梨木香歩
(なしきかほ)作品のページ No.1


1959年鹿児島県生。英国留学し、児童文学者ベティ・モーガン・ボーエンに師事。「西の魔女が死んだ」にて第28回日本児童文学者協会新人賞・第13回新美南吉児童文学賞・第44回小学館文学賞、「裏庭」にて第1回児童文学ファンタジー大賞、2011年「渡りの足跡」にて第62回読売文学賞(随筆・紀行賞)を受賞。


1.西の魔女が死んだ

2.丹生都比売

3.エンジェル エンジェル エンジェル

4.裏庭

5.からくりからくさ

6.りかさん

7.春になったら莓を摘みに

8.家守綺譚

9.村田エフェンディ滞土録

10.ぐるりのこと


沼地のある森を抜けて、水辺にて、この庭に、f植物園の巣穴、『秘密の花園』ノート、渡りの足跡、ピスタチオ、不思議な羅針盤、僕はそして僕たちはどう生きるか、雪と珊瑚と

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エストニア紀行、鳥と雲と薬草袋、冬虫夏草、海うそ、丹生都比売−梨木香歩作品集−、西の魔女が死んだ−梨木香歩作品集−、私たちの星で、椿宿の辺りに

 → 梨木香歩作品のページ No.3

 


     

1.

●「西の魔女が死んだ」● ★★★
      
日本児童文学者協会新人賞・新美南吉児童文学賞・小学館文学賞


西の魔女が死んだ画像

1994年04月
楡出版刊

1996年04月
小学館・復刊

2001年08月
新潮文庫化


2001/05/14


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題名からはホラー的な印象を受けてしまうのですが、本書はそんな内容ではありません。
“西の魔女”とは、主人公である中学生・まいおばあちゃんのこと。
おばあちゃんはイギリス人で、日本人の祖父と結婚して日本に住みついた人です。“魔女”とは、そのおばあちゃんの不思議な魅力をまいが表現した言葉。ですから、この呼び方にはまいの尊敬の気持ちがこもっています。

中学に入ってまもなく登校拒否をするようになったまいを心配して、両親は田舎に住むおばあちゃんの元にまいを預けることにします。
まいにとっておばあちゃんとの暮らしは、不思議で興味深いことばかり。まるでおばあちゃんが魔法を使っているようです。
でもそれは、都会生活から見る故不思議にみえること。読んでいると、グリーン・ゲイブルスのアンの暮らしぶりを連想させられます。

そんな生活の中で、まいも魔女を目指し、おばあちゃんの言い付けに従って、きちんとした生活、自分の意思をしっかりもつことを身につけていきます。
子供が育っていく過程でそれらがどれだけ大切な事か、素直に感じさせられます。

まいが両親の元に戻って2年後おばあちゃんは亡くなりますが、「西の魔女から東の魔女へ」というまい宛のメッセージが残されている。自然と笑みが浮かびます。

魔女をモチーフに、おばあちゃんからまいへ伝えるものがしっかり描かれ、豊かな気分が読後に残る作品です。

※映画化 → 「西の魔女が死んだ

     

2.

●「丹生都比売(におつひめ)」● ★☆


丹生都比売画像

1995年11月
原生林刊
(1165円+税)



2001/06/30

天武天皇持統天皇の間に生まれた草壁皇子を主人公とした作品です。小説というより、草壁皇子を悼む物語詩のような印象を受けます。

舞台は吉野山中、時代は第38代天智天皇の皇位継承を大友皇子と争った壬申の乱(672年)直前の頃。この吉野山中にて、大海人(おおあま)皇子(後の天武天皇)は、丹生都比売という姫神の加護を得る為祈願を続けています。
物語のポイントは、讃良(うののさらら)皇女(天智天皇の娘・大海人皇子の后、後の持統天皇)と、その実子である草壁皇子の関係にあります。
病弱な草壁皇子は、天智天皇の強者の性格をそのまま引き継いだようなその母親とは対照的な人柄。
本書では大海人皇子、次いで草壁皇子に皇位継承させるため、建皇子、大津皇子を毒殺により排除してきた可能性を野讃良皇女に匂わせています。

愛するがゆえに、それと知りつつ母親を受け入れようとする草壁皇子の静かな態度には、他の皇子たちと違った神秘さが感じられます。そんな草壁皇子にこそ、丹生都比売はキサという娘の姿を借りて姿を現した、というように思います。

なお、歴史事実としては、草壁皇子は若くして死去、その皇子である軽皇子が第42代文武天皇として 697年即位。それまでの間を持統天皇が即位して天武天皇との間を埋めています。

     

3.

●「エンジェル エンジェル エンジェル」● 

エンジェルエンジェルエンジェル画像

1996年04月
原生林刊
(1200円+税)

2004年03月
新潮文庫化

2002/02/17

孫娘と祖母の交流を通じて、少女の心が受けた試練と成長を描くストーリィ。

コウコの家に、痴呆の進んだばあちゃんが同居することになります。コウコは、ばあちゃんの夜中のトイレの世話を引き受けたところ、念願だった熱帯魚を飼う許可を貰える。
しかし、折角飼ったエンゼル・フィッシュは、その名と裏腹に、悪魔のような姿を見せ始める。
そのコウコのストーリィと交互に、ばあちゃんがまだ女子学生サワコだった頃の、ばばちゃまとのストーリィが語られます。学校生活において一つ、サワコには後悔する出来事がありました。

時に、意図しないまま悪い事をしてしまうことがあります。
その時、「私が悪かったねぇ」と神様に優しく言って貰えたら、後悔する心がどれだけ慰められることか。
そんなメッセージを優しく伝えてくれる作品です。

   

4.

●「裏 庭」● ★★    第1回児童文学ファンタジー大賞


裏庭画像

1996年11月
理論社刊

2001年01月
新潮文庫刊
(590円+税)

2001/04/10

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英国人のバーンズ一家が昔住んでいた洋館。その残された庭は、今や荒れ果てていますが、近所の子供たちにとっては貴重な遊び場となっています。
主人公の照美は、双子の弟・純が死んで以来、両親が共働きでレストランを経営していることもあって、殆ど2人から構われることもないという孤独な少女。そんな彼女が親しんだのは、友達・綾子のおじいちゃんでした。おじいちゃんが語るバーンズ家の庭には、照美の興味を強く惹きつけるものがあります。それは、秘められた「裏庭」の存在。
或る日、照美はバーンズ家の庭を再び訪れ、遂に「裏庭」の世界へ入り込みます。そこでは重大な危機が到来。照美は元の世界に戻るため、そしてこの裏庭の世界を守るため、庭番スナッフに伴われて冒険に踏み出します。なにやら、エンデ作品を思い浮かべさせられるストーリィです。
裏庭世界での照美の冒険は、単なる冒険物語ではなく、ひとりの少女を成長させることでもありました。それと、同時に、照美の両親、バーンズ一家の娘だったレイチェルや照美の母親たちに、過去の心の傷を清算させるストーリィにもなっています。
本書は、日本における数少ないファンタジー作品として、希少価値ありと感じる作品です。

 

5.

●「からくりからくさ」● ★★☆


からくりからくさ画像

1999年05月
新潮社刊
(1600円+税)

2002年01月
新潮文庫化



2001/05/08



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とても良い本でした。でも、この作品の良さを言葉で表現するのはとても難しい。とりあえず言えることは、本作品の雰囲気がとても良い、ということです。

ストーリィは、一軒の家に同居する4人の女性と、りかさんという人形を中心としたものです。祖母が亡くなって、その古い日本家屋に蓉子が移り住むことになります。植物染料による染め物を仕事にしている蓉子としては、仕事場を確保する都合上ちょうど良かったというのがその事情。そして、その家の下宿人となるのが、鍼灸師の資格を取ろうとする留学生マーガレット、美大の学生で機織りをしている紀久与希子の3人。そしてもうひとり、蓉子が祖母から譲り受け長年親しんできた人形のりかさん

4人の女性は各々個性的。しかし、全員が手仕事に携わっているという共通点があります。機織りといっても、紀久は紬、与希子は中近東のキリムと、関心先は異なります。古い家には庭もあり、様々な草が生え、彼女たちはそれら植物と共棲して生活しているという風です。そのこと自体、現代社会からするととても貴重なこと。また、一緒に暮らすうち、お互いに感化し合い、彼女たちはひとつの家族としてまとまっていきます。

ストーリィ展開としては、彼女たちの仕事ぶりが描かれ、それと並行してりかさんにまつわる過去の謎解き話があります。その展開は、まるで四季の移ろいを見るようです。ですから、ストーリィに軽く乗せられて進んでいくような印象があって、快さを感じます。

最後の結末は思いがけないものでしたが、締めくくりとしては見事なものだったと思います。
なかなか他の作品では味わえない読み心地があり、是非読むことをお勧めしたい作品です。

  

6.

●「りかさん」● ★★☆


りかさん画像

1999年12月
偕成社刊
(1200円+税)

2003年07月
新潮文庫化

2001/05/12

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本書の主人公はからくりからくさに登場する蓉子と、人形のりかさんです。その意味では、姉妹作品と言って良いのでしょうが、本書は児童書として書かれています。
また、「からくりからくさ」の登場人物に関係する、前の世代の人達が登場するのが楽しい(登美子、内山、マーガレット)。

ストーリィは、ようこがリカちゃん人形を欲しがったことから始まります。でも、ようこの願いを聞いたおばあちゃんが送ってきたのは、黒髪の市松人形。それがりかさん、祖母が言う“気立てのいい人形”です。
一週間経つと、りかさんはようこに話し掛けてきます。それから、ようこは、りかさんのお陰で雛人形、幼馴染の登美子の家の人形たちの声を聞けるようになります。様々な話、中には救ってあげなくてはならない人形もいて、2人はおばあちゃんの力を借りて、人形たちの苦渋を取り除いてやります。そんなストーリィ。
人間と人形の密接な関わり、少女の人形に対する慈しみ、そんな温もりが染み通るように伝わってくる作品です。
大人の女性となった蓉子の人柄も、りかさんとの関わりによって育てられたようです。ですから、「からくりからくさ」を読んだら、本書も併せて読むことをお薦めします。片方だけでは、本当に勿体無い。

1.養子冠之巻/2.アビゲイル之巻

     

7.

●「春になったら莓を摘みに」● ★★


春になったら苺を摘みに画像

2002年02月
新潮社刊
(1300円+税)

2006年03月
新潮文庫化



2002/04/29



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本書題名には、どんな内容なのかちょっと戸惑いを覚えます。
エッセイと言っても、ファンタジーなものか、それとも四季折々の風物を語ったものなのか、と。
しかし、そんな予想とは異なる内容のエッセイ本。

梨木さんが英国留学したのは、20年も前の学生時代のこと。その時下宿した先の女主人が、本エッセイの中心人物でもあるウェスト夫人です。アメリカ人ですが、ロンドンの真北に位置する田舎町S・ワーデンに住む児童文学者で、様々な人たちを下宿人として迎え入れています。
居丈高なナイジェリア人家族、盗みを当然と考えるコソボ難民の姉弟、刑務所帰りの男性、ギリシア人、イスラム教徒等々。
それらは、ウェスト夫人の徹底した博愛精神、「理解はできないけれど受け容れる」ことを観念上だけでなく実践する、強靭な精神力あってのことです。
本書は、そんなウェスト夫人とその下宿人、周辺の人々のことを書き記したエッセイ9篇。そのいずれからも、人生の貴重な教訓を教わる気がします。
※なお、ウェスト夫人とは、梨木さんが師事したベティ・M・モーガンのことのようです。

ジョーのこと/王様になったアダ/ボヴァリー夫人は誰?/子ども部屋/それぞれの戦争/夜行列車/クリスマス/トロントのリス/最近のウェスト夫人の手紙から

※英国滞在中の魅力溢れる下宿先女主人というと、林望「イギリスは愉快だ」に登場する児童文学作家ルーシー・M・ボストン夫人を思い出します。ただ、同書がイギリス観察記だったのに対し、本書はウェスト夫人への敬愛の書という点で違いがあると言えるでしょう。

  

8.

●「家守綺譚(いえもりきたん)」● ★★


家守綺譚画像

2004年01月
新潮社刊
(1400円+税)

2006年10月
新潮文庫化



2004/02/21



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文筆業らしい主人公が家守りとして移り住んだのは、学生時代の亡き友人の実家。そこは、いろいろな木々が伸び放題で栄耀栄華を極めている和風の庭と、湖からの用水路に繋がる池のある2階建ての日本家屋。
その家で主人公は、サルスペリの木に惚れられたり、床の間の掛け軸から亡き友人が訪れてきたり、狸や狐に化かされたり。さらには白木蓮がタツノオトシゴを孕んだりと、様々な出来事に出会います。
また、外から付いてきて住みついた犬のゴローは、河童と親密になったり、そのうえ仲裁役として評判を高めたりという次第。

面妖な出来事ばかりと言えますが、ホラーには程遠く、どこか春風駘蕩ともいうべき気分の良さがあって、楽しくなります。
主人公と亡き友人の他に、犬好きな隣のおかみさん、碁仲間の和尚、さらに“ダァリヤの君”と主人公が呼ぶ娘も登場しますが、彼等に言わせるとどれも、日常ごく普通の出来事。
木々や自然に近く親しみ、四季を感じていた昔の日本には、こうした触れ合いが在ったのでしょうか。
場所・時代ともはっきり書かれていませんが、明治中期、琵琶湖や東海道に近い関西の何処らしい。
意識してのことと思いますが、文章もちょっと古風で、懐かしさを感じます。
伸びやかで気分の良い、まさに私好みの作品です。

サルスベリ/都わすれ/ヒツジグサ/ダァリヤ/ドクダミ/カラスウリ/竹の花/白木蓮/木槿/ツリガネニンジン/南蛮ギセル/紅葉/葛/萩/ススキ/ホトトギス/野菊/ネズ/サザンカ/リュウノヒゲ/檸檬/南天/ふきのとう/セツブンソウ/貝母/山椒/桜/葡萄

    

9.

●「村田エフェンディ滞土録」● ★★


村田エフェンディ滞土録画像

2004年04月
角川書店刊
(1400円+税)

2007年05月
角川文庫化


2004/09/04


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時は百年前に遡る1899年、土耳古(トルコ)文化研究のため土耳古皇帝に招聘された日本人留学生・村田を主人公とする、異国の地スタンブールでの青春記です。
(イ)スタンブールには、イスラム教徒のトルコ人もいれば、ユダヤ教徒、ギリシア正教のギリシア人もいるといった、まさに人種の坩堝といってよい街。
その村田が下宿したのは、英国人ディクスン夫人が経営する下宿で、同居人はドイツ人オットー、ギリシア人ディミィトリス、使用人はムスリムのムハンマドといった、スタンブールを象徴するような住まい。その下宿には、ムハンマドが拾ってきた人騒がせな鸚鵡までいます。
なお、“エフェンディ”とは学問を修めた人物に対する敬称で、ムハンマドが下宿人に呼びかける時の言葉。

スタンブールでの生活が詳細に語られる訳でなく、断片的な書き覚えという印象を受けますが、その辺りがいかにも百年前的。
むしろその為、異国の街で異国の人々と友情を交し合った、日本人留学生の青春風景が一層鮮やかに浮かび上がります。
トルコ革命、第一次世界大戦の勃発により、もはや彼らが再びあのような時間を共有することはできない。だからこそあの日々が愛しい。
時は百年前、舞台はイスタンブールという、極めて希少な舞台設定が、他の青春記にはない瑞々しさを味わわせてくれます。

※村田が帰国後訪ねる友人綿貫は「家守綺譚」の主人公らしい。

 

10.

●「ぐるりのこと」● ★☆


ぐるりのこと画像

2004年12月
新潮社刊

(1300円+税)

2007年07月
新潮文庫化



2005/09/23

雑誌「考える人」に連載されたエッセイの単行本化。
表題の「ぐるりのこと」とは、自分(梨木さん)の周囲にある様々なことの意味。

内容は文字どおり、九州山奥の小屋でのこと、イスラム教国への旅でのこと、長崎県少女殺人事件から、映画「ラストサムライ」、アイヌのことまでと、まさに多彩。各篇のテーマは必ずしも共通したものではありません。
その様々な出来事を、表面的な関わり合いに留まることなく、まるで手で触わってひとつひとつ感触を確かめていこうとするような姿勢が本書からは感じられます。その点が、本エッセイの持ち味。
その意味で象徴的と感じられるのは、長崎県少女殺人事件等の問題を考えてみた「大地へ」の章。
そしてとくに印象に残ったのは、「風の巡る場所」の章。イスラム教国を旅した折、ヘジャーブ姿の女性たちの側に立っていると思い込んでいた一方で傲慢にも観光客気分で彼女たちを写真にとっていたことに気づき、梨木さんが、頭を抱えんばかりの自己嫌悪に陥ったという部分。
梨木さんのファンとしては、初めて読んだエッセイ本ということがまず新鮮です。

向こう側とこちら側、そしてどちらでもない場所/境界を行き来する/隠れたい場所/風の巡る場所/大地へ/目的に向かう/群れの境界から/物語を

   

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