ゆうばり国際冒険ファンタスティック映画祭98

ヤング・ファンタのグランプリは「ベルニー」が獲得!

 

メイン会場となっている市民会館


 9回目を迎えた夕張国際冒険・ファンタスティック映画祭。2月14日。
 「マヌケ先生」「初恋」「普通じゃない」などを上映するメイン会場をあえて避け、ヤング・ファンタスティック・グランプリ部門エントリー作品を公開するホテルシューパロへ向かいました。この日の上映は5作品。「キスト」を除く4作品では、監督や俳優の舞台挨拶とティーチインが行なわれました。

 「MIMI」はルシール・アザリロヴック監督のデビュー作。あの「カルネ」を監督したギャスパー・ノエが製作、撮影を担当しています。「こってり系」の作風を予想していましたが、品の良い色彩設計でした。アザリロヴック監督は「最小限の色を使って製作したいと思い、色を削除し2色を選んだ。グリーンは現実、イエローは喜びや温かさを表わしている。それを使ってコスチュームやセットに色を配した」とティーチインで説明。その意図は成功していると思います。でも、肝心の少女の恐怖心の高まりは効果的に表現できていません。挿入されるTYのポルノや犯罪番組のシーンもストーリーと有機的に絡んでいません。始まったまま終わってしまったような物足りなさが残りました。50分はやはり短いかな。

 リン・ストップケウィッチ監督のデビュー作「キスト」は、少女のネクロフィリアを叙情的に取り上げました。秀抜なライティングと色彩美に酩酊状態。どのシーンも美しい。そしてサンドラ・ラーソン役のモリー・パーカーが素敵です。知的で清潔な雰囲気を持ちながら、死体とのセックスに溺れていく演技は高く評価したいです。ネクロフィリアを当事者の内側から描き、観客に共感させることができた初めての作品かもしれません。

 少女時代のラーソンが腐敗の匂いをかぎ、動物の死体から染み出た体液を身体に塗るシーンは官能的。でも成長し関心が動物から人間に移るうちに体液描写は影をひそめます。お気に入りの死後間もない若い男性からは腐敗した体液は出ません。葬儀場の防腐処理担当のシーンでも内臓は登場しません。観客に嫌悪感を抱かせないための配慮でしょうか。しかし、そのために後半やや上滑りの印象となったと思うのは私だけでしょうかね。

 「THE GROUND 地雷撤去隊」(室賀厚監督)は、憂鬱で深刻な問題を取り上げながら、最後に爽快感を残す娯楽作品にまとめています。その並外れた力技は認めます。室賀監督は「地雷を掘るテーマなので、重くなってしまうかと思った。しかし向こうの人たちは前向きに陽気に生きている。暗い仕上がりにしたら駄目だ、前向きの娯楽エンターテインメントにしないと駄目だと思った」と、現地ロケでの思いを語っていました。トラブル続きの中で、使えるものは何でも使おうという貪欲さが、低予算を感じさせない力強さにむすびついています。「SCORE」で鍛えただけのことはあります。ただ、あまりにも予定通り、約束通りの展開すぎます。娯楽作品とはいえ、日本企業への皮肉は、もっと辛辣で良かったのではないかと思いました。

 アルベール・デュポンテル監督・主演の「ベルニー」は、孤児が自分のアイデンティテイを探す旅に出るというシリアスなドラマを、コミック・スプラッター的な世界に作り替えました。初めて孤児院を出て生活を始めた無知な青年が繰り広げるコミカルな物語かと思わせますが、浮浪者となっていた父親と出会ったあたりから、タッチが変わります。急展開に襟首をつかまれたまま、引きずり回されました。ぶっ飛ぶ傑作。この作品で初めて映画に出演した女優のクロード・ペロンは「出演したことを大変誇りに思っている。『ベルニー』はとてもオリジナル性がある。ほかのフランスのつまらない映画に出るよりも、よほど良かった」と、なかなか毒のある答えをしていました。

 井坂聡監督の「女刑事RIKO 聖母の深き淵」は、過激な表現と巧みな構成が話題となった小説の映画化。原作に比べ、映画はおとなしすぎる印象を受けました。この点について井坂監督は「原作は非常にストレートな描写のシーンが多いので、そのまま映像化してしまうと、拒絶反応の方が強いのではないか。少しオプラートに包んでも、原作を損なうことにならないと思った。表現としては抑えていって、なおかつハードな匂いだけは伝わるようにした」と弁明しましたが、「ベルニー」を観た後だけに素直にはうなずけませんでした。前半は、ママさん刑事の奮闘記のような子育ての苦労話が中心。しかし、後半に移って前半の退屈な描き込みが生きてきます。予想外の展開に次第に映像もストーリーも引き締まり集中させられます。ただし今回は「Focus」のような手の込んだ仕掛けはありません。

 グランプリの発表は16日夜に行なわれ、予想通り「ベルニー」が受賞しました。


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Visitorssince98.02.16