'99年2月


「カメラはライカ」金属魔境へのご招待
田中長徳 光文社文庫

 カメラジャーナル主筆のチョートクこと田中長徳の本。カメラ評論家としては好きな人。
 この本はライカ関連について色々と各所に書いている文をまとめた物。単行本になっている「ライカの謎、謎のライカ」や「くさっても、ライカ」、また「チョートクのカメラジャーナル」などから。
 「ライカ通の本」「ドイツカメラの本」などよりは、よりカメラに対する思い入れ度が高い、マニアな思いを叙情的に書きつづっているのが、読んでいて楽しい。これはあらゆる趣味に通じる所があると思う。
 この思いは、アサヒカメラ98/10月号赤城耕一氏の記述より抜粋した、次の言葉に象徴される。

 「ライカは高価だし機能的にも著しく時代遅れなカメラだとしたうえで、ライカを使って良い写真を撮るのだ、という精神的な高揚感を得ることこそが、ライカを買う目的のすべてである」

 ところで、予約した安原一式はいつ頃くるのだろうか??


「日本人は永遠に中国人を理解できない」
孔健 講談社+α文庫

 チャイニーズドラゴン新聞社編集主幹、孔子第75代直系子孫の孔健の本。チャイニーズドラゴンは読んだ事あっても、この人の本は多分初めて。

 中国人の二つの顔の使い分けや面子の重んじ方など、確かに理解し難い事は判るんだけど、接点をどう持つかイマイチ判らない。いつまでたっても出来ない気がしてくる(^^;)。これを読んでも、単に中国人嫌いが増えてしまう様な気がしてしまう。中国でいかにビジネスマンが失敗しているかの例は多いけど、成功するための指針は少ない。

 中国の三つのキーワード「騎馬民族・大陸民族」「乱世・貧困」「社会主義・人治主義」。これに対して日本は「農耕民族・島国民族」、「金持ち」「資本主義、法治主義」。まあ、そういう見方も判らないでもないんだけど、あまりに断定的な感じがする。比較文化人類学としては、あまり意味が無いというか、単に枠にはめているだけ。

「中国人のまっかなホント」感想


「聖母<マドンナ>の深き淵」
柴田よしき 角川文庫

 映画「女刑事RIKO 聖母の深き淵」の原作。映画はさっぱり判らなかったけど、これは結構面白かったかな。

 緑子<リコ>シリーズの二作目。第一作の「RIKO-女神<ヴィーナス>の永遠-」(第十五回横溝正史賞受賞作)は読んでないけど、映画「女刑事RIKO 聖母の深き淵」のあまりの説明不足に比べれば、原作はずっとよく判る(^^;)。
 一児の母で未婚の母である主人公の刑事生活。四年前の幼児誘拐と、主婦売春、殺人事件の絡み。複雑な設定が、映画のストーリの混乱に出ている様に思えた。映画にするなら、もっとディテールを刈り込まないといけなかったのかもしれない

 ジェンダーと母性、これが柴田よしきの作家としての基本となるが、多少、上っ面な感じがいなめない。「OUT」の桐野夏生などに比べると切り込みが浅い。
 警察小説とその中の女の刑事、という部分の葛藤や苛立ちの方が面白かった。

THE SPACE SHIBATAY - 柴田よしきのホームページ
映画「女刑事RIKO 聖母の深き淵」感想


「極大射程」上
- Point of Impact - Stephen Hunter -
スティーヴン・ハンター 新潮文庫

「ブラックライト」が気に入ったので、スティーヴン・ハンターの他のも読む気になる。これは長編第五作。ボブ・リー・スワガーを主人公にした設定でも「ブラックライト」より前の作品で、時代的にも前になっている。

 スティーヴン・ハンターは、NRAの手先かと思わせる武器マニア的な部分に共感出来ない所が多いが、ストーリ・テーリングの上手さを知ると、無視出来ない作家だと思う。

 ライフルを友とする隠遁生活を送るボブ・リー・スワガーが、依頼により1400ヤードという長距離狙撃を成功させる。そこから壮大な罠が始まり、窮地から脱出し、逆襲していくスナイパー・ボブの活躍。一転、裁判劇となるのも面白いし、その仕掛けもなかなか見せてくれる。
 著者は「ワシントンポスト」の映画評論チーフだけあって映画的な見せ場の作り方が凄くうまい。ストイックでハードボイルドな主人公の設定もいいし、大胆不敵で神出鬼没な行動もいい。愛敬もある。この人のストーリテーリングの巧みさは、おそらく映画的な設定作りの上手さにあるような気がしてきた。今回は脇役のFBIニューオリンズ支局員のニック・メンフィスがいい感じ。


「極大射程」下
- Point of Impact - Stephen Hunter -
スティーヴン・ハンター 新潮文庫


「オーケンののほほんと熱い国に行く」
大槻ケンヂ 新潮文庫

 8年程前の旅系のエッセイ。著者は筋肉少女帯の大槻ケンヂ。そういえばナゴムって昔、行ったなー(^^;)
 大槻ケンヂは今まで読んだ事が無い。「ぐるぐる使い」が吉川英治新人賞候補になっているし、その中の二編は星雲賞を連続受賞している。結構書いてるなーとは思うけど、しかし、この文章を読んでいると、ホントかなあという気がしてくるほど文章が下手(^^;)。

 毎日放送のインド紀行番組のレポートから話が始まる、インドとタイの旅行エッセイ。知識的、感性的にもあたらしいものは無い。文章を楽しむという感覚が、椎名誠的といえるけど、椎名誠はもうちょっと新鮮な感性があるし視点も面白い。
 そういえば、椎名誠には「インドでわしも考えた」なんてのもあるか。


「映画が教えてくれた大切なこと」
淀川長治 扶桑社文庫

 淀川長治、1988年11月11日逝去。追悼で読む。
 95年TBSブリタニカから刊行されたものの文庫本化。これは99年2月に第一刷であるから、死去に伴う刊行という商売が見えるけど、みんなが読める様になるのはいいことである。

 追悼という意味もあるけど、すべてが素直に読めてしまう。 映画監督でチャップリン、フェリーニ、ヴィスコンティ、ベルトリッチ、黒澤などなど。はたまた神戸の子供時代の経験など。
 解説で川本三郎が書いているが、審美眼がいい、野暮が嫌いで貧乏臭いものも嫌い、というのがよく判る。その審美眼を感じながら読み返すと淀川長治の人生が少しだけ見えてくる。

→ 淀川長治の新シネマトーク


「アジアの友人」
下川祐治 講談社文庫

 講談社文庫のための書き下ろし、
 相変わらずの下川祐治のアジア本なんだけど、もう、気軽に読めて楽しめる。
 日本でのアジア友達のトラブルなんか面白い(^^;)。日本での高い医療費を結核患者のするなんて話はなるほどなあと感心。バンコクでインターネットカフェが乱立しているなんてのも、意外な話。

# 最近ではバックパッカーが集まる所、インターネットカフェが多く出来るみたい。
# イスタンブールにも多くインターネットカフェがあった (2000/7/23)


「新宿歌舞伎町 マフィアの棲む街」
吾妻博勝 文春文庫

 帯の「これなくして私の『不夜城』は無かった 馳星周激賞!」の
言葉で買ってしまった。解説も馳星周。

 著者も経歴も凄い。動乱の各国を旅したのも凄いけど、ビルマ・バングラディッシュの山岳国境地帯で武装勢力に拉致監禁されたが自力で脱出するってのが強烈。「週間文春」記者として事件取材を手がけてきた根性の座り方がすごい、本書の中でも危ない目には結構あっている

 内容は93〜94年にペンネーム宮島龍として同名タイトルで連載されたもの。単行本化は1994年11月で、その文庫本化。最新の情報では無い、状況は今では変わっている
と思う。状況が変わったからこそ、ペンネームで無くて、本名を出せたのだと思うけど。

 一人の麻薬密売人が消えた事、そのルートである台湾マフィアを追う所から話は始まり、中国マフィアを中心とした展開。そこは実話のもつリアリティが恐い。


「図書館の親子」
Promises of Home - Jeff Abbott
ジェフ・アボット

 「図書館の死体」「図書館の美女」に続く三作目。
 三作とも原題には図書館の文字は無いけれど、「図書館シリーズ」とは、判りやすくていいいいイメージ。

 今回のタイトルにある親子といっても、主人公の親子ではなかった。前作でちらりと話に出てくる行方知れずの姉の夫が帰ってくる。それから巻き起こる殺人事件。
 しかし、主人公のジョーダン・ポティートが引っ越して来てからわずか半年の間に、こんな田舎町で三回の連続殺人事件が起こるのでは、まるで「金田一少年の事件簿」である(^^;)。
 そのせいか、四作目は、ジューダンと恋人のキャンディスが旅行先の孤島であう殺人事件に遭遇するらしい。ちょっと、クリスティ風の作品。田舎のいい雰囲気が失われるのはちょっと寂しいけど。しかし、このシリーズの魅力はポーティの真っ当な性格でもあるので、そちらに期待したい。


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