映画 日記   (2001年3月28日から現在まで)       池田 博明 



2003年3月以降に見た 外 国 映 画 (洋画)
日時    作品           感想など    (池田博明)
2003年12月14日

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フランス軍中尉の女

英国作品
1981年

124分

 吉川惣司・矢島道子『メアリー・アニングの冒険』(2003年、朝日選書)に、この映画のことが紹介されています。小田原では今は無くなった中央劇場で公開されていたことを覚えていますが、多忙のため見に行きませんでした。
 原作は英国ライム在住の作家ジョン・ファウルズの代表作。ライムでは著名な化石収集家メアリー・アニングをモデルにした作品です。と言っても伝記小説ではありません。作家が自由にイメージを膨らませたものであり、アニングの伝記を期待して見てはいけません。
 映画は現代の役者が19世紀の『フランス軍中尉の女』を撮影するという入れ子構造になっています(脚色はハロルド・ピンター)。主演を演ずる男(ジェレミー・アイアンズ)と女(メリル・ストリープ)がそれぞれ妻と夫をもちながら、映画の登場人物同様に関係をもちます。お互いに愛し愛されるようになりますが、映画の撮影が終了すると別れがやってきます。パーティの席上、二人は再び接近しますが、男の想いをよそに女は身を引きます。
 このような関係は映画の中の男チャールズと女サラの関係と相似形になります。
 化石を探してライムに滞在していた紳士チャ−ルズは地元の淑女メアリー(リンジー・バクスター)に求婚しますが、フランス軍中尉の女と噂される謎の過去をもつ女サラに一目惚れし、次第に惹かれていきます。現代の恋愛と並べることによって作者たちは19世紀の恋が過去の物語ではなく、現代と通ずるものであることを表現しようと試みたものと思われます。ダーウィンの進化論に批判的な村の名士たちも描かれていますし(人間がサルと共通だとしたら、サル同様の人間として昨今の道徳の低下を嘆く人物として描出される)、ダーウィンの『人間と動物の表情』に使われた写真も精神分析の研究として使用されています。
 19世紀のライムを再現するために舗装道路を隠してロケを敢行。荒々しい海と埠頭が印象的な映像を作りだしています。監督はトニー・リチャードソンと双璧の“怒れる若者”世代のカレル・ライス。アラン・シリトー原作の映画『土曜の夜と日曜の朝』がありました。また、バネッサ・レッドグレイブが主演した映画『裸足のイサドラ』(1969年)が迫力ある、素晴らしい映画でした。 
2003年12月6日

DVD
未来世紀ブラジル

英国作品
1985年
(1986年日本公開)

143分
 原題は『Brazil』(ブラジル)。私は映画館で一度見ただけでした。すっかり感心して「傑作!」と言ってきました。こんどDVD化されたので、見直してみると内容をきちんと理解していなかったことが分かりました。

 天井のハエを叩きつぶしたことがきっかけで間違いの連鎖反応が起こります。落ちたハエがタイプライターにつまり、Tを打つところをBにしてしまいます。TUTTLEのはずがBUTTLEになってしまった・・・・街は爆弾テロに襲われる近未来社会。ある家の天井が円形に切り取られ、乗り込んできたMPが父親を連れ去ります。バトル氏は違法活動の疑いで逮捕されてしまったのでした。
 一方、主人公は情報記録局のサム(ジョナサン・プライス)。夢に出てくる囚われの女を救う自分を思い描く小男です。美容整形中の母親(キャサリン・ヘルモンド)のコネで、情報剥奪局へ昇進しますが、一たんは断ります。
 しかし、夢の女が現実に存在することを知り、その情報に近づこうと昇進を受け入れます。トラック運転手ジル(キム・グライスト)と出会い、ジルがバトル氏誤認逮捕の目撃者という理由で消される運命にあることを伝え、なんとか味方をしようと努力します。しかし、なかなかうまくいきません。マンションの暖房装置は故障する、違法な暖房器具修理屋タトル(ロバート・デ・ニーロ)は来る、乗っていた車は爆破される、騒然とした街なかを、サムは一途に女のために行動します。情報剥奪局は単に個人の情報を剥奪するだけでなく、個人自体を洗脳するか抹殺する機能を持つ局でした。
 夢のなかで出現する巨人は日本の鎧武者になっていました。夢のなかの民衆もオカメのような仮面を付けていました。日本風のテイストがあります。官僚階級社会を鋭く風刺しており、オーウェルの『1984年』につながっています。
 映写時間の長さと、ラストの救いの無さにユニバーサル首脳部が公開を拒否したことで有名な作品。特別な大掛かりなセットを使わずに、小道具や中道具と、照明で近未来をイメージさせるのに成功しています。サムの部屋には大きなグレタ・ガルボの写真が貼られ、情報局の職員は局長の目を盗んではTVでマルクス兄弟の映画やB級西部劇を見ています。『戦艦ポチョムキン』のオデッサの階段を模した場面もありました。
 フレンチ兄弟の『カルト映画』に選ばれています。 
2003年11月29日

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ハードエイト

USA作品
1996年

101分
 地味な中年男が主役のサスペンス映画という惹句で気をひかれました。ひょっとすると知られざる傑作かもしれません。あるいはとんでもない駄作かも?日本では劇場未公開の作品です。
 監督・脚本はポール・トーマス・アンダーソン。変わった映画でした。
 喫茶店の店先で座り込んでいるジョン(ジョン・C・ライリー)に近づいてきた初老の男シドニー(フィリップ・ベイカー・ホール)は、ジョンにひと儲けしないかと持ちかけます。半信半疑で話にのったジョンに男はヴェガスで本当に儲けさせてくれ、しかも何も代償を求めないのでした。
 「ハードエイト」とはサイコロ賭博で、ゾロ目の4のことです。滅多にない幸運や、一発勝負を意味するようです。
 2年後、賭博師シドニーとその弟子ジョンの間にウェイトレスのクレメンタイン(グウィネス・パルトロウ)が関わってきます。ジョンとクレメンタインは恋愛関係となります。ある日、ジョンからシドニーへ電話がかかってきます。モーテルの一室へ行くとベッドでは男が気を失って倒れていました。クレムを買った男が金を払わないので人質に取ったというのです。二人はその日に結婚式を挙げたというのに。
 シドニーは遠くへ二人を逃がします。しかし、その事件をきっかけにカジノの警備係ジミー(サミュエル・L・ジャクソン)はシドニーの過去を暴きます。元マフィアで実はジョンの父親を殺していたのだと。口止め料としてシドニーの全財産を受け取ったジミーでしたが、ほどなくシドニーの復讐が静かに始まります。
 ライリーは『シカゴ』のロキシーの夫役も演じている才人、パルトロウは気丈な娼婦役で、ジャクソンはチンピラ役でした。
2003年11月4日

DVD
シカゴ

USA作品
2002年

113分
 第75回アカデミー賞(2002年度)6部門受賞作品。監督・振付はロブ・マーシャルですが、原案と舞台版の台本・演出・振付は故ボブ・フォッシー。
 フォッシーの作品『スイート・チャリティ』『キャバレー』『オール・ザット・ジャズ』『フォッシー』等など、そのダイナミックな踊りに魅了された経験がある者としては、必見の作品でした。最初はこまかいカット割りやアクション・カットをうるさく感じてしまいましたが、そのうち気にならなくなってしまいました。キャサリン・ゼタ=ジョーンズ(ヴェルマ役)のパワフルな踊りは本物でしたし、レニー・ゼルウィガー(ロキシー役)も頑張っているからです。殺人犯や大陪審もエンターテインメントにしてしまうアメリカ映画のパワーに驚きました。時代設定はギャング・エイジにしてありますが、この映画に描かれたマスコミの体質や原像は実際には現代のものです。その辺りがこの映画全体を支える批評精神ということになるでしょう。
 角川文庫版『シカゴ』にはこの映画のもとになった戯曲『シカゴ』のことも書かれていました。1920年代だけではなく、シンプソン事件により現代の裁判のショー化や陪審制度が問題になったため、『シカゴ』の現代的意義が見直されたといいます。
2003年11月1日

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密告の代償

カナダ作品
2001年

98分
 原題は『PROTECTION(保護)』。名作『組織 OUTFIT』でスタイリッシュな殺し屋映画を演出したジョン・フリン監督の作品です。今回も地味な映画ですが、侠気を重んじるスタイリシュぶりは健在でした。
 冒頭に、工事現場の事務所から出た男が、外でキャッチボールをしていた殺し屋二人に射殺される場面があります。工事現場のプレハブ作業所、そしてこの二人の殺し屋は終盤にも登場し、主人公を狙います。
 組織の殺し屋サル(スティーヴン・ボールドウィン)はボスであるポーリーに関する証言を求められます。彼は証言を拒否しますが、ボスは酒場へ殺し屋を送ってきました。瀕死の重傷を負ったサルは6ケ月後、別の町で新しい人生を送ることになります。どうも証言に応じたらしく、FBIの証人保護措置を受ける身として、前歴を隠したまま、妻と子供と暮らすのですが、町起こしの事業に熱心な隣人テッド(ピーター・ギャラガー)に協力することになり、次第に町を牛耳る実業家ルージャック(アロン・タガー)とも関わることになります。
 単身乗り込んで来て話をつけるサルを見込んで、最初は協力したルージャックでしたが、思い通りにならないことが分ると、今度は二人の仕事を妨害し始めます。ウサ晴らしに出かけたラスヴェガスで、サルは組織の女に目撃され、潜伏場所を知られてしまいます。ルージャックの復讐とポーリーの組織とが組んで再び殺し屋に狙われるサル・・・。
2003年10月25日

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クワイヤボーイズ

USA作品
1979年
 アルドリッチ監督作品で未見だった『クワイヤボーイズ』を中古ビデオ市場で発見しました。同年製作の『フリスコ・キッド』もありました(こちらはTV放映で見たことがあります)。
 もと警察官ジョセフ・ウォンボーの原作をクリストファー・ノップが脚色。ノップはオリジナル脚本『北国の帝王』(アルドリッチの傑作)も書きました。製作はアルドリッチの息子ウィリアム・アルドリッチ(たしか『がんばれ、ベアーズ!』もありましたね)。クワイヤボーイズとはコーラス・ボーイ、「少年聖歌隊」のこと。
 冒頭、1969年のベトナム戦争当時の洞窟で危うくベトコンから難を逃れた二人の兵士の場面が出て来ます。
 そして、ほぼ十年後のカリフォルニア州ロサンゼルスの警官たちの挿話になり、ベトナム戦争との関係は終盤近くに明らかになります。
 警官のひとりが、戦争で閉所恐怖症になった男サム(ドン・ストラウド)だったのです。踏みこんだときのサド・マゾゲームの相手が警官仲間バクスター(ペリー・キング)だったこともショックなら、彼がその直後に自殺してしまったこともショックで、酔いつぶれてしまい、公園で警察のワゴン車に入り込んで寝てしまった。警官仲間のロスコー(テイム・マッキンタイア)が誤ってドアに鍵をかけてしまったことから錯乱、外から急に鍵を開けてくれた少年(同性愛者)をベトコンと誤認して射殺してしまいます。
 あと半年で退職し、恩給生活に入るはずの反抗分子ウェーレン(チャールズ・ダーニング,『合衆国最後の日』の大統領役)は、部長リッグス(ロバート・ウェッバー)に事件の真相と関係者の名前を話すように責められます。
 『ロンゲスト・ヤード』(バート・レイノルズ主演,1975年)は囚人仲間の信頼や挫折、友情や意地悪、正義感や劣等感の衝突がテーマでしたが、組織が警察に変わっても同じです。ここで登場する警官たちのメンタリティは、囚人たちとあまり変わりません。
 特に強烈な存在は暴力的な警官ロスコーで、飛び降り自殺者に自殺を思いとどまらせようと、「お前なんか自殺してしまえ」と声をかけたり(女はそれをきっかけに飛び降りてしまいます)、エスニックどうしの痴話喧嘩の仲裁に入って、当事者をクズ扱いしたり、自慢のヒゲをむしったり(警官たちが徹底的に殴られます)、トイレでホモを(本当は臨時巡査)ぶちのめしたり。彼に対する仲間の悪ふざけも尋常でなく、公園でアヒルに尺八させたり、樹木に下半身裸のままつながれたりします。それでも、ロスコーは街の治安を守るのに貢献したと、表彰されたりします。
 この映画には、『ダーティ・ハリ−』のような恰好いい警官は出てきませんし、英雄的な犯人も出てきません。犯罪といっても、街娼、同性愛(現代は同性愛で逮捕はないと思いますが)、喧嘩などで、犯人に向って拳銃を撃つ場面もありません。発砲場面はロスコーが公園池のアヒルを撃つ場面と、サムが少年を誤射する場面だけです。後にも先にも、これほど“恰好悪い”、“非英雄的な”警官映画はないと思いました。『ワイルド・アパッチ』のように、見終わった後のカタルシスのない作品です。アルドリッチらしい、ユニークな作品でした。
2003年10月18日

DVD
恋の手ほどき

USA作品
1958年
 ヴインセント・ミネリ監督のミュージカル映画「Gigi(ジジ)」。ジジ役のレスリー・キャロンの魅力がいっぱいのミュージカルです。お話は浮世離れしています。おとぎ話といってもよいでしょう。
 パリの社交界、大富豪のガストン(ルイ・ジュールダン)のお相手の女性は、なにかと話題になります。幼なじみのジジはガストンの恋の相手には入っていませんでしたが、ある日突然、ガストンはジジが女性としても魅力的になったのに気がつきます。
 男に恋愛は推奨されますが、結婚は推奨されません。結婚せずに恋愛だけして、年を取った叔父役にモーリス・シュヴァリエ。
 「恋の手ほどき」は、ジジの祖母の姉がジジに施す上流階級のレディ心得といった訓練のことですが、生来お転婆で自由活発なジジにはなかなか身につきません。型にはまった儀礼を失敗するレスリー・キャロンの「芸」がみどころといえます。また,ロートレックやスーラの絵画を再現したような衣裳やセット、画面作りが豪華です。
2003年9月19日

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クッキー・フォーチュン

1999年
USA
 ロバート・アルトマン製作・監督作品、撮影が栗田豊通。脚本はアン・ラッブ。
 ミシシッピーの田舎町。一人暮らしの老婆ジョエル・メイ、愛称「クッキー」(パトリシア・ニール)の面倒を見ているのは黒人のお人よしウィリス(チャールズ・S・ダットン)だけでした。夫が死んで、長い時間がたち最近少し感傷的になってしまったクッキーの身を案じて、ウィリスは家出後に戻ってきた孫娘エマ(リヴ・タイラー)と一緒に復活祭の食事を提案します。ところが、クッキーは夫の許へ行きたいと拳銃で自殺してしまいます。第一発見者となったのは、姪のカミール(グレン・クローズ)。町の演劇『サロメ』の脚本・演出も手がける才女ですが、「自殺は親戚の恥。イカれた者のすること」と、一緒に発見者となった妹のコーラ(ジュリアン・ムーア)を説得し、現場を強盗殺人に擬装してしまいます。クッキーの遺書を食べ、部屋を散らかし、宝石を盗み、拳銃を外に捨てて。
 警察は残された指紋などの状況から、クッキーの世話をしていたウィリスを容疑者にしますが、ウィリスにはアリバイがありました。保安官レスター(ネッド・ビーティ)は始めからウィリスを無実と断定します。理由はと聞かれて「釣り友だちだから」と答えます。
 若い保安官ジェイソン(クリス・オドンネル)はクッキーといい仲。
 ドラッグ・ストアの少年が擬装現場を目撃していたので、殺人容疑はカミールにかかります。正しい証言をしてくれるはずのコーラは、最初の「打ち合わせ通りの」証言をします。「自殺じゃない、殺人だ」と。ずっと愚図と罵られ、虐げられてきた妹の最後の抵抗。
 クッキーの遺言状も見つかって、皮肉な結末となります。エマの母親がコーラでなかったことも判明します。
 『危険な情事』のグレン・クローズがエキセントリックな演技をし、ウィリスののんびりした演技と好対照をなしています。
2003年8月30日

DVD
カジノロワイヤル

1967年
USA
 007シリーズ唯一のおフザケ作品として評価が割れているMGM映画。監督はミスターMとして出演もしているジョン・ヒューストンと,ケン・ヒューズ,ヴァル・ゲスト,ロバート・パリッシュ,ジョセフ・マクグラス。
 もともと007シリーズはかなり遊びの入った映画なので,いま見ると結構007の本質を衝いていると思えます。キャストは引退したボンドにディヴィッド・ニーヴン,ボンドになりきるバカラ師にピーター・セラーズ,ボンドの甥にウッディ・アレン,魔術師ルシッフルにオーソン・ウェルズ。
 マタ・ハリの娘にジョアンナ・プティット,ボンドに協力するのはウルスラ・アンドレス,悪の手先のはずがボンドに惚れてしまうデボラ・カーなど女優は多彩です。音楽はバート・バカラック。助監督にニコラス・ローグの名前がありました。
2003年8月29日

DVD
わが青春のフロレンス

1970年
イタリア
 マウロ・ボロニーニ監督はネオリアリズムの流れをくむ職人監督のようです。『愛すれど哀しく』(1971年)は素晴らしかったのに,『薔薇の貴婦人』(1984年)は何も中身のない映画でしたね。
 原題「Metello」(主人公の男の子の名前)を『わが青春のフロレンス』と訳した配給会社のセンスは特筆できます。ボロニーニ監督作品では『愛すれど哀しく』も原題は「Bubu(ひもになる男の名前)」というそっけないもの。ともにオッタヴィア・ピッコロが主演していて魅力的です。ただし,『わが青春のフロレンス』のストーリーはかなり感傷的なものでした。エンニオ・モリコーネの音楽も感傷を盛り上げます。衣裳はオペラ演出でも著名なピエロ・ルイジ・サマリターニ。
 無政府主義者の父親に育てられた主人公メテッロ(マッシモ・ラニエリ)は,水難事故で父を失ってから孤児として苦労します。ベルギーへの移住を拒否し,両親の故郷フィレンツェでレンガ職人として働き始めますが,次第に労働者の権利に目覚め,ストライキの中心人物となっていきます。メテッロと未亡人ヴィオラ(ルチア・ボゼー)との恋,事故死した仲間の娘エルシリア(オッタヴィア・ピッコロ)との恋と結婚,隣の婦人イディーナ(ティナ・オーモン)との浮気なども点描され,20世紀初頭の労働者と資本家の戦いや労働者の生活が描かれます。 
2003年7月21日

DVD
テルマ&ルイーズ

1991年
USA
 リドリー・スコット監督のロード・ムーヴィーで、アメリカン・ニュー・シネマ感覚の一篇。スピルバーグ監督のロード・ムーヴィー『続激突!カージャック』のように、「思わぬ」展開から凶悪犯になってしまう、二人の女性の物語。
 女給ルイーズ(スーザン・サランドン)は友だちの主婦テルマ(ジーナ・デイヴィス)と二人で二日間のヴァカンスを計画します。しかし、酒場で羽目を外したテルマがレイプされかかり、卑猥な言葉を吐く男をルイーズは撃ち殺す。昔、テキサスでレイプされた経験があるルイーズには、被害者が加害者のように扱われる風潮と、男が許せなかったのでした。逃避行の途中でせっかくのお金を盗まれたり(小悪党をブラッド・ピットが演ずる)、強盗を働いたり、トラックを撃って爆破したり・・・。
 二人に同情的な警官にハーヴェイ・カイテル。 
2003年7月18日

DVD
耳に残るは君の歌声

2000年
イギリス・フランス

97分
 『スリーピー・ホロウ』の主役クリスティーナ・リッチとジョニー・デップが共演した作品です。
 父(ハリー・ディーン・スタントン)はアメリカに立ち、ロシアに残った娘は1927年、家族と切り離され、孤児となり、流浪の身となります。長じて無口な娘(リッチ)はパリでダンサーとなりました。記憶に残る父の歌は「耳に残るは君の歌声」(ビゼーの歌劇『真珠取り』の一曲)。友人となったローラ(ケイト・ブランシェット)は傲慢なテノール歌手ダンテ(ジョン・タトゥーロ)の愛人となります。
 過去を封印したスーザンは白馬に乗ったジプシーの青年チェザー(デップ)に惹かれますが、やがてナチスの侵攻が始まり、パリは陥落します。
 アメリカに逃れようとした船が爆撃を受け、海に投げ出されたスーザンは奇跡的に救助され、アメリカで父と会うことができます。父は死の床にありました。しかし、娘は記憶にある父の歌を歌います。父は娘を本名で呼びます、「フィゲレ」と。
 サリー・ポッター脚本・監督。
2003年6月9日

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主任警部モース
第2話 ニコラス・クインの静かな世界

イギリス
1986年
 パイロット・フィルムであった『ジェリコ街の女』に次ぐ第2話ですから、かなり力が入っています。脚本ジュリアン・ミッチェル、監督ブライアン・パーカー。
 難聴のクイン氏はパーティの席上、読唇術により、アラブ人との間で学力検定試験の秘密が売買されていることに気が付きました。クインはその事を検定試験委員会の事務局長代理オグルビー(マイケル・ゴフ)に話します。数日後、自宅でクインは死体になって発見されました。
 いったい誰がクイン氏を殺したのでしょうか。第一発見者のドナルド? 資料の管理にきびしいバートレット博士(クライヴ・スイフト)? 秘書モニカ(バーバラ・フリン)? 評議委員ループ(アンソニー・スミー)? 
 オグルビーがクロスワードの投稿者ダイダロスであることが分ったり、映画『ラストタンゴ・イン・パリ』が密かに話題になっていたりします。映画に関しては、「芸術作品という評判だったが、ただのポルノ映画だった」という評価がされています。ちなみに、この評価には私も賛成です。また、クイン氏の前任者で汚職をしていた人物の名がブランドで、モースが「悪い名前だ。暴力的だ」と発言するのもマーロン・ブランドに対する皮肉です。バートレット博士の息子で精神を病んでいる青年がワグネリアンで『ニュルンベルグのマイスタージンガー』を陶酔して聞いているのが興味深い場面です。
 容疑者は二転三転しますが、被害者クイン氏自身の思い違いが最後で明らかになる展開には唸らされます。
2003年6月6日

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サスペリア2

イタリア
1975年
 ダリオ・アルジェント脚本・監督の本格サスペンス・ミステリで、『越境する本格ミステリ』で隠れた傑作として力をこめて紹介されている作品です。アルジェント監督前ヒット作の『サスペリア』とは何の関係もありません。
 冒頭の殺人場面では被害者も加害者も分りません。数十年後のローマで、テレパシスト・ヘルガ(マーシャ・メリル)は、講演会場参加者に強烈な殺意を感じ、その一部を話します。その夜、ヘルガが殺害されるのを目撃したイギリス人ピアニスト・マーク(デビッド・ヘミングス)は、犯行後に壁の「絵が一枚減った」謎が、引っかかり、独自に真相の解明を試みます。
 マークの親友のピアニスト・カルロ(ガブリエレ・ラヴィア)は酒浸りです。彼の母は元女優であったことを生きがいにしている女性。
 椅子は壊れているし、ドアロックもそのままの車を運転する美人記者ジャンヌ(ダリア・ニコロディ)と一緒に、マークは関係者をたどっていきます。ところが、関係者がマークに先んじて殺されていくのです。いったい、なぜ情報が洩れるのでしょうか。
 マークは遂に古い屋敷で事件の鍵をにぎる絵を発見します。子供が描いたような凄惨な殺人の場面。しかし、犯人の魔手はマークにも迫っていました。マークが、レオナルド・ダヴィンチ学校の資料室で、屋敷にあったのと同じ構図の絵を発見し、その絵を描いた子供の名前を知ったとき、犯人もすぐ傍に来ていました。
2003年5月30日

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主任警部モース
第15話 魔笛

イギリス
1989年
 コリン・デクスター原作・原案「MASONIC MYSTERIES」(脚本ジュリアン・ミッチェル、監督ダニー・ボイル)。
 モーツアルトの「魔笛」序曲が流れるなか、車でベリル(マデリーン・ニュートン)と一緒に『魔笛』のコーラスの練習に到着したモースは、暴走運転をベリルになじられます。遅刻魔の彼女のために急いだモースでしたが。
 さて、コーラスの一員として練習が始まろうとしたそのとき、ベリルが電話で呼び出され、モースは衣裳係に胸のメダルを忘れていると指摘されます(写真参照)。メダルを探すモースは、誰かの叫び声を聞き、駆けつけると電話口でベリルが殺されていました。被害者の傍らに落ちていた包丁を拾い上げた第一発見者モースは、容疑者になってしまいます。しかも、捜査主任は隠れたフリーメーソン信者のボトムリー警部(リチャード・ケイン)です。
 モースの昔の上司で現在は神父をしているマクナット(イアイン・クスバートソン)の身も危ないようです。コンピュータを使って、モースを陥れる罠が、仕掛けられています。どうやら、モースが昔逮捕した天才詐欺師ド・フリースの仕業らしいのですが、彼は殺人はしませんでしたし、コンピュータ・データによると、留置所でもう死んでいるはずです。
 モースの自宅に発火装置がしかけられます。自動発火で、トスカニーニ指揮の「魔笛」のテープが燃え上がり、モースは「よりによって、魔笛のなかで最悪のやつだ」と批評します。宇野功芳氏の大批判を連想しました。
 ベリルの同僚で、モースに理解を示している様子のマリオン(ダイアン・フレッチャー)の、ラストの変貌が素晴らしい迫力です。
 ルイス部長刑事はモースに薦められて、ベリル追悼公演『魔笛』を妻と見に行きます。終幕寸前に会場から出てきたルイスは「セリフは聞き取れないし、いったい何が面白いんだか」と不審顔です。それを遠くからモースが目撃していました。『魔笛』はドイツ語だし、セリフが理解できても支離滅裂な物語ですからね。
2003年5月16日

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デストラップ・死の罠

USA
1982年
117分
 ブロードウェイでロングランのアイラ・レヴィンの戯曲を、シドニー・ルメットが監督したミステリー映画です。脚色はジェイ・プレッソン・アレン。主演は『探偵/スルース』『迷探偵シャーロック・ホームズ』のマイケル・ケイン。
 落ち目の劇作家(ケイン)の許に、かつての講座の生徒・クリフ(クリストファー・リーヴ)が書いた台本『デストラップ』が届けられます。
 作家は、金持ちの妻マイラ(ダイアン・キャノン)に「この劇は傑作だ」と話し、盗作のアイデアと青年の殺害をほのめかします。くだんの青年が郊外の家にやって来ることになって、殺害の機会を狙っている作家の態度に、妻は気が気ではありません。そして、とうとう殺人が行われます。
 近所に住む霊媒のヘルガ(アイリーン・ワース)が突然訪れて来て、殺人を予告したり、弁護士のポーター(ヘンリー・ジョーンズ)が鋭い疑問を投げかけてドキリとさせる場面があったりと、立場は二転三転。
 チェンバロを効果的に使ったジョニー・マンデルの音楽が傑作。正体不明のマイケル・ケインもミステリー的ですが、悲鳴をあげてばかりいる妻役のダイアン・キャノンも可笑しい。ブーツをはいたハンサムで不可解な青年リーブや、霊媒おばさんアイリーンも適役でした。前半が、特に好調です。後半には、殺人者が相手を見逃してしまっていいのかなと思わせる、ほんの少し苦しい展開があります。
2003年5月9日

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(BS2放映)
シャーロック・ホームズの素敵な挑戦

USA
1976年
 ニコラス・メイヤーの原作・脚本、ハーバート・ロス監督。原題は、The Seven- Per -Cent Solution(7%の解決)。
 ホームズが失踪していた3年間の実話を描くという内容。コカイン中毒のホームズ(ニコル・ウィリアムソン)に、フロイト博士(アラン・アーキン)の治療を受けさせようと、ワトソン(ロバート・デュヴァル)とホームズの兄は計略を練ります。ホームズのもと家庭教師で、ホームズが“悪の天才”と妄想しているモリアーティ教授(ローレンス・オリヴィエ)をウィーンに逃亡させ、その行方をホームズに追跡させるという計画で、まずフロイト教授に会わせます。
 催眠療法でコカイン中毒を治療しようとするフロイト博士。その後、博士の患者でもあった歌姫ローラ(ヴァネッサ・レッドグレーヴ)の誘拐事件にからんで、ホームズは大活躍することになります。また、女性不信のホームズのトラウマが明らかになります。かなり忌まわしい過去の経験があることが分ります。
 最初はエキセントリックなコカイン中毒者だったホームズが、次第に本領を発揮するようになる変化を、興味深く見ることが出来ました。トニー・リチャードソン監督の傑作でも知られたジョン・アディソンの音楽が見事です。
 この作品に、『越境する本格ミステリ』(扶桑社,2003年)では、“数あるパスティッシュの中でも抜きん出て傑作となった原作を、さらに丁寧に映像化した名作”(小山正による)と最大級の賛辞を贈っています。しかし、“英米のシャーロッキアンたちにとって許すことのできないメイヤーの罪は、彼らの崇拝の対象でもある名探偵を、まるでバカのように描いたということだった”、この作品をきっかけに“ホームズ・パステイッシュがあふれだした”というのも事実のようです(引用は田中喜芳『シャーッロキアンの優雅な週末』中央公論社1998年による。この本は、一部盗作により絶版)。この映画化作品では、ホームズは決して“バカのよう”ではなく、己れのコカイン中毒と闘う人間的な人物として描かれており、後半では、自己の治療を忘れて被害者の女性の救出に向う騎士道的人物と見えます。
 ホームズをどうしようもない人物として描いた偶像破壊作品『迷探偵シャーロック・ホームズ/最後の冒険』(1988年、トム・エバーハード監督、ゲイリー・マーフィ&ラリー・ストロウザ脚本。マイケル・ケイン&ベン・キングスレー主演)も、私にはホームズ讃歌の国の余裕であると思えます。また、シャ−ロッキアンが設定にケチばかりつけている(『越境する本格ミステリ』にも取り上げられていない!)、『ヤング・シャーロック/ピラミッドの謎』(1985年、バリー・レビンソン監督、クリス・コロンバス脚本。ニコラス・ロウ主演)も、ホームズ讃歌の傑作だと思っています。  
2003年4月29日

DVD
野ばら

オーストリア
1957年
89分
 ウィーン少年合唱団主演の映画。マックス・ノイフェルト脚本・監督。脚本はノイフェルトとカール・ライター。小学校時代に見たかもしれないと思って、見てみましたが、まったく覚えていませんでした。
 ハンガリーからの亡命したトニー(ミハエル・アンデ)は孤児ですが、もと船長に引き取られます。音感と声が良いので、ウィーン少年合唱団に入団を許されることになります。団員の世話をするマリア(エリノア・イェンセン)は、トニーの母親代わりになって面倒を見てくれます。校長(パウル・ヘルビガー)は団のモットーとして「誠実、協力、努力」を挙げます。トニーは次第に実力をつけていきますが、ある日、マリアが燃料費に用意していたお金の一部が無くなります。夜中にこっそりマリアの部屋に侵入したトニーが疑われます。
 母とも慕うマリアが責任を問われる事態を察したトニーは自分が盗ったといいます。しかし、お金はありません。トニーは退団処分を受けますが、養父は信じません。トニーは橋から川に落ち、意識不明の重態になります。紛失した紙幣が楽譜の間から見つかって、トニーの罪は晴れましたが、トニーの生命は危険なまま。マリアは必死に神に祈ります。
 ウェルナーの「野ばら」や、「アベマリア」、「ヨハン大公のヨーデル」などのほか、音楽監督ハインツ・ノイブランドが、本編のために作曲したテーマが歌われます。
2003年4月28日

BS2
20:00〜21:29
鏡の国のアリス

USA
 ルイス・キャロル原作の実写版。最初に登場する少女がアリスとして活躍するのではありません。その娘の母親であるアリス(ケイト・ベッキンセール)が鏡に入り込むのです。原作をかなり忠実に実写映像化しています。
2003年4月27日

DVD
ハリー・ポッターと秘密の部屋

USA
2002年
161分
 ハリー・ポッター第2作。DVD発売店で一部を放映しているのを見たところ、蜘蛛の大群がうようよ。購入して、早速見てみました。
 秘密の部屋を明らかにしようと、森番ハグリッドに聞いたハリーは、「蜘蛛の後を追え」と助言されて、蜘蛛に導かれて、大蜘蛛アラゴグに出会います。
 アラゴグはハリーに危害を加えなかったものの、彼女の子供たちは新鮮な肉を前に黙ってはいられない生き物でした。ハリーとロンは大群のクモに襲われ、絶対絶命の危機。空飛ぶ自動車でなんとか脱出できますが、アラクノフォビア(蜘蛛恐怖症)になりそうな一篇でした。
 一話完結です。秘密の部屋を守る怪物はバジリスクでした。この映画ではバジリスクの正体は大蛇。
 クリス・コロンバス監督。
2003年4月26日

ゴールデン洋画劇場
ザ・ターゲット

USA
1998年
 冒頭、民間人を装った政府の監視組織の家が暗殺団に襲撃され、一人を残して射殺されます。逃げのびた教授は、大統領補佐官ボビー(チャーリー・シーン)に連絡しようとして、少しだけ話した途端に射殺され、今度はボビーが襲われる羽目に。ホワイトハウスの中枢にシャドー(影の)組織があるらしいのですが、一体その首謀者は誰なのか、主席補佐官ジェイコブ(ドナルド・サザーランド)の助けを借りながら、真相を探ろうとするボビーでしたが、彼の電話はすべて盗聴されていました。
 ヘラルド紙の女性記者アマンダ(リンダ・ハミルトン)と共に、狙われながらも真相に近づいていくボビー。衛星探査機まで駆使して、ボビーを追い詰める組織に徒手空拳で挑む男という設定でした。また、リンダ・ハミルトンは『ターミネーター』のイメージをずっと引きずって仕事をしているんだなあと思いました。特撮よりも、走る、跳ぶといった身体を酷使するアクションを見せる映画でした。
 『カサンドラ・クロス』のコスマトス監督。
2003年4月15日

BS2
20:00〜21:50
最高のルームメイト

USA
1994年
 ピーター・イェーツ監督、ピーター・フォーク主演という顔合わせなので、見始めたら止められなくなってしまいました。
 ポーランド系の移民の祖父“ロッキー”(フォーク)は頑固なパン職人。6歳で母に死に別れ、孤児となったマイケルを自分の手で育てます。やがてマイケルは医師になり(D.B.スゥイーニー)、祖父と一緒に住むことになります。祖父はいびきの合間に寝言を言う癖がありました。
 やがて、マイケルは社会福祉士のエリザベス(ジュリアン・ムーア)と知り合い、恋仲になります。ピッツバーグ大学に赴任することになったマイケルに、祖父は「あの娘を誘ったか。初めは行き来していても離れていれば次第に疎遠になるものさ」と助言します。その言葉をきっかけにマイケルはベスに求婚し、めでたく二人は結婚します。
 二人の子供も生まれ、幸福に満ちた家族でした。しかし、自動車事故で妻は死亡、マイケルの精神は荒れます。子供たちの父親を求める声も耳に入らないようです。祖父が子供たちのお守り役です。ベスの母ジュデイス(エレン・バースティン)は子供達を引き取ることにします。しかし、迎えの当日、祖父は車に細工をしてエンストさせ、子供たちを奪還してベスのお墓参りをします。駆けつけたマイケルに祖父は言います。「忙しくて墓にも来ていなかっただろうが、わしと子供達はよく来た。墓に声をかけ、人々に挨拶したものさ。子供たちに言葉をかけてやれ。昔の母を亡くしたお前と同じ目をしている」と。マイケルは自分の間違いに気づきました。彼は、子供を預けるのは止めた、僕が育てる、と決意します。
 年老いた祖父の最期のとき、マイケルは祖父に心から御礼を言います。
 ピーター・フォークに捧げられたような一篇でした。欠損家族の絆を描くのは、アメリカ映画のひとつの伝統かもしれません。
2003年4月11日

BS2
16:50〜19:00
スミス都へ行く

USA
1939年
 若き日のジェイムズ・スチュワートが主演するディスカッション・ドラマ。フランク・キャプラ製作・監督。アカデミー脚本賞(シドニー・バックマン)受賞。
 ディスカッション・ドラマとは登場人物が話し合って、台詞中心に劇が進行するドラマです。現代の映画はアクション中心ですし、台詞にはスラングが多く、“見る”ドラマ中心で、“聞く”ドラマは少なくなりました。映画を味わうのに、耳の役割は小さくなってしまいました。この映画は“聞く”ドラマです。
 さて、物語です。州出身の上院議員が死亡したため、知事が代役にと推薦した男は少年団の団長スミスでした。陰で利権を操るテーラーとその組織テーラー・マシーンは、政治に素人の彼ならば、陰で進行中のダム建設工事の邪魔はしないだろうと考えていたのです。もう一人の州の上院議員ペイン(クロード・レインズ)はスミスの父親の親友でした。父親は新聞記者で、大きな陰謀を暴露しようとして暗殺されたのです。
 新米の議員スミスにも、秘書がひとり付きます。“クラリッサ”という名前のソーンダース嬢(ジーン・アーサー)、彼女は素人同然のスミスの子守役など、真っ平御免と思っていましたが、次第に彼の正義感に魅き付けられていきます。
 スミスは故郷に子供たちのキャンプ場を作る法案を提出しようとしますが、その場所はダム予定地でした。ペインとテーラーは法案提出を思いとどまるようにスミスに進言しますが、スミスは聞き入れません。いよいよ法案提出のとき、発言しようとしたスミスは、ペインの申し出で、発言権を譲ります。すると、ペインはスミスの議員資格問題を取り上げました。キャンプ場予定地に、スミスは既に土地を購入していて、キャンプ場計画はその土地の値上がりを図り、私腹を肥やそうとするものだというのです。調査が開始されると、スミスには身に覚えの無い証拠が次々と並べられます。失意のスミスに、秘書は発言権を利用した巻き返し作戦を提案します。
 この作品には明快なニ項対立があります。善玉と悪玉、理想と現実、アマチュアとプロフェッショナル、こどもとおとな。前者が後者に対して異議申し立てをする形になっています。田中直毅によると(『映画で読む二十世紀』朝日文庫)、共和党と民主党という対立もあるといいます。公共事業推進の民主党に対し、共和党は国費を使わず、子供たちにキャンプ場を貸し、寄付を募ると主張する。そして、ベースボールがこどもに夢を与えるスポーツであるように、政治が少年たちに夢を語る場になります。少年たちは一気呵成にスミスを信じ、行動を起こしますが、最終回ノーアウト満塁のピンチに四番打者を三振に打ち取ったピッチャーに応援するような単純さです。スミス自身も、窮地を傍聴席の秘書のアドヴァイスで乗り切るたよりなさ、単純さを持っています。
 そのような“ドン・キホーテ”がこの国を救うのだというメッセージがあります。『映画で読む・・・』の本の中で、長田弘はキャプラ監督はメルヘンを作ってきた人で、この作品も政治の原型を示したメルヘンであり、現代の政治や文化に既にメルヘンは失われていると、指摘しています。 
2003年3月16日

テレビ朝日
日曜洋画劇場
21:00〜22:50
ミッション・インポッシブル

USA
 トム・クルーズ製作・主演の映画版「スパイ大作戦」第一作。監督はブライアン・デ・パルマ、脚本はパルマ自身とロバート・タウン。
 ジョン・ウーが監督した第2作『Mi:2』に比べて、アクション場面よりも、虚々実々のかけ引きに主眼が置かれており、面白く見れました。ジョン・フェルプス(ジョン・ヴォイト)をリーダーとするイーサン・ハント(トム・クルーズ)チームが手がけた仕事は、マークした男がスパイ名簿を盗み出す現場を撮影するという、楽な仕事と思われましたが、別の見張りチームがいて仲間は次々に殺され、大失敗。
 なんとか生き残ったイーサンは、この計画自体が、CIAの裏切り者あぶり出し作戦だったため、CIAに狙われる身となってしまいます。
 ところが、生き残った者は他にもいました。クレアです。いったいクレアは仲間なのか、敵なのか。名簿を狙うマックス(バネッサ・レッドグレーヴ)に接近して、自分の無実をはらすとともに、裏切り者(コードネームはヨブ)の正体をつきとめようとするイーサンの計画は、はたしてうまくいくのでしょうか。
 新しいチーム、クレア、ルーサー(ビング・レイムズ)、クリーガー(ジャン・レノ)を組織してCIAの本部のコンピューターから直接、名簿ファイルを盗み出そうとするイーサン。
 最後はパリ行き特急とヘリコプターのアクション・シーンでした。 

2003年3月以降に見た 日 本 映 画 (邦画)
見た日と場所 作  品        感  想     (池田博明)
2003年11月26日(木)

東京12ch
20:54〜22:45
依頼人の娘

 東野圭吾原作を元にしたTVミステリー。演出は中山史郎。
 帰宅したら妻が刺殺されていたという通報があった現場に、亡き息子の命日の法事の席から駆けつけた伊東四朗は、夫(佐藤B作)の靴が揃えられていたり、妻が外出する時に付けるコンタクトをしていた等、腑に落ちない事実を発見します。捜査本部は外部から侵入した愛人説に傾いていきますが、被害者の娘は、父親や姉や叔母が何かを隠しているのに気がつきます。父親のアリバイ工作を叔母(美保純)がした様子もあります。しかし、いったい何故そんなことをしたのでしょうか。また、なぜ母親は殺されたのでしょうか。真犯人も混沌としてきます。
 刺殺犯がAだと思ったらB、Bだと思ったらCというように転換する東野ミステリーらしい展開になっていました。
 しかし、自分の父親が浮気をして自殺未遂を図ったことが心理的にトラウマになった叔母が、姪の高校生のために母親の死の真相を隠そうとして、殺人罪をかぶるという設定は非現実的だと思いました。本で読んでいるときは納得してしまうかもしれませんが、役者が演じているので、非現実的な設定は、浮き上がってきてしまいます。
2003年11月24日(月)

ビデオ
日本の黒い夏[冤罪]

2000年
日活
 脚本・監督は熊井啓。
 松本サリン事件で、第一通報者が犯人扱いされたことを告発する作品。
 半年前の松本サリン事件報道の問題点を松本市の高校の放送部員(遠野凪子ほか)がふり返ろうと企画します。高校生は第一通報者で犯人扱いされた神部氏(寺尾聡。実際は河野さん)に話を聞きにいくだけではなく、地元のテレビ局にも取材をします。高校生の取材要求に応じたのは唯一、神部犯人説に疑問を持った番組を作った局だけでした。
 報道部長(中井貴一)は事件をスタッフとともに事件をふり返りながら問題点を探っていきます。キャスターの花ケイ(細川直美)やスタッフは警察発表を、そのまま裏を取らずに行った報道が、いかに容疑者への予断と偏見を助長させたかを改めて知ります。
 弁護士(北村和夫)は神部の無罪を信じ、取り調べの担当・吉田警部(石橋蓮司)も、次第に神部犯人説に疑問をもち始めます。しかし、ジャーナリズムの捜査機関と大衆に対する迎合や、大衆の予断と警察上層部の面子は、専門家(二木てるみ)が素人にサリンの合成は無理と断言した後も、なかなか神部氏の無罪を信じません。自分自身も毒ガスの被害に合い、植物状態の妻を看護する神部氏や家族に、世間は罵詈雑言を浴びせます。
 当初バケツでサリンは作れると言った薬学者に藤村俊二。患者の症状を説明し、毒物は神部氏の所蔵していた青酸カリではなく、有機リン系の毒物と断言する医師に根岸季枝。
 混乱する現実が半年後の視点から整理されて進展するため、盛り上がりに欠けます。高校生の正義感に応えて、テレビ局が自己反省をするという構成は、熊井監督の案だと思いますが、マスコミはもっと早くから自分たちの失敗に気づいていたはずですから非現実的ですし、実際の事件では最初は訳がわからず、報道も二転三転していたのですから、その混乱を描いた方が迫力ある作品になったのではないでしょうか。
 カルト集団オウム真理教を描くことが目的ではないので、このような構成になったのだと思いますが。
2003年11月22日(土)

NHK総合

21:00〜22:30
R・P・G 

作られた家族の秘密

2003年
NHK
 原作・宮部みゆき、脚色・福田靖、演出・星田良子。芸術祭参加作品。
 食品会社の課長(伊武雅刀)が刺殺され、彼のコンピュータには擬似家族とのメールが残されていました。本当の妻(増田恵子)と娘(後藤真希)がいるのに、いったい何故、父親は擬似家族との家族ごっこにのめりこんでいったのでしょうか。娘は父親が誰かと会っていたことを目撃していたと言います。
 刑事・武上(伊東四朗)と石津(風雪ジュン)は、娘をマジック・ミラーごしに容疑者・擬似家族の面々ニセ妻(高田聖子)・ニセ娘(榎本加奈子)・ニセ弟(中村七之助)と合わせようと提案します。
 それは、犯人の人間性を回復させるための大きな賭けでした。ネット上の家族は唾棄すべきニセモノでしかないのでしょうか。ホンモノの家族の間に非現実感しか存在しないとしたら、むしろ本当の家族の方がニセモノではないでしょうか。
 非現実的な世界で起こった殺人は、犯人を真に反省させるものとはなり得ません。
 題名の「ロール・プレイング・ゲーム」には、擬似家族の役割演技の他に、捜査上の演技・演出という二重の意味がありました。
 定年直前の最後の仕事にかける伊東四朗と、一児の母親でもある刑事を演ずる風吹ジュンの自然体の演技が見ものでした。淡々とクローズアップをつみ重ねていく画面作りは内容によく合致していました。
2003年11月9日

NHK教育
8:05〜8:50
涙と笑いのハッピークラス

2003年
NHK
 「こども・輝けいのち」シリーズ放送作品“涙と笑いのハッピークラス 4年1組 命の授業”を再放送。すぐれた教育番組に贈られる日本賞の2003年度グランプリ受賞作品です。構成は嘉悦登。
 石川県の南小立野小学校4年1組は、今年も金森先生が学級担任でした。金森先生は57歳、自分の二人の子供を亡くした経験から、子供たちに命の大切さを教えたいと思っています。
 先生が大切にしている日課に「手紙ノート」があります。毎日三人の子供が書いてきます。それをみんなの前で読むのです。おばあさんを亡くした少年のノートに反応して、自分の父親の死を話す少女が出てきます。これまで特別視されることを恐れて隠してきた事実を公開することで、少女はひときわ明るくなります。
 先生はときどき怒ります。頭が悪いと人を馬鹿にしたりする生徒がいることを感じると、話し合いをさせますが、みんながきれいごとばかり言って論議を終わらそうとすると、激しく怒ります。「自分を棚上げにしてきれいごとばかりいっている」、もっと自分のいけなかった点を出さなきゃダメなんだ、と。
 おしゃべりを止めなかった少年に「イカダ乗り」禁止の罰を与えると、こどもたちが先生に対して反論します。それ(おしゃべりをしたこと)とこれ(イカダ乗りを禁止させられること)とは別のことではないか、「ひとりがハッピーじゃなければ、みんなもハッピーじゃない」と。
 ある少年の父親が急死します。こどもたちは励ましの行為や言葉を考えます。以前3歳で父親をなくした少女はこんなふうに書いています。「お父さんの分まで生きなければ」と。そんな発想ができるとは・・・なんと素晴らしいことでしょうか。
 お別れ会ではこどもたちは全員でグランドに天国のお父さんに対するメッセージを書きます。「私たちは元気です」と。
 「手紙ノート」が毎日の先生の教育の核心だと思います。「言葉」を書く、「言葉」を読む、「言葉」を語る、「言葉」を聞く。
 「言葉」ほど大切なものはありません。コミュニケーションの最初にして最後のもの、それは「言葉」です。そして、「言葉」が「シンパシ−」を生み出します。
 また、遠足で行った川に子供たちは次々に飛び込んでびしょぬれになります。ドロンコ・サッカーでは泥だらけになります。木にふれ、水にふれ、土にふれること、それが力強い教育の背骨を作ります。   
2003年10月16日

ビデオ


1999年
松竹
 阪本順治監督、藤山直美主演。半端な人間たちが繰り広げる、劇的な盛り上げを徹底的に排除した奇妙な作品です。
 主人公・正子(藤山)の母(渡辺美佐子)の脳溢血によるあっけない死から始まり、正子が妹(牧瀬里穂)を殺す場面は描かれませんし、ラブホテルの主人(岸部一徳)の自殺も唐突に描かれます。青年(豊川悦史)がやくざにやられる場面もサイレント、スローモーションです。周囲で事件が起こると警察の捜査が入るため、正子は逃亡します。不器用な彼女はドタドタと逃げます。わざと話の関節を「はずした」ような作りがされています。
 心に半端な部分を持っている観客は、最初から正子に同情します。世の中うまくいかないことばかり。それでも「いつか月が西から登ったら、私と結婚すると約束してください」とか、「さらばジャ!」と名言をはきながら、生きていく正子を応援してしまいます。
2003年8月29日

ビデオ
続・座頭市物語

1962年
大映
 ビートたけし主演・監督の座頭市が準備され,再び本家の座頭市に焦点が当っています。DVD版も発売される予定になりました。この勢いでカツシンの『顔役』がDVD化されることを切に望んでいます。さて、『続・座頭市物語』(白黒作品)ですが・・・
 宿場に逗留中の黒田藩のバカ殿様をもみ療治した市は、口封じの為に命を狙われます。一年前の決闘の平手造酒の墓参りに向う市をねらうのは黒田藩から依頼を受けた勘兵衛一家。義郎と言われる浪人者(城健三郎)が飯岡助五郎一家にわらじをぬいでいるが、盗人の凶状持ちであることが分り、追い出されます。市は飯盛り女(水谷良重)に、昔話をします。お千代という女と惚れあった仲だったが、嫌ったはずの男のもとに走ったことで、その男をたたっ斬った、と。その相手が浪人者で、市の実兄だということが次第に明らかになります。墓参りをすませた市を勘兵衛一家が囲みます。居合い斬りで斬って斬って斬りまくり、残りは勘兵衛一人。そこへお尋ね者の義郎が現れ、決闘を申し込みます。そんなに俺が憎いのか、と問う市に、てめえに方輪にされて俺の人生は狂ったんだと答える兄。関八州の追手の前で、傷ついた兄を抱えて川に飛び込む市。隠れ家で、ひそかに兄は息を引き取ります。城健三郎=若山富三郎と勝新の兄弟共演作品。
 脚本・犬塚稔,撮影・本多省三,監督・森一生。一作目のヒロイン・万里昌代も出演。73分。
2003年7月12日

TVK
19:00〜20:55
ボクが病気になった理由(わけ)

1990年
シネマハウト、サントリー
 ATGだった佐々木史朗製作、医学部出身の大森一樹企画の3話オムニバス映画。脚本は永井明と各監督が書いていた。「がん」「糖尿病」「高血圧」がテーマ。
 第一話「マイ・スゥイート・リトル・キャンサー」(鴻上尚史監督)。散弾銃を持って信用金庫に篭城した青年(勝村政信)は、自分が直腸ガンだと信じていて、特効薬を求めて事件を起こした。しかし、主治医(鷲尾いさ子)は下血は痔のものと断定する。次々にがんの証拠と疑われる資料を提示して、なんとかがんになろうとする犯人。そのうち、医者同士の争いが始まる。テレビから指さされた人々が自分もがんだと思い込んでしまい、大騒ぎになっていく。
 第二話「ランゲルハンス・コネクション」(大森一樹監督)。椎名(ラサール石井)は低血糖の発作で倒れた女子キャスターに代わって、依田靖子(名取裕子)をかつぎ出す。糖尿病に注意の診断により、婚約を破棄された靖子は、看板キャスターとなる。しかし、グルメ番組に使われ、靖子自身に糖尿病の危険が迫ってきた・・・
 第三話「ハイパーテンション・ロード」(渡邊孝好監督)。天候不良で名古屋空港に着陸。ホテルで一泊することになった中年男(大竹まこと)の同居人は若い女性(中川安奈)だった。お互いに「不干渉」を約束した、娘の結婚式を控えた男と、オーディションを明日に控えたチェリストだったが・・・。
2003年3月17・18・19・21日

NHK総合テレビ
おしん 少女篇
総集篇

 1983年に放映された朝の連続テレビドラマ。橋田壽賀子脚本。
 1983年は私は教員として3年目、もうすぐ長女も生まれそうな時期で、朝のテレビドラマはまったく見ておらず、「おしん」も一度も見ていません。そこで今回のテレビ放送50周年記念アーカイブス特集の放映で初めて見ることになりました。
 小林綾子が七歳のおしんを演じた少女篇は各70分全4回にまとめられていました。貧乏がどのようなものかが、とことん描かれていました。しかもその貧乏は小作という仕事から来るものなので、働いても働いてもちっとも楽にならないのです。おしんの故郷は山形県の最上川の上流部という設定です。小学校として左澤(あてらざわ)小学校という名前が出てきました。左澤は、おしんが二回目の奉公に出る酒田とはだいぶ離れています。さらに、母(泉ピン子)が芸者奉公をすることになった銀山温泉から、おしんは船で下って酒田まで行くという設定でした。
 酒田の米問屋・加賀屋に奉公することになったおしんは大奥様(長岡輝子)に助けられ、手習いも教えてもらいながら、働くことになります。最初は意地悪をしていた加賀屋の娘も、同年齢でありながら、しっかりもののおしんを理解し、友達として認めるようになります。貧困のなかで自分にやさしくしてくれた祖母の死をきっかけに、なんとしても貧乏から脱却していこうと固く決意するおしんでした。

シェイクスピア作品の映画化やその関連の映画は除く。
それらは別ファイルになっている。→ 『シェイクスピアの劇と映画


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