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 2011年9月4日、朝11時半頃にマイカーで中野に出かけた。見納めとなる旧国鉄有馬線・中野橋脚を画像に納めるためだ。中野の集落を抜けて橋脚近くの舗道脇で下車し、畦道を伝って橋脚に近づいた。小雨に煙る曇天の下の若い稲穂の黄金色のシートの向うに剥き出しの橋脚の古びた石積みが見えてきた。
 昨日10時に「さよなら橋脚現地見学会」の開催が予定されていた。ぜひとも参加せねばと意気込んでいたが、大型台風の真っ只中だった。主催者の山口青愛協会長に連絡を入れるとやはり中止ということだった。橋脚の取り壊し工事はすぐにも始まるとの情報も聞いた。
 4年前に旧国鉄有馬線のサイトを立上げた。その情報収集の過程で中野の橋脚の存在を知った。その2年後にこの貴重な遺構がバイパス工事で取壊されるという情報を耳にした。その背景や経過を把握しサイトの中に「中野の橋脚跡」として追加した。
 その後、関係者による移設保存の協議も行われたようだが、橋脚内部の構造上の脆弱さもあり最終的に移設保存案も断念せざるをえなかったようだ。そこで取り壊し工事の直前にせめて「さよなら橋脚現地見学会」を開催し、遺構を愛する人たちに最後の雄姿を見納めてもらおうということになった。
 台風という不可避な事情でその見学会すらも断念のやむなきに至った。どこまでも不運な橋脚というほかはない。最後の雄姿を見納めるべくぬかるんだ畦道の歩を進めた。
 取り壊し工事を待つばかりの愛すべき橋脚は、繁茂する草木に覆われたこれまでの姿を一変させていた。すぐにも工事にかかれるよう草木ばかりか足元の土壌もきれいに整備され、むきだしの全貌をさらしていた。おかげで南北二つの橋脚だけでなく南の橋脚と有馬川の支流・十八丁川を跨いで架かる丘陵側の台脚まで見晴らせた。様々な角度から雄姿を写した。折しも豪雨を溜めた十八丁川の激しい濁流が、あたかもまもなく取り壊される橋脚の怒りを映したかのように見えてしまった。
 10分ばかりの滞在だった。途中で出合った現場監督風の人に訊ねた。明日から工事にかかるということだった。橋脚からの帰路は工事事務所前の急造の車道を辿った。何度か振り返りデジカメのシャッターを切って名残りを惜しんだ。