『プージャ・エクスプレス』 Pooja Express

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 そうさ、明日になればドゥルガ様に会える。待ちに待ったお祭りだ。


 プージャは祭祀、プージャ・エクスプレスは大きなお祭りの時に運行される臨時列車の名前です。
 長距離列車は便利で、とても楽しい旅ができます。用意した食べ物などが無駄になったほど(需要と供給のバランスと言いますか)何かが欲しくなれば必ず物売りが登場します。
 出発前にはコーラやジュースのコールドドリンク、暖かいものが欲しくなればコーヒー、小腹がすいた頃にスナック菓子や果物、もちろん弁当、ヒマを感じれば新聞や雑誌、なぜか英語の辞書、サングラスに糸電話(バスだったけど)まで売りにきます。
 朝も物売りの声が目覚ましになってくれます。
 起床時間になると列車は必ずと言っていいほど長めに停車して、チャイ売りがホームを行き交いします。目覚めたら、まずチャイを一杯。ついでに小腹を満たすビスケットや炒り豆。動き始めてしばらくして空腹を感じてくると朝食のあれこれ。実に健康的なのが長距離列車の旅。

 プージャ・エクスプレス。すべての乗客の目的がお祭り!と想像しただけで楽しくなりませんか。
 カルカッタのドゥルガ・プージャの時に臨時急行が運行されることを知り、想像力を駆使して音楽を作りました。

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[楽曲について]

 自分としては派手目の『走れデカンバス!』が完成した後で、もう一歩進めてみようと作った曲です。
 1年ほど前にCubaseを使った音楽部分は完成していました。しかし、音の分離が今ひとつ悪いので、Logicを使って作り直しました。原因がCubaseにあったわけではないのですが……。多分、使用楽器数は最多のはずで、左から順にカリンバ、キューバンピアノ、エレキベース、クラシックギター(メロディ)、ブラスセクション、ガムラン、スティールドラム、シンセブラス、エレキギター、インド中東のパーカッション、ドラム、エレキギター(ディストーション)、ドブロギター、シロホンです。全体のバランスを考えて、ギターやピアノにはクセのある音を選びました。

 質だけでなく、音量的なバランスも何度も調整しました。上手な人なら手早く片付けるのでしょうけど……。曲の進行によって前に出てくる楽器が異なりますが、その時でも特定の楽器の音だけを聴こうと思えば聴けるバランスに注意しました。まあ、左のピアノとか中央のスチールドラムなどはキツイかもしれませんが、それなりのヘッドフォン(メイン使用はオーディオテクニカのATH-AD1000)を使えば追いかけることができるはずです。その調整がけっこう難しく、今後の課題でもあります。
 ドラムの音はけっこう微妙でして、最終的に外部音源のSC-55を使用しました。列車の走行音をイメージさせるビート感が出たと思うのですが、どうでしょう。
 あるパートの楽器をざっくり変更させられるのがコンピュータ音楽の特長です。元の楽器は忘れてしまいましたが、完成直前にそれをガムランの音に挿し替えたことで踏切のカンカンに近い音が得られました。全体を通して不協和音のような響きをしているのがガムランです。

 多分、タイトルも早めに決まっていたはずです。楽曲を完成させてから、音楽のストーリーに合う生音を当てはめていきました。冒頭の駅のアナウンスから最後の踏切の音まで、ほとんどブレることはなかったように思います。むしろ、その後で使用楽器音の変更や音量の加減など、全体の調整を「ふりだしに戻る」感じでやり直すのに時間を食いました。

 最初になぜ子供の泣き声が入っているのか……。列車が動き出す時の録音が1種類しかなく、そこに入っていたからというだけの理由で、深いわけはありません。ついでにチャイ屋の声が左に寄っているのは、左側のシートに座って録音していたからというだけの理由です。

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[あれこれ]

 タイトルの『プージャ・エクスプレス』は早めに決まっていたのですが、ジャケット作成のために写真を探していたら、駅のボードには『プージャ・スペシャル』とあるではないですか。エクスプレスと信じていたんですけどねぇ……。

 列車の旅はカルカッタ(コルカタ)>マドラス(チェンナイ)間の36時間が最長記録。夜中出発の早朝着、車中2泊です。しかし、忘れられないのはカルカッタ近郊へのぶらり旅。客車が混んでいたので、貨車に乗って行きました。

 この曲の明るさは想像の産物です。偶然にも、あるいは不運にも、そんなこととは露知らず、マレーシアで特別列車に乗ってしまったことがあります。乗客はもちろんインド系住民ばかりで、皆が「お祭りに行くんだ」と興奮しているところまでは曲のイメージと同じ。実際は……、2等の車内は日本の通勤電車並みの混み方。私は床の上に座っていたのですが、発車してしばらくはおばちゃんの(文字どおりの)
ももが顔半分に食い込む状態で……。爪先を数センチ動かすこともできず、熱気と臭いに耐えていました。(笑)

 列車内の売り子が「コールド・ドリンク、サムズアップ」と言っています。サムズアップはカンパコーラと双璧だったインド製コーラで、今はコカコーラに買収されてしまいました。味まで別物になり、とてもがっかり。それはともかく栓抜きでボトルを打つ音が、その後のギターソロでのドラムパターンを決めました。左側のパーカッションに注目。

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音楽の背景
 前回の南インドはバスの方が便利、その前はビデオ撮影または白黒の写真……列車の写真は意外に少なかった。

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 2等寝台の様子。普通列車でも上段の荷物棚がほぼ同じ構造。よって、早い者勝ちの寝台になる。

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 窓の鉄格子、硬いシート、暗い照明でも、旅は楽しい。  河で泳ぐ子供とローカル列車(ティルチラパリ)。

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 どことなく昔の上野駅みたいなカルカッタ、ハウラー駅。  典型的な地方都市の駅風景(バンガロ−ル)。

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 時には改札を通らずに駅の外に出られることも。  オ、オラの乗る列車はいったいどれなんだ!(ブバネシュワール)。

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[使用した生音]

カルカッタのハウラー駅構内
カルカッタ・ヴァラナシ間の列車内の物売り
カルカッタ近郊の踏切(ジャケットにサーンチーとあるのは間違いです)