1999年10月

デイブレイク(香納諒一) 暗闇の教室(折原一)
煉獄回廊(野崎六助) ボーン・コレクター(ジェフリー・ディーヴァー)
冷静と情熱のあいだ-blu-(辻仁成) 冷静と情熱のあいだ-Rosso-(江國香織)
カムナビ(梅原克文) とらわれびと(浦賀和宏)
フラッシュ・オーバー(樋口京輔) 彼方より(篠田真由美)
漂泊の牙(熊谷達也) 東京独立共和国(水木楊)
てのひらの闇(藤原伊織) 熱き血の誇り(逢坂剛)
青の炎(貴志祐介) 沙羅は和子の名を呼ぶ(加納朋子)
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デイブレイク

著者香納諒一
出版(判型)幻冬舎
出版年月1999.9
ISBN(価格)4-87728-316-1(\1800)【amazon】【bk1
評価★★★★

元空挺団で活躍していた佐木義男は、ある不祥事によって自衛隊を離れた。ぶらぶらしていた佐木は、成り行きで木内美奈子という女性のボディーガードをすることになるが、彼女の握る情報が、実は政界の大物をつぶせるほどのものであることが判明する。

どうもころころと視点が変わるのがどうしてもなじめないというか、それさえなければ、本当に面白いと思える本だっただけに、ものすごく残念。せめて地の文で「俺」を指すのは一人にしてくれ、と思うのは、わたしだけでしょうか。ラストとか、とってもよかったんですけどね。

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暗闇の教室

著者折原一
出版(判型)早川書房
出版年月1999.9
ISBN(価格)4-15-208239-9(\2000)【amazon】【bk1
評価★★★☆

日照りに見舞われた夏。干上がったダムの底から現れた廃校に集った4人の中学生は、百物語をして恐怖のどん底をのぞいてしまった。それから20年。再びダムの底から現れた廃校に集まることになったが・・・。

怖かった・・・。もう一人で遅くの学校にはいけません。わたしの高校には寮がありましたから、夜に学校に行くことがあったのですが、やっぱり夜の学校というのは怖いものです。特にトイレの話はめちゃめちゃ怖かった。この気持ち、ものすごくよくわかります。前作「沈黙の教室」と微妙なつながりもあって、前作を読んでいる人にはちょっと違う楽しみ方もできるかも。もちろん、読んでいなくても全然大丈夫です。最後の終わりはうーん、という感じだったのですが、とりあえず怖がりたい人にはおすすめ(?)・・・するにはちょっと長すぎかな。

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煉獄回廊

著者野崎六助
出版(判型)新潮社
出版年月1999.9
ISBN(価格)4-10-602762-3(\2000)【amazon】【bk1
評価★★★

自分自身をどこかへ失い、現実と仮想の区別のつかなくなっている元過激派のかれ。催眠療法と公安とのやりとりから、過去をほりだそうとするが・・・

この人の文章、個人的には合わないみたいですね。痛いというか汚いというか。だんだん分かってくるというか、どんどんわからなくなってくる過去。自分が一体何人殺してきたのか、それさえも不明になって、現実との区別がつかなくなった男の回想録のようなお話です。
特に学生闘争のところがつらかったかも。私はこの時期の話って全然わからないので、まずそこから勉強しないとだめだな、という気分。もう少し主人公が動いてくれれば面白かったのかもしれませんが、どうも乗り切れないまま終わってしまった感じでした。

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ボーン・コレクター

著者ジェフリー・ディーヴァー
出版(判型)文藝春秋
出版年月1999.9
ISBN(価格)4-16-318660-3(\1857)【amazon】【bk1
評価★★★★☆

捜査中の事故で四肢麻痺となり、失意の日々を送っているライム。そんなある日、ニューヨークを震撼させる事件がおきた。指の肉をそぎ、生き埋めにされた死体が発見されたのだ。死体の連れは未だ行方不明。証拠も何も残っていない事件に、かつての同僚がライムに助言を求めるが・・・

すごい、面白い。ディーヴァー作品の中ではいちおしです。四肢麻痺となり、まさに安楽椅子探偵であるライムと、そのライムの手足となって動くサックス巡査。2人のコンビがいいです。ものすごく小さい証拠から、誘拐された被害者を探して、ニューヨーク中を駆け回るスリル万点の作品になってます。どっちかっていうと、映画向きな本かなーという感じですが、読んで損は無いと思いますよ。

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冷静と情熱のあいだ-blu-

著者辻仁成
出版(判型)角川書店
出版年月1999.9
ISBN(価格)4-04-873188-2(\1400)【amazon】【bk1
評価★★★★

あおいと順正はかつて恋人だった。別れてから8年。それでも順正はあおいを忘れることができない。10年前に、30歳の誕生日にフィレンツェのドゥオモで待ち合わせようという冗談のような約束を信じて、再びフィレンツェに戻る。

うー痛い・・・この話。なるほど、ブルーですね。フィレンツェって写真でしか見たことがないですけれども、古い町並みの上に真っ青な空って感じですよね。あーイタリア行きたいなあ、って素直に思いました。いい話でした。たまにこういう話を読むと、なんかほっとするというか。最近ちょっと本を読むのに疲れていたので、こういう本はいい息抜きになったかも。さてさて、江國版はどうかな。

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冷静と情熱のあいだ-Rosso-

著者江國香織
出版(判型)角川書店
出版年月1999.9
ISBN(価格)4-04-873176-9(\1400)【amazon】【bk1
評価★★★★

あおいにとって阿形順正はすべてだった。今ミラノに暮らすあおいには、アメリカ人の恋人がいるが、心のどこかで順正のことが忘れられない。恋人と喧嘩別れしたとき、30歳の誕生日にフィレンツェのドゥオモで待ち合わせようという、約束を思い出した。

いい話でした。やっぱりこれは2冊とも読まないとだめですね。比べるのが面白い。昔、氷室冴子の本に、「多恵子ガール」と「なぎさボーイ」という本がありましたが、あれは一人の作者が男の子と女の子の視点から書いたものでした。この本はある意味合作。女性側の江國版と、男性側の辻版と微妙な違いがよかったな。私はやっぱりどっちかっていうと江國版の方に共感を覚えましたし、痛かったですけれども。

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カムナビ

著者梅原克文
出版(判型)角川書店
出版年月1999.9
ISBN(価格)(上)4-04-873184-X(\1600)【amazon】【bk1
(下)4-04-873185-8(\1900)【amazon】【bk1
評価★★★★

10年間行方不明だった父の消息と、前代未聞の土偶を見せてやるという竜野の言葉にひかれて茨城の石上遺跡までやってきた葦原志津夫。ところがそこで見たのは、竜野助教授の無残な焼死体だった。死体の様子から、かなりの高温度で焼かれたことは明らかだったが、その方法は一体何なのか、検討がつかない。また前代未聞の土偶のこともわからず、あちこちで聞いて回る志津夫だったが・・・

なんだかすごく無茶な話です。最後の方とか結構面白かったのですが、なにぶん話自体が荒唐無稽で、笑っちゃうSFという感じでした。漫画だったら許せたかもしれないのですが、ハードカバーですからねぇ。最初は古代遺跡と怪しい土偶という組み合わせにかなり期待したのですが、どんどん話が壮大な方向へ向かっていくところが、日記にも書きましたが高橋克彦の「総門谷」を思い出させて、なんとなく二番煎の感じが抜けないところが残念。

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とらわれびと

著者浦賀和宏
出版(判型)講談社ノベルス
出版年月1999.10
ISBN(価格)4-06-182097-4(\940)【amazon】【bk1
評価★★☆

大学構内で連続して男性が殺される事件が起きた。どの死体も腹を切り裂かれ、内臓が引き出された惨殺死体。一人の被害者の姉が犯人を捜し始めるが。

私は前作でこの著者の異様な世界は完結して、新しい話を書いたのかと思っていたのですが、なんとまだこのキャラクターで本を書いているのを読んで、結構驚きです。この人の文章、嫌いじゃないのですが、ちょっとなあ。この話はずれすぎかも・・・(^^;。本当にできるのでしょうか。この話の中で出てくるある事は。なんかちょっと恐ろしい。

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フラッシュ・オーバー

著者樋口京輔
出版(判型)角川書店
出版年月1999.9
ISBN(価格)4-04-873182-3(\2000)【amazon】【bk1
評価★★★★★

東新高速の群馬-新潟県境にある谷川トンネルで、核燃料輸送トラックを先導する県警パトカーが、横転したタンクローリーに衝突、さらに数台の玉突き事故になり炎上した。先導パトカーに乗っていた県警高速隊長の河井が、救助・消火にあたるが、その甲斐空しく、事態は悪化するばかり。現場を逃れ、河井が避難坑へ脱出しようとしたその時、いきなり現れた人間が、機関銃を乱射した。

T.R.Y.」と横溝正史賞を争い、残念ながら佳作に終わった作品ですが、こっちも面白いです。次々襲うパニックは、「ホワイトアウト」に匹敵する面白さでした。しかもやたらとタイムリー。先日東海村で臨界事故があったばかりで、この内容。トンネルの内部の火災で、本当に核燃料保護の容器が耐えられるのかという疑問と、「絶対安全」と言って、万が一の対策を全然していない国。そうですね、内容的には、東野圭吾の「天空の蜂」のような感じでした。最後の終わりをどうするのか、というのは、この手の話では難しい点かと思うのですが、その辺りもものすごく納得できる感じで、私は好きですね。全体的には映像の見えるような本で、楽しませていただきました。何の気なしに買った本だったので、得した気分。

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彼方より

著者篠田真由美
出版(判型)講談社
出版年月1999.10
ISBN(価格)4-06-209904-7(\1600)【amazon】【bk1
評価★★★★

フィレンツェの街で、名前を変えて暮らすマルシリオのところへ、フランス・アンジュー公国から来たという男が訪れた。その男は、マルシリオと幼年時代を共にしたフランチェスコからの遺書を預かっているという。自分の前から不可解に消えていった謎の男の子、フランチェスコが一体何を伝えたかったのか。マルシリオが忘れようとしていた過去が一通の手紙でよみがえる。

篠田真由美というと、桜井京介シリーズから入ってしまったので、なんとなくキャラ萌え系のミステリ作家という気がしていたのですが、最近の桜井シリーズや、この本を読んで、大分イメージが変わりましたね。実はすごく重厚な世界を描く人なんだなあという感じです。今回のこの本は単発で、イタリアに暮らすマルシリオと、幼児期を共にしたフランチェスコの数奇な運命のお話。青ひげとして名を知られるジル・ド・レに囲われていたフランチェスコの手紙は、かなり凄惨。神は存在するのか、という話をこういう観点から見るのも、また一興ですね。面白かったです。

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漂泊の牙

著者熊谷達也
出版(判型)集英社
出版年月1999.10
ISBN(価格)4-08-775253-4(\1700)【amazon】【bk1
評価★★★★

オオカミの研究家として稀有な才能を認められている城島の妻が、なんらかの野生動物に惨殺された。目撃証言などから、もしかすると絶滅したと考えられていたオオカミのものじゃないか、と思った城島は、真相を探るために山の中へと探索を開始する。

意外な面白本発見という感じ。私はこの作家さんを知らなかったのですが、小説すばる新人賞を受賞された方のようです。妻を殺された真相をさぐろうとするオオカミ先生、絶滅したはずのオオカミ発見というスクープをものにしたい女性ディレクター、そして相次ぐ襲撃事件を怪しいと思う刑事。この3人が、それぞれの思惑から、反発しあったり、協調したりしながらオオカミを追うというなかなか面白い作品でした。同じような話・・・と考えてもぱっと思いつかないような本。たまにはこういう雰囲気の違う本を読むのもいいですね。

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東京独立共和国

著者水木楊
出版(判型)文藝春秋
出版年月1999.10
ISBN(価格)4-16-318720-0(\2000)【amazon】【bk1
評価★★★★☆

8月15日、東京は日本国からの独立を宣言した。東京の独立に戸惑う隣接する県。加熱するスパイ合戦。日本国は東京共和国に対抗するため、あらゆる手段を仕掛けてくる。その日、東京と日本の水面下の戦争がはじまった。

東京が独立したら・・・さてどうなることでしょう。この小説では、すでに東京は首都ではなく、首都は中部地方に移転している設定になっています。ちなみにこの本の設定ですと、千葉出身、千葉在住の私は、東京国民にはなれず、東京で働くには、グリーン・カードが必要になるようです。残念です(^^;。でも実際に東京国民になれる人間って500万もいるんでしょうかね。甚だ疑問。とりあえずそんな設定だけでも面白く読める本でした。この本はもちろん小説ですけど、この著者は半分本気で考えているんじゃないかなあと思えるくらいでした。面白い夢を見させてもらったという気分です。おすすめ。

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てのひらの闇

著者藤原伊織
出版(判型)文藝春秋
出版年月1999.10
ISBN(価格)4-16-318760-X(\1667)【amazon】【bk1
評価★★★★

大恵飲料の宣伝部に籍を置く堀江は、あるとき宣伝部長と共に会長室に呼ばれ、あるビデオを見させられた。子供がビルから落ちる瞬間に、偶然居合わせた大学教授が受け止める映像。CMに使えないかという会長の言葉に、疑問を抱いた堀江は、そのビデオの真意を探ろうとする。

藤原伊織の作品の中では一押し。面白かったです。会長に拾われたという因縁と、自分の出自に振り回される主人公。全編風邪をひいていて、熱でへろへろになってる中年のおじさんというところがまた良い(^^)。ラストもよかったですし。脇役(特に六本木のバーの姉弟)もいい味だしてます。なんだか誉め殺し状態ですけど、本当にいい話でした。

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熱き血の誇り

著者逢坂剛
出版(判型)新潮社
出版年月1999.10
ISBN(価格)4-10-364903-8(\1900)【amazon】【bk1
評価★★★★

八甲製薬の役員秘書を勤める寺町麻矢が、1人で受付の留守番をしていたときに、ただならぬ雰囲気の男が現れた。その男は麻矢に勢い込んで「八甲製薬は人殺しの会社だ」と言い出す。退社後、偶然その男に会った麻矢は、詳しい話を聞くことにするが、聞かされた事実に驚き、単独で捜査しようとする。

去年もこの時期そうでしたけど、面白い本沢山あって、危険ですね。電車乗り過ごしそうです。話的には最近よくある医療ミスとか、薬害問題を題材にした社会派っぽい話かと思うのですが、そこは逢坂剛、単なる社会派では終わらせません。ちゃんとハードボイルド(^^)。さてさて、驚愕の事実を知らされた麻矢は、真実を暴くことができるのでしょうか。一見全然別の話に思えるスペインの歌い手のお話、プロローグの伝説も徐々にからんできて、面白いラストになっています。おすすめ。

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青の炎

著者貴志祐介
出版(判型)角川書店
出版年月1999.10
ISBN(価格)4-04-873195-5(\1400)【amazon】【bk1
評価★★★★★

櫛森秀一は、授業を受けながら考え事をしていた。10日ほど前に突然現れて、母と妹と幸せだった家族をめちゃくちゃにしたアイツ。どうにかして、彼を排除できないものか。しかし、自分がつかまってしまっては、母と妹を悲しませる。完全犯罪。彼は計画を練り始めた。

ホラー作家に泣かされるとは、誤算でした。ちなみにこの本はホラーではありません。あえて分類するとすれば、青春小説。ラストすごく哀しかった。いいですよーこれ。17歳の彼が、母と妹を守るために計画する完全犯罪。家族のためにこれほど一生懸命になれる秀一は本当は優しい子なんだと思うのですが、そこで家族を守る方法として取ったのが、なんと殺人。そのあたりが高校生というか、今の子というか・・・。すっかり彼に感情移入してしまったわたしは、ラストに思わず涙してしまいました。久々に一気読みしてしまった本です。おすすめ。

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沙羅は和子の名を呼ぶ

著者加納朋子
出版(判型)集英社
出版年月1999.10
ISBN(価格)4-08-774430-2(\1700)【amazon】【bk1
評価★★★★

「いなくなってしまった人」をテーマにした短編集。多分そうなんだと思います。前半5編がわたしは好きですね。特に「海を見に行く日」。よく北村薫と比べられる彼女ですが、ちょっと作風変わったというか、毒のある作品を書くようになりましたね。私はこっちのほうが好きだな。この「いなくなってしまった人」というテーマは、自分的にはかなり痛いので、そのせいもあるのかもしれません。

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