乙 一 作品のページ No.


1978年福岡県生。17歳の時「夏と花火と私の死体」にて第6回ジャンプ小説・ノンフィクション大賞を受賞し、衝撃のデビューを飾る。
“乙一”という筆名は、昔“Z−1”という機種の計算機を使っていたので、適当にそれをもじった。名前を書くとき、楽だわ、と思ったのだが、キーボードで打つ場合には全然意味がなかった、との本人の弁。
(「石ノ目−著者の言葉」より)
なお、中田永一、山白朝子名義でも作家活動をしていることを2011年、本人が明らかにした。

1.
夏と花火と私の死体

2.天帝妖狐

3.石ノ目(文庫改題:平面いぬ)

4.失踪HOLIDAY

5.きみにしか聞こえない

6.暗黒童話

7.死にぞこないの青

8.暗いところで待ち合わせ

9.GOTH

10.さみしさの周波数


ZOO、くつしたをかくせ!、失われる物語、小生物語、銃とチョコレート、GOTH−モリノヨル、なみだめネズミイグナートのぼうけん、箱庭図書館、Arknoah1-僕の作った怪物

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1.

●「夏と花火と私の死体」● ★★☆
             
1996年第6回ジャンプ小説ノンフィクション大賞


夏と花火と私の死体画像

1996年10月
Jump J books
集英社

2000年05月
集英社文庫刊

(419円+税)

2002/07/23

amazon.co.jp

「夏と花火と私の死体」を初めて読んだのは、北村薫編アンソロジー「謎のギャラリー・特別室3に収録されていたから。
死んだ少女の第一人称で語られるストーリィという斬新さと、作者が当時16歳の高校生だったということが、とても印象的。

この作品は、最初に読んだ時、次にどんな展開になるのか予想もつかない、という感じでした。
そして次に読み直してみると、主人公たちの事件の受け留め方の不思議さを、強く感じます。
犯人となった健くん弥生ちゃんという、小学生の兄妹がもつ残酷さ、殺された五月ちゃんがそれを当然の如く受け容れている奇妙な明るさ、そうした不思議な雰囲気に、読者はいつしか惹き込まれてしまっているのです。
その3人に加え、緑さんという娘を登場させたところが、またお見事。最後まで次の展開を予想させない手腕は、なかなかのものです。
ストーリィの構想は、吉村昭「少女架刑」(「星への旅」に収録)に似ています。両作品の味わいは異なりますが、この際、是非吉村作品も読んでみては如何でしょうか。面白さがより一層膨らむように思います。

夏と花火と私の死体/優子

    

2.

●「天帝妖狐」● ★★


天帝妖狐画像


1998年04月
Jump J books
(集英社)

2001年07月
集英社文庫刊
(438円+税)

  
2002/07/19

第2作品集、中篇2作を収録。
まず「A MASKED BALL ア マスクド ボール」は、高校を舞台にした学園ホラー小説。
となると思い出すのは、恩田陸「六番目の小夜子ですが、同作品ほどの鮮烈な印象は受けませんでした。
とは言っても、学校となれば当然ありうるトイレの落書きを題材にしている点、アイデアのうまさに舌を巻く思いです。
乙一さんは中篇が多く、じっくり読みたいという面では物足りなさもありますが、それを補って余りある小気味良さがあります。それが乙一さんの魅力。

「天帝妖狐」は、禍々しい話なのですが、その割りにさらっとした軽やかな雰囲気があるのが印象的。
主人公が不気味な身体に変わっていく一方で、逆に人間らしい心を増していく、不気味さに対してそれに勝る優しさが描かれている、それをさらっと書いてしまう上手さに唸らされます。これもまた、乙一さんならではの魅力でしょう。
本書は、乙一さんのうまさを感じる一冊。

A MASKED BALL ア マスクド ボール−及びトイレのタバコさんの出現と消失−/天帝妖狐

          

3.

●「石ノ目」● ★☆
 (文庫改題:平面いぬ)


石ノ目画像


2000年07月
集英社刊

(857円+税)

2003年06月
集英社文庫化

 
2002/07/24

中篇4作を収録。
ちょっとしたアイデアを見事に小説に仕立て上げてしまう、そんな乙一さんの上手さに脱帽する一冊。

「石ノ目」は伝承的なホラー話。
石ノ目様に出会ったらその目を見てはいけない、見ると石になってしまうという言い伝え。昔消息を絶った母親を探すため、主人公は友人と山中に入りますが、遭難してしまう。辿り着いた山中の一軒家に住むのは、果たしてその“石ノ目”か...。

「はじめ」は、適当に作り出して罪を押し付けた少女“はじめ”が、実際に姿を現し、主人公及び友人と小学校・中学校・高校を通じて親しく付き合うという、不思議なストーリィ。
「BLUE」は、姿は不細工だが、精神は気高いぬいぐるみBLUEを主人公にしたファンタジー話。乙一作品に共通して登場する主人公像の、究極の姿とも言えます。

「平面いぬ」は、腕に彫った刺青の犬ポッキーが、実在の犬の如く動き出してしまう、というストーリィ。軽妙かつユーモラス。

石ノ目/はじめ/BLUE/平面いぬ。

   

4.

●「失踪HOLIDAY」● ★★


失踪HOLIDAY画像


2001年01月
角川スニーカー文庫刊

(552円+税)

  

2002/07/21

 

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中篇2作を収録。2作とも、心温まるストーリィ+最後にちょっとしたミステリ、という趣向です。

「しあわせは子猫のかたち」は、主人公が引っ越した家で、幽霊と同居することになるという話。
似たようなストーリィに、レヴィ「夢でなければがありますけれど、本作品は青春記+ミステリというのが快い。私好み。
(※趣は違いますが似た作品をもうひとつ:「ささらさや」)

「失踪HOLIDAY」は、14歳の中学生ナオが、義父の愛情を試すため偽装誘拐事件を企てるストーリィ。
そのナオが隠れたのは、なんと自宅の離れ・使用人クニコの住む3畳の和室。いかにもよくある話で、平凡極まりないストーリィ展開となりますが、ナオとクニコの同居生活に徐々に温もりが感じられるところに惹かれます。最後は呆気ないような幕切れですが、その辺りがなんとも上手い! それに加えて、最後のミステリ。ナオならずとも、その快感にニンマリとせずにはいられません。

乙一作品3冊目を読んで感じるのは、否定的に自身をみている主人公が、ストーリィを経て積極的な生き方を見出す、という共通点があること。その温もりが乙一作品の魅力です。

しあわせは子猫のかたち HAPPINESS IS A WARM KITTY/失踪HOLIDAY しっそう×ホリデイ

       

5.

●「きみにしか聞こえない」● ★★


きみにしか聞こえない画像


2001年06月
角川スニーカー文庫刊

(476円+税)

 

2002/07/22

 

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中篇3作を収録。いずれも、切なく、主人公たちへの愛おしさがこみあげてくるストーリィです。
特に私好みなのが、冒頭の「Calling You」
同級生たちとうまくつきあえず、いつも一人で過ごしている女子高校生リョウが主人公。携帯電話を使って友達と繋がっている同級生たちを羨むリョウに、ふと携帯電話の呼び出し音が聞こえます。それは、リョウの頭の中にある携帯電話。それを通じてリョウに、同じ悩みを抱える男子高校生、年上の女性という友人ができます。
結末は切ないものですけれど、そこに至る迄の緊迫感、明らかになる真相は、愛おしさ尽きないものがあります。

「傷-KIZ/KIDS-」は、心の内に傷を抱えた2人の少年の物語。自己犠牲と、彼ら2人の救済のストーリィです。

「華歌」はちょっと幻想的な物語。恋人を列車事故で失って深く傷ついた主人公は、花弁の中央に少女の頭をつけた、不思議な花を見つけます。眼は閉じられたまま、その少女はハミングの歌声をいつも響かせています。
その花の少女の背後には、悲恋ストーリィが秘められています。その切なく、清らかなイメージが印象的な一篇。
最後に乙一さんの仕掛けたトリックが明らかにされますが、それは余計なものだったと思います。

Calling You/傷-KIZ/KIDS-/華歌

     

6.

●「暗黒童話」● 

 
暗黒童話画像


2001年09月
集英社刊

(905円+税)

2004年05月
集英社文庫化

 
2002/07/22

乙一さん初の長編小説。長編ホラー・サスペンスというべき作品です。
しかし、だらだらと長ったらしいという印象。本来中篇程度であればすっきりとまとまったものを、長く引き伸ばした所為、という気がします。
主人公である女子高校生の菜深(なみ)は、事故で左眼を失い、眼球の移植手術を受けます。手術は成功したものの、菜深はそれまでの記憶を失う一方で、時々その左眼にて見知らぬ映像を見るようになります。そしてそれは、猟奇事件に関わるものらしい。
菜深はただ一人、左眼のもたらす映像の真相を確かめるべく、左眼の前の持主だった少年の住んでいた町へと旅立ちます。

ストーリィは、この菜深と、猟奇事件の犯人“ある童話作家”が交互に二人称で語るスタイルで進んでいきます。
したがって、ホラー+サスペンス。しかし、その表面に隠れて、もうひとつ別のストーリィがあります。
それは、以前の記憶を失って、優等生から愚鈍な生徒に変わってしまった菜深の物語。そんな菜深を、友人、母親までもが、まるで疎むかの如く眺めるようになります。そんな周囲の冷たい眼に負けず、菜深は、自分なりに強く生きようと頑張ります。これは乙一作品に共通して感じる要素です。

    

7.

●「死にぞこないの青」● ★☆


死にぞこないの青画像


2001年10月
幻冬舎文庫刊

(457円+税)

  
2002/08/01

主人公マサルは、引っ込み思案、こわがりで、いつもビクビクしているような小学生。
そんな彼のクラスの担任が、若い男性の新人教師に変わります。一見スポーツマンらしく、明るく朗らかそうだったその教師が、何故か急にマサルをイジメだします。まるでクラスの生贄にでもするが如く、マサルの一挙手一投足をとりあげて、すべてマサルの所為にしようとする。そして、クラスメートまでも全員、教師に同調するようになってしまう。
そんなマサルの前に、真っ青で異様な風体をした男の子“アオ”が姿を現すようになって...、というストーリィ。

本作品は、乙一さんが自由に、好きなように書いたとのこと。それ故、乙一さんに共通する要素を含んでいます。
内向的な子供は、常に周りから批難されることを恐れている。そして、自分が追い詰められた時に何をしでかすか判らない、という恐ろしさもまた抱いているものです。
本作品は、そんな子供が恐れている状況を、そのまま具体化したようなストーリィ。
したがって、私個人としては、とても腑に落ちる作品です。
なお、締めくくりは、乙一さんらしい味わい良さ。

  

8.

●「暗いところで待ち合わせ」● ★★☆


暗いところで待ち合わせ画像

2002年04月
幻冬舎文庫刊
(495円+税)

   

2002/07/12

 

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盲目の女性ミチルが一人で住む家に、殺人犯が密かに住み込んでしまうというストーリィ。
そう聞くと思い出すのは、オードリー・ヘップバーン主演の映画“暗くなるまで待って”。本書のストーリィから想像するのがスリリングなサスペンスというのは当然のことでしょう。
ところが、必ずしもそうならないのがこの作者の魅力です。
盲目とはいえその分感覚は常人以上。いつしか、居間の片隅に誰かが潜んでいることをミチルは感じ取ります。そして、それが駅ホームで同僚を転落死させた大石アキヒロであることも。
何故ミチルはそれを友人なりに告げないのか。そこには、父親に死なれて、盲目のままひとりぼっちとなったミチルの孤独性があります。
もう一方の主人公、大石アキヒロもまた、他人と普通に協調できないという、孤立しがちな性格の若者です。

本書の雰囲気は、上記ストーリィから予想されるような暗いものではなく、むしろカラッとした軽やかさがあります。さらに、孤立した生活を余儀なくされた2人を応援したくなる、そんな雰囲気もあります。
そして、最後の結末には、思いもよらぬ逆転劇が用意されています。サスペンスへの期待に最後できちんと作者は応えているのです。そこがまた楽しい。
まさに私好みの作品! お勧めしたい一冊です。

  ※映画化 → 「暗いところで待ち合わせ

   

9.

●「GOTH リストカット事件」● ★★    第3回本格ミステリ大賞


GOTH画像


2002年07月
角川書店刊

(1500円+税)

2005年06月
角川文庫化
「夜の章」
「僕の章」

2002/08/01

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本書の後書きで、乙一さんの売りは切なさにある、と考える向きのあることが語られています。しかし、それは乙一さん自身の弁を待つまでもなく、明らかな誤り。切ないストーリィは乙一さんの一面であって、決して全部ではありません。デビュー作夏と花火と私の死体がそうであるように、殺人、死体を単なるモノあるいは玩具として捉える冷徹さ、子供にみられるような残酷さもまた、乙一さんの持ち味なのです。(だからこそ、その場合の登場人物は、必然的に20歳前となる)
本書もそんな類、「夏と花火」の延長線上にある作品です。

「GOTH」とは、処刑道具や拷問の方法等、人間の暗黒部分に興味を抱く者の呼称だそうです。一種のスタイルだという。
本作品は、そんな「僕」と同級生である森野夜が、猟奇的な殺人事件等を観察するというストーリィの連作短篇集。
各ストーリィとも異常な犯罪事件であり、それを平然と見過ごす主人公2人も不気味。読む人によっては反感さえ覚える内容かもしれません。
しかし、この主人公コンビに、何故か惹きつけられるところがあるのも事実。捨て難い味わいです。本書はそんな一冊。

暗黒系Goth/リストカット事件Wristcut/犬Dog/記憶Twins/土Grave/声Voice

   

10.

●「さみしさの周波数」● ★☆


さみしさの周波数画像


2003年01月
角川スニーカー文庫刊

(457円+税)

  
2002/12/31

 
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スニーカー文庫の他の2冊と比べると、本書の4篇は切なさの面でも、印象の面でも大人しい。しかし、それだからこそ感じる短篇の上手さがあります。短篇の名手であったO・ヘンリに並べたい、味わい良さ。

小学生の時に「お前ら、いつか結婚するぜ」と未来を予想されてしまったことから、彼女との間がギクシャクしてしまうというストーリィを描く「未来予報」、金を盗もうと旅館の壁に穴をあけて手を突っ込んだところとんでもないものを掴んでしまったという、「手をにぎる泥棒の物語」の2篇に、乙一さんらしい切なさとユーモアの味わいがあって秀逸。

「フィルムの中の少女」は、ホラーのような展開でありながら、ファンタジーの如き仕上がりが印象的。
「失はれた物語」は、かつて話題となった映画“ジョニーは戦場へ行った”を思い出させられますが、妻と娘との触れ合い、主人公の置かれた状況にも拘らず明るさがあることに、温もりを感じます。

未来予報−あした、晴れればいい−/手をにぎる泥棒の物語/フィルムの中の少女/失はれた物語

   

乙一作品のページ No.2

 


  

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