K215. 水と時代、私の研究と方法ー地球温暖化観測所の 設立に向けて


著者:近藤純正
水は私たちに恵み(気候、食糧)を与え、逆に災害をもたらす。最初に、私の研究観 を述べてから、過去700年間の干ばつ・水害克服の歴史を振り返る。戦後復興に伴う 電力不足の時代に行った貯水池・十和田湖の蒸発の研究、数値予報精度向上の目的で 行われた国際協力研究「気団変質実験」、森林蒸発散、砂漠気候、河川水温などの 熱・水収支研究、および地球温暖化量の正しい評価に関して、私の研究に対する 取り組み方を話したい。 (完成:2021年1月25日)

これは2021年3月9日15:00-16:30 開催の水文・水資源学会のオンラインセミナーの内容 である(講演60分、質疑応答30分間)

読者へ:セミナーの本内容を予習された方は、2月25日 (木)ころまでに著者(kondo(a)earth.email.ne.jp)(*(a)は@に変えて送信して ください)まで質問などお寄せいただければ、 図など準備してセミナー当日に回答します。回答の詳細は次章の 「K216.水と時代、私の研究と方法(Q & A)」に掲載する。

備考:本文中の図番号
スライド①、②、・・・はセミナーで用いるパワーポイントの番号(スライド全36)
「K・・」は近藤純正ホームページの「研究の指針」の番号
「M・・」は同上、「身近な気象」の番号
例えば(スライド③)「M3」図3.11・・・セミナー時の③番目のスライド、ホーム ページの「身近な気象」の「3.気候変動と人々の暮らしー歴史に学ぶ」の図3.11の ことである。


本ホームページに掲載の内容は著作物である。 内容(新しい結果や方法、アイデアなど)の参考・利用 に際しては”近藤純正ホームページ”からの引用であることを明記のこと。

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更新の記録
2021年1月17日:素案の作成
2021年1月19日:各所に微細な修正・加筆
2021年1月25日:細部に微細修正
2021年2月16日:備考(バルク法と熱収支法の説明)を加筆

    目次
        215.1 私の研究観  
        215.2  はじめに
      日本の途上国から先進国への道程ー災害克服の歴史
      私の少年時代
      私の大学~院生時代
      極小低温層の研究
        215.3  十和田湖物語ー戦後復興と電力不足
        215.4 海面バルク法物語ー数値予報精度向上の「気団変質実験」
      海面バルク法の精度向上
      KEYPSの式の確認研究
      カルマン定数
        215.5 熱・水収支の研究
      森林蒸発散と砂漠気候
      河川水温の研究
        215.6 地球温暖化量の正しい評価(定年後の仕事)
      日だまり効果
      地中温度から地球温暖化量を知る
      「地球温暖化観測所」設立の提案

    付録(1)樹木の風下における気温上昇の実測
    付録(2)「地球温暖化観測所」設置の要請書(中央電気倶楽部)

    文献     



215.1 私の研究観

科学とは「観測→解析→理論の構築→観測による検証」のサイクルによって発展して いく。

観測を行う場合、計画をたて測器の準備を行う。観測から得られる結果と誤差 を予測しておくことが計画である。

実際に観測してみると、予想された結果のほか、予期せぬ結果が得られるものだ。 予期せぬ結果が得られたとき自然の仕組みに感動する。先入観にとらわれてはなら ない、外れた観測データは捨てずに検討すれば新しい発見となる。「観測誤差か?」 「新発見か?」を区別するとき、計画段階で誤差を予測しておくことが重要となる。

若いときは、演習問題も行い物理学の基礎を理解すること、基本原理を徹底的に 研究することが重要である。基本ができていれば専門外の応用研究もできる。

流行の研究に惑わされてはならない。大勢がプロジェクト研究に参加するとき、準備が できていなければ成果は期待できないので参加せずに、重要と考える基礎的な課題に 勇気を持って取り組む。そんなとき孤独に感じることがあるが耐えなければならない。 これは後述の砂漠気候の研究プロジェクトで経験したことである。

人の生きる時間は限られている。論文など多読するのがよいのではなく、重要な論文 を熟読して身につける。考えるのに多くの時間を費やすことである。


215.2 はじめに

日本の途上国から先進国への道程
今から約190年前に仙台藩(宮城県)で、人口の約1/4 が餓死する天保の大飢饉が あった。当時書かれた古文書から人々の悲惨な姿を知り、過去の気象災害を調べる ことになった。

(スライド③)「M3」図3.11は、東北地方の1300年以後におこったコメの凶作の 気象原因比率の変遷である。江戸時代前(1300~1599年)の戦国時代は凶作の大部分は 干ばつによるもので、現代の発展途上国の姿に似ている。1600年以降の平和な幕藩 体制下の江戸時代に入ると、各藩は自国の安定と発展のために河川の改修、灌漑、 森林保護策によって、干ばつと洪水は時代とともに克服されてきた。

凶作原因の変遷
(スライド③)「M3」図3.11 1300年以後におこった凶作の気象原因比率の変遷 (Kondo,1988; 近藤、2000、図9.7;「3.気候変動 と暮らしー歴史に学ぶ」の図3.11 )


この図では冷害が時代とともに増えているのではなく、原因比率を示しており、 冷害だけが現代も残っていることである。ほぼ40~50年ごとに冷害頻発時代ー 元禄、宝暦、天明、天保、明治初期、明治末期、昭和初期、最近(1980~1993年)ー が繰り返されてきた(近藤、2000「地表面に近い大気の科学」の表9.1)。

いま、地球温暖化による気候変化が世界中で問題となり、私たち研究者は 何をすべきかが問われている。私が引退後に行った仕事から得たことは、地球温暖化 量を正しく評価し、気候変動対策に役立てることだと考えている。 このことは本セミナーの最後の節で取り上げる。


私の少年時代
1933(昭和8)年生まれ
1941(昭和16)年:太平洋戦争開戦、冷夏凶作
1945(昭和21)年:終戦、冷夏凶作
戦争による日本人の死者 300万人

私は大自然に遊んで成長した。木登りをし、川では魚を捕り、罠をつくって小鳥を 捕まえて食べた。戦中戦後の食糧不足でコメのご飯もたまにしか食べられない飢餓の 時代、 思想・言論の自由が許されなかった軍国主義の時代、アメリカのB29爆撃機 からいつ爆弾が落ちてくるのか、高度30mほどの低空に突如現れる空軍機からいつ 機銃掃射されるか分からない時代を生き抜いてきた。

小学生たちは、徴兵されて働き手のなくなった農家へ集団で農作業の手伝いに行き、 あるいは防空壕建造の作業を行った。中学生は学徒動員された。

そして終戦という大革命、大地主の田畑は耕作している小作人の所有となる。 貧しくとも自由で夢の持てる時代へと変わった。戦後の自由な研究が学問の発展へと つながった。

現在2021年、新型コロナウイルス(COVID-19)が世界中に蔓延・拡大している。 青少年たちよ、この不自由さに耐え、たくましく生き抜こう。その経験が役立つとき がくるはずだ。

私の大学~院生時代
私は高校生時代に東北大学教授・山本 義一(1909~1980)の「気象学概論」を読み、 東北大学へ進学することになる。山本義一は、今日の地球温暖化問題に関わる 二酸化炭素を含む温室効果ガスの放射伝達の数値解法を確立した世界的権威者である。 山本義一のもとで、私は放射学を、その後は放射学を含めた大気境界層物理学を研究 することになる。

極小低温層の研究
1956年のイギリスの気象学会誌に「夜間の裸地面上の気温は地表面が最も低温では なくて高度0.1m付近に地表面より2~3℃低温となる極小低温層があり、これは熱伝導 や乱流熱交換では説明できない、大気放射の特殊な作用によるものか?」という疑問 を投げかけたような論文が発表された(Lake, 1956)。

(スライド⑥)「M20」図20.5は裸地面上の極小低温層を示している。

レイクによる極小低温層の観測
(スライド⑥)「M20」図20.5 裸地面上の極小低温層の観測(Lake, 1956) (近藤、1997、「一仕事二十年」の図5.1より転載)


山本教授は大学院1年生であった私に「この問題を解決してみなさい!」 と課題を 与えた。私は、ガルバノメータと極細の熱電対を持って各地の運動場などへ出かけて、 気温鉛直分布を観測し、同時に放射伝達を取り入れた数値計算を続けた。放射伝達は 解析的には解けないという難しさがある。しかし放射伝達には遠隔作用のほかに熱伝導 と似た近接作用の性質もあり、極小低温層はできるはずがなかった。計算を続けて 数か月後のこと、地表面が黒体でなければ極小低温層ができることに気づき、 観測も計算も解決したかにみえた。しかし地表面が黒体でない場合は、地表面の 境界条件として波長別に計算すべきであることに気づき、計算をやりなおすと、 極小低温層は地面から数mの高度、気温差は観測値より1桁小さい極小低温層しか できないことがわかった。イギリスの 学会誌に掲載されたような極小低温層は 草地などからの冷気の移流で生じる、ごくありふれた現象であることがわかった。

(スライド⑧)「M20」図20.19は北海道寿都で見た、夜間の盆地にできた放射霧 が暖かい海面上に流れ出ている極小低温層の写真である。

放射霧
(スライド⑧)「M20」図20.19 北海道寿都から北東方向に見えた放射霧、2006年9月 13日6時30分撮影(「K25.北海道寿都の気温ジャンプ問題」 の写真5に同じ)。


215.3 十和田湖物語

詳細は「身近な気象」の 「5.十和田湖物語(水面蒸発の研究」に掲載。

終戦の1945年から1950年代は戦後復興の時代で電力が不足し各地でダムの建設、 人工降雨の実験が開始された。日本の主要大学では雲と降水の気象学が行われ発展した 時代である。一方、貯水池・十和田湖の蒸発による水損失を評価して 欲しいと東北電力から依頼されて、私が「十和田湖の蒸発の研究」を行うことになる。 私は山本教授から次々と難題を与えられたが、難題とは気づいていなかった。

(スライド⑨の右)「M5」図5.1は十和田湖の地図である。当初は、発電用取水口の ある青ぶなの水面上に出た鉄塔で観測を開始、次いで平らな浅瀬「大畳岩」に立てた 観測塔で、最終的には湖の中央にある小岩礁「御門石」に建てた観測塔で長期観測 を行った。現在では、小型軽量のデータ収録装置(データロガー)が市販されているが、 当時は乾電池で動くデータ収録装置は無かった。それゆえ、記録装置は手製して御門石 における長期記録に利用した。

十和田湖の地図
(スライド⑨の右)「M5」図5.1 十和田湖の地図( 「5.十和田湖物語(水面蒸発の研究」の図5.1)。


深い十和田湖の冬は水温が気温より高く、湯気が立つのが見えるほどで蒸発量が多い ように直感したが、当時利用されていた方法、いわゆる風速鉛直分布を高さの対数目盛 りにプロットしたとき直線になる「対数則」を仮定したThornthwaite-Holzman(1939) の式 では僅かしか蒸発しない。この事から大気安定度を考慮すべきとなり、 KEYPSの式が生まれ(Yは山本義一)、応用するには確認の必要があった。 この時代、世界中で同じ問題が起きていた。

(スライド⑨の左)「M5」図5.5は気温の鉛直分布の例である。大気が不安定のとき (水温が気温より高く、上下の対流・混合が盛んなとき)の気温の鉛直分布を示して いる。「対数則」を仮定したソーンスウエイト・ホルツマンの式は2高度(赤丸印) で気象観測をするのであるから、赤線で示す気温の傾きを仮定していることに なる。

気温鉛直分布
(スライド⑨の左)「M5」図5.5 気温の鉛直分布の例(大気の安定度が不安定のとき)。 縦軸は対数目盛で示してある(
「5.十和田湖物語(水面蒸発の研究)」の図5.5)。


実際の気温鉛直分布を青線で示すとすれば、最下層での気温の傾きは赤線のそれよりも 大きいことがわかる。これは気温についてであるが、風速や湿度の鉛直分布の傾きに ついても同様に、勾配が小さな値を仮定したことになり、その結果としての湖面蒸発量 は小さく計算されたのである。そのため、大気安定度を考慮した方法を開発して、 十和田湖の蒸発量を評価した。

しかし、湖面蒸発量を正しく評価したいとき、風速が場所によって違うことが湖面全域の 蒸発量の評価誤差となる。すなわち、乱流輸送に基づく方法(バルク法)では顕熱・ 潜熱輸送量は風速依存性が強い。 実際に湖面全域にわたって風速の水平分布を測ってみると、十和田湖の場合、 湖岸と中央の御門石で2倍の違いがある。そこで考えた方法が「熱収支法」である。 「熱収支法」では顕熱・潜熱輸送量は風速依存性が弱い。つまり、「熱収支法」だと、 風速などの観測精度は少々低くてもよく、気象データは周辺の気象観測所の観測値 からの推定値が利用できる。

(スライド⑩)「M5」図5.15は日本各地の湖における年平均気温と年蒸発量の 関係(左図)、および年平均気温と年間ボーエン比の関係(右図)である。 ここに、ボーエン比=(顕熱輸送量/潜熱輸送量)である。

気温とボーエン比
(スライド⑩)「M5」図5.15 日本各地の湖における年平均気温と年蒸発量の関係(左図)、 および年平均気温と年間ボーエン比の関係(右図)(近藤、2000、図5.5)

年蒸発量は、年平均気温が高い南日本で700~1,000mm、年平均気温が低い北海道 で500mm前後である。

多くの人々は、「南日本で蒸発量が多いのは日射量が多いからだ!」と理由を述べる。 だが、正しくはそうではないのだ! 実際に年平均日射量を調べてみると、南日本 と北日本では、年平均日射量の比は150/130=1.15程度である。また、目に見えない 赤外放射量の正味吸収量(正味赤外放射量)の違いはほとんど見られない。

こどもに、「夏は汗が出るのはなぜか?」と尋ねると、「暑いからだ」と答える。 熱収支的に、これが正解だ!

備考:バルク法と熱収支法
バルク法:1 高度の風速・気温・湿度と地表面温度の観測値から、
大気安定度と顕熱・潜熱輸送量と摩擦力
を求める方法(風速依存性が大)

熱収支法:入力放射量と 1 高度の風速・気温 T・湿度の観測値から、
有効入力放射量(=入力放射量-σT4、σ:ステファン-ボルツマン定数) を知り
地表面温度と顕熱・潜熱輸送量
を求める方法(風速依存性が小)


215.4 海面バルク法物語

詳細は「身近な気象」の
「M16.海面バルク法物語」に掲載。

1960年代の社会的背景
1959年9月の伊勢湾台風で死者・不明5千名余を出した大災害により防災意識が高 まった時代である。同年、気象庁にIBM計算機が導入され、数値予報の試験が開始 された。1960年には池田勇人内閣となり「所得倍増計画」が発表され、1964年 には東京オリンピックが開催された。

当時は数値天気予報の試験が開始された時代で予報精度は高くはなかった。 冬の東シナ海で発生した低気圧が急速に発達し、首都圏に大雪を降らせ交通麻痺 を起こし、さらに東方海上で漁船の遭難や大型船の大破事件があった。

数値予報精度向上の機運が世界中で起こった。1974年と1975年の2月に東シナ海に おいて国際協力研究AMTEX「気団変質実験」が計画され、その準備研究がはじまった。 十和田湖の蒸発の研究で開発した水面・大気間の顕熱・潜熱交換量、摩擦応力を求める 「バルク法」の精度を上げる必要があった。なぜなら、東シナ海では、湖と違って 海洋運搬熱が非常に大きいと予想され、湖で適応できた熱収支法は利用できないから である。

1960年代は世界的に、海洋開発ブームの時代であった。欧米諸国では大型の海洋 観測施設が造られていた。アメリカの浮遊式海洋観測施設は有名になっていた。 日本でも伊豆の伊東沖、伊勢湾、紀伊半島の白浜などに海洋観測塔が建造された。 相模湾平塚沖の海洋観測塔は世界有数のもので、観測研究に最適の施設であった。 当時の日本は貧しかったが、戦争で命を無駄にした経験から人命を大事にし防災 に力を入れるべきとの機運から、国会で素早く予算も通り、観測塔が建造された。

海面バルク法の精度向上の研究
平塚沖1kmに海洋観測塔が1965年9月に建造された。この観測塔で基礎観測を行い 海面摩擦力・熱・水蒸気交換量を正しく評価できる「バルク法」を確立すべきと考え、 山本義一教授の反対を押し切って1967年10月34歳のとき転勤してきた。私は新卒の 若い優秀な部下たちと多くの論文を書くことができた。

(スライド⑫)「K16」図16.2は相模湾の平塚沖の海洋観測塔の写真である。

平塚沖観測塔
(スライド⑫)「M16」図16.2 相模湾の平塚沖1kmに1965年9月に建造された海洋観測塔、高さは 水面上25m、水深は20m。ここから陸上施設まで海底ケーブルが埋設されている。 建造費は1億1千万円である(「5.十和田湖物語」 の図5.17に同じ


当時、海洋観測塔での観測に際して難しい問題があった。大気安定度が中立に近い とき陸面上の風速鉛直分布はいわゆる「対数則」に従うが、海面上では波のすぐ 上の数m以下では対数則に従わず折れ曲がる「キンク」(遷移層)がある、 という論文が 1960年代に世界中で次々に発表されていた。キンクの存在の有無で 「バルク法」が根本的に変わってくる。そのため、キンクの有無について確認する 研究を行い、キンクは存在しないことを明らかにした。

「キンク」(遷移層)の存在を否定する研究
最初に、「キンク」は風速計の動特性から生じる誤差ではないかと疑い、理論的に 誤差であることを示した(Kondo et al. 1971)。さらに観測によって確かめる 必要があり、独特な観測方法でキンクの存在を否定することができた。
特殊な方法とは、軽量で追従性のよい3個の風速計を一体支柱に下端から0.0m、0.6m、 1.8mの位置に固定する。他の1個は高度6mに設置しておく。一体支柱を上下に動か せば、例えば海面上の0.3m、0.9m、2.1m、6mの風速を測れる。続いて、一体支柱を 上げて、4.0m、4.6m、5.8m、6mの風速を測れば、この高度範囲では風速鉛直勾配 が小さいので風速計相互の器差が狂っていないかチェックできる。この方法を繰り 返せば海面上の風速の鉛直分布を正確に測ることができる。

こうした一連の観測で予期せぬ大きな副産物も得られた。風向と波の方向が 一致するときと反対のときで、海面波に誘起された風速変動の位相差が180度変わる ことがわかった(Kondo et al.1972)。

それは、海面上の風速鉛直分布を測るために、風速計が波で壊れてもよい覚悟で 取り付けてあった。台風による「うねり」が強くなり風速計が壊れていないか、 夜になって心配になり陸上で記録していた風速計の電磁カウンターを見に行くと、 カウンターのカチカチ音が「うねり」の周期と同じ約12秒の周期で変動するのが聞 こえたのである。 そうして、いろいろな条件について海面波と風速変動の関係を 明らかにすることができたのである。



(スライド⑬)「M16」図16.4 はキンクを否定する風速鉛直分布の観測例である。 これらの観測から海面上の風速分布には折れ曲がる「キンク」は存在しないことが わかった。

キンク否定観測
(スライド⑬)「M16」図16.4 風速計を上下させながら連続して観測した海面上の 風速鉛直分布。横軸は高度6mの風速で規格化した値で、分布ごとに横軸を0.1ずつ 右方へずらしてある。(Kondo et al.1972; 「M16.海面バルク法物語」の図16.4)


準備研究と追試研究
(1)準備研究
(1-1) 当時の風杯式風速計は風杯の大きさに比べて回転半径が大きい 小型の3杯式風速計が使われていた。この風速計の動特性(レスポンス)から乱流内で は平均風速が強めに観測される。1960年以前に気象庁で使われていた4杯式ロビンソン 風速計も乱流状態にある大気境界層内の風速は10~20%ほど強く観測される。 私はレスポンスのよい風速計が必要と考え、独自に開発した光の透過・遮蔽で回転数 を測る軽量の3杯式微風速計を1960年から使っていた。

(1-2) 観測塔に風速計をとりつけたいのだが、塔自体が自然風を乱すので、 測器を塔からどれだけ離せばよいかの検討を行った。観測塔の周りでの観測と模型に よる観測をおこなった。非粘性流体を仮定したときのポテンシャル流が塔の前方 から直角横方向の範囲までよい近似で表わされることもわかった (Kondo and Naito, 1972)。これらを参考にして測器取り付け位置を決めることが できた。

(2)追試研究
(2-1)大気安定度を考慮したバルク法ができた(Kondo, 1975)。 それを用いて東シナ海の大気・海面間の顕熱・潜熱交換量を評価した。 冬の東シナ海では莫大なエネルギーが黒潮から大気へ供給されて、気団変質が 行われている。世界でもっとも激しいエネルギー交換の場所であることがわかった。 AMTEX観測では、東シナ海の大気柱の熱・水収支量をラジオゾンデのデータから 計算する「大気水収支法」による計算も行われた(Nitta, 1976)。両者はよく 一致した(Kondo, 1976)。それゆえ、バルク法は完成したことになる。

(2-2)バルク法が精度よく海面熱収支量を評価できることについて、世界中で 行われた超音波風速計による海面熱・水収支量の渦相関法の観測から得られたバルク 係数と比較し、両者は矛盾なく一致していることを確認した(Kondo, 1977)。

(2-3)特に、大気安定度が不安定な微風時について渦相関法によって求められた Bradley et al(1991)の交換速度(=バルク係数×風速)とも比較し、両者は よく合っていることを確認した(Kondo and Ishida,1997)。

(2-4)海面が強風になるにしたがって、なぜ「空気力学的に粗な面」になるかを明ら かにしなければならない。微風のときは空気力学的に「滑らかな面」であるが、 「粗な面」になるのは、うねりや有義波高のような長周期波がつくる凹凸ではなく、 風波が砕ける高周波の砕波(波しぶきのもと)によることを示すために、3~40ヘルツ の範囲の高周波成分が測れるエナメル被覆の細い銅線で作った電気容量式波高計を つくり、高周波成分の大きさが風速と密接に関係している、つまり「空気力学的粗度」 と「高周波成分の幾何学的粗度」が密接に関係していることを示した (Kondo et al. 1973)。

われわれは強風時の海面を遠方から眺めて白波一面と感じるのだが、塔の上から見ると (写真撮影すると)その面積割合は意外に少ない。白波として認識される幾何学的 粗度は高周波成分の一部分であることがわかった。



さらに、大気安定度が中立でない場合の問題としてKEYPS式が接地境界層内で成立 するか否かを確認する必要があった。

観測からKEYPSの式は非常に安定なときには成立せず、間欠乱流の静流となり 気温分布には放射の影響が大きく効いていることを観測と計算から 確かめた (Kondo et al. 1978)。微風晴天夜の平坦地なら、 最下層は乱流だが高度数m より上層で間欠乱流と静流となるのは、よく見られる現象である。

(スライド⑭)「M16」図16.14は静流と間欠乱流を示す模式図(上)と風速鉛直成分 と気温変動の記録(下)である。

静流の構造
(スライド⑭)「M16」図16.14 非常に安定なときの接地境界層における流れの構造。 (上)模式図、(下)風速の鉛直成分と気温変動の記録(Kondo et al. 1978; 大気境界層の科学、図5.11);「M11. 入門2: 境界層の日変化」の図11.18に同じ)。

間欠乱流を確認する行動
観測時の夜半に乱流変動のモニター(ペン書き記録計)を見ていると、風速と 気温変動がピタリと止まることがある。記録計の変動幅フルスケールを越えた温度 なのか、実際に乱流が無くなったのか不明である。これまでは、高度数mで乱流変動 がなくなるということを論文で見たことはなかった。

念のために、うちわを持って観測塔に登り、超音波風速計の下から扇ぐと風速鉛直 成分のモニター記録計のペン先は上向き振れる。息を吹きかけると、気温変動成分の モニター記録計のペン先は高温側に振れた。

こうした結果、「本当に乱流が止まり”静流”状態になったのだ!」とモニターの 記録が真の変動を示していることを確認した。

すなわち、静流が続き、間欠的に乱流が起きていることを発見した。地表面に 近い層ではいつでも乱流であるが、非常に安定になると高度数mから上では乱流は なくなることがわかったのである。安定度を表すリチャードソン数(Ri)は、 安定時には、高度とともに大きくなり、0.2<Ri<2で間欠乱流が生じ、 2<Ri で静流となる。

図に示した模式図から理解されるように、静流状態が近づくと、乱流層と静流層の 境界面は波を打つかのように流れている。下層の低温気塊は波によって砕けて 落下しても、顕熱を運んだことにならず、上下に波打っただけである。そのために、 それらの層の間で運動量は上から下に輸送されても、顕熱はほとんど輸送されない。

それはこういうことだ。つまり、下層の風速の小さい気塊が持ち上がり、上層で 加速されたのち、下層に戻ってくると周囲から減速作用を受ける。これは運動量 が上から下へ輸送されたことになる。いっぽう、下層の低温気塊が持ち上がり、 上で混合されることなく、再び下層に落下してきても、波を打っただけで顕熱は 伝えたことにならないからである。



(スライド⑮)「M16」図16.16は実際の顕熱フラックスの観測値の鉛直分布である。 この例では、顕熱フラックスの鉛直分布を上方へ外挿してみると、高度12mで ゼロとなる。したがって、非常に安定になると境界層(通常、乱流運動が盛んな層) の厚さは10m程度、フラックスが近似的に一定とみなされる「接地境界層」は 高度1~2m以下となる。

安定時のフラックス
(スライド⑮)「M16」図16.16 非常に安定なときの接地境界層におけるフラックス の高度分布。(右図)赤四角印は乱流による顕熱フラックス、小さい丸印は地表面 の値をゼロとしたときの長波放射量のフラックス、(左)気温変化率。 (Kondo et al. 1978; 地表面に近い大気の科学、図4.18)

カルマン定数の研究
地表面と大気間の運動量、顕熱・潜熱の交換量を求めるのに、超音波風速計などで 測る直接測定法(渦相関法)と、風速などの鉛直分布の観測から求める空気力学的 方法(傾度法、バルク法)がある。後者で必要なカルマン定数としてk=0.4が用い られてきた。kは実験的に決められる値である。kは大気安定度が中立のとき、 接地境界層における運動量輸送量(地表面に働く摩擦力)と風速鉛直勾配を結び つける係数である。

大気境界層の研究が盛んになった時代、1968年にカンザス実験が行われ、 k=0.35 が発表された(Businger et al.1971)。k=0.35が世界標準 だという 雰囲気の時代があった。私がk=0.4を使った論文をアメリカ誌に投稿すると、 書き直しをすべきと指摘するレフリーがいたほどである。Businger らの観測塔の 写真を見ると、超音波風速計の近くに大きな障害物があり、また、超音波風速計に 限らず一般に測器は必ずしも正確ではないので、彼らのk=0.35は信用できないとして、 私は論文の書き直しを拒否した。

k=0.35を唱える世界の雰囲気を打ち払うべし
k=0.35を信じる世界の雰囲気を打ち払うべきだと考えた。正確なカルマン定数を 求めるには、普通の方法・態度で観測してもだめ、特別な工夫・注意が必要である。

4年間にわたり観測した。大気安定度が中立で、高度20m以下の接地境界層内の 風速鉛直分布が対数則に従うとき、1ラン30分観測の合計259ランから、さらに条件を 厳選した175ランから得た値として、k=0.39±0.03であり、乱流の性質から標準 偏差7%のばらつきを持つことを発表した(Kondo and Sato, 1982)。

超音波風速計はプローブ(直径2cmほどの棒形状の音波の発信・受信部)自体が 風の場を変形させ乱流統計量の測定誤差を生じ、その他の誤差もある。プローブは まったく同一形に作ることはできないので、風向によって真の風が歪む。 また、風杯式風速計は風速が弱くなるときの時定数が強くなるときの時定数より大きい 特性をもち、乱流中では平均風速を強めに観測するという避けがたい誤差がある。 通常、多くの者はこれらを補正しないが、私たちは補正して結果を得たのであり、 世界中でもっとも正確な値だと思っている。

それ以後、k=0.35 の主張は消え去ってしまった。

その後Garratt and Taylor(1996)による、世界中で行われたカルマン定数に関する 論文のまとめによれば、大部分がk=0.37~0.41の間にあり、私たちのk=0.39は ちょうど真ん中に入っていることがわかった。



(スライド⑯)「M16」図16.13はGarratt and Yaylor(1996)の図である。

カルマン定数
(スライド⑯)「M16」図16.13 カルマン定数 k の変遷(Garratt and Taylor, 1996)


215.5 熱・水収支の研究

森林蒸発散と砂漠気候
私は54歳頃までは研究一筋、その後は市民活動を応援し1987年夏の仙台港で開催 された「未来の東北博覧会」では市民の発案による「氷山を北極海から運ぶ プロジェクト」があり学問的指導を行った。発案者は当初、雪氷学の専門家を訪ねた そうだが相手にされず、最後に非専門の私のところへ相談にきて実現した。 経費の 問題でグリーンランドから20トンの氷山のかけらを貨物船で運び「氷の館」に 展示した(近藤、1987a)。

1989年夏の80日間にわたる「グリーンフェア仙台=花と緑の博覧会」では、 市民の発案による80日間砂時計の指導を行った。「大砂時計館」に展示された 砂時計は、誤差0.04%(50分間)の精度で80日間の時の流れを表した (近藤、1989)。

こうした活動の過程で私は大自然を学んだ。大砂時計の製作前に8時間計、 24時間計、1週間計で試験すると砂時計の中に大自然があることを知った。 温度と気圧と風の関係がオリフィスを落ちる砂の速さとなって現れる。 その原理は海陸風、季節風などと同じだ。上部砂だめで崩れ落ちる砂流と下部砂 だめの造形は粉体工学・土石流などと似ており、砂と空気間の水分交換など物理 過程が単純化されて見えた。

この時期、私は同時に森林水収支の研究も始めていた。

(スライド⑰)「K6」図6.8は手製の風洞の中に入れた濡れた松の幹の乾燥速度の 実験装置の模式図である。宅地造成地から松の木の幹をもらってきて、水でぬらして 手造りの風洞に入れて重さを測った。

風洞実験模式図
(スライド⑰)「K6」図6.8 風洞内に入れた濡れた松の幹( 「6.気象学夏の学校(2004年7月24日」の図6.8)。


クイズ:重量の時間変化は(スライド⑱)「K6」図6.9で表わされる。 風速1m/s の場合を緑色の曲線で示した。こんどは風速を3m/s してみると、 カーブはどのようになったか? 次の答えの中から正解を選べ。

(ⅰ)カーブ(a)のようになった
(ⅱ)カーブ(b)のようになった

松の幹の重量変化
(スライド⑱)「K6」図6.9 松の幹の重量変化の実験曲線( 「6.気象学夏の学校(2004年7月24日」の図6.9)。


降雨で濡れた樹木の幹の乾燥速度を測る実験によれば、湿っているときの蒸発速度は 風速に比例するが、しだいに表面から乾燥してくると、蒸発速度は風速に依存しなく なる。これは、砂漠における水循環、お菓子・干物・厚物衣類の乾燥、さらに電気 回路の電流など、物理過程が同じであることに気づいた。

また、砂時計の中に砂漠気候が見えた。それは次のことからである。砂時計の 上側にできる砂の造形が美しく写真に撮っておくために、斜め上方からライトを点し 写真を撮った。しばらくして、変化した砂の造形を撮るために部屋に行くと、 ガラスの内壁が曇っており、驚いた。これぞ、砂漠気候だと思った。砂に含まれる 僅かな水分がライト(日中の太陽光)に照らされて蒸発して雲となった。そこで ライトを消しておくと(砂漠が夜になると)、内壁の曇り(雲)は砂にもどり、 曇り(雲)は消えていた。

水収支に関するプロジェクト研究
この時代、中国の砂漠地域の水収支に関するプロジェクト研究が開始される状況に あったが、乾燥地の蒸発量の評価方法はできておらず、私は参加せずに準備研究を していた。上記のことからヒントを得て、砂漠など裸地の土壌粒子・大気間の熱・ 水分輸送過程のモデル化を行った(Kondo et al. 1992; Kondo and Saigusa, 1994)。

この計算モデルを中国全域に応用し、通常の気象観測資料を用いる「熱収支法」で 熱収支の時間変化を数値計算し、顕熱輸送量と蒸発量の季節変化と年間量を求める ことができた。土壌の水分パラメータにより結果は異なるので、代表的な4種類 の土壌について計算した(Kondo and Xu, 1997)。



(スライド⑲)「K6」図6.10は中国各地の年平均潜熱・顕熱輸送量の分布である。 中国の東南部では潜熱輸送量(蒸発量)が大きいが、砂漠が広がる北西部では潜熱 輸送量(蒸発量)は僅かである。

中国の熱収支分布図
(スライド⑲)「K6」図6.10 中国各地に4種類の土壌(1, 2, 3, 4)があるとした 場合の年平均顕熱輸送量(白い縦棒)と潜熱輸送量(ハッチ部分)の和の分布。 番号1はつくばの農環研の圃場の土(関東ローム)、番号2は蘭州気象台の観測露場の 土壌、番号3は千葉市の成田砂(目の細かな細砂)、番号4は砂丘の砂(排水のよい 粗砂)である。 棒グラフの高さの説明は、図の左下に60W/m2の大きさで示してある (Kondo and Xu,1997; 近藤(2000)の「地表面に近い大気の科学」図8.3)


その他、乾燥域における降水量・蒸発量・水資源量(流出量)の水収支関係など 詳細は Kondo and Xu(1997); 近藤(2000)「地表面に近い大気の科学」の8章を 参照のこと。


河川水温の研究

詳細は「身近な気象」の 「M23.河川改修と魚の大量死事件」に掲載。

1994年は全国的な異常渇水となり、宮城県蔵王町の渓流・秋山沢川の水を利用した 養魚場で稚魚が大量死する事件があった(1994年7月15日、8月7日)。この渓流は 1989年8月の台風による豪雨で氾濫したため災害復興のために改修され、川幅は 5mから25mに広げられ、河床はコンクリートで平らに固められ、さらに付近の樹木が 伐採されたことにより、日あたりと風通しが よくなり、河川水温が異常上昇し、稚魚の 大量死をもたらしたのである (近藤、1995;近藤ら、1995a)。

この大量死事件の原因となった水温の異常上昇を熱収支計算から明らかにし、 河川改修は自然をできるだけ保つような方法であるべきことを指摘した。宮城県庁 の担当者にも伝え、新聞にも報道されたことから、宮城県河川課は、渇水時にも 水深が保てるように、秋山沢の再改修を行うことになった(1994年11月24日)。

(スライド㉑)「M23」図23.5は水温の予測原理を示し、水面と河床側の両側で 熱交換をしながら水塊は流下していく。詳しい計算式は近藤(1995)に掲載されて いる。

水温予測模式図
(スライド㉑)「M23」図23.5 河川の水温予測の模式図、源流点からの水塊は流下 しながら大気及び川底との熱交換によって水温が変化する( 「M23.河川改修と魚の大量死事件」の図23.5)。


(スライド㉒)「M23」図23.10は最高水温の観測値(白丸印)と計算値(実線) の比較である。日々については、遠方のアメダスから推定した気象条件の誤差に よって水温予測値には誤差があるが、観測値の傾向とよく対応している。特に晴天日 の水温の対応性はよく、誤差は0~2℃ほどである。

点線は河川改修前の秋山沢川の条件を用いたときに予想される日々の最高水温である。 改修の影響は曇天日にはわずかだが、晴天日には5~6℃も高温になっている。

最高水温の計算と観測
(スライド㉒)「M23」図23.10 秋山沢川の養魚場における最高水温(白丸印)と 最低水温(黒丸印)の日々変化(1994年夏)。横軸は1月1日からの日数を表し、 180日は6月29日、240日は8月28日、実線は最高水温の計算値、点線は樹木の伐採と 河川の改修がなかった場合の最高水温の計算値。図中に示す2つの赤矢印は魚が大量死 した7月15日と8月7日の最高水温を指す( 「M23.河川改修と魚の大量死事件」の図23.10:近藤(2000)の「地表面に近い 大気の科学」の図7.1)


この魚の大量死事件が起きる前年に、土壌水分量と流出量を降水量の関数として 表わす「新バケツモデル」を提案してあった(近藤、1993)。これを標高差のある 秋山沢川流域に応用し、土壌水分量、積雪水当量、流出量の季節変化を計算し、 さらに 河川の熱収支式から河川水温を計算した。計算結果は日々の最高水温の 観測値をよく再現することができた(近藤ら、1995b)。

河川再改修の提案が実行されたかの確認
再改修がどのように行われたかを確認するために、13年後の2007年10月22日、 その後の秋山沢川の状況を視察した。再改修によって造られた2~3m幅の溝(水路) があり、低水時の河川水はこの水路を流下していた。



(スライド㉓)「M23」図23.14は13年後に見学した秋山沢川の再改修を撮影した 写真である。最初の河川改修によって拡幅された25m幅の河川に再改修に よって幅2~3mの溝(水路)が造られ、低水時(渇水時)の河川水はこの水路を 流れていた。

秋山沢川2007年その4
(スライド㉓)「M23」図23.14 再改修後の秋山沢川、2007年10月21日撮影 (「M23.河川改修と魚の大量死事件」の図23.14)


215.6 地球温暖化量の正しい評価(定年後の仕事)

気温、湿度、風速、降水量などの気象観測では、測器・観測時刻・統計方法が時代に よって変更されてきた。そのため観測資料は均質でなく、気候変化を正しく知るには 諸々の補正をおこなわなければならない。ここでは、気温について述べることにする。

気象庁の観測目的は地域の代表値を知ることであり、風通し・日あたりのよい観測露場に 気温計を設置してきた。多くの観測所(測候所)は当初、街外れの開けた場所に あったが、近年は敷地の一部を売却、あるいは周辺に建物・樹木が増えるなどに より観測露場は風通し・日あたりが悪くなってきた。そのため、日本の地球温暖化量 を正しく評価するには、次の補正をしなければならない。

(1) 観測・統計方法の時代による変更
観測時刻、測器、1日の区切り(日界)

(2) 都市化の影響
緑地の減少、人工熱、ビルの高層化、など

(3) 日だまり効果
観測所の風通し悪化で平均気温が上昇


(スライド㉕)「M73」図73.3は日界の変更によって最低気温の年平均値が変わる ことを示している。現在の日界は24時であるが、9時、10時、22時の時代も あった。9時日界と現在の24時日界(1964年以降)の最低気温の年平均値を比べると、 全国平均で0.35℃ほど24時日界のほうが低温である。観測所により0.2~0.7℃の幅が ある(近藤、2012)。

日界による最低気温
(スライド㉕)「M73」図73.3 1日の区切り(日界)の変更による最低気温の違いを 説明する模式図(「M73.地球温暖化、都市昇温の 実態と観測環境(記念講演)」のスライド③)


その他の誤差も補正して、はじめて正しい地球温暖化量(気候変化)を知ることが できる。

(スライド㉖)「K203」図203.2は上記の様々な補正を行って得た日本平均 の気温の長期変化である。100年間当たりの気温上昇率は、

   0.77℃/100y、(1881~2019年の139年間)・・・・・(1) 

である。各種の補正をしていない気象庁発表値1.2℃/100y と大きく異なる。

気温の長期変化
(スライド㉖)「K203」図203.2 日本平均の気温の長期変動(34地点平均)。都市化 や日だまり効果を含まない気温である(「K203.日本の地球 温暖化量、再評価2020」の図203.2)。


日だまり効果とは(スライド㉗)
観測露場の「空間広さ」が狭くなると、風通しが悪くなり日中の気温は高めに 観測される。夜間は逆に放射冷却が強くなり気温は低く観測される。日中の気温 上昇量が夜間の下降量よりも大きく、日平均・年平均気温は高めになる。これを 「日だまり効果」という(近藤純正の命名)。

日だまり効果の例(スライド㉘「K59」表59.1)
東京の北の丸公園(森林公園)内の「北の丸露場」とビル街の「大手町露場」の最高気温 を比べたとき、2011年8~9月の晴天日(8/14~9/11)は北の丸露場が0.7~1.2℃も 高温である。日だまり効果による日中の気温上昇、夜間の気温下降の大きさは観測地点 の空間広さの関数で表わされる。

(スライド㉙)「K121」図121.2は観測地点の空間広さ(露場広さ)を示す模式図 である。

空間広さの模式図
(スライド㉙)「K121」図121.2 空間広さの説明図( 「K121.空間広さと気温ー「日だまり効果」まとめ」の図121.2)。


空間広さ=(観測点から周辺地物までの距離 / 地物の高さ)=1/tanα、ただしαは 観測点から見た周辺地物の仰角である。全方位(または卓越風向±30°範囲)の αを5年に1回の頻度で記録しておけば、その記録をもとに観測気温の補正を行う ことができる。

(スライド㉚)「K121」図121.6は空間広さの差(対数差)と気温差の関係である。 赤線(生け垣や樹林で囲まれた空間)のほうが黒破線(広い芝地・草地または建物で 囲まれた中庭)より高温になるのは、加熱された葉面からの高温空気が加わったこと による。葉面からの加熱空気は風下ほど拡散されてその影響は弱まり、しだいに広い 芝地・草地の黒破線(葉面加熱の影響ナシ)に近づいていく( 「K199.世界に先駆けて高精度の気象観測所の設置を」の図5の上図)。 その拡散の度合いは近似的に風下距離Xの平方根に逆比例して小さくなる。樹高が 数mの場合、目安として樹木による昇温効果はX<30mで大きいが、X>50mでは 小さくなるとしてよい(「K83.気温分布に及ぼす樹木の加熱 効果―実測」)。

気温差、日中
(スライド㉚)「K121」図121.6 空間広さの差(対数差)と気温差の関係 (日中の例)(「K121.空間広さと気温―「日だまり効果」 のまとめ」の図121.6に同じ)。例えば、空間広さ=10の場所で測った気温を 基準(横軸=0)とした場合、空間広さ=1は横軸が-1であり、その気温は基準点 より2℃ほど高温となる(生け垣または樹林で囲まれた空間)。
塗りつぶし印は雲のある日の値、
赤線は生垣または樹林で囲まれた空間における関係、
黒破線は連続する芝地・草地の範囲内、または四方が建物で囲まれた中庭における関係。


その他詳細は、「K157.日だまり効果、アーケード街と並木 道の気温(まとめ)」、および Sugawara and Kondo(2019)を参照のこと。


地中温度から地球温暖化量を知る
これまで述べてきたことから理解できるように、気温観測から地球温暖化量を正しく 評価することは非常に難しい。 その理由の一つに、気温の日々変化・季節変化の幅が大きいことがある。 それゆえ、温度の時間変化の小さい湧水温度や山腹の深くに掘られた地震観測壕内 の空気温度から地球温暖化量を求める研究も行っている( 「K177.観測壕内の温度」)。

東北大学の遠野地震観測所は遠野市松崎町駒木4-120-74、標高370m、 北緯39度23分23秒、東経141度33分40秒にある。斜面に建てられた玄関前からの 見かけ3階建て(2階半)の2階の奥に観測壕連絡通路、さらに観測壕入口の扉がある。 扉の奥は長さ36mの観測壕通路、その奥に地震計室がある。

(スライド㉛)「K194」図194.1は観測壕の模式図である。

観測壕の模式図
(スライド㉛)「K194」図194.1 観測壕の模式図。温度計の設置場所は入口扉 (距離=0とする)から測った距離とする( 「K177.観測壕内の温度」の図177.1に同じ)。


地震観測壕内の観測で予期せぬ副産物が得られた( 「K194.観測壕内の気圧日変化と壕内温度の日変化」)。すなわち、気圧日変 化幅約 2hPaに伴う空気温度の断熱変化幅約 0.2℃は、観測壕入口扉からの距離とともに 急激に小さくなることが観測された。 これは観測壕通路の壁面からの強い放射の作用によるものか? と考え、計算と 模型実験で確かめることにした。

(スライド㉜)「K191」図191.6は中模型の断熱容器の模式図である。空気温度は 直径0.05mmの極細の熱電対で、上壁面(黒色アルミ板)の温度は直径0.2mmの 熱電対で、下面(水面)温度は直径3mmのPtセンサで測った。ほかに小模型の 断熱容器を風呂桶に入れて上から体重をかけて内部の気圧を瞬間的に上げ下げして、 容器内の空気温度の時間変化を記録した( 「K190.空間内の温度に及ぼす放射影響の実験(1)」)。

中模型模式図
(スライド㉜)「K191」図191.6 中模型の容器の模式図、赤数値は熱電対センサと Pt水温計センサの直径(mm)。他の数値は材の厚さ(mm)を表している (「K191. 空間内の温度に及ぼす放射影響の実験(2)」 の図191.6に同じ)。


放射の作用の強さを追従時間(時定数)で表わすことにした。この実験では、 温度は5秒間隔で記録した。記録計の温度分解能が0.1℃であるため、同じ実験を4回繰り 返し行い、温度を平均する。初期条件の状態を揃えるために、1日に1回の実験を行う。 各実験の初期時刻 t=0 は朝に設定した。


放射の作用が強ければ空気の温度変化は早く平衡値に近づく。これを時定数で表す。 時定数が小さいときほど働きが強いことになる。

温度計センサなど温度 T の熱伝導のよい金属的物体からの熱放出量が周囲の 温度 Tsとの差(Ts-T)に比例するとき、T は初期温度を To 、時間を t とすれば、 次式にしたがう(近藤 2000)。

T(t)=To+(Ts-To)[1-exp(-t/τ)]     (2)

このτを時定数と呼ぶ。時定数は初期時刻の温度差(Ts-To)が1/e≒0.37に減少、 すなわち63%の効果によって初期時刻の37%の温度差になるまでの時間である。 ところで放射の作用による空気温度の時間変化は式(2)の指数関数で表せないが、 似たように時間とともに平衡になり最終温度 Ts に近づく。そこで,初期時刻の 温度差の37%に小さくなるまでの時間を「放射時定数」と定義し放射の働きをみる ことにした。

(スライド㉝)「K208」図2 は時定数と空気層の距離の関係である (近藤、2021;「K191.空間内の温度に及ぼす放射影響の 実験(2)」の図191.11)。

時定数と空気層の距離
(スライド㉝)「K208」第2図 時定数と空気層の距離の関係(近藤 2021; 「K191.空間内の温度に及ぼす放射影響の実験(2)」 の図191.11)。丸印と四角印は実験値,傾斜の小さい黒直線は放射時定数 (水蒸気量=10g/m3 のとき)、傾斜の大きい緑直線は分子熱伝導のときの 時定数、破線は乱流拡散係数のときの時定数を表す。
例1として空気層の距離z=0.02mの場合、分子熱伝導の時定数τ=0.7分に対して、 放射時定数τ=2.8分であり、熱伝導の作用によって素早く平衡状態 に近づく。例2としてz=0.2mの場合、τ=70分に対して、τ=13分で あり、放射の作用によって平衡状態に近づく。例3としてz=100mとし、乱流が 盛んで拡散係数K=10m2/sの場合、乱流拡散の時定数=37分に 対してτ≒1日である。乱流がなければ放射の作用では1日かかる ところ乱流の作用によって1時間以内に平衡状態になる(近藤、2021)。


放射の作用の強さを表す空気温度の放射時定数と空気層の距離の関係図に 実験値5点(空気層の距離=0.025m~0.6m)をプロットし、理論計算値と比較した (スライド㉝「K208」第2図)。空気中に含まれる水蒸気量a=10g/m3の時 の放射時定数の理論計算値は、次の実験式で表される( 「K191.空間内の温度に及ぼす放射影響の実験(2)」)。

放射時定数:τr≒Az2/3 , A=40分(2/3)   (3)

実験で得られたプロットは理論値とほぼ平行に並んでいる。実験値が理論値 (水蒸気量a=10g/m3)より下方にあるのは実験値の水蒸気量が 20~22g/m3で大きいからである。これで放射の働きについて納得できた。

理論式から外れた実験値についての検討
空気層の距離z=0.025mのプロットが式(3)の線から大きく外れており誤差にしては 大きすぎる。ここで、理論計算は放射のみを考えたことに気づいた。外れのz= 0.025mでは分子熱伝導が効いているのではないか、と疑ったことが面白い結果を 導くことになる。

熱伝導のときは次の理論式で表される( 「K191.空間内の温度に及ぼす放射影響の実験(2)」)。

  時定数:τ=Bz2         (4)

分子熱拡散係数K=2.1×10-5m2/sのとき、 B=1700分/m2 となる。外れたz=0.025mに対するプロットは式(4) とほぼ重なっており、外れたプロットの理由に納得できた。さらに(スライド㉝) 「K208」第2図から、水蒸気量=10g/m3 のときは空気幅0.06mを境にして、 これ以下なら伝導熱、以上なら放射の役割が大きいことが分かる。

これを盆地の下層大気にあてはめてみよう。下層雲の雲底が高度100mにあり、 その下に地表面温度と異なる高温空気が移流してきたとき。大気は安定成層で 乱流が働かないとする。100mの空気層の放射時定数は1050分(17.5時間)で あるので、移流暖気は17.5時間でほぼ消滅することになる。これは図に示す 水蒸気量が10g/m3 の場合である。水蒸気量がこれより多い場合は、 放射の作用が大きくなり放射時定数は短くなり、より短時間で移流暖気は消滅する。

続いて乱流がある場合を考えよう。乱流拡散係数K=1m2/s の場合は 地面からの概略高度z<200mでは乱流の効果が放射の効果より大きく作用するが、 概略z>200mでは放射の作用が上回る。大気の平均的状態である概略値 K=10m2/s の場合、大スケール(地球規模)に近づくほど放射の 作用が大きくなる。つまり,地球大気の平均的な温度分布や気候変化は基本的 に放射の作用によって決まってくる。このことが再認識できたのである。

教訓として、先入観・常識から外れた実験結果があったとき、誤差として捨てず、 外れの原因を考察しよう。論文の中には、外れたプロットを捨てて著者の先入観に 合致した図を公表している例がある。



「地球温暖化観測所」設立の提案
地球温暖化量を正しく評価し、気候変動対策に役立てることは研究者の役目である。 日本の温暖化量は100年以上にわたる気象庁の地上観測から評価していた。 それには、いろいろな補正を行う必要があった。この補正方法を見つけるために、 仙台、つくば、東京、平塚の公園のほか、複雑地形・周辺環境にある実際の観測所 (寿都、深浦、宮古、日光、大手町、北の丸、静岡、津山、室戸岬)やその 隣地などで1~2か月間の観測を行った。その結果、露場の気温観測地点から周辺 地物の仰角(露場空間の広さ)を数年ごとに記録しておけば、日だまり効果の補正 が可能であることを気象庁に示した。気象庁では数年間隔で主要観測所の露場状況 などの付帯情報(メタデータ)として仰角を記録することになった。

しかし現実には、各種の補正ができる実行力のある人材が不足している。 そこで、「日だまり効果」の補正の必要がない塔の上で気温を測る 「地球温暖化観測所」の設置を提案したが、その実現は困難である。広い所に 建てられた高さ20~50mの塔の上では周辺地物の直接的な影響を受けないことを 理論的に示しても、具体的に実証しなければ多くの人からの理解は得られない。

そうした困難なとき、微かな光が見えてきた。国立環境研究所の地球環境研究 センターで温室効果ガス濃度を中心とした各種気象要素の観測をしていることが わかった。北海道の落石岬、富士北麓、沖縄県の波照間島の、 高さがそれぞれ 55m、32m、39mの観測塔における気温データを提供してもらい解析した。

(スライド㉟)「K206」図206.9 は地球温暖化観測所の3試験観測所(波照間、落石岬、 富士北麓)と気象庁の地上観測所34か所平均の年平均気温の12年間経年変化である。

塔3平均と34平均の経年変化
(スライド㉟)「K206」図206.9 地上観測所34か所の平均気温(黒印プロット)と 地球温暖化の試験観測所3か所の平均気温(赤印プロット)の経年変化、2008~2019年 (12年間)(「K206.地球温暖化、全国3試験観測所」の 図206.9に同じ)。

図中に、 y (年平均気温)と x (年)の1次近似式を示した。気温の上昇率は 次の通りである。

地上観測所34か所平均の気温上昇率=0.047℃/y  
試験観測所 3 か所平均の気温上昇率=0.050℃/y  

となり、両者は 6 %の違いで一致した( 「K206.地球温暖化,全国3試験観測所」)。塔の上で気温を測る地球 温暖化観測所が全国に分散して数か所以上あれば、10年程度の短期間でも日本平均 の地球温暖化の傾向がより正しく評価できることを示している。

この結果から、塔の上での観測所が数か所以上、できれば10か所ほどあれば日本の 気温上昇の様子がほぼ正確にわかることになる。良質な観測データが得られれば、気候 変動対策に役立つ。日本は世界に先駆けて観測所の整備を行うべきである。 観測所の整備費用は、わが国の温暖化対策費全体からみれば僅かである。

日本の気温上昇率が0.047℃/yの割合で今後続けば20年間で0.94℃上昇する。 1881~2019年の139年間の上昇率が0.0077℃/y であるので、1881年を基準とすれば 2040年には2.0℃(=0.0077×139+0.94)の上昇となる。

しかし、過去にあった40~50年ごとの平均的に約0.5℃下降する低温年が今後20年以内 に起きれば、それほどは上昇しない。過去と同じ現象が起きるか否か、だれも予測する ことはできない。その真実を知るために正しい気温上昇率(地球温暖化量)の観測が 必要である。

気温変化の複雑さとして、過去の現象が繰り返す場合と、そうでない場合の例を 示しておこう。世界的な大規模火山噴火が起きたとき、日本では約90%の確率で 大冷夏となりコメの大凶作・大飢饉が起きているが、そうではない場合もあった。 1815年4月にインドネシアのタンボラ山が大噴火した。この噴火は歴史上最大規模、 翌年には北ヨーロッパやアメリカ東部で異常冷夏により農作物が壊滅的な被害を うけた。アメリカでは東北部から西部へ移住する人たちが急増した。しかし、 日本では冷夏による大飢饉は生じなかった(近藤 1987b;Kondo 1988)。


地球温暖化観測所の候補として気象官署15地点(寿都、室蘭、浦河、深浦、宮古、 大船渡、奥日光、石廊崎、相川、浜田、津山、室戸岬、屋久島、大東島、与那国島) があげられる。これら観測所の測風塔に気温計を設置して気温の長期変化を観測する。 その実現には研究者集団(学会)からの応援・要請が必要となる。

本講演を終わるに際し、「地球温暖化観測所」設立について、皆さんからのご理解・ ご支援を賜りたい。




付録(1)樹木の風下における気温上昇の実測

気象観測所の周りに生垣など樹木が成長すると、「日だまり効果」と「樹木の枝葉 による加熱効果」によって、日中の気温は高く観測されるようになる。実際には、 この両効果は重なっている場合が多い。

生け垣に囲まれたアメダスがあり、気象台職員に「なぜ生け垣で囲むのですか?」 と尋ねると、「周囲のアスファルト舗装の熱気から防ぐため」との返事。多くの 研究者も同様に、日中の植物葉面は気温より低く周囲を冷やすという間違った 常識をもっている。よほどの強風でない限り植物葉面は吸収した太陽熱の一部を 顕熱に変え大気を加熱する(近藤 1994,6章)。この理論的関係を説明しても 間違った先入観をもつ者には分かってもらえないので、観測によって実証した (「K83.気温観測に及ぼす樹木の加熱効果―実測」)。

次に示す「K83」図83.6と図83.10は樹木の風下における気温上昇を実測 しているときの写真である。

湘南海岸公園1本の樹木

桜ケ丘公園苗木
「K83」図83.6と図83.10(「K83.気温観測に及ぼす樹木の 加熱効果ー実測」
上図:平塚市湘南海岸公園における観測、通風筒吸気口の地上高度=2.0m。 風はこの写真の前方右寄りから手前に吹く北東風である。写真は手前後方の広い 裸地運動場から撮影(2014年5月6日)。
下図:桜ケ丘公園、サツキの苗木は9個の風下の気温上昇(2014年5月29日)を用いる。


付録(2)「地球温暖化観測所」設置の要請書(中央電気倶楽部から)

筆者は2020年1月24日午後、大阪の中央電気倶楽部において、「上昇する日本の 気温~地球温暖化が原因か」の講演を行った。参加者は関西電力、パナソニック、 住友電工などの役員経験者・幹部社員OB、その他電気に関係する企業の経営者など 68名であった。講演内容は「K195.気候変動と地球温暖化 観測所」に掲載してある内容とほぼ同じである。

講演後、司会者によって、参加者の意見集約を行っていただき、以下に示す気象庁 長官宛ての「地球温暖化観測所」設置の要請書を2020年1月27日付けで筆者に届けて いただいた。この要請書は2月10日に気象庁観測課にお願いして、気象庁長官と 観測部長に渡していただいた。

中央電気倶楽部要請書
写真196.1 中央電気倶楽部からの「地球温暖化観測所」設置の要請書のコピー (「K196.地球温暖化観測所の実現に向けて」の写真196.1)


文 献

近藤純正、1982:大気境界層の科学.東京堂出版、pp.219.

近藤純正、1987a: 夢氷山-氷山を日本に運ぶプロジェクト.東北大学生活協同組合、  pp.146.

近藤純正、1987b:身近な気象の科学-熱エネルギーの流れ-.東京大学出版会、 pp.189.

近藤純正、1989:大砂時計-世界初への挑戦の記録-.東北大学生活協同組合、 pp.154.

近藤純正、1993:表層土壌水分予測用の簡単な新バケツモデル.水文・水資源学会誌、  6、 344-349.

近藤純正(編著)、1994:水環境の気象学―地表面の水収支・熱収支―.朝倉書店、 pp.350.

近藤純正、1995:河川水温の日変化(1)計算モデル―異常昇温と魚の大量死事件.  水文・水資源学会誌、8、184-196.

近藤純正、1997:一仕事二十年―地表面熱収支・水収支の研究の現状と将来、 感動の思い出―(退官記念 最終講義、1997年2月21日).pp.116.

近藤純正、2000:地表面に近い大気の科学-理解と応用.東京大学出版会、pp.324.

近藤純正、2012:日本の都市における熱汚染量の経年変化.気象研究ノート、 224号、25-56.

近藤純正、2021:観測の誤差から真実を見る―地球温暖化観測所の設立に向けて. 天気、68、37-44.

近藤純正・菅原広史・高橋雅人・谷井迪郎、1995a:河川水温の日変化(2)観測に よる検証ー異常昇温と魚の大量死事件. 水文・水資源学会誌、8、197-209.

近藤純正・本谷 研・松島 大、1995b:新バケツモデルを用いた流域の土壌水分量、 流出量、積雪水当量、及び河川水温の研究.天気、42、 821-831.

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