映画 日記   2004年12月〜2005年9月 外 国 映 画 (洋画)


見た日と媒体 作  品        感  想     (池田博明)
2005年9月11日

ビデオ
ビューティフルマインド

2001年
136分
 日本語吹替え版で視聴。数学者ジョン・ナッシュ(ラッセル・クロウ)は数学だけに関心のある人付き合いの悪い学生でしたが、同居人のチャールズはそんな彼を俗に扱ってくれる文学青年でした。
 大学の授業にも価値を認めずに出席せず、レポートも提出しないナッシュを、教授は他へは推薦できないと言っていましたが、ナッシュは均衡論を仕上げ、研究所の研究職を得ます。ある日、ペンタゴンに呼ばれてロシアの暗号の解読を依頼されたナッシュはみごとにそれを解いて一躍注目を浴びます。数日後、ペンタゴンのパウチャー(エド・ハリス)が接近してきて、最高の国家機密である暗号解読作業を依頼します。
 ぶっきらっぼうで講義も教授と生徒双方の時間の無駄であるとするナッシュ教授に、心を寄せる女性アリシア(ジェニファー・コネリー)が現われ、遂に彼女と結婚することになります。しかし、その頃から妻にも秘密の国防の仕事が、彼の精神の均衡を崩し始めていました。
 学問は国のために貢献しなければならないというプレッシャーと、社会的に価値ある仕事をしたいと願う気持が、次第にナッシュの頭脳のなかの怪物を太らせ始めたのでしょう。
 チャ−ルズがあずかって育てているという姉の子供ミルナが「年を取らない」ことに気づいたナッシュは、幻覚を認識し、妻の助けも借りながら、少しずつ社会に適応していきます。やがてノーベル経済学賞が彼に贈られることが決定します。
 2001年度アカデミー作品賞・監督賞(ロン・ハワード)・脚色賞(アキバ・ゴールズマン)・助演女優賞受賞作品。数学者が主人公でありながら、数式や難解な数学の解説などはいっさいなく、暗号のパターンも光学処理で示されます。しかもコンピュータ合成のような特殊撮影もほとんどないという、人間にこだわった作品でした。幻覚も登場人物が実際に登場して普通に行動することで映像化されています。精神分裂病を治療する医師役にクリストファー・プラマー。
 彼の提唱した均衡論とは、いわゆるゲーム理論のことです。映画の中では酒場での品定めの席上、ひとりのブロンドの女性と三人のそれ以外の女性に、複数、たとえば四人の男性が求愛して成功する確率を高めるには、みんなが価値の高いブロンドに求婚して競争するはずだと仮定したアダム・スミスの決定論的考えは誤りだという例で示されます。
2005年8月29日

DVD
主任警部モース第28話・神々の黄昏

1994年
103分
 脚本はジュリアン・ミッチェル、監督はハーバート・ワイズ。
 船着場で額を撃ち抜かれて死んでいるフリーランスの記者が発見されます。その当日、オックスフォード大学構内で、実業家のペイドン氏に対する名誉博士授与の式が予定されていました。広場での行進の最中、銃声が響き、ワーグナー歌手のグラディスが倒れます。狙撃犯はグラディスを狙ったのでしょうか、それとも隣のペイドンを狙ったものでしょうか。捜査は二人の人間関係の調査から始まります。グラディスは当代最高の歌手ですが、妹のマリーに「男きちがい」と暴言を浴びせていました。ペイドンは秘書を「間抜け」と呼んでおり、慈善事業家とは別の独裁的な性格のようです。ペイドンの妻がグラディスの「追っかけ」なので、二人の接点はあるのですが、ペイドンは蔭でなにかを企んでいるような様子があります。
 オックスフォード大学の総長役をジョン・ギールグッド。
2005年8月19日

DVD
主任警部モース第27話・サタンの巣くう日

1993年
103分
 推理ものというよりサスペンス劇となっています。第27話の脚本は練達のダニエル・ボイル(『トレイン・スポッティング』『シャロウ・グレイブ』を監督)、監督はスティーヴン・ウィティカー。
 連続強姦魔で終身刑だったバリー(キース・アレン)が脱獄。誰かが逃亡を手引きしているらしいのですが、いったい誰が共犯者なのかが分りません。悪魔崇拝者を装ってセラピーを担当した女医エスター(ハリエット・ウォルター。原作ジェイン・オースティンの『いつか晴れた日に』のファニー役)に接近を試みるバリーの真意はいったい何なのでしょう。
 護衛官のノラ(カトリーナ・レヴォン)を、女は弱きもの発言をして怒らせてしまうモース。捜査の手は、しだいに地域の悪魔崇拝者たちに接近していきます。すると意外な人間関係が明らかになってきます。単なる連続強姦魔と思われていたバリーの被害者たちにも、不思議な共通点がありそうです。
2005年5月5日

DVD
主任警部モース第26話・アヴリルの昏睡

1993年
103分
 モース警部シリーズがDVD化され始めました。第一弾は第26話から第33話(最終話)までの8枚ボックス仕様。発売は日本クラウン。私としては、今後の後続発売を実現するためにも、まずこの第一弾のボックスは購入しなければなりません。ちょうど26話〜28話は見ていませんし。
 「アヴリル」はブックメイカー(賭け屋)で儲けたマイケル(ブライアン・コックス)の娘の名前です。医療ミスによる昏睡を続けています。そのクリニック(病院)の経営者マシュー(リチャード・オーエンス)が、自宅のガレージで殺害されたのです。原題は Deadly Slumber(死んだような昏睡)。
 脚本ダニエル・ボイル;16話(メアリー・ラプスレイに起こったこと)・21話(デッド・オン・タイム)・22話(ハッピー・ファミリー)・27話(サタンが巣くう日)、監督は初登板のステュアート・オーム。
 容疑は脅迫状を送っていたマイケルを始めとして、医師の息子ジョン(ジェイソン・ダー)、妻クレア(ジャネット・スズマン)、そして医師の愛人の看護婦(ペニー・ダウニー)と、広がっていきます。犯人と思われた人間が自供までしながら、実はその証言は嘘だったりして、事件は複雑さと混迷を深めます。
 モースの自宅ではモーツアルトのピアノ協奏曲第23番が、妻クレアの部屋ではベートーベンのピアノソナタ第31番が使用されていました。TV化されたモース作品でのモーツアルトの偏重は、音楽を監修したバリントン・フェーロンの考え方が影響しているそうです。
 フェローはこう語っています。「デクスターはモースが原作のワーグナー好きからモーツアルトに変わったことで嘆いたという。それに対して私は、もしモースがクラシカルミュージックの真の愛好者なら必ずモーツアルトに帰る筈であると信じた。モーツアルトは明快で独創的であり、あらゆる作曲家の頂点の存在だ。仕事に疲れた人間が聞くのはモーツアルトである。私は何回もモーツアルトのトリオやオペラを聞くように話した。音楽は人間としてのモースを何ものにも増して表現できるものである。私は暴力を憎み、死を憎み、センセイショナルになることも望まない人間である」。  
2005年5月3日

DVD
飛べ!フェニックス

1965年

142分

20世紀フォックス
 アルドリッチ監督作品。とうとうDVDになりました。テレビで90分の短縮版を見ただけでしたから、オリジナル版をきちんと見るのは初めてでした。短縮版で日本語吹替えが付いたところだけはDVDでも吹替え付きで見られます。
 撮影はジョゼフ・バイロック、音楽はフランク・デヴォルといったアルドリッチ一家。原作はエルストン・トレヴァー、脚色はアルドリッチ作品を多く手がけた、『モンテ・ウォルシュ』のルーカス・ヘラー。
 出演する男達はクレジットによれば、機長フランク・タウンズ(ジェイムズ・スチュワート)、副操縦士ルー・モラン(リチャード・アッテンボロー)、大尉ハリス(ピーター・フィンチ)、航空機デザイン技師ハインリッヒ・ドーフマン(ハーディ・クリューガー)、大尉について砂漠脱出を試みるトラッカー・コップ(アーネスト・ボーグナイン)、冗談ばかり言っているクロウ(イアン・バネン)、大尉の命令に従おうとしない軍曹ワトソン(ロナルド・フレイザー)、医師ルノー(クリスチャン・マルカン)、年を取って動くのがつらいスタンディッシュ(ダン・デュリヤ)、屈強なベラミー(ジョージ・ケネディ)、猿をペットにしていて大尉についていくカルロス(アレックス・モントーヤ)、不時着で足に重傷を負うガブリエル(ガブリエル・ティンティ)、ファリータ(バリー・チェイス)。アルドリッチの息子ウィリアムも出演しているが、不時着の際に死亡する端役ビル。2004年に、『フライト・オブ・フェニックス』(『飛べ!フェニックス』の原題)としてリメイクされた。
 石油会社の輸送機がサハラ砂漠を横断中に砂嵐に遭遇し、砂漠のまんなかに不時着。脱出計画をたてたものの、おぼつかない状況に全員が苛立ち始めたとき、若き技師ドーフマンが双発双胴の飛行機を単発に改造して飛ばすことを提案します。途中でオアシスを探索する計画や、アラブの攻撃部隊と交渉する計画をするが不調に終わり、少しずつ仲間を失っていきます。残された水も次第に少なくなっていって・・・。
2005年2月27日

VHS
主任警部モース第17話・ファット・チャンス

1991年
105分
 原題 Fat Chanceは「太る機会」といった意味。脚本アルマ・カリン、監督ロイ・バタースビー。カメラ・アイは目撃者の目線で的確な動きをしています。聖職者の牙城で殺人事件が起き、司祭に女性を認めない派閥とのトラブルが明るみに出ます。一方、減量協会の会社幹部も事件に関係しているようです。モースは女性の悩みを聞く活動団体パックスのリーダー、神学者のエマ(ゾイ・ワナメーカー)に魅かれていきます。
 冒頭、ミサが行われています。参加者はクラッカーとワインを口にします。その後、学位の追試験を受験するヴィクトリア(サラ・カーペンター)は試験の途中で急に昏倒し、死んでしまいます。同時にヴィクトリアの仲間ヒラリー(マギー・オニール)の部屋が荒らされ、二人の資料が持ち去られます。部屋から書類を盗んだのは学寮の用務員に化けた減量会社シンク・シン社の社長でした。彼は資料を焼却炉で燃やしてしまいます。
 ヴィクトリアは毒殺されたのではないか。女性の聖職者の誕生を心よく思わない現司祭(モーリス・デナム)やボイド師(デヴィッド・ガント)や後継者に立候補しているケリー(ジュリアン・ガートサイド)によって。そんな疑いが強まります。
 一方、ヴィクトリアが悩みを聞いていたダイナ(キャロライン・ライダー)は過食症になり、パックスの寮を出てしまいます。司祭の後任に立候補しているヒラリーの自転車のブレーキが切断され、偶然借りたヴィクトリアが事故にあって怪我をしたこと、学位の本試験が受験できなくなり、追試験の準備で監視がされていたこと、したがって彼女に毒をもることが不可能だったことなどが分ってきます。しかし、事故の後遺症の痛みを抑えるために彼女は鎮痛剤を飲んでいました。その鎮痛剤になにか不審な薬物があったのではないか。処方したハンク教授(ウィリアム・ロバーツ)は何も出なかったというものの、教授はやせ薬の会社の顧問をしている怪しい人物です。
 事件後、行方をくらましたボイド師、家出したダイナなど手がかりを持つ人物を欠くままで、推理を進めざるを得なくなります。ボイド師の秘密の部屋でヴィクトリアとの情事が行われていた証拠や、新陳代謝を上げるやせ薬の試験薬が研究所から盗難にあっていたこと、減量会社の減量女王のリバウンドを徹底的に隠す工作が行われていたことが次第に判明してきます。
 教会の女性敵視と戦う女性たちに理解を示すモース警部。
2005年2月25日

VHS
主任警部モース第16話・メアリー・ラプスレイに起こったこと

1991年

105分
 原題 Second Time Around。二度目の正直といった意味でしょうか。ちなみに第15話は『魔笛』で、既に見ています。
 脚本ダニエル・ボイル、監督エイドリアン・シェアゴールド。割合に近接ショットが多く、心理的な家族劇の局面を描き出しています。
 大きな屋敷から家政婦が出て来る。留守になった屋敷に男が訪ねてくる。男は逡巡しているが結局、家に入らず立ち去って行く。
 警視副総監ヒリアン(モーリス・ブッシュ)の退任パーティが開かれている。モースはかつての同僚だったドーソン警部(ケネス・コリー)と話している。彼はタカ派的見解の持ち主。
 酔ったヒリアンを自宅(あの大きな屋敷だ)に送り、ソファーに寝かし、ドーソン夫妻は帰宅する。何者かが侵入してきてヒリアンの回想録の原稿を探す。気づいたヒリアンと争いになり、投げられたヒリアンは床で頭を打って死亡する。侵入者は原稿の一部を奪い取って去る。
 奪われた原稿は18年前のメアリー・ラプスレイという少女の殺人事件に関係する部分だった。車を目撃された男が容疑者として捕まる。少女殺人事件のときの容疑者でもあったレッドバス(オリヴァー・フォード・ディヴィス)だった。回想録が出版されると未解決の事件の犯人として再び自分が嫌がらせを受けるのではないかという怖れからの犯行という見かたが支配的ななか、ドーソン警部は彼は犯人ではないという確信を持っているようだった。彼の妻(アン・ベル)は夫の直情径行を心配している。
 捜査の指揮官はモースだが、ドーソン警部の助言も参考にしながら、調査していくうちに、モースは少女の隣人ミッチェル家(母パット・ヘィウッド、息子クリストファー・エクルストン)と、少女の正体不明の父親に注目する。
 もつれた糸をほどくと、子供に対する親の愛情があぶり出されてくるのだった。 
2005年1月12日

TBS
20:00〜22:45
A.I.  少年ディビッド(ハーレイ・ジョエル・オスメント)は、やはりロボットだったのだ。身体が成長しないだけではなく、インプットされた母モニカ(フランシス・オコーナー)に対する一途な愛情も変化しなかったのだから。
 善性の「子ども」観によって彩られているものの、よく考えてみると、息子の死を受け入れることができずに、息子そっくりの精巧なロボットを作ってしまったホビー教授は、マッド・サイエンティストの系譜につながる人物ですし、その奇怪さは『アルタード・ステーツ』などで主役を演じたウィリアム・ハートが教授役であることからも、少年の目から見た博士の少年ロボット製造工場の情景からも感じられます。
 不治の病で死んだ実の息子が最新の医学技術で蘇ってくるという設定も奇怪です。そして、『ピノキオ』伝説の「青の妖精」を追い求める少年の一途さも奇妙だし、その幼児性も奇怪に思われます。ディビッドに意地悪をする生き返った人間の少年たちの方が自然に見えてしまいます。
 原作ブライアン・オールディス、脚本・監督スティーヴン・スピルバーグ。キューブリックが書いた90ページの企画書をもとにスピルバーグが脚本を書いたそうです。
 来日した監督は次のように答えていました。
 “.『A.I』の舞台になっている社会では、目的に応じてあらゆる年齢に設定されたロボットが造られている。ロボットは歳をとらないからね。53歳の男性は知識が豊かな学校の先生や医者、コンサルタント。30歳の女性は家事やベビーシッター、または男性の魅力的なパートナーとして。そして11歳の男の子は子供を持てない親のニーズを満たすものとして存在している。将来こういったことが現実になり彼らは人間達に奉仕することになると思うが、それに対して人間側もロボットに愛情を返す義務、責任があるのでは…。そうした問いかけがこの作品にはこめられてもいるのです。”
 ロボットの侵略に対する恐怖感から、ロボット狩りをショーにしている人間の近未来社会は醜悪ですが、それと同様の醜悪な美が盛り場や都会にはあり、ジゴロ・ジョー(ジュード・ロウ怪演)が君臨する場があります。
 少年ディビッドを演じるオスメントは既にテイモア監督の『タイタス』やエイドリアン・ノーブル監督の『真夏の夜の夢』冒頭に出演している子役。『ペイフォワード』『シックス・センス』にも出演しているようです。 
2004年12月27日

ビデオ
104分
主任警部モース第14話・死を呼ぶドライヴ

1989年
 原題は「Driven to Distraction」。脚本アンソニー・ミンゲラ、監督サンディー・ジョンソン。
 若い独身女性が殺される連続殺人事件が起こり、被害者二人の共通項を探索したモースは、自家用車のディ−ラーであるボイントン(パトリック・マラハイド)が犯人だと断定します。モースの乗るジャガーを女性にたとえてセールスをした彼が、モースの勘にさわったのは理解できます。しかし、証拠はありません。彼の周辺を探っていくと確かに怪しい点はあります。被害者ソーン(ジュリア・レーン)との接点もあるし、被害者の友人の女性アンジー(テッサ・ウォーツザック)に、被害者との関係に関して脅迫まがいの口留めはしていますし、女好きでもある。モースは自動車会社の隣の自動車教習所の老齢の名指導官ウィテカー(デヴィッド・ライアル)の指導を受けながら、心理戦を試みます。
 捜査に参入した犯罪心理学の女性捜査官メイトランド(メアリー・ジョー・ランドル)は、初めはモースの強引な捜査に違和感を覚えるものの、次第に被害者に対するシンパシーと犯罪に対するモースの怒りの姿勢に共感して、強引な捜査にも協力するようになります。そして二人はボイントンのコンピュータ資料から、とうとう過去の類似事件を発見します。ところが、その事件の犯人は既に収監されているはずなのに、からくも助かった女性ラウ(キャロリン・チョ−)には脅迫電話が来ていました。真の犯人は街を徘徊しています。犯人の記憶がないという女性と被害者との共通項はいったい誰でしょうか。
 そんななかで第三の犠牲者ポーラ(シェリル・メイカー)が出ます。ボイントンは被害者の恋人の怒りの暴力でケガをして入院中でした。犯人ではありえません。では一体誰が?女たちが安心して自宅に招き入れる人物とはいったい誰でしょうか。 
2004年12月26日

ビデオ
104分
主任警部モース第13話・ラドフォード家の遺産

1989年
 原題は「父親たちの罪 The Sins of the Fathers」。脚本ジェレミー・バーナム、監督ピーター・ハモンド。パセティックな感覚の映画となっています。
 ビール会社の社長トレヴァー(アンディ・ブラッドフォード)が遅くまで仕事をしています。階段の途中で槌で殴られ、翌朝醸造樽の中で死体で発見されました。経営に行き詰まっていたラドフォード社は合併推進派の弟スティーヴン(ポール・シェリー)が指揮を取ることになります。スティーヴンはもと秘書の妻シーマ(リサ・ハロウ)がありながら、トレヴァーの妻ヘレン(キム・トムソン)と親密になっていました。ところがやがて会社で何者かに襲われて、スティーヴンも殺されます。
 息子ふたりを亡くしたチャールズ(ライオネル・ジェフリーズ)とその妻イザベル(イザベル・ディーン)は重役会議を召集します。一方、トレヴァーの秘書ゲイル(カミラ・エインズリー)と交際している薬剤師ブリース(アレックス・ジェニングス)は、その母親(ベティ・マースデン)とともに何か秘密があるようです。
 スティーヴンと妻シーマの間には二人の子供がいますが、ラドフォード家の直系というと、残ったのはこの孫たちだけ。シーマは歌劇『椿姫』の音楽とともに登場する場面もあり、ヴィオレッタになぞらえられます。会社創業の頃の秘密を知っている弁護士ネルソンも殺害されて、事件は混沌としてきます。
 モースは最後に電話の「話し言葉」の口調に注目します。
2004年12月19日

ビデオ
119分
ハッスル

USA
1975年
 ロバート・アルドリッチ製作・監督作品。主演はバート・レイノルズとカトリーヌ・ドヌーヴ。ヤンキー代表の男とフランス美人代表の女という、水と油のような珍奇な組み合わせです。2000年2月14日早朝に放映されましたが、録画ミスで冒頭4分間が取れませんでした。それからずっと探索していましたが、中古ビデオ屋さんにようやく出品されました。脚本はスティーヴ・シャガンです。
 冒頭の4分間はピクニックに出かけた小学生たちが海辺で若い女性の死体を発見するという場面でした。その直後には、主役二人(警部補フィルと高級娼婦ニコル)の日曜日の朝の寝室での会話となります。この開巻は、珍奇なカップルの陳腐な会話で、かなりダルい展開となっています。出張で行ったことのあるローマに憧れをいだいているフィル。
 海岸で発見された娘グロリアは父親マーティ(ベン・ジョンソン)の生きがいでした。朝鮮戦争から復員した後、人が変わってしまった夫に対して妻(アイリーン・ブレナン)は距離を置いていました。娘グロリア(シャロン・ケリー)は満たされないなにかを求めて、麻薬やセックス産業にのめりこんでいったことが次第に分ってきます。
 暴行されておらず睡眠薬の飲みすぎで死亡した女は、多くの精液にまみれていましたが、自殺として処理されます。しかし、父親は納得しません。ルイス刑事(ポール・ウィンフィールド)は娘の死に弁護士レオ(エディ・アルバート)が関係していると考えています。フィル警部補(レイノルズ)もマーティが復讐心から行動することを予想して、自分たちの捜査に任せるように進言します。しかし、娘を取り巻く状況を知ったマーティはグロリアの女友達からレオの姓名を聞き出し、復讐に出かけるのでした。
 警察の部長(アーネスト・ボーグナイン)もレオ弁護士も、フィルに同じことを聞きます。「娘の父親は有名人(anything)か?」と。「いや、まったくの無名(nothing)です」と答えると、それなら自殺と処理して問題はないと判断されます。警官を主人公にしていますが、権力者だけが守られ、弱い者には正義は無いのが今のアメリカだという主張が明確です。
 きらびやかな照明も無ければ、派手なカメラ・ワークもない、ただ登場人物に的確に照明を当てて、人間を写し取っていくだけの無骨な映画作りで、カタルシスのない映画です。警官の会話に『カサブランカ』が出て来ますし、TVで『白鯨』を見る場面もありますが、そういった映画のヒーローは現実には無いんだというペシミスティックな展開になっています。
2004年12月11日

フジテレビ

20:00〜23:20
ロード・オブ・ザ・リング
二つの塔

USA
2002年
 指輪物語第2部。二つの塔のひとつはローハン族など人間たちの城で、もうひとつは悪の魔術師サルマンの城でしょう。原作はずっと前に読んでいましたが、すっかり忘れてしまっていました。
 第2部ではゴラムがフロドに協力したり、非協力的になったりと、その二重人格性を遺憾なく発揮して重要な位置を占めます。フロドの付き人サムの働きが重視されるほか、人間の剣士アラゴルンの重要性も増してきます。
 人間300人で1万人の悪兵達と戦うという設定が劇を盛り上げるほか、樹の精霊たちが緑の森が荒野になってしまっているのを見て、怒り、決起してサルマンの城を洪水で攻めるという展開も意外でした。
 俯瞰で撮影された広大な風景(ロケ地はニュージーランドだそうです)が印象的です。ワンショットに大きな人力と資金が注がれており、贅沢な映画だと思いました。
2004年12月8日

DVD
スパイダーマン2

アメリカ
2003年

127分
 1作め同様サム・ライミ監督。脚本は『普通の人々』『ジュリア』のアルヴィン・サージェント。スパイダーマンの特徴はヒーローが恋か仕事か、くよくよと悩むところにあります。アルバイト先では「遅刻」ばかりで冴えないピーター(トビー・マクガイア)ですが、市民の危機には変身して大活躍。しかし、恋人の正体を敵に知られてしまっては危害が及ぶという理由で、恋人に告白ができないでいます。そんなピーターをじれったく思うメリー・ジェーン(キルスティン・ダンスト)でしたが、行き違いから、とうとう別の男性(ダニエル・ギリース)と婚約してしまう羽目に・・・・。失恋から気落ちしたピーターには超能力が発揮できなくなってしまいます。

 一方、オットー・オクタヴィアス博士(アルフレッド・モリーナ)は自分の身体を使って行った核融合の実験のミスによる事故で、妻(ドナ・マーフィ)を亡くし、巨大な金属のアームを身体に付けたままになってしまいます。再び実験をやり直すため、施設を再建し、エネルギーの原料であるトリウムを得るために、富豪ハリー(ジェームズ・ブランコ)の「(父の仇である)スパイダーマンを連れて来い」という命令に従います。
 ピーターはスパイダーマンとしての活動を辞める決心をしますが、屋敷を立ち退くことになった叔母(ローズマリー・ハリス)が、「スパイダーマンは子供たちの憧れのヒーローで、社会を守る、夢を実現する希望だ」と言うのを聞いて、自分の役割を認識し直すのでした。
 アクション・シーンのスピード感が増し、特殊撮影が物語によく合致しています。
 ただ、私にはヒーローの素朴さにいまひとつ違和感があります。大学生が、ヒーロー業を捨てると学問に打ち込めるようになったり、ヒーローに対する子供の眼差しを知って自分の役割を再認識したりするのは、素朴すぎるのではないかと思えるのですが・・・・。
 悪と戦う正義の味方という素朴な設定にも、イラクでテロリストと戦うアメリカ軍兵士のイメージが重なって、手放しで賞賛できません。
 私には、アメリカン・ニューシネマの、状況に押しつぶされてしまうカッコ悪いヒーローたちが懐かしい。

2004年11月〜9月に見た 日 本 映 画 (邦画)
見た日と媒体 作  品        感  想     (池田博明)
2005年9月27日(火)

BS2
0:35〜2:35
流れる

東宝
1956年
白黒

117分
 原作は幸田文。成瀬巳喜男監督。田中澄江・井手俊郎脚色。
 落ち目の芸者置き屋を経営するつた奴に山田五十鈴。その娘勝代に高峰秀子、つた奴に金を貸している姉に賀原夏子、中年の芸妓・染香に杉村春子、若い芸妓なな子に岡田茉莉子、置き屋を買い取る水野の女将に18年ぶりの映画出演だったという栗島すみ子、住み込みの女中に田中絹代。若い医師に仲谷昇、子連れの中年芸者米子に中北千枝子、その別れた夫に加東大介、苛められたと勝手に辞めた芸者なみ江の叔父で強請る男に宮口精二。
 向こう気の強い高峰秀子が主演かと思ったら、置き屋に偶然女中奉公を志願してきて、この置き屋の人間模様を目撃することになる田中絹代が主演でした。
 田中絹代は「山中梨花」という名前だそうですが、「りか」なんて呼びにくいということで、女主人に「お春さんと呼ぶわね」と言われてしまいます。置き屋の芸妓衆や隣の人やら、いろんな人から重宝がられて言いつけられることをすべて過不足なくこなす「お春さん」は決して感情を表に出すことはありません。
 しかし、奉公先の信頼を裏切るような計画からは身を引きますし、いったんは再興されたかに見える置き屋の先行きに水野の女将の整理計画が待っていることを知ると、自分の小遣いで饅頭をみんなに奢ったり、自分の勝手で家を飛び出してきたけれどもうそろそろ帰らなければなりませんと辞める事情を口にしてそっと身を引く算段をしたりします。
 女性文芸映画を撮り続けた成瀬巳喜男の代表作のひとつ。それにしても昨今のスムーズに流れる展開のサービス精神旺盛な映画を見慣れた目からすると、場面の積み重ねによる、ゆっくりした展開で無骨な感じのする映画作りです。
 当時もっとも若々しい岡田茉莉子が屈託の無い芸妓を演じて、いきいきしていますが、他の女優さんはひとくせもふたくせもある難しい役を演じています。 
2005年9月24日(土)

日本テレビ
21:00〜23:00
金田一少年の事件簿

吸血鬼伝説殺人事件

 脚色は福間正治、演出は池田健司のテレビドラマ。装置や道具、照明などで、謎めいた廃墟ホテルの雰囲気作りがきちんとされていて、原作の劇画をしっかりと映像化しています。金田一少年役は第三代目の亀梨和也。美雪は上野樹里、剣持警部は加藤雅也。
 真面目に取り組むことを照れていて、会話も生き方も、なにかと軽んじてしまう金田一はじめのキャラクターが、うまく表現されていました。
 吸血鬼伝説殺人事件は第一代目の堂本剛・ともさかりえ・古尾谷雅人でも映像化されていたように思いますが、今回は丁寧な作りと、雰囲気のある役者をそろえていて、好感が持てました。
 ペンションのある区域から外へ出られないし、電話で外とも連絡が取れないという状況になってしまうのは、救急車がすぐに駆けつけて、病院に搬送してくるような場所なのに、いまどきあり得ない設定のように思えますけれど。
2005年8月27日(土)

ビデオ
ロケーション

松竹
1976年
カラー
 森崎東監督の傑作。原作は津田一郎のピンク映画撮影の苦労話だが、ほとんどオリジナルの脚本は近藤昭ニと森崎東による。
 あらためて見て、この作品自体がよく公開できたものだなあと感じます。田舎娘の半生につき合ってしまったとはいえ、わけがわからないという理由で公開を拒否された作品の撮影物語なのですから、わけのわからない作品になっているのです。大楠道代がひとり二役を務めているのも作品の理解を難しくしています。私自身の評価は既に書きました
2005年8月27日(土)

BS2
21:00〜22:55
男はつらいよ・寅次郎恋歌

松竹
1971年
カラー
 「男はつらいよ」第8作。脚本は山田洋次・朝間義隆。
 寅の「漂白者=独り身=の生活」と柴又の「定着者=家族=の生活」が対比されて描かれます。落語で言う間のとりかたが絶妙な作品。倍賞千恵子の受けの芝居が見事だし、本作が遺作となった森川信のおいちゃん役の、渥美清、寅さんとのカケ合いの間が見事。
 マドンナ役は池内淳子(東宝)ですが、映画が半分過ぎてから登場するし、寅さんは失恋する前に身を引いてしまう設定なので、ふたりが深く関わる前に作品が終わってしまいます。
 ドサ回りの一座との出会いから始まり、その一座との再会で終わる本作は、博の母親の葬儀をきっかけにあぶり出されてくる、父親(志村喬)の「家族の温かさ」への憧れと、一座の看板娘・小百合(岡本茉莉)が醸し出し、池内淳子も語る「漂泊の自由」への憧れが描かれます。漂泊者の生活は不安定なだけに分が悪いですが、寅が受け売りで語る、旅先で見るリンドウの咲く農家の夕餉の暖かさ、定住生活への憧れを、池内が旅の自由さへの憧れを語ったものと取って同意する「ズラし」の芝居は見ごたえのある場面になっています。寅は家族生活への憧れを理解してもらえなかったことで、静かに身を引くのでした。
2005年8月11日

DVD
吹けば飛ぶよな男だが

松竹
1968年
カラー
 「山田洋次・全映画」という企画が始まって、とうとう山田洋次・森崎東脚本の傑作もDVD化されました。ビデオはあったのですが、ビスタサイズに切った作品でした。DVDはシネスコサイズなので貴重です。山田作品では怪作『喜劇・一発大必勝』もDVD化のラインナップに入っています。信じられませんが、楽しみです。この勢いで森崎作品や前田陽一作品も再評価されるといいのですが。
 『吹けば飛ぶよな男だが』は、奇妙な作品です。主演者の顔ぶれからしても、とてもお客さんが入るとは思えません。当時、なべおさみはハナ肇の付け人でしたから、ハナ肇の『馬鹿』シリーズを撮っていた山田監督はよく知っていました。ヤクザに憧れる少年の悲劇を描きたいと、原題は「チンピラ・ブルース」だったそうですが、カタカナ題名にはプロデューサーのOKが出なかったといいます。
 冒頭、小沢昭一が弁士として登場し、物語を要所要所で解説していきますが、この弁士の口上は森崎さんが書いたもので、「森崎君には漢詩の教養があるから、うまい」と《自作を語る》で、山田監督はふり返っていました。興行成績はパッとしなかったのですが、作品評価は高く、なかでも「週刊アサヒ芸能」で映画コラム「おれは野次馬」を書いていた結城昌冶は2回にわたって評価し、これほど素晴らしい映画が当らないことが問題だと指摘、山田洋次は大きく力づけられたといいます。キネマ旬報のベストテンで第10位に入りました。
 映画は神戸駅前で少女を物色中のチンピラたち(なべ、佐藤蛾次郎、芦屋小雁など)で始まる。駅前で、天草出身の花子(緑魔子)を誘い、翌日野外ロケでのブルーフィルム撮影隊に売ります。強姦場面を拒否する花子を見て、三郎(さぶ)は兄貴分(小雁)を殴り、花子と逃げます。天草は森崎さんの故郷ですし、『男はつらいよ望郷篇』の榊原ルミの役名もたしか花子。
 花子をポン引きのおとりに使ったり、トルコ風呂に売ったりしますが、花子の純情に次第に惚れていく三郎。気のいい中年の高校教師(有島一郎)がなにかと花子の面倒を見てくれます。
 殴った兄貴分にとうとう見つかり、「指をつめてわびを入れればいいんじゃい」と指をつめようとして大騒ぎ。つめた小指を食ってしまう三郎。この辺り山田監督は自作を評して「若いね」とひと言。表現が直接的で生々しいところが気になるのでしょう。バラックの隣室に住む本物のヤクザ(犬塚弘)に諭されて、片はついたものの、虚勢を張る性格は変わらない。意気込んでヤクザにからみ、組内の若衆を刺してしまう。三郎が拘置所に入っている間に、妊娠5ケ月だった花子は流産して死んでしまいます。山田監督によれば、車の中で死んでしまうヒロインは、『ヘッドライト』のフランソワーズ・アルヌールが下敷きだそうです。花子の故郷に骨を届けた後に三郎は、神戸港から外国行きの漁船に乗りこみ、日本を離れるのでした。 
 トルコ風呂の経営者役のミヤコ蝶々が生んだ子供が三郎ではないかという思いも残りますが、山田洋次監督は映画の中で言っているように、蝶々さんの息子は死んだというのが正しいと解釈していました。最後の場面の蝶々さんの涙は「そんな風に誤解してあいつは生きとったんか。不憫なやっちゃな」という涙だといいます。DVDの特典「自作を語る」は、山田組の助監督だった鈴木敏夫氏がインタビュアーですが、遠慮がちで当り障りのない問いに終始していて、つまらないものでした。 
 森崎脚本としては物語が単線的で、山田洋次監督の描写は割合淡々としています。森崎脚本・山田監督の作品では、滅茶苦茶の度合いからすると、『喜劇・一発大必勝』や森崎脚本・渡辺祐介監督 『いい湯だな全員集合』の方が上ですね。
2005年5月28日 河内カルメン

日活
1966年
白黒
DVD
 とうとうDVDで出ました。鈴木清順監督『河内カルメン』。清順・野川由美子コンビの作品では、これだけが未見だったのです。同時発売(5月21日)は『肉体の門』『くたばれ悪党ども』『すべてが狂ってる』でした。この勢いで『春婦傳』『悪太郎』『悪い星の下でも』といった傑作群も出して欲しいものです。チャンネルNECOでは6月から日活時代の40作品を放映するとか。これは、すごい企画ですね。
 『河内カルメン』は、女優・野川由美子を生かすための映画です。既に清順監督とは『肉体の門』『春婦傳』『悪い星の下でも』があり、強い男には強く、弱い男には弱い『河内カルメン』の露子(野川)のような女性像は、イメージ通りでした。女学生からキャバレーのホステス、モデルといろいろな経験をして次第に変化していく彼女の様子がみものです。「世の中の男はみんな死んでしもたらええんよ!」というのが、露子の遍歴の結論なのですが、最後の場面では東京の駅前で花をくわえて、男を誘惑する積極的な露子が描かれます。男に惚れられ、男に惚れてしまう気風(きっぷ)の良さが気持ちよく見られます。
 さらに、露子に惚れる男たちの多様さが興味深いものです。露子に入れあげて信用金庫の金を横領し解雇されたという勘造(佐野浅夫)、初恋のひとで工場のボン(和田浩治)、ファッションモデルの先生・洋子(楠侑子)、前衛芸術家の誠二(川地民夫)、金貸しで富豪の齋藤(嵯峨善兵)、露子の母(宮城千賀子)と妹(伊藤あかり)を囲う不動院の良巌坊(桑山正一)。鏡の使われ方が効果的な場面もたくさんあります。
 種村季弘がこう書いています。“流浪と遍歴が、『春婦伝』『刺青一代』以来この監督の十八番のモチーフであるらしい。諸行無常である。女体もまた諸行無常の世界の外にあることを免れていなくて、流浪の旅人がかりそめに身体を休める、懐かしいが物哀しい旅籠屋や港のごときものだ。・・・個々のエピソードもドンデン返しで花と暗黒が交替するが、おそらく鈴木清順監督は話のスジを通すことにそれほど興味はない。ワン・カット、ワン・カットが独立した面白さを主張している。底なしの泥沼にも目も綾な蓮華の花がいくつか浮いている。そんな気合いだ。・・・今村昌平なら(この世界が)いくぶんかは外側につながっているように描く。辻褄を合わせる。しかし鈴木では同好者的な閉鎖世界で、本質的に不毛である。外部から厳密に遮断された密室の中で、暗黒から花を、鉛から黄金を生み出そうとしている。そういう反時代的な、いささか見当外れの、傲岸不遜で不毛な錬金術が、おそらくこの人の凄絶な魅力の正体なのである”(「日本読書新聞」1966年2月21日号「花と暗黒世界との隠し通路。『河内カルメン』評」より)
 種村氏の「反時代的な、不毛な錬金術」という評価が、清順作品には妥当と思えます。 
 野村芳太郎監督が4月に逝去されました。追悼の意味を兼ねて野村作品を何か見ようと思いましたが・・・・家にビデオがありません。 
2005年2月20日

VHS
血と砂

東宝
1965年

131分
白黒
 岡本喜八監督が昨日2月19日に逝去されました。
 中古ビデオで入手していた『血と砂』を追悼の意味をこめて見ました。実は私は喜八監督のこれぞという傑作を見ていません。私は『大誘拐』『ジャズ大名』などを、それほど高く評価していません。『独立愚連隊』シリーズや『殺人狂時代』『ああ爆弾』などは見ていませんので、私には喜八監督を正しく評価することはできないと思います。見た作品のなかでは、『戦国野郎』がいちばん素晴らしい活劇でした。これは脚本の力も相当にありそうです。さて、『血と砂』は伊藤桂一原作の『悲しき戦記』を佐治乾・岡本喜八で脚色した作品です。昭和40年芸術祭参加作品。監督助手に山本迪夫。
 中国戦線に音楽隊の少年たち13人が送り込まれて来ます。日本軍なのにディキシー風の《聖者の行進》というのがなんとも奇妙です。北支前線のヤキバが中国軍に取られて一個分隊が全滅します。敵前逃亡で見習士官が銃殺されたそのとき、転属になった小杉曹長(三船敏郎)が本隊に到着します。銃殺命令を出した本隊の隊長・佐久間(仲代達矢)を殴って小杉は営倉入り。佐久間隊長は小杉に少年たちを連れてヤキバ奪還を命じます。「生き抜く技術を教えてやれ」と。小杉は営倉入りしていた三人、七年兵(佐藤充)、葬儀屋(伊藤雄之助)、非暴力の通信兵(天本英世)の同行を依頼します。小杉を追って朝鮮の慰安婦・小春(団令子)も来ます。《夕焼け小焼け》《花嫁人形》《青葉の笛》などの演奏が場面に応じて挿入されます(音楽は佐藤勝)。
 さて、水汲みの苦力(クーリー)に化けて突破口を切り開き、なんとかヤキバを奪還したものの、敵も黙ってはいませんでした。迫撃砲での襲撃、輸送トラックを横取りしての襲撃と繰り返し襲って来ます。そのたびに仲間は戦死して減っていきます。
 そして、援軍を依頼するも本隊は撤退、佐久間隊長は馬で駆けつけますが、最後の一人までとうとう戦死してしまいます。そのときが丁度8月15日。戦争が終わった日でした。銃殺になった見習士官は小杉の養子に出した弟で、敵前逃亡して中国軍に投降した仲間をかばって死んで行ったことが最後に分ります。
 無意味な戦争に生命を賭けることになった若者の悲劇、岡本監督がくり返し描いたテーマでした。ATGで撮った『肉弾』も、『日本のいちばん長い日』もそうでした。
 最初に捕虜にする中国ゲリラの少年がフルートに興味を持ちます。《フルート》が吹き方を教えるとトツトツと吹きはじめます。やがて砦が総攻撃を受けて《フルート》が戦死すると、《葬儀屋》は中国の少年を牢から形見のフルートと共に逃します。しかし、最後の総攻撃で《葬儀屋》が最期に撃ち殺したのはその少年でした。手に「日本軍の皆様へ 戦争は終わりました」というビラを持って駆けて来た少年を撃ってしまったのでした・・・・。
 戦争の記憶が薄れて、憲法改正や自衛隊の派兵が通常化する昨今、岡本監督の遺志を大切にしたいものです。
2004年12月29日

DVD
赤い殺意

日活
1964年

150分
 今村昌平監督の傑作です。『にっぽん昆虫記』のヒットのお蔭で本当に作りたい作品を作れることになった今村監督が満を持して作った作品で、これこそ本物の傑作です。
 長谷部慶次と今村昌平が静岡県の三島で書いたまま、棚ざらしになっていたシナリオでした。“強盗に強姦された主婦が、その男につきまとわれるうち、内に潜んでいた力を発見して、ついには自分をバカにしていた夫や姑との立場まで逆転するという物語”(今村昌平『映画は狂気の旅である』日本経済新聞社より)です。主演は元日劇ミュージック・ホールの人気ヌード・ダンサーだった春川ますみで、それまでの映画女優とは一線を画す存在感を出していました。『にっぽん昆虫記』でワキ役で使ったときから、“勘のいい女優さんだ”と今村は評していて、演技に細かい指示はしていないといいます。この作品を今村自身は“自分でも気に入っている作品である。肉体は犯されても、奥深い精神の核までは破られないという、女性の底知れない強さを描けたのではないかと思う”と評価しています。
 私はこの映画については佐藤忠男の中公新書『ヌーベルバーグ』で知りました。実際に見たのは札幌オリオン座での今村昌平特集だったと思います。強烈な印象を受けました。この映画は2時間半の長尺なのですが、ちっとも長く感じませんでした。 
2004年12月23日

録画
機動警察パトレイバー2

松竹
1993年
 押井守監督作品。一度目に見たときには理解できなかった作品です。今回もやはりいまひとつ理解できませんでした。
 観念的すぎるという印象があります。その後の『攻殻機動隊』のことを考えますと、とても気になる作品ではあるのですが、体調のいいときに見る必要がありそうです。



                     映画日記  過去の記録 一部、テレビ・ドラマを含む

                     (太字は大傑作と評価した作品)

見た年   外国映画 題名  日本映画 題名
 2001年 
映画日記
 
(太字は大傑作)
沈黙の女、インビジブル、ワンダとダイヤと優しい奴ら、ロッキー・ホラー・ショウ、甘い抱擁、エクソシスト、JUST VISITING、ザ・メキシカン、フェイス・オフ、ガタカ、ブルース・ブラザーズ2000、リトル・ヴォイス、ほんとうのジャクリーヌ・デュ・プレ、スリーピー・ホロウ、ダンサー・イン・ザ・ダーク いい湯だな全員集合、緋牡丹博徒・鉄火場列伝、一心太助・男の中の男一匹、家光と彦佐と一心太助、千と千尋の神隠し、喜劇・一発大必勝、隠し砦の三悪人、戦国野郎、名探偵ホームズ[TV]
 2002年 
映画日記
 
(太字は大傑作)
スパイダー・マン、ミュージック・オブ・ハート、キッスで殺せ、M:i-2、スパイゲーム、ハンニバル、狼男アメリカン、セブン、オー[O]、ハリー・ポッターと賢者の石、サンセット大通り、ナチュラル 忍びの者、続・忍びの者、新・忍びの者、戦争を知らない子供たち、うる星やつら・ビューティフル・ドリーマー、荒野のダッチワイフ、修善寺温泉殺人事件[TV]、焼け跡のホームランボール[TV]、頭痛肩こり樋口一葉(初演)[演劇]、トットチャンネル、野獣都市、メトロポリス、うる星やつら・みじめ愛とさすらいの母[TV]、必殺仕置人[TV]
2003年1-3月 映画日記
(太字は大傑作)
ハリーとトント、エトワール、リスボン特急、探偵スルース、アマデウス・ディレクターズカット博士の異常な愛情、グッド・モーニング・ベトナム、暗闇でドッキリ、オーロラの彼方へ、ビンゴ、ナインスゲート、王は踊る、主任警部モース[TV] リカ[TV]、剣鬼、犬夜叉・時代を越えた想い、緋色の記憶[TV]、県警対組織暴力、大誘拐、座頭市物語、不知火検校
2003年4-12月 映画日記
(太字は大傑作)
フランス軍中尉の女、未来世紀ブラジル、ハードエイト、シカゴ、密告の代償、クワイヤ・ボーイズ、恋の手ほどき、クッキー・フォーチュン、カジノ・ロワイヤル、わが青春のフロレンス、テルマ&ルイーズ、耳に残るは君の歌声、主任警部モース・ニコラス・クインの静かな世界[TV]、鏡の国のアリス、サスペリア2、主任警部モース・魔笛[TV]、デストラップ・死の罠、野ばら、鏡の国のアリス[TV]、最高のルームメイト、シャーロック・ホームズの素敵な挑戦、ハリー・ポッターと秘密の部屋、ザ・ターゲット、スミス都へ行く、ミッション・インポッシブル 依頼人の娘[TV]、日本の黒い夏[冤罪]、R・R・G[TV]、涙と笑いのハッピークラス[TV]、顔、続・座頭市物語、ボクが病気になった理由、おしん少女篇・総集篇[TV]
2003年12月-2004年3月 映画日記
(太字は大傑作)
永遠のマリア・カラス、恋におちたシェイクスピア、ロード・オブ・ザ・リング/旅の仲間、狩人の夜、CATS、霧につつまれたハリネズミまぼろしの市街戦、御冗談でショ、続激突!カージャック、マイ・ライフ・アズ・ア・ドッグ、けだもの組合、リア王、主任警部モース・死者たちの礼拝[TV] よみがえれ教室[TV]、冬の日(連句アニメ)、座頭市凶状旅、乱歩R[TV]、新・座頭市物語、天保12年のシェイクスピア[演劇]、紙屋町さくらホテル[演劇]
2004年4月-5月 映画日記
〔太字は超傑作) 
モンテ・ウォルシュ、マイノリティ・リポート、初恋のきた道、主任警部モース・日の沈む時、シャリアピンのドン・キホーテ、ターミネーター3 妻の失ったもの[TV]、野良猫ロック セックスハンター女生きてます盛り場渡り鳥顔役、俺の愛した謎の女[TV]、天中殺の女たち・天女の遺産[TV]、『座頭市』と呼ばれた男、座頭市千両首、攻殻機動隊、手塚治虫の夏休み[TV]、太鼓たたいて笛吹いて[演劇]、股旅三人やくざ、砦なき者[TV]
2004年6月-11月映画日記

主任警部モース・キドリントンから消えた娘、成功の甘き香り、バットマン・リタンズ、ピクニック、大砂塵、オペラは踊る、主任警部モース・ハンベリー・ハウスの殺人、愛の破片、ミスティック・リバー、主任警部モース・最後の敵、ショコラ、ピンクパンサー(アニメーション)、主任警部モース・カーパークB5号の謎、刑事、靴みがき 帝銀事件死刑囚[TV]、悲しき口笛、東京キッド、御法度、新選組、イノセンス

シェイクスピア作品の映画化やその関連の映画は除く。
それらは別ファイルになっている。→ 『シェイクスピアの劇と映画


  BACK TO 私の名画座