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21.サマーゴースト 22.一ノ瀬ユウナが浮いている 23.さよならに反する現象 24.大樹館の幻想 |
【作家歴】、夏と花火と私の死体、天帝妖狐、石ノ目、失踪HOLIDAY、きみにしか聞こえない、暗黒童話、死にぞこないの青、暗いところで待ち合わせ、GOTH、さみしさの周波数 |
ZOO、くつしたをかくせ!、失われる物語、小生物語、銃とチョコレート、GOTH−モリノヨル、なみだめネズミイグナートのぼうけん、箱庭図書館、Arknoah1-僕の作った怪物、Arknoah2-ドラゴンファイア |
21. | |
「サマーゴースト Summer Ghost」(原案:loundraw、小説:乙一) ★★ |
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2024年07月
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イラストレーター・漫画家・小説家・作詞家・アニメーター・アニメーション監督だというloundrawさん、その初監督の劇場アニメーションを、脚本を担当した乙一さんがノベライズした作品、とのこと。 使われなくなったかつての飛行場、そこで花火をすると若い女性の幽霊【サマーゴースト】が現れるという。 ネットを通じて知り合った高校生3人=友也・あおい・涼は連れ立って、その幽霊に会う為その場所にやってきます。 その理由は、「死ぬってどんな気持ちですか?」と幽霊に聞いてみたかったから。 日常生活の閉塞感、止むことないイジメ、余命僅かの難病という事情をそれぞれに背負った3人は、死のうと決めていた。 線香花火が激しく閃光を放った時、佐藤絢音と名乗る幽霊が3人の前に姿を現します。「変な子たちが来ちゃった・・・」と彼女の方が面喰らいながら。 一時のことではありますが、友也と彼女との間に友情らしきものが芽生えるのが楽しい。 その絢音も一つ、自分ではどうにもならない問題を抱えていた。 3人が絢音の願いを叶えるために協力し、その結果として、4人それぞれが良い方句へ進んでいく、という展開は安易かもしれませんが、私は好きです。 短いストーリィですが、小説よりアニメーション向きなのでしょう。 乙一作品には幽霊の類が登場する作品が幾つかありますが、いずれも哀感あるもの。その点、本作品はからっとした印象を受けます。その点もやはりアニメ向き。 |
22. | |
「一ノ瀬ユウナが浮いている Floating Yuuna Ichinose」 ★★ |
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2024年06月
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「サマーゴースト」姉妹作。 花火と幽霊をモチーフにした、純然たる青春ラブストーリィ。 ※花火というと、乙一さんの原点「夏と花火と私の死体」が思い出されますね。 主人公の遠藤大地が一ノ瀬ユウナと出会ったのは、小4=10歳の時にユウナが引っ越してきたことから。 以来、幼馴染3人(秀・満男・塔子)と合わせ、いつも5人で過ごしてきた。その中でも週刊ジャンプ以来、大地とユウナは特に親しい仲。 しかし、大地がユウナに自分の思いを告げる間もなく、高2の夏休み、大雨の日にユウナは農業水路に落ちて死んでしまった。 その年の大晦日、ユウナが好きだった線香花火に火をつけると、何と水に浮いているかのような姿で、ユウナが大地の前に姿を現します。 それから幾度も線香花火に火をつけてはユウナと会うのを繰り返していく大地でしたが、貴重な線香花火の本数は次第に減っていき・・・・。 ふいに断たれた幼馴染との恋・・・思いを告げられず心残りとなっていた恋に、何年もの時間をかけて決着を付けていく、そんなストーリィです。 清新さ、気持ち良さといった印象は勿論あるのですが、それ以上に、お互いを大事に思って長い時間を一緒に過ごしていく、そうした物語に胸が熱くなります。 哀しく、辛いけれど、最後の別れは美しく、素敵です。 |
23. | |
「さよならに反する現象」 ★★ |
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作家生活25周年記念の短編集とのこと。 だから何か違う、ということは特にない筈ですが、各篇の趣向は様々。その点がこれまでと異なる点かもしれません。 冒頭2篇にはちょっと戸惑いましたが、「家政婦」以降は乙一さんらしさが感じられ始め、最後の「悠川さんは写りたい」はこれぞ乙一作品!というストーリィ。 幽霊の登場はやはり乙一さんらしいことかもしれません。 終わりよければすべて良し、乙一さんらしさに満足しつつ読了。 ・「そしてクマになる」:リストラされてやっと手に入れた仕事はクマの着ぐるみの中に入るもの。着ぐるみの中から見えたものは・・・。 ・「なごみ探偵おそ松さん・リターンズ」:漫画雑誌に連載されていた昔の“おそ松”しか知らなかったので、今頃何でおそ松?と驚いてしまった。 ・「家政婦」:家政婦として住み込んだ家は、何と死者があの世へ行く通り道にあり・・・。 ・「フィルム」:幼馴染の少女が主人公に幾つものフィルムを観せてくれたその理由は・・・。 ・「悠川さんは写りたい」:心霊写真の合成マニア、そんな主人公が手にするカメラの前に現れたのは、何と本物の幽霊。 幽霊の悠川さんと主人公の軽妙なやり取りが、とても楽しい。 そしてクマになる/なごみ探偵おそ松さん・リターンズ/家政婦/フィルム/悠川さんは写りたい |
24. | |
「大樹館の幻想 Phantom In the Woods」 ★☆ |
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乙一さん初の“館もの”本格ミステリとのこと。 ただ、そこは乙一さんのことですから、単なる館とはならず。 舞台は、巨大な針葉樹を取り囲み、三重の螺旋構造を以て建てられた洋館<大樹館>。 そこに御主人様の息子、孫たちが集まるのですが、あろうことか2件の殺人事件が発生してしまう。 そして本作で探偵役となるのは、大樹館の使用人である若い女性=穂村時鳥(ほととぎす)と、何とその胎児!? 第一の事件発生後、時鳥は何処からか呼びかけてくる声に気づきます。(・・・おかあさん・・・)というその声は、何と自分でも気づかずにいた、身の中にいる胎児だという。 (おかあさんを・・・すくいだしたい、・・・むじつをしょうめいしたい・・・)というその声に導かれ、時鳥は事件の真相を突き止めようとするのですが、胎児の助言に従ってとった時鳥の行動により、事実は胎児が知っている処から変化してしまったという。 何ともはや、複雑怪奇な舞台設定に、乙一さんらしい快作にして怪作、と思う一方で、困惑することもしきりです。 最後は無事、真相判明となるのですが、登場人物、そしてそれに絡む故人たちの関係もかなり複雑で、頭の中で整理するのが大変ではありますが、それは館ものミステリの定番かも、と思う次第です。 読む途中、複雑さに理解がついていかなくなった時は、構わず読み飛ばして前に進みましょう。 ※なお、胎児である故、常時交信できる訳もなく、言葉が不明瞭だったりもします。途中、石ノ森章太郎「サイボーグ 009」に登場する 001を連想していました。 ※また、螺旋状の建物については、<会津さざえ堂>を思い浮かべていました。 |
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