小林信彦作品のページ No.1


1932年東京・両国生、早稲田大学英文科卒。翻訳ミステリ雑誌(「ヒッチコック・マガジン」)編集長を経て作家。「丘の上」「家の旗」等にて芥川賞候補。「日本の喜劇人」により芸術選奨新人賞、2006年「うらなり」にて第54回菊池寛賞を受賞。


1.
唐獅子株式会社

2.唐獅子源氏物語

3.イエスタデイ・ワンス・モア

4.ミート・ザ・ビートルズ

5.ドリームハウス

6.イーストサイド・ワルツ

7.ムーン・リヴァーの向こう側

8.コラムの冒険

9.和菓子屋の息子

10.現代(死語)ノート


結婚恐怖、天才伝説横山やすし、コラムは誘う、人生は五十一から、おかしな男、読書中毒、最良の日最悪の日、昭和の東京平成の東京、テレビの黄金時代、コラムの逆襲

→ 小林信彦作品のページ bQ


名人、にっちもさっちも、ぼくが選んだ洋画・邦画ベスト200、花と爆弾、侵入者、本音を申せば、昭和のまぼろし、うらなり、映画が目にしみる、昭和が遠くなって

→ 小林信彦作品のページ bR


日本橋バビロン、映画x東京とっておき雑学ノート、B型の品格、黒澤明という時代、森繁さんの長い影、気になる日本語、流される、非常事態の中の愉しみ、四重奏(カルテット)、映画の話が多くなって

→ 小林信彦作品のページ bS


小林信彦 萩本欽一 ふたりの笑タイム、「あまちゃん」はなぜ面白かったか?、つなわたり、女優で観るか監督を追うか、古い洋画と新しい邦画と、わがクラシック・スターたち、生還、また本音を申せば、とりあえず本音を申せば、決定版日本の喜劇人、日本橋に生まれて

→ 小林信彦作品のページ bT

   


   

1.

●「唐獅子株式会社」● ★★★




1978年04月
   11月
1979年06月
文芸春秋
単行本3冊刊

1981年03月
新潮文庫

1992/11/14

amazon.co.jp

パロディだらけ、奇想天外、まさに作者の本領発揮と言うべき一冊です。

任侠道はもう古い、そんな須磨組大親分の大号令(ころころ変わる)で、社内報発行からテレビ番組、映画制作、音楽祭と、思いもかけない事態に追いまくられる不死身の哲、ダーク荒巻、原田二階堂組の面々。

ストーリィの中は、パロディから、懐かしいギャグ、ヒット映画から、流行歌、社会風俗まで、まさにてんこもり。
おまけに世界文学の数々の名も登場し、文学好きも気持ちをくすぐられます。

この一冊を読みながら声を出して笑い転げる、こんなにもストレス発散にちょうど良い本は、そうざらにはありません。
難を言えば、ヤクザ、関西を受け入れないと楽しめないこと。また、刊行から如何せん時間が経ち過ぎていて流行に対するパロディの可笑しさが半減していること。
しかし、そんなことは、本書の面白さに比較すれば大したことではありません。

唐獅子株式会社/唐獅子放送協会/唐獅子生活革命/唐獅子意識革命/唐獅子映画産業/唐獅子惑星戦争/唐獅子探偵群像/唐獅子暗殺指令/唐獅子脱出作戦/唐獅子超人伝説

   

2.

「唐獅子源氏物語」● 

  

1982年12月
新潮社刊

1986年02月
新潮文庫

  
1999/03/15

言わずと知れた「唐獅子株式会社」の続編。再読です。
改めて読むと、前作に比べてパロディの強烈さが失せてしまっているのが明らかで、そこが残念なところ。惰性で書かれているような印象を受けます。
といっても、源氏物語のパロディはなかなかの味。また、お馴染みの面々の、税申告の準備で苦労しているとか、新人組員を撲りとばしたら大阪府警の暴力相談センターに駆け込まれたとかのエピソードには、現実感があってそれなりに可笑しくなります。

唐獅子選手争奪/唐獅子渋味闘争/唐獅子異人対策/唐獅子電撃隊員/唐獅子源氏物語/唐獅子紐育俗物/唐獅子料理革命

  

3.

●「イエスタデイ・ワンス・モア」● ★★★




1989年09月
新潮社刊
(1068円+税)

1994年10月
新潮文庫化

1991/03/24

タイム・トラベル・ストーリィ。
主人公の「ぼく」(桐島夏夫、19才)は、育ててくれた伯母に死なれて独りぼっちになった場面から、突然30年前、1959年の東京にタイム・スリップしてしまいます。
そこにいるのは、まだ若い頃の多佳子伯母(「T」と語られる)や父親たち。そんな一世代前の東京で、ぼくは生活のためにギャグ作家やDJとして活躍し始めます。そして、ぼく自身も恋をされたり、したり。
東京自体今よりはるかに下町っぽく、どこか懐かしい雰囲気が漂っています。現代の東京より、ずっと居心地が良い感じ。
ストーリィはタイム・トラベルものであっても、この作品は決してSFではありません。
この作品全体を覆っているのは、まぎれもなく過去の東京へのノスタルジー。底辺に、小林さん自身の1959年当時の東京への思い入れがあることは、読んでいて明らかです。
そんなノスタルジックな思いを味わいつつ楽しめる本書は、私のお気に入りの一冊です。ハードカバーの表紙イラストも私好み。

※題名の「イエスタデイ・ワンス・モア」はカーペンターズのヒット曲名でした。

   

4.

「ミート・ザ・ビートルズ」●  ★★
 
文庫題名:「イエスタデイ・ワンス・モア Part2」




1991年09月
新潮社刊

1994年12月
新潮文庫化

1991/10/02

イエスタデイ・ワンス・モア の続編ですが、本質的には別の小説と 考えるべきだというのが私の持論。
小林さんの1960年代へかける思いの中心に、1966年のビートルズ来日という事件があります。その当時の社会的興奮を伝える手段として、一方で「ビートルズの優しい夜」という評論(実は未読)、一方で小説(本書)という形を用いた、そんな趣旨を小林さん自身、あとがきの中で言っています。
「4人の来日を内側からコミカルに描いた」と。
今回「ぼく」は、前作から6年後の未来にタイム・スリップ。
そこにはまた「T」(多佳子伯母)がおり、新たにぼくの母親となる(筈の)香織も登場します。
本ストーリィの世界には、Tや香織たちとの、仲間内の温かい関係があります。さらにそれはビートルズとの間にも生まれます。
一方で立場、一方で時間に拘束されている違いがあるにしろ、制約を受けている人間同士の共感が、ぼくとビートルズ4人の間には在るようです。
そんなノスタルジックな温かい関係、それが前作との違いであり、本作品の魅力です。

    

5.

●「ドリームハウス」● 




1992年10月
新潮社刊
(1262円+税)

新潮文庫化


1992/10/31

東京三部作の第1作目。
小説ともいいかねる代物で、登場人物もはっきりとしない。自分と友人のDD、愛人の瀬里奈。
東京で家を持つまでのストレスの羅列、とでも言ったら良いだろうストーリィです。

母親が死に、まず葬式を行うストレス。次いで建て替えのために借地人を追い出すストレス。
さらに家の設計をすること、瀬里奈の希望と妥協すること、銀行から借金すること(主人公自身は作家で安定収入を持たないため、銀行のローンが組みにくい)。建築中、週に1回を目処に建築現場に立ち寄ること。
その間に血圧は上がり、医者から高血圧の注意をされる。そんなにまで苦労して立てた家。
それなのに、家は崖っぷちの上に建っており、集中豪雨によって崖の土が崩れ、再度土留めが必要になる。それまで家がもつかどうか。土留め費用の金をどうやって工面するか。
家が完成してもストレスのネタは尽きない。
都会住民にとってのブラックユーモア・ストーリィとしか言いようがない。そんなストーリィです。

    

6.

●「イーストサイド・ワルツ」● ★★☆




1994年03月
毎日新聞社刊
(1262円+税)

1997年11月
新潮文庫化

(544円+税)


1998/09/13

今回で3回目の読書。なぜか懐かしさに惹かれる作品です。
作者曰く、「この小説は私にとって初めての恋愛小説である。風のように現れ、去っていった女性への讃歌といってもよい。」
長く独身生活を続けている、さして売れているわけでもない小説家深野(56才)が主人公。彼の前に突然現れた女性・小川加奈(26才)。山の手に住む中年男性と、下町に住む若い女性。この二人のラブ・ストーリィです。
ストーリィは、深野が珍しく隅田川の向こう側に出向いた時から始まります。講演会、加奈との出逢い、深川江戸資料館等を歩き回る再会。ぎこちない会話、ノスタルジー、不自然なミステリの要素は、いかにも小林信彦作品らしい。小林ファンだからこそ楽しみを覚えるような部分でしょう。
二人の間に恋愛が進むなど、正直言って嘘みたいな話です。でも、中年男性にしてみればつい夢みてしまうような出来事でしょう。
そして急転の結末。一度夢を味わった中年男性としては、ただ呆然自失するほかありません。
この喪失感を味わう度、ヘミングウェイ「武器よさらば」ヘンリーを思い出します。
そんな喪失感に限りない懐かしみを感じてしまう。だから読み返さずにいられないのです。

  

7.

●「ムーン・リヴァーの向こう側」● 




1995年09月
新潮社刊
(1893円+税)

1998年09月
新潮文庫化

(514円+税)

1998/09/18

東京三部作の第3作目。
本書も一応はイーストサイド・ワルツと同様、山の手に住む男・原透(39才、少し若返っている)と下町の女の子・永井里佳(27才)との間のラブ・ストーリィ。
でも、物語の主体は“東京”という都市そのもののようです。
山の手と下町に分かれ、それぞれが秩序をもって東京という街を作り上げていたのに、それを打ち壊していくような行政施策。その象徴と言えるのが臨海副都心開発であり、本書では完全に槍玉に挙げられています。
原と里佳は、今までの秩序が崩れつつある東京という街の案内役、つまりは狂言回しという印象です。
ラブ・ストーリィとしては、「イーストサイド」程の切実感がないだけに物足りない。その点を補うべく、小林さんは主人公に性的不能という悩みを与えていていますが、ちょっと苦しいなあ。
ミステリの要素を加えているのも「イーストサイド」と同じだけに、どうしても同作品と比べて辛い評価になってしまいます。

この前後の作品は、主人公に小林さん自身を投影している傾向が強いため、なんとなく似通った作品になっています。でも、主人公が作品毎次第に若返っていくのがなんとなく可笑しい。

   

8.

●「コラムの冒険−エンタテインメント時評 1992〜95−」● ★★




1996年03月
新潮社刊
(1500円+税)

2000年01月
新潮文庫化


2002/12/23

中日新聞夕刊に1989年から連載されている“小林信彦のコラム”をまとめた「コラムにご用心」(ちくま文庫)に続く第2弾。

刊行当時に読んだものですから、もう殆ど記憶には残っていません。という訳で、感想アップに際して少し拾い読みしたのですけれど、もう10年近くも前のこととなると、懐かしいのひと言。
とくに目を惹かれたのは、メグ・ライアンとトム・ハンクス主演の映画めぐり逢えたらのこと。作品自体およびトム・ハンクスに対する小林さんの評価は低い一方、メグ・ライアンについては絶賛。末尾の「ハリウッドのロマンティック・コメディが再興するとしたら、やはり、メグ・ライアン、ノーラ・エフロン女史あってのことだろう」という一文は、その後を見てもまさに正鵠を射ています。
一方、ハナ肇さんの死が話題になっているのは、もうそんなに経ったのか、という思い。
また、大リーグに挑んだ野茂投手のことも話題に取上げられていますが、それもあの頃だったんですねェ。
久々に読むと、本シリーズは堂々かつ貴重なエンタテイメント文化史になっていることに感銘を受けます。

      

9.

●「和菓子屋の息子−ある自伝的試み−」● ★★




1996年08月
新潮社刊
(1359円+税)

1999年05月
新潮文庫化



1996/09/22

本書に描かれるのは、自分の子供時代の言動より、当時の映画、喜劇役者、小説、町並みとかのこと。
その点、いかにも小林さんらしい自伝的作品です。

現実に在った事実だけを簡潔に並び立てていく、その点では星新一「夜明けあとに似た印象を受けます。
同時に「ぼくたちの好きな戦争」の外伝的位置に立つ作品と言えるでしょうか。
ともかくも小林さんの育った背景がよくわかる一冊です。イエスタデイ・ワンス・モアにも投影されている気がします。
また、下町で育ち、戦争を境に下町を嫌い山の手で暮らした経緯も書かれています。
浅草寺を“信仰のデイズニーランド”、吉原を“セックスつきのデイズニーランド”と称し、浅草の存在基盤を「興行街がなくなってもなお、信仰・プラス・セックスがあるから」と言ってのけるあたり、作者の真骨頂と言えます。
それとともに、自分自身のエピソードに対する第三者的な醒めたコメントに、ジワーッとくるオカシサがあって面白い。

それにしても、叔父道之助からの「ヨメタノム、ミチ」という電報や、戦争中東京へのアメリカ機の空襲を近未来物として描いた映画があったというエピソードは、スゴイ。
その映画は、本格的空襲の一年半前のものだという。上原謙、田中絹代、高峰三枝子が出演したそうな。
家が焼けても政府の配慮で木材が運ばれてくるから心配ない、という政府のPRだそうです。こんな感覚で戦争をやっていたのだから恐ろしい。今の北朝鮮以上であると思えます。
「松竹が戦意昂揚映画を作ると、結局はホームドラマになるという原則から一歩も出ていない」という作者のコメントは流石。

小説ではなく、事実の集積へのコメントであるところに本書の価値があります。小林ファンには必見の一冊。

    

10.

●「現代(死語)ノート」● 

   

1997年01月
岩波新書刊



1997/04/02

書評で見つけなければ、全く気がつかないところでした。ナント、岩波新書なんて20年振り。
小林信彦ファンなら、興味持つのではないか、という類の本。
1956年から1976年までの間の流行語が話のタネ。成る程と思うものやら、ただ懐かしいもの、そういう意味だったのかと思うものまで、いろいろ。作者のコメントも物好きには面白い。でも、こうして流行語を追っていると、その時代が浮かび上がってくるから不思議。今から思うと、ギャグとしか思えない、というような出来事もあります。
ただ、気になるのは、読了後、日本がどんどん悪くなっているような印象をぬぐえないこと。

      

読書りすと(小林信彦作品)

 小林信彦作品のページ bQ  小林信彦作品のページ bR

小林信彦作品のページ bS   小林信彦作品のページ bT

   


 

to Top Page     to 国内作家 Index