野中ともそ作品のページ


東京都生、明治大学文学部文学科演劇学科卒。作家、イラストレーター。1998年「パンの鳴る海、緋の舞う空」にて第11回小説すばる新人賞を受賞し作家デビュー。現在ニューヨーク在住。


1.
宇宙でいちばんあかるい屋根

2.おどりば金魚

3.チェリー

4.ぴしゃんちゃん

5.海鳴屋楽団、空をいく

6.洗濯屋三十次郎

 


   

1.

●「宇宙でいちばんあかるい屋根」● ★★☆


宇宙でいちばんあかるい屋根画像

2003年11月
ポプラ社刊
(1200円+税)

2006年07月
角川文庫化



2007/06/01



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主人公である中学生、大石つばめ“星ばあ”に出会ったのは、書道塾のある古いビルの屋上での夜のこと。
その“星ばあ”は、底意地が悪くてずる賢いうえに、口が悪くてずけずけとした物言いはするわ、頼まれごとの交換条件にコンビニ弁当をしゃあしゃあとねだるわ、呆れ果てるような振る舞いばかり。つばめは最初、ホームレスか?と思ったほど。でもそんな星ばあを憎めなく思うのは、カラッとしていて、言うことに腑に落ちるところがあるからです。
思えば昔はこんな老人、どこにでもいた筈です。少子化やシルバー世代の方がリッチになって物分りの良い優しい老人ばかりになってしまった所為か、星ばあの老人像が懐かしく感じられます。
こんな老人たちがもっと子供たちの身近にいたら、今のようなイジメ、引きこもりの問題などはこんなに多く起きなかったのではないか、そう思えてきます。

情け容赦ない物言いに反発しながら、その大事なところは素直に受け入れる賢さをもったつばめにとって、星ばあとの付き合いは大事なものになっていきます。
親ではなく他人である大人と真正面から向かい合ったの付き合いの中でつばめは、逃げることなく自分の気持ちと正直に向かい合うこと、そして感情を素直に面に出す大切さを知っていきます。星ばあに向かって友達だよと明言できるのも、つばめの成長の証だと思います。
つばめが恋する隣家の5歳年上の大学生、亨くんとのこと。亨くんの姉いずみさんのトラブルのこと、両親のこと、会ったことのない実母のこと。そして星ばあの孫マコトくんのこと。
多感な年頃のつばめがそれらの問題に真っ直ぐ向かい合うことができたのは、星ばあの存在があったからだと思うのです。

つばめの成長物語と絡んで星ばあの存在が忘れ難い佳作です。
なお、本作品がメリー・ポピンズを念頭に置いていることは間違いないこと。空を飛び、屋根を見ればそこに住む人間のことは判ると平然と人を食ったようなことをいう星ばあ。
ファンタジーというべきか、それとも単なるホラというべきか。英国の“ナニー”でなく近所の奇妙なおばあさん、そんなところも日本的でユーモラスに感じられるところです。

 

2.

●「おどりば金魚」● 


おどりば金魚画像

2007年07月
集英社刊

(1500円+税)



2007/11/21



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古ぼけたアパートに暮らす、不器用な人々を描いた連作短篇集。

・男に去られてばかりで恋愛も自立した生活もできないままという36歳の独身女性、依子(よりこ)さん。
・オカマになったひとり息子とのよりを取り戻せないまま妻も亡くした、管理人の太田さん。
・イランから日本にやって来たが騙されて生活もままならなず、小鬼ちゃんと同居することになったジャハドさん。
・男が戻ってくるのをひたすら待ち続けるタミさんと、その小学生の娘=ふうちゃん
・好きになった相手とこじれて別の男性と結婚したが、相手のことがずっと忘れられずにいた依子の母親=草代さん。
・家族がばらばらになってオタクのように暮らす陸二さん。
・タミさんが胸の中で真に待ち続けていたのは、偶然再会したオカマのケイティ(太田敬太郎)だった。

いずれも不器用なために古ぼけたアパートで孤独を囲っているような人ばかり。それでもお互いに関わり合いが生じれば、そこに通じるものがあり、また開けるものがある、といった連作ストーリィ。
そのきっかけとなるのが、階段のおどりばで居心地良さそうに時間を過ごすタミさんと、ひとつ上の階に住む依子さんが親しくなったこと。
階段のおどりばにイランの遊牧民が織ったギャベという絨毯を広げれば、世界はこのアパートだけに限られるのではなく、大きく広がっていることを知ることができる。
そんな場面を描く冒頭作「草のたみ」と、いつものように階段のおどりばに座っていたタミさんが、父親を訪ねてやってきたケイティに再会して、そこからタミさんの楽しかった同級生時代への回想、そして新たな生活の扉が開く「金魚のマント」が秀逸。

味わい深い連作短篇集なのですが、途中の篇にはピンと来るものがなかったり、やや退屈に感じたりと、もうひとつ盛り上がりを掴み切れなかったことが残念。

草のたみ/ダストシュートに星/小鬼ちゃんのあした/イヌとアゲハ/タイルを割る/砂丘管理人/金魚のマント

  

3.

●「チェリー」● ★★☆


チェリー画像

2007年09月
ポプラ社刊
(1400円+税)



2007/11/04



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米国人女性と離婚して日本に戻り再婚した伯父。その伯父が困っている。米国の家を売ってローンを完済したいのだが、その家には離婚したベレニスの母親モリーが住み着いている。しかも家は売るに困るくらいメチャクチャな状態なのだという。
誘われた「僕」は、伯父の背中を押して“魔女”を退治してやろうと一緒に米国に向かいます。
しかし、僕が出会ったその魔女モリーは・・・・・。

本書は、米国“さくらんぼの州”で13歳の「僕」が繰り広げた、純粋に人を恋する物語。
しかもその相手モリーは、70歳過ぎの女性。信じ難い年齢差ですけれど、本書を読んでいる間モリーにそんな年齢は感じません。見えない友達ハーヴェィの話にはギョッとしますが、モリーは純粋無垢で、さくらんぼや鳥や蛙たちの声にも耳を傾け、いつも人に喜んでもらうことを願っている、自然児のような女性。
一方、不躾に近寄ってくる大人にモリーは物怖じし、金儲けしようなどとは微塵も思わない。
そんなモリーが生き生きと魅力を発揮しているのは、さくらんぼの州という舞台があってこそ。
さくらんぼの声に耳を傾けてモリーが作るチェリー・パイ、ヨーグルト・チェリーは絶品!という美味しさ。
移動遊園地で海賊船に乗りてっぺんに達した時に、はちきれんばかりの笑顔でチェリーをばらまくモリーの天真爛漫さには、主人公ならずともメロメロになってしまう。
そんなモリーと一緒に暮しているうちに、「僕」は何が大切なことかを学んでいく。
そして「僕」は帰国した後もお金を貯めて休みになると繰返しモリーの元へと戻っていく。

13歳の少年を主人公にした青春、恋愛、成長物語ですが、何より胸がいっぱいになるのは、モリーというかけがえのない女性を主人公と共に知ったこと。
最後、モリーを思って主人公が流す涙には、清らかな感動が詰まっていて胸熱くなります。

魔女たいじ/ミドリの館/砂丘/果樹園/祭りと海賊船/さくらんぼ小屋、本日開店/池に凍る牛/おわりのパイ/精霊

    

4.

●「ぴしゃんちゃん」● ★★


ぴしんちゃん画像

2009年09月
小学館刊
(1300円+税)



2009/10/13



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何か役割を与えられようとする度に逃げ出し、蒸発を繰り返してきたぼく=ジョーハツと、飛び込み自慢の水しずく=ぴしゃんちゃんが心を通わせるファンタジーな物語。

水たまりを怖がって眺めていた時、背後から突然「見ててくんなきゃ、つまんないっ」という声がかかります。それが主人公とぴしゃんちゃんとの出会い。
ぼくが「ぴしゃんちゃん」と名づけたその水しずく、他の水滴たちと違って、何やら蒸発できない事情があるらしい。

蒸発を繰り返してきた主人公と蒸発できない水しずく。
おしゃべりで元気一杯なぴしゃんちゃんですが、心の底には主人公以上の寂しさを抱えているらしい。
そんな2人がせつない思いを抱えつつ、お互いに励まし合いながら寄り添うように暮らす四季が、ファンタジーに描かれていきます。
野中ともそさん自身による、カラフルな挿画も魅力のひとつ。

水しずくであるが故に、ぴしゃんちゃんは何時いなくなっても不思議ありません。そしてそれは、主人公が彼に好意を持つ人々に対してずっと繰り返してきたことに通じます。
2人の暮らしはずっと続くものではないが故に愛おしい。
ぴしゃんちゃんの目を通して見る世界は、美しく輝いているようです。

         

5.

●「海鳴屋楽団、空をいく」● ★★


海鳴屋楽団、空をいく画像

2012年10月
ポプラ社刊
(1500円+税)



2012/11/14



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人と付き合うのが苦手という天野里男、ある事情で大手食品会社を退職、東京での転職ままならず、日本海沿いの小さな町にある旅館「海鳴屋」で働くことになります。
元々大叔父が経営していて、幼い頃親戚一同で何度も訪れたことのある旅館。今は従兄の
航平が引き継いでいて、温泉と美味しい料理だけが売り物。
ところが航平、旅館経営より従業員たちとの“
スティールパン”バンドの練習の方に熱心。里男を受け入れたのも、従業員というよりバンドのメンバーが必要だったかららしい。
メンバーは航平の他、老若男女を問わない上に、トリニダード出身の
マリオ、ロシア人女性のオリガも加わっていて個性豊か。
和気藹々というバンドですが、メンバーそれぞれ、実はいろいろ寂しい思いを抱えているらしい。
さて“
海鳴屋楽団”、果たしてスティールパンのカーニバルに出場できるのか?
 
家族、仕事、様々な問題を抱えていても、ここに集まって楽器を奏でれば、音が人と人とを繋いでいく。本書のそんな光景が、とても気持ち好い。
それもスティールパンという一風変わった楽器のなせる業、と言って良いでしょう。

※“スティールパン”は、ドラム缶から作られた音階のある打楽器で、カリブ海の島国=トリニダード・トバゴ共和国で発明され「20世紀最後にして最大のアコースティック楽器発明」と呼ばれているのだそうです。
この楽器がどんな音色を持ち、どう入り込み易い楽器であるかを知らないと、本ストーリィの魅力は判り難いと思います。是非ネットで検索して確かめてみてください。

            

6.
「洗濯屋三十次郎(クリーニングやみそじろう) ★☆


洗濯屋三十次郎

2018年08月
光文社刊

(1700円+税)



2018/09/29



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シャッター商店街で今も商売を続ける“中島クリーニング”。
子供の頃から店を継ぐつもりでいた長男の
醤生が、キャリアウーマンの妻がオーストラリアに異動になったことから、彼の地でクリーニング店を展開すると言い、母親を連れて一家でオーストラリアへ移住。そのため急遽、次男の三十次郎に後継店長のお鉢が回って来たという次第。

その三十次郎、全くの素人のくせに脳天気。そのうえ、子供の頃は染みを取ることより、染めることの方が大好きだったと、クリーニング屋の息子のくせしてと、父親である先代店主を嘆かせた存在。
三十次郎を迎え入れた、店を支える70代職人の
荷山(かやま)長門は心配しますが、まずは様子見といったところ。

その三十次郎、染みには残しておくべき染みと、落とさなくてはいけない染みがある、というのが信条らしい。
染み=“人の想い”と置き換えて考えれば良いようです。

中島クリーニング店を訪れる様々な客、三十次郎の幼馴染で今はシングルマザーとなった
みんちゃん(民子)ナコ(菜子)の親子、といろいろな染み、彼らが抱え続けている想いが語られていきます。

趣向は判りますが、分り難いなぁという印象を否めません。こうしたストーリィは連作形式で語られるところが多いのですが、本作では長編ストーリィの中での様々な出来事という形を取っているからでしょうか。

お仕事小説ではなく、といってハートウォーミングというまでには至らず、最後まで得心の行かないまま読み終わってしまったという感じで、どこかすっきりしない思いが残ります。

    


   

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