川西 蘭
作品のページ


1961年広島県生、早稲田大学成治経済学部卒。19歳の時「春一番が吹くまで」にて学生作家としてデビュー。小説を多数発表した後に出家。現在は作家と僧侶を兼業。

 
1.
光る汗
(ひかる、汗)

2.坊主のぼやき

3.あねチャリ

  


 

1.

●「光る汗」● ★★☆




1995年03月
集英社

(1359円+税)

1998年06月
集英社文庫
(「ひかる汗」)

 

2007/04/06

 

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溌剌とした若さに満ちた爽快な青春+スポーツ小説、短編集。
川西作品を読むのは「春一番が吹くまで」以来ですが、こんな楽しい小説を書いていたのかと驚きました。本書を読んだのは、北上次郎編「14歳の本棚−部活学園編−に収録されていた「決戦は金曜日」がきっかけです。

テニス、野球、柔道、ゴルフ、バスケ、マラソン。
本書が楽しいのは、勝ち負けにこだわってスポーツをするのではなく、そのスポーツが好きだから、楽しむためにスポーツをやっている、という点です。
それが端的に表されているのは、冒頭の「テニスの時間」。肘を痛めたとき、主人公の貴彦はテニスに一生を賭けるつもりはないと言い切って、医者の指示どおり1ヶ月間練習を休みます。その結果ジュニアクラブから退会させられますが、楽しむためのテニスを選んだことに貴彦は何の悔いもない。その決意は惚れ惚れする程爽快です。そしてその結果でしょうけれど、新たな友情も得たうえ、女の子とのロマンスも発展しそう。青春+スポーツ+恋愛、好いじゃないですか〜。

「野球家族」も楽しい。幼馴染の明日香と主人公・忠太のやり取りも楽しいのですが、主人公の名前の所以が格別。巨人ファンの父親は飛雄馬と名づけようとし、横浜ファンの母親は豊作と名づけようとした。仲裁に入った祖父がつけた名前が忠太。これが伴宙太と一字違いだというのですから、かつての人気マンガ「巨人の星」を知っている人だったら笑ってしまうこと間違いなしでしょう。
「決戦は金曜日」の柔道少年・健太は、凛々しいところが魅力。自分より柔道が強いけれど可愛い友里に惹かれながら、なお柔道に精進する凛々しさを併せ持った健太には、尽きない魅力があります。
最後の「家族が走る日」も楽しい。父親の浮気が原因で別居状態にある両親を仲直りさせようと、双子の姉弟が家族4人そろって市民マラソン大会に出場しようというストーリィです。

若々しく溌剌として爽快、そのうえほのぼのとしたロマンス要素も加えられていて、ユーモアも怠り無いというスポーツ短篇集。お薦めです!

テニスの時間/野球家族/決戦は金曜日/オン・ザ・グリーン/ふたりの相棒/家族が走る日

   

2.

●「坊主のぼやき」● 




2008年06月
新潮社刊

(1300円+税)

 

2008/07/16

 

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「春一番が吹くまで」の川西さんが、お坊さんになっていようとは思ってもいませんでしたので、驚いたのがまず一番。

川西さんの序文によると、就職もせず執筆活動に入ってしまった所為か生活パターンはもう滅茶苦茶。長年そんな生活を続けたところついに身体が軋みをあげたとか。
心が弱っている時ほど宗教に入り込まれ易いもの。人生をリセットするためには清廉なる仏の道に入るのがいいなぁと軽率にも思い、奥さんの実家がお寺さんだったため、その縁で得度。出家してもう10年程になるそうです。
出家してお坊さんにはなったものの、することなすこと一人前のお坊さんには程遠いと述懐しつつ、川西さんがお坊さんの実情について語るエッセイ本。

他人事の苦労話という点で愉快に読めるのは、冒頭「坊主だって正座はつらい」の章。
どうもお坊さんというと、お葬式の時だけ偉そうにして高い料金を取るというイメージを持ってしまうのですが、偉そうにしている陰で実はお坊さんも大変なのである、その象徴が正座である、ということらしい。
まして途中から急にこの道に入った川西さんの苦労、いや苦痛は大変なものであったらしい。
この冒頭の章で、ぐっとお坊さんが身近な存在に感じられます。
そして、実際になってみればお葬式も大変なのだという。
お坊さんといっても今や会社員とか他の職業と兼業していることが多いのだとか。それでも、一旦お葬式が出るとなれば、お葬式をすべてに優先しなくてはならないのであるから・・・。
それらの苦労話を経て、仏教と寄り添うことのサワリを少々。

全くの素人からお坊さんになった川西さんが語るだけに、お坊さんのこと、お坊さんを通じて仏教に寄り添う道を親しみやすく知ることのできるエッセイ本。
それなりに面白く読めました。

坊主だって正座はつらい/健康で長続きする坊さんの生活/「坊主丸儲け」の構図/葬儀はいよいよイベント化されるけれど/読経は焼香のBGMか?/ペットも同じ迷える衆生/祟りと死体も坊さんの守備範囲/葬式坊主だって悪くない

  

3.

●「あねチャリ」● ★★☆




2009年12月
小学館刊

(1300円+税)

 

2010/02/05

 

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女子ケイリン(競輪競技)に夢をかけた、爽快な青春スポーツ小説。
同じ青春スポーツもの短篇集光る汗の爽快さ、再来。川西蘭さんの面目躍如、といったスポーツストーリィです。

手首を故障してバレーボールを諦めた早坂凛。バレーボール部を退部するとともに、高校にも不登校。
そんな凛がようやくめぐり合えたのは、自転車。スピードのあるスポーツ感覚、その爽快さは凛を自宅ヒキコモリから救ってくれます。
ママチャリでサイクリングを始めた凛が偶然出会ったのは、かつて“恐竜”という異名をとった元競輪選手の瀧口。彼との出会いが、凛を新たな世界へ誘っていく。

とにかく“爽快”の一言に尽きます。
自転車で風をきる気持ち良さ、スピート感。そして、限界を超えたところへ挑もうとする強い気持ち。
凛が自転車を駆ってスピードに挑む場面は、真に圧巻です。
そして、凛の心はこれ以上ないくらいにストレート。それがすこぶる気持ち好い。
本作品の魅力は、ストーリィより、自分の目指すところに真っ直ぐ駆け上がろうとする凛の、高い志にあります。
凛に向けた瀧口の、「回せ、回せ、回せ!」という激励の言葉が幾度も小気味よく響きます。

スポーツ小説がお好きな方に、是非お薦め!

   


  

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