恩田陸作品のページ No.


1964年宮城県生、早稲田大学教育学部卒。91年新潮社第3回日本ファンタジーノベル大賞の最終候補作となった「六番目の小夜子」でデビュー。98年04月OL生活に終止符を打ち、作家専業となる。2005年「夜のピクニック」にて第26回吉川英治文学新人賞と第2回本屋大賞、06年「ユージニア」にて第59回日本推理作家協会賞(長編および連作短編賞部門)、07年「中庭の出来事」にて第20回山本周五郎賞、17年「蜜蜂と遠雷」にて 第156回直木賞・2016年本屋大賞を受賞。


1.六番目の小夜子

2.球形の季節

3.不安な童話

4.三月は深き紅の淵を

5.光の帝国−常野物語−

6.象と耳鳴り

7.木曜組曲

8.月の裏側

9.ネバーランド

10.麦の海に沈む果実


上と外、puzzle、ライオンハート、MAZE、ドミノ、黒と茶の幻想、図書室の海、劫尽童女、ロミオとロミオは永遠に、ねじの回転

→ 恩田陸作品のページ bQ


蛇行する川のほとり1〜3、まひるの月を追いかけて、Q&A、夜のピクニック、夏の名残りの薔薇、「恐怖の報酬」日記、小説以外、蒲公英草紙、エンド・ゲーム、チョコレートコスモス

→ 恩田陸作品のページ bR

 
中庭の出来事、朝日のようにさわやかに、猫と針、不連続の世界、きのうの世界、ブラザー・サン シスター・ムーン、六月の夜と昼のあわいに、私と踊って、蜜蜂と遠雷

→ 恩田陸作品のページ bS

   


   

1.

●「六番目の小夜子」● ★★☆  
  ※1992年刊新潮文庫版を大幅改稿


六番目の小夜子画像

1998年08月
新潮社刊
(1400円+税)

2001年02月
新潮文庫化


1998/10/30


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なんとも不思議な魅力を味わわせてくれる作品です。
青春学園ホラー小説とでも言うのが判り易いかもしれません。男女4人の高校生を中心に、彼らが経験する不可思議な最後の一年間。

その高校には、密かに伝えられてきたゲームがありました。そして、今年は6番目にあたるその“サヨコ”の年。
まず、宮沢賢治「風の又三郎」に似た雰囲気があります。どこか懐かしく、ちょっと超自然的な雰囲気があって。
さらに、主人公たちの友情あり、恋愛ありの一年間を読んでいくと、高校生活最後の一年間に対する切ないような思いが、いつしか胸のうちに甦ります。
でも、そんな青春小説でありながら、これはまぎれもなくホラー小説なのです。文化祭のクライマックスの場面では、思わず目が点になり、息を呑まずにはいられませんでした。この場面、このアイデアだけでも読む価値充分!
これは、軽い一冊の中にいろいろな要素を詰め込んだ、欲張りで美味しい作品なのです。それだけに、この作品の魅力を一言で伝えるのはなかなかに難しい。
高校を卒業してしまえば、ただの思い出のひとつになってしまうのかもしれません。けれど...読後の余韻はなかなか消えません。

   

2.

●「球形の季節」● 

球形の季節画像

1994年04月
新潮社刊

1999年02月
新潮文庫化

1998/11/03

東北の小都市I市の中心にある古い谷津町。その町の高校生を中心にしたホラー・ストーリィ。
「5月17日如月山でエンドウさんという子が宇宙人に連れて行かれる」という噂がいつの間にか高校生の間に広まっていた。そして、当日、事実一人の女子高校生が行方不明になった...

高校を舞台にしている点で六番目の小夜子に似た懐かしい雰囲気があります。その一方、谷津町にある男女別4つの高校すべてに及ぶストーリィであることから、高校生群像を描いているという印象を受けます。もしかすると石坂洋次郎「青い山脈」のモダン・ホラー版なのかもしれません。
ホラーの真相は、私個人としてはちょっと納得し難いものがあります。でも、それより地方の高校生が共通して抱えるだろう問題を、ホラーという趣向を使って生き生きと描き出した点に魅力を感じます。
彼ら彼女らひとりひとりの思い、わかるなあ、という感じです。

  

3.

●「不安な童話」● 

不安な童話画像

1994年12月
祥伝社刊

1999年04月
祥伝社文庫化

2002年12月
新潮文庫化

1998/11/18

主人公・古橋万由子は、画家・故高槻倫子の息子から、あなたは私の母親の生まれ変わりだから、母が殺された時の状況を思い出して欲しい と頼まれます。
不気味な頼み事ですが、万由子は既視感という特異な能力をもっていることから、否応なく事件に巻き込まれざるを得ません。

本書は、恩田さん初めての長篇推理小説ですが、成功作とはちょっと言い難い。恩田さん自らも、「出来上がってみたら、こんな“奇妙な話”になってしまっていたのだった」と言っています。
はっきり言って、かなり不完全燃焼に終わった作品です。
ミステリ自体、かなり尻切れトンボな気がしますし、登場人物の魅力があまり生かされていません。
また、私が本書を評価しない理由は、読んでいて自分の気持ちがまるでストーリィに寄り添うことがなかった、ということにつきます。

   

4.

●「三月は深き紅の淵を」● ★★


三月は深き紅の淵を画像

1997年07月
講談社刊
(1800円+税)

2001年07月
講談社文庫化

   

1998/11/17

本書は4部作として構成されています。そしてその4つのストーリィをつなぐのが「三月は深き紅の淵を」という題名の作中本。
どういう本かと言えば、「たった一人にだけ、たった一晩だけしか他人に貸してはなりません」という本なのです。そして、この幻の本もやはり4部作。
ストーリィは、この作中本探し、次いでその作者探しから展開していきます。
4部作のうち3つのストーリィは、それだけ単独に読んでも充分に楽しめます。本好きだからこそ惹きこまれる、という魅力があります。でも、読み進むうち、作中本の4部作と微妙に似た構成であることに気付かざるを得ません。明らかに恩田さんの仕掛けです。
そして4作目。この4作目を受け入れる、受け入れないにより、本書全体の評価まで左右されると思います。皆さんの評価もきっと分かれることでしょう。
でも、私としては4作目を抜きにしてまず前3作を評価したい。そのうえで、4作目の恩田さんの試みを評価してあげたいと思います。
ただ、くれぐれも恩田作品の最初にこの本を選ばないように!

待っている人々/出雲夜想曲/虹と雲と鳥と/回転木馬

  

5.

●「光の帝国 常野物語」● ★★☆


光の帝国画像

1997年10月
集英社刊
(1700円+税)

2000年09月
集英社文庫化

  

1998/11/02

 

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特異な能力をもった常野一族 の人々を主役とした連作短篇集。
読みながら感じた第一の印象は、苦しいなあ、ということ。
最初の「大きな引き出し」からすぐに常野一族の能力が魅力的に披露されるのですが、主役だった春田一族はもうお役御免。次々と主役となる人物は変わっていきます。
その都度、何かまとまりを欠くなあという印象があるのですが、読み進むに連れ、勿体無いなあ、という気持ちに変わります。
それもその筈、あとがきで恩田さん自身言うとおり、本来長篇作品に値するような折角のネタを「その都度違うキャラクターでという浅はかな思い付きを実行したために、手持ちのカードを使いまくる総力戦になってしまった」のです。
常野一族の人々に惹かれるのは、特異な能力以上に、彼らが人間本来の優しさをもっている点にあります。「常野」とは常に野にあるという意味だとか。そんな彼らにしても安閑と存続してきたわけではなく、多くの闘いを経てきています。
この一冊の中には、今後大きく展開するであろう闘いのプロローグともなる部分が幾つか含まれています。本書はその予告作品集、と理解しておいた方が楽しみは大きいかもしれません。
そんな魅力ある主人公たち、ストーリィを短篇に投じる羽目になってしまったのですから、恩田さん、さぞ苦しかったことでしょう。
でも、その分常野一族の人たちへの愛おしさが余韻として残り、今後への楽しみをいっそう期待させてくれる一冊です。

大きな引き出し/二つの茶碗/達磨山への道/オセロ・ゲーム/手紙/光の帝国/歴史の時間/草取り/黒い塔/国道を降りて…

  

6.

●「象と耳鳴り」● 


象と耳鳴り画像

1999年11月
祥伝社刊
(1700円+税)

2003年02月
祥伝社文庫化

    

1999/12/21

本格的推理小説への憧れ捨て難い、という恩田さんの思いから生まれた推理もの短編集です。
探偵役の中心となるのは六番目の小夜子に登場した関根秋の父親で、元裁判官の関根多佳雄。退職して暇を持て余す一方、年季の入ったミステリファンという設定です。収録された作品の中には、春、夏という秋の兄姉、多佳雄の甥・隆一、姪・孝子まで登場しますので、まさに関根ファミリーに依存しまくり、という観があります。
ただ、ストーリィとしては、理論的な推理というより、空想推理という域に近いですねぇ。探偵役たちがどんどん想像を膨らませる一方で、正解か否かがはっきり示されないこともあります。フワフワした綿菓子のような推理短編集、と言いたくなります。エラリー・クィーンヴァン・ダインを愛読した私としては、うーん、ちょっとなぁ、という思いがします。
しかし、書簡小説スタイルとか、いろいろなパターンを試してみました、という恩田さんの気持ちが伝わってくる作品集です。ちょうど光の帝国−常野物語−のように。
表題作の「象と耳鳴り」は、取り合わせの不思議さ、「象をみると耳鳴りがするんです」という始まりから、印象に残る作品です。

曜変天目の夜/新・D坂の殺人事件/給水塔/象と耳鳴り/海にいるのは人魚ではない/ニューメキシコの月/誰かに聞いた話/廃園/待合室の冒険/机上の論理/往復書簡/魔術師

  

7.

●「木曜組曲」● ★★


木曜組曲画像

1999年11月
徳間書店刊
(1600円+税)

2002年09月
徳間文庫化


1999/12/13

耽美派の有名女流作家・重松時子が薬物死を遂げて4年。今年の木曜日もまた、彼女の住んでいたうぐいす館に5人の女が集まった。
時子の異母妹等の静子、絵里子、時子の姪である尚美、つかさの4人と、時子の担当編集者だったえい子。静子と絵里子、尚美とつかさが、それぞれ異母姉妹であるところがややっこしい。

例年の集まりであったのですが、何故か今年は、時子の死の真相を追求する集まりとなってしまいます。それは、時子の死が殺人であったことを示唆する手紙が届いたことがその原因。
普通ならば陰鬱な集まりとなりそうな設定なのですが、4人がそれぞれ作家やフリーライターと時子と同業であること、えい子が料理名人で食卓がにぎやかなことから、むしろ興味津々にストーリィは展開していきます。
各人の物書きとしての個性、時子とのそれぞれの確執などが次第に露わにされていくのですが、アットホームな中で繰り広げられるだけに、変形“若草物語”といったような楽しさがあります。
ミステリとしての謎は大したことないのですが、4人の個性となんとなくとぼけた味わいが楽しくて、私の好みに合う一冊です。

  

8.

●「月の裏側」● ★☆


月の裏側画像

2000年03月
幻冬舎刊
(1800円+税)

2002年08月
幻冬舎文庫化


2000/04/08


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九州の水郷都市・箭内倉 を舞台にしたホラー・ストーリィ。
そこで3件の失踪事件が相次いで起こりました。いずれも掘割に面した家に住む老女でしたが、暫く後にひょっこりと戻ってきました。しかし、失踪中の記憶はまるで失っています。いったい、何があったのか。
その謎の解明に挑むのが、箭内倉に住む元大学教授の三隅協一郎、その娘の藍子、協一郎に呼ばれてやって来た元教え子の音楽プロデューサー・塚崎多聞、N新聞社の箭内倉支部長・高安則久の4人。
その4人が気付いたのは、水に囲まれた箭内倉という街の特異性、そして<人間もどき>の存在でした。どんなストーリィだろうと読み進むうち、何時の間にかホラー・ストーリィに向かい合っていた、という気分です。自然に、小野不由美屍鬼が思い浮かびます。
この4人と読み手の間に、自分が「盗まれる」ことへの恐怖感が生じ、この先いったいどうなるのか見当もつかない、という期待感が募った割に、結末は呆気ないものでした。また、多聞にしろ協一郎の飼い猫・白雨にしろ、今ひとつはっきりしないまま終わってしまったという印象です。
小野不由美さんの「屍鬼」に比較すると、ソフト・ホラーとでも言うべき作品でしょうか。

  

9.

●「ネバーランド」● ★☆


ネバーランド画像

2000年07月
集英社刊
(1500円+税)

2003年05月
集英社文庫

   

2000/08/14

恩田さんに言わせると、久々の学園ものでホッとして書けた、とのこと。その雰囲気を受けて、こちらも伸び伸びと読めたと思います。
冬休み、高校の古い男子寮。そこに4人の生徒が居残ります。菱川美国、篠原寛司、依田光浩、そして瀬戸統
その居残り期間に彼らが始めた遊びは、カードで負けたものが“告白”をするというゲーム。表面的には健全な少年と見える彼らの、各々抱え込んでいる暗い部分が、順番に語られていきます。本書は“青春ミステリ”という宣伝文句なのですが、うーん、ちょっとなぁ、というのが正直な感想です。
彼らの“告白”が中心ストーリィという程ではなく、共同自炊生活の楽しさが描かれる一方で、4人の間の確執が語られもします。そんな訳で、ストーリィがちょっと散漫な感じを受けます。また、各々個性的で魅力ある少年たちなのですが、彼らの告白には、突拍子もないという印象があります。さらに、彼ら4人の性格にしても、均等に個性的にされ過ぎている、と感じます。
それらを無視すれば、古い寮での彼ら4人の共同生活は、それなりに楽しく、青春のひとコマという味わいがあります(恩田さん自身言う通り、爽やか過ぎる面がありますが)。ただ、それだけではありきたりでしょうから、無理にミステリ風味を加えた、その結果が散漫という印象に繋がったのではないかと思います。
このところの恩田作品を読むと、バランスというかまとまりを、やや欠いている印象を受けます。ちょっと気がかりです。

  

10.

●「麦の海に沈む果実」● ★☆


麦の海に沈む果実画像

2000年07月
講談社刊
(1800円+税)

2004年01月
講談社文庫化

  

2000/08/22

周囲を湿原に囲まれ、青い丘の上に建つ、世間と隔絶したような全寮制の学校。そこへ、水野理瀬が2月最後の日に転入するところから、本ストーリィは始まります。
非現実的なイメージ。恩田ストーリィには、こうした非現実的な空間が似つかわしいようです。理瀬がそこで知る生徒達にしろ、どこか類型的で、かつ非現実的な印象があります。その点でも、この空間は登場人物たちとつり合っています。
私の記憶は薄れてしまっていたのですが、この物語は恩田さんの異色作三月は深き紅の淵をの作中作品を完成させたものです。
生徒が転入する時期はいつも3月。3月以外にやって来た転入生は学園を破滅に導くという伝説。既にそこから不可解な雰囲気は始まっています。そして、男性の姿でいたり女装したりという、まるで魔術師の如き校長。普通という表面の裏側にひと癖もふた癖も抱えたような生徒たち。
冒頭から終盤まで、全体像がまるで見えず、雲をつかむような不確かさのまま、ストーリィは進みます。やがて起きる殺人事件。そして、学園にまつわる謎は、理瀬自身への謎と変化していきます。
しかし、結末にはちょっと落胆。だから何なの?という思いが残りました。
この物語の世界の雰囲気を楽しめるかどうか、この作品への評価は、結末よりその点にかかっているように思います。

  

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