11月2日 帰国の日

最終日の朝、朝食が10時までなので9時過ぎに起きだす。多田さんも薬が効いて久しぶりに眠ることが出来たそうで、今朝は朝食を食べに行くと言う。鍵と引き換えにクーポンをもらうとおばさんが『電話代金を払え』という。昨日病院にかけた分だろう。あとで、と言い残しレストランへ。男性組みはすでに朝食を食べている。海藻サラダ、レバーいためなど気に入ったものをいくつか皿にのせ、スープを取って朝食を始めた。この日は19:20の飛行機で帰る事になっており、14時半にDOMおじさんとSvetaが来てくれることになっている。部屋は12時チェックアウトなので、早めに荷物を持って集まり、ロビーのラウンジで交代で荷物番をする事にした。ここのホテルのロビーは健全な雰囲気なので、安心である。この日もヨーグルト品評会をして、朝食終了。


部屋に戻るため、鍵をもらいに行ったらおばさんがすごい剣幕で『今払え、すぐ払え。』というので多田さんたじたじ。お金を用意してカウンターへ。おばさんも語彙が少ないので、言葉がストレートできついのだ。踏み倒す人がいるのだろうなぁ。私は荷造り。皆さんにいただいたサイン葉書を大切にしまう。撮りためたビデオも整理し、最後の空港での様子を収めたら、梅津さんに渡せるように準備をする。そして部屋の中の記念撮影。古いが良い部屋だった。お風呂のタイルがちぐはぐだったり、洗面所の鏡の前の台をワインコルクとゴム板で補強してあったり、と随所に見られる工夫?が楽しかった。
  

11:00 集合後、ラウンジに荷物をうつし、張さんと松井さんがお留守番を、と言ってくださるのでお任せして外へ。この日もお土産マーケットへと向かう。この日は土曜日の約半分の出店率か。入場料も支払って中へ入った。お土産屋の買付日とあって、飲み物の移動販売などが行われている。口琴屋を探すが、やはりこの日も出店がない。見つけたときに買ってよかったなぁ、と思っていると梅津さんが口琴を見つけてきた。二人で向かってみると縦笛などに混じって綺麗な木彫りのケースに入った口琴がおかれている。どうやら同じ口琴のようだ。お店の人が違うので、値段も違うだろう、と思っていたら日本円で3,600円くらいのことを言う。楽器の品質は確認済みなので「よし、買いだ!」と梅津さんが支払いをすると、足りない、という。なに?と思ったら金額を一桁少なく言っているのだ。英語なので混乱しているのだろう。36,000円。いくらベストクオリティーだろうが、ビューティフルケースだろうが、お話にならない。ほとんど罵声のように後ろから声をかけられつつ、その場を去った。昨日の老婦人もいない。曜日によって出店手数料も違うのだろうか。

その後一人でマーケット内をふらふらし、リネンを購入。これはバルト三国のどこかからの輸入品なので、少し値が張った。おばちゃんに少しだけ価格交渉をしたらOK。お釣りだけくれて品物がないので、『えーと・・』と言いかけると気がついて『ニチェボ、ニチェボ!』とビニールに入れて渡してくれた。わざとではなく、間違えたらしい。『ニチェボは問題ない、って意味?』と聞くと『そうそう、終わりがよければそれでニチェボニチェボ!』と笑顔で肩を叩かれた。明るいおばさんである。ロシアに来る前、写真で見ていたおばちゃんたちや、言葉を交わす前のおばちゃんたちは眉間のしわがとても深い人が多い。今、ロシアのサービス産業では笑顔の練習をしている、というそんな話も聞いた。でも、普通のおばちゃんたちでもいったん打ち解けると飛び切りの笑顔で接してくる。家族だけに見せていただろう笑顔を、好きな時に出せるようになったのかな、なんてことも感じながら、おばちゃんのところを後にした。

道を戻ってみると、梅津さんと多田さんが買い物をしている。クリスマスツリーの飾りを買っているのだ。そこのお店は自分が好きなようにお人形の組み換えをさせてくれるそうで、お二人とも真剣。お人形は全部で7個セット。かわいいなぁ、と思って一緒に眺めていたがあまりに真剣なのでいったんその場を離れた。昨日から購入しているチェブラーシカグッズなどは帰国後にビニールハウスライブがあるので、その時の景品になるらしい。いいなぁ、今年は豪華だなぁ。買い物が終わったお二人と共にシェシェリクを購入して、ホテルに戻る事に。途中で関島さんと荷物番を交代した張さんと松井さんに会い、先にホテルに戻る事を告げる。


 てくてくとホテルに戻るが、いつも曲がる路地にあまり感じのよくない人たちがたむろしている。無言のまま3人で他の道に足を向ける。ぐるっと回り込んでホテルのロビーへ入ったのだが、なんとなく雰囲気が違う。あれ?とおもったら別の棟に入ってしまったらしい。6棟も似たような建物が並んでいるのだ。表に出て建物を見上げ、自分達の泊まっていたところを確認して道を戻る。なんてことはない、小さな建物をはさんで隣の棟だったのだが、最後に来てこの失敗。ドキッとさせられた。

ロビーに戻り、コーヒーを買って荷物のそばに座り込む。ロシアではコーヒーでも紅茶でも必ずお砂糖がつく。それも角砂糖なら2個。袋入りなら5g入りが2本。寒い国なので紅茶は昔からお砂糖を入れていたようなのだが、コーヒーは最近になってエスプレッソマシーンの普及と共に急激に普及したようで、もともと甘い飲み物になれている人たちには砂糖は必須らしい。私たちは外から帰るたびにこのラウンジでコーヒーを買っており、毎回砂糖を返していたらその度にお姉さんたちが『いらないの?本当に?』と驚き『砂糖使わないなんて、どーなってるのかしらねー』みたいな会話をしていた。ブラックコーヒーなどというものは、口にした事がないのであろう。席について買って来たシェシェリクとパンを店員に隠しながら食べる。おいしいなぁ、ロシアの食べ物がこんなにおいしいとは思わなかった、と皆で話しながら食事をする。ロビーで売っていた、綺麗なケーキは結局食べる機会がなかった。


そろそろ集合時間かな、と思ったころ新井田さんが戻ってきた。「そばで火事があって煙が上がっている。」と聞き、外に出てみる。どうやら地下鉄の乗り場の方らしい。巻き込まれなくてよかったねぇ、と話をしながら煙の上がるのを見ていたのだが、気がつくと松井さんが戻っていない。「あれー、大丈夫かなぁ。」「もしかしたら火事現場の取材にでも行っちゃったんじゃないか?」と心配していたところ、張さんの電話に松井さんから電話。「今、ホテルに向かっているから、おいてかないで。」とのこと。大丈夫、おいていきません。まもなく松井さんも到着。

皆がそろったところで、私からお願い。一人ずつと記念写真を撮らせていただいた。集合写真を撮ったのはDOMでの一度だけ。はたして記録係としてこれでよかったのか?という思いはあるのだが、自分もみんなと一緒にうつりたい。それぞれにテーマ設定をして、多田さんが撮ってくださった。

新井田さん。設定「お忍び旅行中」

いつも口数少ないのに、それでいてどこかユーモアのあることを突然ぽつっと言い始める。特にお酒が入った時はそれが加速する。列車の中で「おつまみがなぁ・・・。」とおっしゃるので持って来た柿ピーセットをお出しすると、それから「うん、いい子だ。いいお嫁さんになる。あ、もうなったんだっけ?」と何度もほめていただいた。普段が無口な方だけに、とてもうれしかった。









関島さん。設定「中国から買い付けに来た二人」

私がふと目を奪われたものに、関島さんも着目している。感じとっている事の違いはあるのだろうけど、興味の方向が似ているのかな、と思う時が多くあった。口琴・列車・地下鉄・ペリメニなどなど。静かでいて、とても好奇心旺盛な方。私にとってメンバーの中で、一番再発見の多かった方なのだ。お酒は飲めませんが、またご一緒させてください。










張さん。設定「PlayBoy風セクシーショット」
この旅で張さんといえばお駄賃。「君の分のギャラね。」とコーヒー代など小銭が出るたびに「はい、お駄賃。」と。ちょうどその金額が私の気にいった小さなチョコレートと同じ金額なのだ(50円位)。あとでまとめてチョコレートを買おう、と思っていたら「はい、お駄賃。」と最後に大きな板チョコを買ってきてくれた。ありがとう、日本でおいしくいただきました。











松井さん。設定「高利貸の取立て」
打ち上げの席で「フロントの三人が自由に踊っているのはずるい。私だって、楽器が線でつながっていなければ、もっと自由に動けるのに!」と本当に残念そうにお話していた。お茶目な方。おとぼけな面もあり、この最終日だけでも「で、あといくら返したらいいんだっけ?」という会話を4・5回したように思う。松井さん、あと1000円ほど・・・・(ウソです)。











多田さん。設定「マスクシスターズ」
気がつけばマスク、ずっとマスクの二人でした。旅の必需品ですね、やはり。細い体で、吹いて・歌って・通訳・みんなのケアまで。大変だなぁと思う一方「結局、好きなのよー、楽しいの。」とおっしゃる姿が素敵だった。そんな多田さんに「一緒に来てくれてよかった。」と言ってもらえて、本当に幸せでした。おいしいものを目の前にすると「そそそ、それも一口食べたいにゃ。」と他の方のお皿からも少しずついただき、目を細める様はかわいいにゃんこでした。















梅津さん。設定「セルゲイ風挨拶」
道中ずっとさながら引率の先生のようでした。演奏はもちろんの事、オフの時間まで楽しみつくす、その事によってその土地や国を知り、出会った方々と心を通わせているのでしょう。そして感動を受けた事をご自分の物として身に付けていっているのだな、とつくづく感心。たぶん、どこにいても、どこの国に行っても、このスタンスは変わらないのだろうなぁ。まだまだどこにでも、私はついて行きますよ、次は暖かい国もいいなぁ。










14:40頃 写真を撮り終わった頃、Svetaが到着。そしてDOMおじさんも。みんなで車に乗り込み、ホテルを後にした。毎度の事ながら、この最後の空港に向かう交通手段の中というのは寂しさと安堵感の混じる複雑な気分だ。車はまたしても渋滞の中へ。抜け道で選んでくれた住宅地の小道が、路駐で前に進めない。何とか抜け出し、再度出発。ここで多田さんから一言。「この旅についてきてくれた佐紀さんに感謝の気持ちをこめてメンバー一同からプレゼントです。」小さな箱とカード。なんだろう?とあけてみるとさっき選んでいたクリスマスのオーナメント7体。真ん中にクリスマスツリーがあり、お人形がその左右に三つずつ。お人形には一つずつメンバーのサイン、そしてカードにはありがとうの言葉。感激。お礼の言葉を口にしたいのだけど、あまり話すと泣きそうで、ただ箱を見つめながら、何度かありがとうございます、を口にするのが精一杯だった。

しばらくすると私は眠っていたらしく、車は高速道路に乗っている。2時間前に空港に付けそうだ。空港についたら、荷物を下ろす様子を撮影できるよう、ビデオを用意する。16時半頃無事に空港着。ここでお世話になったDOMおじさんともお別れだ。『じゃぁな、またな。』と梅津さんに言い残して、荷物を下ろすと彼は車に乗り込んで帰っていった。梅津さんによるとDOM終演後、おじさんCDを持ってきてサインをせがむ。どうやら未払いのようだが、あまりにうれしそうで何もいえなかった、とのこと。が、なぜか憎めないおじさんだった。Svetaは?と見ると『大丈夫、みんながチェックインするまでついていくから。』とのこと。心強い。空港内に入り、出発ロビーに集合。みんながそろったところで『さき、ちょっといいかしら?』と彼女。『空港の中はお水も高いの。ここで買っておこう。』とのこと。さすが、気がつく方である。薬局でのど飴と水を購入し、みんなに一本ずつ配った。ここで多田さんは昨日病院でもらった薬のチェックをSvetaに頼む。どの薬がどの症状向けなのか、わからないのだ。一つ一つ薬を眺め、咳止め・抗生物質・炎症止めなど解読してもらった。そのうちの一つを持って『これ、子供向け!』と微笑む彼女。かわいい、けれど本当に頼りになる女性だった。そして出発カウンターへ。『ここから先に私は入れないから。何かあったら行くからチェックインをどうぞ。』とSveta。お土産を買ったこともあり、重量オーバーが少し気になったが、無事にクリア。問題なくすべてがすんだかに思えたが、一つ問題があった。松井さんのバイオリンだ。入国の時に渡された紙を持ってレッドラインへ向かう。おかしい。なかなか戻ってこない。何をしているんだろう、とガラスフェンス越しに皆で見守る。やっと戻ってきたと思ったら、入国の時に書類を記載した方が製造番号を間違えて書き写していて、その書いた本人を呼び出して、やっと確認が取れたとのこと。まったく、手間をかけているのに間違えているとはなんだかロシアっぽい。今回のツアーには叔父様の形見の品を持ってきていた松井さんは一安心。


手続きが済んだところでSvetaともお別れ。お礼に張さんから扇子、わたしと松井さんからはカイロを差し上げた。カイロは初めて見るらしい。『扇子は夏ね。カイロは冬になったら使うのね。腰痛があるからちょうどいいかも。』と喜んでくれた。挨拶も一通り済んだところで、彼女に手を降り私たちは中へ。本当にありがとう。またね!
有能ガイド Sveta

出国の手続きを済ませ、待合ロビーへ。楽器など機内持ち込み荷物もたくさんあるので、またしても喫茶コーナーに陣取り、コーヒーやアイスなど買いだして各自くつろぐ。ここでも大量の砂糖を出される。張さんはひそかにコレクションをしていたらしく、ここでも一つお持ち帰り。パッケージデザインはどれもかわいいのが多いのだ。隣のテーブルでは同じように長期戦の構えの家族連れ。モンゴルの大学教授一家がイギリスへ留学をするところで、7時間のトランジットだそうだ。こまっちゃのメンバーも私も別々にだが、モンゴルには行った事がある。私が挨拶だけモンゴル語でし、モンゴルの話などを少ししてお別れをした。

搭乗ゲートを通ろうとしたところ、物々しい検査。靴をぬがされてX線にかけられた。この作業を黙々と仏頂面で手際悪くやるので、何か一種の凄みを感じる。やっと靴を返してもらい、中へ。さて、あとは乗り込むだけ、と思ったら会社へのお土産を買っているらしく、松井さんがいない。「これがあゆなんだなぁ。周りが心配していても、本人はひょうひょうと間に合っちゃうんだ。」と張さんしみじみ。飛行機に乗り込む頃になって、松井さんはタイミングよく帰ってきた。

19:00頃機内へ。この日は少し座席に余裕があるとのことで、多田さんは先ほどSvetaにカウンターで交渉してもらい、後方の座席だが2席分を確保。どうやらその後ろの席も空いていそうだ、ということで私が移動した。私・関島さん・新井田さんが並びだったので、間が空けば少しくつろげるだろう。そんなわけで、私は初めて飛行機の中で横になって寝る経験をした。お手洗いに行く時にふと見たところ、多田さんは座席にすっぽりとはまり込んで、あおむけ・ばんざいポーズでご就寝。子供のようでかわいらしかった。機内で私はコーヒー用のオレンジ色カップを2つ、カバンに滑り込ませた。ロシアはどこに行ってもなぜか鮮やかなオレンジ色が目に付いた。ロシアというと暗い重いイメージしかなかった私には、そのオレンジ色はとても新鮮だったのだ。ほとんど誰ともお話もしないまま、睡眠・食事の繰返しで無事に成田空港へとついた。

10:55 成田空港着 暖かい。空港に降りて思ったのはまずそれだった。ここで新井田さんとはお別れ。旅のお礼を述べてまたどこかの会場で、とご挨拶をした。そのままあとの6人は成田エクスプレスの時間までお茶でも飲む事に。到着ロビーにお店がなく、階をかえて喫茶店へ。私が選んだのはコーラとカレーパン。席に戻ると「あれ、ピロシキ売っているの?」と言われてしまった。そうだなー、似ているな。皆で席について、今回のビデオを誰がまとめるか、どのようにすすめるか、など今後のお話。そうか、のんきにとっていたけど、これは発売されるのだった、とその時改めて気がつく。早く見たいような、怖いような。


13:20頃 成田エクスプレスへ。座るなり皆さん熟睡。やはり疲れているのだ。私と張さんはしばらくおしゃべり。あっという間に東京着。このまま会社に行く、という松井さんはここでお別れ。お世話になりました。私も下りる準備をして、梅津さんにビデオを一式渡し、このまま池袋まで行く関島さんと梅津さんにお別れ。ここでもあまり話をすると泣き出してしまいそうで、簡単にしか挨拶ができず、お二人と握手。関島さんが「本当にどうもありがとうございました。」と言葉をくれたのに、もそもそと「いえ、こちらこそ・・」とだけ言い、手を振って降りてきてしまった。多田さんと張さんとも新宿駅でお別れ。高速バスの時間まで、少し時間がある、と言うと張さんは一緒に待ってあげる、と言ってくれた。でも張さんには家で待っている人と犬がいる。そして一緒にいるとそのままぼろぼろ泣いてしまいそうで、私が張さんを改札まで見送って、そこでお別れした。


楽しかった、とても。そしてあらためて6人の暖かさや素晴らしさを実感した。どこの都市でも観光名所らしいところには行く機会が無かったが、そんなことよりもロシアにいる暖かい人たちに会い、素敵な場所にたくさん連れて行ってもらったことに本当に感謝の気持ちで一杯になった。

帰国してすでに5ヶ月近く。思い出すときりがないくらい色んなことが浮かんでくる。DVDも東京で着々と作業が進んでいるらしい。私も写真をまとめ、この雑記を書く事でロシアの旅が一段落した気分である。でも、その間も梅津さん初めこまっちゃの皆さんはどんどん前へと進んでいる。
いつかまたこまっちゃはどこかの国に旅をするのだろうな。そして新しい出会いや発見をして、感動を観客の方たちとわかちあってくるのだろう。その旅もまた、すばらしいものでありますよう。
スパシーバ、こまっちゃクレズマ!


     2006年3月吉日 三井佐紀

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