updated Aug. 13 2002
派遣110番によく寄せられる質問と回答例(FAQ)


質 問 と 回 答 例 (F A Q)

3085. 派遣社員のVDT作業休憩について教えて下さい。
 2週間の契約でパソコンを使っての入力の仕事を派遣でしています。朝9時から5時の7時間労働で、休憩は1時間ですがそれ以外の休憩は10時と3時に10分間の休憩だけです。
 とにかく入力の量も多く、期限までに終わらせるためにそれ以外の時間は殆ど目を休ませることもなく入力しています。同じ部屋には派遣先の社員も同時に入力(仕事は別種)していますが、社員には一時間に10分の休憩が与えられていますが、派遣社員にはそれ以外の休憩はありません。
 時給で働いているから仕方ないといえば仕方ないのですが、一応1時間パソコン操作をしたら休憩をとる、というのが労働衛生環境上も必要なのではないのでしょうか?
 法律はどうなっているのでしょうか?
 まるで”派遣社員は使い捨て”という感じがしています。どうかよろしくお願いいたします。

 〔1〕1985年労働省VDT指針  労働省の1985年のVDT指針には、次のように、作業時間は連続1時間、その次の作業までに10〜15分の作業休止時間を設けることが義務づけられます。

 1985年のVDT指針

 4−(1)−イ  一日の作業時間

 連続してCRTディスプレイ画面からデータ等を読み取り又はキーを操作するVDT作業(以下「連続VDT作業」という。)に常時従事する労働者については、視覚負担をはじめとする心身の負担を軽減するため、できるだけCRTディスプレイ画面を注視する時間やキーを操作する時間が短くなるよう配慮することが望ましく、VDT作業以外の作業を組み込むこと又は他の作業とのローテーションを実施することなどにより、一日のVDT作業時間が短くなるように配慮することが望ましい。

 4−(1)−ロ  一連続作業時間及び作業休止時間

 連続VDT作業に常時従事する労働者については、一連続作業時間が1時間を超えないようにし、次の連続作業までの間に10〜15分の作業休止時間を設け、かつ、一連続時間作業時間内において1〜2回程度の小休止を設けること。



 この1985年の指針がいかにも古いものです。それ以降、新たな指針は、まだ出ていないようですので、結局、この1985年指針が現在でも労働省が示しているVDT作業の基本になっています。

 コンピューター関連の各企業では、独自の基準をもっているようです。  (IBMが、詳しい作業の基準をもっているようですが、概して1985年の指針を上回る基準はないようです。)

 〔2〕就業条件の明示

 労働者派遣法は、派遣元に、派遣先での就業条件を詳しく明示する義務を定めています(労働者派遣法34条)。
 労働者派遣法第34条(就業条件の明示)

 派遣元事業主は、労働者派遣をしようとするときは、あらかじめ、当該労働者派遣に係る派遣労働者に対し、労働省令で定めるところにより、その旨及び第二十六条第一項各号に掲げる事項その他労働省令で定める事項であつて当該派遣労働者に係るものを明示しなければならない。

しかも、「書面の交付」を義務づけています。
 これが、就業条件明示書です。これを交付しなければ、重大な法違反です。
 明示しておかなければならいない、事項は次のとおりです。

 1.派遣労働者が従事する業務の内容
 2.就労する派遣先の事業所の名称、所在地、就労の場所
 3.派遣先で、就労を指揮する者の氏名
 4.労働者派遣の期間及び派遣就業する日
 5.派遣就業の開始・終了の時刻および休憩時間
 6.安全衛生に関する事項
 7.苦情の処理に関する事項
 8.派遣契約解除の場合の措置(以上、労働者派遣法第26条1項)
 9.派遣元責任者に関する事項(労働者派遣法施行規則第22条)
10.派遣就業日以外の就業や時間外の派遣就業ができるとした場合の当該の日又は延長できる時間数(労働者派遣法施行規則第22条)
11. 派遣先が派遣労働者に対し、診療、レクリェーション等に関する施設又は設備の利用、食堂の利用、制服の貸与その他の派遣労働者の福祉の増進のための便宜を提供する旨の定めを労働者派遣契約において行った場合にはその定め

 口頭での指示や約束だけですと、契約内容を変更するといったことが多いので、派遣元や派遣先に都合よく変更できることになってしまいます。そうしたことがないように文書で、この11項目を明確に記載して、派遣労働者に渡すことが求められているわけです。もし、派遣元が、就業条件明示書を交付しなければ労働者派遣法・労働者派遣法施行規則違反ということになり、派遣元は、10万円以下の罰金を受けることもあるほど、厳しい規定です。

 このうち、「6.安全衛生に関する事項」に関連して、前記指針の趣旨に基づいてVDT作業の操作にともなう「休止」についての事項が盛り込まれていることになります。
 就業条件明示書は、法的には、派遣元(派遣会社)と派遣労働者の間の労働契約の内容になります。
 したがって、派遣労働者は、それに基づいて、休止の権利を得ることになります。
 派遣元と派遣先は、労働者を休止させるという法的義務を負うことになります。

 労働安全衛生法は、派遣先事業主が国に対して負う(公法上の)義務を定めるものであって、労働者に対する民事的責任を負わせるものではないという考え方があります。この考え方によれば、労働安全衛生法違反があっても、国は違反事業主を処罰できますが、労働者は違反事業主に対して損害賠償を請求することができないことになってしまいます。私は、こうした考え方には反対ですが、一つの有力な考え方です。

 ところが、ご相談の場合、就業条件明示書=労働契約の内容に、VDT作業の休止が盛り込まれていますので、もし、労働者が休止することができないときには、契約違反となりますので、契約違反を理由に、損害賠償請求などの民事上(私法上)の権利が発生することになるのです。

 法律の理屈で判りにくいかもしれませんが、実際的には、被害が生じたときに、損害賠償ができるか否かで、大きな違いが生じてきます。
 派遣労働者も、社員と同様に労働安全衛生法の適用を受けます。
 派遣先は、労働安全衛生法上の使用者責任を負っていますので、派遣労働者についても同様な扱いをしなければなりません。

 労働基準法第3条は、差別待遇の禁止を定め、派遣先にも適用されます。

 労働安全衛生法の使用者責任について派遣労働者を差別的に扱うことは禁止されます。
 労働基準法第3条(均等待遇)

使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない。


 派遣労働者も人間です。
 「使い捨て」の現実があれば、本来は、許されません。

 派遣先については、労働基準法・労働安全衛生法の作業関連の規定については、使用者としての責任を負います。
 その責任を実施してもらえますが、派遣労働者としてはなかなか言い出しにくいかも知れませんが、派遣元を通じて、就業条件明示書の関連規定を確認し、改善を求めることができます。また、派遣先の責任者に直接苦情として申し出ることも、労働者派遣法では認めています。

 具体的な事情を考えて行動していただきたいと思いますが、可能性としては、労働基準監督署に指導をしてもらうことができます。労働基準監督署がVDT作業の指針について、派遣先を指導する立場にあるからです。

 労働基準監督署に電話などで問い合わせてみて下さい。VDT作業指針についても詳しいことが聞けると思います。

 以上の回答は1998年10月13日付です。
 その後、2002年4月に厚生労働省から新しいVDT作業指針が示されています。
 IT関連作業の広がりのなかで、より詳細な基準を示すものです。
新しい「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン」の策定について
 を参照して下さい。

FAQの総目次
FAQ概要目次
110番の書き込み欄へ