Clones  ◆ クローン人間? ◆


イギリスの科学者が、羊の成獣細胞から、遺伝子的に同一な 「クローン羊」を作ることに成功したそうです。 (1997/02/23 新聞各紙報道)
そこで話題になっているのが、「人間にも適用できるのか? 適用して良いのか?」ということです。 クローン羊を作った科学者宛に、多くの女性から「自分のクローンを 作って欲しい」という手紙が殺到 (数百通) しているそうです。 また、ある新聞記事では「大勢のヒトラーを作ることもできる」と 書いてあったりします。

ここで多くの人は「クローン」という言葉を誤解しています。

クローン人間、といった場合に、
 「自分と全く同じもうひとりの自分」
を思い浮かべてしまいますが、それと
 「遺伝子的に同一な別の人間個体」
との間には大きな違いがあります。

人間は、その思考方法や感情 ( 心? ) まで含めてその人であって、 心は、大部分を後天的な育児、学習、経験によって形成されるので、 全く同じ人間を作るには、全く同じ経験をさせて育てる必要が ありますが、それは無理です。

例えば、双子が産まれたとして、二人が全く同じように育つには、 全く同じ位置に立って全く同じ物を見なくてはなりませんが、 人間は空間的に重なれないので、物理的に無理です。おそらく双子は、 お互いをもうひとりの自分、とは認識していないでしょう。
また、全く同じ経験をするということは、同じようにいじめられたり、 同じように事故にあって怪我したり、同じ時代背景である、という ことですが、それも無理です。
これらを考えると、「自己」というものはクローン技術を使っても 複製できないことは容易に推測できます。



本当に深刻な問題は、別の所にあります。

おそらく、倫理的に微妙な問題となってくるのは、「医療」が 絡んだ時です。 人間は、死ぬことをもっとも恐れるし、愛する人が亡くなることに 耐えがたいですから、そこにクローン技術があるなら、使ってしまう かもしれません。

遺伝的に同一な体によるメリットは、「パーツとしての体」を製造する ことができるという点です。 例えば、ある種の臓器を失って、ものすごく低い確率で免疫的に 適合する臓器提供者を待っている人々がいます。また臓器移植をして、 拒否反応に苦しむ人達がいます。 そこに、クローン人間がいたら、どうでしょうか? 問題は解決します。 だって、免疫タイプが同じだから、拒否反応がないのです。
同様に、ある特殊なタイプの血液を、他人の輸血によらず製造する ことができます。
それによって、彼らは生き延びることができます。人命救済です。 どうしてやってはいけないのでしょうか?

この場合の問題は「自分のクローン親のために産まれてくる、パーツ としてのクローン人間に、人権や自由意志は認められるか?」と なります。
人は本来無垢に自由に産まれて来るべきなのに、 自分の体が人に使われることが予め決められていたり、クローン親の バックアップとして生きることが運命づけられているとわかった時、 彼はどう思うでしょうか?
しかしそれは、どういう育て方、教育を受けるかで変わると思います。 つまり、操作可能なのではないかな。 「あの人のお役にたてることは、とても光栄なことなんだよ。」 と言われ続けていれば、喜んで自らを差し出すこともあると思います。
だいたい、「臓器移植を待つ人々のために、ドナー登録しましょう」という キャンペーンも一種の教育ではないですか(それがいいことなのか 悪いことなのか、かなり個人的で微妙な問題であるものなのに)。

近未来、そういうクローンが大勢社会にいるとして、そのうちの 誰かがはっと目覚めて「クローンにも自由と長寿を!」とか言い出し、 団結してオリジナルの人間達と対立して、自由と平等を勝ち取る / あるいは虚しく敗れ去る、なんていうのは1本映画が作れちゃいそう ですね。
( ブレードランナーのパクリだけど。)

あるいは、初めから人間個体 ( 全身 ) としてではなく、パーツだけを クローン製造するでしょうか。自我を持たない形で製造できれば、それは 人間の形をしている容れ物にすぎないので、人権を考慮しなくて 済むでしょうか?
初めは皮膚だけ、腕だけ、内蔵だけ、…そしてゆくゆくは 「脳の無い全身」の製造へ?



先日 (1997/04/12) NHK 教育 TV でクローンの特集番組をやっていたので、 刺激をうけてコメント追加。
MINEW :
人間は、死ぬことをもっとも恐れるし、愛する人が亡くなることに 耐えがたいですから、そこにクローン技術があるなら、使ってしまう かもしれません。
番組の中でも言及されていましたが、以下のようなケースが起こり得ます。
人間の行動は感情によって決まり、感情は複雑で曖昧で、自分の目の前の 状況に左右されますから、上記のような状況で当事者で、そこに使える 技術があれば、使ってしまうこともあるかもしれません。 いや、大いにありそうに思えます。


人間の精子 / 卵子バンクってのはもう有るんだっけ?
それと似た発想だけど、成熟細胞からのクローンが可能だ ということになれば、「細胞バンク」ってのが始まるんじゃないかな。
ビジネスになるかもしれない。クローンそのものを行うわけではないから、 始めちゃっても倫理的に問題ならなそうだし。 「偉大な人類の多様性資産を遺伝子の形で未来に蓄積」とかなんとか 言うのかもしれません。 1998/01/24
 ↓
2002/03/12 読売新聞夕刊
再生医療研究に活用・人体組織バンク設立へ
人体組織を病気の治療に活用する再生医療を推進するため、 日本組織移植学会(北村惣一郎理事長)は十二日、 研究に使う人体組織の「再生医療バンク」を設立することを決めた。 同日午後に東京都内で理事会を開き、ガイドライン作りなどに着手する。
(…以下略)2002/03/13



1997/04/25 Takakuni Minewaki
2004/12/26 last modified Takakuni Minewaki

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