10月28日 モスクワ公演

7:00頃から車内に音楽が流れ始める。私とSvetaは2段ベット上段で眠り続けた。30分ほどまどろみ、起きることにする。よく見ると列車なのにリネン類が素敵である。そしてモーニングボックスとお水のサービスがされている。


外は晴れているらしく、明るい。関島さんたちのコンパートメントでは和やかな話し声がする。多田さんと関島さんは新婚に間違えられ、そのまま新婚夫婦で通しているらしい。この二人、行きの飛行機の座席も並びで多田さんは「なんかこれって、新婚旅行みたい?」といっていた。日本にいる両者のファンにばれると怖いのに。私も起き出してトイレに行き、部屋をのぞくと二人が差し向かいで列車に準備されたモーニングボックスを食べている。「おはよう!」と笑みのあふれる若奥様・多田さん。同室の女性二人は気をきかせて廊下で車窓を眺めながら立ち話。梅津さんたちは?とのぞくと起きたところで皆ボーっとしている。

車窓からビデオを撮ったり、写真を撮ったりしているとみるみるうちに都会の雰囲気に。私も朝食を、と思った頃にモスクワ到着。荷物をまとめ、外に出た。乗ってきた列車を眺めながら歩くと、食堂車が目に付く。これは、と思い覗き込むと関島さんも同じように眺めている。「食堂車ですね」「次の移動の時は入ってみたいよねー」。駅の看板、注意書き、構内図など二人して次々と写真に収め、ご満悦。
 

    

9:30。予定通りにモスクワ着。DOMおじさんの迎えの車に乗り込み、DOMへ向かう。ライブで使う楽器などをDOMに下ろし、ホテルにチェックインすることに。おなかすいたなー、と思いながらふたたび車へ。
相変わらず愉快な運転のおじさん。そして車外から入ってくる排気ガスが気になる。私と多田さんはすでにマスクシスターズと化していたが、他の人たちは外気吸いっぱなし。あまりよい感じがしない。車内で撹拌される事30分以上。ひどい混雑である。この混雑で移動の時間の目処が立たないので、夕方のDOM会場入りは地下鉄ですることになったのだ。
ついたホテルは巨大近代的ホテル。イズマイロヴォホテル。後から調べたところによるとアルファ・ベータ・ガンマと6棟に別れており、モスクワオリンピックの時に立てられたヨーロッパ最大級のホテルらしい。今では棟によって、ロシア人用・欧米人用・東南アジア人用と分けられているらしい。よく似た建物がそびえたっており、後日私たちもこの敷地内で迷子になった。ウワサのロシアホテルにも泊まってみたかったが、梅津さん・多田さんが口をそろえて「ロシアホテルより綺麗だ、10倍よい。」とほめるのでやはり怖いもの見たさは我慢した方がよいのだろう。ロシアホテルが満室でラッキーだったのだろう。

ここでもSvetaが全員分のチェックイン作業を行ってくれた。ゆうに30分はかかったのではないだろうか。フロントは英語も話せない。どうやら私たちが泊まったのは東洋人向けの棟ではない事も要因のようだが、個人旅行できていたら、どうなっていたのだろう。私たち7人はその間にロビーでお茶とパン。売店のおばちゃんが売っているパンがどれもおいしい。しょっちゅうパンを買っていたので、最後にはパンおばちゃんに手招きされるようになってしまった。
 

 チェックイン手続きが完了し、いざ部屋へ。ロシアでは各階に受付カウンターがあり、数名の女性が居座り、鍵の管理をしている。お湯もここでもらえるようだ。鍵を受け取り部屋割りを確認するとここでも多田&関島、あとも女性&男性の組み合わせで私が一人部屋ということになっているらしい。なぜビザを取るときに性別を申告したのか、チェックインでパスポートを見せているのか、はなはだなぞである。メンバーチェンジはご自由に、ということなので松井さん&私、新井田さんが一人部屋に。部屋は綺麗で鍵もちゃんとかかる。お湯が茶色く濁っていること以外はいたって快適である。出国以来お風呂に入っていなかったので、とりあえず汗を流す。さっぱり。
 

 身支度を整え、少し休むという多田さんを残し、張さんと松井さんと三人でホテル探検。まずはおなかを満たそうとレストラン探し。何箇所もあるのだが、入っていっても全然歓迎ムードがない。休み時間なのだ。バーのようなレストランに入ると隣の寿司バーを勧められるが、ここがいいのだ、と身振りで主張し居座る。お兄さんも観念してメニューを持ってきてくれた。が、ロシア語だけしか載っていない。会話本と首引きでメニューを眺め、スープと肉料理とサラダとパンを注文。何が出てくるのだろう、と思っていたら塩味のキャベツスープ・多田さんが焦がれていたチーズがとろーっととろけるキエフ風カツレツ・グリーンサラダ・ライ麦パンが出てきた。おいしい。3人でたいそうご満悦。満腹になったところで出発まで部屋で休息を取ることに。

15:50 ロビー集合。Svetaがこない。どうしたんだろう、と思っていたら30分遅れて到着。地下鉄が事故で遅れてしまったらしい。荷物もなく身軽なので、足早に地下鉄の駅へ。改札は日本と違い、切符を挿入するとすぐに切符は返却されてくるので、それを受け取って改札を通るロンドン方式。日本のように切符を通し、改札をとおった向こう側で切符を受け取る方が珍しいのかもしれない。モスクワの地下鉄はどの駅も彫刻などをほどこしてあり、とてもきれい。よく見ると戦争の時の情景が多かったりするのだが、白が基調なのでそれほど重苦しい感じはしない。時々停電をする電車を乗り継ぎ、DOMのある駅へ。


17:30 サウンドチェック開始。PAの方が不慣れなのか時間がかかる。リハ風景をビデオに収めつつ、建物内を散策。楽屋として通してもらった部屋は学校の美術室のよう。実際ここで絵画や造形教室が開かれているらしい。この日も青年が二人、もくもくと絵を書いていた。壁にもデッサンなどが多数貼られている。DOMの活動は本当に幅広いのだろうな、と感じさせられた。
   

19:00 チェック終了。さすがにおなかがすいてきたので、夕飯をお願いする。メニューは魚のフライか牛の心臓のゆでたものか。心臓?と思ったが食べてみると弾力がありとてもおいしかった。付け合せは日本人スペシャルでバターライス。他の人たちはカーシャと呼ばれるそば米を食べていた。食事中にも本日のお客様が次々と入ってくる。『あ、あれが出演者だよ』と言っているのか視線が集まる中、食事終了。楽屋に引っ込み、皆さん本番準備に入る。私はステージの上にお水を、と厨房にお願いをしにいくと『ボトル?グラス?』と聞いてくる。ボトルがいいなーと言うと出てきたのはいまどき珍しいガラス瓶に入ったミネラルウォーター。このガラス瓶はDOMのこだわりなのだろうか?メンバー分6本を運ぶがなかなかずっしりと重い。
 

CD売場はどうなっているのか、とのぞきに行くと黒山の人だかり。開演前にして、結構な売れ行きの様子。去年KIKI が来ているので、その効果も大きいようだ。Svetaが一人で対応に追われている。手伝おうにもロシア語で金額が伝えられないので、断念。『すごい!私たちお金持ちだ!』とSvetaに言うと『違うわよ、今は私がリッチなの。コンサートが終わったらあなた達がお金持ちよー。』と返された。

20:00 この時点ですでに立ち見が出ている。開演に先立ち、DOMからの挨拶。ニックの挨拶は20分も延々と続く演説で、その演説により観客は舞台に引き込まれていく名物だったらしい。残念ながら今回のナジャの話は2分程度で終了。まだまだ時間があると思っていたメンバーはちょっと拍子抜けした様子。そして私も本番用ビデオテープに入れ替えるタイミングを失ってしまい、そのまま本番撮影を開始。
 会場の持つ暖かい雰囲気もあり、メンバーの会場も皆うれしそうにニコニコとしている。いいなぁ。音楽を介して、伝えられるものがあり、その相手が喜んでいるのが見て取れる関係と言うのはうれしくなってくる。そしてとてもうらやましい。そしてこの情景を海外で見ている私はなんて幸せなのだ、としみじみ感じる事ができた。1ステ終了。お客さんも皆、満足そうである。
 

少し長めの休憩を挟み、2ステ開始。梅津さんの英語MCはここでも大受けである。一人のお客さんはカメラを片手に張さんににじり寄り、盛んに写真を撮る。そうだろうそうだろう、その方の笑顔は素敵だろう?そしてグレートさんのローマンスでは松井さんのソロが始まると完成&拍手。優雅だもんねぇ。この日は新井田さんのソロもさえていました。アレブリダーの会場練り歩きも大いに迎えられ、アンコールへ。ツンバラライカは会場の年齢層が若かった事もあるのか、微妙な受けだったが、ここでもチェブラーシカ&ゲーナの二曲が始まるとみんなニコニコと大合唱。会場にいる人たちがみんなDOMが好きで、ニックが迎え入れたミュージシャンなら、と見に来てくれていて、そして去年のKIKIがよかったから、と来てくれている。『私のメインバンドが二つとも、このDOMにこられた事はとても幸せな事です。』という梅津さんのMCをしみじみと思い返し、サイン攻めにあうメンバーを撮影。日本人の方も来てくれていて、今日の公演を喜んでくれていた。DOMは日本語では家。ここはとても暖かいモスクワの家なのだ。
 片付け物を始めるとSvetaが困り顔でよって来た。『CDがもうこれしかない。』手には月光石のしっぽが3枚。梅津さんに確認をし、あと5枚ずつ追加販売。すごい売れ行きである。本当に受け入れられたのだなぁ、すごいなぁと実感。

 チーズサンドの夜食を出してもらい、DOMおじさんの『帰ろう』攻撃をかわしつつ、みんなで歓談。Svetaは今日が最後で、明日からのガイドは別の人になるのだ。彼女は最終日の空港までの見送りをしてくれるそうで、それまでは会えない。本当によく気がつく女性で、食料・飲物の確保からわれわれの安全まで安心してお任せする事ができた。メンバーは各自のCDのプレゼントなどし、別れを惜しむ。明日からのガイド、男性のセルゲイが挨拶に来た。英語はSvetaほどではないが人はよさそうである。すでに酔っ払っていて『明日はホテルのそばのマーケットを案内するからね。そのあと電車で移動だよ。』と一生懸命に説明をしてくれる。そのちょっと浮かれた様子を見ながら張さん・松井さんと「明日から、食料の確保は自分達でやらなきゃなんね。人はよさそうだが、Svetaみたいに飲みものやバナナをたくさん買ってくれる事はなさそうだ。」と語り合う。幸い2日間彼女が一緒にいてくれたおかげで、何をすべきかはもう把握ができている。少し私たちも自立する事としよう。
 

痺れを切らしたDOMおじさんの追いたてもあり、車に乗り込み、道もすいているので20分ほどでホテルへ。『明日また迎えに来る』と言い残し、おじさんは帰っていった。すでに12時近い。おじさんにしてみたら残業もいいところなのだろう。どうもありがとう。
各自荷物を部屋に置き、再度ラウンジで飲みなおすことに。多田さんはおねむで不参加だったが、皆さん今回のメイン会場の演奏が無事終わった事もあり、本当に幸せそうに話に花を咲かせていた。私もジュースなど飲み、その場に加わる。軽いつまみでウォッカを飲んでいた事もあり、関島さん座ったままご就寝。1:30にお開きに。


この日は終演後に一人の男性から話しかけられた。アルコールでかなりご機嫌である。
『僕はね、中国からお茶の輸入をしているんだ。おいしいお茶なんだよ。今日やった曲はさ、僕の国の音楽なんだ。僕はユダヤ人だよ。彼の歌もよかったけど僕だって歌える。(ハバナギラを歌い始める)いい歌なんだ、そうだよね、君はクレズマーが好きなんだよ、だったらよく知っているよね。』
民族という意識を持つことなく育った私。彼の喜び方を見ていると、梅津さんたちがクレズマーを演奏する意味を改めて考えさせられた。

それにしてもとても良い日だった。何かを伝え、受け止めてもらえる。
私も何かを人に伝えられるようになりたい、そんな事をしみじみと思った一日だった。
ロシアについてきてよかった。


10/28 モスクワ 会場 : DOM

一部
1. デル・ガズン・ニグン
2. オデッサ・ブルガリッシュ
3. 満月の華
4. JINTA
5. コンノートの靴磨き
6. ウェスタン・ピカロ
7. デルシュトゥラー・ブルガー


二部
1. 月下の一群
2. バルカン・コチャック
3. グレートさんのローマンス
4. ルメ・ラジ
5. ダンスの楽園
6. ハバ・ナギラ
7. アレ・ブリダー

アンコール
・ ツンバラライカ
・ チェブラーシカ
・ 誕生日の歌

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