'97年12月


「カオスの紡ぐ夢の中で」 ☆
金子邦彦

 複雑系の話。
 「クォーク」「新潮21」「東京大学教養学部報」「bit」のエッセイを集めたもの。複雑系についてたが、すべて初心者向けに書かれていて難しい所はない。

 中の「小説 進物史観」が特に面白かった。SF的小説仕立てになっているが、ちょっと「ゲーテル・エッシャー・バッハ」を意識したような構造を持った話になっている。
 サンタフェ研究所によって起こった、一種の複雑系ブームを多少歯がゆく思っている所があるが、研究者からみるとそんなものなのかと思った。


「かくカク遊ブ、書く遊ぶ」
大沢在昌  小学館文庫

 大沢在昌があちらこちらに書いてあるのを、ホントにかき集めて作ったエッセイ集。オール読物、産経新聞、野性時代、週間文春、Number、将棋世界、中日新聞…まだまだ続く(^^;)、このかき集め方が凄い。しょうがないだろうけど、ここまで色んな所から集めてくると話が重複しているのが残念。大きく分けて父親からの影響が大きい子供時代と、小説に目覚めた学生時代、1979年に「感傷の街角」で小説推理新人賞を取った後の売れない時代。
 しかし、文筆家でもない父親が一万冊近い蔵書を持っていたというから凄い。


「ピアニッシモ」
辻仁成 集英社文庫

 第13回すばる文学賞受賞作。有名だから知っているけど、読んだことは無かった。何となく、買って読んでみる。
 解説で、島田雅彦が「もう、村上春樹を埋葬してしまおうではないか」と書いているけど、この文体や内容こそ、まさに村上春樹以降の文学の代表みたいに私には感じたけど。
 短すぎて、感動する時間もなかったけど面白かった。でも、やっぱり短くて物足りないか。


「似ッ非イ教室」
清水義範 講談社文庫

 エッセイのパスティーシュ。
 書かれたのは1989〜1991年のもので、1994年刊行。90年代の清水義範はまったく面白くないなあ。それでも、これは内容1/10ぐらいは面白かったからマシだけど。
 嵐山光三郎が書いている、この本の解説(これがパスティーシュになっている)の方がよっぽど面白い。


「貧乏は正しい!」
橋本治 小学館文庫

 ヤングサンデーに1991〜1995年に連載していたコラム「17歳のための超絶社会主義読本 貧乏は正しい!」を元に加筆訂正したもの。
 バブル時代の終わり、社会主義の崩壊を背景にリアルタイムで書いているだけに、面白い。

 でも、連載ならいいけど、続けてこの論理の展開を読んでいるとちょっと疲れるけど。至極、真っ当な事な意見なんだけど。
 これはシリーズ化されて順次刊行予定らしい。ちょっと楽しみ。


「食いしんぼうグラフティー」
玉村豊男 文春文庫

 玉村豊男の食関係エッセイを追いかけている。小説CLUBなどの小説系から、月刊The HOTEL、月刊専門料理などに書かれたエッセイを集めたもの。単行本化は1985年。
 ホントに雑多な内容で、面白いのもあれば、詰らないのもある。玉村豊男のダイエットの話まである。でも、そこそこ楽しめた。


「ビビンパ」
清水義範 講談社文庫

 全然面白くなかった(^^;)。年賀状だけでつづる、「謹賀新年」がちょっと面白かったぐらい。


「闇をつかむ男」
トマス・H・クック 文春文庫

 1997年エドガー賞はトマス・H・クックの「チャタム校事件」に決まったそうですが、これは彼の新刊。肝心の「チャタム校事件」は近刊だそうです(^^;)。
 主人公はかつて天才と呼ばれた記憶力を持つ犯罪ノンフィクション作家。故郷の親友の死をきっかけに、50年前の殺人事件の謎を解いていく。主人公の理論的な事件の解決の展開と、田舎の人々の意識の書き込み方がうまい。

→ 「緋色の記憶」(「チャタム校事件」- The Chatham School Affair -の邦題)


「あのころ」
さくらももこ 集英社

 さくらももこの子供時代のエッセイ。解説にある通りに「ちびまる子ちゃん」のこぼれ話的エッセイで、コミックの1から5巻あたりのテーマから抜粋したものらしい。てきや、夏休みの宿題、いかにもまる子的なトホホ感覚がよい、抱腹絶倒、面白い。まだ続くらしいので楽しみ。

 突然、さくらももこをまとめて読む気になったのは、「コントロール・ドラマ」の中で、信田さよ子が「ちびまる子ちゃん」をアダルトチルドレンの家庭と解いていたのが印象的で、そういう視点から読んでみようと思った。いざ、そういう視点を持ってしまうと、ちょっと薄ら寒い見方も出来てしまい、よりブラック・ジョーク性が高まってしまう。


「まるこだった」
さくらももこ 集英社

 「あのころ」の続き、「ちびまる子ちゃん」のこぼれ話的エッセイ。文通、ラジオ体操、はまじとの噂、ノストラダムスの大予言、大地震の噂などなどの話。
 面白いんだけど、まあ、あんまり続けて読むと、こういうのも食傷気味になってしまうか(^^;)。


「そういうふうにできている」
さくらももこ 新潮社

 さくらももこの妊娠から出産までのエッセイ。妊娠判明、つわり、便秘、情緒不安定、マナニティブルー、命名などなど時系列のエッセイ。
 比較的内容はまともだけど、便秘あたりのトホホさは面白かった。
 妊婦にはちょっとは勉強になるかも。
 第三者的視点でみる時の、さくらももこのクールさがちょっと怖い(^^;)。


「ももこの世界あっちこっちめぐり」
さくらももこ 集英社

 nonno連載のずっこけ旅行記。スペイン、イタリア、バリ島、アメリカ西海岸、パリ・オランダ、ハワイ。旅行記としてはそれほど面白くないけど、さくらももこらしい話は面白い。特に、父のひろしが出てくるアメリカ西海岸編は笑える。やはり、「ちびまる子」的になると、ずっと笑える。
 バリ島、ウブドゥ村の話が出てきたが、ここは有名らしいアート一色の村。この話を読んだだけで、思いっ切りバリ島、特にこの村に行きたくなった。実に、原始的な絵だけどひかれる絵が多い。


「食の地平線」
玉村豊男 文春文庫

 季刊「くりま」(読んだこと無い)のエッセイに書き下ろしを加えたもの。初版が1982年だから、もう15年も前になる。
 ニラミダイ(京都の正月の習慣)、パリの食生活レポート、カリフォルニアのワイン、中国に人参の祖先を捜しに行く、エジプトのハト料理、沖縄料理と豚、ラーメンなどなど。雑多な話題を雑多に展開している(^^;)。
 面白いのもあるけど、イマイチなのもある。


「料理の四面体」
玉村豊男 文春文庫

 「男子厨房学入門」が結構面白かったので、玉村豊男の料理本をまとめて読んでみる。
 ちょうど、「男子厨房学入門」に出たきた料理の原理というか、応用方法のまとめ的なのがこの本。それにしても、斬新にして大胆な方法論(^^;)。

 最終的に、料理の四面体とは火、水、空気、油を頂点とする正四面体の意味で材料を四面体の一点に置くと料理が出来あがる…らしい(^^;)。帰納的考察とも言えるのだが、かなり無理がある…でも、ちょっと面白い。
 しかし、この四面体で発想してもロクな料理が思いつかないのは何故だ。

 「新しい御馳走の発見は人類の幸福にとって天体の発見以上のものである」
 ブリア=サヴァラン

 という言葉が印象的。あと、タイの天火干しを、一億5000万Km離れた天火での料理、としているのが好き(^^)。


「幻の特装本」- The Bookman's Wake - John Dunning ☆
ジョン・ダニング ハヤカワ文庫

 「死の蔵書」(去年の私のベストワン)の続編。前作ほどはよくなかったけど、なかなか面白かった。あるはずの無いエドガー・アラン・ポーの「大鴉」1969年限定版をめぐるミステリ。特装本を扱っている事から、今回は本の内容からさらに装丁、用紙、フォントまでに話が広がっている。このマニアックさが結構楽しい(^^)。ストーリ・テーリングももちろん、相変わらずうまいが。
 前作のヒロイン、リタ・マッキンリーは名前が出てくるだけで、登場しないのが寂しい(;_;)。


「上海の西、デリーの東」 ☆
素樹文生 新潮社

 アジア旅行本の一冊に出てきた本で、タイトルを覚えていたので読んでみる。1992年の上海からデリーまでの旅の記録。面白かった。

 しかし、色々な本を読めば読むほど、中国での列車の旅はパスしたい気分になる。筆者の気分がひしひしと伝わって来てめまいがしてくる。香港に入ると読んでいた方もほっと安心する(^^;)。臨場感がある話です。

 読んでいて行きたくなるのがベトナム。特に筆者はフエ(ベトナム最後の王朝、グエン王朝の都)を誉めまくっている。行った人も確かにフエはみんないいと言う。
 クチトンネルのツアーの話も出てくるが、観光客向けのマインゾーンという地雷の疑似体験の話は印象的だった。あと、アオザイ・フェチの話も面白い(^^;)。

 アンコールワットとツールスレーン監獄博物館は、とにかく凄いという話(しかし、この二つは話に出てこない)。とにかく、アンコールワットへは飛行機で行く、船で行かないという事だけは忘れないでおこうっと。

別冊モトギ通信 - 著者自身のWebsite


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