ドーヴァーの青い花 ★★★
(The Chalk Garden)

1963 UK
監督:ロナルド・ニーム
出演:デボラ・カーヘイリー・ミルズ、ジョン・ミルズ、イーディス・エバンス

左:ヘイリー・ミルズ、右:デボラ・カー

よく出来たメロドラマです。石灰質の土壌に侵食された白っぽい景色が拡がる舞台設定が特に素晴らしく、そこに住む老婆とその孫娘、及び家庭教師として雇われる主人公の抑圧し抑圧された複雑でミステリアスな感情が、草木も育たぬ石灰質の庭園風景と見事に重ね合わせられています。ストーリーは次のように展開されます。ドーバー海峡に面した人里離れた屋敷に住む老婆(イーディス・エバンス)は、孫娘(ヘイリー・ミルズ)と二人で暮らしています。草木も生えぬ生命感に乏しい環境で育てられた孫娘は、自らの頭の中に築いた妄想の世界に引き篭りがちになります。そこへ、自分の過去をなぜか一切語ろうとしないオールドミスの主人公(デボラ・カー)が、住み込みの家庭教師として雇われます。かくして、いわくありげな主人公が、幻想の世界に生きる孫娘を徐々に現実世界へ引き戻していく過程がメインストーリーとして語られます。それと同時に、オーディエンスは、自らの口からは自分の生い立ちについて何も語らない主人公の家庭教師が、果たしてどのような人物であり、どのような過去を持っているのかに関して次第に興味を掻き立てられるはずです。従って、「ドーヴァーの青い花」は、前述したように基本的にはメロドラマであるとはいえ、主人公の過去に関してミステリー要素も色濃く含まれます。しかも、ドラマティックにミステリーが解かれるシーンは、同時にメロドラマがクライマックスに達するシーンでもあり、そのような巧みな演出が実に見事です。一言で云えば、「ドーヴァーの青い花」はメロドラマジャンルとミステリージャンルのジャンル混淆の良い見本であり、それに加えて心象風景のような自然の景観が余すところなくカメラに捉えられ、心理劇的雰囲気すら存在します。このような見事なジャンル混淆例は他ではあまり見られず、それだけでも見る価値のある作品です。勿論、デボラ・カーを筆頭とした、イーディス・エバンス、ヘイリー・ミルズ、ジョン・ミルズら芸達者のパフォーマンスもオーディエンスを魅惑することでしょう。尚、ご存知のようにジョン・ミルズとヘイリー・ミルズは実際の父娘です。


2001/04/14 by 雷小僧
(2008/10/22 revised by Hiroshi Iruma)
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