11月1日 オフの日

この日もよい天気。結局滞在中に傘を出すことはなかった。9時過ぎに朝食を食べようと準備をしていると梅津さんから電話。今回は朝食のクーポンがついていないとのこと。ご飯はいいかなー、という多田さんを残して買出しに出かけた。昨日の高いけど行列していた店に向かう。やはり混んでいる。便利なところだという事もあるのだろうが、おいしいのだろう。パンをいくつかとチーズ・柿・りんごを買う。もし、多田さんが部屋に残るというのなら、何か食べてもらった方がよい。途中で張さんにも会い、多田さんがあまりよくない旨を伝え、先に部屋にもどる。
 
部屋に戻り、朝食。多田さんは帰国の飛行機内で苦しくなるよりは、と病院行きを決めていた。梅津さんが付き添って病院に行くことに。「つぎに来た時は自分がいくかもしれないしさぁ。」との事。たしかにまたロシアに来る確率が一番高いのは梅津さんだ。私が朝食をとっていると、張さん松井さんが様子を見に来る。多田さんたちは病院に行くことになった事を告げる。多田さんも熱があるわけではなく、呼吸が苦しいだけなので、二人も顔を見て安心したようだった。サーカス組は12時半にロビー集合となった。サーカスは2時半で、地下鉄も30分とかからないはずなのだが、何しろ初の日本人単独行動だ。その上、英語が達者なお二人が別行動とあっては、時間は十分に余裕があったほうがよい。

食事終了後、少しでも食べてください、と多田さんに言い残して、お土産マーケットを見に張さんたちと外へ。この日は入場料金を取られることなく、すんなりと中に入れた。出店は前回の土曜日の1/3ほど。土曜日は観光客で、水曜日はお土産の買い付け業者で混むらしい。明日が水曜日なので、今日は流す程度に、と思ったのだが、中に入ってすぐの老婦人のお店で買い物。このご婦人は英語の先生か?と思うほど綺麗な英語でこちらの趣味を読み取って次々と商品を出してくれる。伝統柄のマトリョーシカに興味を示していると、小さいけれど10ピースの作家物の人形。チェブラーシカのを見ていると、マトリョーシカではない小さな木の人形を。私がチェブラーシカ人形を2体選び、価格交渉をするとあっさりと笑顔で受けてくれた。『もっと欲しいけど、もうないの?』と聞くとちょっと考えたのちに通りをはさんだおじさんのお店をのぞきに行って、手招きをしてくれる。そして英語を話せないおじさんに『この人がこの人形をもっと買いたいんだって。うちでは価格はXXにしたから。』というようなことを言って、自分のお店に帰っていく。そこのお店で多田さんの分のチェブラーシカとゲーナの人形を買い、おばさんのところに戻って、やはり多田さんの分のチェブ・マトリョーシカを購入。その後もいろいろとのぞいたが、張さん・関島さんもこのおばさんの持っていた10ピースマトリョーシカを気に入って購入。やはり笑顔での応対は気持ちがいいなぁ、などと考えながらやり取りを見ていた。その間に私は別の店でカシミアのストールを購入。買い物にも満足して、いったんホテルに戻る。

12:30 ホテルロビー集合。関島さんと地下鉄路線図を眺め、乗換駅を確認。2回乗車用のパスを買おうと自動販売機にお金を入れるが、買えない。どうしたのか、と思ったら、インフレによりガイドブックに乗っている値段の倍近くになっていた。窓口の方がおつりも出るし早そうなので、私は窓口で購入。全員でいざ地下鉄へ。「6個目で乗換えだよね。」と関島さんと確認しつつ、地下鉄に乗り込む。路線は色分けされており、壁にその駅に乗り入れている路線の線が引いてあるので、乗換駅につくと判断がつきそうだ。じっと車窓に張り付き駅を数えたが、2つ目の駅が暗く電灯が落とされており、通過。5つ目の停車駅で乗換電車の路線色が表示されている。「飛ばしましたよね。」「やっぱりそうだよね。」と見間違いでない事を確認して、降りる。ここで気がついたのだが、駅の構内には英語表記の駅名がないのでホテルで手に入れた英語路線図はまったく役に立たない。無事に乗換えを済まし、今度は勘定どおりの駅数で下車。ガイドブックを取り出し駅名を確認して出口に向かう。乗車駅はそれほど深くなかったのだが、この駅はかなり地下深いらしい。改札の外にサーカスの絵があることを確認し通りの名称を地図と照らし合わせ、右に進むと正解。サーカスの看板が見えてきた。ツェヴェトノイ・プリヴァールサーカス、通称古いサーカス。その昔、日本に来たヴォリショイサーカスくらいしか見たことがないので、本当に楽しみだ。座席が5段階の値付けになっているのだが、1500円くらいの上から2番目のランクを選択することに。売り場へ入ってみると長蛇の列が右に、あまり並んでいない列が左に。前売りと当日券らしいのだが、ここもロシア語のみでわからない。こまっていると日本人と思われる方がロシアの方と連れ立って入ってきた。「どちらに並べばいいか、わかりますか?」とお聞きすると、ロシア人の方が流暢な日本語で「短い列が当日券ですよ。」と教えてくれた。改めて並びなおし、チケットを購入。開演時間まで時間があるので、両替を済ませ、サーカス劇場へ入った。


さっそく目に飛び込んできたのはラクダ。思わず張さんとラクダの写真を撮ったところ、係の方に怒られた。一緒に記念撮影をし、その写真を販売しているらしい。コートをクロークにあずけ開演時間まで自由行動。動物好きの張さんと連れ立って、どの動物と記念撮影をするかを吟味。犬もかわいい、オウムは肩に乗せてくれるんだ、と一つずつチェックをしたが、やはり普段触れ合えない動物に、ということでトラの子供を選ぶ。子供と言っても柴犬以上の大きさはあり、爪もとがっているし、牙も立派にはえている。トラが乗せられた円形の台の上に二人で座り、背中に手を当ててポーズをとる。普通に撮らせてくれても、と思うのだが、トラがぐわぁと口をあけたポーズをするまで、何度も口をこじ開ける。かわいそうに少し怒り気味のトラ。係に人の手はひっかき傷がいくつかあり、二人して少しおびえながら撮影。休憩時間には出来上るとのこと。その後、私はポテトチップと飲み物を、張さんはコーラとポップコーンを購入して席へ。他の方たちも各自小腹を満たしてきたらしい。いよいよサーカスが始まる。


小さなサーカス場にふさわしく、小さなプードルの芸から。後ろ足で立って歩く姿がとてもかわいい。その後、ピエロの芸・馬の芸などに続く。ハラハラする芸ではなく、和やかなものが多い。犬が出てきた時点で、張さんは日本においてきた犬のことを思い出したのか、身を乗り出して、舞台に釘付けである。休憩時間に入っても「犬かわいいなぁ、あんなにちっちゃいのに、ちゃんと芸するもんなぁ。」としきりに感激。ロビーでは女性ピエロが手品をしている。それを眺めていたら、演奏が始まった。管楽器とドラムのシンプルな編成。テナーサックスのおじさんはクラリネットと持ち替えながら、演奏をしている。何曲か演奏したのち、流れてきたのはワニのゲーナさんの歌。おぉ!とさらに身を乗り出して聴き入る。横を見ると新井田さんと関島さんもじっとこの演奏を見ている。他のお客さんは少し眺めてはいなくなってしまうので、これだけ東洋人が眺めていたら、目立つのだろう。演奏が終了し、退場をする時、おじさん達はこちらを見て笑いながら、手を振ってくれた。
   

サーカスは第二幕へ。小剣の芸や空中ブランコなど、一部よりは少しどきどき感のある芸が続く。が、残念な事に私はまぶたが落ちてくる。第二幕は空中ブランコの芸だけはしっかりと見たのだが、気がつくとフィナーレ。第一幕で登場した犬や馬達も舞台に登場し、ピエロたちのコミカルな演技で1時間半ほどの幕を閉じた。張さんが受け取ってきてくれた記念写真を見ると、こわばった顔の二人と牙をむき出したトラ。せっかくの写真だ、もう少し笑顔で写ればよかったな。その後、正面玄関で記念撮影をすませ、次の目的地へ。この日は日本大使館の方々と会食を約束しているのだ。この大使館の方、毎年ビニールハウスライブにご家族連れで来ていたのだが、今年からモスクワ勤務に。梅津さんがモスクワに来ると知って、先日のDOM公演に職場の方数名と来てくださっていたのだ。「ぜひ、最終日に食事をしましょう。割り勘で!」というお誘いで今日の会食が決まったのだ。待合せはモスクワ最大級と言われる本屋『ドームクニーギ』。本の家という名称で、観光名所のアルバート通りや大使館のそばにある。今日のもう一つの目的はアルバート通りで口琴を探す事。さっそく現地へと向かう。


17:00すぎ 地下鉄に乗りアルバーツカヤ駅へ。まずは本屋を確認し、もしはぐれてしまったら、18時半に正面玄関に集合する事を皆で確認。外はもう日が暮れかけており、結構な寒さだ。私と関島さんはアルバート通りで口琴が買える、という事前情報を入手していたので、ここから自由行動に、と言いかけると、アルバート通りは行きたいし楽器屋は興味がある、ということで結局全員アルバート通りへ向かう。本屋の前にいたチェロを持った女の子に『アルバート通りに楽器店はある?』とためしに聞いてみると『口琴を置いているような楽器店は知らない、友達に聞いてあげる。』と電話をかけようとしてくれた。私たちも時間がないし、そこまでしてもらっては・・・としどろもどろでお断りし、大通りをはさんだアルバート通りへと向かった。それにしても皆さん、英語が上手である。今の日本の高校生・大学生もこうなのであろうか?

アルバート通りは歩行者天国になっており、両側にずらっとお土産屋が並んでいる。関島さんと左側、右側と担当を決めて端からお店を眺めて歩く。途中古いトランペットを置いている古道具屋はあったが、どうもそれらしいお店がない。ひたすら眺めて歩いたが、通りが終わってしまった。今度は左右入れ替わって逆行したが、やはり見つからない。時間も時間だし、一つ良い物を手にしたし、明日は水曜日でお土産市に口琴屋が出るかもしれないから、とあきらめて終了。他の人たちと合流し、もう一度通りの端まで行き、本屋に戻る事にした。ふと空を見上げた夜の空に教会の照明がきれい。カメラで撮影し、横を見るとほかの人たちがいない。あれっ、と思ったらわき道に松井さんと同じ白い帽子を発見。そのままついていってみると人違いだった。やってしまった・・と思い、引き返そうかとも思ったが、観光名所とあり、治安は保障されていない。あまりあせりを見せても、と人も多いのでそのままずんずんと進む。たぶんみんなは大通り沿いに歩いているのだろう。そのまま大通りに出て、車道沿いのあまり明るくない道を一人で進む。カジノの前を通り、本屋の前あたりまで来た。道路を渡るには地下道を通るしかない。おばさんを含めた数人が階段を下りるのを確認し、後ろに続く。地下ではヴァイオリンを弾く少女。かわいいな、と思い少し硬貨を入れ、手まねで撮影許可をもらって一枚映す。この辺りには音大があるらしく、楽器を持った人が多い。
   

18:10 本屋にたどりつき、中に入る。暖かい。正面にも中にも松井さんたちは確認ができない。しばらく正面で待ったが、寒いので中へ。一階は文房具と子供の本や雑誌。2階以上がその他いろいろな本のようである。連れ合いのお土産にきのこ事典が買いたいので皆さんには申し訳ないのだが、それを探す事に。DOMで 大使館の方に『きのこ事典』とロシア語でノートに書いてもらったものを、店員に見せながら歩く。あっちだ、こっちだ、と示されるままに歩く。やっと見つけたのは料理本コーナーの一角。ちゃんときのこ本コーナーがあった。文字はわからないので、写真が多く見やすいものを選ぶ。会計を済まし、階下へ行くと松井さんに会えた。「あーよかった!」と安心した様子。新井田さんはタバコを吸いたいこともあり、寒いのに外で待機してくれていた。申し訳ないことをしたなぁ、とみんなを探して一人ずつ謝る。ある程度買い物を済ませた頃に梅津さんが到着。この日もDOMから迎えが来たそうで、大きな車に一人で乗ってきた。病院の診断では多田さんは気管支炎。肺炎など、ひどい病気ではないらしい。薬が効いて落ち着いたが、夜は冷えるので会食は控えるとのこと。お昼はおいしいレストランにめぐり合い、きちんと食事を取っていた、と聞きみなで安心。待ち合わせの時間になったので、外へ。


18:40 全員集合 お店は近所だから、と歩いて向かう。今日は大使館の方3名とその奥様が1名。そしてニックの奥さんのリューダさんと私達6名の合計11名。お勧めのグルジア料理店に入る。グルジアはソ連時代には国家ワイン・紅茶の都市であり、先日屋台料理で食べたシェシェリクもグルジア料理だ、ということで大変な美食国らしい。ビールに続き、前菜の盛り合わせ、ハチャプリというチーズ入りのナンのようなパン、大きなショウロンポウのような餃子をいただき、みなで大満足。ロシアでの生活の様子など聞いていると、ふと奥様が「あの、あなたは何の楽器を?」とおっしゃる。「いえ、私はメンバーではなく、ついてきただけで・・」と口ごもると「えぇ!追っかけなの?寒い時期にロシアまで?」と目を丸くされた。あぁ、そうか、物好きなおっかけに見えるよなぁ、と思っていると関島さんがすかさず「いや、彼女は今回のスタッフです。ビデオや写真を撮ったりして一緒に回ってきたんですよ。」とフォローしてくれた。おっかけではなくスタッフとして認めてもらえたのか、と思ったらあとは夢心地。みなの会話を聞きながら、ただただうれしくてニコニコとしていた。この日一緒に会食をしていた若い女性は、正式の職員ではなく、ロシアに留学していた経験を生かして契約職員として、3年ほどこちらに滞在する、と言っていた。いろんな働き方があるのだな、と感心。全然気負った感じがなく、素敵な女性だった。
   
 迷ドライバーのリューダさん 


会食が終了し、皆さんともお別れの時。リューダさんがどうしても梅津さんを自分の車で送っていく、というので松井さんと共に便乗させていただくことに。「ここからなら車の方が早いでしょう。」と大使館の方がおっしゃるのだが、梅津さんは「何時につけるかなー、わかんないよー。うらまないでねー。」とおっしゃる。どうしたのだ?と思いながら、車へ乗り込む。さて、という感じでシートベルトをしてから、地図を広げるリューダさん。『ここ、こっちよね。』と地図を指差す。梅津さん『ダー、ダー』(Yes,Yes)。車はゆっくりと走り出す。しばらく走るとロシアホテルが見える。『これを渡るとDOMよ。』あれ、DOMはホテルとは反対方向では?と思ったら「あー、やっぱりー。2時間コースだなー」と梅津さん。かなりの迷ドライバーらしい。東京にたとえて言うのであれば、水道橋で食事したのちに秋葉原を抜けて浅草に送ってもらうようなものなのだが、DOMがあるのは品川にあたる。モスクワは環状線が2本ほど走っているらしいのだが、リューダさんはそれの外側に乗らないと、自分の位置が確認できないのだ。もうすでに環状線をどっち周りで回っているのかわからないまま、夜のモスクワ都市観光へ。しばらく走ると松井さんが現在位置確認をしてくれた。「大分近づいているわ、公園の脇を抜けるとホテルのはず。」というのだが、車はそのまま公園の中へ。「あぁ、だめだ。あっているようで間違っている。」と松井さん。車は浅草ではなく北千住方面へとひたすら暗い公園の中を走る。不安に駆られた頃、公園を抜けた。あー、もうどうなるんだー、と思ったらホテルのそばの池と遊具らしきものを発見。池をすぎてから右に曲がれば帰れる!と思ったら手前で曲がってしまう。『誰かに確認しようかしら。』とリューダさん。道の真ん中に車を停めて、道行く人に尋ねている。対向車の運転手に怒鳴られても知らん振り。再度車は発進し、元の道へとでた。池を通り越して右に曲がってくれ、と強くお願いをすると見慣れた道にでた。ついた、帰ってこられた。車を降りて時計を見ると2時間近くたっていた。リューダさんは車の中で梅津さんとお話をする余裕ものなかったのに、わりとあっさりと車に戻ってしまう。もう一度挨拶をしようと車を3人で覗き込んだが、地図に見入っており、気がついてくれない。11月の中旬には日本のDOMフェスのため、来日が決まっており、すぐにまた会えるから、と車に向かって手を振りホテルへと戻った。電車の方たちはとっくに戻っており、心配そうにわれわれの到着を待っていた。

荷物を置き、少し落ち着いてから張さん・松井さんの部屋へ。皆さん集合しており、今回のツアーの事をいろいろとお話している。松井さんが確認してくれたところによると、リューダさんが入り込んだ公園はモスクワ最大級で、中心に向かって走っていたら、何時間も迷走するところだったらしい。多田さんも昨日よりはよくなったようで、声が普通に出ている。病院には日本語が上手で親切な看護婦さんがいたそうで、薬の箱にも「いちにちいっかい」など日本語で書かれている。明日はこのあたりの散歩ならできそうだ、というので安心。演奏もうまく行ったし、CDは足りないくらいだったし、料理はシベリア鉄道以外ではおいしかったし、今日のドライブは楽しかったし。張さんが「不満と言えば、ライブ回数が少ない。もう一回くらいどっかでできなかったのかなぁ。」と発言。みなうなずいている。確かにオフがあるのは楽しいのだが、皆さん仕事できているのだ。今回のスケジュールは電車の移動は多かったものの、ガイドもしっかりついてくれて、皆さんにしてみたら楽な方だったらしい。あぁ、なんて仕事熱心・・私がロシア語を話せればここのホテルの各レストランにある舞台での仕事を取り付けたのに、と出来もしないことを悔やんだりもした。わたしは自分の一番好きなバンドについて異国の地を回る事ができ、それだけでもう大満足。これだけよい演奏を聴けて、メンバーの方々にも良くして頂けば、ファン慰安旅行さながらである。松井さん・張さんセレクトのおつまみもおいしく、会食であれだけおなか一杯だったはずが、いろいろとつまんでしまった。明日の朝は朝食クーポンがついているから、と聞いて安心して就寝。長い一日だった。


この日、朝食の時に買ってきた柿をむいてみたら、渋柿だった。梅津さんと私はかじっただけで、口から出してしまった。関島さんは「もう二度と食べる事はないと思うから。」と一切れ完食。ロシアではウォッカにでも漬け込んで渋を抜くのだろうか。


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