'99年1月


「不安と憂鬱の精神病理」
大原健士郎 講談社+α文庫

 神経症とうつ病の二つ大別して、一般人にも判りやすい様に解説している。
 浜松医科大学名誉教授の著者本人は、森田療法の信奉者の様で、中盤は森田療法および森田正馬(もりたまさたけ)自身についてもかなりページを割いている。
 平易な文で一般向けにはいいかもしれないけど、内容にはちょっと物足りない。


「小説 始皇帝暗殺」
荒俣宏 角川文庫
原案 陳凱歌 王培公

 映画「始皇帝暗殺」の原作、というよりはノベライズ。著者は荒俣宏の名前となっているけど、映像そのままで、映画ができ上がってからノベライズしたと考えた方がよさそうな内容。
 映画を観ていれば、確認用以外、別に読む必要も無いでしょう。


「ブラックライト」上 ☆
- Black Light - Stephen Hunter
扶桑社 スティーヴン・ハンター 公手成幸訳

 面白かった。主人公ボブ・リー・スワガー、海兵隊退役一等軍曹、伝説のスナイーパーで常に冷静沈着、クールでタフガイ、真の男というイメージ自体がかなり古臭い気もするんだけど、実際にはアクションだけでなく、謎解きの魅力も強く、またストーリ展開の構成が上手い。1955年の事件と現在を並行して描き、生まれるさまざまな謎により読者の興味の引きつけていく。アクションとミステリーがうまく一つになっている。

 スティーヴン・ハンターで初めての読んだ小説。「ダーティホワイトボーイズ」とこの「ブラックライト」、「極大射程」「狩リのとき」と、他のも読んでみるつもり。


「ブラックライト」下 ☆
- Black Light - Stephen Hunter
扶桑社 スティーヴン・ハンター 公手成幸訳


「ビッグ・ピクチャー」☆
- The Big Picture - Douglas Kennedy
新潮社文庫 ダグラス・ケネディ中川聖訳

 ウォール街の法律事務所のジュニア・パートナー弁護士ベンが主人公。年収30万ドルを越えるヤッピー、妻と二人の息子を持つはた目には幸福な生活。しかし、妻の浮気に気が付いたベンが激情から犯罪に及ぶ。そして次々と工作を行い…。確かに主人公は犯罪者ではあるけど、読者の多くはどんどん主人公に肩入れしてしまうと思う。所々に見える隠れする息子を思う気持ちを感じる時、犯罪者も一人の人間である事を痛感する。
 「OUT」や「シンプルプラン」や「夜光虫」など、ちょっとした犯罪からどんどんと人間性を失っていく主人公を描いたものが多かった気がする。そういう意味では、この小説は犯罪小説とは言えない、犯罪者の人間ドラマと言える。

 処女作「The Dead Heart」は映画化されたらしいけど、日本では未公開。本書「ビック・ピクチャー」もディズニーにより映画化権を取られているので期待している。


「ソウル・マイハート」
黒田福美 講談社文庫

 黒田福美の韓国に関するエッセイ集。黒田福美と言えば「タンポポ」以来の女優のイメージしかないのだけど、ソウル・オリンピックの前後には韓国通の女優としてのレポータの仕事も多かったらしい。
 韓国のバレーボール選手に憧れて韓国語を修得するなんて積極的な行動は偉いし、在日に関する視点もいいものがあるけれど…このエッセイを読む限りでは黒田福美は好きになれない。映画館でしゃべって周りに迷惑かけているのが認識出来ないのが一番許せないけど(^^;)、パスポート無くして迷惑かけた翌日によく知らない人にパスポート預けたり、危ない目に会うのも判らないでもないです、こういう行動じゃあ。エッセイの内容よりも、黒田福美の行動にイライラしてしまった。


「封印された数字」
- The Holland Suggestions - John Dunning
ジョン・ダニング ハヤカワ文庫 松浦雅之訳

 「死の蔵書」「幻の特装本」のジョン・ダニングの処女作。前の二作が大人気だったので、急遽、出版したという所かな。

 本書「封印された数字」が生まれたのは1973年。確かに処女作らしい、まだ文章や構成の下手さが目立つけれど、面白い部分もある。
 ストーリは簡単に言えば潜在意識、催眠術を使った宝探しの物語。あまり説明されないままに、潜在意識の導かれるままに行動していく主人公、その不思議さがある種の魅力的を作っている。不思議な展開の魅力は、デビット・リンチ的と思えた。


「邪馬台国はどこですか?」 鯨統一郎
創元推理文庫

 第三回創元推理短編賞の一次選考を通過した風変わりな作品、「邪馬台国はどこですか?」に新たに5作品を加えたのが本書。従来の歴史ミステリというジャンルとはちょっと違うとは思う。SF作家が科学技術をコネクリ回して新たな世界を考えるように、歴史資料をコネクリ回して斬新な歴史事実を想像する面白さと言えるかなあ。しかし、これはめちゃくちゃ面白かった。

 ブッダは悟りを開いてない「悟りを開いたのはいつですか」、邪馬台国東北論「邪馬台国はどこですか?」、聖徳太子=推古天皇「聖徳太子は誰ですか?」、信長自殺説「謀反の動機はなんですか?」、勝海舟黒幕説「維新が起きたのはなぜですか?」、イエス復活のトリック「奇跡はどのようになされたのですか?」、どれを取っても深くて、面白い。登場人物の歴史オタクそのままの世界の面白さ。


「決着」
- Decider -
ディック・フランシス ハヤカワ文庫
菊池光訳

 今回、主人公は建築家。男爵一族が経営する老巧化した競馬場、その株を亡き母から譲り受けたいた主人公のモリス。競馬場をめぐる謀略に巻き込まれていく。
 可もなく不可も無く、相変わらずディック・フランシスの競馬シリーズとしかいいようが無い。

 関係無いけど、ハヤカワのディック・フランシスの顔写真、本人知っているんでしょうか(^^;)。もうちょっとかっこいいと思うんだけど。


「ひとりで歩く女」
- She Walks Alone - Helen MacCloy
ヘレン・マクロイ 創元推理文庫 宮脇孝雄訳

 ストーリ的な面白さやトリックよりは、このミステリーは構成の面白さが魅力である。最初100ページ以上は、ある女性の奇妙な手記である。存在しない庭師の手紙の代筆、預かった荷物の十万ドルの札束、謎の殺人者、これらを語る奇妙な手記。それも書いたのが乗客の誰かも判らない、何が真実か、本当に書いたのは誰なのか、犯人は誰なのか、船という閉ざされた空間の中で真実を推理する、本格的なミステリーである。
 複雑な構成が面白さを増している。非常に上手いと思う。


「一日江戸人」
杉浦日向子 小学館文庫

 杉浦日向子の江戸ものは、庶民風俗と言うかライフスタイルに近いものを扱った物が多いけど、これもその一つ。絵が多いので、あっと言う間に読み終わってしまう(^^;)。
 入門、初級、中級、上級編と分かれ、内容もファッション、食文化、住居からマジナイ、旅行などなど。江戸マニアは読むべき一冊。


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