『走れデカンバス』 Run Decan-bus Run!

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[楽曲について]

 インドとまったく関係ない元タイトル『ボサ・カフェ』が示すように、最初は軽やかなボサノバでした。やがて時間がない時に駅へ向かうBGMとして重宝するようになり、実用目的から早足をさらに加速させるリズムに変更。イケイケドンドンの編曲で、今の形になりました。効果は抜群で、どんなにギリギリの出発でも電車に乗り遅れたことはありません。

 メロディはフルートとクラリネットによる掛け合いの後、ぴったりのタイミングで(同じ演奏データを使っているからズレようがありませんけど)鳴らして第3の楽器風にしています。
 このアルバムの中で最も手間をかけたのは、故にお気に入りなのは後半のピアノソロの部分です。これこそ素材をバラバラにしてから、私が演奏するんだったら(弾けないけど)この後はこういう展開にというイメージどおりに「ノリとハサミによるコラージュ」で完成させました。意図的に効果音は外しています。

 いよいよ第3段階の効果音入れ。既に『プージャ・エクスプレス』は完成していましたから、同様に出発の段階から始めようと。となれば、何と言っても冒頭の車掌の呼び声。ある意味では、この声を聞いてもらうために音楽や他の効果音があると言っても過言ではありません。サーンチーの先のビディーシャ(と言ってもわからないでしょうが)の、要するにデカン高原の真ん中(=ド田舎)にこんな粋な掛け声を響かせているお兄さんがいたなんて……。ぎりぎりセーフで声を録音できましたが、その前の「ボパール、ボパール、ボパアアール」と行き先を連呼している声を再生できるのは、残念ながら私の頭の中だけです。

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[あれこれ]

 使った効果音はすべてビデオカメラによる録音です。この時の旅では録音目的も兼ねてビデオカメラを持っていっています。その前はローカルバスに乗る機会がなく、前回の旅で使った南インドのバスはデカンバスと違う……早い話がぼろくないのですね。
 旅行者が多く利用する長距離バスは格段に良くなりました。いかにもインド的なネーミングセンスでエアバスと呼ばれているのが笑っちゃいますけど。デザインは近代的、天井には飛行機みたいなラゲッジボックスがあり、シートも快適、エアコンも効いています。ただし、窓ガラスがきちんと閉まらずにすきま風が入ってくるとか、インド製品の伝統は今でも……。(笑)

 ローカルバスもさすがに「走るスクラップ」を見ることは少なくなりました。クッションの効かない椅子は当たり前。ダッシュボードにはメーターのない丸い穴、窓ガラスの代わりに幌。車体の大きさは日本と大差ないのに悪路を走っていて、天井に頭をぶつけたことがあります。椅子から天井って……1メートル以上ジャンプした計算になるのでしょうか。

 多分インドールからマンドゥへ行くバスだったと思いますが、私が乗っていたのは運転席の脇のシート。鉄板の床が腐食して道路が見えました。それどころかカーブに差し掛かると……げっ!タイヤが見えるぞ。

 デカン中央部の坂道を上がる素晴らしいエンジン音を入れておきました。正に一所懸命に働いているのがわかります。
 思い出すのはカルナータカ州のマイソールに南から向かった時のこと。走れど走れど平坦な道で「本当に高原の町に着くのだろうか」と疑問を感じていると、目の前に垂直にそびえているような巨大な壁。なだらかな勾配なんてありません。極端から極端、中庸のないインドらしく、あるいは文字どおり「デカン!」高原という感じで、テーブル状の台地がドドーンと広がっているのです。
 大回りすれば楽だろうに、バスはカーブでは切り返しの連続で、急勾配をジグザクに上っていきます。まるで直登。ガガガガというエンジン音はその時と共通です。
 しかし、驚くのはまだ早い。
 長い坂を上った後に、車掌が錆だらけの空き缶を持って草むらをかきわけ、ポコポコアワが湧いてくるような沼の水をすくい、戻ってくるなりおもむろにラジエーターに沼の水を補給したのでした。運転手は平然と見ています。役割分担がはっきりしているんでしょうな。というか、坂を上り切ったら沼の水を補給するのがお約束になっていることに愕然。そうやって、ローカルバスはインドの大地を毎日走っているのです。

 出発前と中途の大きな町では物売りも乗ってきます。新聞、果物、スナック菓子、団扇と列車よりバラエティ豊かかもしれません。
 それから特製ベストに無数の商品をぶら下げたサングラス売り、おもちゃのピストル、糸電話……。誰が買うんだ。

 後から気づいたのは、沿道の子供の声で「オーライ、オーライ」とバック誘導をしているように聞こえます。しかも「バス、オーライ」と叫んでいたとは。正に偶然です。最後に聞こえる「ドールピヤ・キロ」はマーケットに通った私にはおなじみのセリフで「1キロあたり2ルピー」の意味。多分、ぶどうかもしれません。それがバスの窓から録れるというのも嬉しい偶然。

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音楽の背景

 前回の南インドはバスの方が便利、その前のデカン高原ではビデオ撮影または白黒の写真……って同じコメントだな。

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 オンボロバスの写真を捜そうとしたけど、意外と見つからない。  車内はいつもこんな感じ。

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 運転席の正面には神様とキュートな時計。お香もよく炊かれる。  バス車内の路線運行図...。

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 このあたりが平均的な運転席。もっときちんとしているのも、すご〜くボロいのもある。


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 長距離運行には食事休憩もある。少し立派なドライブインで。  名前も知らない町のバススタンドが意外とおもしろい。

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 ローカルバスにも物売りは乗ってくる。  木製のインテリアが心地よいカルカッタ市内バスの女性専用シート。

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[使用した生音]

デカン高原中央部のローカルバスの音あれこれ
・アウランガーバードからエローラ、アジャンターへのルート
・ボパールの隣りサーンチーのさらに隣りビディーシャのバススタンド