日曜日にはTVを消せ プログラム
勝新演出の「痛快!河内山宗俊」
カツシンの顔  役
顔役』分析採録
警視K』勝新インタビュー【pdf】
兵隊やくざ 映画シリーズ

 警視-K    勝新太郎の演出
              池田博明
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「日曜日にはТVを消せ」No.11
(ホームページ版 第1号)
 2000年2月発行
 "警視−K特集" 
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 警視K

         警視−Kの世界    

               池田博明

 『警視−K』は1980年10月7日から毎週火曜日21時から1時間枠,日本テレビ系列で,ワン・クール,13話だけ放送された勝新太郎主演・脚本・監督のテレビ作品である。
 勝新の演出は全部で8話。

 斬新で,意欲的な作品であった。

 しかし,視聴率はまったくふるわなかった。
 たぶん回が進むにつれ,視聴率は落ちていったと思われる。




 当時,批判の声はいろいろあった。

 話がわかりにくい。
脚本は大雑把な枠,つまりハコしかなく,演出はほとんど即興だったと思われる。勝新といちばん多く組んだ森田富士郎のカメラワークは,即興演出とは思えない天才的な操作をしている。こった画面作りだったが,前半の方はとくに物語の説明が不親切で,視聴者の想像力に訴えるところが多かった。また,勝新の役はいわばヤクザ刑事なので,捜査の常道をとらずに,裏捜査をする設定があり,一般の視聴者にはそういった設定が理解できなかったと思われる。

 暴力刑事の話である。

勝新扮する警視−Kはもちろん,Kの部下たちはきちんと背広を着ておらず,ラフな格好をしている。つまり最初から組織を逸脱した刑事たちなのだ。暴力あり,おとり捜査ありの裏街道。とてもお茶の間で楽しめるような話ではない。後年NHKが『新宿鮫』をドラマ化したとき,警察の隠語を字幕で解説していたが,警視−Kではなんの説明もなく,生の暴力がそのままテレビにもちこまれていた。
 
 セリフが聞き取れない。

即興のセリフを,シンクロ録音したため,ボソボソつぶやくようなセリフが多く,しかもそれが物語を理解するのに重要なセリフだったりする。そのため,話が理解できないという欲求不満を視聴者が抱えたまま,ドラマが進行していく。
 
 勝新の娘・奥村真粧美がKの娘役で出演しているが素人芝居である。
 
彼女はまったく芝居をしていなかった! 当時17-18歳。

 テーマは何だ?

物語は単純で,ギリギリの人間ドラマであった。人間描写で見せるドラマであって,物語の面白さで見せるドラマではなかった。

 番組の視聴率が低下する理由はいろいろで,本当に下らない場合もある。しかし,世の中より先行しすぎているために,理解されない場合もあるのだ。勝新の『警視−K』はあまりにも先を行き過ぎていた。
 おそらく現代でも理解する人は,そう多くはないだろう。『警視−K』の世界は基本的には暗くて,視聴者のテレビドラマの見方が変わったとも思えないからだ。現在は,同じ刑事ものでも『踊る大捜査線』など,ずいぶん甘く,軽いノリで見られるドラマが主流である。
 しかし,この<知られざる傑作>(ビデオの箱にそう書いてあるのが,なんともおかしい)がビデオ化され,販売されているおかげで,その気になればいつでも見ることができる。しかも分かりにくい箇所は,繰り返し見ることさえ出来る。なんと幸福な時代になったことか(ここまで,2000年記)。
 ただしいまやビデオは
品切れ絶版(2007年追記)。


 2012年12月6日からBSの日本映画専門チャンネルで,岩井俊二映画祭presentsマイリトル映画祭として先行放映(第3話・第5話・第11話)。既に10月に第1話・第2話が放映されていた。
 2013年1月16日からマイリトル映画祭で全13話がハイビジョン放送される。
 『警視-K』の世界を語る(12月7日23:00〜。ほか再放送もあり)番組もあった。
 出演者は日本映画専門チャンネルプロデューサー宮川朋之、プロデューサー久保田修、岩井監督、俳優・江口洋介・刈谷友衣子・黒木華、中村玉緒、奥村真粧美。
 岩井「当時の刑事ドラマと違い、独特な世界だった。アヴァンギャルドな、ドキュメンタリータッチな作品で荒削りなライブ感がある。TVの座頭市物語も部屋を暗くして見ていた。宮崎アニメにもピュアな少女が出てくるが、座頭市にも<冬の花火>とか、ピュアな少女が出てくる映画がある。第1話・第2話なんかアップが多い。座頭市物語も最初の方はアップが多いよね」
 宮川「脚本・監督・編集・主演みんな勝自身でワンマンショーの極み。台本が無い。勝のアドリブに他の役者が反応する。勝さんは型にはまりたくないというのがあったと思う。世界的にもこんな演出家はいない。フィルム撮影なのでハイビジョン化できた」
 久保田「七十年代ドラマだという気がする。<自由>や<新しいこと>が重視されているという。八十年代までは映画のスタッフがテレビを作れていた。普通のテレビドラマと違う。キャンピング・カーが印象的。(『警視-K』は、作りが驚くほど)不親切だよね(しかし、そこが特徴)。座頭市も子供と関わる話にけっこう傑作がある。最終的には『警視-K』は<人柄のドラマ>という感じ」
 江口「見たのは、二十歳直前くらいだったか。電波を使って個人的なものが見れたと感じた。見直すと、間がすごいですね」
 奥村「セットを使うのが嫌いだった。みんな自前のもの。演技しちゃダメだって言われた。俳優さんたちもそう。最終話にはママが出てくるんだが、ママ役には誰がいいと聞かれた。(玉緒が演ずることになるが、撮影現場では)二人はずっと喧嘩しているわけですよ(台本がないまま演技をしなければならないので)。そのまま撮影に入る。パパは人間が好きだった」
 玉緒「台本は一応あって渡される。でも、決定稿なのに、まっさら。ピンマイクとかを付け始めた最初ではないか」
(2012年追記)


 企画 岡田晋吉・久保寺生郎・斉藤恒久 
 プロデューサー 加賀義ニ・真田正典・市古聖智 
 制作 勝プロダクション
 音楽 山下達郎  主題歌は山下達郎が唄う「マイ・シュガー・ベイブ」

 
  ★第1話 そのしあわせ待った 
  (脚本・高際和雄・勝新太郎,監督・勝新太郎,撮影・森田富士郎)
       1980年10月7日放映
 浜辺で地引網をひく人。赤いガウンを着て走るK(勝新太郎)。浜辺に停めたキャンピング・カーで娘・正美(奥村真粧美)と朝食。
石橋蓮司 今宿(コンジキ)署の管内で選挙運動資金の強盗殺人事件が起こる。犯人は現金とともに秘書の宮城(石橋蓮司)を拉致していく。しかし,自動車の車内で宮城は「うまくいった」と笑う。
 捜査の指揮は本庁の辺見(金子研三)がとるが,ビデオを見たKは,八千万円が入ったバッグにしては犯人の扱いが軽いことに不信感を持ち,宮城の狂言ではないかと疑い始める。
 犯人・上山の自宅ではガスもれ爆発事故で一家三人死亡。情報屋・尾張(川谷拓三)から宮城は大の賭博好きだが,すった金を事件後返済していることや,競馬の借金を一部持ち返った男がガス爆発で一家心中?したとは奇妙だという情報を得る。
 宮城は政治家(安部徹)の娘と結婚する予定。デイスコ・クイーンで張り込むKはディスコに自分の娘を見つけて仰天する。不機嫌なKのもとに,上山の母がテープを持ち込む。
 宮城の結婚式場。乗り込んだKとその部下が宮城の犯罪を暴く。逃げようとする宮城の手にKの投げ手錠が飛んだ。
 クローズアップを中心にこった映像を積み重ねて,勝新演出が凝縮された一篇である。 

 基本的な設定を確認しておこう。今宿署に勤務する警視・賀津(ガッツ.勝新太郎)と,その部下の刑事・谷(谷崎弘一)と刑事・水口(水口晴幸),刑事課長・藤枝(北見治一)がいわばKファミリー。
 本庁風を吹かす辺見(金子研三)を,署員はにがにがしく思っているが,口には出せないという構図がある。
 賀津(以下Kと略す)は,国電のガード上の駐車場に止めたキャンピング・カーに娘と一緒に住んでいる。娘は事件に関わることはないが,事件で疲れたKの心の安息所である。
 2回目以降だが,署内の電球を吊るしたKの部屋(通称ガッツ部屋)には「悪魔のような執念,牛のような忍耐」と大書された掛け軸がかかっているのが見える。
 
  ★第2話 コルトガバメントM1911 
  (脚本・柏原寛治・勝新太郎,監督・勝新太郎,撮影・森田富士郎)
             1980年10月14日
 夜,中年のさえない男が射殺される。太い注射器で首から,血液が抜きとられる。警視K第2話堀内正美
 翌朝,死体を捜査し,現場を捜査する刑事たち。本庁の辺見が指揮をとる。Kはキャンピング・カーで娘と朝食をとってから,現場へ出ていく。
 被害者は当たり屋だった。体内から摘出された弾核で,使用された拳銃がコルトガバメントM1911であることが分かった。この拳銃の出所をつきとめるのは難しい。ベトナム戦争のときに使用されたものだからだ。辺見が威張る捜査室にボーイとちんぴらが食い放題の食堂の件で乱入し,Kが隣室へ移す。ふたりの争いが続く・・・ように見えたのは実はトリック。この二人は情報屋だったのだ(この辺の展開も唐突で理解できるかどうか・・・)。Kは尾張(川谷拓三)からアダムス(ペドロ・L・クエノーネス)という男のことを聞く。辺見によって早速逮捕されるアダムス。しかし,いくら恫喝しても彼はなにも吐かない。
 Kは娘に通訳を頼む。その結果,アダムスは直接事件には関係がないが,拳銃を誰かに売りたいという頼みに来た男のことを知った。
 奇妙な若い男(堀内正美)がいる。彼は坂道でわざと他人の乳母車を押して,母親があわてるのを微笑して見ている。Kと娘はディスコでブラック・ジャックと仇名される黒人を見つける。男はやさ男(堀内)に拳銃を売ったらしい。
 ブラックジャックは男に新聞記事を見せ,なにか言う。男は立ち上がり,ふたりはそのうちどこか他へ行く。Kは写真を撮影する。
 翌朝,川でまた死体が発見される。あの黒人である。やはり血を抜かれていた。
 Kの写真は写っていなかった。バカチョンカメラにフィルムを入れた後,巻き上げなかったのだ。Kは刑事を怒る。刑事は「・・・(Kが)自分で出きるといったのに・・・」。
 記者が辺見を問い詰める。Kは記者のひとりが新聞社に事件の捜査状況の問い合わせがあったという言葉を聞き,事件を記事にしてくれるなと依頼する。
 男の部屋である。彼は新聞社へ電話をしている。なぜ記事が出ないのか。答えるのは警察の刑事だ。そんな事件は知らないと。Kは話を長引かせるようにする。逆探知しようというのだ。 
 情報屋・尾張の話では,男の部屋は真っ暗で,壁には真っ赤な絵がかかっているらしい。
 男に「ブラックジャックの友人だが,新宿コマ劇場前で待つ」という電話が入る。実はKの部下のおとり捜査。おとりに男が近づく寸前,辺見が黒人(実は刑事)を逮捕してしまう。計画はおじゃんになってしまう。
 男の部屋にKが一人で乗り込む。男は虚無的な話をし,拳銃を自分の頭に当てる。瞬間,Kの手錠が空を飛ぶ。

   堀内正美のブログ  「ほりうちのここだけウルトラ話」より

 自宅の電話が鳴った。受話器を上げると、「カツだ、アバコスタジオまですぐ来てくれ」「・・・どなたですか?」「カツだよ」「カツ?」「カツシンタロウだ!!」「カ・ツ・シ・ン・タ・ロ・ウ?・・・カツって、まさかあの勝新太郎さんじゃないですよね?」「そうだよそのカツだ!」「冗談は辞めてくださいよ,ほんとうは誰ですか?」「冗談じゃないよ」「声は似てますけどねッ」「本物だよ」「じゃ座頭市のセリフ言えますか?」「バカヤロウ・・・しょうがねえなァ〜『そこをお歩きのお武家様・・・』どうだ、本物だろ」 ウソだろ!!!本物の勝新太郎さんだ。 「失礼しました」
 僕は受話器に向かって何度も頭を下げた。 「いいからすぐ来い」「ハイッ〜すぐ行きます」
 僕は車を飛ばしてスタジオに行った。 「オマエだけだよ、この俺に勝新太郎やらせたのは、面白しれえなガハハハハ〜。名前、俺の娘と一緒だなァ、これからはまさみって呼ぶぞ!」「ほんとうにすみませんでした。まさか勝さんから電話が来るなんて・・・」「もういいよ、そんな事より、まさみどんな役やりたい?」「・・・どんな役って?台本は?」「俺が刑事でまさみが犯人、これだけが決まってる。台本はこれからまさみと二人で作るんだ。面白いだろ!」「エッ、で・・・監督はどなたが?」「俺だよ」 そんなやりとりが勝さんとの出会いだった。
 台本作りから撮影まで毎日が驚きの連続だった!
 詳しくはいま言えないので・・・後日・・・。

 
 ★第3話 自白への道 
  (脚色・監督・勝新太郎,原作・佐木隆三,撮影・渡辺貢) 
              1980年10月21日
 原作は佐木隆三の『殺人百科』より「何処へ行ったの?」。警視K第3話 市道
 結婚式の最中に新郎・池山透(市道浩高)を連行したKたち。取り調べ室で,失踪中の女子工員・よし子と栄子のことを尋ねるが,男はシラを切る。ワンカット撮影で刑事と犯人の関係がじりじりする取調室の様子が捉えられる。
 男に失踪中の女子工員の父や母と無理矢理,顔を合わさせる。
 女子工員の友人が持参したテープには「アカシアの雨がやむとき」の歌声が入っていた。ポリグラフにかける傍で口笛でその歌を聞かせて犯人を心理的に追い込んで行く。男を重要参考人にしたまま長時間の取調べが続く。いったん男は自白するが,丹沢山中へ死体の掘り出しに出かけると,これがウソ。「女のテープを聞いて,可哀想になり,殺ったと言えば警察が喜ぶだろうと思った」と言うのだ。窮地に立たされるK。
 Kは一代で財を成した透の祖父(今福正雄)に依頼し,透を説得してもらう。「おじいちゃんが生きとる間に,責任とらな,あかんで」という説得に,透は自白する。
 翌日,遺体が掘り出される現場に届いたのは祖父が自殺したという連絡だった。
 事件を終えても,うかない表情のKに,娘はおかしな話を披露する。
 最初から透が犯人であることは明らかだが倒叙ミステリーではない。ほとんどつぶやく程度のセリフしかない。透が自白するかどうかだけのシンプルなストーリー。

 
  ★第4話 LiLi 
  (脚本・高際和雄・勝新太郎,監督・勝新太郎,撮影・渡辺貢)
              1980年10月28日
 題名のLiLi(リリー)は「ライ(うそ)」とも読める。警視K第4話ジュディ・オング
 休みなので釣りに行こうかと相談しているKと正美。そこへ水口刑事(仇名はPIPI)から電話が来る。殺しがあったのだ。
 高級マンションで男(菅貫太郎)が絞殺された。豪邸に住む男の妻・千鶴(ジュディ・オング)に会ったKはその美しさに惚れこむ。
 (日本テレビ放映用番宣資料より) だが,夫の死体と対面しさめざめと泣きすがる千鶴のオーバーな仕草に芝居がかったものを感じ取るKの部下たち。その部下たちをたしなめるK。それでいてうきうきとしている。いつものKらしくない。そんな態度の変化に正美も気付く。犯人愛人説で進む捜査。が,Kは千鶴と何度か接触するうちに,行方のつかめぬ愛人とは千鶴自身ではないかと疑惑を持つ。そして,その愛人リリーと名乗る女からの呼び出しに応じてディスコを訪れたKの前に現われたのは,大胆に変身した千鶴であった。
 ジュデイ・オングは気取った本妻と奔放な愛人のふたつの姿を演じる。
 椅子に坐ったまま,ひとりでふたりになりきる一人芝居もある。視聴者には前半の早い部分で愛人リリーが登場してくるので,女がニ重人格者であることは分かるのだった。
 夜のトレーラーハウス。熱が出たと仮病で父親をおどろかす娘を一心に看病するK。

   ★第5話 まぼろしのニューヨーク 
  (脚本・柏原寛司,監督・黒木和雄,撮影・森田富士郎)
               1980年11月4日
警視K第5話 原田 殺人事件が起きた。果物ナイフで胸をさされて,バンドマンのダニー勇が殺されたのだ。ヘンミたちが事件が起きたマンションの女たちの聞き込みをするが,女たちは,「あんた何言ってんの?」と,はぐらかす。ジャズ歌手・下田洋子(宮崎正子)は結城大とカードをしていたという。そこへ結城(原田芳雄)が現われ,クラブでのKの飲み代を請求する。Kには覚えがないが・・・。部下たちが付けたのだった。勝と原田の会話が可笑しい。「名前は?」「結城大」「言う気ない?」「いや,結城大」といった感じ。情報屋(川谷拓三)の話によると,結城はやくざにも顔がきくし,女たちの面倒をよく見ている男で,殺されたヒモとは大違いだという。。
 Kは不審な行動をわざととる結城は犯人ではないとにらみ,洋子に焦点をあてて,捜査をする。リハーサル中に洋子にカード勝負をもちかけるK。勝負は途中で放棄したが,Kは洋子がカードが出来ないことを見抜くとともに,洋子の指紋も手に入れる。現場の遺留品に残された指紋との照合を命ずるK。
 洋子も結城が見出して,勇がマネージしていたのだが,ピンハネがひどく,ニューヨーク行きのパスポートを勇が破いてしまった,そのことで争いになっていたことが分かる。
 洋子が出発する最後の晩。クラブに来たKは結城にポーカー勝負を持ちかける。カードを開かずに,Kは自分が負けたと判断して,結城にバーボンをおごる。その夜,結城の部屋に洋子が来る。「もう何もかもイヤになった」という洋子に,結城はあんなに夢だったニューヨークに明日絶対発つんだと言い聞かせる,勇を殺したことは仕方がないじゃないかと。
 翌朝,鑑識の結果を聞いて飛行場に急ぐKたち。飛び立つ飛行機を見送る結城。そこへKが現われる。結城はカードを返却して,「行きましょうか。私の指紋が必要でしょう」,K「領収書に付いていたよ」。空港の駐車場の車のところへ来ると,すでに車内には手錠をかけられた洋子がいた。結城はKを殴る。Kは結城を殴り返す。
 トレーラーハウスで娘とコーヒーを飲むK。 

   ★第6話 息子はシロ 
  (脚本・田中利世・勝新太郎,監督・根本順善,撮影・椎塚彰)
                1980年11月11日警視K第6話 稲垣
 ラブ・ホテルで女が刺殺された。客を脅迫した若い男が犯人だ。今宿署の藤枝刑事課長(北見治一)は深夜の電車で息子(稲垣英雄)に会った。家へ帰ると,仏壇の妻に線香をあげる藤枝。妻に先立たれたのだ。
 翌日,モンタージュ写真を見て藤枝は驚く。覆面をしている男は息子に似ていた。疑えば疑える息子の行動。
 藤枝は悩む。現場に張り込んだ辺見は,出現した若い男と格闘した。その若い男は息子だったのだ。
 藤枝はKに相談。Kは部下に息子を任意同行させ,藤枝自身に事情聴取をさせる。しかし,犯行当時,息子にはアリバイがあった,Kはそのことを確認していたのだ。
 Kらは情報屋から得た金払いのよくなった若い客のことを聞き,その客の前で客待ち情報を流し,客になりすましてラブ・ホテルにカップルを装って出現する。予想通り,犯人が強盗に来た。そこを逮捕する。
 酒場で息子と飲む藤枝。一方,帰宅して娘とコーヒーを飲むK。

 
 ★第7話 太陽が上に向いている 
  (脚本・須川栄三・勝新太郎,監督・勝新太郎,撮影・渡辺貢)
                 1980年11月18日
警視K第7話 川谷 背広を着た巨悪と暴力団に対する勝新の正義感が出た作品。クローズアップ中心に勝新の演出力が出た一篇。
 遊園地で警官の扮装をしている尾張(川谷拓三)と佐々村(梅津榮)。映画のエキストラの仕事のようだ。尾張は主演男優をほんとに殴ってしまい,撮影は滅茶苦茶になる。Kたちが突然登場し,主演女優を事情聴取で連行する。新東亜建設関連の汚職の捜査だ。このドサクサの最中に佐々村は電話中のある会社の経理部長のカバンを置き引きする。中には新東亜建設関係の書類と帳簿。尾張はこれを持ちこめば金になると考える。佐々村は5万円位のもうけになるかなと期待する。
 一方,Kは辺見から有名女優を証拠もなく連行してと批判されている。「事件が起こる前に捜査するんだ。取り締まる方がびくびくして,悪いやつがのうのうとしているなんて,バカなことがあるか!」とKは怒る。
 経理部長を尾行するKの部下たちは,紋付を着た尾張がうやうやしい待遇を受けるのを目撃。尾張はカバンを持ち込んで建設会社重役(永井玄)から5百万円の謝礼を受け取る。Kは尾張に「お前だけを信じてるよ」と伝える。尾張が行き付けの飲み屋に行くと,そこに佐々村が来る。尾張は5万円を渡す。そこへ人相のよくない二人組が「尾張はいるか」とやって来る。じっと身をひそめていた尾張だが,女将の時ちゃん(松尾嘉代)に男が「釣りは体で払ってもらえばいいんだぜ」と言うのを聞いて,名乗りを上げる。尾張が勢い込んで外へ飛び出した瞬間,拳銃音。腹をうたれた尾張がいた。「レミ」と注文されて,「うちは国産しかおいてないよ」と答え,「(オンザロックは)いくら?」と聞かれて「500円」と答える松尾嘉代の女将が存在感を示す(店ではいつも八代亜紀の「雨の慕情」“雨,雨,降れ降れ,もっと降れ”が流れている)。用心棒の悪ぶりも際立っている。
 弾は貫通し,手術は成功したが,Kは医者に外向けには「尾張は死んだ」と答えてくれるように要請する。尾張はKに自分が拾った書類ともらった金を渡す。
 電話で尾張の死を確認した会社社長,高浜に報告。その後,社長はビルから突き落とされる。
 クラブにいる高浜の前へ立つK。用心棒と殴り合いの喧嘩になる。そこへ警察が来て,用心棒とKを連行する。
 警察の取調べ室。Kは二人の用心棒を徹底的に殴り倒し,尾張を撃ったこと,自殺を偽装したこと,指示は高浜から出たことを告白させる。事情聴取で来ていた高浜を取り調べ室に呼び,お茶をあびせかけるK。「洋服はクリーニングできれいになるが,あんたの汚れは落ちない」と。
 新聞社には辺見の捜査で高浜逮捕と出る。めだま焼きを作ろうとバターを溶かそうとしているK(バターと間違えてキャベツのしんを熱している)。
 
   ★第8話 わが子に捧げる犯罪 
  (脚本・中村努,監督・森一生,撮影・渡辺貢) 
             1980年11月25日
警視K第8話 浦辺 女が誰かに電話している。「あなたのしていること,公表しましょうか」と女は男を脅迫している。
 警察におばあさん(浦辺粂子)が5歳の男の子の手を引いてやってくる。ホステスをしている母親が帰って来ないのだという。事情を聞くKたち。母親の名前は杉村千絵だという。一流バーのホステスで母親と息子を一流マンションに住まわせている。
 ロールスロイスの中でネクタイで絞殺された女性(西尾三枝子)が発見される。杉村千絵である。男たちからかなりの額の借金をしていたことが分かる。
 昔の女友達(横山リエ)から不幸な生い立ちの千絵が一流志向だったことが分かり,幼馴染から息子の父親が一流企業のエリ−トサラリーマンで名門大学・ときわ大学出身者だったこと,その男は死んだこと,千絵も息子をときわ大学の小学部へ入学させようとしていたことが分かる。千絵は大学の教授に接近し,小学部へ入るための塾・双葉の園の経営者・梶山とコネをつけようとしていたことが分かってくる。
 ロールスロイスは千絵が梶山に贈った車だった。梶山は外車の裏取引もしているという情報が尾張からもたらされ,Kは現場に張り込み,梶山をとらえ,殺人犯として署に連行する。出演者は中井啓輔,内田稔,絵沢萌子(小学部へ息子を入学させた母親役),朝比奈尚行。

   ★第9話 オワリの日  
  (脚本・高際和雄・勝新太郎,監督・勝新太郎,撮影・森田富士郎)
              1980年12月2日
警視K第10話 川谷・松尾 飲み屋の時ちゃん(松尾嘉代)の店の新装開店の日である。
 満員のディスコで,やくざ(流健二郎)が刺殺される。倒れたやくざを,踊りながら見つめる若者たち。
 現場で被害者の腹から出た手打ちうどんを拾ったKは,近くのうどん屋から少し前にやくざ同志の諍いがあったことを聞き出す。刺した男は笹本(永井譲滋)で,お時の別れた亭主だった。
 一方,一緒に店をやっていこうとお時に相談されて,舞い上がっている尾張。そこへ笹本が金の無心に来る。張り込む警察。尾張は笹本を刺そうとするが,Kに止められる。
 さらに笹本は車を調達してくれと依頼してくる。尾張とお時ちゃんは車を渡すが,笹本はお時を一緒に連れていこうとする。張り込んでいた警察が笹本を逮捕する。
 自暴自棄になった尾張は酔って,道にふらふらと出て,車にはねられて死んでしまう。血が流れる。ボコボコいう効果音。
 トレーラーハウスの上で夕日を見つめるK。尾張の言った言葉を思い出している。
 お時ちゃんの店のテーマ音楽は常に八代亜紀の「雨の慕情」。

 長回しで,川谷拓三の表情の変化や松尾嘉代の表情を捉える。この作品の川谷拓三を見ると,チンピラをこんなに見事に演ずることの出来る役者は稀有だったなと,改めて感心する。

   ★第10話 いのち賭けのゲーム警視K第10話 原田・草野
   (脚本・石田芳子・勝新太郎,監督・黒木和雄,撮影・森田富士郎)
              1980年12月9日
 宝石店でKは若い女性・山中みゆき(原田美枝子)から声をかけられた。Kは喫茶店フライデーで土曜日に会って欲しいと言われる。みゆきを尾行している記者がいる。「どぶさらいですよ。止めたら日本中がどぶだらけになってしまう」と言う(このセリフは勝新の『顔役』にもあったもの)この記者(草野大悟)から,Kはみゆきが景山代議士(藤村有弘)のプールで変死した田瀬とも子(工藤啓子)のルームメイトだったことを教えられる。酒が飲めないのに,とも子は泥酔してプールに転落したというのだ。
 みゆきはとも子と景山の痴話テープをネタに景山を恐喝する。代議士秘書・河瀬(岸田森)はフライデーで,みゆきと会う。Kはその場にい合わせて,みゆきをマンションまで送る。マンションはとも子との共同の部屋だった。
 部屋から出て来たところを数人の男に襲われるK。しかし,男たちはすぐに引き上げる。女子大生のアパート前での写真は代議士・秘書から,本庁の警視正・新城(小池朝雄)のところへ持ち込まれる。景山代議士の恐喝者とKはつるんでいるというのだ。Kは警察学校の同期生・新城から注意を受ける。
 しかし,Kは部下にみゆきを張り込ませ,彼女のいのち賭けのゲ−ムを見守る。
 みゆきはプールの傍で代議士に会い,テープを使って恐喝する。河瀬らがみゆきにつかみかかろうとしたとき,Kの部下たちが飛び込んで来る。

 黒木和雄の演出は『まぼろしのニューヨーク』に次いで2話め。マンションの一室で原田美枝子と勝新の演技は長回しの前での即興(と思われた)。脚本の石田芳子はスタッフの一人,第12話では記録係(スクリプター)である。

   ★第11話  その人は・・・ママ 
  (脚本・高際和雄・勝新太郎,監督・勝新太郎,撮影・森田富士郎)
               1980年12月16日
警視K第12話 中村・緒方 正美が子供の頃自分を抱いてくれたオバサン(中村玉緒)に会ったという。Kの別れた妻である。女の絞殺事件が起こるが,Kは上の空である。夫(緒方拳)との離婚話が進んでいたが,子供をどちらが引き取るかでもめていたという証言が女の再婚相手(小林稔持)から,得られる。夫は東大出身のオデン屋で,味にこだわり,店の評判は大変良かったという。
 Kは正美が妻と会うというので,複雑な想いだ。「もう2度と会わないでくれ」と妻に言うが,「それは正美の決めることだ」と言われる。正美は「実は母親だ」という事も了解する。
 一方,重要参考人の夫の潜伏先が判明する。Kは連行するためにホテルの一室に行くが,男の話を聞き,子供を岐阜の姉のところへ預けに行きたいという気持ちを優先させて,見逃してやる。しかし,このことはKの犯人取り逃がしの大失態と報道され,Kは新城(小池朝雄)に自宅待機を命ぜられてしまう。
 待機中のKに連絡が入る。男が自首してきたというのだ。自首したからといって,Kの責任が無くなるわけではない。男はKと飯を食いながら,「情けがまだ世の中にあることがわかった。この恩は一生忘れない」と話す。二人は握手する。
 Kのトレーラーハウスに妻が来ている。正美は何日間かはママのもとで暮らし,何日間かはパパのもとで暮すという。車で出発しようとする正美。忘れ物をした,コーヒーを入れてなかった,明日行くとキャンピング・カーに戻る正美であった。
 以後,12話・13話と娘と母が会う機会は多くなって行く。

 長回しのシーンがある。子供と一緒のホテルの一室で,緒方拳はKに「流れに乗った人生よりも,自分の好きなことで生きてみたかった」と話す。

   ★第12話  ディス・イズ・ファミリー  警視K第12話 
   (脚本・高際和雄,監督・吉原勲,撮影・渡辺貢) 
               1980年12月23日
 谷刑事(谷崎弘一)は,ある夜,女性をからかっている若者(テツ=田中哲也,ポッキ=中根徹,ミッキー=高橋道昭,ジュン=田山惇一)をたしなめようとして逆に襲われ,警察手帳を出したところ,かえってからまれ,手帳を奪われてしまった。Kは手帳預かりで自宅待機の身である。谷は自分で若者(黒い皮ジャン,サングラスの「キャロル」風のいでたち)を探そうとする。
 同僚の水口刑事(水口晴幸)は翌日,警察手帳を悪用した犯罪(通行人の所持品検査)が起きた事を知った。警察では辺見が怒り,ガッツ部屋が諸悪の根源であると指摘する。Kは派出所から連絡を受け,谷を身請け。署に行かせる。谷は辺見からガッツ部屋を出ないように指示される。
 一方,Kと水口はボッキと仇名される若者を探す。手帳を利用して車を奪ったりする若者。パンク・バンドの演奏するディスコでボッキを探す二人。そこでガッツ部屋を抜け出していた谷と出会う。水口が警察手帳をチラつかせたことで,会場の若者の「マッポ,帰れ」コールが起こってしまう。Kは二人を止め,「刑事だから手帳を持っているのであって,手帳を持っているから刑事なのではない」と諭す。Kは谷に「こいつらに犯罪を起こさせたのはお前だ。自分たちで取り戻せ」と話す。
 悪戯がエスカレートしていくのを止めようとした一人・ジュンが殴られて救急車で保護された。三人のいるビリヤード場に向うKたち。ビリヤード場で,谷と水口は手帳を取り返そうと三人と乱闘になる。他の若者がケンカに加勢しようとするのをKが殴って守る。一人が「ガッツさんだ。止めろ」と若者たちを制止する。
 手帳を取り戻した三人はトレーラーハウスでビールで乾杯する。Kは目玉焼きを作ってやるという。水口「親分,卵をかきまぜて・・・」,K「かきまぜたっていいじゃないか。研究中なんだ。目玉焼きを英語でなんというか,知ってるか。サニーサイドアップ,太陽が上を向いているというんだ」。

   ★第13話 マイ・シュガー・ベイブ 
  (脚本・高際和雄・勝新太郎,監督・勝新太郎,撮影・森田富士郎) 
               1980年12月30日
警視K第13話 かたせ・小池 葬式である。Kと新城(小池朝雄)の友人・大沢(佐藤慶)が自宅の風呂場で事故死したのだ。一緒にいた新城は不審なことはないというが,Kは釈然としなかった。その頃,Kは水口から「事故死じゃない」という女がいるという情報を得ていた。Kは片山梨乃(かたせ梨乃)という高級コールガールに会う。
 梨乃は大沢と新城の裏金に関する話を隣室で聞いていた。梨乃の話を録音して,電話で新城に聞かせるK。逆探知してガッツ部屋からの電話であることを知る新城。
 Kに警察手帳が戻される。水口はKに正美に結婚を申し込んでもいいかと聞く。Kに一発殴られる。
 新城はKと外で会う。新城はゴルフバッグにヘロインを隠して運ぶ組織に協力していると警察幹部を恐喝してくる女がいる,そして背後にそれを支える男がいるという話をして,その女の処理をKに任せる。
 クライマックスというバーで梨乃と会うK。バーテンでチラっと特別出演する石橋蓮司。バーの踊り場で梨乃を連れたKを止める凶悪そうな男たち。ナイフを出したのは安岡力也である。そのナイフを素手で受け止めるK。息を呑まれてしまう安岡。「お前たちにこんなことをやらせているヤツをつかまえたいんだ」とK。谷と水口にも「こいつらを捕まえるな」と命じる。
 梨乃はKの手当てをする。医師が傷口を縫う。その後,二人はKの車でホテルへ向う。Kは電話で水口らにそのホテルへ踏み込んでくるように手配をする。
 部屋には新城が待っていた。梨乃に500万円を渡すように言うK。新城は「恐喝の片棒をかつぐなんて,お前も落ちたもんだな」と,500万を出す。Kは「お前ほど落ちちゃいないさ」と答える。しかし,梨乃はいったん受け取ったそのお金を投げ捨てる。そして「こっちの方がいいわ」とKのマフラーを持って去る。
 Kは新城と話をする。「お前は昔から仲間を落としいれて,そこを救ってやるというやり方で,神様のようにのし上がってきたヤツだった」とK。新城はKに「世の中には出世する人間と,しない人間がいる。お前はしないヤツだ。そして,人が幸せになろうとすると,そいつを引きずり下ろそうとする」と話す。
 そこへボディガード(安岡力也)らが来る。新城が「ボーナスをはずんでやったのに,しそこなったのか」と言うと,安岡は拳銃を取り出す。しかし,彼が撃ったのは新城だった。信じられないという表情で倒れる新城。そこへ警察が踏み込んで来る。安岡は「俺がやった」と言って,警察に連行される。一瞬彼はKに微笑む。
 トレーラーハウスで歓談する父Kと母と娘。
 
     
      勝新太郎の刑事ドラマ      春日太一


     理想との出会い  『燃えつきた地図』

 1960年代半ば,勝はトップスターに君臨していたが,一方で大映での仕事に満足がいっていなかった。三大シリーズの繰り返しというローテーションに飽き飽きしていたのである。そこで自らの理想の映画作りを実現するため,67年,大映の「社内プロダクション」という形で独立する。それが勝のオーナー会社・勝プロダクションだった。
 そんな時に出会ったのが,勅使河原宏。64年に安部公房原作の『砂の女』を監督し,その前衛的な作風が評価された気鋭の芸術派監督だ。銀座のクラブでたまたま居合わせた二人はすぐに意気投合する。「従来のプログラム・ピクチャーとは一線を画した,起承転結に囚われない,分らない映画を撮りたい・・・」と思い始めていた勝にとって,彼は最も求めていた才能だった。勝は勅使河原に勝プロ第2作の監督を依頼した。
 そして作られたのが『燃えつきた地図』(68年)だった。
 安部公房が原作・脚本の本作は,勝の扮する探偵が失踪者の捜索をしているうちに自らも失踪者であるような錯覚に囚われていってしまうという,勅使河原の作家性が前面に出た前衛的な作品となった。その内容は,大映のスタッフはもちろん,勝自身ですら理解できなかった。しかし,勝は,ここでの勅使河原の演出に衝撃を受ける。コンテを作らずに,スタッフにイメージを伝えるだけ。スタッフが用意したものを次々と壊し,捨てて行く。現場ではその場での直観によって即興的に演出が進められていった。この無手勝流ともいえる勅使河原の監督スタイルを見た勝は「これならオレでもできる」と確信を持つようになる。自分の理想とする映画を撮るためには自分自身で監督すればいい。勅使河原との仕事を通じて,勝に映像作家としての意識が芽生えていく。


      理想の追求   『顔役』

 だが,なかなか監督をする機会には巡り合えず,その後の勝プロは『人斬り』『座頭市と用心棒』など,大作路線を連発していく。その一方,大映の経営は悪化の一途をたどり,倒産が間近に迫っていた。このままでは,いつ映画が撮れなくなるか分からない。「こうなったら,自分がやるしかない!」。一念発起した勝は,実兄・若山富三郎から聞いたヤクザまがいの刑事のエピソードの脚本化を菊島隆三に依頼,こうして出来たのが『顔役』(71年)だった。
 ここで勝は「ホンモノ志向」を徹底する。登場するストリッパーやトルコ嬢は梅田の風俗街の現役嬢に交渉,撮影場所も本物の店を使用した。同じく冒頭の賭場も本物なら,出演している面々も本物のヤクザ。それだけではない。エキストラもプロの大部屋俳優は一切使わず,代りに裏方スタッフや宣伝部員を説明なしにいきなり出演させた。「大部屋役者のリアクションは上手過ぎて計算できるから面白くない。それよりも素人の新鮮さを」。それが勝の思想だった。
 そして,本作を語る上で重要なのは,ストーリーやキャラクター云々よりも「悪夢的映像」ともいえる数々の斬新なショットだろう。トリッキーなカメラワークと編集により,観客が眩かくするような映像がひたすらに展開されている。シーンの頭がいきなりハゲ頭や水虫のアップから始まって,ここがどこなのか一瞬分からなくなったり,直接面と向かわずにガラスに映った相手の顔と会話をさせることで方向感覚を失わせたり,机に逆さに反射された顔を画面全体に映し出して上下を混乱させたり,まるでだまし絵のような構図が連続して,しばらく経たないと何が映っているのか分からないのである。また,主観ショットの次のカットに客観ショットを混在させることで,カメラが誰の,どこからの視点なのかも混乱させている。劇の中盤で藤岡琢也扮する銀行家を勝刑事が脅すシーンがあるが,ここで勝は突然画面に映らなくなり,画面の外からその声だけが聞こえてくる。呆気にとられるスタッフたちに勝は,「ポスターに『主演・勝』とあって,オレの声も入っているんだから,オレが映らなくてもいいんだ!」と言い張った。「とにかく新鮮なショットを」と,あえて映画文法を無視して,従来の構図を破壊していった。「画的に面白いか,どうか」。それが全てだった。
 
      理想の崩壊  『警視ーK』

 大映倒産後,勝は東宝からフジテレビへと活動の場を移しながら,思う存分の創作を続ける。だがその結果,テレビシリーズ『新・座頭市』は打ち切りとなり,京都での時代劇製作は困難な状況となってしまう(詳しくは拙著『時代劇は死なず-京都太秦の職人たち』集英社新書・刊を参照されたし)。
 そんな80年5月,勝のもとに「勝主演で刑事ドラマを」という日本テレビからのオファーが来る。勝プロサイドも「渡りに船」とばかりに,これに乗るが,勝の懲り性を考えると準備には余裕を持ちたい。そこで翌81年4月からの放送を要望する。しかし,日テレサイドはこれを拒否。日テレとしては,前年に映画『影武者』で黒澤明と対立して世間を騒がせた熱が残っているうちに,放送を開始したかったのと,4月から野球中継が始まり,放送が不定期になることを懸念していた。勝プロは日テレの提案した10月放送開始案を飲むことになった。
 こうして始まったプロジェクトは,とにかく困難の連続だった。勝は従来の日本の刑事ドラマを「評価に値しない」と否定していた。理想とするのは『フレンチ・コネクション』『ゲッタ・ウェイ』のような迫力のあるアクション。だが,それは日本では不可能な話だった。そこで勝は「中途半端にやるなら,やらない方がイイ」と,「カーチェイスや銃撃シーンは一切やらない」という条件を出す。また,「自分がやるからには群像劇は無理だ」ということで,それらの条件を併せて『刑事コロンボ』『刑事コジャック』を目標に企画が立てられることになる。
 それを実現するには優秀な脚本と監督が必要だったが,当時はテレビ映画全盛期。目ぼしい監督と脚本家は既に押さえられていて,苦心することになる。それでも何とか,脚本では倉本聰の招介で高際和雄,日テレからは柏原寛司が参加し,それに勝の子飼いの中村努,石田芳子が加わることで陣容はそろった。一方,監督は勝の盟友・黒木和雄と師庄格の森一生は確保できたものの,あとの監督は勝のアイデアに耐えられずにパニックを起こして去っていってしまう。そのため,ほとんどのエピソードを勝が自分で撮ることになった。
 タイトルについて,勝は『トラブルメーカー』という提案を出すが,「分かりにくい」ということで拒否される。そして案が出つくした後につけられたのが『警視-K』だった。「K」とはもちろん「勝」の「K」である。
 予想通り,現場は少し撮影してはストップを繰り返し,いつまで経っても作品が仕上がらない。10月の段階で5本のストックは欲しいのに,9月で1本もできていないという状況だった。それでもなんとか間に合わせて放送スタートになるのだが,本当の試練はそこからだった。
 初日の放送終了後,日本テレビにはクレームが殺到した。そのほとんどは「話があまりに分かりにくい」というもの。
 その原因の一つは,勝の日常的なセリフ回しへのこだわりにあった。「刑事がハキハキ話したら周りに聞こえるだろう。刑事部屋は公開の場なんだから,大声で話すわけがない。普通のトーンで話すのが本来だろう」という勝の主張の下,役者たちは声を張ることなく,ボソボソと話すことが要求される。しかし,それで録音テストしてみたところ,音が全く拾えなかった。そこで高価な特殊ガンマイクを購入したが,それでも厳しい。「セリフが聞き取れない」。それがクレームの大半だったが,勝は「そんなの録音技師の問題だ」と譲らなかった。
 そしてもう一つは,勝が「ながら視聴」を拒否したことにある。「オレのドラマは最初から正坐して観ろ」ということで,ストーリーの説明をするようなシーンやセリフは用意されず,また一度言ったセリフは二度繰り返されなかった。そのため,視聴者は少しでも気を抜こうものなら,アッという間においてきぼりとなった。後から内容をなんとか理解しようにも,セリフがよく聞き取れないから,どうにもならない。
 日テレは第2回以降,放送終了時に電話前にクレーム専用要員を配置するがやがてそれも追いつかなくなり,最終的には勝プロ社員が対応するようになった。視聴率が急降下し,後半はひとケタ台に。次々とスポンサーは降りて最後は一社になった。日テレは「3月まで継続できない」と打ち切りを通告。一方の勝プロも,ギリギリの製作スケジュールの中でストックが尽きかかっていて,年明けには放送に穴があく恐れがあった。それだけに,打ち切りにホッと胸をなでおろすスタッフもいた。
 ドラマの内容を振り返ってみると,たしかに自らが監督した最初の4話は,実にやりたいようにやっている。日常会話そのもののセリフ回しで,誇張した芝居は一切なし。アドリブや素の部分を入れつつ,セリフを噛んでもそのまま放送されていた。捜査の手順を見せることなく,日常会話を繰り広げながら唐突に画面が動き,ストーリーらしきものが展開される。
 第8話で勝を抑えられる唯一の監督・森一生が登板した時は,事件の説明や張り込み,聞き込み,事情聴取など,捜査手順もきちんと見せるという,当たり前の刑事ドラマになっており,改善の兆しが見られる。が,打ち切りが決まったからか,10話からは思いきり開き直っている。黒木和雄監督,ゲストに原田美枝子,岸田森,草野大悟,小池朝雄ら勝手知ったる同志を迎えて完全に内輪のノリ。続く第11話でも仲のいい緒方拳を呼んで,好き勝手な芝居を延々と見せた。そして最終回。そのラストシーンはレギュラーの実娘・奥村真粧美にゲストの中村玉緒を交えての,実の親子三人の食事で締めくくられている。ここにきて初めて分かる。本作は勝を神とする,完全なる「勝ワールド」だったのだと。そして,それは打ち切りとともに最後に砕け散る。
 勝の刑事・探偵ものの系譜は,創作者・勝の理想の萌芽と崩壊の過程そのものだった。
 
             『刑事マガジン』7号(辰巳出版,2009年4月)より

  春日太一『天才勝新太郎』(文春新書,2010)は傑作。ただし、上記にみられるように春日は『警視-K』を高く評価しているわけではない。従来のテレビドラマの目線で見るからである。このような評価は通常のものだが、テレビドラマにはカツシンの創造したようなアーティスティックで、アヴァンギャルドな作品があっても良いのである(池田記)。

      田中徳三監督 『警視-K』を語る
 
 あれ面白い作品でしたね(笑)。ほんまに,面白かったなあ。脚本なんかなしで撮ってるでしょ(笑)。 (撮影の)森田富士郎君が言ってましたけど。それで,あのときにね「夢を見た」って勝ちゃんが言うんですよ。監督はもちろん俺や,と。 で,主役も勝新太郎。ところが,キャメラマンも,大道具も小道具も衣装も,それから録音から全部,勝新太郎ひとりでやってるんですよ(笑)。 そんな夢を見たって(笑)。・・・・・(テレビの座頭市で)僕も一本ね,脚本ができて,どうも面白くないと。 シーン一からね,現場で作っていくんですよ。勝ちゃんと二人で。で,全部直しまくって,最後終ったときに「やっとこれ出来たな」と。 そんな経験ありましたけどね。面白いことは面白いんですが,残ったんは,題名だけですよ(笑)。 だから,シナリオ作家協会からクレームが出てね。もう一切,勝プロの作品には協力せんと。そら作家は怒りますよ(笑)。 それの究極が『警視-K』ですよ(笑)。「何を撮るか分からん」って言うんですよ。現場行っても。森田富士郎君が言ってましたけど。

             『RESPECT田中徳三』(シネ・ヌーヴォ,2006)より


      孤高の俳優の真実    片山 杜秀
                       春日太一『天才 勝新太郎』(文春新書) 書評

 衝撃的な連続テレビドラマがあった。「警視-K」という。そもそも筋が分からない。主役の勝新太郎が飲み食いしたりぶつぶつ言うだけでどんどん過ぎる。何もかも断片的で即興的。脚本も監督も一部を除いて勝本人だった。
 私は当時高校生。クラスでも話題になった。いったい勝はどういうつもり?
 それから30年。ようやく本書で腑に落ちた。「警視-K」放送時まだ3歳。若い著者が,ゆかりの人々に取材を重ね,満点の説得力で,勝の俳優人生を一貫し,ついに「警視-K」を作らねばならなかった美学の正体を解き明かす。
 その美学とは? 勝に影響を与えたと本書の示唆する三人を並べれば自ずと明らかだろう。
 まず六代目尾上菊五郎。その演技は極めて即興的だったと言う。瞬間の思いつきが機微に富み理屈を超え,芝居の神様とまで呼ばれた。
 次に映画監督,勅使河原宏。前衛華道家,勅使河原蒼風の息子で,撮影現場でも花を生けるように演出した。瞬間の閃きで段取りをどんどん変えてゆく。 さらに哲学者の谷川徹三。体系的思考を嫌った。気ままを愛した。子息の俊太郎はいかにも父好みの詩人に育った。
 若き勝は長唄の三味線弾きだった。御簾内から見る菊五郎の芸に憧れ,映画俳優に転じ,気配に突然j反応し神わざを披露する,目の不自由な座頭市の役で花開いた。 その即興的芸質に,勅使河原宏や谷川との出会いが拍車をかけた。
 が,言うまでもなく,菊五郎は歌舞伎という型の決まった古典劇に即興性を組み合わせたのがよかった。座頭市は役柄ゆえに極端な即興味も許された。 しかし勝は全部にその流儀を通そうとし,即興の支配する刑事ドラマさえ生み,世間の趣味を逸脱し,不遇な晩年に至った。
 勝とは,大衆に愛される映画スターでありながら,大衆の全否定にさえ向かいかねない孤高の前衛アーティストでもあったのか。この矛盾の向こうに,新しい昭和の芸能史が見える!

                (読売新聞 2010年3月28日 書評)

警視-K』勝新インタビュー【pdf】

カツシンの監督第一作 顔  役

顔役』分析採録

勝新演出の「座頭市物語」「新・座頭市」

 
真魚八重子「映像作家としての勝新太郎論」(四方田犬彦ら編『日本映画は生きている 第5巻 監督と俳優の美学』岩波書店に所収)

 TV版『座頭市物語』『新・座頭市』もビデオが発売されたことがある。数本を俳優中心でまとめたセット販売もある。映画版の勝新監督『新座頭市物語・折れた杖』も1998年にようやくビデオで発売された。しかし,勝新監督最初の傑作映画『顔役』はまだビデオ化されていない(池田追記)。2007年1月から9月,テレビ版「座頭市物語」「新・座頭市」がDVD化され発売された。


  日曜日にはTVを消せ プログラム

  勝新演出の「痛快!河内山宗俊」

  黒田義之監督の座頭市   

  カツシンの顔  役

  兵隊やくざ 映画シリーズ