The Prisoner ★★★

1955 UK
監督:ピーター・グレンヴィル
出演:アレック・ギネス、ジャック・ホーキンス

左:ジャック・ホーキンス、右:アレック・ギネス

アレック・ギネスとジャック・ホーキンスという二大俳優による真剣勝負が繰り広げられる作品であり、他の俳優も少なからず登場するとはいえ、事実上、この二人の為に製作された作品であると見なしても差し支えないでしょう。第二次世界大戦中はナチスにすら屈しなかった枢機卿(アレック・ギネス)が、戦後反逆罪に問われて当局に逮捕され、ナチスのように肉体的な拷問を駆使するのではなく、近代的な心理戦術を巧みに操る調査官(ジャック・ホーキンス)の尋問を受けることによって、一般民衆の間に築き上げられてきた彼の高貴なイメージが徐々に崩壊していく様が描かれています。と述べただけで、「何じゃそりゃ!全然面白くなさそうじゃん」と思う人と、「おっ!面白そうじゃん」と思う人とに、まっ二つに分かれるのではないかと予想されます。というのも、ビジュアルとサウンドに重きが置かれる現在のアメリカ映画を見慣れている人にとっては、言葉のトリックによって人の内面が巧みに操作される様子が微に入り細を穿って描かれる当作品の持つ会話重視の演出には、およそ馴染めないはずだからであり、また裏を返せば、会話偏重の映画を好む小生と同様な趣味を持つオーディエンスにとっては、これ以上ないほど面白そうなマテリアルであるように思われるはずだからです。実際、「The Prisoner」は、殊に後者のオーディエンスには絶対的なお薦め作品であると言い切れます。ところで、アレック・ギネスといえば、多くの映画ファンは、「スター・ウォーズ」シリーズを始めとして「戦場にかける橋」(1957)、「アラビアのロレンス」(1962)、「ローマ帝国の滅亡」(1964)、「ドクトル・ジバゴ」(1965)などのエンターテインメント大作によって記憶されているかもしれませんが、実は、彼は当作品のような小品に出演した時の方が、特徴が十分に活かされているように思われます。殊に50年代には珠玉の名編ともいえるアレック・ギネス主演の小品が少なからずあり、「The Prisoner」も確実にその中の一本であると位置付けられます。しかし、何といっても圧巻なのはジャック・ホーキンスです。海外での評価では、「The Prisoner」はジャック・ホーキンスのベストであるという見解もあるようであり、個人的に見た範囲でもそのように言えると断言できます。彼は、武骨さと同時にスケールの大きさを感じさせる俳優でもあり、「戦場にかける橋」(1957)、「ベン・ハー」(1959)、「アラビアのロレンス」(1962)などの大作映画でも、主演スターと比べてすら全く見劣りはしないとはいえ、実をいえば、アレック・ギネス同様彼についても、当作品や「紳士同盟」(1960)のような小品でこそ、絶妙な味わいのある彼独自のパフォーマンスが見られると言えるのです。ローレンス・オリビエのような舞台出身の名優は別としても、英国の俳優といえば、ケーリー・グラントやデビッド・ニブンのように華やかなイメージを持つ人も勿論いるとはいえ、アレック・ギネスやジャック・ホーキンスのような地味ではあるけれども味わい深い人がかなり存在し、他にはたとえばピーター・フィンチやジョン・ミルズなどが挙げられます。このような役者を数多く揃えているからこそ、イギリス映画には、地味ではあれども一度取り憑かれるとやめられない麻薬的な効果があるのであり、「The Prisoner」も、アレック・ギネス、ジャック・ホーキンスといういぶし銀の名優を得て、まさにそのような麻薬的効果のある作品に仕上がっているのです。


2002/02/02 by 雷小僧
(2009/01/05 revised by Hiroshi Iruma)
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