新・座頭市    第3シリーズ  
              池田博明
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「日曜日にはТVを消せ」No.9 PART4 番外篇
 2007年9月30日
 "勝新・新・座頭市 第3シリーズ"特集 
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       新・座頭市 第3シリーズ

 毎週  月曜午後8時から8時54分。フジテレビ。
 企画・久保寺生朗・湯沢保雄
 プロデューサー  真田正典・市古聖智
 美術・太田誠一 技術・大角正夫  編集・谷口登志夫
 照明・風間博 音楽・村井邦彦  
 殺陣・楠本栄一 
 現像・東洋現像所  原作・子母沢寛 
 TVの『新・座頭市』(第3シリーズ)は1979年の4月16日から1979年の11月19日まで全26話放映された。
  (企画・プロデューサーは上記と異なる場合がある)

 2007年9月17日、とうとうDVD化されて発売!
黒色の文字はDVDに同封のブックレットの解説文か、または2007年以前にビデオ版を見て書いたもの。
茶色の文字は2007年9月以降、DVDを見た後で書いた文章です。
音楽:村井邦彦、冨田勲、喜太郎「天界」より(第23話)
他に特にクレジットはありませんが第4話で青山八郎(映画「無宿」使用曲)などの流用もあり

主題歌「座頭市子守唄」(作詞:いわせひろし、作・編曲:曽根幸明、歌:勝新太郎)
挿入歌「カラスの子守唄」(作詞:藤田まさと、作・編曲:曽根幸明、歌:勝新太郎)


第1話 「今日も行くひとり旅」 (脚本・新藤兼人、太田昭和監督)
浅丘ルリ子、江藤潤、菅貫太郎 1979年4月16日放映。撮影は牧浦地志。狭い家での激しい立ち回りがしっかりと画面に収録されている。
 市に助けてもらった博打うちの佐吉だが、市の財布ほしさにドスを抜き、斬られてしまう。佐吉の女房は市を追い、仇と狙う。そんなとき、市は雨にうたれ、熱を出して倒れてしまう。
「座頭市物語」第23話「心中あいや節」以来の浅丘ルリ子の出演。浅丘の役は「心中あいや節」では、薄幸で口数の少ないゴゼだったが、今回は親分の妾の誘いをきっぱり断り、頼りない清次を叱咤する強い女である。
 どしゃぶりの雨。雨宿りをしている市。そこへ、いかさまを見破られてやくざに追いつめられた佐吉が逃げこんで来る。市に斬りつけたやくざの子分“天狗”の鼻を切り落とすと、やくざたちは逃げていく。市の道連れになった佐吉は夢の中に出てきた女房に会おうと思ったものの、金が無い、金を作ろうと博打に手を出したという話をする。宿賃を支払ったときに、市の財布に佐吉は目を付けた。佐吉は市の油断を見てドスを抜くが、一瞬の間に市に斬られてしまう。
 一方、佐吉の女房・お千(浅丘ルリ子)には、横恋慕する親分・権太(菅貫太郎)がいた。お千は自分に惚れている男・清吉(江藤潤)を佐吉の仇討ちに引き込む。お千は座頭市本人に宣戦布告する。油断している隙に亭主の仇を討つつもりだ、と。市とお千は一緒に旅をすることになる。
 お千の話では、佐吉が佐倉で芸者をしていたお千を請け出した、佐吉が親分を殺したお蔭で現在の権太が親分になった、佐吉は3年間逃亡していたと話す。夜、市が眠ると出刃を構えるお千。しかし、市は眠ってはいなかった。
 お千は殺し屋として浪人を3両で雇う。ある野原で、殺し屋ばかりでなく、市を狙う天狗の鼻のやくざも来る。雇われの浪人は一瞬で斬られてしまい、他のやくざは逃げ出す。
 お千は市と一緒に旅をして市の人間がわかったといい、市を斬るのをあきらめたと言う。そして、自宅の家へ誘う。二人は舟で川を下るが、途中でどしゃぶりの雨に遭い、市はお千を雨からかばう。お千は市を家に連れて来るが、市はひどい熱を出して、ふせってしまう。熱を出した市を斬ろうとする清吉をお千は止める。船虫の権太がお千を呼びに来るが、お千は断る。権太の手下と争いになり、成り行きで手下を斬った清吉。さあ、困った。権太が仕返しに来る。お千は病気の市を逃がそうとする。しかし、権太たちが来てしまった。清吉とお千の命があわやというとき、市の仕込みが閃く。


第2話「冬の花火」(脚本・犬塚稔・奥村利夫、国原俊明監督)   財津一郎、中村七枝子、井上昭文 1979年4月23日放映。撮影は牧浦地志。
 
花火にとりつかれた男・徳三(財津一郎)とその娘・久美(中村七枝子)。娘は10歳のとき、花火の爆発で耳が遠くなっていた。市はそんな花火師親子に世話になるのだが、やくざの親分たちはその親子を使い、市の命を狙う。
財津一郎は「新・座頭市」第1シリーズ第22話「浪人子守唄」に登場していた。
 野原で花火筒の準備をしている徳三がいた。そこへ通りがかった市は打ち上げの花火筒に腰掛けてしまう。「危ない!」と徳三は市を助けるが、花火は不発だった。飛んだ火の粉で枯れススキに火がつき、野原が火事になってしまう。市は周囲の草を斬って延焼を防ぐ。
 徳三は市を家でもてなす。「(娘の作った)大根がゆをたくさん食ってくれ」と薦めるものの、実際のところ、二人はひどい貧乏暮らしだった。娘は10歳のときに近くで爆発した花火のため、耳が遠くなっていた。ところで、この村は駕籠善(井上昭文)の縄張りだった。花火の打ち上げを試みては失敗する徳三。徳三は大八車に客を乗せて運ぶ商売をしては、見つかって駕籠善の手下に殴られていた。親分は徳三に娘を女郎に差し出せとさえ迫る。
 市は耳の遠い久実に注意力を高める訓練をしていた。お蔭で少しづつ久美の聴力が回復して来る。
 以前に親分の片腕を落とされたやくざ二人が花火師志願を装って、徳三のもとへ弟子入り。市が外へ出ている間に娘を誘拐し、娘の命をカタに徳三に仕掛けさせた爆薬で納屋をふっとばす計画で、帰って来た市を葬ろうとする。
 市が帰ってきて、徳三は火を付けた。爆発寸前に娘は駆け出し、市の体を転がしてかばう。しかし、爆発した火薬は納屋の天井を突き破る花火だった。
 あっけにとられているやくざを、市が斬る。その夜、真っ暗な夜空に花火が上がった。

第3話「市の耳に子守唄」(脚本・和久田正明・奥村利夫、森一生監督)
大信田礼子、菅井きん、岸田森、大林丈史 1979年5月7日放映。撮影は渡辺貢。
 身重の女・お玉(大信田礼子)と道づれになった市。行く先でその女は命を狙われる。狙うのは生まれてくる子供の父親・奈八(大林丈史)だという。そんな女の面倒を見る市は、駕籠屋殺しの疑いで捕えられてしまう。
市は女から旅の連れ合いになってくれと声をかけられる。市は断るが、女が身重で臨月であることを知って、道連れを引き受ける。途中で役人の検問がある。夫婦の押し込み強盗を手配中だった。女は「親子で暮らすには金が必要。一度だけという約束で強盗をした」ものの、亭主・奈八は女房が捕縛されてしゃべることを恐れていて、狙ってくるのだ、そして亭主は子供が嫌いなのだと言う。
 夜、野宿中の二人のもとに奈八たちが襲撃に来る。女に「(盗んだ)金を出せ」と迫る。市はやくざ二人を斬った。お玉は奈八に財布を投げ与える。
 お玉を産婆へ連れて行く駕籠道中の途中でも二人は襲撃される。産婆(菅井きん)は臨月の女には精のつく食事が必要、怖いものを見せてはいけないと教える。市は卵を溶いてお玉に食べさせる。ところが、駕籠屋殺しの冤罪で牢に入れられた市は、牢内で「すってん踊り」のしごきを受ける。しかし、牢には市が昔、命を助けた卯吉(岸田森)がいた。翌朝、卯吉の計らいで、新入りが死にましたと死体として牢を出される市。
 産婆のもとに駆けつけると、男の子が生まれていた。しかし、力を使い果たしたお玉は亡くなっていた。市の耳にお玉の子守唄が思い出される。子供の養育は産婆が引き受けた。門のところに奈八が来ていた。市は奈八を地獄へ送る。

第4話「あした斬る」(脚本・中岡京平、勝新太郎監督)
郷ひろみ、本田博太郎、桂木梨江、飯島洋美  1979年5月14日放映。 撮影は牧浦地志。
脱藩したニヒルな剣士・五九郎(郷ひろみ)と市は湯治場で知り合った。 土地のやくざは剣士に人を斬って欲しいという依頼をする。その相手は市だった。 いよいよ決闘することになり、二つの影が重なり、市は倒れる。
市は人形を抱いた少女(飯島洋美)に抱き上げてくれと頼まれる。 少女は木に縄をかけて首を吊ろうとしていたのだ。助けた少女を連れて行く市。 なぜ少女が自殺しようとしたかは明かされない。断片的な話からすると、 女中にかしづかれているような高貴な少女らしいのだが。
 脱藩して藩の刺客に狙われる剣士・五九郎(郷ひろみ)と市は湯治場で知り合った。
 市を狙う鬼面(おにつら)一家の代貸(本田博太郎)には相思相愛の女(桂木梨江)がいた。鬼面一家の親分(金子研三)は脱藩の剣士に市を斬って欲しいという依頼をする。親分は威張り散らしていて、自分は臆病なくせに子分を弱気だと殴るような最低の人物である。
 剣士は釣りをしていた市と話しを付け、一家には「あした斬る」と約束する。川で決闘して、市は倒れる。川を流されていく市。しかし、これは芝居だった。
 剣士は礼金の三百両の半分を市に渡していた。市が生きていることに気付いた親分は怒る。少女を誘拐して市をおびき出す鬼面一家。剣士が登場、「自分が斬る」と言う。決闘して、二人が倒れる。相打ちか。親分たちが近づくと市と剣士は起き上がり、一家を切り捨てる。最後に代貸も市に斬られるが、傷は浅い。女が命請いに入る。剣士と市は戦わない。
 去っていく少女と市。少女の正体は最後まで明かされない。
 勝新演出の良さがあまり出ていない作品。郷ひろみのようなハンサムなアイドルや、子供を出演させると焦点がボケてしまい、集中を欠いて失敗してしまうという例だろうか。


第5話「ふたおもて蝶の道行」(脚本・星川清司、黒木和雄監督)
川谷拓三、松尾嘉代、峰岸徹。1979年5月21日放映。撮影は牧浦地志。
▼街道で斬りあいで追っ手を倒す市。一方、村の橋の上では、卵泥棒の男が責められている。男は突然川へ飛び込む。流されて溺れている。・・・ように見えたが足の立つ深さだった。

 市は偶然であったヘンな男・三之介(川谷拓三)と旅をすることになった。どしゃぶりの雨になり、入った廃社で、わけありの女・お北(松尾嘉代)と一緒になり、間々田への三人旅になる。しかし、その女の後を追う謎の男(峰岸徹)がいた。
 川谷拓三・松尾嘉代・勝新とくれば『警視-K』のコンビである。黒木監督は長回しが多い。三之介はおしゃべりな男だった。お北を命がけで守ると宣言する。
 叔父の家で、お北は音次郎に会う。いとしい男との再会を果たせたと思う間もなく、男(峰岸)が現われ、叔父や音次郎に金を払って、その場を去らせる。しかし、やくざ仲間がすぐに彼等を始末したようだ。
 三之介や市に男は女の悪事を披瀝する。この女は亭主を殺してくれと頼んできた、俺が承知しないとみると、色仕掛けで音次郎にもちかけた。事が露見しそうになって逃亡。亭主が俺を雇った。首でも三百両、生身で届ければ三百五十両になる。お北を守ると宣言した
三之助を男は斬る。市の仕込みがうなった。
 ふたおもてとは裏表のある女を現した表現。

★第6話「糸ぐるま」(脚本・勝新太郎・山田隆之、勝新太郎監督)
緒形拳、倍賞美津子、秋山勝俊、北見治一 1979年5月28日放映。 撮影は渡辺貢。
▼上納金を作るため、村の娘・おヨネ(倍賞美津子)が売られていく。村長(高原駿雄)が村人に払ったお金を、村人を斬り捨てて横取り、さらには村長も殺してしまった悪党たちを許しちゃならねえと市は仕込をふるった。市は悪党の頭領(緒方拳)の右足を切り落とした。
 その後、市は宿場で遊女・おヨネと再会する。娘は亭主持ちだった。その亭主はあの悪党の頭領だった。足を洗って堅気の風呂焚きになっていた。おヨネとは薬売りをしていたときに出会ったのだと言う。市と再会した頭領は市に礼を言うほどだった。男はわがままな客に殴られるが、片足を失った不自由な身では耐えるしかなかった。
 「俺、草鞋をはこうと思うんだ」と男は女に告白する。女「あきたの?」、男「・・・(そんなわけないじゃないか)・・・」。しかし、昔の悪党仲間(秋山勝俊)が十手持ちになって男を訪ねて来る。男の首には五十両の賞金がかけられていたのだ。捕縛されて囚人駕籠に乗せられていく男。茫然自失する女。
 役人たちの行く道の途中に市が待っていた。市は「やくざが役人と一緒になっちゃいけねえ」と男を救出する。女は戻って来た男と固く抱きあう。
 倍賞美津子は第16話にも登場。
春日太一『天才 勝新太郎』(文春新書、2010)より 195-196ページ
 
 緒形と倍賞がゲストで来た時のこと。その夜は撮影所に見学に来ていた大親分の招きで、勝・緒形・倍賞の三人は祇園で飲むことになった。飲みながら興の乗って来た三人は、その場で即興の芝居を始めてしまう。最初はそれを親分も楽しそうに見ていたが、やがて三人は延々と芝居を続け、親分は完全に置いてきぼりに。気づけば、翌日に撮る芝居がその場で全て出来上がっていた。
 撮影が長引き、緒形が何時間も待たされることもあった。
 「今回は何日かかっても終りそうにありませんよ」
 すまなそうに語りかけてくる真田に、緒形は笑顔で返す。
 「ご安心ください。今回は来週一杯空けてありますから」
 彼ら役者たちもまた、「勝一家」の一員になっていた。

第7話「ゆびきり げんまん」(脚本・佐藤繁子・中村努、国原俊明監督) 
 大谷直子、清水紘治、根岸一正。 1979年6月11日放映。撮影は牧浦地志、助監督は中村務。
 格子戸が開き、市が出てくる。賭けの声が聞えるので戸の内側は賭場であるらしい。後をつけてきた男は市に斬りかかる。男は賭場で見かけた市の金を奪おうとしたのだ。死に際に自分の娘を祖父母のもとへ届けて欲しいと頼む。市はその娘を届け、10年後に会うことを誓う。10年がたち、市はその娘を探すことになった。
「座頭市物語」第14話「赤ン坊喧嘩旅」以降の大谷直子出演。
 市が娘・お福(小谷真貴子)をあずけた老夫婦・巴屋は七年前に押し込み強盗に殺されてしまった。お福は生き残り、おりん(大谷直子)となって、いまや巴屋のショバを奪った三文字屋(清水鉱治)を育ての親の仇と狙っていた。おりんは三文字屋に女中として雇われる。そこへ市が十年前の約束を果たしに宿泊に来る。市の相手をするおりんは自分の身の上を隠している。萩の間にはおりんが雇った殺し屋たちが泊まっていたが、この三人組はまともに仕事を果たす気は無かった。
 萩の間の男たちとおりんの会話を立ち聞いた代貸(鈴木康之)はおりんの正体を知る。三文字屋の親分はおりんに正体を迫って白状させ、最初は萩の間の三人組を斬り、次いで市を奇襲する。しかし、市は寝てはいなかった。狭い宿場で斬りあう。
 明け方、市によって仇のもと盗賊が斬られた後、おりんは河原まで市を追いかけるが既に市の姿は無かった。
 第2話「冬の花火」を担当した国原俊明監督はこの回も、次の回も情感こまやかな演出を見せる。


第8話「大当たりめの一番」(脚本・安元莞二・奥村利夫、国原俊明監督) 波乃久里子、草野大悟、深江章喜
 1979年6月18日放映。 撮影は渡辺貢、助監督は小林正雄。
 少年の二人組みのすりに狙われた男を助けた市は、お礼にと冨札「めの一番」をもらうが、それが大当たり。女郎に惚れて金をまきあげられたその男のために、市は冨札を使って大芝居を打つことになった
五十両の金を持つ、人のいい平助に草野大悟。平助と市の話を盗み聞きし、平助をもてなした挙句に、結局持ち金を博打でまきあげてしまう親分に深江章喜。親分の囲い者・おトヨに波乃久里子。おトヨは市や平助に精一杯親切にする。
 市が泊まっている宿屋の亭主に北見治一。宿屋に泊まっている絵描きに横山リエ。絵描きの女は亭主をいじめる欲張りの女房を筆で描いたりしている。市は絵描きに「めの一番」をもう一枚描いてもらい、その偽クジで親分と丁半博打を行う。市が勝ったら十両貰う、負けたら当たりの千両くじを渡すという不公平な勝負だ。市は勝った後で、煙草に火をつけるためにくじを燃やしてしまう。「千両くじで火を点ける煙草の味は格別だ」と。市は平助に街道の辻で待つように指示する。やくざが斬られて自由になったおトヨは平助が待つ辻にやって来た。市に渡された富くじを持って。しかし、二人には富くじはもうどうでもよかった。
 ラストシーンは横山リエ「あたしがあのとき千両くじを持って逃げてしまったらどうしたんだい?」、市「あんたにはそんな匂いはしなかったよ」、横山「・・・ありがとう」。
 座頭市物語第13話「潮風に舞った千両くじ」や、新・座頭市第3シリーズ第19話「静かなくらし」と、庶民が大金を結局取らないという、精神主義・理想主義が描かれる。棚ボタの大金が不幸をもたらすという哲学を持つ市が金に執着しないのは理解できるとしても、庶民が金よりも価値のあるものを発見して、金そのものに目もくれないのは非現実的。


第9話「雨の船宿」(脚本・中村努、森一生監督) 山本圭、須賀不二男、根岸とし江
1979年6月25日放映。 撮影は渡辺貢。
 雨降りが続き船宿に来た客は川を渡れずに足止め。そこへ十手持ちが現われ、追っ手の船頭を見つける。そんなとき、病気の子供が出て船頭は船を出すことになった。
5日間も、どしゃ降りが続く。渡し場の船宿は足止めをくらった客でごったがえしていた。それでも客は増えつづける。船宿の主人(桑山正一)は稼ぎ時とばかりに客をつめこんで、仲居のおまつ(根岸とし江)はてんてこ舞い。やくざの親分(藤岡重慶)は握り飯1個の配給に難癖をつける。市が居合で黙らせた。岡っ引きの三蔵(須賀不二男)が来る。市と相部屋になった三蔵は市に十手を返すつもりだと話す。しかし、一人だけ捕縛しそこなった奴がいる、と。それが、この船宿の船頭・右三郎(山本圭)だった。雨の中を三騎の馬が来る。武士たちは舟を出せと迫るが、船頭は断る。
 三蔵は右三郎と話す。足を怪我した子供が熱を出す。川向こうの医者へ連れて行かないと命が危ない。豪雨のなか、舟を出す決心をする右三郎。しかし、三蔵が逃亡を怖れて反対する。武士たちは自分たちを先に運べと迫る。市が武士を斬り、三蔵を説得する。右三郎は逃げはしないだろう、と。豪雨のなかを子供を乗せた船が出た。
 翌朝は、晴れた。三蔵と約束の場へ赴いた市。そこに右三郎が待っていた。三蔵は右三郎を見ながら、市に「右三郎に会ったら、三蔵は十手を返して百姓になった。もう逃げることはないと伝えてくれ」と言って別れる。
 ひっきりなしに降るどしゃぶりで雨狭い船宿に閉じ込められた人間たちの閉塞感が印象的。

 
第10話「市の茶碗」(脚本・二州基夫・奥村利夫、太田昭和監督)  いしだあゆみ、江原真二郎
1979年7月2日放映。
 茶碗がお金になると知った市は焼き物師のところで修業をすることになった。 ろくろを回す市。心のままに作る市の茶碗が焼き物師の心に火をつける。そこへ焼き物師を追う追手が迫る。
▼「新・座頭市」第2シリーズ第12話「雨ふり」以来となるいしだあゆみ出演。
 撮影は渡辺貢。ご隠居のところに持ち込まれた茶碗に十両の値がつけられた。 市は夢七(江原真二郎)のところに弟子入りしようとする。夢七は、土佐藩のお抱え焼き物師だったが、壁にぶつかっていた。作る茶碗に満足できずに、壊していたし、女房(いしだあゆみ)には売ることも禁じていた。市が心のままにろくろを回して作った茶碗に何かを感じて、夢七は作品を仕上げる。火加減を耳で聞く市。
 焼きあがった茶碗を夢七は市に渡す。土佐藩で夢七と競った焼き物師が逆恨みで雇った武士が襲ってくる。着物を替えて夢七になりすました市が侍たちを始末する。
 隠居に茶碗を見立ててもらうと、隠居は市の茶碗には価値を認めなかったが、夢七の茶碗には百両の値をつける。市はその百両を二人に届けた。自分の茶碗は地蔵さまの手の上に残して。


第11話「人情まわり舞台」(脚本・中村努、黒木和雄監督)
原田芳雄、稲川順子、田武謙三 1979年7月9日 撮影は森田富士郎。
 市に助けられ、惚れた女と逃げた男は幸せになれず、不幸のどん底。そこへ市が現われ、男は市に恩返ししようと努力をするが、それを知ったやくざ一家が市を狙い家を取り囲んだ。
▼原田芳雄はテレビ座頭市シリーズ3回目のゲスト出演。原田芳雄の回の演出は常に黒木和雄である。
 博打場から出てくる男の足。外へ出た男は女を触る。新三(しんざ。原田芳雄)であった。 市と出会った新三は恩返しだとボロ家に連れて来て精一杯歓待しようとする。おつね(稲川順子)を酌婦に依頼する。潮来の漁師の息子だった新三は放蕩の果て、同郷の女おつねを身請けして助けるものの、市に生命を救ってもらう。しかし、いまや新三自身が乞食同然だった。やくざに脅された新三は、市に酒を飲ませれば、滅法酒に弱い市を殺すのは簡単だと請合う。そしてその日、新三が市に薦めた強い地酒の正体は水だった・・・・。


第12話「虹のかけ橋」(脚本・佐藤繁子、森一生監督)
中村玉緒、蟹江敬三、荒井玉青 有川正治 1979年7月23日 撮影は牧浦地志。
 人買いにさらわれた娘を探す女とであった市。その女を利用して市をやっつけようと悪党が現われた。そして悪党に言われるまま、女は毒入りの酒を運び、市に飲ませた。
▼中村玉緒はテレビの座頭市シリーズ4回めのゲスト出演。
 崖っぷちに登って来た市は旅の女(中村玉緒)と出会い、水をもらう。道中を一緒にする女は7年前に、6歳のとき人買いにさらわれたお加代を探していた。市をねらうやくざ(蟹江敬三)は土地の権蔵親分(今井健二)に相談を持ちかけ、賄いの少女お光(荒井玉青)をお加代と偽り、女を騙して、市の仕込を盗ませようとする。女の話を聞くうちに市は女の娘は実際には不慮の事故で死んでしまったことに気づく。女は自分が目を離した隙に事故死した娘の死を認めたくないのだった。一方、捨て子だったお光は自分の身を偽っているのが耐えられなかった。けれども、女が自分を娘だと思いこんで抱きかかえてくれたときの温かさが忘れられなかった。市の仕込を盗もうとしない女にじれて、とうとうやくざたちは少女を誘拐して、市に毒入りの酒を飲ませるように脅す。河原で周囲をやくざに遠巻きに囲まれて、困った女は市に「凶状持ちの悪いカラスを殺さないと、小鳥が殺されてしまう」という話をする。状況を察した市は酒を一気にふくみ、倒れる。やくざたちが市を仕留めたと駆け寄って来たところで、市は仕込を振るうのだった。最後に女と少女は一緒に故郷へ旅することになる。少女は「おじさーん」と市を呼ぶが、市は答えず去って行く。

第13話「鬼が笑う百両みやげ」(脚本・高橋二三・奥村利夫、南野梅雄監督)
谷崎弘一、武原英子、赤木春恵 1979年7月30日 撮影は渡辺貢。
 ひょんなことから大金を手にした男(谷崎)と道づれになった市。その男は10年ぶりに故郷に帰り母と再会するのだが、大金を奪った盗賊にしたてられてしまう。それを知った市の怒りが爆発する。
男が何かを埋めている。物陰からそれを見ていた青年・仙太(谷崎弘一)が掘ってみると百両。しかし、仙太の胴巻きの金を狙う男たち。仙太は浪人を居合でやりこめた市の腕に助けを求める。仙太は高崎で親孝行したいと言うが、市は「金では親孝行できやしねえ」。市は金を預かる。市は母(赤木春恵)には十年働いて稼いだと三両を渡させる。幼な馴染みの与太兵衛(市川好郎)が仙太を尋ねてくる。仙太は幼な馴染みのおきぬ(武原英子)と会って子供・太郎吉を見て驚く。一方、与太兵衛は中仙道の盗賊・まぼろし蜘蛛とも通じているが、いまや十手持ち。与太兵衛は誰かを盗賊に仕立てることにする。
 市からの金だとウソをつき、仙太に金を渡し、彼が家へ持ち帰ったところで捕縛するという計画。首尾よく罠にはまった仙太は、盗賊まぼろし蜘蛛として引き回される。そこを市が助けた。


第14話「あんま志願」(脚本・高橋二三・石田芳子、太田昭和監督)   企画者に重村一を加える。
 火野正平、岩井友見、岡嶋艶子 1979年8月6日放映。撮影は渡辺貢。
 市そっくりの格好をした男・庄吉がいた。その男は市と間違えられ斬られそうになるが、市の居合を見て市の弟子になりたいと志願。親の仇を討ちたいという。男の話を聞いた市はひと肌脱ぐことになった。
火野正平をとらえる長回しが目立つ。親の墓の前で庄吉は覚悟のほどを語る。吾妻錦という酒屋だった両親はやくざに店を奪われ、殺されたのだった。庄吉の姉(岡嶋艶子)は苦界に身を沈めていた。一年前は頼りなかった庄吉が一年の放浪ですっかり強くなって帰って来たと言う。放浪の地にあり、庄吉が事実を知ったのは十日前だった。
 


第15話「かかしっ子」(脚本・田中利世・奥村利夫、国原俊明監督)
 小谷真貴子(子役)、小林昭雄、殿山泰司  1979年8月13日
 撮影は牧浦地志。第7話とスタッフや子役が重なるので、一緒に撮影したものだろうか。
 叔父と叔母を殺して逃げた兄をもつ少女は小さなほったて小屋にかかしを立て、兄の帰りを待つ。そんな少女と知り合った市は、少女の面倒を見ることになった。そして、市は少女の笑顔を取り戻そうとする。
少女の名前は妙、兄は佐吉(岡本崇)。市は酒屋のあるじ(殿山)から、事件の経緯を聞くが、あるじは叔父夫婦を殺したのが佐吉だとは思えないと言う。やくざで十手を預かる鬼熊(大木正司)が佐吉を必死で追っているのも何か裏がありそうだ。事件後、口をきかなくなっている妙のために市は竹笛を作ってやる。市は笛での会話を教える。
 妙は竹笛を売ろうとするが、買う人はいない。市は通りがかりの老婆に金を渡して笛を買わせる。やくざが文句をつけるが、市が追い払う。
 家へ帰ってきて鬼の面をかぶり、はしゃぐ妙、兄が帰ってきた印を見つけたのだ。家を襲うやくざを市は斬る。
 酒屋へ佐吉が尋ねてくる。佐吉は叔父夫婦を殺してないと言う。鬼熊がやってくるが、佐吉は隠れる。
 あるじは市に佐吉を連れ出してもらう。市は佐吉から妙を売る交渉が決裂して鬼熊が叔父たちを殺したことを聞く。佐吉は妙に会って金を渡す。鬼熊一家が家をを取り囲む。市は仕込をふるう。子分の一人に刃をつきつけて市は鬼熊に問う。「本当のことを言わないとこいつの命をもらうぞ」、鬼熊「そんな奴の命、どうなってもいい」。市は子分に叔父夫婦を殺した犯人が鬼熊であることを証言させて助ける。「代官所へ行け」と。命を救われた男は市に感謝して勇んで駆けていくのだった。


第16話 「迎え火・送り火・灯籠流し」(脚本・田中利世・中村努,監督・森一生)  1979年8月20日 倍賞美津子
▼ビデオで見た(2004年)。企画に重村一を加える。これは森一生監督作品。撮影・森田富士郎。
 借金の取り立ての声がする。市が「したてものいたします」の札の下がったその家をのぞくと年取った老女(浦辺粂子)がこれ幸いと導きいれた。 お了(倍賞美津子)が赤子を産むところだったのだ。賭場で市の急場を救ってくれた弥吉はもう死んでいた。市がお産を手伝った子供はゆきと名づけられた。 赤ん坊の亭主は反物の行商人・源治だという。
 3年後、お了のもとには盆毎に一両の小判が届けられた。お了はそれを源治からの金だと思っている。 市は村の噂から、源治が金を持ち逃げしたこと、女を騙しては金を巻きあげる小悪党であることを知る。
 源治は、突然お了のもとへ帰ってきたものの、堅気の様子は無い。母親の仏壇前の小判を持ち出しては賭場でスってしまう。 親分は源治が座頭市を追っていることを知って、盗みを反故にする代わりに座頭市を始末する算段を命ずる。 源治はお了に仕込みを奪うように依頼する、そうすれば三人で暮らせるんだと言うものの、お了は気が進まない。 そして、自分に金を送ってくれたのが源治で無かったことに気づく。娘のゆきが仕込みを奪う相談のことを市に告げる。
 市は燈篭流しの日にお了の家を訪ねて、わざと仕込み杖を置いていく。源治はお了をほめ、さっそく親分に待ち伏せの相談にでかける。 一方、市に少年がお了さんからと提灯を届ける。提灯の柄は仕込み杖である。
 待ち伏せの場所で市はやくざたちを斬る。源治も一刀のもとに斬り捨てる。眠ってしまったゆきを家に返すと、 お了はお金の御礼を市にするのだった。しかし、既に市はその場を去っていた。

第17話「この子誰の子」(脚本・佐藤繁子・奥村利夫、太田昭和監督)
藤村志保、清水康晴、蟹江敬三 1979年8月27日放映。撮影は渡辺貢。
 惚れた男にそそのかされて葬式詐欺をはたらく母と子。不幸な生活が続き、母は子供のために男をあきらめる。しかし、あの手この手で母子をいじめるその男に、市の怒りが爆発した。
泣く練習をしている女・お留(藤村志保)がいる。葬式の玄関先に出向いて子供(清水康晴)を泣かせる。亡くなった庄屋の落とし種という詐欺なのだ。女には捨吉(蟹江敬三)というヒモが付いていた。峠を越えたところに構えのいい家があるという。次のカモである。しかし、その家の女房は亭主の浮気を隠そうともせず、みんなの前で女を攻め立てた。子供は難をおそれて隠れる。市はその子供と知り合いになり、母とも知り合いになった。
 宿屋へ捨吉がやって来る。子供を殴る捨吉。市は捨吉の腕に切り傷をつけて反省を促す。しかし、捨吉は市がやくざが百両を賭けて追っている者だと知ると、そのやくざと渡りを付けようと画策する。
 お留は故郷へ帰ってやり直そうと思い始める。旅は道連れ。途中でやくざが斬りかかるが一瞬に倒される。
 仲間の薬売りから石見銀山の話を聞き、まずは捨吉はその相棒に験してみる。捨吉はやくざの親分(江幡高志)のところへ市をやる相談を持ちかける。
 捨吉は毒の徳利を持ち、市に酒を勧めに来る。捨吉は盃につがれた酒をわざとこぼす。市は飲んだふりをする。捨吉が油断したすきに徳利を変える。毒の酒を飲んだ捨吉は慌てて外へ。やくざが襲ってきた。
 藤村志保が情感にあふれている。

第18話「犬と道連れ」(脚本・中村努・奥村利夫、南野梅雄監督)
 にしきのあきら、小野進也、梅津栄、鈴木康弘、 1979年9月3日放映。撮影は渡辺貢。
  犬と道連れになり楽しい旅をする市。突然襲い掛かった渡世人に犬は足を切られた。 犬の治療で医者のところに行くが、その渡世人も治療していた。そこへ市を追うやくざが迫る。
渡し場で人買いが船頭を脅迫している。船頭は少女達を地獄へ落す棹はさせないと断る。 人買いは舟の人々を下ろして船出しようとする。船に残った市がいた。刃物をつきつけたやくざを市は斬って舟を出す。
 犬と道連れ。市に斬りかかる渡世人(にしきのあきら)。医者(小野新也)は渡世人と犬を治療する。 医者のもとで働く老婆お加代(武知杜代子)は亭主に死に別れた。若者に亭主の面影を見ている。 貸し元(鈴木康弘)のところへは人買い天神一家の子分たちが座頭市を殺す相談に上がっていた。
 医者のところで渡世人は早く立とうとしているが、足が直らない。 市の犬の足も治ってきた。医者は犬にジン(仁)という名前を付け、 クロと一緒にしようと提案する。馬に酒を飲ます馬子に梅津栄。
 やくざが市を探して医者の家に来るが、腕のたつ医者に追い払われる。 一宿一飯の義理で上州生れの貞八は、市と斬りあわなければならないと話す。
 天神一家が取り巻く。市が斬り込む。
 最後は犬に「来るな。俺と一緒じゃろくなことはない」と諭す市。犬は戻っていく。医師が立派すぎ。

 
第19話「静かなくらし」(脚本・星川清司・石田芳子、太田昭和監督)
 二宮さよ子、河原崎次郎、小沢栄太郎  1979年9月10日放映。
 第2シリーズの黒田義之監督「忠治を売った女」で見事な演技を見せた二宮さよ子の出演作品。 撮影は牧浦地志。
▼市の周りで斬りあいがある。はずみで、守助(小沢栄太郎)が襲われているのを助けたことになった市。 甲州路を下って石和まで同道する。守助は二千両の隠し場を書いた地図を娘(二宮さよ子)に渡してくれと言う。 市は引き受けたわけでもなかったのに、守助は橋の途中に開いた穴から落ちて死んでしまう。 石和で娘・お菅(すが)は亭主・卯之助(河原崎次郎)と飲み屋をやっていた。
 娘は按摩が父親の大金を盗んだと誤解する。市を追う夫婦に卯之助の昔の仲間・ 岩次郎(中野誠也)が金目当てに接近してくる。一方、市は悪党に狙われていた。悪党は子供を使って市の掌を刺す。
 三人の方は疑心暗鬼になり仲違いをして、 森の中で卯之助は岩次郎を殺してしまう。森を抜けたアバラ屋で夫婦は市と出会う。 夫婦は市を責める。仕込を手にしばりつける市。外から悪党たちが襲撃に来ていた。
 斬り合いの後、市は書き付けを夫婦に渡そうとするが、夫婦は自分たちにはもう要らないと言うのだった。 市はそれを山羊に与える。



第20話「祭りばやしに風車」(脚本・石田芳子・田中利世・奥村利夫、田中徳三監督)
石橋蓮司、萩尾みどり、守田学哉
1979年9月17日放映。撮影は牧浦地志。
▼賭場である。鉄砲水の八(石橋蓮司)は賭場荒し。市が一宿一般の草鞋を脱いでいた。市に指を落とされた八の命を翌朝、やくざが狙う。市は昨夜の落とし前は自分がつけたはずだと八を助ける。
 数年後、風車や玩具売りの男に呼ばれた市は堅気になった八と女房(萩尾みどり)に会う。祭りの日の上がりを横領しようと企む昔の仲間が八に声をかけてくる。  石橋・萩尾・勝の三人の場面は長回し。
 騒ぎを起こそうと出かけようとしていた八を市は止める。市は賭場に入りこんでいた悪党二人を誘い出して斬った。

 第3シリーズ「新・座頭市」のブックレット巻頭に田中徳三監督が寄稿している。田中監督は2007年12月20日、87歳で逝去された。
 *************
 ある作品の撮影の初日、セットでの会話。
 勝「どうもこの脚本は面白くねえな?」
 私「・・・」
 勝「こんなファーストシーンはどうや」
 ここで、勝新太郎の、脚本とは全然別の物語が始まる。これが中々面白い。監督の私もつい乗ってしまう。
 勝「責任は俺が持つ」勝新節がつづく。
 勝新太郎は、勝プロのオーナーであり、社長である。そして座頭市の主役であり、誰よりも座頭市を知っており、座頭市を愛している男である。
 「これはオーナー命令である」 この一言には誰も逆らえない。
 勝「ここまではこれでいける、このあとは・・」
 毎日撮影は科白をつくり、シーンをその場で考え進行する。
 クランクアップの前の日。
 勝「どうやらこれでまとまったナ」
 そこには勝新太郎よりオーナーの顔があった。
 最初の脚本から残ったのは、題名とキャストの名前だけであった。
 そしてこの作品は完成した。私にとって不思議な体験である。
 こんなことは二度とやりたくない。
 脚本家にも失礼だし、私自身とまどいながら撮影していた。
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 撮影の現場がよく分る監督の言葉である。 勝新のワンマンぶりが目に見えるようだ。芸術作品というのは恐ろしい。 ひとりよがりで作った作品でも、天才の作品なら傑作だからである。

 田中徳三(語る)・・・・・(テレビの座頭市で)僕も一本ね、脚本ができて、どうも面白くないと。シーン一からね、現場で作っていくんですよ。勝ちゃんと二人で。で、全部直しまくって、最後終ったときに「やっとこれ出来たな」と。そんな経験ありましたけどね。面白いことは面白いんですが、残ったんは、題名だけですよ(笑)。だから、シナリオ作家協会からクレームが出てね。もう一切、勝プロの作品には協力せんと。そら作家は怒りますよ(笑)。それの究極が『警視-K』ですよ(笑)。「何を撮るか分からん」って言うんですよ。現場行っても。森田富士郎君が言ってましたけど。

             『RESPECT田中徳三』(シネ・ヌーヴォ、2006)より

 
★第21話・第22話  「渡世人の詩」(脚本・中村努・奥村利夫,監督・勝新太郎)  1979年10月15日・22日
森繁久弥 ▼これら3作の勝新監督・牧浦地志撮影作品は、途方もない傑作である。 脚本に勝自身(=奥村利夫)が加わっている。どれも実験的な作品である。あら筋を語ることには、ほとんど意味が無い。ビデオで見た(2004年)。 撮影・牧浦地志。
冬の河原。森繁の顔のアップ。雑木林にたたずむ森繁。小鮒が釣れるが逃がしてやる。市と出会う。
 10年ぶりの再会だという。森繁は昔、市に斬りかかったことのある利助である。今は黒磯一家の客分だ。 市は銚子の貸元からこの利根の藤城一家を紹介されてやってきたのだと言う。明日は朝市のたつ“いち”の日である。
 利助は「藤城一家は評判がいい。清吉という若いもんに目をかけてみてくれ」と言う。 さて、藤城の親分は小池朝雄だから、口では「争いごとは好きではない」と立派なことを言っているが、 どうも裏がありそうな感じがするのは否めない。
 清吉(根津甚八)に藤城は「喧嘩をするんじゃないぞ」と念押しをしている。 朝市を荒らす理不尽な黒磯の二代目喜三郎(船戸順)。藤城の賭場に顔を出して手形の紙一枚で金を無心するような無礼をはたらく。 その夜、屋台でソバを食べたあと、別れた弟分の秀次が翌朝、斬られて川に浮かんでいた。
 ヒデを弔う清吉とヒデの妻子。市と利助が弔いに来る。黒磯の客分である利助の線香代を断る清吉。 しかし、市が「これは利助さん自身の気持だから」と諭して受け取らせる。
 怒りが収まらない清吉は親分に返盃を申し出る。縁を切って黒磯を成敗しようという腹なのだ。 最初から清吉を怒らせる計画だった藤城はほくそ笑む。足の爪を切りながら話をする藤城のいやらしさがよく出ている。
 黒磯一家の喜三郎に利助の口ききで会った市は、キセル管の口を居合で斬って、藤城の縄張りに手を出さないように忠告する。 しかし、黒磯は手下を仕向けてきた。一瞬のうちに五人を切り倒す市であった。(前篇)
 すでに黒磯の手下が斬られたという噂は伝わっていた。藤城は「清吉がやったのかな・・・」と 表向きは言っているが、実際に市がやったことを知っていて、わらじを吐くという市に十両ものわらじ銭を渡す。 その金をヒデの弔い賃にと清吉に託す市。屋台で酒をくみかわしながら、利助はホトトギスの話をする。 代理親のウグイスがひなのホトトギスを殺してしまうこともあるんだろうねと利助。表には直接出て来ないが、 清吉は利助の子供で、藤城は養父ということではないかと推測される。利助は市の求めに応じて「ボウフラの唄」を歌う。 “ボウフラが人を刺すような蚊になるまでは、泥水のみのみ、浮き沈み”。
 藤城親分がヒデの葬儀を出す。 思ったより香典の見入りが多く、喜ぶ藤城。清吉の姿を見つけ、藤城は「縁を切ったお前に、 (香典の一部をヒデの女房に渡してくれなどと)意見される筋合いはない」と言い、わらじ銭として五両を投げつける。 縁を切った無宿者に居所は無いのだ。渡世人への風の冷たさが身にしみる。
 一方、黒磯一家は喧嘩の支度をして向っていた。利助からの文を市が清吉に渡す、そこには河原で「八つ半に」と書かれていた。 黒磯一家を斬る清吉と座頭市。一方、無駄飯くらいの老いぼれと黒磯に批難された利助は旅支度をして、葬儀場におもむき、 藤城を一刀のもとに斬った。
 修羅場を切り抜けた二人の前にひとりの渡世人が現われ、通りすぎるさまに、斬りかかり、 市の居合いに倒れる。利助だった。利助は「市のお蔭で長生きできた。市に斬られて本望だ。落ち葉は風をうらまねえよ」と言う。清吉は「利助さんから渡世の生き方を教わった」と言う。市は清吉にそう言われて利助も喜んでいると答える。


★第23話 「不思議な旅」 (脚本・星川清司・奥村利夫,監督・勝新太郎)  1979年10月29日放送
原田美枝子ビデオで見た(2004年)。他となんの関連もない突然変異的な作品である。原田美枝子出演作品は『警視-K』もそうであったが、ほとんどアドリブで作られている。原田美枝子、勝村淳、藤田駿、小林昭二、山口奈美。撮影・牧浦地志。企画は久保寺生郎・湯沢保雄(フジテレビ)。
 雪の日、死体の腕が雪から突き出ている。遠景に乞食女が見えてくる。タイトルが出る。
 女乞食として登場した少女(原田)はアバラ家に住む一人住まいの安寿と名乗ったり,宿場の廓で市を肩もみに雇う女になったり。三種三様の声色と扮装と表情の変化を表す。
 次第に少女は自殺した隣村の女郎うめの娘であるらしいことが分かる。
  少女はうめの父親が「いち」だったと話し,「いち」と縫い取りのある財布を渡す。少女は市の娘か?
 実際にはこれは少女の作り話であることが推察される。
 少女は因縁話をして、母親の復讐に市を雇ったのだ。
 こんなふうに物語の説明があるわけではない。こういった理解は視聴者の方で創り上げるものとなっている。 それと知りつつ,市は宿場の廓をしきる非道な親分衆(小林昭二)を斬り捨てる。とんでもない傑作!

第24話「おてんとさん」(脚本・尾中洋一、太田昭和監督)
 太地喜和子、中川梨絵、村田正雄、平凡太郎、松山照夫、二瓶直也、古川ロック
 1979年11月5日放映。撮影は渡辺貢。
▼タイトルバックは本編のダイジェストシーン。「新・座頭市」第3シリーズではダイジェスト版のタイトルバックは珍しい。渡し場で市が老人(村田正雄)に手を貸している。おりん(大地喜和子)も降りる。おりんはこの土地の六蔵親分(藤岡重慶)の女である。盲人たちはこの山に登って御来光を拝めば目が開くと信じてやって来たのだ。しかし、おりんはそんな信仰を笑う。
 六蔵は盲人たちを山の掘削にこき使い、脱走者は斬り捨てる。金鉱探しに目の見えない人足は重宝なのだ。慢性的に人手不足で御来光を拝める盲人はいないのが実態だ。居合いの腕を目撃した六蔵は、少女を人質にとり、仕込みを奪って市を人足に使う。明日が御来光だという日の夜、見張りの手下たちを、代貸(松山照夫)に強姦された盲人の女(中川梨絵)が引き付けている間に、飯場を抜け出した老人と少女は頂上を目指す。おりんは市の仕込を取り返し、一緒に山を目指す。夜の場面が暗い。
 しかし、途中で六蔵に気付かれてしまった。途中で市は追っ手の手下たちを斬ったが、明け方、頂上に着いてみると、そこには老人と少女の死体があった。勿論、自分の目も開かない。市はおてんとさんを怨む。山から下りた市は六蔵一味を斬り捨てる。おりんはさらされていた。


第25話「虹の旅」(脚本・監督・勅使河原宏)
 中村鴈治郎、岩崎加根子、井川比佐志。1979年11月12日放映。撮影は森田富士郎。
▼暑い夏である。首筋に汗をかいて女中が寝ている。宿の奥で市が竹トンボを削っている。そこへ番頭(井川比佐志)が駕籠を仕立てて市を迎えに来る。 お忍びの方のもみ療治を依頼に来たらしい。風呂で体をこすられたり、ヒゲをそられたりと丁重なもてなしを受ける市。
 越前屋(中村鴈治郎)の娘(岩崎加根子)を揉んでくれというのだが、側にもんという女が付いている。揉まれて次第に娘は更なる快感を求めるようになり、市を抱きしめる。市が選ばれたのは旅の流しの按摩なら娘の秘密が洩れないという理由からだった。
 一転して市が帰る場面。市はやや呆けてしまっている。帰りはどしゃぶりの雨。
 雨が上がると緑の林が美しい。林の中を市が歩く。宿へ帰った市は竹トンボを飛ばすがあまりうまく飛ばない。市は居合い斬りで竹トンボを斬る。自分の妄念を断ち切るかのごとく。夕陽が沈む。娘が越前屋と話している、「たいそう上手な按摩でした」と。娘はお殿様の側女で宿下がりで一時帰宅していたのだ。駕籠と護衛付きで朝、娘は殿様のもとへ帰っていった。
 市は再び請われて駕籠に乗せられる。連れていかれたのは越前屋だが、浪人(清水紘治、辻萬長ら)たちは、もんから娘と按摩との不義を聞き、強請りに来たのだった。市は証人として連行されたのだ。市は認めなかったが、浪人たちはもんの書付を越前屋につきつけ、千両を要求する。越前屋は金ですむならと浪人たちに千両を渡す。
 帰途、用済みになった市を始末しようとして浪人たちは市の居合いに斬られる。浪人の「きさまは誰だ?」との問に市は「虫けらさ」と答える。
 千両は越前屋に返金した。市は「娘さんは観音さまのような方でした」と言う。越前屋は市に礼金を渡そうとする。市は受け取りを断るが、押し問答の最中に越前屋は小柄に手をかける。小柄を抜いた瞬間、市の居合いが早く、越前屋は倒れる。番頭は逃げ出す。
 勅使河原監督の演出は“ゆっくりとしたリズム”“映画文法にこだわらぬ展開”“科白やカットで説明するのではなく、シーンで表現する”という方法だった。この方法は勝新の演出に確実に影響を与えている。


第26話「夢の旅」(脚本・勅使河原宏・中村努、勅使河原宏監督)
 観世栄夫、大川修、辻萬長 。1979年11月19日放映。 撮影は森田富士郎。音楽は富田勲。
▼百話めのTV版最終回。やはり暑い夏である。望遠レンズを多用している。
 宿で汁かけご飯を食べる市。草原で刺客たちに襲われる市、一瞬で斬り捨てたと思った瞬間・・・・市の夢である。
 目が開いた市がいる。白い着物を購入する市、遊郭に上がる市。露天風呂で乳房のある男と出会う市。
 市の夢である。絵の具の流し絵のような画面が現われる。断片的な映像が物語を拒否する。ほとんど科白もないし、ストーリーも無い。映像が空回りしているし、座頭市の世界と融合していないため、成功した作品とは言えない。勅使河原監督の実験的な座頭市としてのみ記憶される作品である。


     木全公彦  「日本映画の玉」『映画の国』 抜粋

 勅使河原宏も毛並みの面では実相寺の上をいく。いうまでもなく父は草月流の創始者・勅使河原蒼風なのだから。東京美術学校時代は日本画を専攻したが、卒業後は映画の魅力に取りつかれ、亀井文夫に師事したのち、1962年に勅使河原プロを設立して『おとし穴』で発表。長編劇映画第1作とする。この『おとし穴』はATG初の日本映画として配給された。

 勅使河原には中断期間があるので、あまり映画の作品数は多くないが、実はテレビ作品であるためカウントされてない傑作が少なくとも2本はある。 『新座頭市』の第25話『虹の旅』と第26話(最終話)『夢の旅』がそれである。DVDがリリースされているから内容は見ればよいから省略するが、オンエア時に見ていた記憶をたどって当時の感想を書けば、「唖然とした」。『夢の旅』の放映のときは、風邪で発熱していたせいか、まるで悪夢を見るような、次々に展開するシュールな映像に「ヤケクソ……」と呟いた気がする。すでに勅使河原の映画をほとんど観ており、熱心な勅使河原ファンだったにもかかわらず、テレビのゴールデンタイムでこのような作品が突如放送されることは、かなり事前から広報されていたとはいえ、座頭市の目が開くという設定と、展開するシュールな映像の数々はあまりにもまだ尻の青いシネフィル小僧にとっては不意打ちだった。 生意気にも、これは視聴率低迷で打ち切られる番組に対して、勝新=勅使河原が仕掛けた最後っ屁だと考えたものだ。

 勅使河原宏と勝新太郎の出会いといえば、安部公房の小説を映画化した『燃えつきた地図』だが、これは明らかに失敗作。しかしこの作品を勝新が勝プロで製作したことは、その後勝新自ら監督業に乗り出すのに大きな影響を与えた。

 俳優・勝新太郎ではなく、監督・勝新太郎がいかに特異な作風を持っていたかは、改めて検証しなければならないが、ひとことだけ書いておくと、大映京都を代表する編集マン、谷口登志夫が『3×4X10月』の編集を担当したとき、明らかに武は監督としての勝新を意識していたと証言している。事実、武は次の『あの夏、いちばん静かな海。』では自らが編集を行うことになる。やがて武は勝新最大の当たり役であった座頭市をリメイクし、自身の最大のヒット作にする。



勝新・座頭市の世界   池田博明

TV版『座頭市物語』と『新・座頭市』は全作ビデオが発売されたことがある。しかし,現在は販売されていない。その後,数本が俳優中心でセット販売された。映画版の勝新監督作品『新座頭市物語・折れた杖』も1998年にようやくビデオで発売された。しかし,勝新監督の最初の傑作映画『顔役』はまだビデオ化されていない。TVシリーズ『警視−K』は1998年にVAPからビデオ化されて発売された。(池田追記,2000年)。テレビ版『座頭市』は、2007年にDVD化され、全作品が発売された。

 ▼『座頭市物語』『新・座頭市』放映リスト


 座頭市物語  日曜日にはTVを消せ No.9 PART1 

 新・座頭市第1シリーズ  日曜日にはTVを消せ No.9 PART2 

 新・座頭市第2シリーズ  日曜日にはTVを消せ No.9 PART3

 『勝新演出の座頭市』   日曜日にはTVを消せ No.9 PART2-4

 警視K              日曜日にはTVを消せ No.9 PART5

 痛快!河内山宗俊    日曜日にはTVを消せ No.9 PART6
 
 黒田義之監督の座頭市   日曜日にはTVを消せ No.9 PART7

 監督・勝新の『新座頭市物語 折れた杖』脚本と完成作品の異同


 兵隊やくざ 映画シリーズ
 

 ダーティ工藤談「勝新さんの『新・座頭市』(1976)もやられてますが、勝さんの場合、常にアイデアを持っていて、それを現場でもドンドン出してくるそうですが。
 工藤 まあ、あるけども、それを一々取り上げてたら、個人的趣味の映画になっちゃうからさ。
 −お兄さんの若山さんとは、また違いますか。
 工藤 そうね。富さんの場合は、おのれの領分というのを弁えてるからね。勝ちゃんの場合、プライベート映画になっちゃうんだな。勝ちゃんを知ってる人にとっては面白いかもしれないけどさ。これは二本ぐらいやったのかなあ。『警視K』(1980)てのも、勝ちゃんに「やってよ」と言われたけど、何だかわけのわからん話でさ(笑)。」ダーティ工藤『光と影 映画監督工藤栄一』ワイズ出版,2002年。

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