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1.西の魔女が死んだ 2.丹生都比売 4.裏庭 5.からくりからくさ 6.りかさん 8.家守綺譚 10.ぐるりのこと |
沼地のある森を抜けて、水辺にて、この庭に、f植物園の巣穴、『秘密の花園』ノート、渡りの足跡、ピスタチオ、不思議な羅針盤、僕はそして僕たちはどう生きるか、雪と珊瑚と |
エストニア紀行、鳥と雲と薬草袋、冬虫夏草、海うそ、丹生都比売−梨木香歩作品集−、西の魔女が死んだ−梨木香歩作品集−、私たちの星で、椿宿の辺りに |
●「西の魔女が死んだ」● ★★★ |
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1996年04月 2001年08月
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題名からはホラー的な印象を受けてしまうのですが、本書はそんな内容ではありません。 “西の魔女”とは、主人公である中学生・まいのおばあちゃんのこと。 おばあちゃんはイギリス人で、日本人の祖父と結婚して日本に住みついた人です。“魔女”とは、そのおばあちゃんの不思議な魅力をまいが表現した言葉。ですから、この呼び方にはまいの尊敬の気持ちがこもっています。 中学に入ってまもなく登校拒否をするようになったまいを心配して、両親は田舎に住むおばあちゃんの元にまいを預けることにします。 そんな生活の中で、まいも魔女を目指し、おばあちゃんの言い付けに従って、きちんとした生活、自分の意思をしっかりもつことを身につけていきます。 魔女をモチーフに、おばあちゃんからまいへ伝えるものがしっかり描かれ、豊かな気分が読後に残る作品です。 |
※映画化 → 「西の魔女が死んだ」
●「丹生都比売(におつひめ)」● ★☆ |
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天武天皇と持統天皇の間に生まれた草壁皇子を主人公とした作品です。小説というより、草壁皇子を悼む物語詩のような印象を受けます。
舞台は吉野山中、時代は第38代天智天皇の皇位継承を大友皇子と争った壬申の乱(672年)直前の頃。この吉野山中にて、大海人(おおあま)皇子(後の天武天皇)は、丹生都比売という姫神の加護を得る為祈願を続けています。 愛するがゆえに、それと知りつつ母親を受け入れようとする草壁皇子の静かな態度には、他の皇子たちと違った神秘さが感じられます。そんな草壁皇子にこそ、丹生都比売はキサという娘の姿を借りて姿を現した、というように思います。 なお、歴史事実としては、草壁皇子は若くして死去、その皇子である軽皇子が第42代文武天皇として 697年即位。それまでの間を持統天皇が即位して天武天皇との間を埋めています。 |
●「エンジェル エンジェル エンジェル」● ★ |
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2004年03月 2002/02/17 |
孫娘と祖母の交流を通じて、少女の心が受けた試練と成長を描くストーリィ。
コウコの家に、痴呆の進んだばあちゃんが同居することになります。コウコは、ばあちゃんの夜中のトイレの世話を引き受けたところ、念願だった熱帯魚を飼う許可を貰える。 時に、意図しないまま悪い事をしてしまうことがあります。 |
●「裏 庭」● ★★ 第1回児童文学ファンタジー大賞 |
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2001年01月 2001/04/10 |
英国人のバーンズ一家が昔住んでいた洋館。その残された庭は、今や荒れ果てていますが、近所の子供たちにとっては貴重な遊び場となっています。 主人公の照美は、双子の弟・純が死んで以来、両親が共働きでレストランを経営していることもあって、殆ど2人から構われることもないという孤独な少女。そんな彼女が親しんだのは、友達・綾子のおじいちゃんでした。おじいちゃんが語るバーンズ家の庭には、照美の興味を強く惹きつけるものがあります。それは、秘められた「裏庭」の存在。 或る日、照美はバーンズ家の庭を再び訪れ、遂に「裏庭」の世界へ入り込みます。そこでは重大な危機が到来。照美は元の世界に戻るため、そしてこの裏庭の世界を守るため、庭番スナッフに伴われて冒険に踏み出します。なにやら、エンデ作品を思い浮かべさせられるストーリィです。 裏庭世界での照美の冒険は、単なる冒険物語ではなく、ひとりの少女を成長させることでもありました。それと、同時に、照美の両親、バーンズ一家の娘だったレイチェルや照美の母親たちに、過去の心の傷を清算させるストーリィにもなっています。 本書は、日本における数少ないファンタジー作品として、希少価値ありと感じる作品です。 |
●「からくりからくさ」● ★★☆ |
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2002年01月
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とても良い本でした。でも、この作品の良さを言葉で表現するのはとても難しい。とりあえず言えることは、本作品の雰囲気がとても良い、ということです。 ストーリィは、一軒の家に同居する4人の女性と、りかさんという人形を中心としたものです。祖母が亡くなって、その古い日本家屋に蓉子が移り住むことになります。植物染料による染め物を仕事にしている蓉子としては、仕事場を確保する都合上ちょうど良かったというのがその事情。そして、その家の下宿人となるのが、鍼灸師の資格を取ろうとする留学生マーガレット、美大の学生で機織りをしている紀久と与希子の3人。そしてもうひとり、蓉子が祖母から譲り受け長年親しんできた人形のりかさん。 4人の女性は各々個性的。しかし、全員が手仕事に携わっているという共通点があります。機織りといっても、紀久は紬、与希子は中近東のキリムと、関心先は異なります。古い家には庭もあり、様々な草が生え、彼女たちはそれら植物と共棲して生活しているという風です。そのこと自体、現代社会からするととても貴重なこと。また、一緒に暮らすうち、お互いに感化し合い、彼女たちはひとつの家族としてまとまっていきます。 ストーリィ展開としては、彼女たちの仕事ぶりが描かれ、それと並行してりかさんにまつわる過去の謎解き話があります。その展開は、まるで四季の移ろいを見るようです。ですから、ストーリィに軽く乗せられて進んでいくような印象があって、快さを感じます。 最後の結末は思いがけないものでしたが、締めくくりとしては見事なものだったと思います。 |
●「りかさん」● ★★☆ |
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2003年07月 2001/05/12 |
本書の主人公は「からくりからくさ」に登場する蓉子と、人形のりかさんです。その意味では、姉妹作品と言って良いのでしょうが、本書は児童書として書かれています。
ストーリィは、ようこがリカちゃん人形を欲しがったことから始まります。でも、ようこの願いを聞いたおばあちゃんが送ってきたのは、黒髪の市松人形。それがりかさん、祖母が言う“気立てのいい人形”です。 1.養子冠之巻/2.アビゲイル之巻 |
●「春になったら莓を摘みに」● ★★ |
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2006年03月
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本書題名には、どんな内容なのかちょっと戸惑いを覚えます。 梨木さんが英国留学したのは、20年も前の学生時代のこと。その時下宿した先の女主人が、本エッセイの中心人物でもあるウェスト夫人です。アメリカ人ですが、ロンドンの真北に位置する田舎町S・ワーデンに住む児童文学者で、様々な人たちを下宿人として迎え入れています。 ジョーのこと/王様になったアダ/ボヴァリー夫人は誰?/子ども部屋/それぞれの戦争/夜行列車/クリスマス/トロントのリス/最近のウェスト夫人の手紙から ※英国滞在中の魅力溢れる下宿先女主人というと、林望「イギリスは愉快だ」に登場する児童文学作家ルーシー・M・ボストン夫人を思い出します。ただ、同書がイギリス観察記だったのに対し、本書はウェスト夫人への敬愛の書という点で違いがあると言えるでしょう。 |
●「家守綺譚(いえもりきたん)」● ★★ |
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2006年10月
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文筆業らしい主人公が家守りとして移り住んだのは、学生時代の亡き友人の実家。そこは、いろいろな木々が伸び放題で栄耀栄華を極めている和風の庭と、湖からの用水路に繋がる池のある2階建ての日本家屋。 その家で主人公は、サルスペリの木に惚れられたり、床の間の掛け軸から亡き友人が訪れてきたり、狸や狐に化かされたり。さらには白木蓮がタツノオトシゴを孕んだりと、様々な出来事に出会います。 また、外から付いてきて住みついた犬のゴローは、河童と親密になったり、そのうえ仲裁役として評判を高めたりという次第。 面妖な出来事ばかりと言えますが、ホラーには程遠く、どこか春風駘蕩ともいうべき気分の良さがあって、楽しくなります。 サルスベリ/都わすれ/ヒツジグサ/ダァリヤ/ドクダミ/カラスウリ/竹の花/白木蓮/木槿/ツリガネニンジン/南蛮ギセル/紅葉/葛/萩/ススキ/ホトトギス/野菊/ネズ/サザンカ/リュウノヒゲ/檸檬/南天/ふきのとう/セツブンソウ/貝母/山椒/桜/葡萄 |
●「村田エフェンディ滞土録」● ★★ |
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2007年05月 2023年02月
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時は百年前に遡る1899年、土耳古(トルコ)文化研究のため土耳古皇帝に招聘された日本人留学生・村田を主人公とする、異国の地スタンブールでの青春記です。 (イ)スタンブールには、イスラム教徒のトルコ人もいれば、ユダヤ教徒、ギリシア正教のギリシア人もいるといった、まさに人種の坩堝といってよい街。 その村田が下宿したのは、英国人ディクスン夫人が経営する下宿で、同居人はドイツ人オットー、ギリシア人ディミィトリス、使用人はムスリムのムハンマドといった、スタンブールを象徴するような住まい。その下宿には、ムハンマドが拾ってきた人騒がせな鸚鵡までいます。 なお、“エフェンディ”とは学問を修めた人物に対する敬称で、ムハンマドが下宿人に呼びかける時の言葉。 スタンブールでの生活が詳細に語られる訳でなく、断片的な書き覚えという印象を受けますが、その辺りがいかにも百年前的。 時は百年前、舞台はイスタンブールという、極めて希少な舞台設定が、他の青春記にはない瑞々しさを味わわせてくれます。 ※村田が帰国後訪ねる友人綿貫は「家守綺譚」の主人公らしい。 |
●「ぐるりのこと」● ★☆ |
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2007年07月
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雑誌「考える人」に連載されたエッセイの単行本化。 表題の「ぐるりのこと」とは、自分(梨木さん)の周囲にある様々なことの意味。
内容は文字どおり、九州山奥の小屋でのこと、イスラム教国への旅でのこと、長崎県少女殺人事件から、映画「ラストサムライ」、アイヌのことまでと、まさに多彩。各篇のテーマは必ずしも共通したものではありません。 向こう側とこちら側、そしてどちらでもない場所/境界を行き来する/隠れたい場所/風の巡る場所/大地へ/目的に向かう/群れの境界から/物語を |
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