ヘロドトス著 歴史(ヒストリアイ)

ヘロドトスに関する詳しい解説はこちらへどうぞ
ヘロドトスーウィキペディア

ギリシャ語でヒストリアイ(historiai)は「探究、調査」という意味である。したがって言葉の本来の意味からすれば、「歴史」という題名は「探究の書」あるいは「調査報告書」としてもよいかもしれないし、書かれている内容からすれば、「世界探訪記」または「世界見聞録」としてもよいかもしれない。

『歴史』は、後世のアレキサンドリアの学者によって九巻に分割され、それぞれ学芸の女神ムーサ(ミューズ)の名前が冠せられている。


邦訳目次

巻  名  掲載日
第一巻 CLIO 讃美する女(歴史) 2020.10.25
第二巻 EUTERPE 喜ばしき女(抒情詩) 2020.12.19
第三巻 THALIA 豊穣(喜劇・牧歌) 2021.7.14
第四巻 MELPOMENE 女性歌手(悲劇・挽歌)2021.8.27
第五巻 TERPSICHORE 舞踏の楽しみ(合唱・舞踊) 2021.9.19
第六巻 ERATO 愛らしき女(独唱歌) 2017.3.5
第七巻 POLYMNIA 多き讃歌(讃歌・物語) 2017.4.25
第八巻 URANIA 天上女(天文) 2017.6.7
第九巻 CALLIOPE 美声(叙事詩) 2017.7.25


用いた底本
*The History Herodotus
 A.D.Godley
 Cambridge.Harvard University Press.1921
*The History Herodotus
 G.C.Macaulay
 Macmillan, London and NY 1890
*The History Herodotus
 George Rawlinson
 J.M.Dent,London 1858
*Inquiries Herodotus
 Shlomo Felberbaum
 work in progress 2003
*ギリシャ語の原文サイト
 Ιστορίαι (Ηροδότου)
 Istoríai (Irodótou)



ヒポクラテス集典の部分訳を終えてから2年あまりが経過した。昨年(2016年)から塩野七生氏の「ギリシャ人の物語Ⅰ」を読み始め、2017年の年明け早々には、その第二巻が刊行された。その中で、ヘロドトスの「歴史」に言及されていることが多く、ペルシャ戦役の部分を読んでみたくなったので、ネットから英訳文を引張り出してきて読んでみた。(掲載サイトは、ヒポクラテスの英訳を見つけたときから知っていた)

第一次、第二次ペルシャ戦役が書かれているのは第六巻の後半から第九巻にかけて。

何しろ長大な物語ですので、全文を通読なさる場合には、当該ページを印刷し、紙上で,できれば縦書きにプリントして読まれることを、お勧めします。その際、本文だけ印刷するのではなく、著作権に関する前段の部分も含めて印刷なさることをお忘れなく。

また、是非とも地中海の地図を手元におき、地名の位置を確認しながらお読みになることも、お勧めしておきます。例えば、ペルシャ軍の進軍経路を示してくれているサイトMap showing events of the first phases of the Greco-Persian Warsがあるので、それらを参考になさるがよいでしょう。

なお、本書に即した詳細な地図がCD-ROM版で販売されているので紹介しておきます。懐に余裕のある方は是非。これは誠に便利です。読書地図帳 ヘロドトス 「歴史」

底本にしたのは上記のうち最初に挙げたGodleyの訳文であるが、文意の理解しがたい部分は二番目以下に挙げた訳文を適宜参照した。従って単一の本に従ってはいないので、その点ご諒承ねがいます。

ヒポクラテスの場合と異なり、いわゆる「逐語訳」のように英文に忠実に訳す、という態度は取らず、また記述のもたつく箇所が散見されるので、それらを一文にまとめたりして、できるだけ滑らかで簡潔な訳文となるように心がけた。

第六巻だけであるが、読んでみた感想は、ヘロドトスは現代ならさしずめ、フリーランスのルポライターではないかという印象を強く持った。ギリシャ世界をあちこち旅してまわり、集めた事実や噂話を、捏ねあげた餅を千切っては放り投げるようにして「歴史」の中へ書き込んだように思われる。

追加の感想:本書は、巷間イメージされるような「お堅い学術書」なんかでは、決してありませぬぞ。これは、いまからおよそ二千五百年前の古代ギリシャに生きた、あるイオニア人が、地元のギリシャ世界をはじめとして、ペルシャからエジプトにかけて各地を歴訪し、その地で聞き集めた事件や神話、うわさ話などを片っ端から書き込んだ、いってみれば「探訪記」ないしは「紀行文」といった体の通俗読み物です。

ヘロドトス自身はこれを種本(台本)として、講談師よろしくあちこちの街(都市国家)で、要望に応じて種本の中の一節を講釈していたようです。その際の講演料は、聴衆から集めるのではなく、都市の公費でまかなわれたようです。街の人たちは寄席にでも行くようなつもりで、娯楽の一つとして聴きに出かけたことでしょう。ーー講釈師、見てきたようなウソを云ひーー実際、読んでみると、これに近いことは、なきにしもあらず、といったところです。

ですから、「世界最古の歴史書」などというご大層な惹句(キャッチ・コピー)に尻込みすることなく、気軽にお読みくださればよろしいのではないかと。しかしとにかく話が長いなあ。長すぎる嫌いがあるけれど。(この部分、2020年11月に追記)

もちろん、専門家による訳本があるので、それを読んでいただいてもよいのだが、ネットで気軽に読める状態にしておくという、物好きな(あるいはヒマをもてあましたバカな)人間が一人くらいいてもよかろうと思う次第です。

最後に、誤訳などお気づきの点をご教示いただければ、有り難いと云爾(シカイフ)。
2017年3月;記

カイロプラクティック・アーカイブスへ

著作権所有(C)2017-:前田滋(Chiropractor;大阪・梅田)