阿川弘之作品のページ No.2



11.大人の見識

12.言葉と礼節

13.天皇さんの涙

14.文士の好物


【作家歴】、米内光政、井上成美、志賀直哉、雪の進軍、七十の手習ひ、蛙の子は蛙の子、葭の髄から、酔生夢死か起死回生か。、春風落月、人やさき犬やさき

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11.

●「大人の見識 ★★


大人の見識画像

2007年11月
新潮新書刊

(680円+税)

  

2008/02/28

 

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ベストセラーになった(私は未読)藤原正彦「国家の品格」に続けとばかり、と言って良いでしょうか、題名も似通った「大人の見識」。
米内光政」「井上成美という海軍三部作を愛読した立場から言うと、内容自体は読む前から大体予想尽きました。
たまたま本書を借りられる機会があったので、読んだ次第。

内容としては、上記2作等のエッセンスをまとめたもの、と言って良いでしょう。
イギリス人のユーモア感覚、ノブレス・オブリージュの精神、そして戦前の良き時代の帝国海軍にはのびのびしたリベラルな空気があったこと、等々。
ただし、阿川さんの考え方をただ単に書き連ねた、というものでなく、模範とすべき先人たちの実際の行動振り、身の処し方を具体的に紹介するというスタンスで書かれていますので、判りやすく、また納得もいきます。

なお、本書の中で始めて知り、感銘を受けたのは 131頁。
さる座談会の折に京大の中西教授から教わった、ギリシャの歴史家ポリュビオスの言葉だそうです。
「物事が宙ぶらりんの状態で延々と続くのが人の魂をいちばん参らせる。その状態がどっちかへ決した時、人は大変な気持ちよさを味わうのだが、もしそれが国の指導者に伝染すると、その国は滅亡の危機に瀕する」ということ。
そしてさらに中西教授曰く、
「英国のエリートは、物事がどちらにも決まらない気持ち悪さに延々と耐えねばならないという教育をされている。世界史に大をなす国の必要条件ということです」と。
愚かな戦争に踏み切った先の大戦のことを思うと、肝に銘ずべき言葉だと思います。
この言葉を知っただけでも、本書を読んだ甲斐がありました。

日本人の見識/英国人の見識/東洋の叡智、西洋の叡智/海軍の伝統/天皇の見識/ノブレス・オブリージュ/三つのインターナショナリズム/孔子の見識

    

12.

●「言葉と礼節−阿川弘之座談集− ★★


言葉と礼節画像

2008年08月
文芸春秋刊

(1429円+税)

2012年03月
文春文庫化

 

2008/09/04

 

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阿川弘之氏が繰り広げる、佐和子さんを含む8人との7つの座談を集めた一冊。
話の中身は古い、と言えるかもしれませんが、年配者の融通無碍な話を聞くという面白さがあります。
また、座談・対談というものは、良い相手さえ得られれば元々楽しいものです。対談相手の点でも本書は何の不足も無し。
なお、対談相手の中で紅一点は佐和子さんですが、村上龍さんの方から阿川父娘との対談を希望したらしい。

三浦朱門さんとは食道楽について。お2人の元・健啖家ぶり、なかなかのものです。
藤原正彦さんとは英国ジェントルマンと日本の武士道は通じるものがある、というところから。大きな差はユーモアに対する評価とのこと。
最近とかく使われる言葉のひとつ「生きざま」、阿川さんは前から大嫌いだと言っていますが、村上龍さんも同感とのこと。世代を超えて阿川さんと村上さんの意見が合うのは、やはり作家だからでしょうか。佐和子さんは司会兼"合いの手"入れ役。

志賀直哉を初めとし、錚々たる作家たちのエピソードを語り合った、雑誌「群像」の編集者を20年勤めたという大久保房男さんとの「文士の魂」は、本書中の白眉。
「白樺派」「純文学」という言葉を随分久しぶりに聞いた気がします。無駄な表現を排除して文書を練り上げ、身を削るようにしてこれ以上は書けないというくらいにして生み出すのが純文学、その点が大衆文学との違いとか。成る程なぁ。

半藤一利さんとの座談はどうしても太平洋戦争が中心、原武史さんとは宮脇俊三さんを偲びながら汽車・鉄道の話。
養老孟司さんを交えた半藤さんとの3人による座談は、これまでの座談を集約したかの観があります。

座談・対談好きな方にはお薦めの一冊。
なお、亭主関白の阿川さんと対照的な三浦夫妻(夫人は作家の曽野綾子氏)の様子、藤原正彦夫人の逆襲ぶりを語る部分は、かなり笑えます。

不思議に命永らえて(+三浦朱門)/「たかが経済」といえる文化立国を(+藤原正彦)/好きな日本語、嫌いな日本語(+村上龍+阿川佐和子)/文士の魂(+大久保房男)/昭和史の明と暗(+半藤一利)/鉄道は国家なり(+原武史)/日本の将来を想う(+半藤一利+養老孟司)

       

13.

●「天皇さんの涙−葭の髄から・完− ★★


天皇さんの涙画像

2011年01月
文芸春秋刊

(1429円+税)

  

2011/02/01

  

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副題は「葭の髄から・完」、その「完」という言葉に惹かれて手に取ったエッセイ集です。
司馬遼太郎さんの死後を継いで13年の長きに亘り「文藝春秋」の巻頭を飾ってきたエッセイ
葭の髄から、ついに完結だそうです。その最後の単行本化。
このエッセイ集、
「エレガントな象−続々葭の髄から−」は未読なものの、私自身結構読んできたもので、本書が3冊目。

久々に阿川さんのエッセイを読んだという思いなのですが、読み始めて第一に感じたことは、書かれている内容が古いことばかりだなぁ、ということ。
それでも、文章自体はしっかりしていて、風格を感じさせるのですから、流石と思わずにはいられません。

嬉しく読んだのは「歳月九十九」。広島に住む嫂のことを語った篇です。阿川さんというより、佐和子さんのエッセイでおなじみの、広島の伯母ちゃん。年は重ねられたものの、相変わらずお元気そうで、久しぶりに近況を聞けて嬉しかった。
また、何度も書かれてきたことではありますが、太平洋戦争にかかる誤った日本の判断については、何度聞いても、いつまでも引き続き語り続けられねばならないこと、と感じます。
本書中では、とくに
「水交座談会」5篇の内容に中々生々しいところがあって、強く惹きつけられます。

読み進む内、次第に阿川さんの文章に滋味を感じ、楽しく味わって読むようになりました。
しっかりとした文体、風格ある文章を読むことは、それだけでもやはり楽しいことです。

   

14.
「文士の好物 座談集 ★★☆


文士の好物

2015年08月
新潮社刊
(1800円+税)

 


2015/09/18

 


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楽しいなぁ。
何と言っても顔ぶれがいい! みな第一級の人物ばかりですから。それ故にまた、内容の質も極めて高い!
新たに収録された座談ではなく、あちこちに収録されている座談の中から阿川さんが関わっているものを抜き出してまとめた一冊ですが、内容が良ければ全く気になりません。
話題もバラエティに富んでいますし、そんな数々の座談をこの一冊でまとめて読めるのですから、むしろ嬉しいという気持ちです。

・鉄道&旅話題は、
沢木耕太郎さんと日本鉄道旅行地図帳編集部との座談にて。貧乏旅行を語る沢木さんに、聞かれて答える阿川さんは豪華船クルーズ旅についてあれこれ(貧乏だけど贅沢1982)。
さらに地図帳編集部となると、戦前の満州・朝鮮半島まで含めた鉄道史的な話となり、ワクワクする程楽しい。
・一転して
斎藤孝氏とは国語教育問題等々。お二人の言わんとするところには賛成だなぁ。小中学生ではいろいろな小説を読ませて、想像すること、思うこと、をさせた方が良いと思いますよ。
・食い物話題は、
開高健さんと向田邦子さん。特に開高健さんとはお互いに張り合っているかのようなやりとりが、すこぶる楽しい。

高松宮久子妃とは「高松宮日記」刊行をめぐっての裏話、その周辺ごとあれこれ。井上ひさし&小森陽一氏との“志賀直哉”をめぐっての座談と合わせ、内容が深くて濃く、感銘と興味は尽きません。

・最後の佐和子さんとの座談は
阿川佐和子のこの人に会いたい8に収録された篇。
食事の最後に美味しい緑茶で席を終える様な、すっきりとした後味の良さが残ります。

ファンだからこその嬉しく、楽しい一冊。


贅沢な旅−沢木耕太郎と/鉄道閑話−「日本鉄道旅行地図帳」編集部と/"やさしい"国語教科書が日本語を滅ぼす−斎藤孝と/ああ好食大論争−開高健と/ひじきの二度めし−向田邦子と/「高松宮日記」あの日あの時−高松宮久子妃と/志賀直哉−井上ひさし・小森陽一と/擱筆の弁−阿川佐和子と

 

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