志賀直哉作品のページ


1883〜1971 白樺派の中心的存在だった作家。宮城県に生まれ・東京育ち。学習院在学中に内村鑑三の影響を受ける。東京大学中退の後、武者小路実篤らと雑誌「白樺」を創刊。短編の名手として高い評価を受け、小説の神様と崇められる。

  


 

●「暗夜行路」● ★★★

  

1937発表

 
1969

新潮社刊
日本文学全集
第8巻
「志賀直哉集」

 

1979/04/11

中学生の時に読んで以来久々に再読してみて、その力強さ、簡潔さに驚嘆した。
まず、文章の短さ、明瞭さである。全ての文章が短く、細かい描写などはなく、野性的で明快な文章である。日本文学の文章は、どちらかというと暗く、繊細な傾向があるが、何と言う違いだろう。
「暗夜行路」という題名、母と祖父との間に生まれた子、妻の不義というストーリィからすると陰鬱なイメージがあるが、むしろ逆に明るい感じを受けるのである。
それは単に、主人公・時任謙作の反応にもある。彼は自分の出生に不幸を感じながらも、むしろ自分という人間の独立を宣言し、友人から寄せられる友情を信じ、自分の身の幸福を信じることのできる強さを有している。
また、妻の不義に対して、心に引っ掛かりを感じながらも、安部公房「他人の顔」におけるようなサディスティックな心境には決してならないし、停車場で妻の直子をつい突き飛ばしてしまうのも、むしろ男性的な横暴さの表れとして、むしろ同感したいような気がする。
明治・大正にわたる日本文学の主人公は、いわゆる知識人であって、西洋文化との対立において苦悩する人物というパターンが多かった。それに対して謙作は、作家という知識人ではあっても西洋文化との対立などはなく、むしろ逆に封建的、本来の日本人らしい人物である。
そうした状況の中で、こうした力強い作品を生み出したことは驚嘆に値するし、日本文学における最高傑作のひとつと評しても決して間違いではあるまい。
私自身としては、そうした価値以上に、力強く、明快な日本小説に触れて、とても嬉しく思うのである。

    


  

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