森 絵都
(えと)作品のページ No.



12.あいうえおちゃん

13.永遠の出口

14.いつかパラソルの下で

15.屋久島ジュウソウ

16.風に舞いあがるビニールシート

17.ラン

18.架空の球を追う

19.この女

20.異国のおじさんを伴う


【作家歴】、リズム、ゴールド・フィッシュ、宇宙のみなしご、アーモンド入りチョコレートのワルツ、つきのふね、カラフル、ショート・トリップ、DIVE!!(1〜4)

森絵都作品のページ bP


気分上々、漁師の愛人、クラスメイツ、みかづき、出会いなおし、カザアナ

 → 森絵都作品のページ bR

 


   

12.

●「あいうえおちゃん」●(絵:荒井良二) ★★


あいうえおちゃん画像


2001年06月
理論社刊
(1000円+税)

2008年09月
文春文庫化


2008/09/23


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子供向けの言葉遊び絵本、と言ったら良いでしょうか。
「あ」から「ら」まで、50音で始まる言葉を連ねた絵本。

でも、大人が読んでも充分楽しいのです。
軽快なテンポで繰り出される言葉の数々、単に言葉を並べているだけではなくユーモアがキラりと光り、そのうえ大人にとってはグサッとくるような言葉が時々混ぜられています。

その幾つかを紹介すると、
・あきすにあったら あきらめな
・しごとにしっぱい しゃっきんく
・そうりもそろそろそだいごみ
・りょうしん りょうほう りすとらちゅう
・りこんのりゆうは りこんれき

上記の中でも極めつけは「そ」!
ちょうど福田総理の政権放り出し辞任に、自民党総裁選真っ最中とあって、笑っちゃいました。
そんな風に笑えるページもありますけれど、どのページを開いて読んでも楽しくなる、そんなところが本書の魅力です。

気分転換と頭の柔軟体操に、是非お薦め。

   

13.

●「永遠の出口」● ★★☆


永遠の出口画像


2003年03月
集英社刊
(1400円+税)

2006年02月
集英社文庫化


2003/04/19


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小学3年から高校卒業まで、連作短篇風につづった少女の成長物語。
思えば、成長物語というと、少年を主人公にしたものが多いのではないでしょうか(私が読んでいないだけかもしれませんが)。その点でも本書を読めたことは、貴重に思います。

もうひとつ、本作品の特徴と言えることは、一章毎の出来事が、主人公である少女・岸本紀子にとって“冒険”であったこと。
ひとつひとつの思い出が少女の成長に繋がっていると一言で片付けてしまえば、それはもうひとつの物語でしかありません。
しかし、実際にその時点、時点での少女にとっては、友人や担任教師への葛藤、一時のぐれ、両親の危機、初めての恋愛体験と、そのひとつひとつが大きな冒険であったのに相違ありません。
連作短篇風にしたからこそ、それは味わえること。そして、その冒険・体験の積み重ねにより、少女は初めて大人への入り口に立つことができたのです。
本書を読みながら、自然とトウェイン「トム・ソーヤーの冒険」を思い出していました。
本書とはちょっと傾向が異なりますが、同じく少女の成長する姿を描いた作品として、佐藤多佳子「黄色い目の魚と併せて読むことをお薦めします。

永遠の出口/黒い魔法とコッペパン/春のあなぽこ/DREAD RED WINE/遠い瞳/時の雨/放課後の巣/恋/卒業/エピローグ

    

14.

●「いつかパラソルの下で」● ★★☆


いつかパラソルの下で画像


2005年04月
角川書店刊
(1400円+税)

2008年04月
角川文庫化



2005/05/28



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のっけから「すごかったんです」「絶倫、だったんです」とか、「私は濡れない女だ」とか出てくるものですから、一体どんなストーリィを森さんは繰り広げようとしているのかと、面喰う思いをしたのが冒頭部分。
異常なくらいに厳格だった父親が死んで、その一周忌を迎えようという時期。父親の厳格さに反発して家を出ていた兄・春日、主人公・野々、母親と同居している妹・の3人は、予想もしなかった父親の姿を知らされて慌てふためき集合します。
父親が胸の中に抱え込んでいた「暗い血」とは何だったのか。3人はその秘密を知ろうと、会ったこともない親戚を訪ねて父親の故郷である佐渡へと向かいます。

“性”にまつわる話かと思えば、父親、ひいては自分たちのルーツを訪ねる旅、ところが結果的には自分たち自身を見つめ直す旅へと、ストーリィは移り変わっていきます。
父親の過去を探る特別な話かと思えば、いつしか普遍的な物語になっている、そのストーリィ移動が実にスムーズで森さんの巧さを感じさせられる部分です。
考えてみれば、誰しも自分の親が傍からみてどんな人間だったのか、知ることはまずないでしょう。本書では、それを捜し求める旅という新鮮さに加えて、彼らを初めて迎える親戚たちの温かさが快い。
そして、父親の呪縛からようやく解放された主人公、兄妹たちの姿にホッとするのは、決して私だけではない筈です。
いろいろな要素が絡み合ったストーリィですが、最後に穏やかな心持ちへと収斂していく、そうした展開がとても気持ち良い。

「いつかパラソルの下で」という題名は、心の底から寛ぐ心良さを存分に味わいたいという、主人公の願望を表したものだと思います。

    

15.

●「屋久島ジュウソウ」● ★★


屋久島ジュウソウ画像


2006年02月
集英社刊
(1500円+税)

2009年02月
集英社文庫化



2007/05/05



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屋久島紀行+旅行エッセイ14篇。
「小説すばる」に連載していたエッセイ「slight sight-seeing」を単行本化する際に、おまけとして屋久島紀行が企画されたらしいのですが、結局屋久島がメインとなってしまったとのこと。
「ジュウソウ」とは尾根を歩く「縦走」のことで、森絵都さんが勘違いしたような「重装備」のことではありません。

この「屋久島ジュウソウ」が文句なしに楽しい。
旅行エッセイは数々あれど登山紀行は珍しい。それも、あの屋久島なのですから。
屋久島というと縄文杉。その場所まで行くことが大変らしいことは知っていましたが、森さん一行が歩いたのは、南の登山口から入って黒味岳宮之浦岳の山頂に登り、山小屋に一泊して翌朝縄文杉等々を見て東側にゴールするという行程。
そんな強行軍を、景色が良いらしい、スニーカーで歩くよ、と御一行は気楽なハイキング気分でいたというのですから、何ともはや。
細田さんというガイドに引率された一行は森さんの他、集英社の編集者3人に、イラストレーター兼カメラマン役の池田さん。
森さんの文章あり、写真あり、水彩画ありと、楽しみ充分な紀行エッセイです。一行の予想もしていなかった苦労話、達成感があるからこそたっぷり楽しい。
山小屋では、「これまでの人生のなかで二番目に汚いトイレだった」「夜も朝も山男たちのマナーの悪さにはうんざりだった」という遠慮ない指摘も良い薬味です。
行程の辛さ、景色の良さ、山小屋の酷さ、ウィルソン株の心地良さ、まるで屋久島に行った気分です。いろいろ文句もあるでしょうけれど、こんな得難い旅行ができるのは羨ましい。

 「slight sight-seeing」は連載24話中14話を自選したものとのこと。こんなにも世界のあちこちへ出かけている作家なんて、そういないのではないでしょうか。行った先でのぼったくりにキレて延々と猛抗議するとは、ホント凄いなぁ。その一方でパリのホテルでシャンパンのプレゼントもあったりするのですから、旅における人との出会いは本当に楽しい。

屋久島ジュウソウ/slight sight-seeing

     

16.

●「風に舞いあがるビニールシート」● ★★☆     直木賞


風に舞いあがるビニールシート画像


2006年05月
文芸春秋刊
(1400円+税)

2009年04月
文春文庫化



2006/07/05



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様々な主人公、様々なストーリィ、そして様々な味わいが楽しめる、とてもお買い得な短篇集。
途中までは追い詰められたような、やや暗い雰囲気のストーリィだったのに、最後に一転してちょっと笑いを洩らしてしまう雰囲気になる、そんな共通点がこの短篇集にはあります。そこが何といっても本書の楽しさ、魅力。
かといって各篇のストーリィに似たところはまるでなく、極めて趣向に富んだ短篇集です。森絵都さんのいろいろな味わいをこの一冊に贅沢に盛り合わせた、フルーツバスケットのような短篇集と言ったら少しは判っていただけるでしょうか。

冒頭の「器を探して」は、折角のクリスマス・イブ、それもプロポーズされる筈という日にわざとらしく岐阜出張を命じられた30代の女性が主人公。仕事と恋人の板ばさみになって同情したくなる主人公が、一転して前向きになり、上司や恋人を見下ろすような顔つきになってしまう、その転換がとても鮮やか。思わず主人公にハイタッチして、高揚感を共有したくなってしまう、これが楽しい。
どの作品にも笑える要素が最後に加えられていて、その僅かな笑いが実に作品を楽しく、気持ち良いものにしているのです。
そうした面白さの代表作と言えるのが「ジェネレーションX」。顧客への謝罪に東京から宇都宮まで車で出かける話なのですが、同乗したメーカーの若手社員はその途中幾人もの友人たちと携帯電話でしゃべり続け。いかにも現代の若者らしいなァと主人公と一緒に呆れるのですが、この若手社員が意外な面を見せ始めるのです。その意外感が実に爽快、見事なのです。

その他では、「守護神」に登場するニシナミユキの人物造形が面白い。そのニシナと対照的にズボラな男と思えた主人公が、古典文学論の展開を経て予想と正反対の面をみせるところ、言いくるめられたような結末の可笑しさも、十分楽しい。
「犬の散歩」は地味ですけれど、主人公と義父母との間に通い合う温かさが嬉しい。
「鐘の音」は仏像修復に絡んだストーリィ。本書では不空件羂索観音菩薩が登場しますが、これは珍しい仏像。仏像好きな私としては、この仏像が登場しただけでも楽しい。なお、本書に描かれたストーリィは、実際にある話なのですよ。
最後を飾る表題作「風に舞いあがるビニールシート」は、国連難民高等弁務官事務所の職員を主人公として現在の国際情勢も視野に入れたストーリィであり、他の5篇とは趣きの異なる力の入った作品です。
いずれにしても森絵都さんの上手さが光る短篇集、お薦めです。

器を探して/犬の散歩/守護神/鐘の音/ジェネレーションX/風に舞いあがるビニールシート

     

17.

●「ラン」● ★★


ラン画像


2005年06月
理論社刊
(1700円+税)

2012年02月
角川文庫化



2008/07/10



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主人公の夏目環は、13歳の時に家族を亡くし、20歳の時に叔母を亡くして、23歳の今は独りぼっち。
誰かと繋ればそれを失った時にまた辛い思いをしなければならないからと、誰とも関わろうとせず日々を過ごしている。
そんな環の前に開けたのは、手に入れた自転車に乗って走り出すと、あの世の入り口にたどり着いて亡くした家族に再会できるということ(「レーン越え」という)。
しかし、いずれ自転車は本来の持ち主に返さなくてはならない。そうなると環が家族にまた会うためには、あの世までの40kmを自力で駆け抜ける他ない。
そんな折に声をかけてきた中年男の誘いに乗り、環は素人連中ばかりのチーム“イージーランナーズ”に加わって、走る練習を始めます。

運動を始める理由にはいろいろあるでしょうけれど、大抵それは前向きなものである筈。ところが環の理由はそれらと全く反対、これ以上ないくらい後ろ向きなものです。
一人ぼっちじゃいけない、誰かと繋がれば必ずいい結果が生まれる筈。しかし、如何にそれは第三者の暢気な言葉であることか。
そうした前向きな気持ちになることが、本人にとってどれだけハードルの高いことか、至難なことであるか、本書の環を見ているとしみじみ感じます。
所詮、走るという行為はただ一人ですること。チームに入ったからといって誰かと繋がる必要はありません。それでもチームの中に身を置いていれば、なんやかやと必然的に繋がりは生まれてきます。
本書は、一旦一人ぼっちになった人間にとって人と再び繋がりを持つことがどんなに難しいことか、そしてそれがどんなに大切なことかを、ゼロに戻って見つめ直した作品だと思います。
(環だけでなく、他のメンバーも心の内に傷を抱えています)

「ラン」という題名からは陸上競技、健全なスポ根ストーリィを予想しますが、本書はそれらとは全く対極にある物語。
敢えて言うなら、独りぼっちでただそこにいるだけの生活を送っている環が、もう一度人生というロードを走り出すまでの物語と言って良いでしょう。
森絵都さんにしては大長編、力作といって間違いありません。
最後、環と一緒に走り出したような気分が爽やかです。

  

18.

●「架空の球を追う Reaching for Imaginary Balls」● ★★


架空の球を追う画像


2009年01月
文芸春秋刊
(1333円+税)

2011年08月
文春文庫化


2009/02/18


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ありふれた日常風景のヒトコマを描いた短篇集。
全篇を通して、軽やかなユーモアが吹き渡っている、という印象です。
平凡なストーリィに終わってしまいかねないところを、軽妙なユーモア感、そこはかとない温かみが、爽快で楽しい読後感をもたらしてくれています。

表題作の題名「架空の球を追う」は、ファンタジーな印象を与えますが、印象と中身は大違い。
ファンタジー風な題名の作品なのに、なぜ“欽ちゃん走り”が出てくるのか。子供たちと一緒に笑わずにはいられない一篇。この篇が冒頭にあるおかげで、ぐっと気持ちが寛ぎます。
本書全般に通じるユーモア感を象徴するような表題作。

どれも楽しいのですが、勢いのある会話が繰り広げられるという点で、女友達同士数人が集まった飲み会で銀座か新宿かの議論を繰り広げる「銀座か、あるいは新宿か」が格別楽しい。
また、登場人物と一緒に読み手まで呆気にとられてしまう面白さという点では、「ハチの巣退治」
ちょうど湊かなえ「少女を読み終わった後だけに「二人姉妹」も刺激的でした。冒頭部分のミステリアスな緊迫感と最後のオチの格差が絶妙。楽しいなァ。

架空の球を追う/銀座か、あるいは新宿か/チェリーブロッサム/ハチの巣退治/パパイヤと五家宝/夏の森/ドバイ@建設中/あの角を過ぎたところに/二人姉妹/太陽のうた/彼らが失ったものと失わなかったもの

     

19.

●「この女」● ★★


この女画像

2011年05月
筑摩書房刊
(1500円+税)

2014年06月
文春文庫化


2011/05/29


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森絵都さん久々の長編小説。
冒険的恋愛小説”と紹介されていますが、その意味はともかくとして、これまでの森絵都作品とはかなり趣きを異にする作品です。
でも、ともかく読んで面白く、読み応え十分な長篇小説。

ストーリィはというと、大阪の
釜ヶ崎(東京での山谷に相当する類する街でしょうか)で働く青年、甲坂礼司が主人公。
いくつかの偶然を経て礼司、ホテルチェーンの成功者として知られる
西谷啓太から、その妻である結子の過去を小説にして欲しいと依頼されます。報酬は3百万円。
もちろんその依頼を受けた礼司ですが、自らの過去を全く語ろうとせず、奔放な結子に振り回されるばかり。
それでも次第に結子の過去を触れていくこととなった礼司は、やがて釜ヶ崎をめぐる陰謀を知ることになります。

鍵となる舞台を釜ヶ崎に置き、生い立ちに痛みを抱えるという点で共通する礼司と結子、2人のドラマが描かれます。
“冒険的恋愛小説”というキャッチフレーズは、如何にも本ストーリィ、そして礼司に相応しい。
本書は、「この女」=結子を描いた作品であると同時に、「この男」=礼司を描いた作品でもあります。
時代を反映し、いくつかの社会現象もストーリィの背景にした点は、昭和〜平成というひとつの時代を思い起こさせてくれ、読了後の余韻は深いものがあります。

          

20.

●「異国のおじさんを伴う Travelling with a Stranger」● ★★☆




2011年10月
文芸春秋刊
(1250円+税)

2014年10月
文春文庫化



2011/11/02



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小気味良くて、洒落ていて、物語り性豊かな短篇集。これは楽しい。
趣向もバラエティに富んでいます。ラブロマンスからファンタジー、苦みと温かさの入り混じったストーリィもあるかと思えば痛快な結末、奇妙な人たちとの邂逅もあり、と。
まるで小ストーリィの宝石箱を開けた、という読み心地です。
そうだなぁ、高校生の頃初めてO・ヘンリの短篇集と巡り合った時の気分が、今回と似ているかもしれません。
その意味で、O・ヘンリ短篇集の現代版、+森絵都風味、といった印象です。
愉しいこと間違いなしの短篇集、お薦めです。

冒頭の
「藤巻さんの道」がまず私好み。ですから冒頭から本短篇集の面白さに嵌りました。
「クリスマスイヴを三日後に控えた日曜の・・・・」は愉快。
「竜宮」には、主人公と一緒に う〜む と唸ってしまいそう。
「母の北上」は、ちょっとしたミステリ風味が味わえますし、「ラストシーン」はスリリングさ、エンターテイメント性、たっぷりです。
「桂川里香子、危機一髪」は、まさか、でもしてやったりと拍手したくなる痛快な篇。
そして表題作
「異国のおじさんを伴う」は、如何にも森絵都さんらしい篇です。

藤巻さんの道/夜の空隙を埋める/クリスマスイヴを三日後に控えた日曜の・・・・/クジラ見/竜宮/思い出ぴろり/ラストシーン/桂川里香子、危機一髪/母の北上/異国のおじさんを伴う

     

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