加納朋子作品のページ No.1


1966年福岡県北九州市生、文教大学女子短期学部文芸科卒。化学メーカー勤務を経て、1992年「ななつのこ」にて第3回鮎川哲也賞を受賞し、作家デビュー。95年「ガラスの麒麟」にて第48回日本推理作家協会賞を受賞。95年勤務先を退社して作家専業。夫君は推理作家の貫井徳郎氏。2010年06月急性骨髄性白血病との診断を受ける。


1.
ななつのこ

2.魔法飛行

3.掌の中の小鳥

4.いちばん初めにあった海

5.ガラスの麒麟

6.月曜日の水玉模様

7.沙羅は和子の名を呼ぶ

8.螺旋階段のアリス

9.ささらさや

10.虹の家のアリス


コッペリア、レインレイン・ボウ、スペース、てるてるあした、ななつのこものがたり、モノレールねこ、ぐるぐる猿と歌う鳥、少年少女飛行倶楽部、七人の敵がいる、無菌病棟より愛をこめて

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はるひののはる、トオリヌケキンシ、我ら荒野の七重奏、カーテンコール!

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1.

●「ななつのこ」● ★★   第3回鮎川哲也賞受賞


ななつのこ画像

1992年09月
東京創元社刊

1999年08月
創元推理文庫
(560円+税)


1999/02/04
2004/06/11

   

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初めて読んだ時には、ちょっと良否を判断しにくい作品、と思いました。
まず、ストーリー展開が平面的で盛り上がりに欠けます。登場人物の個性も弱く、主人公が一人芝居を繰り返しているような印象。それに若さがあまり感じられない。
否定的な感想が続いてしまうのですが、何時の間にか心の中に忍び入って愛着心を抱かせてしまう、そんな魅力もあるのです。
ジャンルとしては北村薫的日常ミステリで、7作からなる連作短篇集。

作中小説「ななつのこ」の物語中に展開される謎解きと、主人公が現実に出会う謎解きを、各篇毎に並列するという構成。
作中小説での探偵役はあやめさん、ワトソン役ははやて少年。
一方、本ストーリィでの探偵役は「ななつのこ」の作者・佐伯綾乃、ワトソン役は主人公である短大生・入江駒子
駒子からの手紙だけで綾乃が謎解きをしてしまうのは出来過ぎと思いますが、まあ、いいか。
ところが、最後の最後で急にストーリィが盛り上がり、思わずのめり込んでしまいました。まさに逆転投げをくらった感じです。やはり受賞作というのは只者ではありません。
翌日ざっと読み通してみると、今後はじんわりとこの作品の良さが広がっていくのを感じました。主人公・駒子にも愛着が生まれます。
※私が気に入った作品は「一枚の写真」「白いタンポポ」

スイカジュースの涙/モヤイの鼠/一枚の写真/バス・ストップで/一万二千年後のヴェガ/白いタンポポ/ななつのこ
 


ななつのこ画像

(再読)
作中小説「ななつのこ」の中でのはやて少年と年上の女性・あやめ、主人公・入江駒子と「ななつのこ」の作者・佐伯綾乃、各章にて類似する2つの日常ミステリが展開する連作短編もの。
こうした構造の所為か、知らずに読むと判り難いという印象は拭えません。しかし、再読となればその辺りの特徴が判っているので、落ち着いて本書の良さを楽しむことができます。
本作品の一番の特徴は、細部に行き渡る優しさにある、と言って良いでしょう。謎解き役であるあやめ、綾乃にしろ、優しさがあるからこそ表面的な謎に惑わされず真相を見通すことができる、そう感じます。
本書における駒子の印象は、スペースの駒子とかなり異なります。それは親しい仲間内の駒子と第三者からみた駒子の違い、と整理しておくこととしましょう。

   

2.

●「魔法飛行」● ★★


魔法飛行画像

1993年07月
東京創元社刊

2000年02月
創元推理文庫
(560円+税)


1999/02/14
2004/06/12

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ななつのこの続編。
駒子が手紙の中で自分の出会った出来事を小説風に物語る、そして謎解きはやはりその返事の中で、という前作と同様の構成です。
1〜3篇は、日常ミステリものと言うより、むしろ駒子と友人たちのキャンパス生活ぶりを味わえることがとても楽しい。前作と同じ友人たちなのですけれど、彼女たちの個性がストーリィを生き生きとさせているからでしょうか。考えてみれば、一番楽しい時期ですよね。

各篇の最後には、不可解な手紙が付け加えられています。
最後の篇では、その手紙が重要な要素となり、ストーリィは一気に緊迫感をはらみます。油断大敵、加納さんにヤラレタ!という感じです。やはりミステリなのですね、これは。上手に各篇をひとつの環の物語にまとめ上げたという印象です。
解説の有栖川有栖さんの意見に従う訳ではありませんが、「魔法飛行」が絶品です。予想外の展開だっただけに、まさに魔法を見せてもらったような恋愛小説でした。
「論理(ロジック)じゃない、魔法(マジック)だ」とは、絶妙の書評です。

秋、りん・りん・りん/クロス・ロード/魔法飛行/ハロー、エンデバー
 


魔法飛行画像

(再読)
駒子瀬尾宛てに手紙を書く、という形式で物語られる4篇のストーリィ。
「ななつのこ」の続編で日常ミステリに連なる作品ですが、駒子のキャンパスライフ(短大)という印象が強いのは、最初に読んだ時と同じ。
その4篇の中でずっと忘れられずにいたのが「魔法飛行」。不思議を信じて欲しい男性と、非現実的なことを信じさせて欲しい女性とのファンタスティックなラブ・ストーリィは、秀逸。これからも決して忘れることはないでしょう。
初めて読んだ時と異なり、今回は全体を俯瞰して読むことができました。そこから感じられたのは、各篇において人の微妙な心の奥行きが描かれ、本書はそれらを通じて駒子の成長物語になっている、という点です。
最後の「ハロー、エンデバー」という駒子の呼びかけは、彼女もまた大人の女性に成長を遂げつつある、ということを示すものに他なりません。
本書は、加納さんの魅力の原点を窺うことのできる作品です。

  

3.

●「掌の中の小鳥」● ★★☆


掌の中の小鳥画像

1995年07月
東京創元社刊

2001年02月
創元推理文庫化


1999/02/14


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加納さん3作目の作品なのですが、うまいなあ、たまらないなあ、という絶品の味わいです。
連作短篇5作からなる1冊なのですが、青春のほろ苦さ、若い男女の恋愛過程におけるスリリングさが、日常ミステリというメイン・ストーリィと見事に溶け合っていて、思いっきり魅了されました。
主役は、冬城圭介穂村紗英の2人。殆どは圭介の一人称で語られますが、紗英に代わる部分のあるところが、また楽しいところ。
第一話こそちょっと暗い感じで始まりますが、女性バーテンダーのいる“EGG STAND”という店に舞台を移してからは、わくわくするような期待感が高まっていきます。
都会風の洒落た出会い、やり取りも、思わず羨望してしまうところ。
主たる探偵役は圭介で、彼も魅力ある青年なのですが、とても紗英の魅力には及びません。恋人にするなら、これ程刺激的な恋人もいないでしょう。
最後の幕切れも鮮やかです。同じ男性としては圭介を応援したい気もするのですが、加納さん+紗英の前には諸手を上げて降参する他ありません。
恋愛小説における現代の名品といっても過言ではないでしょう。

掌の中の小鳥/桜月夜/自転車泥棒/できない相談/エッグ・スタンド

   

4.

●「いちばん初めにあった海」● ★★☆


いちばん初めにあった海画像

1996年08月
角川書店刊
(1460+税)

2000年05月
角川文庫化

2019年04月
幻冬舎文庫

1999/02/18

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ワンルームのアパートで一人暮しの千波
引越し準備の最中に見つけた1冊の本「いちばん初めにあった海」、そしてその本に挟まれていた未開封の手紙。
見知らぬYUKIという差出人からのその手紙には、わたしも人を殺したことがあるから」と書かれていた。

本作品は、他の加納作品とちょっと趣が異なり、夢の中をさ迷うかのような雰囲気でストーリィが進みます。
この本は何? YUKIという人は誰? という部分はミステリと言えますが、もっと以前に、この作品は2人の女性の新生を描いた物語なのです。

現在より、過去を探る旅。
千波の新生を助けたYUKI自身もまた、救いを求める女性だったのです。
別々であるかのようなこの2つの物語がひとつの環に収まったとき、静かな感動、大きな感動を手に入れました。
そしてまた、読み手の心もきれいに洗われるような、そんな余韻に浸ることのできる作品です。

いちばん初めにあった海 / 化石の樹

   

5.

●「ガラスの麒麟」● ★★★   第48回日本推理作家協会賞受賞


ガラスの麒麟画像

1997年08月
講談社刊

2000年06月
講談社文庫化

  

1999/02/07

帯の紹介文を借りると、本書は「少女たちの不安定な心をこまやかに描く待望の連作ミステリー」
その通りの、女子高校生をそれぞれストーリィの中心にした連作ミステリ7篇です。各篇の主人公はそれぞれ移り変わりますが、高校の擁護教諭・神野菜生子が一環した狂言回しになっています。
もちろん彼女が謎解きの探偵役なのですが、ストーリィの背後にそっと控えているような役割のため、本書はミステリという以上に青春期を描いた小説という性格が強いように思われます。
加納さんの目線が彼女たちと同じ高さであることがとても貴重です。だからこそ、よく彼女たちの心を映し出しているのでしょう。
野間父娘、小宮夫婦、教師の小幡康子等、温かみのある登場人物が共通して物語に登場しているのも嬉しいところです。連作短篇によくある技法なのですが、本書ではとても良い効果を発揮しています。登場人物たちの魅力の故でしょう。
ただ、最後でストーリィは大きな展開を見せます。それまでの独立した7篇が、実はひとつの輪に繋がるストーリィであることが読者に明かにされます。でもそれは読んでの楽しみに。

ガラスの麒麟/三月の兎/ダックスフントの憂鬱/鏡の国のペンギン/暗闇の鴉/お終いのネメゲトサウルス

   

6.

●「月曜日の水玉模様」● ★☆


月曜日の水玉模様画像

1998年09月
集英社刊
(1600円+税)

2001年10月
集英社文庫化


1999/01/23

ユーモア・ミステリ連作7篇。
こうした、軽く楽しく読める一冊は、気が滅入った時、疲れた時等に自然と読みたくなります。
本書における探偵役は、一般事務職OL・片桐陶子(23歳位)。そして助手役は、毎朝の通勤電車で一緒になる、ちょっとボケっとした若手サラリーマン・萩広海
ミステリとなると、必然的に2人のコンビとなるのでしょうか。OL探偵でもやはりそうかと思うと、コナン・ドイル(シャーロック・ホームズの作者)の偉大さを改めて感じます。
でも、仕事や上司のご機嫌伺いに汲々としている男性サラリーマンに比べ、OLの観察力はずっと優っているというのは実感するところ。
軽い短篇集ですが、本書の中では女性の心理をうまく題材にした「木曜日の迷子案内」「土曜日の嫁菜寿司」に魅力を感じます。

月曜日の水玉模様/火曜日の頭痛発熱/水曜日の探偵志願/木曜日の迷子案内/金曜日の目撃証人/土曜日の嫁菜寿司/日曜日の雨天決行

 ※曜日を抜かして各篇の頭の字をつなげてみてください

   

7.

●「沙羅は和子の名を呼ぶ」● 


沙羅は和子の名を呼ぶ画像

1999年10月
集英社刊
(1700円+税)

2002年09月
集英社文庫化


2000/02/10

幻想的なものとファンタジスティックなものが交じり合ったような雰囲気を 醸し出している短篇集。
従来の作品と比べて加納さんの新しい試みを感じるのですが、全篇を通じて登場人物に対する優しさの感じられるところが、加納さんらしいところです。
作品の趣はそれぞれ異なっていますので、好きだなぁと感じるものもあれば、もうちょっと、と感じる作品もあります。
加納さんのミステリ短編はずっと連作短編形式のものでしたらから、それらに比べて物足りなさを感じてしまうのは、ストーリィに短いヒトコマ以上の展開を味わえないからでしょう。
でも、逆方向から見れば、日常生活のヒトコマを描いた短編小説にミステリのスパイスを振りかけた作品と言うこともできるわけで、そうした面白さを味わうべきなのかもしれません。
冒頭の「黒いベールの貴婦人」が印象的、「商店街の夜」はアイデアが私好み、「オレンジの半分」はホンワリとしていてユーモラス。そして、表題作「沙羅は和子の名を呼ぶ」がやはり一番記憶に残りました。計10篇を収録。

黒いベールの貴婦人/エンジェル・ムーン/フリージング・サマー/天使の都/海を見に行く日 /橘の宿/花盗人/商店街の夜/オレンジの半分/沙羅は和子の名を呼ぶ

   

8.

●「螺旋階段のアリス」● 


螺旋階段のアリス画像

2000年11月
文芸春秋刊
(1524年+税)

2003年11月
2016年09月
文春文庫化


2000/11/23


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早期退職制度を利用して探偵事務所を始めた脱サラ探偵・仁木順平と、飛び込みの探偵助手・市村安梨沙を主人公とした、連作短篇ミステリ。

念願をかなえて探偵業を開始したもののまったくの素人探偵という仁木に対して、美少女でとても人妻と見えない安梨沙が探偵業に不思議なひらめきをみせる、という不似合いな2人は、微笑ましいコンビ。また、各篇ストーリィのいずれにも、「不思議の国のアリス」を連想させる部分があり、その2点に妙がある、と言える作品です(勿論、安梨沙は“アリス”のひっかけ)。

細やかな味わいが楽しいという点で加納朋子ファンには嬉しい一冊ですが、初めて読む人にとっては、ちょっと不自然、ミステリの点でも物足りない、と思われる作品かもしれません。
7篇のうち6篇が夫婦間の愛情に絡むストーリィです。そのうち、ミステリとして印象に残ったのは「螺旋階段のアリス」、ストーリィとしての面白みなら「最上階のアリス」、「子供部屋のアリス」。そして、「アリスのいない部屋」によるまとめ方は、手並み鮮やかなものでした。

螺旋階段のアリス/裏窓のアリス/中庭のアリス/地下室のアリス /最上階のアリス/子供部屋のアリス/アリスのいない部屋

   

9.

●「ささらさや」● ★★☆


ささらさや画像

2001年10月
幻冬舎刊

(1600円+税)

2004年04月
幻冬舎文庫化


2001/10/14

 

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まったく良い本を書いてくれるなぁ、というのが感想の第一。加納朋子さんについてそう感じるのは久し振りのことです。それもまた嬉しい。
さて、本書ストーリィはというと、新婚で子供も生まれたばかりだというのに、夫が交通事故で呆気なく死んでしまい、頼りにする人もなく一人とり残されたサヤが主人公。
そんなサヤを放っておけず、夫である「俺」はユーレイのまま、サヤと赤ん坊のユウスケを見守ることになります。そして、サヤに困った事が起きる度、「俺」は他人の身体を借りてサヤを助けに現れます。
サヤがふと出会った不思議な出来事を、ユーレイである夫が解き明かすという、ファンタジーと日常ミステリーが合わさったような短篇集。しかし、本書の魅力はそんなことよりも、サヤが移り住んだ埼玉県佐々良という小さな田舎町での、優しく懐かしい空間にあります。
人が良すぎて頼りないサヤとユウスケの元に、佐々良の老婦人たちがいつの間にか集い、サヤたちを助けてくれます。そんな彼女等は、それぞれ行き場を見つけられないでいた年寄りたち。内気過ぎて臆病なサヤをじれったく思う場面もしばしばありますが、そんな老婦人たちを自然に受けいれる優しさが、サヤの魅力でもあります。
本書は、サヤが亡き夫にいつまでもすがることなく、次第にしっかりとしてきて、「俺」がサヤに別れを告げるまでの短い時間を描いたストーリィ。
名作とか傑作とは決して言いませんが、最後にはつい涙が目に浮かぶような、優しく切ない連作短篇です。是非お薦め。

トランジット・パッセンジャー/羅針盤のない船/笹の宿/空っぽの箱/ダイヤモンドキッズ/待っている女/ささら さや/トライライト・メッセンジャー

   

10

●「虹の家のアリス」● 


虹の家のアリス画像

2002年10月
文芸春秋刊

(1762円+税)

2005年12月
2016年10月
文春文庫化

2002/11/23

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脱サラ探偵・仁木順平と、切れ者助手・市村安梨沙を主人公とした連作短篇ミステリ。螺旋階段のアリスに続く第2弾です。

前作に比較して変わったのは、次の2点。
ひとつは、本来の主人公である脱サラ探偵・仁木が、前作の経験を経て探偵らしくなり、それなりに推理を展開することができるようになったこと。ただし、もう少し深い推理となると、安梨沙に席を譲らざるをえないようです。
もうひとつは、安梨沙の境遇も凡そ明らかになって、このコンビが落ち着きを見せるようになったこと。
また、本書の特徴として、仁木の娘、息子、安梨沙の実家と、お互いの身内が次々と登場し、〔日常ミステリ+家族ストーリィ〕という趣向になっていることが挙げられます。

なお、本書の魅力は巻末の「加納朋子論」と「インタビュー」。加納ファンとしては読み逃せないところです。

虹の家のアリス/牢の家のアリス/猫の家のアリス/幻の家のアリス/鏡の家のアリス/夢の家のアリス ※つながることへの信頼−加納朋子論/加納朋子スペシャル・インタビュー/加納朋子著作リスト

   

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