1999年12月1日からの新派遣法(改定労働者派遣法)施行にともない、労働省は、次のようなモデル就業条件明示書を発表しました。
 派遣就労にあたっては、「就業条件明示書」を交付することが労働者派遣法に定められた派遣元の義務になっています。労働者としても、このモデルにしたがった「就業条件明示書」が交付されないときには、公共職業安定所に申告して、交付するように行政指導を求めることができます。詳しくは、FAQ3002をご覧下さい。
 曖昧な就業条件のまま働くことは、後にトラブルを生み、結局は、労働者にとって納得のいかない結果につながります。
 派遣元との間では、労働契約(雇用契約)とともに、「就業条件明示書」を文書で交付させることが必要です。
 とくに、派遣先による労働者派遣契約中途解約の場合に、派遣元が休業手当を支払うことを例示として示していますので、自分の場合に、そうした記載があるか、確認して下さい。派遣110番相談例からみた「就業条件明示書」確認チェック事項を【注】として最後に示します。
               2000年5月7日 派遣110番(文責 脇田滋)

モデル就業条件明示書

 下記条件にて労働者派遣を行います。

  1. 従事する業務の内容 環境関連機器の顧客への販売、折衝、相談及び新規顧客の開拓等の営業活動並びにそれらに付帯する業務【注1】

  2. 就業の場所 □□□□株式会社本社国内マーケティング部営業課営業係
       郵便番号110‐8988 千代田区霞ヶ関1-2-20 ○ビル14階
       TEL3593−1211内線5745【注2】

  3. 指揮命令者 国内マーケティング部営業課営業係長 △△△△△【注3】

  4. 派遣期間 平成××年×月×日から平成××年×月×日まで【注4】

  5. 就業日 土、日を除く毎日【注5】

  6. 就業時間 9時から18時まで【注6】

  7. 休憩時間 12時から13時まで【注7】

  8. 安全及び衛生 派遣先は、労働者派遣法第44条から第47条までの規定により自己に課された責任を負う。【注8】

  9. 派遣労働者からの苦情の処理【注9】
    (1)苦情の申出を受ける者
      派遣元においては、派遣事業運営係主任☆☆☆☆☆
                    TEL3597‐0153 内線101
      派遣先においては、総務部秘書課人事係主任 ※※※※※ 内線 5721
    (2)苦情処理方法、連携体制等
     a 派遣元における(1)記載の者が苦情の申出を受けたときは、ただちに派遣元責任者の◎◎◎◎◎へ連絡することとし、当該派遣元責任者が中心となって、誠意をもって、遅滞なく、当該苦情の適切かつ迅速な処理を図ることとし、その結果について必ず派遣労働者に通知することとする。
     b 派遣先における(1)記載の者が苦情の申出を受けたときは、ただちに派遣先責任者の●●●●●へ連絡することとし、当該派遣先責任者が中心となって、誠意をもって、遅滞なく、当該苦情の適切かつ迅速な処理を図ることとし、その結果について必ず派遣労働者に通知することとする。
     c 派遣元事業主及び派遣先は、自らでその解決が容易であり、即時に処理した苦情の他は、相互に遅滞なく通知するとともに、密接に連絡調整を行いつつ、その解決を図ることとする。

 10. 労働者派遣契約の解除に当たって講ずる派遣労働者の雇用の安定を図るための措置【注10】
 派遣労働者の責に帰すべき事由によらない労働者派遣契約の解除が行われた場合には、派遣先と連携して他の派遣先をあっせんする等により新たな就業機会の確保を図ることとする。また、労働者派遣契約の解除に伴い派遣労働者を解雇しようとする場合には少なくとも30日前に予告することとし、30日前に予告しないときは労働基準法第20条第1項に基づく解雇予告手当を支払うこと、休業させる場合には労働基準法第26条に基づく休業手当を支払うこと等、雇用主に係る労働基準法等の責任を負うこととする。

 11. 派遣元責任者 ○○○○株式会社派遣事業運営係長 ◎◎◎◎◎【注11】
         TEL 3597−0153 内線100

 12. 派遣先責任者 総務部秘書課人事係長 ●●●●● 内線 5720【注12】

 13. 時間外労働 6.の就業時間外の労働は1日2時間、週6時間の範囲で命ぜられることがある。【注13】

 14. その他 □□□□株式会社内の診療所、職員食堂、職員休憩室の利用可。制服の貸与あり。【注14】

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 派遣110番相談例からみた「就業条件明示書」確認チェック事項(未完)

【注1】 「従事する業務の内容」は、派遣期間の上限(通常は1年、従来の26業務は行政通達によれば最長3年、一部業務は期限なし等)との関連できわめて重要です。派遣期間と業務の種類の関連を確認する必要があります。また、原則自由化になりましたが例外として「派遣禁止業務」もありますので注意して下さい。詳しくは、FAQ2120「新派遣法解説」参照。

【注2】 「就業の場所」は、実際の就業の場所です。法的には、いくつか重要な意味をもっています。
 一つは、明示された派遣先(就業の場所)から別の派遣先への派遣は「二重派遣」となり、違法です。この「二重派遣」でないかを確認するときに、この項目は重要な意味をもってきます。
 次に、「1.業務内容」や「4.派遣期間」と関連して、派遣を1年に限るという「1年ルール」の場合、派遣先での同一業務での派遣受入れが1年を超えないことが必要とされています。この場合、同一業務かどうかの判断は、就業場所が基準になります(派遣先指針 第14項目)。とくに、1年後に、派遣先は、直用の努力義務を負いますが、その際に、同一業務の判定にあたって、この項目は重要な意味をもっています。
 さらに、この明示された「就業の場所」から一時的・臨時的に別の場所に出張することは違法とは言えませんが、そうした「出張」があることも事前に明記させ、その際の交通費実費や出張手当の支給についても事前に合意しておくことが必要です。
 通勤場所については、FAQ3010、「二重派遣」についてはFAQ2260FAQ2265参照。

【注3】 「指揮命令者」は、「1.業務の内容」や「2.就業の場所」の項目との関係で重要な意味をもっています。また、派遣先指針では、この指揮命令者だけでなく、派遣先従業員(正社員)が、労働者派遣関連の法令等の知識を持つように説明会を含めた周知を求めています。派遣先での法の趣旨を無視した杜撰な派遣労働者管理が大きなトラブルを生んでいます。
 派遣先従業員が、労働者派遣の趣旨をしっかりと知っているか、「12.派遣先責任者」を含めて、単に指揮命令者の氏名だけでなく、派遣先が法やガイドラインの趣旨を踏まえた管理体制をとっているか確認して下さい。

【注4】 「派遣期間」は、1.の担当業務との関係で重要な意味をもっています。新自由化業務では、派遣先の事業所での同一業務で1年を超える派遣は禁止されることになりました。FAQ240025003030

【注5】 「就業日」 変形労働時間や年次有給休暇との関連で、就業日の確定は重要です。変更の場合などの手続もできるだけ具体的に明確にさせて下さい。通常、労働者の就業日は「就業規則」で確定されますので、就業条件明示書との違いも確認しておくことが必要です。なお、この明示書モデルに年次有給休暇の項目がないのは大きな欠点です。通常の勤務であれば6ヵ月で、次の1年に10日以上の日数の休暇があります。休暇取得を月2日に制限するなどの違法な慣行もありますし、「派遣先の就業日には休暇を認めない」という制度の趣旨を誤解した運用もあるようです。休暇取得の手続も確認することが必要です。関連した年次有給休暇関連のFAQ(FAQ3100FAQ3110311531203132313331343135)を参照してください。

【注6】 「就業時間」FAQ3060

【注7】 「休憩時間」は、労働基準法第34条は、最低基準でも1日の労働時間8時間までなら45分、それ以上なら1時間の休憩時間付与とそれを労働者が自由に利用する原則を定めています。派遣労働者も、この休憩時間の権利は同様に与えられています。相談例でも、電話番をさせられるなど派遣社員が昼休み当番の代わりをさせられる例もあります。きちんとした休憩時間を確認して下さい。なお、FAQ30803082参照。

【注8】 「安全及び衛生」については、原則として実際の就労にかかわりますので派遣先事業主に責任があります。従来、オフィスでの事務系業務については、安全衛生については労使ともに関心が強かったとは言えません。
 しかし、最近になって、派遣労働と健康や安全の問題をめぐる相談が集中しています。実際の仕事が約束と違って心労が重なりメンタル・ヘルスを害する例や、研究開発業務で派遣先での安全管理のミスで派遣労働者が健康を害して労災認定が認められた事例などもあります。派遣業務の原則自由化のなかで、危険・有害業務を派遣労働者に分担させる傾向が心配されます。
 安全衛生に関連しては、次のような点を確認しておくことが必要だと考えられます。
 ・派遣先事業場での危険有害要因や適用される安全衛生関連法規が確実に知らされるのか
 ・事務系で多い「VDT作業」(コンピュータ端末を利用した作業)では、労働省のVDT作業指針(とくに作業休止時間)を派遣労働者にもきちんと適用されるのか
 ・職場の喫煙については、労働省が平成8年2月に「職場における喫煙対策のためのガイドライン」を策定しています。派遣先事業場が、職場での喫煙をどのように規制しているか、このガイドラインに基づいているか
 ・派遣先事業場の安全衛生管理体制には、派遣労働者も人数として算入されるが、衛生管理者や(安全)衛生委員会が、派遣労働者を安全衛生管理上、きちんと対象として位置づけているか
 ・健康診断について派遣先社員と同様に受診できるかどうか、等
 関連して、派遣労働者の被災問題への申し入れFAQ30853320を参照して下さい。

【注9】 「派遣労働者からの苦情の処理」派遣元指針 第3項目派遣先指針 第7項目

【注10】 「労働者派遣契約解除」労働者派遣契約中途解除関連・相談回答例(FAQ)「派遣解雇、もらえる賃金」

【注11】 「派遣元責任者」派遣元指針

【注12】 「派遣先責任者」派遣先指針、セクハラについては、3360

【注13】 「時間外労働」については、就業条件明示書のこの記載事項だけでは不十分です。時間外労働を命ずる法的根拠としては、個別の労働契約や派遣元での就業規則に時間外労働を命ずる規定が必要です。
 派遣元事業場での「36協定」(時間外協定)が必要ですので確認して下さい。とくに、週や月あたりの時間外労働の上限も確認して下さい。割増賃金も1日8時間、1週40時間を超えたら労働基準法で25%以上を支払う義務が派遣元には課せられます。派遣先が「1時間未満の残業をカウントしない」(これ自体が違法)と言うので、派遣社員もそれに合わせて不利に扱われるという相談がありました。時間外の計算方法などの詳細も確認して下さい。
 変形労働時間制を採用していない限り、1日、1週の時間規制があります。月単位の一定時間以上を残業時間とする例がありますが、多くは違法です。変形制などの手続をきちんととっているか確認して下さい。深夜労働(10時から5時)には別に25%以上を上乗せしなければなりません。関連して、FAQ31923160を参照して下さい。

【注14】 「その他」

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