新・座頭市  第2シリーズ 
              池田博明
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「日曜日にはТVを消せ」番外篇 No.9 PART3
 2007年7月15日
 "勝新・新・座頭市 第2シリーズ"特集 
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          新・座頭市      第2シリーズ

           記録    池田博明


 毎週  月曜午後9時から9時55分。フジテレビ。
 企画・久保寺生朗・角谷優(フジテレビ)・荒井忠(フジテレビ)
   または久保寺生朗・湯沢保雄(フジテレビ)・久坂順一朗(フジテレビ)   
 プロデューサー・西岡弘喜・真田正典・市古聖智
       (真田正典・市古聖智の二人の場合もあり)
 美術・太田誠一 技術・大角正夫 照明・風間博 
 音楽・村井邦彦  殺陣・楠本栄一 
 編集・谷口斗史夫
 現像・東洋現像所  原作・子母沢寛 

 TVの『新・座頭市』(第2シリーズ)は1978年の1月9日から1978年の5月22日まで放映された。
 『新・座頭市』(第2シリーズ)19話のうち勝新演出作品は「天保元年駕籠戦争」 「歌声が市を斬った」「遠い昔の日に」「冬の海」の4本。
 これら勝新作品は傑作だが、他にも黒田義之監督の「忠治を売った女」や井上昭監督「女の鈴が哭いた」が傑作。

 このシリーズは放映当時は見ていませんでした。
 以下の解説の黒字部分はDVDに同封されたパンフレットの文。 茶色の文字はDVDを見ての記録。

 2007年6月27日、とうとうDVD化されて発売!
 勝新初監督作品だった『顔役』のテーマ音楽(村井邦彦)が使われている回があります。

 フジテレビ系 制作:勝プロダクション、フジテレビジョン 
 音楽:村井邦彦 
 演奏:日高富明&ファイヤー
 主題歌「座頭市子守唄」(作詞:いわせひろし、作曲:曽根幸明、歌:勝新太郎)  
★第1話 「恋鴉いのち百両」 (脚本・新藤兼人、黒田義之監督) 1978年1月9日
 市の鼻緒を直してくれた親切な女(小川知子)は、旅の富山の薬売りだった。一緒に旅籠に泊まることになったが、女は市に毒を盛る。いかさまを見破られ斬られた利三郎の妻で、市を仇とねらっていたのだ。

撮影は牧浦地志。
 監督・黒田義之は明暗の豊かな手馴れた演出を見せる。市と女が案内された旅籠の部屋は暗い。灯りがともされると気持ちも明るくなるものの、部屋の狭い様子も分る。暗い夜の場面から一転して翌朝の川面が青く輝く場面が見事。
 女が正体を現すのは半分を過ぎてから。毒の粉を入れた徳利を市は女が見ていないすきに交換する。そして自分の酒を飲み、相手が酒を飲もうとするときは、手を伸ばしてそれを払い落とす。女は次第に市の立場を理解するようになっていく。一方、女の様子を遠くから見ながら、土地の親分衆に市の暗殺を頼む旅人・又八(長谷川明男)は、実は女の亭主の弟だった。
 朽縄の権太(高木均)は子分が市に斬られてすっかりおかんむり。子分が負けても子分の弔い料金は百両かかると、朽縄は又八に百両を要求する。又八に金があるはずがない。権太は又八を拷問する。
 市は最後に仕込みを置いて、又八の前に体を差し出す。しかし、又八は討つことができなかった。女も又八を止める。二人は市を置いて去っていく。

★第2話「目なしだるまに春がきた(市の達磨に春が来た)」(脚本・高橋二三、安田公義監督)1978年1月16日
  『別冊太陽』の放映リストでは「市の達磨に春がきた」になっています。 
 旅の按摩が市と間違えられて斬られた。後から来た市はその按摩から旅の一座にいる娘にと大金を渡された。
 旅の一座にたどりついた市は、女座長(朝丘雪路)に娘の父親と勘違いされてしまう。

撮影は森田富士郎。
 三人のやくざが河原で按摩を襲った。按摩は市と間違えられた芳松だった。後で通りかかった市は瀕死の芳松から春風一座のお久実という娘に渡してくれと5両を預かる。達磨寺の和尚(殿山泰司)のもとへ芳松を弔った市は春風一座を訪ねる。なかなかお久実(川崎裕子)に父の死を伝えられない市。座長のお蝶太夫(朝丘雪路)はお久実を的にする剣投げ芸の達人だった。酉蔵(今井健二)一家は一座を支配しようと、手裏剣さばきの侍(鈴木康之)を遁走させる、イヤがらせをする。市が代わりに舞台に立って手裏剣捌きを見せて一時は急場をしのぐが、十手も任された酉蔵は所場代をふっかける等、イヤがらせを続け、お蝶を呼びつける。市の仕込みが閃いた。役人が詮議に来るが、和尚は役人を斬った下手人は血まみれになって昨夜死んだので弔ったと墓を見せる。その墓は芳松のものだ。お久実は墓に手を合わせる。 
★第3話「天保元年駕籠戦争」(脚本・尾中洋一、勝新太郎監督)  1978年1月23日 
根津甚八 街道筋では、駕籠屋同士が大喧嘩。市は甚公(根津甚八)に助けられたのが縁で、甚公駕籠屋に肩入れする。
 それを邪魔する丸源一家は、街道中のやくざを集め、罠を仕掛けた。

撮影は牧浦地志。
 通常の回のタイトルバックは本篇のダイジェストなのだが、 今回は茶屋に集まる丸源一家の駕籠かきたちの前に甚公と八公の駕籠がやってきて大喧嘩になる場面であった。 丸源一家のなかでも清吉(風間杜夫)だけはこの喧嘩に加わらず悩んでいる様子。
 市は喉が渇いて道端で倒れたところを甚公の駕籠に拾ってもらった。 甚(根津甚八)は代々続いた駕籠屋。しかし、いまや駕籠かきは甚と八の二人だけになっていた。 甚の妹おりん(栗田ひろみ)は丸源一家に寝返った清吉と恋仲で赤ん坊も宿していた。
 八が丸源一家に拉致され、リンチを受ける。用心棒(十貫寺梅軒)から刀で刺され、 八は瀕死の状態で甚の許へ。「俺は(清吉と違って)寝返らなかったぜ」とこときれる。怒った甚は出刃包丁を取り出し、敵討ちに行こうとする。 市が止める。
 丸源(梅津栄)は街道筋の駕籠はすべて自分たちの支配下になったと息巻いている。そこへ市が先棒、甚が後棒の駕籠が来る。 丸源が油断をしているうちに市は丸源の駕籠の心棒を次々に斬っていた。
 清吉は夜中におりんに会いに来る。この土地がイヤになった清吉はおりんを誘って逃げようというのだ。 夜逃げしようとした清吉とおりんは、途中で丸源の仲間に捕縛されて人質になり、西の河原で市と交換という条件が出される。
 決闘のときが来た。市だけでなく、甚も清吉も丸源一家と大喧嘩

 ■夜の室内のような暗い場面が多い。おりんが妊娠している様子はおりんの登場時から示唆されるが、 分るのは後半になってから。

★第4話「」(脚本・安部徹郎、太田昭和監督) 1978年1月30日
大竹しのぶ  大堀から佐倉へ向う蛍の街道。宿場の女郎は生まれつき見えぬ目をもつ妹(大竹しのぶ)に5両の金で目を治してくれと市に頼む。 しかし、それがいたいけな少女に悲痛な運命を招くことになる。

撮影は牧浦地志。得意のクローズアップが冴える。
 宿場女郎(伊佐山ひろ子)から妹に渡してくれと金を預かった市は渡し舟で若い医者(柴俊夫)に声をかけられる。 医者は市の目を治してくれるというのだ。
 半信半疑の市は18歳のおたよ(大竹しのぶ)が義理の父母(菅井きん、田武謙三)から冷たく扱われているのを見て、 おたよを預かり目の治療を試みようと連れて出る。市にはなにもお礼ができないから自分を抱いてくれと言い出すおたよが哀れだった。 過酷な手術に耐えたおたよは「生まれてからずっと見えない世界が当たり前だったから、手術が失敗しても決してがっかりなんかしない」と言う。 包帯を取ったおたよが最初に見たものは蛍の光だった。
 目が見えるようになったという評判が伝わり、これで娘が高く売れるとふんだ父母は親分(遠藤太津朗)に交渉に行くが、 親分は目が見えないから25両、目が見えたらやれ着物だ、やれ芝居見物だと金がかかってしょうがない、10両の価値に下がったと言う。 この親は捨て子を拾っては十歳になると高値で売っているのだった。目に包帯をしているおたよを連れ帰った父母は無理やり包帯を取る。 一瞬太陽を見たおたよの目は永遠の暗闇に戻ってしまった。
 市は村人から目を治してかえって酷いことになったと聞き、非情な義父母の許へ乗り込む。 そしておたよを情婦にしようとしていた親分のもとへ。おたよは市の顔を手で確認し、市の胸にとりすがって泣くのだった。

★第5話「歌声が市を斬った」(脚本・新藤兼人、勝新太郎監督)  1978年2月6日
中野良子  市から財布をすった泥棒(川谷拓三)は、その金で市を誘って大判振る舞い。しかし、隣の部屋では殺し合いが始まってしまう。
 市と泥棒は残された娘(中野良子)と一緒に、三味線片手に旅を始める。

撮影は牧浦地志。
 網笠の破れ目から市が見える。浪人(待田京介)は金ほしさに斬る相手を捜していた。市は杖で円を描き、 その中が自分の城だ、中に入ったものは斬ると宣言する。浪人は仕掛けるが着物を斬られて、動けなくなる。市は銭を与える。
 渡し舟のなかで瓜の皮むきを見せている女がいた。その妙技にみなが見とれている間に男(川谷拓三)は市の財布をスリ取ってしまう。
 宿場でスリ男は市に再会する。財布をスラれて弱っているという市に男は宿で酒を振舞う。 隣の部屋では借金のかたに娘を抱かせろと母親に迫っているやくざ(蟹江敬三)がいた。母親はあたしでよかったらと言うが、やくざは承知しない。 やくざが娘に手を出そうとすると母親がやくざを刺した。やくざは母親をドスで斬りつけ、二人は死んでしまう。
 残された娘・お菊の歌に合わせて三味線を弾く市。お菊と市と泥棒は三人で門つけをすることになる。 しかし土地のカワウソの親分に呼ばれたのはお菊だけだった。お菊が手篭めにされようとしたとき、市が現われてお菊を救出する。
 お菊は「こんなに親切にされたことは無かった」とうれし泣き。泥棒は三人で暮らそうと思いを語るが、市は無言だ。 翌朝、お菊の姿は見えなかった。泥棒は市にスリを止めて真人間になる、なれたら再会したとき声をかけると約束して別れる。
 お菊は借金の相手、僧侶でもある亀屋(北村和夫)のもとへ出向いていた。借金のかたに自分の身を差し出したのだ。 お菊は亀屋の座敷牢で言うことを聞かない女がなぶり殺しにされるのを見た。亀屋の裏の顔は極悪人だった。
 伊勢屋が金をもって女たちを買い付けに来た。伊勢屋は途中で歌の上手な芸人と出会ったと言う。市だった。
 お菊は市の傍へ駆け寄る。市は「やはりここだったか・・・目をつぶっていなさい」。
 市は亀屋一派を斬り、女たちを解放する。あの浪人者も亀屋の用心棒で雇われていた。今度は位置の仕込みが容赦しなかった。
 解放されたお菊。去る市とすれ違った馬車を引く馬子はあの泥棒だった。しかし、彼はまだ市に声をかけなかった。
■勝新が殺陣の直前に自分で三味線の腕前を披露する。刀で斬られた三味線をつなげて弾く場面がある。
春日太一『天才 勝新太郎』(文春新書、2010)より、

 勝は最高の作品を作るため、スタッフの一人一人に最高の状況を揃えた。そして、スタッフたちもその信頼に応えた。
  ---- いいものをつくろう!
 純粋にそれだけを追い求めることのできる現場には、邪な心はどこにもなかった。徹夜の撮影をすれば事務所でみんなで雑魚寝をする。翌日が休みの時は、ロケバスを借り切ってみんなで祇園に飲みに行く。その一体感は、まさに「勝新太郎一家」だった。
 こうした勝プロのチームワークは、その周囲の人間をもと魅了していく。ゲストで出演した中野良子もその一人。中野は、勝をr中心としたスタッフたちと現場を過ごすことが楽しくてしかたなかった。そして撮影最終日、どうsても離れ難い気持を抱いてしまい、所属事務所の社長・三船敏郎に直訴する。
 「私も、みなさんと一緒に働きたい! 勝プロの助監督にさせてください!」
 特別扱いされ、輪から離れたところで、ただ見ているのがもったいない。スタッフとして、仲間に入りたい。「家族」のような温かさと、「最高の現場」で働くことのできる充実した表情の数々。女優に「共に汗をかきたい」と惚れこませる現場がそこにあった。(三船はあまりに意外な訴えに困惑。マネージャーに命じて強引に中野を東京へ連れ帰らせている)

        新藤兼人『弔辞』(岩波新書,1988)より

 モスクワから帰って、またテレビの座頭市を書いてくれということで『歌声が市を斬った』を書いた。このときも勝監督には会わないでプロデューサーに渡した。
 ところが、勝監督がシナリオの打ち合わせをしたいからきてくれという連絡。打ち合わせをしたいといわれれば行かなければならない。京都へ出かけた。駅に迎えが待ちうけていてホテルへ案内される。打ち合わせは明日撮影初日に行いたいとオーナーがいわれますから、明朝八時に迎えにまいります、どうか今夜はごゆっくりと事務所の人は帰った。
 明日から撮影というのに、えらい悠長なことだな、今夜打ち合わせをしたらええのに、と思ったが、わたしの思うままにはならない。
 翌朝八時に迎えが来た。車は太秦へはいって元京都大映に向かう。はて、大映は潰れたはずじゃが、と思っていると車は正門から中へ入る。
 所内は無気味なほど閑散としていて無人、奥の突き当りのところで車は停まった。どうやら勝プロダクションは旧大映の中に事務所を構えているらしい。
 二階の製作部に案内されてはいると、そこらの人が一斉に仕事をやめ、わたしを目で迎えおじぎをした。そこへやおら現れる勝新太郎。
 「センセイ、遠いところをわざわざ」と気味が悪いほど丁寧な挨拶。わたしは落ちつかなくてソファへ浅く腰をかける。雰囲気が『悪名』の朝吉親分の家へでも行った具合なのだ。
 勝が、ぐいとアゴをしゃくると製作部の若いもんがわたしの前の卓へさっと将棋盤をおいた。
 「センセイ、将棋がお強いとききましたが」
 「いや、ほんのヘタのヨコズキで」
 「一番、お願いします」
と勝が座ってもう駒を並べる。
 これから撮影へ出発というところだったらしく、製作部のものはムリに落ち着いた顔で見守っている。
 シナリオの打ち合わせはいつはじまるのかと思いながら、わたしは平凡にヤグラに組んだがたちまち負けてしまった。猛烈な攻め将棋だ、ぐんぐん攻めてくる。つづけて負けた。
 「センセイ、アメねぶらしたらあきまへんでェ」
 三番目はどうやら勝った。わたしがアメをねぶらされたのかもしれない。
 製作部がたまりかねて、「オーナー、出発の時間がすぎてますが」とおそるおそるそばからいうと、勝監督、やおら腰をあげ、
 「センセイ、ロケにつきおうとくれやす」
となり、わたしはロケに同行することになった。それにしてもシナリオの打ち合わせが気になっているのだが、一向にシナリオのシの字もきりだす気配がない。
 バスとトラックと乗用車でロケ隊は出発。わたしは勝の運転する車に同乗。
 到着したところは、嵐山に近い竹藪のほとり。そこにムシロばりの賭場の表のオープンセットが組んである。ここで撮影するらしい。先発のライトマンや大道具が群がって仕上げを急いでいる。
 勝はそれを見てアゴをしゃくった。付き添いの若いもんがタテ長の高さ三尺ばかりの四角い木箱を持ってきた。いつも持ち歩いているらしい。先端の平面が重箱ぐらいの広さ。
 別の若いもんがその上に将棋盤を置いた。
 で、勝はわたしに目をやり、
 「センセイ、どうぞ」
ともう駒を並べはじめる。
 わたしは狼狽した。すぐそばではスタッフが準備に忙殺されている。そのそばでいくらなんでも将棋とは。
 「センセイ、仇討ちです」
という。
 わたしは度胸をきめて相手になる。立ったままの将棋だ。
 一局すむ頃を見計って、製作主任らしいのが、
 「オーナー、準備ができました」
 「そうか」と勝はわたしに「あとで落ち着いて一番願います」
と離れた。
 草っ原の上にゴザを敷き、座頭市に化ける一切のものが並べてある。
 着物、帯、越中ふんどし、脚絆、ゾーリ、仕込み杖。
 勝がぱっと丸首のセーターとズボンをぬいでパンツ一つになり、両手を広げて大の字になって立つ。
 すると衣裳係や小道具などが群がり、まず越中ふんどしをつけ、着物の袖を通させ、帯を結び、脚絆をつけ、最後に仕込み杖を渡す。約三分間で座頭市ができあがる。これはおどろいた。回転を落として撮ったむかしの映画のようだ。
 頭はいつものいがぐり頭。メーキャップはしない、素顔がメーキャップになっている。
 勝が、
 「カメラ、ここ」
と指定する。
 カメラマンがいつものことで慣れているとみえ、さっとポジションを決める。
 「オレが右手から現れる。カメラ、オレにつける、ズームでオレのバスト、オレが賭場へはいって行く」
 一同、うなづく。テストを一度やって本番。撮影はこれだけ。中は撮影所へ帰ってセットでやるらしい。
 製作主任が叫ぶ。
 「広沢の池へ移動。中食は現場へついて」
 スタッフはそのように動く。実にみな機敏だ。よく訓練されている。
 わたしは勝の車で移動。ところが勝の車は広沢の池へ向かわないで嵐山に向かう。小ぎれいな料亭の前に「着く。
 勝はわたしを促して下り、わが家のごとくずんずんはいってゆく。仲居さんがしとやかに迎える。
 勝手知ったる座敷へ通る。
 「センセイ、午めししまほう」
と上座にわたしを座らせる。もうわたしは度胸をきめている。午めしを食べながらシナリオの話が出るのだろう。
 美しい初老の女主人が現われ、ながれるようになめらかな京都弁でお世辞を言い、「ごゆっくりどうぞ」と去る。
 と入れちがいに料理が運ばれてくる。何もかも電話で連絡がとってあるらしく、撮影のようにテンポよく進む。
 中食だからかんたんなものだが、手のこんだもんで、日ごろうまいものを食っていないシナリオライターには法外なご馳走だ。
 食べながら、シナリオの話が出るかと思ったが、出ない。わたしからシナリオにどこか欠陥でもありますかとは、死んでも口に出すわけにはいかないので、黙っていると、勝のほうからも出ない。
 食事が終わった。
 「時間をくってしまったな。センセイ、現場へつきおうてください」
 で、料亭を出て、広沢の池へ向かう。車で二十分のところだ。スタッフは中食を了えて休憩している。ここは映画やテレビがしばしばロケをするところで、わたしもここで『愛妻物語』のロケをしたことがある。桜の名所でもある。
 勝が車から下りると、製作主任と助監督が寄ってくる。あまり近づかない。一定の距離を保っている。
 勝が空を見上げた。
 曇ってきた。
 「中止」
とオーナーの一言。
 製作主任と助監督は駆け去る。たちまちスタッフがざわめき、バス、トラックが撮影所へ向かって動き出す。どうやらきょうの撮影はおわりらしい。
 たいていのテレビ映画は、曇ったら曇った方法でやる。余裕のある撮影だな、と勝の顔を見ると、
 「センセイ、今夜は食事をつきあってください」
 「一晩泊りの予定できたんですが」
 「そうですか、もう松茸が出てるんですが」
と製作主任をかえりみた。
 「センセイを駅へお送りしろ」
はい、と製作主任は他の車をさし、
 「センセイ、こちらへどうぞ」
 対応が実にすばやい。
 わたしは、勝に、
 「じゃあ、どうも」
と言った。
 「ご苦労さんでした」
と丁寧に勝。
 わたしはこうして京都駅へ運ばれた。遂にシナリオの話は出なかった。わたしはなぜ京都へへ呼ばれたのだろう。シナリオの打ち合わせをしたいということだったのだ。将棋を四番やるためにきたのか。
 わたしはシナリオの打ち合わせもさることながら、勝の監督ぶりを見たかった。

★第6話「五本の長脇差」(脚本・久保田圭司・岩元南、太田昭和監督)   1978年2月13日
夏純子  縄張り争いを利用して、ひと儲けを企む図太い女(夏純子)がいた。市を引っ張り込むために、その女に狙われたのは5人の少年たち。 憧れの長脇差を手にするが、血なまぐさい舞台の幕が上がる。

撮影は吉田貞次。
 夏である。スイカ畑でスイカを盗んだ少年は市に出会う。二人でスイカを食った後で市がスイカ代を払おうとすると、少年は「渡世人だから金は受け取れない」と言う。不審がる市と少年の様子を目撃していた女(夏純子)がいた。
 5人の少年たち(杉本隆ら)は村から出て来てやくざの親分に雇ってもらおうとしていた。素人をイカサマ博打で騙して金を巻き上げたりとイイ気になっていた。市は少年たちから博打に誘われる。女が見届け人をかって出る。市は少年たちのイカサマを見抜き。少年たちから金と1本だけの脇差を取り上げてしまう。
 脇差は川へ捨てた。宿場へ入ると女は市の正体を知っていた。ちょうどこの辺りでは鱗田の仁吉(山本麟一)と安中の藤五郎の縄張り争いの真っ最中だと言う。女は「市さん、さすが鼻がきくね。用心棒として高く売れるよ」と評価するが、市は不機嫌である。
 5人の少年たちが仁吉のもとへ来るが、仁吉は「ガキの助けは借りない」と断る。仁吉は市を雇おうとするが、市に断られてしまう。女は市が少年たちのことを気にしているのを利用して市を雇う方策を、仁吉に授ける。市を雇えたら五両という条件で。
 仁吉は五人を呼び、ひとりひとりに脇差を与え、身内にしてやると言う。5人は村へ出てさっそく威張り始める。安中の籐五郎の身内に言いがかりをつけ、刃物を抜いての喧嘩になる。年長の利助が自分を守ろうとした刀がちょうど斬りつけた相手の喉を斬って、急に5人は英雄扱いされる。一部始終を見ていた市は仁吉のもとへ行き、五人を村へ返す代わりに仁吉に加勢すると言う。またまた空身で放り出された5人は不満だ。
 酒の店で女は市に子供達を利用したことを謝罪する。女手ひとつで生きていくのは並大抵のことではない、村にも田畑がない、少年たちにも未来がないんだと女は説明する。市は「村へ帰れば長生きできる・・・」と言う。
 出入りの支度をしている仁吉のもとへ報告が入る。籐五郎一家から手打ちの使者が来るというのだ。市を迎えたことが伝わって勝ち目がないと判断したに違いない。代貸しはこれを機会に使者を血祭りにと提案するが、仁吉は手打ちの使者を殺したとあっては渡世の義理が立たないと渋る。代貸しの案を生かす思いつき、それが少年たちを利用することだった。
 再び脇差を与えられた5人は使者を待ち伏せに出かける。途中、女は少年たちに出会って、少年たちが籐五郎の子分を襲撃することを知る。河原で釣りをしていた市に知らせる。
 街道すじで少年たちは待ち伏せ。籐五郎一家の四人に斬りかかるが到底かなう相手では無い。年少の小虎が斬られる。他の四人も危うし・・・というとき、市が加勢に駆けつけた。小虎の亡骸にとりすがって泣く少年たち。市は仁吉の家へ向った。
 出入りの支度をしていた仁吉のもとへ市は線香をたいて現われ、小虎の供養と仕込みをふるう。
 村境の橋を四人が荷車を引いていた。小虎を乗せた荷車である。すべての脇差を川へ捨てた。
 橋の下には市がいた。女が橋の上から市に声をかける。「あの子たち、村へ帰るのよ。市っあ・・・」。市は無言で去っていく。
夏純子が演ずる女には名前が無い。
★第7話「遠い昔の日に」(脚本・中村努、勝新太郎監督)    1978年2月20日
李礼仙  突然、村の寺子屋が盗賊に狙われ、子供達が人質になった。市に怨みをもつ盗賊の頭(石橋蓮司)は座頭市を殺せと村人に脅しをかける。
 善良な村人たちも次第に凶悪な気持に変わっていく。

撮影は森田富士郎。
 冒頭にタイトル「遠い昔の日に」が出る。霧のなか、少年の市に少女が紫色の花を渡す。市「帰って来る。偉くなって」、少女「きっとね、待ってる」。霧のなかに消えていく少年。
 歩んでくる男がいる。壮年の市である。とおりがかった村人にたずねる。「この辺りに上州屋という染物屋さんがあったはず・・・」、農民「十数年前につぶれちまった。家族もどうしたか・・・」。
 盗賊の頭(石橋蓮司)の妻(李礼仙)は乳飲み児を抱いているが、頭は自分の子供も邪魔にしているようだ。宿場で妻は市に接触する。しかし、市が紫色の菊の花を大切にしているのを見て、妻は昔のことを想い出す。市を殺す手伝いなど出来ない。市は赤児の名前「きく」を聞く。翌朝、市が宿を出ようとすると既に女は発っていた。
 待ち伏せする賊に女は市を見失ったと報告する。ほどなく市が現われるが、斬りつけた賊二人は田んぼのなかで斬られてしまう。
 相馬の町で幼馴染の留(草野大悟)に会った市は、酒を酌み交わして旧交を暖める。市は上州屋の娘が嫁入りを嫌って自分の頬に焼きゴテを当てたと聞く。寺子屋の鐘が不吉に鳴り響く。寺子屋の師匠とその奥さん、子供達が賊に人質に取られたのだ。賊は市を探し出せと命じてくる。
 市は寺子屋へ行こうとするが、留は止める。村人は子供たちのためにはやむを得ないという気持ちになってくる。
 賊の投げ文はさらにエスカレートし、「市をなぐり殺せ」という。一方、寺子屋のなかでは逃げ出そうとした子供が殴られたり、妻を守ろうとした師匠が殺されたりしていた。非道な頭目を妻は「市が怖いんだろう」と非難する。
 農民と一緒に市が寺子屋へやって来る。頭は「お前たちでなぐり殺せ」と命じる。
 村人達は市を棒で殴る。倒れた市を見て頭は子供達を解放するフリをする。もう少しで子供達が親元へというとき、頭は子供を押し留め、「ひとり十両出せ」と言う。農民達にはそんな金は無い。
 倒れている市にとどめを刺そうとした頭目のわき腹にドスを付きたてた賊がいた。頭目の妻であった。信じられない様子で妻を斬り、ひるんだ賊とその一味を市は一瞬の間に斬る。
 村人たちは市に謝罪する。市は村人に賊の妻の赤児を育ててくれるように頼む。村人たちから俺が俺がという声があがる。昨年流行病で妻を亡くしていた留が「お前たちには子供がいるじゃないか。これは俺と市ちゃんの子供だ。俺が育てる」と言う。瀕死の盗賊の妻の目に涙が光っていた。

★第8話「そこのけ、そこのけ、あんまが通る」(脚本・棚田吾郎・中村努、島田開監督)   1978年2月27日
 十万石のお姫様(斉藤こず恵)がお輿入りの道中、愛犬を抱いて逃げ出した。市と出合ったお姫様は、生まれて初めての楽しさにおおはしゃぎ。そこへ市の命を狙うやくざの一味が追いかけてきた。

撮影は森田富士郎。
 姫君のカゴを守る家来達の行列。狆の牛若が逃げたが、無事発見される。一万石の青柳藩から迎えの先手物頭の侍・遠藤(工藤堅太郎)らがやって来る。
 嫁入りの悪夢を見た琴姫は牛若を抱いて逃げ出す。姫のお付き・朝緒(中山麻里)と爺(稲葉義男)は姫を探す。
 姫は村の子供達と遊び、市と出会っていた。市は夕方になっても帰る様子のない姫と一緒に過ごすことになる。イカサマ博打を市に見破られた庫裏唐一家が市を狙って追っていた。姫のいない空カゴを運ぶ大名行列。
 朝緒は市と姫の様子を見守る。追手が市に斬りかかる。姫を家に隠し、やくざを斬る市だったが、やくざがいなくなった後で、遠藤が姫を受け取りに来ていた。いつのまにか、遠藤が一人で来ることに朝緒は不審感を抱く。その瞬間、遠藤は姫に斬りかかった。姫をかばう市と朝緒。
 行列に無事戻った姫は市に思い出を語り、大切にしていた小石を渡す。

★第9話「まわり燈籠」(脚本・小倉洋二、森一生監督) 1978年3月6日
まわり燈篭 代官所を焼き討ちして世のため人のために働いた大親分を狙って、ある宿場に賞金稼ぎが集まってきた。世間を騒がせたくないという大親分と市の心に反して、また一人若い人斬り(石橋正次)が現われた。

撮影は渡辺貢。
 賞金稼ぎに狙われる美濃の儀介(内藤武敏)に付き従うのは小サブ(平泉征)だけだった。狩場の音蔵(小林昭次)は儀介を泊めるものの本当は迷惑がっていた。
 ヨシキリの源太など名うての人斬りが誰かに斬られた。斬ったのは市かと推測されるが、実際には若い銀杏・三次(石橋正次)だった。茶屋の娘(遠藤真理子)は三次に惹かれる。
 長旅に疲れた小サブはケリをつけようと謀りごとを音蔵にもちかける。賞金稼ぎに儀介を斬らせて、その仇を二人で討とうというのだ。

 元の道を帰って途中で待ち伏せしている賞金稼ぎに出会ったまではよかったが、三次が割り込んで来て計画は破綻する。小サブと音蔵は儀介を斬る。逃げ帰った三次は市に事の顛末を話す。三次を追って音蔵一家がやって来た・・・・

★第10話「冬の海」(脚本・勝新太郎・中村努、勝新太郎監督)  1978年3月13日
 たけだけしい冬の海。
 市は絵を描くことが好きな少女と出会い、人里離れた海辺の小屋に、少女と共に住みつく。そこへ、市を探すやくざの群れが、その小屋を取り囲む。

撮影・牧浦地志。音楽は通常の回の村井邦彦ではなく、青山八郎とクレジットされる。 ラスト・クレジットのスタッフ名も小さく出て、独立した作品を意識して作られた1本だろう。
 市を襲う男たち、斬られたなかに少年がいた。その少年(谷崎弘一)を養生所へ連れていき、やくざ稼業から足を洗うように告げて金を渡す市。
 こもをかけた馬車が野道を行く。ひとりの少女が乗り込んでくる。コモのなかに市がいた。市がほおばるおにぎりを見つめる少女。 市はその気配に気がつき、おにぎりをひとつ渡す。嬉しそうに両手で抱えて食べる少女。突然馬車が坂道を転げ落ちる。 市を狙った男達が斬りかかってくる。仕込をふるう市。その姿を見ていた少女は市の後をついて来る。
 土地の親分(内田朝雄)は不甲斐ない手下どもに勘当を言い渡し、市の首を狙わせる。
 一方、少女は「天」と名乗る。市「天女さまだ・・・」。天は下駄を2枚合わせて風景を切り取り、絵を描く。
 冬の荒れた海辺の小屋。市「夕焼けがきれいだね・・・」、天「見えるの?」、市「いや、そんな気がして・・・」、 美しい夕焼けが小屋のむしろの間からのぞく。
 天「市さん、夢を見る? ねてる時は目明きの人と同じ・・・」。
 やくざ稼業から足を洗うように諭した少年・銀太が小屋にたずねてくる。市と少女の二人だけの世界に少年が加わった。海を見て涙をためる少女。
 銀太「あんた。養生所から逃げ出したひとだろ? みんなが探していた。 ひと月しか命がないんだって?」
 天「市さんには黙っていて。約束して」
 漁師たちが博打をしている。市がいる。市は博打に加わらず按摩稼業に精を出している。
 稼ぎを持って市が小屋に帰って来る。出迎える天。二人はまるで夫婦のようだ。
 天「市さん、あたしの顔を描いて。さわってみれば描けるでしょ」。市が描いた天の似顔絵。 いたずら心を出した天の前歯は出っ歯に描かれている。そっくりだと笑う天と銀太。
 銀太は市に男どうし一緒に暮らそうと提案する。それを聞いた天は突然、「さよなら」と告げて小屋の外へ。小屋の外へ立つ天に市は「忘れ物だよ」と画帖を渡す。
 漁師町の神社の祭りの夜である。市と銀太は天を探している。天は隠れんぼをしている。銀太が市に「天の命はあと一月もない」ことを話す。 市は「天ちゃんに言っちゃだめだぞ」。二人の前に姿を現す天、突然倒れる。
 次第に顔色が悪くなり、死期が迫ってくる天。最後の絵を描こうとしている。飛ぶ鳳凰を描く。 「裸が描きたいの」と呟く。銀太がふんどし一丁の裸になるが、天は画板につっぷしたままだ。天が描きたいのは市の体なのだ。
 市が半裸になり、天は描く。銀太はいたたまれなくなり、町へ魚を買いに出るが、途中でやくざに会い、なぶり殺しにされてしまう。
 最後の力をふりしぼって天は描く。「蓮の葉の上にいるの・・・光る杖持って」。やくざが小屋を取り壊して斬り込んでくる。浜辺で市は仕込をふるう。
 亡くなった天を船に載せ、冬の海へ送り出す。じっと冬の海を見つめる市。
 
脚本家の中村努の、『座頭市全集』DVDボックス巻之一の「聞書座頭市」での証言: “なんにもなしで始まって素晴らしいものが出来たことがある。原田美枝子さん主演の『冬の海』がそれで、オールラッシュを見て、 こんな傑作になってしまい、ホンヤとしてどう書いたらいいかと聞いたことがある。すると勝さんは「市、少女、海」と3行書けと答えてにっこりしました。
 女優・原田美枝子の話では、台本は捨てて、心で演技をと教えられたと言う。次の第3シリーズ中の、 原田美枝子出演の「不思議な旅」もとんでもない傑作!。 おそらく勝新は原田の天性に他の役者には無い可能性を見出していたのだと思う。 原田美枝子を撮影したカメラマン・勝新の写真集もあるぐらいだ。絶版だが古書店に稀に出る。


■春日太一『天才 勝新太郎』(文春新書、2010)に撮影のときの貴重な記録が紹介されている。
原田美枝子写真集
週刊プレイボーイ特別編集写真集「勝VS美枝子」定価1000円 昭和55年3月25日 集英社
 雑誌『文藝春秋』創刊90周年記念号(2013年1月号)で、原田美枝子は語る。
 “勝さんに初めて会った時、私は十九歳でした。デビュー当時からの勢いも一段落し、周囲の評価に自分自身が追いつかなくなり、悶々としていました。そんな時、『冬の海』の撮影のために京都でお会いして、「凄い人がいる!」と衝撃を受けました。
 私が演じたのは、余命幾ばくもない貧しい少女でした。勝さんは、私に「美枝子がその娘なら、どこへ行きたい?」とたずねたのです。私は、なんとなくの思いつきで「海」と答えました。
 するとその日の夜、勝さんが運転するジャガーに乗せられて、撮影所のある京都から数時間、着いたのは日本海側の間人(たいざ)海岸でした。勝さんはグリーンのジャガーをビュンビュン飛ばしながら、スティービー・ワンダーをガンガンかけて本当にカッコ良かった。そして翌朝、すでに海辺にはセットが建っているのですから、勝組の仕事の早さには驚きました。それまで『兵隊やくざ』や『座頭市』などを観て、土臭いイメージを抱いていただけに衝撃的でした。
 撮影に入ると、渡されていた台本はまったく無視。セリフも動きも、勝さんがその場で考えて、役者とスタッフに伝え、それを撮るのです。それに、私が下駄の歯と歯を合わせて作った四角い隙間から海を眺めていたら「おもしろいな」と、そのまま芝居に入れてしまう。そんな演出をする人に初めて会いました。その瞬間の感覚を掬いあげてゆく。それは私にとって、衝撃的で刺激的でした。なにより、作品の仕上がりの素敵さ。振り返れば、勝さんの演出作品に出演した俳優たちは、誰もが良いところを引き出され、本当にいい芝居をしている。それは、勝さんが根っからの演技者であり、俳優の生理を理解していたからだと思います。
 演技への厳しい言葉も思い出します。たとえば、「冷蔵庫に入れておいた芝居をするな」。ずっと前に作って保存しておいたような芝居をするなということです。よく、「引き算の芝居をしろ」とも言われました。ちょうど『新・座頭市』のニ本を撮り終えた頃です。「美枝子の芝居は引き算ではなく、何もしない生まれたままの演技。子役の演技だよ」と。役を考え抜き作りこんだ上で、そぎ落としていくのが勝さんのいう引き算の演技です。ところが、当時の私は監督から言われるままに演じるだけで、芝居の作り方も知らなければ、練り上げることも出来なかった。そこを見抜かれていたのでしょう」”

★第11話「子別れ街道」(脚本・新藤兼人、太田昭和監督)       1978年3月20日
座頭市 親分の愛人(范文雀)と逃げた男・佐吉は、追手に斬られた。その男の頼みで、市は子供とその愛人を連れて印旛沼に向う。
 待っていたのは、頑固一徹の老いぼれた漁師。そこに追手の親分たちが迫る。

撮影は牧浦地志。
 一番鶏が鳴く。早朝、旅籠を出ようと足ごしらえをしている市の部屋に男の子が手紙を持って入ってくる。手紙は隣室の男が書いたもの。この子・三吉を印旛沼の老人のもとへ送り届けて欲しいという。
 手紙を書いた佐吉はおしな(范文雀)と逃げたものの、おしなは親分の女、追手に斬られてしまう。市が追手の一人を斬った。市と女と少年は印旛沼へ。佐吉の父親(今福正雄)は少年たちを受け入れるが、追手が迫る。おしなに思いを寄せていて、他の仲間を始末してしまった子分・銀太(高岡健二)もいるが、おしなには男を利用して境遇から抜け出そうとする本能があった。
 親分が女を取り返そうとやって来た。

★第12話「雨あがり」(脚本・星川清司、太田昭和監督)   1978年3月27日
いしだ あゆみ 女の命を助けたのが縁で市はその女から「訪ねてほしい」と手紙をもらう。
 しかし、めぐり合った女(いしだあゆみ)は、市に無慈悲なあしらいをする。そこへ島送りになった男(夏八木勲)が宿場に現われ、雨上がりの宿場に殺気がみなぎる。

撮影は藤井秀男。企画は今回と次作は久保寺生郎・湯沢保雄(フジテレビ)・久坂順一朗(フジテレビ)。製作は真田正典・市古聖智。この企画者の作品はタイトルバックが物語りのダイジェストではなかった。
 どしゃぶりの雨が降る宿場。おとき(いしだあゆみ)は六文屋(花沢徳衛)に匿われる。九八(高品格)や卯吉(三上真一郎)が河村屋のおかみを大切に扱うのだが、島帰りの今朝次(夏八木勲)は、おときが番所に突き出した時に、村人に復讐してやると言い捨てていた。その怨みを晴らしにやって来るという知らせが、宿場の人々をふるえあがらせていた。
 市はおときに冷たく扱われた真相を知って宿場に残り、今朝次を待つ。
 今朝次が来ると村人たちはおときを追い出す。今朝次はおときに復讐をするつもりだったが、再会すると復讐の気持は失せて、できないのだった。しかし、女を不幸にする男と市との戦いが始まる。

★第13話「忠治を売った女」(脚本・佐藤繁子、黒田義之監督) 1978年4月10日
 雪の深い山道で、市は奇妙な男女と出会う。女(二宮さよ子)は大親分・国定忠治の元めかけ。男(岸田森)は、その女をめかけに差し出した子分。その女が役人に忠治を売ったのだという。

撮影は藤井秀男。黒田義之監督の傑作。映画『顔役』の打楽器がリズムを刻むテーマ音楽が繰り返される。音楽は村井邦彦だし、これはもう『顔役』だ!
 雪の上を歩く女と男。女はおまき(二宮さよ子)、男は市だった。庄八(岸田森)が後をつける。庄八はおまきを病気の忠治を売ったひどい女だと言う。おまきは庄八の女房だったが、忠治の女になった。おまきは、そのことを怨んだ庄八が忠治を売ったのだ、この男の首を国定村に売れば儲かると言う。
あばら家から出て行く庄八を、おまきは「意気地が無い」と評する。
 おまきは土地の親分・勘蔵(名和宏)に捕まる。店の前で忠治を狂わせた女とさらされて、高値がつく。庄八は市にあの女に鼻であしらわれるのは腹が立つ、どうしても男として見られたいと打ち明ける。
 親分に手篭めに去れかかったおまきはカンザシで親分の目を突いていた。逃げるおまきに加勢する庄八。
 雪が吹きすさぶなか、松明を持った一家が女を探す。
 女は、憎いと思っていた忠治に実は惚れていたことが分ったと、市に話す。最後に庄八は親分たちと切り結び、自分の姿をちゃんと見てくれたかと言ってこときれる。
 岸田森が忠治に取られた女房に惚れていながらも、押しの弱い男を演じて秀逸、二宮さよ子は逆に気丈な、しかし複雑な立場の女をほとんどセリフなしで演ずる。明暗の対照が巧みな黒田演出で、やくざたちの松明の灯りが集まる吹雪を背景に最後の殺陣が始まる。

★第14話「夢に追われて阿波踊り」(脚本・田口耕三・安田公義・岩元南、小林正雄監督) 1978年4月17日 
 阿波の国にやってきた座頭市。
 一緒に来たのは、市をつけ狙う鳥追い笠の女(江波杏子)。そして、父の位牌を胸にしまう少年。阿波踊りの渦の中、すさまじい殺陣がくり広げられる。

撮影は吉田貞次。助監督を務めてきた小林正雄の初監督作品。企画は久保寺生郎・荒井忠・中本達郎。子役中心の物語と亭主の恨みを晴らそうとする女の物語があって散漫な出来になってしまった。
 渡し舟に忍び込んだ子供・新吉は父・卯之吉の位牌を、阿波の徳島屋(浜村純)へ届けに行くところだった。けれども、徳島屋は子供を知らないと追い返す。少年は「畜生!」と連呼して悔しがる。この辺りの子供の演技はわざとらしい。
 徳島屋の跡取り息子・卯之吉はお志乃(吉沢京子)を嫁に迎えたその日、使用人のきぬと駆け落ちしてしまったのだ。それ以降、ずっと家を守ってきたお志乃を不憫に思う徳島屋は子供を迎え入れなかったのだ。お志乃が少年を迎えることを懇願する。
 一方、市を亭主の敵と狙う女(江波杏子)がいた。イカサマを見破られ腕を斬られたのが許で死んでしまったのだ。亭主の弟(酒井修)も一緒である。土地の藍玉問屋(小松方正)は徳島屋の商売を狙って来る。
 阿波踊りの大群衆のなかで斬り合いが起こる。

★第15話「女の鈴が哭いた」(脚本・山田隆之、井上昭監督)  1978年4月24日
 
鈴が鳴り、愛する妻(佐藤オリエ)に出刃包丁を投げる盲目の旅芸人(高橋長英)。人もうらやむ仲の良い夫婦だが、市を狙う悪魔のささやきに、夫の心は嫉妬に乱される。
 壊れる幸せに、市の怒りが爆発した。

撮影は渡辺貢。バスト・ショット以上のアップ映像を使って殺陣も撮る試みをしていた。映画『顔役』のカメラワークを再現しようという試みのようである。ただし、ベテラン・井上昭監督は『顔役』のカメラワークほど破天荒ではなく、緊張感の高い映像を綴る。企画はこの回以降は久保寺・湯沢・久坂。
 タイトルバックはダイジェストではなく、クローズアップで始まる。河原で胡弓を弾く盲がいた。菊次(高橋長英)である。鈴を鳴らして出刃包丁を投げさせるのは妻おりん(佐藤オリエ)。市が「幸せというものがあるんだなあ」と感心するほど、いたわり合いながら、生きている夫婦だった。火事場からおりんを救出した菊次が目を焼いてしまったのだと言う。おしかけ女房だ。
 二人を背後から見つめる十手持ち(蟹江敬三)がいた。薬売りと偽って、菊次にウソを吹き込む。「客の一両は本物で奥さんが自分の懐に入れた」とか、「按摩とデキている」とか。『オセロー』のイアーゴである。
 次第に疑り深くなった菊次はおりんを平手打ちしてしまう。二人の絆の象徴だった鈴も割ってしまった。十手持ちは土地の親分(汐路章)にも市を狙わせるが、市は斬り合いの後で、十手持ちに真相を言わせるのだった。手首を着られた腹いせに市をうらんでいたのだ。
 真実を知った菊次は、おりんにわびるものの、二人の仲は元通りにはなりそうもないのだった。市は遠くを見つめる。
 途中で妻を疑い始めた菊次の心拍のように、映画『顔役』の心臓を打つようなテーマ音楽が小さくなり響く。傑作であった。


★第16話「裸の泣き虫役人」(脚本・東條正年・中村努、井上昭監督) 1978年5月1日

 市のお蔭で凶悪犯を捕えることができた役人(坂上二郎)が代官所に戻ると、待っていたのは「座頭市を捕えよ」という代官命令。
 腕に覚えのない役人は、トボトボと市の待つ宿屋へ向う。

撮影は森田富士郎。田んぼの中を花嫁を馬に乗せた一行が来る。市はモチをもらう。
 木賃宿の隣の商家が賊に襲われるが、市が賊を捕らえる。木賃宿に居合わせた勘定方の役人(坂上二郎)が市から手柄をもらうことになる。
 悪代官(菅貫太郎)は役人を手代頭に任命し、市を捕縛する先峰を命ずる。農民に聞き取り調査をして年貢の上前をはねている者を突き止めかねない役人が邪魔になってきたのだ。役人は松乃屋の奉公人で、子連れのゆき(吉田日出子)と祝言をあげようとしている。
 市と酒を酌み交わしているうちに役人は裸になって本当のことを言おうと決心する。

第17話「霜夜の女郎花」(脚本・松尾昭・中村努、太田昭和監督) 1978年5月8日

 日陰にこっそり咲いた黄色い花に、自分の命をたくす哀れな女郎おいね(音無美紀子)。そんな姉を救おうと,妹おはつ(幸真喜子)は自ら身を落す。野獣の牙が襲うとき、市の仕込みがひらめいた。

撮影は牧浦地志。企画は久保寺・湯沢・久坂だが、この回だけタイトルバックがダイジェスト版だった。
 おはつは男(梅津栄)から財布を盗む。そのお金で姉を三日間買いきったのだ。十手持ち(清水紘治)は言葉巧みに市をだまし、妹をだましていく。女郎屋の主人に江幡高志。
 親分が来ると、十手持ちは親分がおはつ、お前に目をつけた、5両で姉さんの借金も支払えるじゃないかと言い含める。親分はおはつを抱いた後、十手を呼び、「俺の金5両を懐に入れやがった」と告発する。十手「とんでもねえ、手癖の悪いガキだな」と。

★第18話「こやし道」(脚本・犬塚稔、太田昭和監督)  1978年5月15日

 坊主頭で極悪非道の悪党(藤岡琢也)に間違えられた市は、役人に捕まって、さんざんな目にあわされる。
 怒る市の前に、金のためには手段を選ばぬその悪党が現われ、市の仕込みがうなる。

撮影は森田富士郎。茶屋で市は似たいでたちの坊主に出会う。座頭市に間違えられて斬られるところだったというその男は、女衒(和崎俊哉)と共に旅をしていた。
 悪党二人連れは和尚(殿山泰司)の寺に寄宿する。和尚は女房(菅井きん)と一緒になって女衒の片棒をかついでいた。
 娘が売られていくときに映画『顔役』のラストにつながるテーマ音楽がズンズンと響く。
坊主は針を使う。十五両で娘を売ったおきぬ婆さんも翌朝は死体になっていたし(凶器は針だった)、女衒も殺された。そして和尚もその女房も殺されていく。
★第19話「めの字の置きみやげ」(脚本・松尾昭・勝新太郎、小林正雄監督) 1978年5月22日

 まだいたいけな細腕で、子供を育てる少女(友加代子)の姿に市は神々しいものを感じた。身を売ってまで子供を養う少女。しかし、それにつけこむやくざの牙に、市の怒りが爆発した。

撮影は渡辺貢。馬を引く子供・三太に誘われて市は馬に乗って、とある村へ入った。捨て子を集めて母親代わりになっている少女・おはる(友加代子)。市は子供達と仲良くなる。小林正雄監督は第14話に続いて子供を演出することになった。子供を物語に組み込むのは難しい。どうしてもその場面だけが緊張感のない、甘い芝居になってしまうので。捨て子たちという設定だが、みんな丸々として元気の良い子供たちなので違和感が残る。TV版座頭市に出演している子供たちはどの回の子も健康優良児みたいな体つきである。
 子供たちの一人が病気になった。薬代を稼ごうと街道筋の祠の前で客待ちをする少女。少女を買った旅人が親分のもとへ少女の情報を伝える。酒屋で少女の噂を聞いてやくざをとめようとした村の男(渡辺篤史)は殴られてしまう。
 やくざが少女を誘拐しようとしたとき、市がそれを止めた。市は子供達に目をつぶらせる。目を開いたとき、凄惨な戦いは終わっていた。村の男が少女の身を案じてやってきていた。
 市が子供達に残したのは「め」の書だった。子供達「うめぇなあ・・・」。
 吹雪が吹いてきた。市は寒そうに肩をすぼめる。音楽は青山八郎。


 ▼『座頭市物語』『新・座頭市』放映リスト 


 座頭市物語         日曜日にはTVを消せ No.9 PART1 

 新・座頭市第1シリーズ  日曜日にはTVを消せ No.9 PART2 
 
 新・座頭市第3シリ−ズ  日曜日にはTVを消せ No.9 PART4 

 『勝新演出の座頭市』   日曜日にはTVを消せ No.9 PART2-4

 警視K              日曜日にはTVを消せ No.9 PART5

 痛快!河内山宗俊     日曜日にはTVを消せ No.9 PART6

 黒田義之監督の座頭市   日曜日にはTVを消せ No.9 PART7

 監督・勝新の『新座頭市物語 折れた杖』脚本と完成作品の異同


 兵隊やくざ 映画シリーズ

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