しいままにできるという伝説のチェスセット「モングラン・サーヴィス」を守るため、修道女たちにバラバラに駒を持たせ、フランス各地へと放った。
それから約200年後のアメリカ。上司との対立からアルジェリアに左遷されることになったコンピュータの専門家キャサリン・ヴェリスは、アメリカでの最後になる大晦日のパーティーで不吉な予言を聞き、モングラン・サーヴィスをめぐる「ゲーム」に巻き込まれることに・・・。

長い話なのですが、危険を冒しながら「モングラン・サーヴィス」の秘密を解き明かそうとする現代のキャサリンと、駒を持って追手から逃げる過去のミレーユの冒険譚は本当に面白かったです。誰が白側で、誰が黒側かわからない恐怖、次々と襲ってくる困難と、見せ場十分。
一方で完全なフィクションながら、革命期のフランスでは、ルソー、ヴォードレール、ナポレオンといった超有名人たちも関わってきたりして、楽しめます。あとチェスに関する記述が面白かったですね。「
病葉流れて」では、麻雀のルールを知らなくて苦労しましたが、チェスのルールは知っててよかった(^^)。この本を読むときは、多分基本的なチェスのルールは知っておいたほうがより楽しめると思います。わたしも何度かやっているうちに「なんて奥の深いゲームなんだろう」と漠然と思いましたが、この本を読んで、自分の感じていた奥の深さなど、まだまだ浅いところだったと思い知らされました。久々の翻訳物★★★★★ですが、おすすめです。

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らんぼう

著者大沢在昌
出版(判型)新潮社
出版年月1998.9
ISBN(価格)4-10-602640-6(\1600)【amazon】【bk1
評価★★★

185cmの巨漢ウラこと大浦と、小柄ながら敏捷なイケこと赤池。しゃべる前に手が出てしまう二人は、警察で「史上最悪のコンビ」と言われている。そんな二人が大活躍する短編集。

設定とかはちょっと古い感じもするのですが、テンポよく楽しめました。やくざには容赦なく、子供や老人には優しいウラとイケのコンビの感じがよかったですね。わたしは中でも、イケが入院してしまう「おっとっと」がお気に入り。これは★★★★かな。こうして連作になっている短編集にしては、流れが平坦なところが残念。もう少しウラとイケの私生活とか(そんなものはなさそうですが)、感動的な話なんかも入れて欲しかったかなと思います。続きに期待。

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闇色のソプラノ

著者北森鴻
出版(判型)立風書房
出版年月1998.9
ISBN(価格)4-651-66077-0(\1900)【amazon】【bk1
評価★★★

卒論の題材を探していた桂城真夜子は、友人の家で見た樹来たか子という詩人の詩に感動して、彼女について調べ始める。大学の図書館で出会った郷土史家や、末期癌患者の手助けもあって、その調査は思わぬ方向に発展する。

最初は面白かったんです。過去の無い町なんていう思わせぶりな趣向で、このままそういう話になるのかと思ったら、ちょっと拍子抜け。もう少し焦点を絞って書いた方が面白い話になったんじゃないかと思います。民俗学的な話はわたしは大好きで、例えば童話や昔話の実際を解き明かすというのは、それが真実かどうかはともかくとして、わたしが納得できると面白いと思うのですが、この話はそこからちょっと逸れてしまって大変残念でした。最近同じような趣向の「かくし念仏」が面白かったので、余計にいまいちだったのかもしれません。

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