小林信彦作品のページ No.2



11.結婚恐怖

12.天才伝説横山やすし

13.コラムは誘う

14.人生は五十一から

15.おかしな男 渥美清

16.読書中毒

17.最良の日、最悪の日

18.昭和の東京、平成の東京

19.テレビの黄金時代

20.コラムの逆襲


【作家歴】、唐獅子株式会社、唐獅子源氏物語、イエスタデイ・ワンス・モア、ミート・ザ・ビートルズ、ドリームハウス、イーストサイド・ワルツ、ムーン・リヴァーの向こう側、コラムの冒険、和菓子屋の息子、現代(死語)ノート

→ 小林信彦作品のページ bP


名人、にっちもさっちも、ぼくが選んだ洋画・邦画ベスト200、花と爆弾、侵入者、本音を申せば、昭和のまぼろし、うらなり、映画が目にしみる、昭和が遠くなって

→ 小林信彦作品のページ bR


日本橋バビロン、映画x東京とっておき雑学ノート、B型の品格、黒澤明という時代、森繁さんの長い影、気になる日本語、流さる、非常事態の中の愉しみ、四重奏(カルテット)、映画の話が多くなって

→ 小林信彦作品のページ bS


小林信彦 萩本欽一 ふたりの笑タイム、「あまちゃん」はなぜ面白かったか?、つなわたり、女優で観るか監督を追うか、古い洋画と新しい邦画と、わがクラシック・スターたち、生還、また本音を申せば、とりあえず本音を申せば、決定版日本の喜劇人、日本橋に生まれて

→ 小林信彦作品のページ bT

  


       

11.

「結婚恐怖」● ★☆




1997年10月
新潮社刊
(1200円+税)

 2001年01月
新潮文庫化


1997/10/24

ブラック・ユーモア的なオカシサがありますが、一連のラブ・ストーリィものとあえて言いたい。上記2作から続けて読むと、また違った面白さを感じます。
まず、主人公の梅本修。如何にも現代的なフリーライターに拘わらず、ワープロを使わず、結構けち臭い計算もする。彼は31歳にもなりながら、未だに自身の結婚をどう扱って良いのかわからないでいる。
そんな彼は、元恋人に○○○され、母親には何時の間にか罠にはめられ、最後にはとんでもない女にとんでもない目(○○○)にあわされそうになる。
とにかく現代社会とは、まるでミスマッチな主人公であり、そんなストーリィなのです。望月智乃というきちんとした恋人がいるというのに。。
一般の読者なら、嘘っぱちで塗り固めたような物語だ! つまらない、という感想を持つのでしょうが、それが小林ファンであれば その中に奇妙なオカシサを感じ取るのではないでしょうか。
非現実的ではあるが、自分を振り返れば理解できる主人公の逡巡であるし、同情と同時に「いい加減にせい!」とも言ってやりたくなる人の良さを持っています。
結末は納得のいくものとなるのですが、それまでの過程は、通常のストーリィをさかさまにひっくり返したようなもの。
これこそ小林ワールドなのです。

  

12.

「天才伝説横山やすし」● ★★★



1998年01月
新潮社刊

(1429円+税)

2001年01月
文春文庫化

1998/04/28

著者が付き合った、そして他から聞いた限りでの横山やすし像ですが、凄まじさが押し寄せてくるかのような印象を受けます。本書に書かれていることがそのまま真実かどうかは判りませんが、著者が受け 止めた横山やすし像はこの通りだったのでしょう。

本書の内容から言うと、漫才の相方であった西川きよしの立つ瀬はまるで無いなぁ、というもの。この部分は、ワイドショー的な見方をするとかなり面白く読めます。著者としてもかなり思いきった執筆でしょう。しかし、喜劇人の特性を浮かび上がらせるような評論が著者の持ち味であるし、またそれこそ著者の本を読みたい理由であるから、それは期待どおりというのが筋だろうと思います。
ただ、予想を越えた部分があって、それは横山やすしの“自滅的”生き方に負うものでしょう。
一方、横山やすしの背景を読み取るならば、TVにおける漫才・お笑いの流れを一望できる著作でもあります。読み応えのある一冊!

 

13.

「コラムは誘う−エンターテインメント時評 1998〜98−」● ★★




1999年03月
新潮社刊

(1600円+税)

2003年01月
新潮文庫化


1999/04/17

映画、TVドラマ、ラジオ、落語、演劇等の数々。見る娯楽のファンには、堪えられない楽しみが 味わえる一冊です。
まさに、これぞ小林ワールドの魅力!

それにしても、時間がないと言う割によくぞここまで多岐にわたり見、そして聴いているなあ、と感嘆してしまいます。
ビリー・ワイルダー古今亭志ん朝、萬屋錦之助、渥美清の話題から、TV“失楽園”菅野美穂大塚寧々爆笑問題まで。
どんな話題が取り上げられ、それを小林さんはどう語ってくれるのか。ページをめくるたびにワクワクするような気持ちですし、読んでいて充実感があります。
思わず触発されて、ジェイムズ・スチュワート主演の古い白黒映画素晴らしき哉!人生のDVDを借りてきてしまいました。
また、ニール・サイモンの自伝書いては書き直しが一読に値する本として紹介されているのは、嬉しいところです。シャーリー・マクレーンの自伝にも興味が湧くことしきり。
最後に末尾の「主要作品名インデックス」を開けると、そこに並んだエンターテイメントの数の多さに思わず唖然としてしまいます。凄い!

  

14.

●「人生は五十一から」● ★★




1999年06月
文芸春秋刊

(1429円+税)

2002年04月
文春文庫化


1999/11/24

小林さんが週刊文春に連載 しているコラム、1998年分をまとめた一冊ということです。
その所為か、ひとつひとつの話題のまとまりが良く、歯切れもまた良い。さらにヴァラエティにも富んでいるとあって、ファンにとっては嬉しい一冊です。図書館にリクエストしてから3ヵ月間、待ち続けた甲斐がありました。
小林さんの場合、小説よりこうしたコラム、雑文の方が、持ち味が発揮されていて面白い、という傾向があります。本書は、その楽しさを集約したような一冊です。
流行ものの話から、落語、映画、黒澤明監督作品のこと、さらに名付けて「現代<恥語>ノート」と、思うまま、何の遠慮もなく、といった風です。
なんとなく感じていたけれど自分としてはっきり意識していなかった、というような諸々のことを、小林さんがハッキリ指摘してくれる、という小気味よさがあります。また、同郷の人と気安く語り合っているような、居心地の良さを感じます。
ただ、これは、小林さんのエンターテイメントに対する考え方、思い入れに、私が共感することが多いからのこと。読者の好みによって異なるだろうことは、当然のことです。かつての日本テレビのヴァラエティ番組“シャボン玉ホリデー”(歌あり、コントあり)、あの番組を好んだ人であれば、小林さんに共感するところがかなり多いだろうと思っています。

   

15.

●「おかしな男 渥美清」● ★★




新潮社「波」
32回連載
1999年12月完結

 2000年04月
新潮社刊
(1800円+税)

2003年08月
新潮文庫化


1999/12/05

“フーテンの寅さん”である渥美清というより、渥美清という俳優を稼業にしていた田所康雄、という人物との邂逅を辿った一冊。
 

この中に登場する“渥美清”には、寅さん=渥美清とは全く違った姿があります。寅さん以前からの姿が語られているのですから、それは当然とも言えますが。
寅さん以前の渥美清には、かなりの屈折があります。それだけに、田所康雄がかかえている執拗さ、アクの強さ、自意識の強さには、相当なものがあります。年数を経るごとにそれは強まりこそ薄れることなどなく、小林さんの交流が遠のいたのも当然なことと感じられます。
その一方で、寅さん映画が当たったことから、寅さん=渥美清が日本全国に定着してしまう。最後、癌に病み衰えながらも寅さんを演じ続けさせられた、という事実には、異常なものを感じます。田所康雄の執念というより、あくまで松竹という映画会社の業績追求の結果だったようですが。
 
本書は、渥美清一人のことにとどまりません。渥美清の半生を語っていく中で、他の喜劇人たち、森繁久弥、三木のり平、伴淳三郎、フランキー堺らについても語られていきます。渥美清の強烈な対抗心、あるいは渥美清との間の葛藤、軋轢等々。まるで、戦後日本における、ひとつの裏・喜劇人史を聞くようです。
俳優・渥美清ではなく、人間・田所康雄を語った著述として、最後まで興味深く読めた作品でした。

  

16.

●「読書中毒 ブックレシピ61」● ★★




2000年05月
文春文庫刊

(524円+税)

2000/07/20

第1部「読書中毒」は、本の雑誌社刊の小説探検を改題。第2部読書日和は、週刊文春連載ものの収録。
そして、副題のブックレシピ61とは、うまく名付けたものだと思います。古今東西、そして文学上の名作からミステリ、サスペンスまで。本書で取り上げた本の何処が面白いのか、何故面白いのか、具体的かつはっきりと小林さんが語り尽くす、61章からなる一冊だからです。

文学上の評価とか、マスコミの宣伝評価とは、一切おかまいなし。小林さんの舌鋒鋭い評価、指摘がなんとも楽しいですし、また読書意欲をそそられるのも当然のこと。
私はこの本を継続して読まず、時間がちょっと空いた時の読書用として年中携えていました。その為、読み終えるまで約2ヶ月。どこから読んでも面白く、読み返しても楽しく、常時携行用にはもってこいの文庫本1冊です。
なお、取り上げられた本は、永井荷風、谷崎潤一郎、幸田文山崎豊子から、バルザック、プルースト、トマス・ハリススティーヴン・キング、パトリシア・ハイスミス等々...

   

17.

●「最良の日、最悪の日」● 




2000年06月
文芸春秋刊

(1429円+税)

2003年05月
文春文庫化

2000/07/23

人生は五十一から(1998年)に続く、「週刊文春」連載の1999年分エッセイ集。
本書では、いつもの読書関係から離れ、政治問題にも鋭く舌鋒を振るっていることに、快哉をあげました。
なんとなく鬱積している日本社会の様々な出来事に対して、小林さんが明快に問題点を指摘していることに、胸がすくような思いがあります。
でも、笑い事ではなく、時代・国際感覚に遅れた自民党が未だにのさばっている日本社会の前途は、本当に暗い。
中でも気に入ったエッセイは、下記のものです。
“サマータイム制”導入なんて言っている政治家の頭は、本当にどうかしています。女子アナをタレント代わりに使うのは、いい加減止めにしたらどうなのか。TVドラマアリーに首ったけ”(レンタルビデオも在り)は、本当に愉快なコメディです。この辺りは全く同感。

ストーカーと女子アナ/<サマータイム導入>という愚かしさ×3回/アリーに首ったけ×2回/<ネクタイを選べない>男たち/「君が代」論議なんて時じゃあるまい/読書と体力

  

18.

●「昭和の東京、平成の東京」● 




2002年04月
筑摩書房刊

(1700円+税)

2005年08月
ちくま文庫化

2002/05/20

「私説東京繁盛記」「私説東京放浪記」と並ぶ、東京三部作のひとつ。
収録されているエッセイは、1964年〜2001年とかなりの年月に渡っています。「昭和」の部分では、当然のことながら東京オリンビックが中心点となり、当時の目覚しく変貌する東京の様子が語られています。
ただし、本書は、過去の東京を懐かしむ、東京の変貌していく姿を回想する、といった本とは異なります。小林さんの自虐的な感想が、度々顔を覗かせます。
小林さんは、日本橋両国町で生まれ育ち、青山にも暮らしたという人物。ですから、下町と山手それぞれの変貌の様子を、身を持って知っていた訳です。反逆精神、諧謔精神に立った視点も、小林さんならではのこと。
自ら、「東京に対する思い入れ、こだわり、悲しみ、やせ我慢、怒り、楽しみ、笑い、その他もろもろの感情を一冊に押し込んだもの」と語っています。
何故東京にそれ程こだわるのか。それは私も同様なのですが、東京で生まれ育ち、田舎をもたない人間にとっては、東京しかこだわるものはないのです。その点で、本書には共感できるのです。
読んで特に面白いというエッセイではありません。東京にこだわり、かつ小林さんと気持ちを共有するつもりがないのであれば、読んでもあまり面白くはないでしょう。そんな一冊。

  

19.

●「テレビの黄金時代」● ★★




2002年10月
文芸春秋刊

(1857円+税)

2005年10月
文春文庫化



2002/11/27

TVが普及時期に始まったヴァラエティ番組が、興隆し、一時代を築く、その現代史を語った一冊。
興隆していく時代の熱気を色濃く映し出しており、こうした本は、助言者、そして放送作家という身内の立場で関わった小林さんしか書けないものでしょう。まさに“時代観察者”としての面目躍如という気がします。
本書については、回想録としてではなく、貴重な現代史として読むべし。それだけの価値はある本です。

我が家にTVが入ったのは私が小学校に上がった頃のこと。子供ですから明確にとらえてはいなかったものの、リアルタイムで見、ヴァラエティ番組が盛んだった時代を自分のものとして記憶に留めています。それだけに、その時代の裏面を含めて再び軌跡を辿っていける本書は、読んでいてとても楽しい。
シャボン玉ホリデー、若い季節、九ちゃん!、植木等ショーといった番組、クレイジー・キャッツ、青島幸男、コント55号等の面々、記憶に残る番組とタレントを一部書き出そうとするだけでもキリがありません。
本書の中で例外的に紹介されてたコントは、シャボン玉ホリデーの中で演じられた植木等の“お呼びギャグ”(場面と全く関係ない人物が突然登場し、背後の登場人物を唖然とさせてから「お呼びじゃない!」と叫ぶギャグ)。懐かしいだけでなく、今文章で読むだけでも、本当に可笑しい。
そうした黄金時代の末期では、渡辺プロと日本テレビの間に全面戦争があったとのこと。本書を読んで初めて知ったことですが、成る程なァと感じる部分は確かにあります。
そんな時代に比較すると、今日日のギャグ番組のパワー不足は否めません。

イグアノドンの卵/テレビジョンことはじめ/時代の入り口の人々/パイオニアの大きな実験/黄金時代ひらく/青島幸男の波紋/植木等と「明日があるさ」/東京オリンピックとダニー・ケイ/「九ちゃん!」の内側/<坂本九>の作り方/「ジェンカ」の年/難航する「植木等ショー」/ドリフターズとコント55号/萩本欽一の輝ける日々/「ゲバゲバ90分!」への道/なぜ、<黄金時代>か?/五十年後の荒野

    

20.

●「コラムの逆襲−エンターテインメント時評1999〜2002−」● ★★




2002年12月
新潮社刊

(1600円+税)



2003/01/13

中日新聞連載中のコラムをまとめた一冊。「コラムにご用心」「コラムの冒険」「コラムは誘うに続く第4集です。
小林さんが冒頭で語っていますが、本書は映画、テレビ、ラジオ、舞台など、我々のすぐ近くにあるエンタテイメント文化の時評。
「ごく軽い話題として消費されがちなのですが、ぼくは一つ一つのトピックをかなり調べて書いております」というのが小林さんの姿勢。私としては相当に信頼している時評であり、それだけに毎回楽しみにしているシリーズです。

本書でまず嬉しいのは、アリー・Myラブおよびその主演女優であるキャリスタ・フロックハートに対する小林さんの絶賛。この米国ドラマ、私も大ファンでした。現在の「アリー・Myラブ5」はさすがにフロックハートに窶れが見えていて、もう見てはいませんけど、彼女がヘレナ役を演じた真夏の夜の夢に対する評価は私と同じです。
古今亭志ん朝独演会のことは毎回取上げられていましたが、志ん朝師匠が亡くなったため、本書コラムの2回が最後。寂しくなります。
米女優のアシュレイ・ジャッドをしきりと注目しているのが印象的。彼女の映画は
恋する遺伝子しか観ていないので、今後他の作品も見てみようと思います。
相変わらず、エンタテイメント好きにとっては楽しい一冊。

             

読書りすと(小林信彦作品)

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