第3部 娘たちの運命の日

ここからしばらく、キャラクターの制作記録から少し離れて、エンディングと武者修行についてまとめて述べることにする。というのは、残る二人の女王、クイーン・アナスタシアアナスタシア・ザ・グレートに関する記述を理解していただくには、武者修行、および、基本的な解析の手法であるデータの書き換えについて、ある程度の理解がどうしても必要になるからである。エンディングそのものは、それらとは関係ないけれども、ゲームをしながら解析するという私の手法を知っていただくためによい例だと思われるので、この部で取り上げることにした。

最初にエンディングに到達したキャラクターである初代アナスタシア・バージョン2*1、エンディングでは「皇太子妃」になった。これは、特に問題のないところであろう。問題があったのは、初代アナスタシア・バージョン3アマゾネス・オクサーナの場合だった。
*1 プリンセス・アナスタシアのことである。しかし、この文中でプリンセス・アナスタシアと書くと、皇太子妃になることが前からわかっていた、あるいは、皇太子妃にすることを初めから目標にしていたように思われる。そうではなく、皇太子妃になったから、プリンセス・アナスタシアという呼び方にしたのである。したがって、この部分のみ、このような呼び方をする。初代アナスタシア・バージョン3=スペルマスター・アナスタシアについても同じことである。それに対し、アマゾネス・オクサーナは、当初から、「アマゾネス」と呼ぶべきキャラクターにするつもりだった(それが本来の目標そのものである)ので、このままの呼び方でいく。

初代アナスタシア・バージョン3の場合

《王からの急使が届いた。「8年前の魔王復活し・・・」・・・「今度は私が戦います。」》
えっ、プリンセスになるんじゃないの!?
《武闘会で知り合った仲間たちとともに・・・》
彼女は武闘会に出たことなど一度もないぞ。
《持てる剣力と魔法力のすべてをしぼりだし・・・》
日本語自体もなんか変だが、問題はそれだけではない。彼女は、魔法使いではあるが、間違っても剣士ではない。彼女に剣を握らせたことなど一度もない。彼女が剣など使えるはずはない。
《魔王を倒した。》
魔王はトラと大して変わらない強さだったのだろうか。最終年度の後半ですら、一つ間違えると、トラを倒すまでにヒットポイントが残り100くらいになってしまったのに(最大ヒットポイントは1300以上)。
《・・・そなたに王位を譲ろうと思う。》
おいおい、そんなでたらめな話があるか。まあでも彼女ならいいだろう。知力、気品、容姿とも、女王にふさわしいものはあるはずだ。バージョン2の初代アナスタシアでさえ(今やこんな言い方をされる)プリンセスになれたのだから、彼女が女王になるのは不思議ではない。

アマゾネス・オクサーナの場合

《持てる魔法力と剣力のすべてをしぼりだし・・・》
彼女は魔法は全然使えないぞ。
《王は祝賀会の席上、・・・》
初代アナスタシア(Ver3)のときと全く同じだな。まさか・・・
《・・・世はそなたに王位を譲ろうと思う。》
ちょっと待て!冗談じゃない。初代アナスタシア(Ver3)ならともかくも、こいつが女王だとは認められん。知力・気品・色気が全部ゼロなんだぞ!(現在の正式の最終データは、知力と気品が大幅に上げられてしまっているが、それをしたのは、このエンディングを見てからずっと後のことである。このエンディングを見たときのデータは、知力・気品ともゼロだった。再三にわたって述べてきたことであるが、誤解がないようにするため、重複を承知でここにも記す。)おやじ(養父)が言っているんだから通るだろう。不許可である。却下だ!



この時点で、女王になるのには、気品・色気・知力などは不要であるということがわかった。それで、私は、女王になるのは戦闘能力で決まるのだと思った。魔王を倒して女王になるのだから、それは自然だろう。しかし、この後、私の所属するサークルのある部員からさらに驚くべき話を聞いた。女王やプリンセスになる場合、評価だけで決まってしまうというのだ。800でプリンセス*2、1200で女王になるらしい。このゲームはデータの書き換えが可能なので、それをして調べたとのことだ。評価だけ千数百にしておき、残りの能力値をほとんどゼロにしても女王になったとのことである。
*2 とすると、プリンセス・アナスタシアは、その基準ぎりぎりだったということになる。
*3 後に、私もデータの書き換えができるようになったので、それによって、この基準の値が正しいことを確かめている。後の表中の基準の値も、データの書き換えによって確かめたものなので、間違いはないはずである。

ただし、武者修行を全くしないで娘を育てた場合、評価を1200まで上げることは、非常に困難である。能力値の面では、一応、この後に述べるクイーン(プリンセス)・マルティナが、武者修行をしない場合の限界に近いとみている。彼女は、「クイーン」とついているように、女王になった。しかし、それは、ミスコンテストの他の出場者の能力値を意図的に抑え込む(方法は後述)ことによって実現したものである。それをしないで評価1200に到達することは、不可能とは言い切れないものの、可能かどうか極めて微妙なところである。普通は、データの書き換えなどしなければ、評価が1200あるキャラクターは、かなりの武者修行の経験を積んでいるはずであり、そうなれば、戦闘能力も相当のもののはずである。つまり、それだけ評価の高いキャラクターは、「魔王を倒した」としても、不自然ではないはずである。

そこで、私は、次のような仮説を新たに立てた。「プリンセスより下のエンディングについても、まず、評価によって、どの程度の身分かが決まる。その上で、気品と色気のどちらが高いかによって、エンディングが異なってくる。」そして、その仮説を確かめるために、いくつかデータを作成した*4。さらに評価の低い事例については、運命の日直前でのセーブデータは作らなかった。その1ヶ月前のデータを保存しておき、最後の1ヶ月何をするかによって、後の表のエンディングのうち、「貴族側室」〜「売春婦」のどれになるか変わってくるようにした*5。貴族の側室になる可能性は残しておいたわけだ。「酒場の娘」の状態のセーブデータもあったが、あまりにもかわいそうなので、すぐにポア、じゃなかった、消去してあげた(笑)。
*4 初代オクサーナの、最終年度の収穫祭直前のデータを使い、あやしいバイトをやらせて評価を下げまくった。ひどいことをしたものだ。このままいけば上級貴族夫人になれるはずなのに、娘の将来ぶちこわしである。父親として許されることではない。金が足りなくなったからといって、あやしいバイトをやらせるなど絶対にいけない。というよりは、あやしいバイトをやらせなくてはならないほど金を使い果たすこと自体が間違っている。せめてゲームの中だけでは、娘は清く正しく育てたいものである。
*5 ただし、現在では、このデータも消去された。

上の仮説から、さらに一歩考えを進めると、戦闘能力の強いキャラクターには、また別系列のエンディングがあるはずだ、という仮説に至った。しかし、それを確かめるために、新しいキャラクターを作る気力は、さすがにもうなかった。データの書き換えをして確かめるしかないと思うようになっていた。

それからさらに2日後、私は、このゲームのデータファイルのどこに能力値が書き込まれているか探そうと思って、プリンセス・アナスタシアスペルマスター・アナスタシアのデータ*6の相違点を調べることにした。そのためには、まず、ファイルをダンプ*7し、その結果をリダイレクト*8を使ってそれぞれファイルに残す。さらに、その2つのファイルをファイル・コンペア*9し、その結果も同様にしてファイルに残す。そうすると、2つのファイルの相違部分が抜き出されて、はっきりとファイルに残るわけである。そして、その結果のファイルを一太郎(Ver6.3)*10を使って読み出して調べた。とはいっても途方もない分量がある。能力値はおそらく続けて書き込んであるだろうから、そこは相違がかなり長く続いているはずだと、まず考えた。そのような場所は何カ所もあったが、まず最初のところから調査を始めた。相違が始まっているところには、プリンセス・アナスタシアのほうには7100、スペルマスター・アナスタシアのほうには6A05とあった。16進数で71といえば、10進に直せば113、これは、プリンセス・アナスタシアの体力である。スペルマスター・アナスタシアの体力は、1バイトではおさまらない。2バイト必要である。そこで、2バイトめを上の桁と見ると、6A05は、10進数になおして、5×256 + 6×16 + 10 =1386となる。これはスペルマスター・アナスタシアの体力にまちがいない。ということは、ここから先に能力値が書いてある!
*6 この二人のデータを使ったのは、能力値の差が非常に大きい上、もともとは同じキャラクターとして出発しているのでよけいな相違点が少ないと思われたからである。
*7 ファイルの内容を16進数で表示させること
*8 MS-DOSでは、入力はキーボードから、出力はスクリーンに、というのが普通である(それらを標準入力・標準出力と呼ぶ。)。リダイレクトとは、その入力元・出力先を変更することである。この場合は、それを使って、出力先を新しいファイルにしたのである。
*9 2つのファイルを比較して、相違部分を表示させること
*10 Ver6.3を使わなくてはならなかったのは、三太郎では大きなファイルは読み出せなかったからである。当時、三太郎はRAMドライブの中に入っていたので、これを使って編集できる文書量には、フロッピーを使って起動するときと全く同じ制約があり、だいたい50Kbytesを超えるような文書は編集できなかった。ファイル・コンペアの結果のファイルは200Kbytes近くに及んだ。この後には、三太郎の代わりに四太郎が導入され、この制限は事実上なくなった。

一つ見つかれば、あとは、12バイトごとに、いもづる式に能力値が出てきた。このゲームのセーブデータには、娘の能力値に加えて、武闘会やミスコンテストの他の出場者の能力値、武者修行のモンスターの能力値も記録されている。このゲームのセーブデータのサイズが比較的大きいのはそのためでもある。どのキャラクター(モンスター)の能力値も、同じ数値が2回続けて記録してある。例えば、能力値が10進数で4703なら、セーブデータ中では 5f 12 5f 12 と記録されている。なお、これはi80x86のマシン語の仕様によるものと思われるが、常に2バイト目が上の位である(したがって、違う機種でプレイしている場合、この点は逆になる可能性がありうる。)。娘の能力値が記録されているアドレスは、25c8〜277f、記録されている順序は、体力、腕力、知力、気品、根性、疲労、色気、モラル、評価、経験値、戦闘技術、素早さ、装甲強度、攻撃増強、H.P.、MPの順(つまり、ゲーム中で娘のステータスを見るときに表示されるのと同じ順番)である。

次の日、バイナリエディタ*11なるものを手に入れ、これで、能力値に関してはデータの書き換えが自由にできることになった。それからすぐに、私は、エンディングの解明に移った。データの書き換えをフル活用した結果、気品・色気・体力・腕力・知力・モラルのどれがもっとも高いかによって、エンディングの系列が分かれていることが判明した。そして、6系列26種類のエンディングが発見された。
*11 バイナリエディタとは、ファイルをバイナリイメージで編集できるエディタである。つまり、画面上でしかるべき位置に16進数を書き込めば、それに対応するファイルの位置にその通りのコードが書き込まれてしまうのである。普通のエディタのように文字で入力することもできる。

それからおよそ2週間半後、今度は、身長・体重がどこに書いてあるのか探そうと思い立った。まず、整数の値である所持金を探した。キャラクターの状態を見るとき、身長、体重、所持金は一まとめにして表示されるので、所持金の書いてある近くに身長・体重も書いてあると考えたからである。そのデータの所持金の値を16進数になおし、上2桁と下2桁をひっくり返して(2バイトめが上の桁だから)、その16進コードを探した。ファイルの先頭近くで1箇所見つかっただけだったので、それが所持金だろうと断定した。それから、本題の身長・体重を探した。最初、これらの数値は浮動小数点形式で表されていると考えて、身長・体重の2進数表示を16桁(2バイト分)求めて、これを16進数になおし、それの上2桁と下2桁をひっくり返したものを検索した。しかし、そのようなコードは見つからなかった。私はあきらめようかとも思ったけれども、そこでもう一つの考えが浮かんだ。ひょっとすると、実際のキャラクターの数値を10倍した整数で表されているのではないかと思ったのだ。そこで、身長の10倍、体重の10倍の整数を、それぞれ、所持金のときと同様に、その数を表す16進コードになおし、それを検索した。この考えを思い付いたときは、まさかこんなことはあるまいというくらいのつもりだったのだが、そのコードが所持金のすぐ近くで見つかったので、もしやと思い、その部分を書き換えてみて、プリンセスメーカーを立ち上げてそのデータを読み込んで、どこか変わっているか見てみた。すると、なんと、身長・体重がばっちり書き換わっているではないか!なんて見つかりやすいところにデータが書いてあるのだろう*12。感動ものだ。データの書き換えをやってくれといっているようなものではないか。しかし、ここまで簡単に書き換えができてしまうと、自分がいままで苦労してきたのは何だったのだろう、という思いに少しだけかられる。なお、身長・体重・所持金のデータは、能力値と違い、同じデータを2度続けて記録はしていない。また、プロポーションは、身長・体重からプログラムが自動的に割り出しているので、プロポーションを記録する場所はない。
*12 全体で30KBytes近くもあるファイルなのに、身長・体重・所持金は先頭のわずか256Bytesの中に書いてある。

長い間、われわれは、プリンセスメーカー(ガイナックス制作の第一世代のもの)のエンディングは6系列26種類であると思っていた。そうではないと判明したのは、Ax氏の次のような質問がきっかけだった。彼はPC-Engine版(以下PCE版と略す)で解析を行っている。それまでは、ガイナックス版のエンディングは6系列26種類で、マイクロキャビンがMSX-2およびPC-Engineに移植する際に特殊エンディングを3種類追加し29種類にした、と思われていた。しかし、彼は、PCE版の解析で、7系列29種+特殊3種の計32種類のエンディングを発見したのである。したがって、ガイナックス製であるPC-98版にも、7系列29種のエンディングがある、という仮説が出てくる。新たに見つかったのは「魔法使い」の系列のエンディングである。この系列のエンディングを見るための条件としては、次のようなものが予想された。

  1. 主要パラメータの中でMPが最も高い。このゲームでは、戦闘中を除き、知力とMPは等しいから、MPが最も高いとは、すなわち知力が最も高いことを意味する。
  2. 博士の称号を得る。このゲーム中には、攻撃・防御・回復の3種類の魔法があり、それをすべて使えるようになるには博士の称号が必要である。
  3. そのエンディングには「冒険や修行の結果、非常に高いレベルで魔法に精通した」という一文が出てくる。したがって、レベル・経験値がある程度以上必要である。

私が育てたキャラクターの中でこれらの条件に最も近いのは、スペルマスター・アナスタシアである。彼女も主要パラメータの中では気品が最も高いのだけれども、その気品と評価を下げれば、予想される条件をすべて満たすキャラクターとなる。そして、気品と評価を書き換えて、どのようなエンディングを迎えるか見てみた。すると、彼女は王宮魔法師になるではないか。こうして、PC-98版にも魔法使いの系列が存在することが明らかにされた。次に問題になるのは、知力の最も高いキャラクターの系列は別に存在するわけだから、その系列と魔法使い系列を分ける条件は何かということである。まず博士の称号が必要かどうかについては、一級学士の称号しか持っていない初代オクサーナ(Ver1.1)のデータを書き換えて実験すればよい。それによって、博士の称号が必要であることが確認された。次に求めるべき条件は、魔法使いのエンディングに必要なレベルと経験値である。この解析は難航した。当初、その条件は、ある一定のレベルに到達することであると考えた。そうならば、それを求めるためには、レベルの書き換えができなくてはならない。レベルは、他の能力値が記録されている部分には記録されていない。当初は、身長・体重・所持金が記録されている部分を調べたけれども、そこにも見あたらない。しかたなく、アナスタシア・ザ・グレートのデータを利用して探すことにした。レベルも、2回繰り返して記録されてはいないと思われた(そして、現にそうだった)ので、これを特定するのは極めて困難だと思われた。彼女の最終時点でのレベルは41*13である。そこで、16進数で29という並びを探した(以降、頭に0xをつけて16進数を表す。)。ところが、意外にも、これが数カ所しか出てこなかった。次に、同じキャラクターの最終年度収穫祭のデータを調べた。そのときのそのキャラクターのレベルは39である。したがって、最終時点で0x29となっているアドレスのうち、最終年度収穫祭時点で0x27となっているところを見つければ、そこがレベルが記録されている位置となる。そのような箇所は1カ所しかなかったので、その位置にレベルが記録されていると確定した。そして、レベルを低く書き換えた。ところが、そのデータを読み出すと、レベルは31(スペルマスター・アナスタシアの最終時点のレベル)になっていた。ひょっとすると経験値も書き換える必要があるかもしれないと思い、レベルを下げると同時に経験値も数百に書き換えた。すると、レベルも経験値も書き換えたとおりの数値になった。その後、経験値は数百のまま、レベルを高く書き換えた。今度は書き換えた数値のまま、修正はされなかった。それから、レベルだけを少しずつ上げて、どのようなエンディングを迎えるか見た(当然、気品と評価は下げたままである)。ところが、いくらレベルを上げても、エンディングは「アカデミー総裁」のままである。このエンディングは、評価が400〜799で、知力が最も高く、レベルが高くない(または博士の称号をとっていない)キャラクターのものである。つまり、魔法使いの系列のエンディングを迎えるための条件は、レベルでなく経験値である、ということである。それなら、その経験値はいくつなのか、が問題である。当初は、区切りのよいレベルに到達するのに必要な値(例えば、4200(20レベル到達)、6500(25レベル到達)など)と考えていた。4200で魔法使いにはならず、6500でなった。しかし、6500から経験値を下げても魔法使いになってしまう。次には、21〜24レベルのレベルアップが起こる値だろうと考え、それらの値をあたってみた。ところが、22レベル到達の値では魔法使いにはならず、23レベル到達の値およびその値−1では魔法使いになる。したがって、求める境界は、レベルアップが起こる値ではないわけである。
*13 詳しくは後で述べるけれども、これは大変なことである。ほとんど限界だと思う。

Ax氏の報告によると、PCE版には、魔法使いの系列で「最低」のレベルのエンディングがない(知力が最も高く魔法使いの条件を満たさない場合と同じになる)となっていた。しかし、私がPC-98版で調べたところ、魔法使いにも最低のレベルのエンディングが存在することがわかった。普通に考えれば、魔法使いの系列だけこのレベルのエンディングがないというほうがおかしな話なのだが。つまり、ガイナックス制作のものには、7系列30種類のエンディングが発見されたことになる。すると、今度は逆に、マイクロキャビン版には、7系列30種類+特殊3種類で33種類のエンディングがあるのではないかという疑問が生じる。PCE版の場合、オープニングとエンディングにCD-DAを利用しているため、オープニングとエンディング全種類あわせて、CDの容量である74分−(プログラムとゲーム中の画像データ)におさめる必要がある。PCE版のオープニングとエンディングは、ご丁寧なナレーション付きで、非常に長いらしい。Ax氏によると、そのCD-ROMの容量の問題のために、このエンディングを移植しなかった可能性があるとのことだ。それが本当だとすれば、MSX-2版では33種類のエンディングがある可能性が大きい。この点については、読者のみなさんが各自究明していただきたい。

こうして、エンディングには多くの種類と系列があることが判明した。しかし、ふつうにプレイしている限り、見られるのはそのごく一部である。武者修行をしないで育てる場合、あやしいバイトをしないと、たいてい気品がもっとも高くなる。あやしいバイトをした場合は、おそらく、色気がもっとも高くなるであろう。武者修行をした場合は、どの能力値をあげるかは、かなり自由に選択できる。あげたい能力値をあげるアイテムだけを使えばよいのだし、武者修行に出ていない間に、あげたい能力値をあげるような教育やバイトをすればよい。

しかし、この方法によっても、いろいろなエンディングを見ることはできないだろう。なぜなら、武者修行をすると、評価の値がどんどん上がって、簡単に女王様のラインを突破してしまうからである。武者修行は、町を出て町に戻ってくるルートになっており、出発地点から近い順に、近郊、辺境、蛮地に分かれている。1日生き残るごとに、近郊では1、辺境では2、蛮地では3、それぞれ評価があがる(どこにいたかは、その日の最後にいた場所で判断される。)。まっすぐにアイテムをとりに行くと、1日目〜4日目は辺境で、それ以降は蛮地で終えることになる。だから、10日の武者修行では、2×4 + 3×6 = 26評価が上がることになる。これを毎月2回繰り返せば、評価の上昇速度は桁違いのものになることはおわかりいただけるであろう。アナスタシア・ザ・グレートにいたっては、3年度12月(武者修行を始めてから1年8カ月目)で女王のラインを越えた。また、予定の日数より早く武者修行を制覇した場合、評価はなんと50上昇する。

武者修行に頼らずに戦闘能力をつけるようとするなら、12歳までは毎月20日を宿屋または木こりのバイトに、13歳を過ぎてからは狩人のバイトに当て、残りの10日を武芸の訓練に当てれば、わずかながら経験値は得られるだろう。また、この方法では、当然、体力か腕力かのどちらかがもっとも高い能力値となる。しかし、この程度のペースでは、昇級試験に合格するのはかなり困難だろう。昇級するには、昇級前のクラスの師範と戦って勝たなくてはならず、師範は時間がたてば能力が上がるからだ。毎月武者修行を続けた二代目オクサーナでさえ、剣士の称号をとれたのが3年度11月のことなのだ*14。昇級できなければ、経験値を稼ぐペースはあがらない。それで武闘会に出て優勝できるようになるかどうかは、きわめて疑わしいと言わざるをえない。そうなると、評価は、バイトを1クール全て成功させることによってしかあがらない(そのたびに+1)。それでは、評価は3桁いくかどうかである。
*14 ただし、クイーン・アナスタシアアナスタシア・ザ・グレートなら、その気にさえなれば、二代目オクサーナよりずっと早く剣士の称号をとることも可能だっただろう。

知力がもっとも高いキャラクターを作るのはさらに困難である。知力を上げるバイトは、副作用として、体力(医者)または腕力(代筆屋)が下がるので、必然的にミスコンテスト向けのキャラクターにならざるをえない。しかし、知力を上げる教育(「学問」)は、礼法の稽古に比べて効率が悪い。そして、それよりも重大な問題は、どうやって評価をあげるのかということである。知力を上げることばかりに集中していては、ミスコンテストでの優勝などとうていおぼつかない。この場合も、バイトを1クール全て成功させることによってしか評価があがらないということになりかねない。

もっとも困難なのは、おそらく、モラルのもっとも高いキャラクターを作ることであろう。モラルは、基本的には、「教会」のバイトでしか上がらない。しかし、教会のバイトはほとんどお金にならない。このゲームは、娘の養育費は、すべて、娘自身が稼がなくてはならない。だから、そんなバイトばかりしていたら、ほかに何もできなくなってしまう。もっとも、教会のバイトをひたすら続ければ、疲労回復の時間もいらない(教会のバイトは疲労は増加しない)から、1クール全成功による評価上昇が最大200〜250程度期待できる。だから、上級尼僧(評価100〜399)ないし尼僧(50〜99)にしたいのなら、教会のバイトをひたすら続けて、適当なところで打ち切って休ませておけばよい。娘を出戻りさせたい(評価49以下)のなら、8年間娘を寝かせておくのが最も早い。ただし、初期ロットのプリンセスメーカーでは、8年間すべて「休み」にすると「やりなおし」になったという噂を耳にしたことがあるが・・・

とにかく、このようなことをして変わったエンディングを見るよりも、女王様を育てる方が、よほど簡単である。

もっと実現可能性の高い案としては、とりあえず、武者修行の準備をして、武者修行を始め、あげたい能力値をあげるアイテムだけを集め、評価が目標の値に近づいたら武者修行を打ち切るという方法が考えられる。そして、その後は、あげたい能力値をあげるバイトばかりをするわけである。もしそれをするのなら、十分に余裕を持って武者修行を打ち切らなくてはならないだろう。つまり、評価が目標の値に比べてかなり(100以上)低いうちに、武者修行を終わりにしなくてはならない。その理由は、バイトを1クールすべて成功させると、評価が1上がることである。1回につき+1というと、大したことないように思われるかもしれないが、何年もの間、疲労回復に要する手順を除けばぶっ続けでバイトをするわけだから、1クール全成功の回数は大変なものになる。したがって、それによる評価の上昇もバカにならない。特に、モラルをあげる場合は、教会のバイトはまず確実に全部成功してしまううえ、疲労がたまらないために疲労回復の時間が不要になるので、この余裕はさらに多くとっておく必要があるだろう。
(この段落、2007年4月に改版)前にも述べたとおり、知力の最も高いキャラクターには、「魔法使い」「学者」の2系列のエンディングがある。諸氏の調査により、経験値が知力の2倍以上の場合が「魔法使い」の系列のエンディングになることがわかっている。とすると、武者修行で鍛えて知力が最も高い娘は「魔法使い」系列のエンディングを迎える可能性が高いと思われる。「学者」系列のエンディングはかなり難しいことになる。ところで、「魔法使い」「学者」とエンディングの系列が分かれていることは、すなわちこのゲームの制作者が、同じ知力が最も高いキャラクターに対し、武者修行をしたかしないかでエンディングを分けたことを意味する。とすると、なぜ他の能力値が最も高いキャラクターについては、2系列にエンディングが分かれていないのかという疑問もわいてくるが…

これらの方法は、武者修行によって一度女王様を育て、さらに、エンディングが後の表のような体系になっていることを知っている人でないと、思いつかないであろう。したがって、それを知らない人が、変わったエンディングを見ることは、ほとんどできないであろう。



評価だけによって、エンディングが決まってしまうことには、なんとなく不満を感じる。あやしいバイトをしたことによって評価が下がった場合は、それに対して何らかのペナルティーがあるのは当然であろう。しかし、それにしても、「どきっとするほど色っぽい女になったが、それ以外にこれといった取柄もなく・・・」とはひどい。気品の値も相当なものだし、一級学士の称号もとっている。 評価の値が低いからといって、そのキャラクターが全くの無能力者であるいうのは、明らかな誤りである。 また、例えば、プリンセス・アナスタシアが、ミスコンテストに最初のうち出なかったとか、あるいは出ても強い相手とばかり当たったために、評価が上がらなかったとしたら、全く同じ能力値で、あやしいバイトをしていないにもかかわらず、プリンセスどころか、下級貴族の夫人どまりの可能性もあるわけだ。もっとも、プリンセス・アナスタシア程度の能力値では、ミスコンテストなどでよほど幸運に恵まれて(強い相手と当たらず、優勝を続けるということ)、名前を売ることができない限り、プリンセスの座を射止めるのは無理であろう。テストキャラクターも、多くの能力値について、プリンセス・アナスタシアと大差なかった。気品や色気にいたっては、プリンセス・アナスタシアのほうが劣っているくらいであった(プリンセスというのなら、せめて後述のプリンセス・エカチェリーナくらいの値がほしい)。となれば、むしろ、プリンセスというほうが過大評価と言うべきだろう。評価の値が能力値(の積分値)を正しく反映するのなら評価だけを基準としてエンディングを決めてもよいけれども、実際はそうなっていない部分が多いのである。その極端な例が、この前に述べたアマゾネス・オクサーナであり、第5部で述べるクイーン・マルティナである。それゆえ、評価以外の能力値そのものを判断基準に何らかの形で組み入れるべきであり、そうでないと、このような不合理が起きる、と私は考えている。さらに、「名声」と「悪評」を分けたほうがよいだろう。あやしいバイトをしたり、非行化したりすると、「悪評」が上がる。「悪評」の水準によっては、能力値がどんなによくても、エンディングでよい身分にはなれないようにする。一方、「名声」のほうは、他の能力値と組み合わせて評価基準とする。つまり、名声があれば、能力値の補いとすることができるが、全くなくても、十分に能力値があり、悪評もなければ、悪くても平均以上のエンディングを見られることにする。逆に、名声が高くても、能力値が低ければ、エンディングで化けの皮がはがれるというようにするわけである。エンディングの矛盾は、あやしいバイトをしたから評価が低いのか、能力がないから評価が低いのか区別がつかないことが原因であることが多い。悪評と名声を分けることによって、そのような矛盾は防ぐことができる。ただし、あやしいバイトをせずに後述のクイーン・マルティナを大きく上回るような能力値を達成した場合は、必ず評価も大幅に上がっているはず(そのような場合は、必ず武者修行に出ているはずであり、武者修行に出れば、前にも述べた通り、評価は急速に上がる。)である。また、アマゾネス・オクサーナクイーン・マルティナは「かなり特殊なプレイ」の産物であり、普通にプレイする限り、高い評価のキャラクターはそれ相応の高い能力値をもつ。だから、評価だけでエンディングを決めても、それほど不合理は感じないのだろうが・・・。

いずれにせよ、女王の基準が評価1200というのは甘すぎる。私の経験からいえば、この4倍程度に引き上げてもよい。武者修行の日程をきっちりこなしていれば、評価5000程度はさほど難しいことではない。それに、女王と言うからには、気品、知力、色気あたりに、厳しい条件があるべきではないか。私の考えでは、本当に女王と呼んでいいのは、私の育てたキャラクターでいえば、クイーン・アナスタシア以上である。ただし、気品・色気・知力の条件を考えるときには、血液型何型を前提にするかが問題になる。これも第6部で詳しく述べるが、血液型によって、能力には大きな差が生じる。AB型やB型のキャラクターで、クイーン・アナスタシアなみの能力値を達成するのは、身長・体重の問題を無視して、前半からしっかり時間をかけたとしても、かなり苦労するであろう。一方、O型やA型のキャラクターなら、その程度はさほど困難とは思われない。血液型の違いで、戦闘能力に大きな差があるというのは、問題である。また、プリンセスの基準も、武者修行をしないという条件をつけても(レベル・経験値または戦闘関連能力値で判断する)、800ではやや甘いであろう。900か1000くらいにしたいところだ。1000は厳しすぎるだろうか。しかし、女王やプリンセスは、最高のエンディングなのだから、それが初めてプレイする人にも簡単に見ることができるのでは、ゲームとして面白くないではないか。あるいは、武者修行で評価が上昇しないようにするという方法も考えられる。そうすれば、武者修行をしたキャラクターでも、いい加減なやり方では評価1200を達成できなくなる。また、評価1200という条件の中に、気品や色気の条件を自動的に取り込むことができる。これについては補遺に述べる。



それにしても、「あなたの教育は・・・だった(・・・=最高、立派、よい、人並み、最低)」(女王とプリンセスのどちらでも「最高」になる)とエンディングに出てくるが、この父親は娘に対して教育らしいことをしたのだろうか、といつも思う。このゲームは、イベントによりぼったくることができない。娘の養育費は、すべて娘自身がバイトか武者修行で稼いだものだ。しかも、同じバイトをいくら続けても、日給は上がらないし、1クール全部成功しても、評価が+1されるだけで日給は変わらない*15。それでも、武者修行をしないキャラクターのときは、まだ、毎月父親が日程を考えてやらなくてはならないから、教育をしているという気はする。武者修行で鍛えたキャラクターのときは、特にそれを強く感じた。アマゾネス・オクサーナの父親は、娘が武者修行と木こりに出かけるのをじっと見ていただけだった。それ以降の女王3人は、武者修行によって、自分の能力を上げるアイテムを購入したり礼法の稽古をしたりする金を自分で稼ぎ、同時に、自力でアイテムを手に入れて強くなっていった。ただ、もしこの4人の父親にほめられるべき点があるとすれば、それは、娘にこれだけのポテンシャルがあることを見つけだしたという点だろう。11歳になったばかりのときから7年間にもわたって、厳しい武者修行を毎月20日もこなすなど、普通の少女にできるはずがない。名馬はいつの世にもいるが、それを見つけだす名伯楽はなかなかいない、と古人も言い残している。
*15 この部分は、プリンセスメーカー2との対比という文脈で述べたものである。プリンセスメーカー2では、同じバイトを続けると日給が上がっていく。また、1クール全部成功すると、日給がなんと本来の5割増しになる。しかも、一つのバイトに熟練すれば、絶対といってよいほど失敗はなくなる(ここもプリンセスメーカー(第1作)とは大幅に違う。プリンセスメーカー(第1作)では、一つのバイトにいくら熟練しても、疲労がない状態でも2クールに1回程度の失敗は避けられない。)ので、この両方の相乗効果で実質的な日給は急速に上昇する。また、収穫祭のイベントで優勝すると3000〜4000ゴールドの賞金を受け取れる。さらに、「誘惑の香水」というアイテムを手に入れると、娘にプロポーズしたいという人がしょっちゅう現れるので、断わってやれば、お金だけ置いて帰っていく。以上のように、プリンセスメーカー2は、娘の養育費をいかにぼったくって捻出するかというゲームでもある。

エンディングの種類と系統

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