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3.くちびるに歌を 4.僕は小説が書けない(共著:中村航) 5.私は存在が空気 6.ダンデライオン |
「百瀬、こっちを向いて。」 ★★☆ |
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2010年09月
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恋愛小説集なのですが、ストレートな恋愛ではなく、といって野球に譬えれば定型的な変化球でもない、さしづめ“ナックル”とでも言いたいような高校生たちの演じるラブ・ストーリィ。 主人公たちは基本的に高校生ですから、ラブ・ストーリィといっても初心で瑞々しいものばかりなのですが、小説作品として何とも心憎いのは、書かれていない部分に魅力があること。 まずは、表題作の「百瀬、こっちを向いて。」 「なみうちぎわ」は水難事故で意識を失って5年、21歳になってようやく意識を取り戻した姫子の物語。 「百瀬、こっちを向いて。」も心憎いのですが、私として傑作!と思わず叫んでしまったのが、最後の「小梅が通る」。 恋愛小説大好きという方なら、読み逃したら損!というべき、楽しさ余りある恋愛小説集。お薦めです! 百瀬、こっちを向いて。/なみうちぎわ/キャベツ畑に彼の声/小梅が通る |
※映画化 → 「百瀬、こっちを向いて。」
「吉祥寺の朝日奈くん」 ★★★ |
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2012年12月
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2匹目のドジョウはそう簡単に柳の下にいるものではない。 前作同様、本書も恋愛を中心とした短篇集。主人公たちは、高校生から20代の男女までと、様々。 ミステリが貴重なスパイスなので、タネを紹介できないのがとても残念です(苦笑)。 交換日記はじめました!/ラクガキをめぐる冒険/三角形はこわさないでおく/うるさいおなか/吉祥寺の朝日奈くん |
「くちびるに歌を」 ★★ |
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2013年12月
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長崎の西方、五島列島にある中学校の合唱部を舞台にしたストーリィ。 顧問の松山先生が出産の為休みをとることとなり、その代わりにやってきたのが幼馴染だという柏木先生。その柏木先生が美人だったことから男子生徒が大騒ぎ。それまで女子部員だけだった合唱部に、何と幾人もの男子生徒が入部希望。 ストーリィは、女子部員の仲村ナズナと、地味で目立たない男子生徒で新たに男子部員となった桑原サトルが交互に語り手となって進められます。その間に時折、部員たちの15年後への手紙が挿入される、という構成。 上記2人だけでなく、他の合唱部員たちの様々な姿も描いて、中学生の迷い苦しみながら進む一年間を綴った、気持ちの好い学園青春ストーリィ、私好みです。 |
※映画化 → 「くちびるに歌を」
4. | |
「僕は小説が書けない」(共著:中村航) ★★ |
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2017年06月
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2人の作家による合作小説。それもこれまでにない試みだったようです。 |
5. | |
「私は存在が空気 Nobody Notices Me」 ★★ |
2018年12月
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ささやかな青春恋愛+ちょっぴり超能力、という趣向の6篇から成る短篇集。 “超能力”という題材はそれ自体でインパクトが強いため、どうしてもそれ中心のストーリィになりがちなのですが、本書は<恋愛>と<超能力>という2つの要素のバランスを巧妙に取り、超能力はあくまできっかけといった位置づけに留めているところが味わいの妙です。 恋愛要素を少々加えての人と人とが繋がるストーリィ、薬味としてちょっとした成長要素も含んでいる、というところが嬉しい。 「吉祥寺の朝日奈くん」のSF版、発展形と言って良いかもしれません。 「少年ジャンパー」:映画「ジャンパー」を彷彿させますが、少年の成長記となっている分、こちらの方がずっと良い。 「私は存在が空気」:主人公を否定的に捉えるのではなく、“超能力”として肯定的に位置づけたところが上手い! 「恋する交差点」:ショートストーリィ。こうしたことがあっても良いかも。 「スモールライト・アドベンチャー」:映画「アントマン」に似た少年版小冒険物語と言って良いかも。動機が笑えます。 「ファイアスターター湯川さん」:宮部みゆき「鳩笛草」を思い出させられるストーリィ。真相にもかかわらず、主役2人の間に穏かな温もりが感じられる処に捨て難い魅力あり。 「サイキック人生」:こうした出会い、結びつきがあっても良いじゃないかと、楽しい気分になってきます。 ※6篇につき私の好みとしては、「少年ジャンパー」、「私は存在が空気」、「サイキック人生」という順番かな。 少年ジャンパー/私は存在が空気/恋する交差点/スモールライト・アドベンチャー/ファイアスターター湯川さん/サイキック人生 |
6. | |
「ダンデライオン Dandelion」 ★★ |
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2021年10月
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11歳の小学生=下野(かばた)蓮司が意識を取り戻すと、そこは病院だった。 あぁそうだ、野球の試合で打球が当たり気を失ったのだ、と蓮司は気付く。しかし、目覚めた自分はいつの間にか大人になっていた、そして時は20年後。 目覚めると自分は高校生から中年女性になっていた・・・というストーリィは北村薫「スキップ」。同作が再生ストーリィであったのに対し本作は青春ミステリ、と言って良いでしょうか。 2019年に目覚めた蓮司は、彼を迎えに来た西園小春から時間が入れ替わった謎について説明を受けます。 一方の1999年、11歳の身体に戻った蓮司は、ある少女を救うためさっそく行動を開始します。残された時間は半日程度。 1999年に一体何があったのか。興味はそのことに惹きつけられます。 2011年から見ればそれは過去のことかもしれませんが、1999年現在にある人物から見れば、それは全てが初めて出会う事実。 蓮司、小春の2人が手を組んで、過去の事件を解決しようというストーリィ。 2つの時にまたがるミステリ、それへの興味、その面白さは言うまでもありません。 しかし、それを超える魅力が、蓮司と小春のドラマにあります。その温もりが中田永一さんらしいところ。 私好みの一冊。中田永一作品、やっぱり素敵だなぁ。 プロローグ/一章/二章/三章/四章/エピローグ |
7. | |
「彼女が生きてる世界線! In a Storyline Where She Lives」 ★★☆ |
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めっちゃ面白い、転生ストーリー。頁を繰る手が止まらず。 本作品のこと、全く知らずにいたのですが、ライトノベル3巻の既刊本。本作はその合本(加筆修正含む)だそうです。 今回刊行が無ければ読まないままとなっていたことでしょう、ただそれは余りにもったいないこと。 主人公は28歳のサラリーマンでしたが、信号無視のトラックにはねられて事故死。しかし、<転生>により新たな人生に踏みだすことになります。 転生ストーリー、そう珍しいものではありませんが、何と転生先は主人公が大好きだったアニメ「きみといっしょにあるきたい」の世界。そして転生した相手は、そのアニメの主人公でないどころか、何と極めつけの悪役=城ヶ崎アクトとは! 転生時12歳のアクト、三白眼に鮫の如きギザギザの歯という凶悪顔。その顔を一目見ただけで誰もが震え上がる、というのですから凄い。そしてその性格も、凶悪顔につり合って極悪、まさに悪魔の如きもの。 そんなアクトに転生した主人公、どうなる? いやどうする? プールサイドで転んで頭を打ち、性格が変わったという理由のもと、その行動を変えていくのです。 何のためかというと、雲英学園高等部に入学してきてやがて出会うはずのアニメのヒロイン=葉山ハルが、骨髄性白血病で死ぬ運命を変え、彼女を救うために。 とにかく極めつけの悪役に転生という設定も面白いし、その悪役が徐々に変わっていく過程と周囲の認識ズレがまた面白い。 アニメの主人公である佐々木蓮太郎と葉山ハルの2人とアクトは本来対立する筈なのに親しくなってしまったり、アクトの腰巾着で学園の嫌われ者だった出雲川史郎や桜小路姫子もアクトの影響を受けて学園の人気者になってしまったりと、原作アニメと展開が異なっていくことにアクトが頭を抱えるのですから、愉快この上ありません。 また、アクトによる、自分の凶悪顔をネタにした自虐ジョークも楽しめます。 ただ、いくら言葉を尽くしても、本作の面白さは伝えることは到底不可能です。 素晴らしいとか、感動的とかいった言葉を吹き飛ばし、とにかくメチャメチャ面白い、という一言に尽きる作品。 お薦め! Act 1/Act 2/Act 3 ※「彼女が生きてる世界線!−@僕が悪役に転生!?」、「 〃 −A変わっていく原作」、「 〃 −B失われた生存ルートを求めて」(ポプラキミノベル)を合本、加筆修正 |