2000年10月


「狩りのとき」上 ☆
- Time to Hunt - Stephen Hunter
スティーヴン・ハンター 公手成行訳 扶桑社ミステリー

 「ブラック・ライト」「極大射程」」と同じ主人公ボブ・リー・スワガー。これは面白くない訳ないと思っていた。前半、ベトナム戦争の戦闘が淡々と描かれ、その描き方の上手さには舌をまいたけど、単純なストーリ展開にちょっと拍子抜け。しかし下巻に入ってからが凄い。裏に隠されたストーリが徐々に明らかになっていく、ミステリーの味付けが素晴らしい。
 スナイパーの働きは、この本が一番が面白かった。
 ロシアのスナイパー、ソララトフの描き方がちっと足りない気がするけど、全体では満足。


「狩りのとき」下
- Time to Hunt - Stephen Hunter
スティーヴン・ハンター 公手成行訳 扶桑社ミステリー


「カツラーの秘密」 ☆
小林信也 草思社

 27歳からカツラーとなった著者の涙と笑いの物語。すっごく面白い 。
 カツラの苦しみ、日常生活の苦労が泣かせる。経済的な負担も大変なモノだと判る。カツラの見分け方を読むと、街中で気になってしょうがない。
 ダメなカツラが君臨し続ける仕組み、カツラには口コミ情報が無くこれが悪い商品をのさばらせているという、日本のカツラ業界のビジネス構造もうなづける。
 フリスビー関係で著者には、カツラーになる前もその後も実際に会っているけど、まるで気がつかなかった(^^;)。

katsuller.com - 増毛情報サイト
小林信也のホームページ


「アユとビビ 京おんなのバリ島」
大村しげ 新潮社

 旅行ガイドでも、旅行的なエッセイでもない。著者は、バリ島で脳梗塞で倒れ車椅子の生活、リハビリをバリ島のウブッドですることになる。メイドのアユとのバリ島での生活。文章はこなれて無いし、京都弁で判りにくいけど、視点が面白い。ほのぼのとして、楽しめる。
 旅行ガイドの代りにはほとんどならないけど、別の視点からバリ島を見られるかもしれない。


「好きになっちゃったバリ」
高橋美貴、平井かおる、中村正人、下川祐治 双葉社

 下川祐治責任編集の「好きになっちゃった」シリーズ。「好きになっちゃったイスタンブール」と同じ様に、雑多な話題。正装の仕方など具体的で面白いし、料理や、芸能の習い方の実際などバリらしくて面白い。まとまりが無いのは相変わらずか。


「古惑仔チンピラ」
馳星周 徳間書店

 問題小説などに載せた短編を集めた物。「不夜城」的な、日本での外国人の生きざまを描く「鼬」「古惑仔」「長い夜」「聖誕節的童話」「笑窪」「死神」の6編。
 ネタ的に新鮮さは無く従来の使いまわしを感じるが、まあ面白い。中国人の博打好きや、中国人の中でも上海、北京、福建の対立など、リアリティある世界はよい。


「タイムライン」 上
- Timeline - Michael Crichton
マイケル・クライトン ハヤカワ書房

 量子テクノロジーにより時間旅行を可能にした企業のITC。14世紀、100年戦争のさなかのフランスに送り込まれた、ジョンストン教授を助けに向かう助教授のマレク、クリス、ケイト、デイヴィット…。

  まさに冒険活劇。量子テクノロジー、時間旅行、中世文化とテーマ的には面白いのだけど、あまりに考えが浅すぎる所がSFでなくて、単なる活劇で留まっている感じがする。中世が暗黒時代という定説を否定し文化的に見直している所なんかは、「北人伝説」(映画化は「13ウォーリアーズ」)に似たような面白さがあるし、戦闘、建築、慣習その他についての描写が細かいのはいい。しかし、物語としては底が浅い登場人物の設定と、当たり前の伏線と当たり前の展開で、面白い訳がない。
 ラストの生石灰の燃やし方とか、なんか映画にすると笑ってしまうと思う。


「タイムライン」 上
- Timeline - Michael Crichton
マイケル・クライトン ハヤカワ書房


「トキシン-毒素」☆
- Toxin - Robin Cook
ロビン・クック 林克己訳 ハヤカワ文庫

 ロビン・クックの19作目。新作を読むのは「アクセプタブル・リスク -許容量-」以来かな。

 主人公の心臓外科医キムの10歳の娘が、大腸菌O157:H7に感染、容体は急変する。必死に娘を助けようとするキム、しかし医療システムや保険制度に治療が阻まれる…。
 面白かった。医療制度の問題、食物汚染などをえぐるクックのメスさばきは見事。社会派でいながら超一流のエンターテイメントに仕上がっている。特に娘の治療シーン、屠殺場の描写は見事。お薦めの一冊。

 しかし、これを読んでしまうと、決してファースト・フードの牛肉など食べられなくなってしまう。日本の方は実情はいいらしいけど…でもねえ。


「キャリアーズ」上
- Carriers - Patrick Lynch
パトリック・リンチ 高見浩訳 飛鳥新社

 植物学者の元夫のスマトラのキャンプ、主人公の双子の娘が遊びに行った、そのキャンプへの連絡が途絶える。出血性ウィルス拡散の事実を隠そうとするインドネシアの政府。必死に娘たちの消息を訪ねる主人公…。
 「アウトブレイク」「ホットゾーン」のエボラの様な出血熱ウィルスものに、遺伝子操作なども絡んでくる。盛り沢山のな登場人物と設定の割には、展開はちょっと中だるみ激しく、読み物としてはイマイチの出来か。最後まで未消化な部分も多いし。
 
 結局、謎の著者パトリック・リンチと「ホット・ゾーン」の著者リチャード・プレストンの関係って何なの?(ついでにドリアンは関係ないのだろうか?)


「キャリアーズ」下
- Carriers - Patrick Lynch
パトリック・リンチ 高見浩訳 飛鳥新社


「女王陛下のユリシーズ号」
- H.M.S.Ulysses - Alistair MacLean
アリステア・マクリーン 早川文庫

 「亡国のイージス」の解説か書評で、言及されていたので読みたくなった。第二次世界大戦、ソ連への援助物資を運ぶ連合軍輸送船団を護衛する、英国巡洋艦ユリシーズ号。先のニ度の航海で艦、乗組員共に疲労していた。北極圏の厳冬の海に、さらに空前の暴風雨。迎え撃つ敵はUボートと空爆機。
 
 綿密な戦闘描写と、乗組員の書きこみは素晴らしい。ストーリ的には盛り上がりに欠けるので退屈な感じはあるし、人間の描き方は上手いが視点が多いので全体をつかみにくい。面白い所はあったけど、全体的にはイマイチな気がした。
 しかし、この人間の書きこみ、戦闘描写の綿密さは「亡国のイージス」に無いものだった。


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