北上次郎編アンソロジーのページ


1946年東京都生、明治大学文学部卒。75年椎名誠らと「本の雑誌」を創刊、2000年まで「本の雑誌」の発行人を務める。目黒考ニでの著作も多数。北上次郎はミステリー文学評論等での筆名。

 
1.
14歳の本棚−部活学園編−

2.14歳の本棚−初恋友情編−

3.14歳の本棚−家族兄弟編−

  


 

1.

●「青春小説傑作選 14歳の本棚−部活学園編−」● ★★




2007年03月
新潮文庫刊
(514円+税)

 

2007/03/29

 

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北上次郎さん編集による“青春小説傑作選”
そのうち本書は、中学生を主人公とする作品を集めた「部活学園編」です。
単に集めたといっても収録した作品の範囲はとても幅広い。現代的なものから明治、大正時代のものまで様々。
鴎外作品や井上靖作品、もはや古典的なイメージがありますが、意外とユーモラスであり、瑞々しかったりと驚きを覚えます。そんな楽しさを味わえるのもこうした“傑作選”だからこそ。
青春小説ファンには嬉しい作品集です。

角田光代「空のスクロール」はイジメをテーマにした作品で本書中唯一暗いストーリィ。
中沢けい「ブラス!ブラス!!ブラス!!!」は、私の好きな楽隊のうさぎからの一部抜粋。是非全部読むことをお薦めします。
森鴎外「ヰタ・セクスアリス」は懐かしい。高1の体育祭の最中に応援席で読みふけっていました。今思うと、嫌な高校生だったよなぁと思う。北上さんによると「明治10年代の寄宿舎生活がどういうものだったかのテキストとして読まれたい」とのこと。自らの性欲の歴史を描いて発禁処分になった問題作といっても、今から思えば穏便なものです。意外とユーモラス。
井上靖「夏草冬涛」は自伝三部作の2番目、旧制中学時代を描いた作品。主人公から感じられる瑞々しさ、溌剌とした輝きには驚きました。

氷室冴子「クララ白書」は少女小説における新しい時代の幕開けとなった作品とのこと。また、氷室さんはコバルト文庫のフロントランナーというべき存在とか。
3年生になってから寄宿舎入りした主人公が食料庫に夜間忍び込んでドーナツを45個作り上げるという課題を与えられるというストーリィ。女子寄宿舎の雰囲気と思いもかけぬ温かさが味わえる作品で、これはもう楽しいという他ありません。
川西蘭「決戦は金曜日」は、柔道を題材としたスポーツ小説。可愛い女の子・友里に何度も投げ飛ばされ歯が立たず。その友里との再戦に主人公が臨むというストーリィ。これはもう他の作品も読みたくなり、早速光る汗を図書館から借りて読みました。

松村雄策「F列十二番」はビートルズら来日した際の武道館公演を題材にした作品。中学時代とはそれまでの友達との別れ道ともなる時期だったなぁ、と思い出させられます。
大岡昇平「青山学院」は大正時代の青山学院・渋谷周辺を描いた作品でもの珍しさが先立ちます。「いわゆる自叙伝が、少年の感情生活ばかりを書いて、知識を獲得して行く過程を書かないのは間違いだと思っている」という文章には、北上さんならずとも多いに同感するところ。

角田光代「空のスクロール」/中沢けい「ブラス! ブラス!! ブラス!!!」/森鴎外「ヰタ・セクスアリス」(抄)/井上靖「夏草冬濤」(抄)/氷室冴子「クララ白書」(抄)/川西蘭「決戦は金曜日」/松村雄策「F列十二番」/大岡昇平「青山学院」/解説:北上次郎

 

2.

●「青春小説傑作選 14歳の本棚−初恋友情編−」● ★★




2007年04月
新潮文庫刊
(590円+税)

 

2007/05/02

 

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第2冊目は、中学生を主人公に初恋、友情を描いた作品集。
本書収録8篇の内、読んだことがあるのは4篇でした。

石田衣良「びっくりプレゼント」のプレゼントには、読んだ時本当にびっくりしました。今の中学生はこんなかぁ、と驚いたのですが、その瑞々しさは魅力でした。でも、友情という点においては従来の小説作品と変わるものではありません。
三島由紀夫「仮面の告白」は中3の時に読みました。後で知ったことですが、当時ウチの母親が年上の従姉に読ませて大丈夫だろうかと相談していたらしい。高校時に「禁色」等の三島作品は愛読しましたけれど、さすがに中3では愛読までには至らず。本作品を読んだのはそれ以来。そういえば、そんな話だったのだ。

山田詠美「ひよこの眼」は中学生にしては厳しい話。でも、人生について知り始めたのはこの頃からだったかもしれません。
笹生陽子「サンネンイチゴ」は冒頭だけですが、久しぶりに読んでもワクワクする面白さを感じます。何といっても、学校きってのトラブルメーカーと噂される柴咲アサミの人物造形が秀逸。その他、主人公のナオミヅカちんも瑞々しい魅力を備えていて、是非お薦めしたい作品です。

三田誠広「いちご同盟」は、ホントに冒頭のみ。これではたまりません。読みたくなり図書館で借出しました。
中場利一「岸和田少年愚連隊」は今さら言うまでもない作品かもしれません。それにしても、よくまァあれだけあっけらかんとしていられるものだと感心。
佐藤多佳子「ホワイト・ピアノ」「九月の雨」に収録されている連作短篇集、最後の一篇。北上さんが言うとおり、最後の一言が気持ち良く響きます。

石田衣良「びっくりプレゼント」/三島由紀夫「仮面の告白」(抄)/山田詠美「ひよこの眼」/志水辰夫「旅立ち」/笹生陽子「サンネンイチゴ」(抄)/三田誠広「いちご同盟」(抄)/中場利一「岸和田少年愚連隊」(抄)/佐藤多佳子「ホワイト・ピアノ」/解説:北上次郎

   

3.

●「青春小説傑作選 14歳の本棚−家族兄弟編−」● ★★




2007年05月
新潮文庫刊
(552円+税)

 

2007/05/27

 

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これまでの2巻は、いかにも中学生が主人公らしい作品が殆どだったのですが、本巻ではそんな思い込みを見事にひっくり返された感じ。

まず梨木香歩「西の魔女が死んだ」は児童向けの名作。少し読んだだけでも素晴らしい作品であったことがすぐ思い出され、順調な滑り出し。
・・・と思ったら次の内田春菊「田中静子14歳の初恋」に愕然。こんな事実をこんなにさらりと書いて良いのだろうか。それが衝撃を受けた最大の理由です。
そしてそれに続く田島斗志之「嘘だろ」で、さらにショック。前2巻との余りの違いに呆然としてしまいました。
その2篇からの立ち直りは、志賀直哉「母の死と新しい母」のおかげ。実母が死んだ後にきた新しい母への気持ちの高ぶりがストレートに描かれていて見事。亡くなった実母には気の毒なことかもしれませんが、若い心の自然な動きとして納得できるストーリィです。

未読作品の中、(抄)なので全篇を読んでみようかなと気をそそられたのは三浦綾子「積木の箱」野中ともそ「宇宙でいちばんあかるい屋根」の2作。ただし、実際に読むかどうかは未定です。

余りに悲惨で涙を禁じ得なかったのは、井上ひさし「汚点」
孤児院に入ってる兄、他所の町でなんとか屋台の商売を成り立たせようと奮闘している母親、ラーメン屋に人質代わりに置いていかれ主人夫婦に情け容赦なくこき使われている弟、という三人の家族を描いた中篇。今の時代からすると信じ難いような困窮の生活ですが、それでも泣き言を口にせず、家族の絆でしっかり結ばれている兄弟の様子には深く胸打たれます。

※なお、ベストセラーになると読まないというのは私の悪い癖ですが、五木寛之「青春の門」のそんな作品のひとつ。(抄)にしか過ぎませんが、初めて読みました。

梨木香歩「西の魔女が死んだ」(抄)/内田春菊「田中静子14歳の初恋」/田島斗志之「嘘だろ」/五木寛之「青春の門」(抄)/志賀直哉「母の死と新しい母」/川端康成「故園」(抄)/三浦綾子「積木の箱」(抄)/野中ともそ「宇宙でいちばんあかるい屋根」(抄)/森絵都「DREAD RED WINE」(「永遠の出口」 第4章)/井上ひさし「汚点」/宮本輝「蛍川」(抄)/解説:北上次郎

 


  

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