物理地学の基礎:演習問題と解説

6-5 古地磁気と大陸移動説

20 世紀初頭に発表されたウェーゲナーの大陸移動説は,過去に存在した超大陸が分裂し移動して,現在の大陸分布となったとする学説です.パンゲアと名付けられた超大陸の存在は,海岸線の形だけではなく,化石や氷河の痕跡の分布など,古生物学や古気候学の多くの証拠に基づいていました.しかし,大陸を動かすに十分な原動力が考えられないとして,この学説は多くの研究者からは支持されませんでした.しかし, 1950 年代になると各大陸の古地磁気学研究により,極移動曲線という独立した証拠が多く見つかり,大陸が実際に移動したことが確実視されるようになりました.以下,古地磁気学における極移動曲線に関する基礎事項をまとめます.

古地磁気学における地心軸双極子仮説と大陸移動

極移動曲線 APWP: 古地磁気学をプレートテクトニクスに応用するときは,地心軸双極子仮説を導入します.これは,ある程度長い時間にわたる地層から得た複数の VGP を(逆極性は反転して)平均すれば,地理的北極と一致するという説です.この平均の極を VGP とは区別して古地磁気極といいます.右図は過去に 1 の南半球中緯度に位置していた大陸が,時代とともに 2 の赤道に移動し,現在は 3 の北半球中緯度に位置している様子です.現在 3 の大陸において,それぞれの時代の地層の古地磁気方向から当時の大陸の緯度が \(\lambda=\frac{1}{2}\tan I\) として求まり,これを古緯度といいます.それぞれの時代の古地磁気極 P1〜P3 は現在の大陸からそれぞれの角度 \(p=90°-\lambda\) だけ離れた点に位置します.但し,現在の地層の P3 は北極と一致します.

下図は,長方形の大陸が時代とともに移動や回転をして現在の位置に到達した様子を,北極を中心とする等面積投影図で表わしています.大陸の位置には古い順に番号を付し,時代 5 が現在です.現在の大陸の位置から求めた古地磁気極にも古い順に番号を付け,それぞれの極の間を線で結び,これを(見掛けの)極移動曲線 APWP (apparent polar wander path) といいます.古地磁気学では,古緯度から大陸の位置を地図(古地理図)で表わすよりは, APWP だけを示すことが多いです.

大陸の移動や回転と対応する極移動曲線

図の (a) は大陸(の中心)が南緯 50° から緯度で 25° ずつ北上して,現在は北緯 50° に到達した場合の APWP を示します.古地磁気学による情報で注意すべき点として,大陸の古緯度は求まりますが,当時の経度については決まらないことです. (b) の例は,大陸が緯度については (a) と同じように北上したが,途中は緯度線に沿って東や西に移動した場合です.この場合でも, APWP は (a) と全く同じになります. (c) は大陸の移動はなかったが,回転した場合です.大陸は時代 1 には,東に 100° の方位角であったのが, 25° ずつ西に回転し現在に至ったとしています. APWP は大陸を中心とした小円となります.極移動の向きが逆に感じるかも知れませんが,当時の北極と大陸の位置関係を一定に保ったまま両者が回転したと考えれば理解できます. (d) は大陸の北上 (a) と回転 (c) が同時に生じた場合を示します.この場合も,途中に大陸が方位角一定で緯度線に沿って東西 に移動しても APWP は同じです.

古地磁気方向からは,古緯度は求まるが経度については決まらないことを前節で説明しました.しかし,大陸が途中で分裂し,それ以後は別々に移動して現在に至った場合は,それぞれの APWP から2つの大陸の分裂前の相対的位置関係が分かります(但し,絶対的な経度は決まりません).前節では大陸の経度線に沿っての北上や緯度線に沿っての東西方向の移動を方位角が変わる回転から区別して説明しました.しかし,球面上の図形の移動はどんな場合にも,ある1つの極の回りの1回の回転で表わすことができます.これはオイラーの定理で,回転の極をオイラー極といいます(→ 詳細はこのページにあります).下図は分裂した2つの大陸の APWP から,両大陸の分裂前の相対位置関係を導く手順のオイラー回転を用いた説明です.

2つの極移動曲線から決定する大陸の分裂と移動

図 (a) は,最も古い時代 t1 で,四角形の南半分と三角形の北半分からなる大陸が緯度 30° 付近に位置していたことを示します. (b) は大陸がオイラー極 E1 の回りに回転角 15° ずつ回転し,合計 45° 回転した後の時代 t4 の様子です.時代 t4 における APWP が黒丸 1〜4 として描かれています.大陸は t4 の直後に分裂し,四角形と三角形の部分をそれぞれ大陸 A と B と呼ぶことにします.大陸 A はオイラー極 E\(_A\) の回りに反時計方向に,大陸 B はオイラー極 E\(_B\) の回りに時計方向に,それぞれ 15° ずつ回転し,合計 45° 回転して現在 t7 に至ります. (c) が現在 t7 の状態を表わし,遠く離れた大陸 A と B の APWP をそれぞれ黒塗りの四角と白抜きの三角で示しています.そこで,それぞれの APWP の 1〜4 の軌跡が一致するように APWP と大陸を同時に回転させることを考えます. (d) は大陸 A を固定して, 大陸 B とその APWP をオイラー極 E2 の回りに回転した結果を表わします. APWP の 1〜4 の軌跡が一致し,時代 t1〜t4 には両大陸は1つであったことが分かります.

上の説明図では, (c) における 2つの APWP の 1〜4 の軌跡を一致させるのに,大陸 B に対して2回の反時計方向回転,即ち E\(_B\) の回りの後に E\(_A\) の回りの回転を行いました(この連続した2回の回転は E2 の回りの1回の回転と同じで,その回転行列については → 問題7-3-4 → この記事を参照).しかし,実際の古地磁気研究ではオイラー極は未知ですので,2つの APWP から似た軌跡の部分を探し,それらが一致するように最小二乗法などの数学的手段で極の位置と回転角を決定する必要があります.

大陸が実際に移動したことを示した典型的な例はヨーロッパと北米の APWP です.図の (a) は McElhinny & McFadden (2000) による過去5億年間のヨーロッパ(青)と北米(赤)の APWP で,一部のデータ点に付した数字は Ma(百万年前)単位の年代です.図 (b) の緑の四角い印は Bullard 等が大陸の海岸線を合わせる方法で求めたオイラー極 (88.5°N, 27.7°E) です.北米とその APWP をオイラー極の回りに 38° 回転すると, APWP はよく一致し,北大西洋がほぼ閉じることが分かります.

ヨーロッパと北米のAPWP(a)をオイラー極の回りに38°回転して北大西洋が閉じた様子(b)
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問題6-5-1

インド大陸は白亜紀のゴンドワナ大陸の分裂以降に北上し,ユーラシア大陸に衝突して,ヒマラヤ山脈が形成されました.インド大陸の北上は古地磁気の観測結果から知ることが出来ます.

地質時代年代 (Ma)伏角 (°)偏角 (°)
始新世4010.5354.1
暁新世60-30.8348.2
後期白亜紀80-54.5331.2
前期白亜紀120-61.7302.1
インド大陸の古地理をプロットする用紙

この表は北緯 20° に位置する地層について,年代と正磁極期の古地磁気方向で, Torsvik et al. (2008) による古地磁気極から古地磁気方向に変換しました.地心軸双極子仮説に基づき,この観測結果から,インド大陸の古地理を考察します.

(1) 各地層の古緯度を計算し,各時代のインド大陸の位置と向き(方位角)を右図に描きなさい(→ 印刷用 pdf はここです).図で三角形 ABC は現在のインド大陸を表し,地層は点 P に位置するとします.また,点線は点 P を通る経度線で,経度については現代と同じ位置に描けばよいです.

(2) インド大陸が北上する移動速度を, (a) 1億2千万年前から現在までと, (b) 最も速かったと思われる6千万年前から4千万年前までとについて求めなさい.但し,移動速度は南北方向の成分のみで,地球は半径 6371 km の球とします.

オイラー回転のためにオイラー極を北極へ移す手順

問題6-5-2

地球上の点のオイラー回転を表わす回転行列は,学部の線形代数の範囲で導けますが,式の変形はかなり煩雑です(→ 式はこの記事を参照.教科書では, Cox & Hart 1986, p.226 や上田 1989, p.86 を参照).ここでは,前ページの問題6−4−3での VGP の作図と同様にシュミットネットとトレーシングペーパーを用いた作業を行います.

座標軸は右図のようにグリニッジ方向を x 軸,東経 90度を y 軸,北極方向を z 軸とします.また,回転角の符号は地球の外側から見て反時計回りを正とします.ある点 P をオイラー極 E の回りに回転させるには,オイラー極 E を北極へ移動させてから行います.図はオイラー極 E を北極へ移動させる手順で,図の簡素化のために点 P は描いてませんが, E と P の位置関係を保ったまま P も同時に移動させます.具体的には,点 P をオイラー極 E \((\lambda, \phi)\) の回りに角度 \(\Omega\) 回転させる手順は次の通りです.

  1. E と P を z 軸の回りに \(-\phi\) 回転させ(時計方向), E をグリニッジ経度線上に移動させます.
  2. E と P を y 軸の回りに \(-(90-\lambda)\) 回転させ(時計方向), E を北極と一致させます.
  3. 点 P を E (北極) の回りに \(\Omega\) 回転させます(反時計方向).
  4. 2と逆の操作を行います.
  5. 1と逆の操作を行うと,点 P は E の回りに \(\Omega\) 回転した位置となります.

では,オイラー極 E (40°N, 30°E) の回りに点 P (20°S, 40°E) が +60° (反時計回り)回転したとき,回転後の点 P の緯度・経度をシュミットネットとトレーシングペーパーを用いた作図で求めなさい.

(シュミットネット用紙 → 小, → 中, → 大 (極中心), → 大 (赤道中心))

問題6-5-3

本文の図で示したように,ヨーロッパと北米の APWP がよく似ていて,特に 195 Ma (ジュラシック初期)以前はほぼ同じ軌跡であり,2つの大陸が1つであったことの強い証拠です.ここでは,演習問題というよりは実習として,2つの APWP を重ねたときの両大陸の位置関係を確かめてみます.

1960 年代, Bullard 等は海岸線の似ている2つの大陸のオイラー回転について,海岸線が最も良く合うようにオイラー極を決定しました.それらの中で,ここで使用するオイラー極と回転角は次の通りです.

大陸(固定) - 大陸オイラー極回転角
ヨーロッパ - 北米(88.5°N, 27.7°E)+38°(反時計)
アフリカ - 南米(44.1°N, 329.7°E)+56.1°(反時計)

下図はヨーロッパと北米(1),及びアフリカと南米(2)に対する Bullard 等のオイラー極を投影中心とするランベルト等面積投影図です.中心の緑の星印がオイラー極で,両大陸の APWP をプロットしてあります.この投影法では,投影中心からの方位角は正しく表現され,投影中心から等距離の点は円弧となります.そのため, APWP と対応する大陸を同時に中心の周りに回転させて, APWP がどの程度重なるか,海岸線がどの程度合うかを見ることができます.

2つの大陸のAPWPの一部が似ていることから,大陸の過去の相対位置を推定するデモ用の図: (1) ヨーロッパと北米, (2) アフリカと南米

では,まずトレーシングペーパーを図に重ね,移動する APWP と大陸を写し取ります.次に,外周の角度目盛りを利用して,トレーシングペーパーを上表の回転角だけ回転させます.そして, APWP や大陸の重なり具合を観察しなさい.

(上図の印刷用 pdf → 白黒, → カラー

参考文献: