The Horse's Mouth ★★☆

1958 UK
監督:ロナルド・ニーム
出演:アレック・ギネス、ケイ・ウォルシュ、レニー・ヒューストン、マイク・モーガン

左:ケイ・ウォルシュ、右:アレック・ギネス

典型的にイギリス的であると評せる映画がありますが、「The Horse's Mouth」がまさにそれに相当します。このタイプに属する作品は、テンポを捉えるのが極めて困難であるケースが多く、「The Horse's Mouth」もその例外ではありません。恐らくこの作品を初めて見た人の多くは、流れやテンポを掴むことができない内にいつのまにかジエンドになっていたという印象を持つことになり兼ねないでしょう。或いは作品のペースに乗れずに、途中でクースカするかもしれません。ム所から出所したばかりのノンシャラントなアーティスト(アレック・ギネス)が、いかにもノンシャラントに振る舞う様子が描かれているだけであり、内容について特に言うべきことはありませんが、いかにもアレック・ギネスらしいノンシャラントなコミック調パーフォーマンスによってそれが演じられており、万人向けとは決して言えないとしても、イギリス的に透かしたタイミングに独特な味わいがあります。監督のロナルド・ニームは、70年代以降アメリカに渡り、極めてハリウッド的な作品、たとえば「ポセイドン・アドベンチャー」(1972)や「メテオ」(1979)を監督し、一般にはむしろそちらで知られていますが、50年代は「The Horse's Mouth」のように典型的にイギリス的な作品をイギリスで監督していました。10年足らずでこれほど傾向を変えた監督も珍しいでしょう。或いは、ハリウッドの影響力がそれだけ強いということかもしれません。主演のアレック・ギネスも同様であり、70年代以降は「スター・ウォーズ」シリーズという典型的なハリウッド映画でポピュラーになりますが、50年代はイギリスにあって極めてイギリス的な作品に出演していました。勿論、50年代にもデビッド・リーン(因みに「The Horse's Mouth」にギネスと共に主演しているケイ・ウォルシュがリーンの最初の奥さんでした)の監督した「戦場にかける橋」(1957)のような大作にも出演していたとはいえ、アレック・ギネスが最も輝いていたのは、「The Man in the White Suit」(1951)、「The Detective」(1954)、「The Prisoner」(1955)、或いはこの「The Horse's Mouth」などのいかにもイギリス的な地味な作品においてでした。また、ロナルド・ニームの当時の監督作品にはカラーコーディネーションに関して独自の傾向が見られ、スパイ物の「The Man Who Never Was」(1956)、コメディである当作品、及びシリアスドラマの「Tunes of Glory」(1960)など、いずれのカラー作品においても黄色っぽい茶色に力点が置かれており、作品ジャンルこそ異なれカラーコーディネーションに共通性が認められます。茶色系統はあまり目立たないながら、「ドーヴァーの青い花」(1963)にも独自のカラーコーディネーションが見出せます。ビデオのパッケージの記述によると、アレック・ギネスが演じているキャラクターは、ウェールズの詩人ディラン・トーマスを彷彿とさせるとあります。個人的には名前しか知りませんが、彼に関心を持っている人はひょっとすると作品の波長にピタリとフィットするかもしれません。


2003/01/25 by 雷小僧
(2009/01/18 revised by Hiroshi Iruma)
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