書くということ

 

●僕らが僕らでなくなる時
序章 はじまり
第1章 任務

 

●懐かしき朝
第1章

懐かしき朝

第1章

 異様な爆音が近づいてくる。いつもながらと言えばそうではあるが、でも毎日ではない。サブローの親父は何を商売にしているのか、ひげを鼻の下に生やしている。ここらへんでは珍しい。オートバイに乗るときも革の帽子を被っている。彼らの家は俊彦の住む家の前、 T字路の角の代書の看板を出している一軒屋だ。
 俊彦の家といっても台所を含めて二間の2階の間借りだ。家の中までは見えないが、塀の中は良く見える。サブローの親父が実際は何で稼いでいるのか他人には分からない様に、俊彦の親父も他人から見れば良く分からないのだろう。子供ながらに俊彦はそう思う。
 サブローの親父はサブローに汚れたバイクを洗うように言いつける。「分かった。やっとくよ」
 しばらく前までは兄の善太郎の役割だった。サブローも善太郎も、その姉の二人とも母親の家出を悲しんでいる様子はなかった。時々母親は家に戻ってきていたが、間違いなく他の男と住み始めたのは近所のおばさん達の話から良く承知していた。
 二人の上の姉の内、一人はどこかで働いている様子だったが、もう一人はまだ中学生であった。
 「おじさん、オートバイ触らせてよ」近所の子供達がいつも群がってくる。そんな時、サブローはきまって「だめだよ、うちのバイクだぞ」と言って触らせないが、たまに親父は「ちょっとならいいぞ」と言って触らせてくれる。