'98年2月


「OUT」☆
桐野夏生 講談社

 「このミステリーが好き」'97年でベスト1の作品。やっと読んだ。
 この面白さは尋常じゃない。凄く面白かった。

 弁当工場のパート主婦、仲間が殺した夫の死体をバラバラにする。この程度の広告の情報からは、「シンプル・プラン」の様なストーリや、映画「GONIN2」のハードボイルド色を予想していたのだけど…。それらの予測をすべて裏切る様な面白さ。ストーリ的にはテンポがあっていい。しかし、なによりも心理描写の深さが凄い。キャラクタの心理の奥底が見える時、本当に恐怖を感じる。

 桐野夏生は、第39回江戸川乱歩賞受賞の「顔に降りかかる雨」しか読んでないが、しかし、凄い作家だ。

「OUT」映画化感想


「ラブ&ポップ」
村上龍 幻冬舎

 デビューからずっとフォローしていた村上龍だったが、「トパーズ」でもうイヤになってずっと読んでいなかった。庵野が監督した映画版の「ラブ&ポップ」が無ければこの原作も読む事は無かったと思う。

 映画で体験したそのままの感覚で、自分としては追体験でしかなかったかもしれない。でも、面白かった。延々と出てくる無意味な会話、ビデオのタイトル、ブランド名、カラオケの歌詞などの羅列は映画では効果的だったけど、活字になるとちょっとかったる。

 → 映画「ラブ&ポップ」の感想


文庫版「メタルカラーの時代」2
山根一眞 小学館文庫

 「メタルカラーの時代」1より面白い分野が多かった。
 送電線の鉄塔、羽田新空港の埋め立て、東京ドームの膜屋根技術、金庫、ジャンボジェットのエンジンを使ったコ・ジェネレーション・システムなどなど。

 ちょうど、香川県坂出市で、鉄塔が故意に倒壊されたという事件があった。思わず、鉄塔の部分を読み返してしまった(^^;)。


「リング」
鈴木光司 角川ホラー文庫

 「リング」はハードカバーが出て、すぐに読んで面白かった記憶がある。細部を忘れているので、比較してみたくて再読。

 ストーリ立ては同じだけど、人物設定が微妙に違う。映画はより面白く、エンターテイメント性があるように上手く変更されていると思う。

 主人公の浅川を男から女にしているのが上手い。龍司を浅川の元夫に、龍司の悪人イメージは無くしオカルト的人物像にしている。
 悪の部分を持つ龍司と浅川のホームズ/ワトソン的コンビのイメージが原作では強いが、映画では、元夫婦の男女という映像的にも面白みがあるものになっている。龍司の霊感は余計な気がするけど(^^;)。

 原作に出てくるビデオの描写より、映画の中のビデオの方が100倍ぐらい怖かった。やはり原作も怖いけど、映画の方がずっと怖いという印象は同じ。

映画「リング」の感想
「リング完全版」(ビデオ)の感想


「らせん」
鈴木光司 角川ホラー文庫

 「リング」の原作を再読、続いて「らせん」も再読。
 初めて読んだ時と、印象的にはあまり変わらない。当時の流行のバイオものを巧みに取りいれたホラーという感じ。「パラサイト・イブ」を彷彿とさせる。

 映画では端折られている説明クサイ所が、逆に原作では面白い。

→映画「らせん」の感想


「ループ」
鈴木光司 角川書店

 映画の「リング」「らせん」を観て、原作は遥か昔に読んでいるけど、細部を忘れているので原作を読み返して、勢いで「ループ」まで行った。

 一日で読み終わった。読物としてはある程度は面白い。意外な展開、面白いストーリではあるのだけど、前二作の謎が氷解する様な話では無く、ちょっと不満足。ま、面白かったからいいか。話が壮大に成った分、怖さはまったくない。
 設定が、流行り好きの鈴木光司らしい。複雑系、サンタフェ研究所、ライフ・ゲーム、インディアン文化などなど、ここ数年の流行を取り入れている。相変わらず参考文献リストも面白い。

 しかし、あの程度のコンピュータでループの様なスケールのシステム出来る訳ないじゃないか(^^;)。

 三作を振り返ってみると、「リング」では純粋にモダン・ホラー路線、「らせん」では流行のバイオものを取り入れたバイオ・ホラー、「ループ」では流行の複雑系や人工生命を扱ったSFホラーという印象。


「空想科学読本」
柳田理科雄 宝島社

 著者の肩書きは、一応、空想科学研究所主任研究員(^^;)。1,2で合わせて120万部突破。

 こういうSF的、科学的なお遊びは好きなんだけど、まったく面白くなかった。文章が下手なのもあるけど、視点がつまらないのだと思う。ハードSFの知的遊びって、あまりにネカティブな視点では駄目。現実では△△は実現不可能というのより、○○を実現するには××や、×××なら可能といった思考実験だったら面白いのに。


「海外旅行の王様 東南アジア編」
河野比呂

 前著「海外旅行の王様」は読んでいないが、それの東南アジア編。
 放浪でも無い、エッセイ的でも無い、リゾート中心。金持ちでも無いし、それでいて貧乏でも無い普通の旅行。地域論としてはほとんど無くて、プーケット、バリ、ベトナムがちょっと詳しいぐらい。
 あんまり面白くなかった。

 著者の肩書きは、スーパー・トラベル・ライター、らしい(^^;)。


「ハノイの純情、サイゴンの夢」☆
神田憲行 講談社文庫

 著者は'97年7月から約一年、ベトナムのサイゴン(ホー・チ・ミン市)で日本語学校の教師生活を送る。
 この経験をまとめた「サイゴン日本語学校始末記」が第13回潮賞ノンフィクション賞を受賞。それを第一部として、第二部を加筆したものが本書。

 現地の日本語学校教師という位置が面白い。非常にリアリティがある。日常の描き方が上手い。特に社会主義的な典型的な役人主義からはにらまれ、生徒たちのジェラシーに板挟みになり、日本の援助元には嫌われる…この先生の立場にはまったく感情移入し切ってしまった(^^;)。凄く、面白かった。

 著書に朝日新聞社刊「ヴェトナムへ行こう」がある。これは、この前読んだ文春文庫「ベトナムへ行こう」とは違うもの(^^;)。最初、同じだと思ってた。


「イギリス観察辞典」大増補新編輯
林望 平凡社

 最近読んだ、林望は全部面白くなかったのパスしようと思っていたけど、1993年に出版された「イギリス観察辞典」の増補版という事で読み始める。

 感想としては、「イギリスはおいしい」の様な視点の面白さはなかったけど、扱っているネタがいかにも英国で、雑学的な勉強になる。食い物の話が少ないのはちょっと寂しい。


「だからアメリカで起業した」☆
佐藤俊之 日本経済新聞社

 バーゲンアメリカの創業者、佐藤俊之が起業の経過をそのまま本にしたもの。実際、「バーゲンアメリカ・マガジン」の読者にメール配信していた「シリーズ・インターネット・ビジネス」を元に加筆、編集したもの。

 起業家の本にありがちな、自慢半分のものや、単なるノウハウ本でもなく、起業に至るまでの、そのリアルな描写にワクワクさせられる。しかし、日本でいかに起業しにくいか、この本を読むとよく判る。

→バーゲン・アメリカ


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