小林信彦作品のページ No.3



21名人

22.にっちもさっちも

23.ぼくが選んだ洋画・邦画ベスト200

24.花と爆弾

25.侵入者

26.本音を申せば−本音を申せばNo.1−

27.昭和のまぼろし−本音を申せばMo.2−

28.うらなり

29.映画が目にしみる

30.昭和が遠くなって−本音を申せばNo.3−


【作家歴】、唐獅子株式会社、唐獅子源氏物語、イエスタデイ・ワンス・モア、ミート・ザ・ビートルズ、ドリームハウス、イーストサイド・ワルツ、ムーン・リヴァーの向こう側、コラムの冒険、和菓子屋の息子、現代(死語)ノート

→ 小林信彦作品のページ bP


結婚恐怖、天才伝説横山やすし、コラムは誘う、人生は五十一から、おかしな男渥美清、読書中毒、最良の日最悪の日、昭和の東京平成の東京、テレビの黄金時代、コラムの逆襲

→ 小林信彦作品のページ bQ


日本橋バビロン、映画x東京とっておき雑学ノート、B型の品格、黒澤明という時代、森繁さんの長い影、気になる日本語、流される、非常事態の中の愉しみ、四重奏(カルテット)、映画の話が多くなって

→ 小林信彦作品のページ bS


小林信彦 萩本欽一 ふたりの笑タイム、「あまちゃん」はなぜ面白かったか?、つなわたり、女優で観るか監督を追うか、古い洋画と新しい邦画と、わがクラシック・スターたち、生還、また本音を申せば、とりあえず本音を申せば、決定版日本の喜劇人、日本橋に生まれて

→ 小林信彦作品のページ bT

    


 

21.

●「名人−志ん生、そして志ん朝−」● ★★




2003年01月
朝日新聞社刊

(1200円+税)

2007年02月
文春文庫化

2018年10月
朝日文庫化

2003/03/22

amazon.co.jp

2001年10月、古今亭志ん朝死す。
そのニュースは、小林さんにとって、「1977年8月のエルビィスの急死に匹敵する」ものだったそうです。

本書は、志ん朝、そしてその父親・志ん生について、これまで小林さんが書いたエッセイ等を集めた一冊。
そのため重複する部分もありますが、一方では、それだけ志ん朝の芸に対して熱を入れていた小林さんの思いが、実感できる本でもあります。

小林さんの志ん生、志ん朝に対する思いは、決して落語の上手さというだけではない。東京の下町言葉を伝える、東京落語の担い手、その貴重な存在への執着でもあります。
下町育ちであり、またその下町が無くなってしまったという無念さを抱いている小林さんだからこその思いでしょう。

戦前・戦後の落語界、名人たちを俯瞰する書であり、志ん朝、東京落語への惜別の書でもあります。

なお、第4章は、漱石と落語との深い繋がりを、「吾輩は猫である」を題材にとって語ったもの。短い章ですが、充分に面白い。

古今亭志ん朝/古今亭志ん生/志ん生、そして志ん朝/落語・言葉・漱石

 

22.

●「にっちもさっちも−人生は五十一から−」● 




2003年04月
文芸春秋刊

(1476円+税)

2006年04月
文春文庫化

2003/05/09

小林さんのエッセイあるいはコラムを読むというのは、小林ファンにとってはもはや習慣、あるいは毎朝に新聞を読むが如く当然のもの、としか言いようがありません。
したがって、今更読んだ感想がどうのこうの、というものではない、というのが正直なところ。

本書は「週刊文春」に連載されているエッセイ・コラムの単行本化。最初の単行本化が人生は五十一からで、本書が第5冊目(2002年分)になります。
小林さん自身曰く、もはや年代記のようなもの、というのですから今更読者が何をかいわんや、です。
本書中目立つのは、小泉首相をはっきり批判していること。言葉ばかりで自ら行動しようとしてないという批判ですが、今となってみれば私も同感するところです。

※1.「人生は五十一から」、2.「最良の日、最悪の日」、3.「出会いがしらのハッピー・デイズ」、4.「物情騒然。」

 

23.

●「ぼくが選んだ洋画・邦画ベスト200」● ★☆
  (単行本題名:「2001年映画の旅」)




2000年12月
文芸春秋刊

2003年12月
文春文庫

(476円+税)

2003/12/30

小林信彦さんの映画評については信頼を置いているので、こうした本は、私にとっては楽しいもの。
また、「ベスト 200」ともなれば、DVDレンタルする時の参考にもしておきたい。
洋画については、観たことがなくても半分位は知っている作品。しかし、観たことのある作品が少ないのは、正直言って悔しいものです。一方、邦画となると、知らない作品が殆ど。私が映画にはまっていた時期は、洋画全盛の頃だったのです。

収録されている映画関係のエッセイは、30年位前のものが殆どですから、ちと古い。しかし、中味に影響があるものでもなく、ミュージカル映画のこと、ヘンリー・フォンダ「荒野の決闘」小林旭「渡り鳥」シリーズ論、エルヴィス・プレスリー論、さらにイーストウッド論と、極めて面白い。楽しく読めた一冊です。

ぼくが選んだ洋画・邦画ベスト200
映画少年のころ/十七歳の映画ノート/マンハッタンに赤潮がきた夜/ハーポの死んだ夜/ミュージカル映画はなぜつまらなくなったか/いつか見た「ラスト・ショー」/ユーモリストとしてのウディ・アレン/生きている伝説(グルーチョ・マルクス)/最低のルールについて/真夏の夜の夢/「おまえには人間の心がわからねえ!」/明日に向かって賭ける「スティング」の世界/「荒野の決闘」/「ギターを持った渡り鳥」/「さすらい」/「この胸のときめきを」/エルヴィスが死んだ/これらの作品はイーストウッド印です

     

24.

●「花と爆弾人生は五十一から−」● 




2004年04月
文芸春秋刊

(1476円+税)

2007年05月
文春文庫化


2004/06/04

「週刊文春」連載コラムの単行本化、第6集。

小林さんの意見については常々同感すること多く、また喜劇・エンターテイメントに関する深い造詣からのコメントが楽しいことから、時々読みたくなる。その意味で、こうしたコラムが連載され、定期的に単行本化されるのは有り難い。
ただし、これまでの著書に比べ昔のことを引き合いに出すことが増えた気がする。それは、小林さんの書く内容が変わってきたのか、それとも読み手である私自身がそういう傾向に陥ったためか。まぁ、改めて確かてみることでもないでしょう。確かめたところで何になる、と言えますし。

本書中、アメリカのある書店がとっている万引き対策を紹介しているコラムに注目。その書店では、入り口でバッグをすべて預かり、店を出るときに番号札と引換に返してくれるのだとか。
なるほど、万引き対策としては究極の方法かもしれません。開架式図書館で導入したらどうでしょう?
あとは、アメリカの女性作家アン・タイラーへ賛美。映画関係ではニコール・キッドマンを絶賛している点が記憶に残ります。実は彼女の映画、まだ見たことがないのです。是非見なくては!

    

25.

●「侵入者」● ★☆




2004年12月
文春文庫刊

(571円+税)



2005/03/06

「閑静な住宅街に出没する変質者に対する敵意を、周到に用意された伏線とプロットで一気に読ませる表題作」というカバー裏の紹介文に惹かれて読んだ一冊。
「侵入者」「雲をつかむ男」「悲しい色やねん」「みずすましの街」、いずれも真に小林さんらしい作品です。

とくに面白かったのは「侵入者」。幼女に性的いたずらを仕かける変質者から娘を守ろうとする平凡な夫婦の話。と思いきや、主客が転倒するや全く別のストーリィが現れてきます。巧妙なしかけを施した中篇サスペンス。私の好きなところです。

「雲をつかむ男」は、TV視聴率という阿呆らしいものに振り回される広告会社社員を描いたブラック・ユーモア(視聴率不正操作)。1971年に書かれた作品ですけれど、つい最近の事件を思うと何も変わっていないことが判ります。

「悲しい色やねん」は薬師丸ひろ子主演映画「紳士同盟」の後、映画化のために書かれた作品。仲村トオルが主演。サラリーマンから暴力団組長に転進した大阪の男を哀感をもって描いたストーリィ。「悲しい色やねん」(新潮文庫)の再読です。
「みずすましの街」は第80回直木賞候補となった作品。日本橋区両国(戦前)という下町、そこにいた清さんという、みずすましのように世の中を生きていた人物を描く中篇。小林さんらしいノスタルジーが後味良い。多分、これも再読です。

侵入者/雲をつかむ男/尾行(午前十一時の少女・写真集・コンビニの聖女時間)/話題を変えよう/悲しい色やねん/みずすましの街

 

26.

●「本音を申せば」● 




2005年04月
文芸春秋刊

(1571円+税)

2008年04月
文春文庫化



2005/06/27

「週刊文春」連載コラムの単行本化。
2004年01月〜12月間に掲載されたコラムを収録した、第7集。

もはや小林さんのエッセイを楽しむということではなく、小林さんの目による1年の振り返り、というのが読む目的となっています。ですから必ず読むと決めているものでもなく、図書館に入庫していてタイミングさえ合えば読む、という具合。
小林さん自身、このコラムについてはクロニクル(年代記)と自認していますから、適ったものと言えるでしょう。
本書で印象に強い事柄は、芦屋雁之助さん、いかりや長介さんの死去。小林さんの愛した芸達者なコメディアンたちが、毎年のように姿を消していきます(残念に思う気持ちは小林さんに限られるものではありませんが)。その一方で未だ頑張っているといえる存在、伊東四郎、三宅裕司の2人が組んだコントのことも再び語られています。
社会問題としては、中越大地震のこと。それと、戦後最悪の宰相という趣旨で小泉首相への批判が目立ちます。その任期中にすべての状況が悪化している、というのが理由だとか。
本の話題は、まずパトリシア・ハイスミスから。
映画の話題は、クリント・イーストウッド制作・監督の「ミスティック・リバー」、ジョン・フォード監督の名作「荒野の決闘」、ティム・バートンビッグ・フィッシュ、ソフィア・コッポラ「ロスト・イン・トランスレーション、日本映画では深田恭子主演の「下妻物語」
リメイク版の「サブリナ」レディ・キラーズは失敗作という評価。

  

27.

●「昭和のまぼろし−本音を申せば−」● ★★




2006年04月
文芸春秋刊

(1619円+税)

2009年05月
文春文庫化



2006/06/12



amazon.co.jp

「週刊文春」連載コラムの単行本化。
2004年12月〜05年12月間に掲載されたコラムを収録した第8集。

この「週刊文春」連載コラム集、図書館でも毎回きちんきちんと入庫してくれているため、ここ何年かずっと読み続けているのですが、今回は評価を高めにしました。
とくに本書が従来より飛びぬけて面白い、ということではなく、この評価はもっぱら私の生理的快感の故です。

その言葉どおり、私にとってこのシリーズはもはやなくてはならない定期刊行物の如きものになっています。
内容は、政治経済を含めた社会一般というものではなく、映画、エンターテイメント(芸人も含め)が主な内容になっていますから、ひどく偏っています。
それでも楽しいのは、小林さんの時間軸が縦に長いから。
ただ昔の方が良い、と言っているのではなく、公平に比べるべきものを比べて現在と過去を対比し寸評しているから、ということです。特に映画については、薀蓄もあってとても貴重な指摘、と私は思うのです。
本書ではまず「ミュージカル映画・ベスト10」の話題から。その中でおっこれは!と思ったのが、1958年の「くたばれ!ヤンキース」が選ばれていること。たしか、近所のビデオショップにあった筈。これは観なくては。
パッチギに対する絶賛は嬉しかった。
また、イーストウッドのミリオンダラー・ベイビーに関する章は無視できません。ハリウッドがイーストウッドに冷淡であるのに対し、常に小林さんのイーストウッド評価は高いのです。
なお、本章での最後、「<男の行方は杳として知れない>というイーストウッド・パターンは頑なに守られている」という一文には笑ってしまいました。ホント、そうなんですよ。

社会一般の話題では、NHKはもう要らないかもしれない、というのは目を引く一文。また、小泉批判は、今となってみると的を射ていたと言うほかありません。

 

28.

●「うらなり」● ★☆           菊池寛賞




2006年06月
文芸春秋刊

(1143円+税)

2009年11月
文春文庫化



2006/07/09



amazon.co.jp

本書は、漱石「坊ちゃん」に登場する、マドンナを奪われた挙句邪魔扱いされて松山から延岡に転任させられた教師“うらなり”を描いた作品です。
1970年代半ば、小林さんは既に「坊ちゃん」の行動をうらなりの視点からみたらどうなるか、という着想をもっていたそうです。不条理劇のようにまるで理解できないものであったのではないかという。

それにしても漱石「坊ちゃん」の存在感は凄い。
私にしても小学校の5年の時に一度読んだだけなのです。それなのに忘れることなどとてもできない作品なのですから。赤シャツやうらなりや山嵐といった渾名が傑作だったことは言うまでもないことです。
うらなり先生のみならず、東京っ子の私ですら、小説での坊ちゃんの興奮ぶりはついていけないものでした。でも、それがかえって忘れられない要因になっているのでしょう。

元々の原作でもうらなりの存在感は薄いものでした。当然の如く本書に描かれるうらなりのその後の人生も、極めて平凡で安穏かつ影の薄いものという印象です。それはパロディ作品の多い小林さんにしては珍しいこと。
だからこそ、「愛すべき初期漱石作品へのぼくのオマージュなのである」という小林さんの言葉にそれ以上のものではないと得心できるのです。

※本書は昭和9年うらなり(古賀)山嵐(堀田)と再会するところから始まり、回想という形式でストーリィが進行します。必要性からマドンナに遠山多恵子という名前が与えられていますが、私はあまりマドンナに良い印象はもっていなかったですね。
老後のうらなりにとって、読む楽しみを味わうにはもうオースティンだけで十分という。思わず喝采。

    

29.

●「映画が目にしみる」● ★★


映画が目にしみる画像

2006年12月
文芸春秋刊

(1905円+税)

2010年11月
文春文庫化



2007/02/02



amazon.co.jp

以前にも書いたことですが、小林さんのエッセイを読むことは私にとって快感に近い。
ことに映画中心に語った本書は、本にかかるエッセイより気楽に読める分、とりわけ快感です。
内容については既知のことであったり、部分的に他で読んだ気のするものもあり、特別にどうこうというものではありませんが、私にとっては楽しい限りなのです。

本書で繰り返し取上げられている人物は、要するに小林さんの絶賛する人なのです。まず大塚寧々ニコール・キッドマン、そして大物クリント・イーストウッド
ニコール・キッドマン(オーストラリア出身とのこと)は、幅広く役をこなすだけでなく、そうしたことに意欲的であり、出演する作品・監督をよく押さえているという。その点が、小林さんの評価が高いところ。取り挙げられている中で私が観たことのあるのは、残念ながらコールドマウンテン」「奥さまは魔女の2作のみです。
クリント・イーストウッドは、俳優ではなく監督として評価が高い。ダーティ・ハリー等のイメージから今は監督業にも手を出している“俳優”と見られがちですが、元々「ローハイド」の頃から演出をやりたがっていたのだとか。現代における“名監督”であるという主張には、いつもの如く力が入っています。
個々の部分では、NHK大河ドラマ「MUSASHI」でお通役を演じた米倉涼子についてのコメントが笑えます。「健康どころか、下手なサムライより強そうである」というのですから。

先般亡くなられた、いかりや長介、芦屋雁之助のお2人への讃美は、私も同感するところ。
クラシック映画のDVD化もあって古い映画が話題になっていることも多く、その中ではくたばれ!ヤンキースに目が惹かれます。
また、最近の若手女優の中では、長澤まさみ、堀北真希の2人の名前があがっています。後者については私も同感ですが、前者は観たことば未だないので何ともいえず。

取上げられている中で私が観た映画(上記以外)は、
市民ケーン」、「シカゴ」、「デブラ・ウィンガーを探して」、「ビッグ・フィッシュ」、「下妻物語」、「パッチギ!」、「ミリオンダラー・ベイビー

 

30.

●「昭和が遠くなって−本音を申せば−」● 


昭和が遠くなって画像

2007年04月
文芸春秋刊

(1667円+税)

2010年07月
文春文庫化



2007/05/30



amazon.co.jp

「週刊文春」連載コラムの単行本化。
2006年01月〜12月間に掲載されたコラムを収録した第9集。

このクロニクル(年代記)を読むのは、私にとって楽しみでありもはや慣行であることは、既に繰り返し書いてきたこと。
ただし、今回これまでとはちょっと違うなぁと感じたのは、ひとつひとつのコラムにインパクトが余り感じられないこと。また、なんとなく年寄りめいた愚痴混じりという雰囲気が僅かに窺えること。
そこで小林さんの生年を改めて確かめてみると、1932年生まれとのこと。なんともう70代半ばじゃないですか。どうも私は小林作品を愛読し始めた20年ぐらい前の小林さんの風貌を、そのままずっとイメージしていたらしいと初めて気づきました。

本書の中身で印象に残ったことは次のようなこと。
ラジオ番組のこと、映画関係のこと、長女夫婦に関係した中越地震のこと。もう交代してしまいましたが、小泉元首相を信用できないという姿勢は一貫して続いています。
中谷美紀主演「嫌われ松子の一生」がミュージカル仕立てだとは全く知りませんでした。「涙そうそう」は歌がヒットしたからの映画化ですが、長澤まさみ主演もあって小林さんには好評だった様子。観てみようか、という気になります。
クリント・イーストウッド監督の「父親たちの星条旗」「硫黄島からの手紙」への賛美、そして若手女優の長澤まさみ堀北真希への評価が高いのはいつものこと。
もうひとつ、米国のコメディ俳優スティーヴ・マーチンへの高い評価に目を惹かれました。そのスティーヴ・マーチン、私は十二人のパパでしか見たことがなく、好印象はもったものの、そんなコメディアンとは思いもよりませんでした。そうと知ってたら、もっと注目して観たのに、と思っても後の祭り。

  

読書りすと(小林信彦作品)

小林信彦作品のページ bP へ   小林信彦作品のページ bQ

小林信彦作品のページ bS   小林信彦作品のページ bT

   


 

to Top Page     to 国内作家 Index