10月27日 サンクトペテルブルグ

21:10駅着。荷物・楽器を下ろすとDOMおじさんは『お前ら帰ってきた時には迎えに来るから』と身振りで示し、さっさと帰ってしまった。構内は危ないからここで待っていて、とホームに私たちを残し、Svetaは食料を買いに行き、もどってきては飲み物を買いに行ってくれる。が、まだ寒さ慣れしていない日本人にはホームは寒すぎる。すぐに自主的に構内の隅っこの方に移動してしまった。確かに荷物を狙っているかのような目つきで、周りをうろつく人が数名。実際に日本人でこうしている隙にすられてしまった人もいるらしい。みんなでガードしつつ、彼女の帰りを待つ。張さん、新井田さんが両替を済ませてくれ、コーヒーを買ってもらったりしているうちに列車がホームに入ってきた。自分達の荷物とSvetaが買い込んでくれた大量の食料を持って、長い長いプラットフォームを歩いて行く。雪が積もっていて、大変歩きにくい。列車に乗るにもパスポートが必要だったり、本当に個人旅行できていたら、大変な国だなぁ。

 列車の中は思った以上に暖かく、快適。通路が狭くてテューバを通すのには苦労をしたが、幸いにも4人コンパートメントが二つ確保でき、荷物の管理は心配が要らないことに。男性部屋に多田さんを加え、残りの女性がもう一部屋。ある程度落ち着いたところで、テューバのある男性部屋に集まって宴会。みなさんワインなど飲んで温まる。関島さんに「まぁ、どうぞ」と勧められご辞退すると「えっ!飲めないのに、このツアーにきたんですか?何しにきたのですか?」と想像以上に驚かれる。みんな爆笑。Svetaもアルコールは取らないらしい。みんなが歓談している脇で、微笑みながら静かにメールを打ったり電話をしたりしているが、だんだん電話の回数が多くなり、顔は少し深刻。日本人のガイドで気が張っているのかな、と思ったけれど、ロシア語の会話はわからないので、気にしない事に。12:20就寝。












 何度かうとうとと目を覚ましたのち、5時ごろから車内放送でラジオが流れ出したと思ったら、5:20定刻どおりに列車はサンクトペテルブルグへ。荷物を急いでまとめて外に出る。ホームでしばらく運転手を待つ。さむい。どうやら後で聞いたところだと、初雪が降ったばかりだったらしい。梅津さんはさっそくビデオ撮影。そしてここもまたながいながいプラットフォーム。山の手線なら2本位は停められそうな気がする。駅舎まで歩き、迎えの車に乗り込む。
   

 街中に入ってまたびっくり。この街もネオンが明るい。梅津さん・多田さんが言うには一年まえに比べるとこの街もネオンが増えたそうだ。24時間営業の店、お店のショウウィンドウ、どれも普通のヨーロッパの街と変わらない。ホテルに向かっているのだろうなぁ、と車に揺られているとなぜかわき道に入り、車は停車。Svetaが携帯電話で話を始めるが、よく聴くと英語で話をしている。"We need your help."そんなせりふが聞こえ、あれ?と思ったところで電話が終わった。そして彼女は静かに説明を始めた。『理由はよくわからないんだけど、迎えの車も、ホテルもキャンセルされてしまった。それがわかったのは昨日夜行列車に乗り込んでからのこと。いろいろとつてをたどって、移動は大型タクシーを手配し、滞在はイギリス人ドラマーのアパートを手配した。ここはアパートの目の前なんだけど、ここで休ませてもらえる事になった。こんな事になってしまったけど許して欲しい。』一瞬ライブもキャンセルなのか?と思ったけれど、そうではないらしい。だから昨日の夜から彼女は落ち着かない様子だったのだ。事の次第に一瞬たじろいた日本人一行だったが、「ま、いいじゃん。休めるなら。外国で人の家に入れる機会なんてないよ!」とすでに家への興味津々。家主が降りてくるのを待ち、荷物を運び込む。彼の部屋は5F。セントラルロックの扉を開けると階段があり、リフト(エレベーター)があったが壊れている。楽器や荷物を手分けをして持ち、螺旋階段をよろよろと上がっていった。
 

家主の名前はマルコス。英国からサンクトペテルブルグへやってきたらしい。このあたりでは一番のドラマーなんだ、とあとから聞いた。どんなつてだったのかはわからないけど、受け入れてくれた事に感謝。部屋はエントランスホールが6畳ほど。ホールに続いて台所スペースと6畳ほどの彼の仕事部屋。そして12畳ほどのリビング兼ベッドルーム。そしてバス・トイレが一つずつ。少しずつ手を加えて住んでいるらしく、まだ改装中のところも何箇所かあった。さすがイギリス人だ。彼は仕事部屋を片付けてくれ、わたしたちをとおしてくれた。起きている人はここにいたらいい、寝たい人はベットを使って寝てくれ、といってお茶の準備を始めてくれた。
部屋の中は十分に温かいのだが、体が冷え切っている。多田さんはヒーターにかじりついて暖を取っていた。その姿はまるで小動物。Svetaが買出しをしてきてくれたもので朝食をとり、おなかが満たされた時点でまだ8:00。表もまだ真っ暗。ロシアでは10月の最終日曜日でサマータイムが終わるそうだ。マルコスは私たちの受け入れ依頼の電話が来たのが2時でそのあと2時間しか寝ていないから、とSvetaは安心したのか疲れた様子で、二人とも寝袋で早々に寝てしまった。風邪気味の新井田さんにベットを使ってもらい、後の6人は明るくなったら、外出することに。この街にいられるのは今日だけ。ライブが終わったらまた夜行でとんぼ返りなのだ。
  

 
新井田さんにはお昼前に戻る、というメモをマルコスに託し、一向は外へ。多田さんのブーツが水が染みて寒いという事で、靴屋をのぞく。さすが厳冬地。暖かそうなブーツが割と安くおいてある。何足か試着したのちにめぼしをつけて、店を出る。少しあたりをうろついてみるが、観光名所と呼ばれるところは少し遠いようだ。近所にマーケットがあるという事で、そこを目指す。この寒いのに露天の市が立っている。洋服・帽子・靴などをはじめとした雑貨が多い。手袋を買ったり、店を覗きながら両替商を目指し、全員で両替。お金ができたところで、お茶を飲みにいく事に。
ふらふらと歩き、とっても綺麗なお店を見つけて入ってみた。どうやら高級トルコ料理の店らしい。ランチの時間に差し掛かっていたが、ケーキとお茶を、といって見本をお願いした。どれもとてもおいしかった。梅津さんがこの国はお菓子がおいしい、と言ったけれどまさにその通り。
 


いったんアパートに戻り、新井田さんを誘って食事に。街の食堂のリーズナブルでおいしいところを教えてもらった。英語が通じないという事で、Svetaが付き添ってくれる事に。さきほどのトルコ料理店を通り過ぎ、ビルの中へ。メニューも英語はなく見本もないので、日本人だけだと途方にくれるだけだろう。結構待たされて、ぬるいボルシチが出てきた。おいしいのだけど、とにかくぬるい。さめないうちに、と急いで食べる。庶民の味・価格なのだろうなぁ、としみじみ。ボルシチ一杯が駅のコーヒー代と変わらない価格だった。
 おなかいっぱい食べたところで、14:00頃アパートへ。マルコスはまだ寝ているし、Svetaは再度寝入ってしまった。16時に出発ということで、私たちもゆっくりする事に。気ついたら女性4名、床の上に敷いてもらった一枚のマットレスの上で、やはり一枚の毛布をおなかの辺りにかけ、眠っていた。「グリンピースみたいでおかしかった」とあとから梅津さん・関島さんがうれしそうに話をしてくれた。


16:00 迎えの車が着た、ということで階下へ。ものすごく陽気な男性が迎えてくれた。クレズマバンドのヴァイオリン弾きをしているのだ、と自己紹介をしてくれた。彼が本来はこの街での送迎を引き受けてくれていたのだが、ポーランドにライヴに行っていて帰ってくるのが間に合わなかったらしい。しきりに謝っていたが、事情がわかって安心した。車に乗っている間中、Svetaにロシア語でお詫びをし続けていた。とにかく明るい。話しっぱなし。車はよく演奏旅行に行くというだけあり、キャンピング仕様。とてもセンスのある設備にみんなで見入る。
大渋滞の中、お店に到着。ステージ付きレストラン、と言った感じ。サウンドチェックをはじめ、リハへ。ちらちらと覗きに来る店員や、仕事をしながら時折聴き入るSveta。「ではアンコールのリハを」と多田さんロシア語ボーカルのチェブラーシカが始まるとSvetaは大笑い。続いて誕生日の歌の前奏が始まると、頭を抱えて笑っている。お店の人たちも出てきてみんなうれしそうに眺めている。『どうしてチェブラーシカを知っているの?』と言うので『日本でも好きな人は多いの。多田さんが大好きなんだよ。』というと、とてもうれしそうにうなずいていた。やはりチェブラーシカは国民的アイドルらしい。




19:00 本番前に食事を、ということでテーブルをセットしてくれた。カラフルなピラフとビーフソテー、そしてパン。あったかい。おいしい。この国もお米は野菜のカテゴリーに入っているのだろうなぁ。覚えたての「オーチン・フクースナ」とってもおいしいを連呼しながら食事。ふと誰かが「バターがないね。」と言い出した。多田さんが店員さんにパンを指差しながら、バターを塗るゼスチャーで"Butter, Please."とオーダー。ふんふん、とうなずいたと思ったらしばらくしたらまたパンが出てきた。通じていない。
多田さんが責任を感じたのか、お店の奥へ。「今度は大丈夫、通じた!」と戻ってきたと思ったら、さっきとは違う店員さんが『ちょっと待っててねー』と言ってコートを着て外出。まさか?と思ったら何分か後に手に四角い包みを持ってご帰還。そして、白いお皿に200gくらいありそうなバターが登場した。「日本人はバターが好きだって定評になっちゃうよー」「でも、買ってこさせたんだから食べなきゃ」と、みんなでパクパクとパンを食べる。夜行列車に備えてバター付きパンも用意したところで「日本人はバターを<食べる>と思われると、それもこまるよ。」とバター消化は中止。あとでSvetaに確認したところ、パンにオリーブオイルをつけることはあるが、バターは基本的に料理に使うものなのだそう。バター=マースロー。この日覚えたロシア語である。


20:10 お客さんも入ってきたので控え室へ。搬入口もかねた控え室なので、座っているだけで冷えてくる。コートを着込んで約40分ほど静かに座って開演時間を待つ。ロシアではたいていライブがはじまるのは21:00。みな、一度家に帰り、食事を済ませて遊びに来るらしい。

21:05 開演。立ち見も出るほどで満員。200人くらいは入っているのだろうか。
皆さん反応もよく、梅津さんの英語MCも受けている。写真・ビデオなど遠慮を知らず、ばしばしと撮っているのも国柄なのだろう。
グレートさんのローマンスでは、梅津さんのベル音芸やみんなの掛け合いが受けがよい。特に関島さんのリコーダー演奏は大受け。日本では学校教育のおかげでメジャーな楽器だが、ロシアではフルートと呼ぶ人もいたりして、そんなにメジャーな楽器ではないらしい。
ダンスの楽園では前に出て踊りだしたお兄さんが2人。長い手足でくるくると踊る。後ろから見ているとシルエットでとても綺麗。メンバーが会場を練り歩くアレブリダーに続き、アンコールでチェブラーシカがはじまると、会場から笑い。なぜ日本人が?というのと多田さんの声のかわいらしさがまたよいらしい。間髪いれず、ゲーナの笛前奏が始まると今度はどよめき。みんな一緒に歌い始めた。本当に親しまれた歌らしい。とにかく楽しそうなお客さんたち。マルコスも会場に来てくれていた。よかった!
CDも40枚近く売れ、メンバー全員サイン攻めにあっている。一人の興奮した青年がよって来て『今日のライブはすごくよかった。僕、今日が誕生日なんだ。CD買うお金がないんだけど。』と言い始めた。梅津さんに相談したところサイン付きで進呈。青年の目が見開き、きらきら。『モスクワには友達がいるんだ、明日はDOMだろう?行くように言っとくよ!本当にありがとう、もう感激だぁ!!』。彼に限らずみんな反応が素直だ。片づけをしながら、観客と話を続けるメンバー達。この気さくさがまた観客の心を開くのだろうな。















23:30 片づけを済ませ、会場入りをしたときと同じくヴァオリニストの方の車で駅へ。ロシアではモスクワに行く時はモスクワ駅に行き、ベラルーシに行く時にはベラルーシ駅に行く。つまり終着地点が駅名になっているのだ。心配した渋滞もなく10分ほどでモスクワ駅に到着した。
ヴァイオリニストの彼はとても優しく、列車の中まで荷物を運んで見送ってくれた。

00:20 夜行列車はスタート。今回は部屋が3つに分かれてしまい、Svetaが気をもんでいる。梅津さん・張さん・松井さん・新井田さんが一つの部屋に。そして関島さんと多田さん、私とSveta。部屋が分かれてしまった場合は、交渉して2つの部屋に8人をまとめる事がSvetaの任務だったらしく、女性車掌や各部屋の方たちに何度も交渉をしてくれている。4人部屋にテューバを入れることにし、メンバーは着々と宴会準備を進めているが、Svetaは浮かない顔でモスクワと電話連絡をとったり、部屋を行き来している。『Sveta、もういいのよ。テューバはしまえたし、相部屋の人たちはいい人みたいだし、このままモスクワまで行こうよ。私たちはぜんぜん気にしていないから。』と言うが、『でも、もう一回だけ交渉してくる』。時間はすでに0時半。みな、寝る準備を始めており、部屋を替わってもらうのは無理だ。『梅津さんたちはパーティーの準備をして待っているよ。いこう!』と少し強く言ったところ『さき、このグループのリーダーはあなたみたいね。私のボスみたい』とやっと笑顔を見せた。ちょっと強く言いすぎたかな、と思ったが私の語学力ではすべてストレート。申し訳ない。
そして8人で一つの部屋に集まり、今日の反省会。Svetaも任務終了が近いからか、笑顔が増えよく話をするようになった。あとから聞いた話しだと、今日のライブ会場のごく近くで映画『黒猫白猫』に出演していたジプシーバンドの演奏があったらしい。同じような催しが重なったにもかかわらず、大入り満員だったこまっちゃクレズマのライブ。明日からのステージも楽しみだなぁ、と思いながら2:00就寝。




10/27 サンクトペテルブルグ 会場:Platforma

演目
1. 月下の一群
2. オデッサブルガリッシュ
3. コンノートの靴磨き
4. JINTA
5. 満月の華
6. グレートさんのローマンス
7. ダンスの楽園
8. ウェスタン・ピカロ
9. ハバ・ナギラ
10. アレ・ブリダー

 アンコール
・ チェブラーシカ
・ 誕生日の歌

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