メキシコの思いで
 スペイン語と英語について

 勿論言語学の専門家ではないので、難しいことは分からないのですが、スペイン語はフランス語やイタリー語と同じようにラテン語から派生したっもので、発音などはずいぶん違うのですが、同じような言葉が出てきます。一方英語はラテン語からのものもあるようですが、ゲルマン系の言語ですので、特に日常的な単語ほど両者に違いが目立ちます。おまけに英語の場合は、なんと言っても学校教育を通じて8年間習ってきていますので、その間に覚えた単語もかなりありますし、また何より日本語の世界に英語がかなりは入り込んできていますので、発音とか文章とかと言ったことは別にすると、英語についてはかなりの基礎知識がありますが、その点スペイン語は我々日本人には馴染みのない言葉ですので、取っ付きが大変難しく感じました。日常的に使っている言葉で、スペイン語から来ているものとしてはパンとパラソルぐらいしかなく、私が独りでメキシコの町に放り出されたときは、例えばレストランで"agua"という言葉を知らないと水一杯出てきません。そんな基礎的なところから覚えていかなければなりませんでした。

 上でも書きましたように、比較的難しい単語は英語とスペイン語で、発音はともかくとしてほとんど同じなのですが、日常的な言葉ほど両者の差が大きくなります。例えば、ナイフ、フォーク、スプーンと言った言葉も英語と言うより、もう日本語化しているわけですが、これがスペイン語になりますと、cuchillo(クチーヨ)、tenedor(テネドール)、cuchara(クチャラ)となってまるっきり違ってきます。先日もアメリカからメキシコに行く飛行機に乗りましたら、その飛行機の非常口の所に英語とスペイン語で書かれていました。英語でEmergency Exitと書かれた下に、スペイン語でSalida de Emergenciaとありました。つまり「出口」という日常語は、ExitとSalidaで全く違う単語なのに、「緊急」という意味のEmergencyとEmergenciaはほとんど同じだと言うわけです。ただ発音だけはどんな場合にもスペイン語風を踏襲しているようでした。

 発音のことに触れましたが、スペイン語の場合読み方が全く規則的なのと、ローマ字読みを少しアレンジすれば良いため、我々日本人には大変取っ付き易いわけです。ことに大部分の単語が英語と違って、母音で終わっているため、単語の語尾がはっきりしていて、英語よりは聞き取りやすい言葉でした。

 我々日本人にはスペイン語が簡単に読めるという一例として、私がメキシコ市内の高速道路で、スピード違反で捕まったことがありました。私は「No puedo hablar Espanol.」(私はスペイン語が話せません。)と逃げる積もりだったのですが、その白バイのおじさんは「スペイン語が出来なくてどうして運転できるんだ。そこの道路標識を呼んで見ろ」と言うわけです。ローマ字読みすればいいわけですから、簡単なわけです。そしたら「それ見ろスペイン語が出来るではないか」と食い下がられて、とうとう200ペソの罰金を取られてしまいました。私にしてみたら、読めても内容が理解できないと言いたかったのですが、彼らには言葉が読めて、その内容が理解できないと言うのはそれこそ全くの理解の外の話だったようです。  

 私が行っていた工場には3人の管理者と、数人の技術者が居まして、その人たちは英語がしゃべれます。中にはアメリカに住んでいたというかなり英語の達者なのもいましたが、概ね学校で習ったままの英語で、とにかくスペイン語訛がひどく、最初はほとんど分かりませんでした。今でも覚えているのでは、easyを(イーシー)、personを(ペルソン)、marketは(マルケット)といった調子です。当時は 私自身も英語の会話が出来たわけではありませんので、結局はこの種のスペイン語訛の英語を聞いて、これが私の言葉になってしまいました。ある時、私が学生時代に家庭教師をしていた子どもが、日本の大学を卒業して、ロスに留学して居たのですが、丁度親父さんが日本からやってくる機会に、梶村もいるからメキシコに遊びに行こうと言うことになりまして、やって来ました。彼はロスで学校に通っているわけですから、当然本場の英語が出来るわけですが、まずメキシコの空港についてまず彼らが何を言っているのかてんで分からなかったと言います。お陰で、観光旅行の二日間、最後まで通訳をする羽目になってしまいました。

 勿論英語とスペイン語では文法的には大変違っていますけれど、日本語からしますと、例えば主語が来て動詞が来てから目的語が来るという順序は英語の世界な訳です。ですから学校で英語を習っただけという連中は、えてして自分が喋るスペイン語の文をそのまま一語一語英語に置き換えていく傾向にあります。(実際にはこれで通じてしまうのですから、日本語は不利ですよね)ある時一人のエンジニアーが私のオフィスにやって来て、「実はこれこれの問題が起こった、ついてはDo you want to explain me? 」というわけです。わたしはただちに、「I don't want.」と答えていました。彼はきょとんとして腑に落ちない様子でしたが、その時はそのままになってしまいました。私が少しスペイン語が分かるようになってから、ふとその時の光景を思い出しまして、合点が行きました。その時彼はスペイン語で言うとQuiere explicalme ?つまり「私に説明してくれませんか」と丁寧な言葉で聞いてきていたのです。ですからその意味を英語で言おうとしたら、Would you like to explain me? と言わなければならなかったのです。それをQuiereが英語でwantですから彼はそう言ったのです。ですから私は彼に対して大変失礼な返事をしたことになっていたわけです。

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